ウイルス・微生物関連情報

 

Francisella tularensisに自然感染した野外飼育アカゲザル(Macaca mulatta)における野兎病発生の調査
(Comparative Medicine 63(2):183-90, 2013)

 2010年の夏から秋にかけて野外飼育していた複数のアカゲザルが野兎病と診断された。11頭はPCR解析または培養陽性により確定診断され、別の9頭は経験的抗生物質治療に反応した類似の臨床兆候を示した。大発生から9ヶ月後、血清調査を行ったところ、約700頭のアカゲザルが棲息する南区では53%(81頭中43頭)が抗体陽性であった。2011年の晩夏から秋にかけて保有宿主である小型の哺乳類と媒介動物である節足動物を対象とした予測調査を行った。PCR解析で135匹のマウス、18匹のジリス、1匹のラット、3匹のラクーン、2匹のネコ、3匹のジャッカルの組織とそれらに寄生していたノミ中ではFrancisella tularensisのDNAが全て陰性であった。保存されていた感染アカゲザル中のDNAをコンベンショナルPCR解析してF. tularensis subsp. holarticaが原因菌であると判明した。非ヒト霊長類における野兎病の歴史的発生事例サンプルにおけるDNA検査から、同様に1980年後半にコロニーに感染が認められた菌はF. tularensis subsp. holarticaであるということが分かった。2010年にアカゲザル中で流行した野兎病は周期的に再発生した極端な事例であるように思われる。2011年の流行期間中にはごく近傍では齧歯類の病気は見つからなかった。2010年に同時に広範囲で抗体陽性(53%)が確認され、臨床症状があまり見られない(2.7%)ことから、この系統のFrancisellaはアカゲザルに対して低病原性であると示唆される。 (翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:アカゲザル、野兎病、Francisella tularensis

 

日本で分離されたリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス株のゲノム解析及び病原性の特徴
Comparative Medicine 62(3): 185-192 , 2012

 リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)はマウスを自然宿主とする人獣共通感染症病原体である。LCMVは株やクローンの種類によりマウスへの病原性が異なる。本稿では、3種類のLCMV株(日本で分離されたOQ28株とBRC株の2株、およびWE株に由来するWE(ngs)株)の全ゲノム配列を決定した。OQ28株とBRC株は他のLCMV株と高い配列相同性を示し、LCMV分離株として同じクラスターIに分類されたが、系統発生解析ではこれら2つの日本株は異なるサブクラスター(それぞれI1、I2)に分けられた。WE(ngs)株とWE株は両株間で多数の配列置換が見られるが、同じサブクラスターI1に分類された。3つの新しいLCMV分離株の病原性を調べるために、ICRマウスに10² TCID₅₀あるいは10⁴ TCID₅₀のウイルスを接種実験を行なった。OQ28株あるいはWE(ngs)株に感染したICRマウスは、重篤な臨床症状を示し、死亡した個体も確認された。一方でBRC株に感染したICRマウスは全て臨床症状を示さず生存していた。OQ28株およびWE(ngs)株を接種後も生存したICRマウスのほとんどでは血液や臓器にウイルスが検出された。しかし、BRC株を接種されたICRマウスではウイルスは検出限界以下であった。以上の結果より、OQ28株とBRC株は系統学的にはLCMV株の同じクラスターに分類される一方で極めて異なる病原性を示していた。(翻訳:南川 真有香)

キーワード:リンパ球性脈絡髄膜炎(LCMV)ウイルス、OQ28株、BRC株、WE(ngs)株、ゲノム解析、病原性、マウス

 

Bウイルス特異的血清抗体検出の再評価
Comparative Medicine 62 (6):516-526, 2012

 マカク属サルが自然宿主であるBウイルスはヒトに致死的な人獣共通感染症を引き起こしうる。力価測定用ELISA(t ELISA、スクリーニング検査)、ウエスタンブロット法(WBA、確定検査)を用いたマカク属サルの血清学的検査はヒトへの感染を予防する基本的手段の1つである。今回、我々はこれら2つの検査法を若干改変し、その相関関係を再評価した。我々はハイスループットt ELISAを開発し、Bウイルスの同種抗原、またはPapiineヘルペスウイルス2型、ヒトヘルペスウイルス1型 といった異種抗原に対する血清スクリーニング検査を278検体同時に行った。BV-ELISAの陽性判定率(35.6%)はHVP2-ELISA(21.6%)やHSV1-ELISA(19.8%)の判定率よりも高かった。異種t ELISAに対し同種t ELISAは低抗体価血清で顕著な優位性が認められた。低、あるいは中抗体価では、WBAはt ELISA陽性血清のうち21%のみを陽性と判定した。これらの血清は立体構造が変性した抗原が使われているWBAでは検出することのできない、立体構造エピトープに対する抗体を有すると考えられ、直線状と立体構造エピトープの両方を認識できるt ELISAでは検出することができたと考えられる。WBAで陽性と判定したうち82%の血清はt ELISAで高抗体価を示したものであった。しかし、残りの18%の血清はt ELISAで陰性と判定されたにも関わらず、WBAでは陽性と判定された。これはWBAによる結果を主観的に解釈する難しさに起因すると考えられる。また今回の結果より、低抗体価血清に対する確定診断としてWBAは不適当であることが示唆された。 (翻訳:中山雅尭)

キーワード:Bウイルス、マカク属サル、人獣共通感染症、t ELISA、WBA

 

マカク属におけるBウイルス感染の血清学的診断のための組換え抗原を用いた全自動ELISA
Comparative Medicine 62(6): 527-534, 2012

 Bウイルス(Macacine herpesvirus 1)はマカク属を自然宿主とし、ヒトに致死的な人獣共通感染症を起こしうる。マカク属からのBウイルス(BV)抗体検出系の確立は、SPF繁殖コロニーの形成およびヒトへ曝露し得るマカク属の感染診断のために必要不可欠である。従来、BV感染はELISA(スクリーニング検査)およびウエスタンブロット(WBA;確定検査)による抗体の存在の有無でモニタリングされている。いずれの検査も感染細胞の溶解液を抗原として用いる。ELISAでは検出可能な低い抗体価の血清に対してWBAは検出出来ないことがあるため、将来の代替的な確定検査法として組換え抗原を用いたELISAを検討した。384穴プレートを用いて行った、4つのBV関連組換え蛋白質に対する同時抗体スクリーニングのハイスループットELISAを、標準的なELISAおよびWBAと比較した。組換え抗原ELISAはELISA陽性血清をWBAよりも多く陽性と確定することができた。組換え抗原ELISAはWBAより、とりわけ低抗体価(<500ELISA Units)の血清に対して顕著に優れていた。低い抗体価の血清での組換えELISAの相対的な感度は、WBAが3.3%から10.0%であるのに対して、36.7%から45.0%であった。加えて、スクリーニング検査と確定検査が同時に行う事が可能となり、結果をより迅速に提供することが可能となった。マカク属血清中のBV抗体の評価の確定検査を行う際に、組換え抗原ELISAはWBAに代わるより有用な代替法であると結論づけることが出来た。 (翻訳:林志佳)


キーワード:Bウイルス、Macacine herpesvirus 1、ELISA、ハイスループットELISA、マカク属、ウエスタンブロット法、モニタリング