麻酔関連情報

ラットにおいて麻酔薬の種類、麻酔の深さ、および体温が心循環機能のパラメーターに与える影響
(Laboratory Animals 48(1) :6-14, 2014)

 動物の鎮静は実験的研究においてしばしば必要となる。この論文は4種類の最もよくつかわれている麻酔薬が、ラットの心循環機能のパラメーターにどのように影響するかを示し、考察したものである。我々は体温が与える影響も同様に調べた。10 週齢のSprague-Dawleyラットに対して、それぞれイソフルラン、ペントバルビタール、ケタミン/キシラジン、チレタミン/ゾラゼパムによる麻酔を行った(各グループn=12)。動脈圧を継続的に測定できるよう、血圧を測定できるカテーテルを右頸動脈に留置し、また心エコー検査をおこなった。他のグループと比べ、チレタミン/ゾラゼパムのグループが示した心機能の値は有意に高かった。ペントバルビタールのグループでは、心拍数は最も高かったが、一回拍出量は最も少なかった。拡張期における左心室の径は、ペントバルビタールやチレタミン/ゾラゼパムのグループでは、イソフルランやケタミン/キシラジンのグループに比べて低かった。心室内の拡張期動脈圧は全てのグループで差がなかったが、心室内収縮期圧・収縮期動脈圧・拡張期動脈圧は、チレタミン/ゾラゼパムのグループで他のグループに比べて有位に高かった。血液動態の数値は、イソフルランやペントバルビタール、ケタミン/キシラジンの3グループでは有意な差がみられなかった。体温の低下は心拍数および心拍出量に有意な影響を与えたが、血液動態のパラメーターに明白な影響は見られなかった。結論としては、研究者のやり方により種々の麻酔薬の間で心機能のパラメーターは異なってくるものの、これらの麻酔薬すべてが実験的な心臓研究において各々の役割を果たしうる。重要なのは、他の麻酔薬に比べ、チレタミン/ゾラゼパムを用いると心機能の数値および血圧が有意に上昇するということであり、この麻酔薬処方によって鎮静されたラットから得られたデータを解釈するときには、この知見は考慮に入れるべきであろう。(翻訳:小池明人)

キーワード:麻酔、心エコー検査、血液動態、イソフルラン、ケタミン/キシラジン、ペントバルビタール、チレタミン/ゾラゼパム

 

マウスでの心エコー検査による心機能の評価に適切な麻酔薬処方:ケタミン、エトミデート、イソフルラン間での覚醒状態における比較
(Laboratory Animals 47(4) :284-90, 2013)

 人間の病気に外挿するため、遺伝的変異のあるマウスは心臓の研究に用いられている。心エコー検査は心機能および血液動態を小動物において評価するのに不可欠なツールである。この研究の目的は、心エコー検査により心機能を評価するのに適切な方法を探るため、種々の麻酔薬処方による効果と覚醒状態を比較することにある。マウスを3日間、実験の手技に慣れさせてから、覚醒状態で検査をし、その後、100㎎/kgのケタミンを腹腔内投与したあと7分間継続的に検査、あるいは10、20、30mg/kgのエトミデートを腹腔内投与したあと7分間継続的に検査、あるいは短時間の3%イソフルランによる導入ありなしの条件で1.5%イソフルランを吸入させつつ7分間継続的に検査、をそれぞれ行った。実験者内、実験者間でのばらつきを評価した。また、実験者の検査のやり易さも評価した。心エコー検査により心拍数、拡張末期の左心室径、左心室内径短縮率と心拍出量を計測した。ケタミン注射の5分および7分後と、導入ありのイソフルラン吸入3、5、7分後は良好な麻酔状態を保っており、覚醒も迅速であり、心機能に影響はなかった。しかし、覚醒状態での検査は非生理的な、興奮による心臓の活動の増大をもたらし、その他の麻酔薬は心拍数の有意な減少をもたらした。10mg/kgないし20mg/kgのエトミデートでは十分に麻酔がかからなかった。30㎎/kgのエトミデートでは良好な麻酔状態になったが、心機能に影響を与え、覚醒にかかる時間も長かった。我々の結果から、ケタミン使用、および短時間の導入を行ったうえでイソフルラン使用のほうが、導入無しのイソフルラン使用、およびエトミデート使用よりも健康なマウスの心機能を評価するうえでより適切であると考えられる。(翻訳:小池明人)

キーワード:心エコー検査、麻酔、ケタミン、イソフルラン、エトミデート、ばらつき

 

マウス吸入麻酔時におけるイソフルラン漏洩量の計測と軽減
Laboratory Animal. 42(10):371-9, 2013)

 作業者が麻酔に暴露される量を制限するための排麻酔ガス(WAG)監視手順の確立には、漏洩したWAG量を測定し、その量を削減する効率の良い除去法を決定することが必要となる。本研究で著者らはマウスにイソフルランを用いて15分間麻酔をかけたときに漏洩するWAG量を赤外分光法により測定した。彼らは麻酔導入時と麻酔維持時において、4つの異なるWAG除去条件について評価した。そのうち2つは受動的手法で、残り2つは能動的手法を用いた。作業者の近く、マウスと麻酔用マスクの隙間、室内環境の異なる3カ所のイソフルラン濃度を測定した。麻酔導入後に麻酔箱を酸素で換気し、麻酔維持時にダイアフラムシール付きの麻酔用マスクを用いて麻酔流入量を削減することでWAGの受動的除去が向上した。麻酔箱の排気装置の開口を制限し、麻酔導入後の排気を調節し、吸気口と排気口の分かれた麻酔用マスクを用いて維持麻酔を行って麻酔流入量と排気ガス吸引量をバランス良く保つことでWAGの能動的除去は向上した。さらに、個人薬量計を用いて測定したイソフルランのWAG量の時間加重平均値は、赤外分光法を用いてその場で計測した値と相関していた。こうした知見はWAGを含む空気の質を監視するより具体的な手順を組み立てるのに貢献できる。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:マウス イソフルラン 吸入麻酔 排麻酔ガス 赤外分光法

 

雄C57BL/6での誘導型脳虚血モデルにおけるブプレノルフィンとメロキシカム鎮痛の効果
(Comparative Medicine 63(2):105-13, 2013)

 虚血脳梗塞の病理的かつ機能的な症状を調べるモデルとして、実験用マウスは極めてよく用いられる。中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルは外科的処置が必要であり、術後の疼痛やストレスを引き起こしうる。本研究で我々はブプレノルフィンとメロキシカムについて、雄のC57BL/6マウスに対して梗塞容積を変えずに痛みを取り除くのに臨床的に適切な用量を調べた。ブプレノルフィン投与を行った術後のマウスを注意して観察したが、食餌量の減少など一般的に知られているブプレノルフィンの副作用は短期間で、治療中にのみ見られた。糞中のコルチコステロン代謝は群間で特に差はなかった。本研究では、無麻酔のマウスの梗塞容積と比べてブプレノルフィン投与を行ったマウスの梗塞容積は変わらなかった。それに対してメロキシカム投与により梗塞容積は顕著に減少したため、MCAO手術中の麻酔として用いた場合混乱を招きうる。さらに、自動行動スコアシステムを用いた行動調査で、梗塞容積の増加に伴い立ち上がり行動や嗅ぎ行動が減少することがわかった。こうしたことから探索行動を調べることで、実験用マウスにおける短期間の脳卒中関連行動の欠如という新しい指標を開発する手助けとなり得ることが示唆された。 (翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:マウス、脳虚血、中大脳動脈閉塞、ブプレノルフィン、メロキシカム、探索行動

 

雌マウスを単体飼育したときの手術後の行動と回復への影響
Laboratory Aminals 46(4): 325-334, 2012

 実験用のマウスを単体飼育すると術後のストレスに対してより弱くなり回復が妨げられるかもしれない。術後の回復に対して飼育状況が与える影響を検討するために、鎮痛剤有り/無しにおける麻酔下での開腹手術を実施、麻酔のみを実施、あるいは無処置とした雌のC57BL/6マウスを用意し、その後単体あるいはペアで飼育した。処置後、痛みと全身の機能障害の評価は、非侵襲的方法での観察により行った。外見や姿勢の異常は観察されなかったが、飼育ケージ内での行動に明らかな影響があった。判別分析を用いると、主に自分で毛繕いをする時間、自発運動する時間、ケージの格子に登る時間、休む回数は実験群間で明確に分かれることがわかった。行動の周期性はなくなり、巣作り、ケージの格子に登る動作、潜伏試験用の器具を掘る動作という健康的な行動をとる時間は減少した。腹部をケージの底に押し当てるような痛みを示す動作は増加した。ほとんどの動作は処置によって変化具合が違った。例えば、潜伏試験用の器具を掘って隠れている時間は、麻酔のみを施した群及び鎮痛して手術を行った群では中程度で、鎮痛せず手術した群では明らかに長かった。鎮痛せず手術をした後に単体飼育したマウスは潜伏試験用の器具をほとんど掘らなくなったが、2匹で飼育するとより良く回復することが示唆される。無処置群と同居マウス間で見られた行動の重要な要素(64%)であり直接的な社会的手助けの指標となりうる個体間のやりとりは、実験群と同居マウス間ではほとんど見られなかった (0.3-0.5%)。麻酔と手術は行動に明らかな変化を及ぼしたが飼育形態はあまり影響しなかった。ゆえに、2匹で飼育するとよりよく回復する傾向がある一方で、我々は単体飼育によるはっきりした悪影響を見いだせなかった。結論として、集団飼育は雌のマウスにとって常に好ましいが、軽度の外科手術を行った直後の飼育形態はどちらでも良いと言える。 (翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード: マウス、術後の回復、行動、単体飼育、洗練

 

ラットの術後のマルチモーダル鎮痛を行う際の体重と食餌摂取量の増加以外の副作用を最小化する最適ブプレノルフィン投与間隔
Laboratory Aminals 46(4): 287-292, 2012

 ブプレノルフィンは主に術後の鎮痛治療(の一部)に用いられるが、異食行動のような副作用を用量依存的に伴う。作用持続時間は6時間から12時間の間であると言われており、最適投与間隔について厳密な合意はない。本研究では、ラットにマルチモーダル鎮痛方法として(非ステロイド抗炎症薬とともに)ブプレノルフィンを8時間毎(1日3回)あるいは12時間毎(1日2回)に投与し、食餌摂取量、体重、副作用(異食行動を示唆するプラスチックのペトリ皿をかじる行動及び成長率)について比較した。実験中、1日2回投与群は体重がより多く減少することも食餌消費量がより少なくなることもなく、両群の食餌摂取量と体重増加量に差は見られなかった。1日3回投与群ではプラスチックをたくさんかじるといった重度の副作用が見られた。ブプレノルフィン使用時は鎮痛効果と副作用を慎重に評価することが勧められる。副作用が現れた場合、ブプレノルフィンの投与間隔を開けるよう検討するべきである。本研究により、マルチモーダル鎮痛時にブプレノルフィンの投与間隔を開けることで、体重と食餌摂取量の増加以外の副作用を減らすことができるということがわかった。両群の鎮痛効果は同様であると示唆されるが、鎮痛効果を持つ投与間隔の影響を評価するために、痛みと関連する計測可能な指標を含めたさらなる研究が求められる。 (翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:ラット、ブプレノルフィン、体重、投与間隔、異食

 

ラットへのイソフルラン‐デクスメデトミジン麻酔法において、デクスメデトミジンの麻酔前からの慢性処置によりイソフルランの最小肺胞濃度減小効果は促進される
Laboratory animals 46(3): 215-219, 2012

 選択的α2-アドレナリン受容体アゴニストであるデクスメデトミジンの作用に対して寛容化されたラットにおいては、ハロタンの最小肺胞濃度(MAC)減小効果は認められない。ハロタンとイソフルランは異なる部位に作用して動物の不動化をもたらすということが知られている。著者らは低濃度デクスメデトミジン慢性投与処置後のラットにおいて、デクスメデトミジン処置によるハロタンおよびイソフルランのMAC減少効果に違いがあるかどうかを検討した。Wisterラット雌24匹を無作為に6匹ずつ4群に分けた。ハロタンあるいはイソフルランのMACを決定する前に、2群(DEX処置群)に5日間デクスメデトミジン10µg/kgを腹腔内に投与し、もう2群(対照群)に5日間生理食塩水を腹腔内に投与した。DEX処置群及び対照群の6匹ずつにハロタンを、残りの6匹にイソフルランを導入した。デクスメデトミジン30µg/kgを腹腔内投与する直前及びその30分後に、ハロタンあるいはイソフルランのMACをテールクランプ刺激の反応と肺胞中気体サンプルから決定した。デクスメデトミジンを慢性的に投与されたラットにおけるデクスメデトミジンの急性投与によるMAC減少効果は、ハロタン導入時には対照群と同様であった。しかしながら、イソフルラン導入時では同様の処置によってMAC減少効果の亢進が見られた。デクスメデトミジン慢性投与処置のラットにおいて、デクスメデトミジン急性投与条件下におけるイソフルラン導入時のMAC減少効果はハロタンの場合と異なり促進した。 (翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:イソフルラン、ハロタン、デクスメデトミジン、α2-アドレナリン受容体、最小肺胞濃度(MAC)