生殖技術関連情報

 

発生研究のための妊娠同期スナネズミの作成
(Laboratory Animals 42(10): 380-3, 2013)

 発生過程の胎子における化学物質や病原体に対する感受性は、その発生段階により異なる。そのため発生の研究では妊娠期が揃っている胚や胎子に対して実験処置を施す必要がある。発生段階を同期した胚を十分な数揃えるためには妊娠同期動物が必要になる。妊娠同期スナネズミは現在市販されていない。著者らは未交配スナネズミを同期交配させる新手法を確立した。直接接触できないように仕切りで区分けしたケージにスナネズミの雌と雄を同居させ、雌を雄の発したフェロモンに3日間暴露した後に仕切りを外し、雌雄の接触を可能にした。性的受容性を確認するために雌のロードーシスを観察した。ロードーシスは15匹中10匹(67%)で確認され、そのうちの9匹(90%)が妊娠した。ロードーシスが確認されなかった場合、妊娠した雌はいなかった。これらの結果から同期交配させる手法により高確率で妊娠することが明らかになった。また、スナネズミにおけるロードーシスは性的受容性の信頼できる指標であり、後の交配の成功を示唆することがわかった。 (翻訳:中山雅尭)

キーワード:スナネズミ、発生学、交配、ロードーシス

 

過排卵前のブセレリン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の投与によって129マウスの体外受精率が向上する
Laboratory Animals 46(4): 299-303, 2012

 129マウスは受精率が低いことで知られ、この受精率の欠陥は卵子の状態によるものでありうると考えられている。本研究では、129S1/SvImJマウス系統の卵子の質および体外受精(IVF)における受精率を向上させるための過排卵法を検討した。雌マウスをホルモンの種類および投与のタイミングによって4群に分けた。第1群は妊馬血清性ゴナドトロピン(PMSG)を投与、48時間後にヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を投与とした。同じ容量で、第2群はPMSGの52時間後に、第3群はPMSGの55時間後にhCGを投与した。第4群はブセレリン(性腺刺激ホルモン作動薬[GnRH])の24時間後にPMSGを、さらにPMSGの55時間後にhCGを投与した。体外受精は129S1/SvImJの卵子および精子を用いて行った。C57BL/6Jの精子および129S1/SvImJの卵子を受精率の対照とした。129精子で受精させた129の卵子では、IVFの受精率は1%(第1群および第2群)、17%(第3群)、55%(第4群)であった。C57BL/6Jの精子で受精させた129の卵子では、IVFの受精率は5%(第1群)、10%(第2群)、40%(第3群)、59%(第4群)であった。これらの結果よりPMSGとhCGの投与の間隔を広げること、並びに、標準的なPMSGおよびhCG処置の前にGnRHを追加的に投与することで129S1/SvlmJマウス系統の受精率を有意に向上させられることが示唆された。 (翻訳:林志佳)

キーワード:体外受精、GnRH、ブセレリン、受精率、過排卵の改良

 

卵母細胞の質に対するマウスの安楽死方法の評価:頸椎脱臼とイソフルラン吸入の比較
Laboratory Animals 46: 167-169, 2012

 頸椎脱臼はマウスの安楽死に一般的に用いられる方法である。イソフルラン吸入による安楽死は、痛みや動物の苦痛を軽減するために麻酔を用いて、複数のマウスに同時に安楽死を施すことを可能とする代替法である。我々の研究目的は、これらの2つの安楽死法がマウスの卵母細胞の質に対してどう影響するかを評価することである。ゴナドロピンを投与して過剰排卵を誘発した雌のCD1マウス群に対して、無作為に頸椎脱臼あるいはイソフルラン吸入による安楽死を施した後、卵管を採取して切開して、減数第二分裂中期の卵母細胞を回収した。顕微鏡を用いて卵母細胞を観察した後、卵母細胞を無傷な卵母細胞、損傷した卵母細胞、閉鎖卵胞の3つの群に分類した。減数第二分裂中期の無傷な卵母細胞は生物医学的研究に用いた。頸椎脱臼による安楽死を施した群から回収した1442個の卵母細胞と、イソフルラン吸入による安楽死を施した群から回収した1230個の卵母細胞を比較した。頸椎脱臼による安楽死を施した群では93.1%の卵母細胞が無傷であったのに対して、イソフルラン吸入による安楽死を施した群では65.8%の卵母細胞が無傷であった(P≦0.001)。これらの結果から、生物医学的研究のためにマウスの無傷な卵母細胞を得る手段としては頸椎脱臼による安楽死が最適な方法であると我々は結論づける。 (翻訳:五十嵐 哲郎)

キーワード:安楽死、マウス、イソフルラン、頸椎脱臼、卵母細胞

 

受精率および繁殖成績の向上を目的とした雄マウスへのゴナドトロピン処置
Laboratory Animals 47(1): 26-30, 2013

 マウスのゲノム改変技術の発展により、生物医学研究に用いられるマウスの系統の数は飛躍的に増加した。既知のすべての遺伝子について遺伝子改変を行った系統を作出するという国際的プログラムが計画されているため、この傾向は今後数十年続くであろう。改変が生殖を制御する遺伝子とは無関係であっても、遺伝子改変を受けた系統の多くで繁殖成績が低下することが、我々自身と同業者の実験により分かっている。中には精子形成の阻害が疑われる事例もあった。この精子形成不全は精巣の内分泌機能の異常に原因があると考えられる。この異常は精子産生の減少および/または異常精子の産生を引き起こす。このような障害においては、ヒト同様家畜でもゴナドトロピンによる処置が施される。処置は各動物種の精子形成期間に応じて続けられる。これまで遺伝子改変をうけた系統の繁殖を回復あるいは増加させる目的で、研究用のマウスにゴナドトロピン処置を施すことに関する知見はない。マウスの精子形成期間は約35日続く。そこで、性成熟に達したC57BL/6とBALB/cの雄マウスに、精子形成期の間ゴナドトロピン処置を施した。本研究の目的はゴナドトロピン処置が精子の数、運動性、受精能、繁殖成績の向上に寄与するか検討することである。
 ホルモン処置は雄マウスに効果を及ぼした。C57BL/6では妊娠率以外の調査項目で向上が見られた一方、BALB/cでは多くの項目で成績が下がった。この結果により、雄マウスへのゴナドトロピン処置が繁殖率および受精能に影響を与えることが示された。そしてゴナドトロピン処置の効果には遺伝的背景が明らかに影響していることがわかった。 (翻訳:林志佳)

キーワード:精子形成、繁殖成績、ゴナドトロピン、改良