動物福祉関連情報

若齢マウスと成熟マウスに対する洗練された反復採血法の妥当性の検証
(Laboratory Animals 47(4) :316-9, 2013)

 実験動物からの反復採血はある種の実験計画によっては好ましく、また研究に使用する動物数を減らすためにも望ましい。血液試料を生化学的に解析するためにはごく少量(一般的に20-40uL)のみ採血すればよい。若齢個体では動物の血液が少量であるため、採材量はごく微量である必要もある。さらに、行動学的研究のためには麻酔や侵襲性のある留置カニューレを必要としない方が望ましい。我々は若齢個体と成熟個体に対する外側尾静脈からの洗練された尾部切開法による反復採血(24時間間隔で3回まで)の妥当性を検証したので報告する。ストレスホルモンであるコルチコステロンは低い基礎レベル値であったことから評価すると、本方法はストレスを殆ど与えていない。反復採血法は同じ個体から複数のタイムポイントで採材できるため、最終サンプル採取のために実験群のサイズを増やす必要がない。ゆえに、本方法は尾を温める必要がなく、麻酔を必要とせず、軽度の拘束のみを要する洗練された方法であることに加えて、実験に用いるマウスの数を減らすこともできる。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード :齧歯類、ストレス、採血法、コルチコステロン、尾静脈

 

遺伝子改変げっ歯類のジェノタイピング法の洗練化のためのFELASAガイドライン
欧州実験動物学会連合(FELASA)のワーキンググループによるレポート

(Laboratory Animals 47(3) :134-145, 2013)

 研究モデルとしての遺伝子改変(GM)動物の使用は増え続けている。マウスゲノムの解読が完了したことと、胚性幹(ES)細胞でマウスの全ゲノムに渡っての変異導入を行う国際的な高処理の取り組み(www.knockoutmouse.org)により、研究モデルとしての変異マウス系統がより効率的に得られるようになった。利用可能な変異マウス系統およびその掛け合わせの増加と、そして使用される導入変異方法の複雑さが増したことに伴い、マウス系統情報と、ジェノタイピングに使用される確実で信頼できる方法についての情報を提供するガイドラインの必要性が高まっている。しかし、それには実験動物に与える苦痛が最小限である方法が盛り込まれていなければならない。したがって、我々は遺伝子型情報を得るために現在利用可能となっている方法をまとめた記録を編集した。個体識別、DNAサンプリングやジェノタイピング、全ての変異げっ歯類の系統の維持や配布のために必要な情報に関する最新のガイドラインを提供したい。
 GMげっ歯類の系統数と複雑さの増加は、それに対応して、その系統の作出、維持や使用に必要な手技の数と複雑さを増大させることとなった。偶然にもそれは、効率と動物福祉の点からそれらの手技の洗練化を目指した研究を増やすことにもなった。しかし、一方で不運なことに、たとえそれが動物福祉の観点からも、ましてや成功の点からも最適とは言えないようなものであっても、依然として多くの科学者が‘伝統的な’ジェノタイピング関連の手技を使い続けているのである。ここに示したガイドラインによって、我々はジェノタイピング関連手技が最新の科学的知見の下に改良され、調和し、現在の動物実験の状況に沿うようにしつつ、更に3Rsの概念が盛り込まれること目指している。我々は、今回推奨している提案により、科学的成果の向上および時間と資源の節約と同時に、よりよい動物福祉へと導けるものと信じている。(翻訳:杉浦由季)

キーワード :ジェノタイピング、飼育、PCR、洗練化、サンプリング

 

放射線を全身照射したマウスに対する観察に基づいた予測的エンドポイントの基準
(Comparative Medicine. 63(4):313-22, 2013)

マウスに放射線を全身照射するのはよく使われる実験手技である。しかしながら、人道的エンドポイントは未だに明確に定められていない。こうした現状の結果、様々なエンドポイントが統一されずに用いられており、死をエンドポイントとするものも含む。この問題を解決するために、我々は放射線を全身照射したマウスをケージ側方から観察することに基づいた評価方法の洗練を行った。雌雄それぞれのC57BL/6マウス(8週齢)に1から3容の放射線を2つの異なる線源から照射し、臨床症状の進行具合を観察した。全てのマウスはケージ側方から観察して、体の姿勢、目の状態、活動具合をそれぞれ0から3点で個々に評価した。観察した総合点に遡及的解析を用いて、総合点が7点以上だと死ぬ可能性が急激に高くなるということと、観察者間で評価に差がなかったということが分かった。この評価方法は、マウスに放射線を全身照射する実験のエンドポイントの基準をより洗練し、最終的には動物福祉の向上につながるだろう。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:マウス、放射線、全身照射、エンドポイント、洗練

 

雄CD1マウスの群飼:毒性試験からの考察
(Laboratory Animals 47 (2) : 127-129, 2013)

 生来の攻撃行動のため、毒性試験において雄マウスは多くの場合単飼される。しかし、いくつかの論文において群飼によりマウス間の正常な社会行動と相互関係が形成されると提唱されている。実験洗練に関する本研究の目的は毒性試験における群飼を推進することにある。性成熟前の群編成、新しいケージへの使用済み床敷きの導入、外部環境変化の防止のような鍵となる要素を含む、長期毒性試験における雄CD1マウスの群飼に関する取り扱い方法をスェーデンのアストラゼネカ社の安全性評価部門で確立した。毒性試験における種々の取り扱い方法実施による群飼した雄マウス間の攻撃闘争反応への影響に対する観察記録からは、採血または採尿のため一時的に群からマウスを除くことは個体群動態に影響を及ぼさないことが示された。一方、交配のため一時的にマウスを除き、後に元の群に戻すと攻撃闘争反応がみられた。試験化合物投与によりマウスの全身状態は影響を受け、社会的階層が変化する可能性がある。このような場合には攻撃闘争行動がみられうるため、マウスを単飼する必要がある。本実験からは、長期毒性試験において雄マウスの群飼は単飼よりも取り扱いがさらに容易になることが明確に示唆された。 (翻訳:中山雅尭)

キーワード:攻撃闘争反応、飼育方法、3R、洗練、毒性試験、動物倫理、動物福祉

 

高塩分、高脂肪分、高糖分飼料によるユカタン系ミニブタの血圧への影響:テレメトリー測定系を用いた意識下、非拘束状態下での評価
Comparative Medicine 62(4): 282-290, 2012

 ユカタン系ミニブタの成体に対して飼料による血圧上昇効果の評価をラジオテレメトリーを用いて行った。通常飼料あるいは北米型の食事に典型的な高塩分、高脂肪分、高糖分(HSFS)飼料を与えた9あるいは11ヶ月齢のユカタン系ミニブタの収縮期血圧(SAP)、拡張期血圧(DAP)、心拍数、自発運動量を評価した。通常飼料を与えたブタのSAPは132±3mmHgであったのに対して、HSFS飼料を与えたブタでは156±6mmHgと顕著に上昇したが、通常飼料群のDAPは92±2mmHgであったのに対して、HSFS飼料群では99±5mmHgと変化しなかった。さらに、全頭のブタにおいて飼料中塩量の短期間の変化に対して、各種血圧値が6%から7%上昇したことから飼料中塩量の増加にわずかながら感受性が認められた。これらのデータからは、HSFS飼料のブタにおけるSAPの増加は大きく、飼料中に含まれるNaCl量のみでは説明できなかった。また、HSFS飼料給餌による血管内皮機能障害の所見は観察されず、実際ブラジキニンによる摘出冠状動脈の弛緩反応はHSFS群で対照群と同等以上の弛緩反応が観察された。結論として、HSFS飼料を慢性的に与えたユカタン系ミニブタモデルでは、DAPの増加は見られなかったが、SAP及び脈圧は、飼料中に多く含まれる脂肪分、糖分、あるいはその両方に影響されたと推察される。(翻訳:五十嵐哲郎)

キーワード:ユカタン系ミニブタ、テレメトリー血圧測定、高塩分、高脂肪分、高糖分

 

アカゲザル(Macaca mulatta) 研究用コロニーにおける慢性貧血および鉄補給の効果
Comparative Medicine 62(2): 137-141, 2012

 神経科学研究に用いられていたアカゲザル群において、定期検査によりヘマトクリット(Hct)値が30%未満である慢性貧血を呈する個体が見つかった。 4頭の貧血アカゲザル群(Hct: 24.8%±3.4%)と10頭の正常対照群 (Hct: 39.6%±2.9%)に対し血液学的検査を行ない、その貧血症状の特徴を明らかにし、原因を推測した。両群ともに数頭のアカゲザルにおいて頭部へのインプラント埋め込み手術歴があった。診断検査は全血球算定、骨髄評価、血中鉄指標(血清鉄/フェリチン濃度、総鉄結合能)、血清エリスロポエチン及びヘプチジン濃度を計測した。貧血アカゲザル群では、血清中の鉄及びフェリチン濃度はそれぞれ15.8±11.1μg/dL、103.8±23.8ng/dL であるのに対して、対照群ではそれぞれ109.8±23.8μg/dL、88.5±41.9ng/dLであった。エリスロポエチン濃度は貧血群では16.2から100mU/mL以上と高値であるのに対して、対照群では0から1.3mU/mLであった。ヘプシジン濃度は両群間で有意差が認められなかった。貧血群では血清鉄濃度の低下、エリスロポエチン過剰が認められ、ヘプシジン濃度は正常であったことから、鉄欠乏性貧血あるいは慢性疾患と鉄欠乏とが複合した貧血病態が考えられた。これらの所見・診断に基づいて鉄デキストランを1週間間隔で計4回投与した。鉄デキストラン治療後のアカゲザル群ではHct値が36.3%±6.8%、血清鉄濃度は94.0±41.9μg/dLまで上昇し、エリスロポエチン濃度は0.15から0.55mU/mLの範囲にまで減少した。治療後12カ月間のHct値はアカゲザル個体ごとに変動が認められ、その変動は各個体が示す臨床症状を反映していた。 (翻訳:五十嵐 哲郎)

キーワード:鉄欠乏性貧血、慢性疾患性貧血、アカゲザル、鉄補給

 

老齢近交系マウスの死期および安楽死のタイミングを鋭敏に予測するための指標
Comparative Medicine 62(3): 172-178 , 2012

 本稿の目的は、老齢近交系マウスの自然死を確実に予測できるようにする客観的基準を設定することである。我々は、リンパ腫の発生により比較的若齢で死亡するAKR/Jマウス雌雄個体を評価し、また雄のC57BL/6JとBALB/cByJマウスも同様に評価した。体温を随時計測できるようにマウス皮下に個体識別チップを植え込み、自然死が起こるあるいは人道的な理由で安楽死を施すまで毎週体温かつ体重を計測した。AKR/Jマウスでは体温低下および体重減少が死亡する4週間前から確認され、それらの症状は自然死に至るまでの期間で次第に重篤化した。一方で、C57BL/6JとBALB/cByJマウスでは体温低下及び体重減少がAKR/Jマウスよりも早期に開始し、死亡するまでの長期間緩やかな減少が継続していたが、死亡2週間前に相対的に急激な体温の低下が見られた。体温と体重の積値に関して、健常時(=衰弱前)老齢マウスでの値を基準に百分率として評価したところ、、3系統全てにおいてこの複合スコアは上記測定値と同様に自然死の予測に有用であった。個々の測定値や複合スコアの減少が現れた際には、より詳細な観察を行ない、場合によってはマウスに安楽死を施す必要があるだろう。臨床スコアの減少や死期直前の有効なマーカーの利用は、エンドポイントの適用を可能にすることで動物の末期的苦痛を軽減でき、寿命や生存データに大きな影響を与えず、適時の生体サンプル採取が可能となるだろう。(翻訳:南川 真有香)

キーワード:老齢近交系マウス、低体温、体重減少、自然死、マーカー

 

群飼育雌マウスにおける木製床敷き形状に関する嗜好性
Laboratory Animals 46(2): 95-100, 2012

 実験用マウスの飼育において床敷きは健康、生理、行動(動物福祉の見地から欠かせないと考えられる)等の様々な指標に影響を与える。個別飼育マウスにおける床敷きの嗜好性に関する研究はあるものの、群飼育マウスに関する同様な研究については報告がない。本研究の目的は群飼育されているマウスが好む木製床敷き形状を明らかにすることである。2つのマウス系統(C57BL6/JOlaHsd、BALB/cOlaHsd、8週齢雌、各54匹)を3群に分けて飼育し、2種類の異なる形状の床敷きを敷き詰めたケージ間を1週間自由に移動することができるようにした。削りくず状床敷きに対して3種類のサイズ(細粒/中粒/粗粒)の木製チップ床敷きを組合せた3試験を各マウス系統において行なった。この嗜好性テストには2つのMakrolonタイプIILケージを透明アクリル樹脂製のトンネルで接続した2ケージシステムを用いた。このシステムにより各動物の正確な移動時間と移動方向が検出できる。これらのデータに基づき、各ケージでの滞在時間を床敷き嗜好性指標として統計学的に分析した。3試験の組合せの結果、削りくず状床敷きに対して高い嗜好性が認められた。平均するとマウスは滞在時間の70%を削りくず状床敷きで過ごしていた。この嗜好性は明期において最も顕著でありC57BL6/Jマウスで強く見られた。床敷きの構造の嗜好性に関する相対的順位は削りくず状>>粗粒チップ>中粒チップ=細粒チップとなった。これらの結果から、削りくず状床敷きは実験用マウスへの使用に推奨される一方で細粒チップ床敷きの使用は避けるべきであると言える。(翻訳:中山 雅尭)

キーワード:マウス、嗜好、床敷き形状、飼育方式の洗練

 

標準的固形飼料と合成飼料を制限給餌または自由給餌させた際の雌Wisterラットの体重、成長、生理指標に関する変動の評価
Laboratory Animals 46(2): 101-107, 2012

 標準的固形飼料の自由給餌は実験用げっ歯類への給餌方法として最も用いられる方法である。しかし、自由給餌下の飼育では制限給餌に比べ、動物の寿命が短く、健康状態の悪化を招くことが知られている。制限給餌下の飼育では、摂取カロリーの制限により多くの健康問題が予防され、寿命が伸び、また群の均一性が高められ、結果として実験に必要な動物数の削減につながる。いわゆる“標準的”な飼料は天然由来原料を用いており、成分組成がばらつきやすいことが知られている。合成飼料は精製原料を用いることから、より均質な成分組成を示し、給餌制限と同様に群の均一性に寄与し、統計学的有意差を得るのに必要な動物数を減少させるかもしれない。本研究では、成長期の雌Wistarラットを市販の標準固形飼料と合成飼料を用い、自由給餌または制限給餌(25%カロリー制限)の条件下で61日間にわたり飼育した際の、ラットの体重、成長、各種血液指標、臓器重量に及ぼす影響を比較した。給餌制限飼育群では自由給餌に比べて成長の遅延が認められ、体重値と成長における個体間のばらつきが有意に減少した。自由給餌下では標準固形飼料より合成飼料を与えた群の方が体重増量は有意に高かった。この効果は制限給餌によっても同様であった。血液指標と臓器重量は飼料の種類、給餌方法のいずれの影響も受けなかった。自由給餌より制限給餌、標準固形飼料より合成飼料を与えたラット群で、個体間のばらつきがより減少し均一性が高まった。本研究により制限給餌は自由給餌に比べて体重値および成長率のばらつきが減少することが示されたことより、制限給餌の適用により必要動物数削減の可能性が示唆された。(翻訳:中山 雅尭)

キーワード:食事制限、食事種類、ばらつき、削減

 

肥満マウスにおいて運動療法が体重減少と単球に与える影響
Comparative Medicine 62 (1): 21-26, 2012

 肥満は自然免疫の機能障害を引き起こし、疾患リスクを増加させる。肥満に対する最も効果的な治療法はカロリー制限と運動の組み合わせによる体重減少である。我々は食餌誘導性肥満モデルマウスへの減量治療として、強制または自発運動の効果を比較し、さらに体重減少による血中単球数と、単球細胞表面におけるToll-like receptor (TLR) 2、TLR4、CD80およびCD86の発現量の変化を評価した。高脂肪食で12カ月間飼育し肥満状態とした雄CD1(ICR)マウスを、ランニングホイールによる自発運動群、トレッドミルによる強制運動群、そして非運動群に割り当て(各群6匹)減量試験を行なった。また低脂肪食で同期間飼育後、非運動処置に供したマウスを対象群とした。減量試験中の8週間は全ての群に低脂肪食を給餌した。試験開始前および4、8週間後に伏在静脈から部分採血し、フローサイトメトリーにより血液中の単球数とその細胞表面受容体発現量を解析した。8週間の試験終了後、自発運動および強制運動群では他の2群に比べそれぞれ36%および27%の有意な体重減少が認められた。試験期間中に自発運動マウスは強制運動マウスに比べ4.4倍の距離を走った。自発運動マウスは対象群および強制運動群に比べ血中単球数が多かった。自発運動群の試験終了時におけるTLR2、4、CD86の細胞表面発現量は開始前に比べ、それぞれ22%、33%、18%低下した。4週間後の自発運動群のCD80 の発現量は非運動群に比べ42%高かった。本研究により、短期間の運動および低脂肪食の摂取は有意な体重減少と免疫細胞の表面受容体プロファイルに変化を与えることが分かった。(翻訳:近藤 泰介)

キーワード:肥満治療、体重減少、強制運動、自発運動、食餌誘導性肥満モデル、単球、TLR、CD80

 

建築作業に伴う騒音によるカニクイザル(Macaca fascicularis)の生理学的及び行動学的ストレス反応
Laboratory Animals 46(1): 51-58, 2012

 本実験の目的は、将来動物施設の直下にトンネルを建造するための下調べとして、非人類霊長類施設において環境騒音(生の、あるいは録音したダイナマイトの爆発音)が及ぼす行動学的及び生理学的反応を評価することである。20頭の雌カニクイザルを用いたパイロット研究では、1日間試験的に爆発音を聞かせることで、糞中コルチゾール及び免疫反応性コルチゾール代謝産物(CICM)の増加が観察された。また、カニクイザルは垂直に飛び上がり、鳴き声を発するといった行動をとった。フォローアップ研究では、16頭のカニクイザルに録音した爆発音を10日間聞かせた影響を行動とCICMで評価した。後者の研究では半数のカニクイザルに条件付き刺激を用いて、あらかじめ合図を送ることにした。対照群ではCICMの変化が認められたものの、合図を送った群では騒音による大きな影響がないということが判明した。行動に関しては2群間で大きな変化は認められなかった。調査の結果から、警告の合図を条件付き刺激として行うことで、トンネル工事の間に予定されていた生物医学的研究の延期を行わないことにした。(翻訳:五十嵐 哲郎)

キーワード:建築騒音、霊長類、予測性、洗練、カニクイザル

 

C57BL/6マウスに全身照射した際のエンドポイントの洗練
Comparative Medicine 63(1):22-28, 2013

 急性放射線症候群は多数の人が罹患する可能性のある重篤な疾患である。この疾患に対して数々の動物モデルがあるが、放射線を全身照射したマウスが予防、緩和、治療の候補薬の薬効を評価するのに重要なモデルとして用いられている。このモデルは広く使われているにもかかわらず、人道的エンドポイントが明確に定められていない。この問題を解決するために、我々は急性放射線症候群による臨床症状の進行具合を特に評価できるような、ケージ側面から被照射マウスを観察する方法を開発した。オスのC57BL/6マウス(n=175 ; 8,9週齢)に予想されるLD50の放射線を暴露し、30日間急性放射線症候群による臨床症状の進行具合を観察した。全てのマウスを個々にケージ側面から観察して体の姿勢、眼の状態、活動具合をそれぞれ0から3点で評価した。評価データに遡及的解析を用いることで、累積点(0から9点)が増加していくことを利用して、死を的確に予測可能であることが示唆された。最終日の合計点が6点、7点、8点、9点の場合、死亡率はそれぞれ78.6%、86.4%、93.3%、100%であった。さらに、合計点が6点、7点、8点の場合それぞれ3日、1.5日、0.5日以内に死ぬと予測された。この評価方法を用いることで、研究者及び機関内動物実験委員会は被照射マウスに対して人道的な代替エンドポイントを設けることができる。この方法を用いると、マウスが瀕死になる前に先んじて安楽死を施すことが可能となり、結果として急性放射線症候群による身体的精神的苦痛を最小限にして動物福祉の向上につなげることができる。 (翻訳:五十嵐 哲郎)

キーワード:マウス、安楽死、エンドポイント、洗練、全身照射、急性放射線症候群