研究内容 Research

栄養膜細胞

マウス栄養膜幹細胞

マウス栄養膜幹細胞

胎盤は母体と胎児とを繋ぐ臓器であり、栄養や不要物のやり取り、妊娠の維持に働くホルモンの産生などの重要な機能を果たします。胎盤形成の異常は、子宮内胎児発育遅延や妊娠時高血圧症候群などの妊娠時疾患の原因となると考えられています。胎盤の形成過程において、どのような細胞が分化し、どのような機能を担っているのかを明らかにすることで、これらの疾患の治療法の開発に繋がると考えられます。

胎盤を構成する主要な細胞である栄養膜細胞は全て、栄養膜幹細胞から分化してきます。マウスにおいては栄養膜幹細胞が樹立されており、胎盤形成や栄養膜細胞の分化モデルとして用いることができます。私たちの研究室では、胎盤形成の過程を直接確認できるマウスを用いて、栄養膜幹細胞の分化を制御する因子を探索し、栄養膜細胞の分化機構の詳細を明らかにしようとしています。


霊長類栄養膜細胞

カニクイザル栄養膜前駆細胞

ヒトとマウスでは胎盤の構造や、胎盤を構成する細胞が異なるため、マウスにおける知見をそのままヒトに当てはめることはできません。またヒトにおける胎盤形成の過程を直接確認することは倫理的制約から困難です。したがって、マウスと比較して進化的によりヒトに近い動物における栄養膜細胞の知見も必要となります。私たちの研究室では、カニクイザルの栄養膜細胞を用いることで、霊長類栄養膜細胞の分化機構の解明を試みています。

RNA生物学

高等真核生物におけるRNAスプライシングと遺伝子発現諸過程との連携

RNAスプライシングと遺伝子発現諸過程との連携

RNAスプライシング(以下スプライシング)は、mRNA前駆体からイントロンを除き、エクソンをつなぎ合わせてmRNAを作る過程で、高等真核生物での遺伝子発現には必須な過程です。スプライシングが単にイントロンを除くだけではなく、エクソンとエクソンのつなぎ目近傍にExon Junction Complex (EJC)を付加し、mRNAの核外輸送やNonsense-mediated mRNA Decay (NMD)との連携を司ることの発見以降、私たちは、スプライシングと他の遺伝子発現諸過程との連携を探索してきました。その一環として、下記のようなスプライシングとエピジェネティックな制御、スプライシングと外的刺激応答の連携についても研究を進めています。
1)細胞分化におけるDNA/ヒストン修飾の変化と選択的スプライシング調節の連携
2)細胞外からのシグナル伝達経路と選択的スプライシング調節との連携
3)低酸素条件下におけるDNA/ヒストン修飾変化と選択的スプライシング制御の連携

「RNA病」解明への挑戦

RNAスプライシングは、大変正確な機構であり、一塩基の狂いもなく切断/連結が行われなければなりません。また、選択的スプライシングは組織や発生段階において、時空間的に精密な制御を受ける必要があります。これらの制御が破綻した場合、ヒトでは疾患として現れる場合が多くあります。RNAスプライシング異常だけではなく、リボソームRNAやtRNA、microRNA等のRNAのプロセシングや修飾、翻訳、そして輸送や局在等に破綻をきたした場合も、ヒトでは疾患として現れます。このような疾患を総称して「RNA病」と呼んでいます。私たちは、このようなRNA病に対し、その発症メカニズムの解明と治療法の探索を進めています。
1)レット症候群原因遺伝子であり、エピジェネティクス制御因子であるMeCP2のスプライシングバリアント間の、胎盤形成におけるエピジェネティクス/転写/RNAプロセシングにおける機能の差異とその制御機構の解明
2)骨髄異形成症候群の原因遺伝子ZRSR2のスプライシングにおける機能とその変異による異常スプライシング機構の解明
3)がんにおけるインスリン受容体の選択的スプライシング調節機構とその制御の試み

ヒトにおける「RNA病」の例