Department of Animal Radiology, The University of Tokyo
東京大学大学院 農学生命科学研究科 放射線動物科学研究室

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研究テーマ Theme

炎症を制御する脂質メディエーター

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今から80年以上前、1935年にGoldblattらがヒトの精漿の中に、Ulfらが羊の精嚢腺に、それぞれ平滑筋を収縮させる生理活性物質が含まれていることを報告しました。当時は、前立腺 (prostate gland) からこれらの生理活性物質が産生されていると考えられたためにプロスタグランジン (prostaglandin、PG)と名付けられました。今ではPGは様々な組織や器官で産生が認められることが分かっています。

PGの産生は、細胞膜に存在する脂肪酸であるアラキドン酸がホスホリパーゼA2によって細胞質内に遊離されるところから始まります。アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(COX)が作用すると、プロスタグランジンH2(PGH2)が合成され、その後、各々のPGもしくはトロンボキサン合成酵素の活性に依存する形でPGやトロンボキサンが合成されます。これらは脂肪酸、つまり脂質の代謝産物であることから、脂質メディエーターとも呼ばれます。

プロスタン酸骨格をもつこのPGは実に様々な生理活性を持ち、炎症反応の中心的な役割を担うものとして広く認識されてきました。最も代表的なPGであるPGE2は、炎症時に産生されて末梢血管を弛緩させて血流を増加し、発熱や痛みを増強します。PGE2はまさしく炎症の惹起における中心的プレーヤーと言えます。その他、PGI2は血管拡張作用や血小板凝集抑制作用をもち、PGF2は子宮平滑筋を強く収縮させる作用をもつことが薬理学の教科書に記載されています。

炎症反応は、体に感染・侵入してきた異物を消毒、排除して、ダメージを受けた組織の修復を担う、我々が生きる上で最も重要な生理反応の1つです。先天的または後天的な様々な原因により、誘発から進行、収束までの一連の反応のバランスが崩れると、炎症が過度になり、遷延化して様々な疾患の発症につながるだけでなく、組織のがん化にまで及ぶこともあります。

アスピリンに代表される解熱鎮痛薬は我々に最も身近な薬の1つであり、COX活性を阻害することでPG産生を止め、炎症を抑える作用を持ちます。炎症が過度になったり、遷延化することで起こる疾患に対して、炎症を抑えることができるこの解熱鎮痛薬の投与は非常に有効であるように思われるかもしれません。しかし、この解熱鎮痛薬はあらゆる炎症性疾患に適応できる万能薬ではなく、その投与により、消化管障害や腎障害、感染、心血管疾患のリスクが上昇することも報告されています。つまり、COXの阻害により、PG全体の産生を止めてしまうと、生体にとって不都合な作用も出てしまうのです。

80年以上も前にその1つが発見され、今では教科書にも当たり前の様に表記されているCOX代謝産物のPGですが、それぞれのPGが持っている生理作用のすべてが分かっているわけではないのです。この古き良き生理活性物質が個々にもつ生理作用を、改めて観察しなおすことで、より副作用の少ない「Better アスピリン」を開発する必要があります。

また、PGやトロンボキサン以外にも、ⅰ)脂肪酸由来のロイコトリエン、リポキシン、ⅱ)リン脂質構造をもつ 血小板活性化因子、内因性カンナビノイド、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルセリン、スフィンゴシン-1-リン酸、ⅲ)ステロール構造を持つ グルココルチコイド、アルドステロン、性ステロイド、胆汁酸、ビタミンDなど、多種多様の脂質メディエーターの存在と生理活性が、少しずつ明らかにされ、様々な疾患の発生や進行に関わることが明らかにされつつあります。

PGを含む脂質メディエーターは「生理や病理反応の場」をつくるものであるという視点から、我々はその炎症制御機構を明らかにし、様々な病態の治療へ役立てるべく研究を進めています。扱う病態は急性炎症から慢性炎症、アレルギー性疾患、自己免疫疾患からがんまで、ありとあらゆる動物モデルを用います。動物を扱う研究者として、各研究員が日々目を凝らしながら観察と思考を重ね、将来の治療方法の開発に取り組んでいます。

具体的に、これら脂質を対象とした研究分野を、アレルギーとがん、循環器疾患の3つの病態に大きく分けて概説します。

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