実験技術・系統情報関連

心血管核磁気共鳴画像法、経胸壁心エコー図検査及び経食道心エコー図検査:ラットにおける生体内での心室機能評価法の比較
(Laboratory Animals. 47(4) 291-300, 2013)

 げっ歯類における心室機能の生体内での評価は経胸壁心エコー図検査(transthoracic echocardiography: TTE)にかなり限定されていたが、1.5T心血管核磁気共鳴画像法(cardiac magnetic resonance: CMR)と経食道心エコー図検査(transoesophageal echocardiography: TOE)が代替の可能性のある方法として浮上してきた。しかし、今までに、ラットでの心駆出率(ejection fraction: EF)の測定においてこれら3つの画像診断法を体系的に調べた研究はなかった。そこで、ラット20匹を用いて、心筋梗塞を外科的に導入した後4週間画像診断を行った。CMRには1.5T装置を用い、TTEでは9.2MHzトランスデューサーを、TOEでは10MHz心腔内エコーカテーテルをプローブとして使用した。EF測定における3つの技術間での測定値の相関性と、解析の再現性について評価した。3つの間には中程度から強い相関がみられ、CMRとTTEの間で一番強く(級内相関係数(intraclass correlation coefficient: ICC)=0.89)、次にTOEとTTE(ICC=0.70)、CMRとTTE(ICC=0.63)と続いた。観察者内変動と観察者間変動は、最も差が小さく、良い値が出たのがCMRで(ICCはそれぞれ0.99,0.98)、次にTTE(0.90,0.89)、TOE(0.87,0.84)であった。各々の方法はラットの心室機能の評価のために実行可能な選択肢の一つであるが、標準的なコイルとソフトウェアを使った1.5T装置でさえも、CMRの画質と再現性の高さには明白な優位性がある。(翻訳:杉浦由季)

キーワード :心血管核磁気共鳴画像法、経胸壁心エコー図検査、経食道心エコー図検査、左心室機能、心臓超音波検査

 

小動物の心臓イメージングの際の造影剤投与には側部尾静脈よりも眼窩静脈叢が優れている
(Laboratory Animals. 48(2) 105-13, 2014)

 コンピューター断層影像法を用いた心臓の血流の確認は臨床診療において一般的な検査である。近年の技術的進歩と小動物専用スキャナーが使用可能になったことで、これらの技術を前臨床の領域全般、特にマウスの心臓病モデルに導入できるようになった。これにより、造影剤を迅速に動物の心臓へ送達させられるような静脈投与の技術が必要とされるようになってきた。高濃度のヨウ素を含んだ臨床用造影剤は小動物での研究にも用いられているが、高い粘性を示すために脈管系においてスムーズに輸送されないことがある。著者らは、側部尾静脈および眼窩静脈叢への注入により投与した後の造影剤がどのように輸送されるか比較して、解剖学的構造が輸送のされ方にどのように影響するか議論し、さらに急速に静注した造影剤の一時的な展開・拡散がどのように行われるか可視化した。尾静注で造影剤を投与すると、逆流により肝臓の静脈に流れてしまうために、急速静注してもコントラストが検出できるほどはまとまって流入しない。従って、尾静注は心臓の血流の研究には適切ではない。これに対して、眼窩静脈叢へ急速注入された造影剤は迅速に心臓に向かい、心室のコントラストがよくなるので、人間の患者同様に血流の研究ができる。この結果から、尾静注のあらゆる欠点が克服しうるため、動物の心臓への造影剤送達には眼窩側部尾静脈投与よりも静脈叢内投与が優れているといえる。(翻訳:小池明人)

キーワードin vivo, 齧歯類、コンピューターモデル、心臓病学、注射

 

アカゲザル(Macaca mulatta)で認められたMoraxella osloensis原性化膿性関節炎
(Comparative Medicne 63(6):521-7, 2013)

 5.5歳齢の中国由来のメスのアカゲザル(Macaca mulatta)の後肢両側において跛行が観察された。本個体はSPFの繁殖コロニーで群飼されており、Bウイルス、SIV、サルレトロウイルスD型、サルリンパ球向性ウイルスが血清学的陰性であった。本個体の既往歴として左足根で生じた多発性の関節炎及び右前肢と両手の外傷があった。加えて、本個体は左後肢脛骨遠位部の骨髄炎及び右後肢前十字靱帯の断裂を引き起こしていた。右後肢前十字靱帯の断裂は外科的に整復されていた。身体検査による異常所見として削痩、中度の脱水、両側後膝部に熱を帯びた腫脹が認められ、右側後膝部の方が重症であった。左側後膝部に軽度不安定性が認められ、両側後膝部に関節可動域の減少と筋萎縮が生じていた。血液学的所見では顕著な好中球増加とリンパ球減少及び中度の貧血が認められた。関節穿刺及び滑液の培養を行ったところMoraxella属様の微生物が認められた。エンロフロキサシン投与を実験的に開始し、その後セファレキシンに切り替え、長期にわたって関節の腫脹と炎症を緩和できた。化膿性関節炎におけるMoraxella osloensisの確定診断は微生物を単離し16S rDNA領域の配列を決定することで行った。我々の知る限り、本報告はアカゲザルにおけるMoraxella osloensis原性の化膿性関節炎の初報である。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:アカゲザル、Moraxella osloensis、化膿性関節炎

 

コラーゲン誘導関節炎の加齢による違い:臨床症状と画像診断の相関
(Comparative Medicne 63(6):498-502, 2013)

 関節炎は子供と大人の両方において最も多く見られる慢性疾患の一つである。関節内の炎症はほぼ全ての慢性関節炎患者に共通して認められる特徴であるにもかかわらず、発症年齢に加えて、小児と成人において疾患を区分できる臨床所見が存在する。そこで本研究では、コラーゲン誘導性関節炎(CIA)ラットの年齢による病理学的相違を明らかにすることにおいてマイクロCT(mCT)と超音波検査の有用性を示すことを目的とした。幼若個体(35日齢)と若年成熟個体(91日齢)のオスWisterラットをウシ2型コラーゲンと不完全フロイントアジュバントで免疫し、多発性関節炎を誘導した。非免疫Wisterラットをコントロールに用いた。四肢を0点(正常な肢)から4点(使用されなくなった肢)で評価した。関節炎発症14日後にラットに安楽死処置を施し、後肢をmCTと超音波検査を用いてイメージングした。若齢成熟個体は幼若個体と比較して関節炎が重度である兆候が認められた。イメージングにより若年成熟個体のCIAの方で趾骨、中足骨、足根骨と広範囲にわたって重度の骨病変が認められた。一方で幼若個体のCIAは病変が主に趾骨、中足骨により限局しており、病変の進行や骨への障害があまり認められなかった。本研究において、幼若個体と若年成熟個体のCIAを比較において画像診断法の有用性を検討したことで、疾患の特徴と進行が2つの年齢間で異なるという証拠を提示できた。我々の知見は、CIAモデルは炎症性関節疾患の加齢性の病理学的進行を判別するのに役立つということを示している。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード :コラーゲン誘導性関節炎、加齢性変化、マイクロCT、エコー、イメージング、ラット

 

マウスにおける肺腫瘍の定量的マイクロCTのための造影剤
(Comparative Medicne 63(6):482-90, 2013)

 マウスの肺腫瘍モデルにおいて腫瘍部分の同定および大きさの定量的評価は困難で、前臨床の領域における必要性に見合わないものとされてきた。本研究において我々は、コントラストを増強したマイクロCT(mCT)によりマウス腫瘍を非侵襲的かつ縦断的に調べ縦断的定量する方法を開発した。我々はナイーブマウスおよび非小細胞性肺癌モデルにおいて胸部の血管および肺腫瘍を可視化するのにどの造影剤が適切か知るために、市販のmCT用造影剤を比較した。生理食塩水のコントロールと比較して、イオパミドールやヨード脂質の造影剤は周辺部のみでコントラスト解像度を増強させた。無機微粒子の造影剤では最も明白なコントラストを示し、胸部血管の構造がよくわかる可視化像を得られた。密度によるコントラストは注射後15分で最高になり、以降4時間以上安定だった。無機微粒子の造影剤による腫瘍・血管構造・胸部含気部のコントラストの違いは、腫瘍境界の識別や正確な定量を可能にした。mCTのデータは伝統的な組織学的測定とよく相関した(ピアソンの相関係数は0.995であった)。ELM4-ALKマウスにクリゾチニブ処置をしたところ、腫瘍の大きさは65%減少し、前臨床試験におけるmCTを用いた縦断的評価の有用性が示された。全体的に見て、我々が試した3種類の造影剤の中では、無機微粒子を用いた市販の製品が胸部血管および肺腫瘍の可視化に最適だった。肺腫瘍の前臨床研究において、コントラストを増強したmCTイメージングは縦断的評価のための優れた非侵襲的手法である。(翻訳:小池明人)

キーワード:  マイクロCT、造影剤、肺腫瘍、前臨床試験

 

C3H/HeJマウスにおける円形脱毛症を誘導する全層植皮術の外科的方法
(Comparative Medicine 63(5):392-397, 2013)

 円形脱毛症はヒトや多くの愛玩動物、実験動物の細胞媒介性自己免疫疾患である。C3H/HeJ近交系マウスは低頻度(12ヶ月齢までで約20%)で円形脱毛症を自然発症する。円形脱毛症を発症した老齢マウスから同系統の若齢マウスへの全層植皮術は、確実に円形脱毛症を再現することから、病気の発症機序や様々な治療介入を研究する際に有用である。ここでは、常に円形脱毛症を発症させるために必要な全層植皮術法ならびに処置の経過観察について詳細に述べる。これら移植マウスは細胞媒介性自己免疫疾患ならびに薬効試験の研究に有効である。この標準プロトコルは、実験マウスにおける皮膚の異常な表現型を研究する際、その他多くの目的にも利用可能である。
(翻訳:南川 真有香)


キーワード:C3H/HeJマウス、円形脱毛症、細胞媒介性自己免疫疾患、全層移植術

 

飼育の慣例にある隠れコスト :実験用マウスにおける慢性寒冷ストレスが与える代謝要求量の非侵襲的イメージングを用いた定量
(Comparative Medicine 63(5):386-91, 2013)

 実験用マウスは通常20℃から22℃で飼育されており、マウスの熱的中性圏である29℃から34℃を遙かに下回っている。慢性寒冷ストレス下では深部体温を維持するためにより多くのエネルギーを消費する必要があり、ヒトの生理機能を模するためのマウスモデルとして不具合が生じうる。我々は、20℃から22℃の環境温度で飼育されているマウスは慢性的に寒冷ストレスを受けているためエネルギーがより多く消費されており、褐色脂肪細胞においてグルコース使用量が多くなっているのではという仮説を立てた。この仮説を検証するため、我々は間接熱量測定法を用いて通常の動物室の室温(21℃)、中間温度(26℃)、高温(31℃)で飼育したときのC57BL/6JマウスとCrl:NU-Foxn1nu無毛マウスのエネルギー消費及び基質の使用量を測定した。また、我々は肩甲骨間にある褐色脂肪細胞の非ふるえ熱産生能をサーモグラフィー及び陽電子放射断層撮影法を用いた当該部位のグルコース取り込みにより調べた。マウスのエネルギー消費量は中間温度や高温と比べて室温では顕著に多く、代謝がグルコース消費の方向に転じていた。毛むくじゃら、無毛のどちらのマウスにおいても褐色脂肪細胞は室温と中温において顕著な活性化が見られた。Crl:NU-Foxn1nuマウスはC57BL/6Jマウスよりも強い寒冷ストレスを感じていた。我々のデータにより通常の動物室の室温で飼育されているマウスは慢性的に寒冷ストレスにさらされていると示唆される。このサーモグラフィーを用いた新しい方法は動物施設で飼育されている実験用マウスの寒冷ストレスを測定することができると言う点が従来の代謝測定ツールよりも特に優れている。ゆえにサーモグラフィーはマウスの寒冷ストレスを軽減するよう設計された新しい飼育管理の評価に理想的なツールである。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:マウス、寒冷ストレス、褐色脂肪細胞、サーモグラフィー、陽電子放射断層撮影法、代謝、動物施設

 

ラット(Rattus norvegicus)において性周期のステージは心虚血再灌流障害に影響しない
(Comparative Medicine 63(5): 416-421, 2013)


 心血管系疾患は男性女性どちらにおいても主要な死因であるが、大多数の動物実験においては雄の動物が用いられる。雌の性ホルモンが心臓保護過程での相関が認められていたことから、多くの研究者は実験に雌の動物を使うことを避けている。これらのホルモンが周期的に変化し、実験のばらつきの原因となるもしれないためである。加えて、これまで性周期が心虚血障害に与える特異的影響は研究されていない。本研究ではラットの心臓において性周期のステージが虚血障害の感受性に影響を与えるかを検討した。性周期のステージはin vivo(外科的)あるいはex vivo(心臓単離下)での心虚血再灌流障害処置後の膣スメアで判定した。in vivo実験においては左前冠動脈を25分間虚血状態にした後、120分間開放して再灌流させた。梗塞サイズは発情前期、発情期、発情後期、発情間期においてそれぞれ42% ± 6%、49% ± 4%、40% ± 9%、47% ± 9%であった。エクソビボの実験では単離灌流状態の心臓を全虚血および再灌流状態にそれぞれ25分間と120分間おいた。in vivo実験と同様に、ex vivoラットモデルにおいても梗塞の感受性や不整脈の程度に性周期ステージによる有意差は見られなかった。我々の知る限り、本研究は性周期のステージがラットにおける心虚血再灌流障害に有意な変化を与えないことを直接的に示した初めての研究である。 (翻訳:林 志佳)


キーワード:性周期、心虚血再灌流障害、性差、ラット

 

雌TRAMPマウスにおけるSV40腫瘍抗原を発現した退形成腎癌
(Comparative Medicine 63(4): 338-341, 2013)


 8か月齢の雌のトランスジェニック型前立腺癌(C57BL/6-Tg(TRAMP)8247Ng/J) マウスが腹部膨満、傾眠、漿液性の膣分泌液を呈した。剖検所見では肺および肝臓への転移を伴う大型の原発性腎腫瘍が見られた。この腫瘍は面皰壊死、高頻度の異型有糸分裂像を伴う管状、腺房状、および篩状を呈する低分化細胞および密な上皮細胞によって構成されていた。免疫組織化学的検査によって腫瘍細胞は核にSV40腫瘍抗原を発現していることが明らかになり、導入遺伝子の異所性発現が確認された。加えて、この細胞は総サイトケラチン陽性であり、シナプトフィジンや、エストロジェンおよびプロジェステロン受容体は陰性であった。本報告は雌TRAMPマウスにおける導入遺伝子誘導性腫瘍に関して初めて詳細に記したものである。 (翻訳:林 志佳)


キーワード:TRAMPマウス、SV40腫瘍抗原、退形成癌、導入遺伝子誘導性腫瘍、性差

 

下肢筋肉圧挫損傷のマウスモデル
(Comparative Medicine 63(3): 227-232, 2013)

 骨格筋圧挫損傷は、自然災害や戦場環境下における病的状態の主な原因であるため、骨格筋圧挫損傷の再現性のよい洗練された動物モデルが必要とされている。骨格筋圧挫損傷の小動物モデルとして、外科的処置を伴うものと伴わないものの両者が存在するが、各々、筋肉の外科的分離の必要性や腓骨骨折の負の影響という点で限界がある。本研究において我々は、下肢筋肉圧挫損傷の新しい非侵襲的なマウスモデルの開発および確立を行った。我々のモデルは外科的処置を行わないにもかかわらず、全てのマウス個体で筋損傷が確認でき、またそれはヘマトキシリン・エオジン染色による顕微鏡下でも証明された。筋損傷後24時間経過時及び48時間経過時には、好中球浸潤かつマクロファージ浸潤が認められた。F4/80陽性マクロファージの領域比率及び平均抗原面積は、24時間経過時よりも48時間経過時の方が高かった。また、CD68陽性マクロファージの領域比率及び平均抗原面積に関しては、損傷部と非損傷部間で著しく異なっていた。さらに、腓骨骨折の発生率は、既存の別の非侵襲モデルの1/3未満であった。これらの結果、骨折個体数および使用動物数の削減が可能になったことから、本モデルは、マウス骨盤肢筋肉圧挫損傷の再現性のよい改良モデルであると結論づける。 (翻訳:南川真有香)

キーワード:下肢筋肉圧挫損傷、改良動物モデル、非侵襲性、腓骨骨折

 

細胞アッセイおよびタンパクミスフォールディング循環増幅法による、プリオン研究における動物を用いたバイオアッセイのさらなる削減および代替に向けて
(Laboratory Animals. 47(2): 106-15, 2013)

 プリオンが生体にどの程度感染性があるか、いわゆる50%感染量[ID50]を定量するためのバイオアッセイにおいて、実験動物は以前より大規模に用いられてきた。主な構成要素としての異型プリオンタンパクおよびプリオンの自己複製原理が特定されたことによりプリオンの定量に別のアプローチが提起されるようになった。そのようなアプローチとして、プリオン関連播種活性の無細胞系での生化学的計測にはタンパクミスフォールディング循環増幅(PMCA)法が、試験管内での感染価の計測には細胞アッセイがしばしば用いられている。しかし、プリオンの50%播種量および50%培養細胞感染量(それぞれSD50およびCCID50)はどちらも動物でのID50とはきっちりと一致せず最終的に代わりとはならないことから、ただ暫定的に後者の値に換算されているに過ぎない。この乖離はプリオン研究において動物を用いたバイオアッセイに変わる手段を採用して使用することを潜在的に妨げる。そこで、我々はPMCA法と細胞アッセイをともに行うことを提唱し、これらふたつの大いに異なる試験がインビトロでの手法を用いたプリオンのID50評価の確実性と信頼性を強化するために矛盾のない結果をもたらすか検討する。この原理を証明するために我々は3つの異なるハムスター適応プリオン株(頻用される263Kスクレイピー株、22A-Hスクレイピー株、およびBSE-H株)に対するPMCA法とグリア細胞アッセイについて記す。加えて、我々はプリオン汚染除去研究に関連して、鋼線に付着したヒト変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)タンパクへの定量的PMCA法の適用についても報告する。我々の原理および方法は体系的に他の型のプリオンにも汎用することができる。そして、げっ歯類を用いたプリオンバイオアッセイのさらなる削減と代替につながるだろう。 (翻訳:林 志佳)


キーワード:プリオン、プリオンタンパク、細胞アッセイ、タンパクミスフォールディング循環増幅(PMCA)、動物バイオアッセイの削減

 

BALB/cByJマウスにおける特発性心臓石灰沈着症
(Comparative Medicine. 63(1): 29-37, 2013)

BALB/cマウスは異栄養性石灰沈着症―心臓組織、特に右心房の心外膜の石灰化―の素因がある。この疾病は加齢した動物に認められると以前報告されていたが、原因は不明であった。本研究において我々は、BALB/cマウスの亜系統(BALB/cByJ)がこの疾病を早期に、高頻度で発症することを報告する。ここで我々は心臓を詳細に調査し、疾病の状態を確認して重症度を測定し、BALB/cの亜系統と比較した。石灰沈着部位を特定するために組織学的解析および蛍光、免疫蛍光顕微鏡検査を用いた。BALB/cByJマウスは他のBALB/cマウスの亜系統と比較してより高頻度により重度の石灰沈着を呈した(5週齢で他の亜系統が3%であったのに対してBALB/cByJは90%であった)。この週齢においてBALB/cByJマウスでは全心房表面の30%ほどを病変が覆っていたのに対して、他の系統では1%にも満たなかった。骨髄キメラマウスにおいて、病変が骨髄由来の細胞の浸潤を含むことを示すマーカーとして緑色蛍光タンパクを用いた。病理学的解析から、石灰沈着は散在性免疫細胞を含む線維化組織に囲まれて分布していることが示された。リンパ球、マクロファージ、および顆粒球が全て存在していた。病変部に近接した筋細胞ではギャップ結合タンパクであるコネキシン43の細胞内分布が観察された。結論としては、BALB/cByJマウスは他のBALB/cの亜系統より高頻度により重症の石灰沈着症を発症する。我々の発見により、病変部では免疫細胞が活発に誘導され、病変部の近傍では筋細胞のギャップ結合が変化していることが示された。(翻訳:林 志佳)

キーワード:BALB/c、系統差、異栄養性石灰沈着症、心臓の石灰沈着症、ギャップ結合、コネキシン43

 

超音波検査によるマウス胎生期体重の推定:臨床から研究への応用
Laboratory Animals 46(3): 225-30, 2012

 胎児の体重を推定するため、胎児の成長を超音波検査により評価することは、臨床産科では広く用いられているが、実験用マウスには適用されていない。マウスを用いた遺伝子ターゲッティング研究において胎仔の成長異常の評価は重要であるが、マウスにおいて胎仔の生体パラメータを用いて胎仔の体重を正確に推定した報告はない。本研究の目的は、超音波イメージングに基づく胎仔の生体パラメータを用いて、正確なマウスの体重算出式を確立することであった。40MHz変換器を備えた高周波数超音波システムを用いて、マウス胎仔293匹の頭部大横径と平均腹部直径を、交配後12.5日から18.5日まで毎日計測した。ヒトの胎児に適用される頭部および腹部の測定に基づいた13種類のアルゴリズムを評価した。その結果、Jcl:ICRマウスにおける腹部の測定に基づいた正確な体重算出式を確立した。この体重算出方法は子宮内胎児発育遅延などの妊娠合併症究明する上で非常に有用だろう。(翻訳:中山 雅尭)

キーワード:胎児体重の推計、超音波検査、マウス

 

マウスの尾端採血または心採血が血中グルコース濃度および脂質プロファイルに与える影響
Laboratory Animals 46(2): 142-147, 2012

 採血は血液学的指標または代謝性指標を測定するための動物実験手技の一つである。循環血液の組成は、採血部位には関係なく同様であると考えることはできない。実際に動脈または静脈から採取した血液の組成は異なることが報告されている。今回我々は4、7、20、28週齢のC57BL/6J雄マウスから、心臓穿刺または尾端の遠位1mmを切除して採取した血液のグルコースと脂質プロファイルの相違点を調べた。まず無麻酔下で尾端から採血し、すぐにケタミン/キシラジンを用いて麻酔した後に、心臓穿刺により採血した。マウスの週齢とは関係なく、心臓穿刺で得られた血液中グルコース濃度は尾端切除で得られた血中グルコース濃度に比べて有意に80%高かった。逆に心臓穿刺で得られた血液中脂質濃度(総コレステロール、高比重リポたんぱく質、トリグリセリド)は、尾端切除で得られた血液中脂質濃度に比べ25%低かった。これらの知見は採血部位の異なる血液サンプル間においてグルコースや脂質のような代謝性指標の測定比較が困難であることを強く示唆している。またこれらの実験結果は、特に複数回採血が必要な実験において、採血部位を固定化する必要性を示唆している。(翻訳:近藤 泰介)

キーワード:代謝性指標、採血部位、グルコース、脂質、C57BL/6マウス

 

外用抗菌剤療法の評価に適した糖尿病性創傷感染ラットモデル
Comparative Medicine 62(1): 37-48, 2012

 糖尿病は多臓器性慢性疾患として患者数の増大が問題となっており、その多くの症例で複合創傷感染を併発する。新薬による外用抗菌剤療法は集学的治療において有用であると考えられる。しかしながら、外用抗菌剤の開発において、新規薬物のスクリーニングと創傷治癒効果の実証の目的に適切に標準化された実験動物モデルは未だ存在しない。上記動物モデルを確立するために、我々は既存の創傷治癒モデルを分析調査し、改変を試みた。動物福祉と3R原則を考慮に入れ、動物種、糖尿病モデル作成法、剃毛法、創傷収縮を防ぐための創縁固定法、創傷被覆保護の方法、実験処置以外の微生物汚染の防止、創部における微生物感染度の評価、創傷治癒の肉眼的および顕微鏡観察による病理学的評価に関して最適条件を探索した。その結果、我々は抗菌剤療法のテストに最適な創傷感染ラットモデルを新たに確立した。このモデルでは、糖尿病性感染における創傷治癒の病態生理が再現されており、標準的な臨床治療であるデブリドマン(壊死組織切除)も行なわれている。本モデルの長所は必要器具が既製品であり、手技が簡易で、再現性が高く、検体数の多い実験に対して実用的なことである。さらに、ヒトにおける感染創傷の治療と治癒過程との類似性を考慮すると、この新しいモデルは応用研究に対して代替モデルとして役立つであろう。(翻訳:中山 雅尭)

キーワード:糖尿病、外用抗菌剤治療薬、創傷感染症

 

糖尿病性微小血管遅発合併症モデルとしてのZucker Diabetic Fattyラットの妥当性
Laboratory Animals 46(1): 32-39, 2012

 雄のZucker Diabetic Fatty(ZDF)ラットは約8週齢で2型糖尿病を発症し、ヒト糖尿病とその合併症モデルとして広く用いられている。本研究の目的はZDFラットの腎臓と神経における合併症がヒト糖尿病性合併症と同じく、その高血糖状態に起因しているかを明らかにすることである。本実験では、無処置対照群として糖尿病非発症ZDF群(Fa/?、非肥満)、糖尿病発症ZDF群(fa/fa、肥満)の2群、処置群としてピオグリタゾン処置ZDF群(fa/fa、糖尿病発症の予防)及び食事制限ZDF群(fa/fa、糖尿病発症の遅延)の2群、計4群を用いた。各実験群のラットにおいて、血液生化学値(血糖値、ヘモグロビンA1c、インスリン濃度)、腎機能指標(尿糖排出量、腎糖濾過、糸球体濾過率、アルブミン/クレアチニン比)、神経機能指標(触覚および温熱感覚の閾値、神経伝導速度)を35週齢まで測定した。ピオグリタゾンは糖尿病発症を抑え、食事制限は糖尿病発症を8-10週程度遅らせた。また腎機能指標に関して、ピオグリタゾン処置ラットは糖尿病非発症ラットと同程度の値を示し、食事制限群のラットでは糖尿病発症無処置ラットと比較し値は有意に改善した。腎臓病理所見は腎機能検査の結果と対応していた。対照的に神経機能評価は血糖値の状態を反映したものでなかった。ZDFラットは糖尿病性腎症の良いモデルとなるものの、神経機能の変化は糖尿病と関係ないといえる。(翻訳:中山 雅尭)

キーワード:動物モデル、病態モデル、げっ歯類、代謝、洗練

 

ラットにおける総体表面積の簡便な推定方法及びより正確なMeeh定数の算出
Laboratory Animals 46(1): 40-45, 2012

 動物の総体表面積(TBSA)または特定の体表面積(P-MSAs)の正確な計算法は多くの生物医学研究分野において極めて重要である。本論文の目的は小動物における簡便なP-MSAの測定方法の確立、及び一般的体重の実験用ラットにおけるより正確なMeeh定数(k)の算出である。195-240gのWistarラット30匹に麻酔をかけ体重を測定した。ラットは6領域(腹面、背面+側面、尾部、耳部、前肢部、後肢部)の体表面積をクリアポケットファイルを用いてトレースし、面積測定器を用いてその面積を計測し、6領域のP-MSAを加算することでTBSAとした。得られたデータは小実験動物に対して最も一般的に用いられるMeeh式(TBSA = kW2/3)に当てはめ、各個体のk値およびその平均値(= 9.83)を得た。さらにTBSA(推定値)を前述のk平均値および体重を用いて算出し、既報論文でのk値を用いて得たTBSAと比較した。本研究結果から、今回新たに算出されたk平均値を用いれば、体重が特定の範囲内にある実験用ラットのTBSAをより正確に推定することができる事が判明した。さらに本論文では、簡便かつ正確、そして動物の犠牲を伴わない体表面積測定の方法を確立できた。(翻訳:南川 真有香)

キーワード:総体表面積、ラット、Meeh式

 

コモンマーモセット(Callothrix jacchus)における気管内挿管の代替法
Laboratory Animals 46(1): 71-76, 2012

11頭のコモンマーモセット (Callothrix jacchus)に対して気管内挿管をおこなった。喉頭部の可視化には、実験器具として市販されている傾斜スタンド及びミラー型喉頭鏡ブレードを使用した。アルファキサロン (10.6±1.6mg/kg筋肉内投与後に3.2±1.2mg/kg 静脈内投与) により麻酔導入し気管内挿管行なった。気管内チューブは既製品(静脈留置カテーテル)から作製したが、マーモセットの近位気管の口径には12ゲージのカテーテルが適していた。気管内チューブの先端が声帯ヒダ部位に達した後、チューブを喉頭から気管へ通過させるため、静かに180度回転させる必要があった。喉頭と気管の長さの評価及び、動物 (n=10) の外部からの構造的的特徴から、気管長は、マーモセットの頭蓋仙骨長を0.42倍することによって予測可能であることが示された。 (翻訳:五十嵐 哲郎)

キーワード:マーモセット、麻酔、気管内挿管、アルファキサロン

 

家族性高コレステロール血症モデルWHHLMIウサギの麻酔下心電図像と心筋梗塞像の一致
Comparative Medicine 62(5) :409-418, 2012

本研究の目的はヒト家族性高コレステロール血症のモデル動物である心筋梗塞好発渡辺遺伝性高脂血症(WHHLMI)ウサギの心電図が、心筋虚血発症の特徴を示すか検討することである。WHHLMIウサギ110羽(10から39ヶ月齢)を麻酔下で、胸部誘導の有無を区別し、単極、双極肢誘導心電図をとった。T波逆転(37.4%)、ST低下(31.8%)、異常Q波 (16.3%)、R波減高 (7.3%)、ST上昇(2.7%)、T波振幅(1.8%)といった特徴が心電図でみられた。これらの心電図の特徴はヒト冠状動脈性心臓病患者の心電図で認められるものと類似する。病理組織学的検索から左心室壁において心筋の横紋の消出、空胞変性、凝固壊死、心筋線維間の浮腫のような急性心筋梗塞病変に加え、心筋線維症などの慢性心筋梗塞病変が認められた。このような心電図の特徴がみられたのは粥状動脈硬化病変により冠状動脈が重度に狭窄したためである。虚血性心疾患で見られる心電図の特徴は心筋病変と位置が一致する。ヒトの正常な心電図波形はウサギやマウス、ラットと大きく異なるが、WHHLMIウサギとは類似している。WHHLMIウサギの虚血性心疾患で見られる心電図の特徴は心筋病変の位置を反映したものであり、WHHLMIウサギは冠状動脈性心疾患の研究に有用なモデルといえる。 (翻訳 中山 雅尭)

キーワード:家族性高コレステロール血症、WHHLMIウサギ、冠状動脈性心疾患、心電図