犬の腸リンパ管拡張症の病態の解明


 腸リンパ管拡張症の犬では腸のリンパ管が破綻し、リンパ液が腸管内腔へと漏れ出てしまうことでタンパク喪失性腸症を生じてしまいます。本疾患は犬では頻繁に認められますが、犬以外の動物種(人や猫など)では極めて稀です。当教室では犬の臨床データを用いた研究 (Nakashima et al., Vet. J. 2015)を行い、予後に関連する因子を明らかにしました。しかしながら本疾患の病態には未解明の部分が多く残されており、根本的な治療方法は確立されていません。
 我々はこれまでにMRIによる生体内でのリンパ管の形態学的な評価(Nagahara et al., Jpn J Vet Res, 2022)や、内視鏡検査で採取される腸組織を用いた腸のリンパ管の形態や様々な分子の発現量を評価し、その病態との関連を明らかにしています(Nagahara et al., J Vet Med Sci, 2021, Nagahara et al., J Vet Med Sci, 2022)。さらに近年では本病態と腸内細菌叢の乱れとの関連も報告しています(Nagahara et al., J Vet Med Sci, 2022)。将来的には、これらの新たな病態概念に基づいて、既存の治療が奏功しない症例に対する有効な治療法を開発していきたいと考えています。

犬のリンパ管拡張症(内視鏡検査所見)

犬の胆嚢疾患に関する研究


 胆嚢粘液嚢腫は、犬の胆嚢疾患の中で特に発生頻度の高い疾患の一つですが、発症メカニズムは未だ解明されておりません。我々はこの疾患の症例では胆嚢の運動性が低下し、胆嚢のサイズが増大していること(Tsukagoshi et al., Vet Radiol Ultrasound, 2012)、高脂血症が胆嚢粘液嚢腫発症の危険因子となることや(Kutsunai et al., Vet. J. 2014)を報告しました。
 また、食事中の脂肪や炭水化物の割合が胆嚢の運動性に影響を与えることも明らかしました(Kakimoto et al., Am. J. Vet. Res. 2017, Shikano et al., J Vet Med Sci, 2022)。
 現在我々は胆嚢粘液嚢腫の病態の根幹をなす胆嚢中のムチン蓄積をもたらす分子異常の探索を精力的に行っており、これまでに胆嚢粘膜上皮におけるムチンの発現パターンを報告しています(Nagao et al., J Vet Med Sci, 2023)。今後もさらに病態解明を進めることで、この疾患の発症予防や新規治療法を開発したいと考えています。

胆嚢粘液嚢腫(エコー像)

胆嚢粘液嚢腫(組織像)