消化管は、上部消化管(食道・胃)と下部消化管(小腸・大腸)に分けられ、さらにそれらは「粘膜系」と「運動系」に大別されます。また、消化管と「食品」は複雑に相互作用することから、食品やその成分、さらには自然界に存在する様々な有害物質に関わる研究と消化管研究も、重要な関連性を持っています。そして、「医(疾患)」という立場から、これら食品や有害物質を原因とする様々な消化管疾患やアレルギー疾患が存在し、「農学」という立場では、家畜の消化管疾患の与える経済的損失は極めて大きいといえます。また、「食の安全」を考えた場合、食品科学と獣医学の連携は必須です。
ところで、粘膜系の研究には免疫寛容とアレルギーなどの粘膜免疫応答、食品(蛋白質等)の吸収・輸送機構と代謝系や毒性も含めた細胞情報伝達機構へ及ぼす影響などがあげられるます。また、運動系の研究では、食品の消化管神経系に及ぼす影響や、消化管運動の本体を担う平滑筋細胞機能、さらには腸炎などの各種疾患と運動機能不全などがあげられます。さらに、粘膜系と運動系の両研究に深く関わる因子として、「腸内フローラ」を欠くことはできない。腸内フローラと粘膜免疫応答や腸炎との関連性、さらには食品中の成分の腸内フローラへの影響など、腸内フローラによる消化管機能は今や一つの大きな研究領域となっていると言えるでしょう。
さらに、消化酵素により分解された食品や化学物質は腸管上皮のトランスポーターなどを介して吸収され、「門脈」を経て「肝臓」で様々な代謝を受けます。一方、腸炎疾患時には腸管上皮のバリアー機能が低下し、様々な菌体成分が侵入し、腸管の炎症やさらには肝臓の炎症や線維化にも重要なリスクファクターとなっています。
「医」、「食品や化学物質」、さらには「細菌」という立場からみた消化管研究は、これまで個々に独立して発展してきましたが、これからは、よりこれらの分野が融合した形で消化管研究を推進することが求められていると思います。