手記: 小林 敦子
もう2001年もあと数日になりました。 12月11日に獣医学生を対象として開 いた集まりにご協力、ご支援くださってありがとうございました。
当日は予想に反し、55名の学生(麻布、日大、東京農工大、日獣、クインズランド大)と開業獣医師、大学の教授、その他獣医臨床教育に関心を寄せてくださった方々1
4名が来て下さり、15畳と脇にある4畳半では入りきれない盛況となりました。
まず、カリフォルニア大学の獣医眼科教授でもあり、動物の権利の為の獣医師会(AVAR)会長でもあるDr.Buyukmihci がアメリカの獣医学校での臨床実習の概略を説明してくださいました。
最低3−4年間、主に理科系の単位を取得した大学生が入って来る獣医学校では、1−2年生は獣医学の基礎科目を学び、その実習には従来どおりの動物使用方法で勉強する以外に、希望者は教育の質を落とすことなく、動物を犠牲にしない代替法で学べること。例えば、解剖学では自然死や末期的癌などの理由で安楽死を受けた動物を使う。生理学、薬理学、毒性学などでは、動物を使う代わりに、各種臓器を擬態してに特別に作られたモデルやコンピューター・シュミレーションで、また実際に起きた中毒症のヴィデオテープを見るなどをする。
3年生では主に内科や外科の勉強をするが、外科実習の代替法は3段階に渡ってなされる。
1) モデル・シュミレーションを使って注入、切開や縫合などを習熟できるようになるまで繰り返す。
2) 死体を使って、外科解剖の知識技術を徹底的に学び、また組織の取り扱いや切開、縫合などの練習を繰り返す。
3) 動物保護施設などから健康な犬猫を預かり、術前検査、不妊手術をし、術後管理を終えたら返す。これはもらい手がより探しやすくなり、将来の捨て犬捨て猫の防止にもつながるプロラムである。3)は1)、2)段階ではできなかった、麻酔の実習、生体組織の取り扱いができるだけでなく、術後の動物の世話もできる。メスの不妊手術が上手に自信をもって出来るように成れば、外科手術に必要な基本的技術が身き、脾臓や腎臓の摘出、腸の吻合手術などを3年生で一度だけ練習しなくとも、将来必要に応じてそれらのまたはそれ以外の手術が出来ている報告がある。4年生になると、グループに分かれ、大学病院の各部を順番に回っての実習が毎日で、学生が来院する動物の責任をもって問診、身体検査をし、診断に必要と思うその他の検査を提案、担当教授と相談する。それらの結果に基づいて下した診断から治療の案を立て、教授との討議の後で治療を始める。外科では、学生に腕があり、教授が大丈夫と思う場合には、学生が教授の直接的監督のもとで、執刀することもある。
11日の会に出席した学生の多くが、例えば採血の練習と血液検査の勉強のために使用したマウスを殺すというような従来ながらの動物の利用法には疑問をいだいており、又生体での採血、注入以前にモデルで充分練習するとか、動物を犠牲にするにしてもその目的と方法を授業前に教授と学生が納得できるまで話しあうべきだと考えています。アメリカの獣医学校での授業や研究における代替法には、15−18年くらいの歴史があるそうで、初期には学生側と学校側との攻撃的とも云えるほどのやりとりがあったそうです。日本でも今後授業が教授と学生両者にとって満足のいくようになされるには、避けては通れないことだと改めて考えさせられました。来年の獣医学会ではこの問題も提示討論される予定とのことですが、学生の言い分も充分聞いていただきたいと思います。
出席した学生からの「授業と授業の間が空きすぎている。研究室の先生は忙しすぎて充分な指導がしてもらえない」、「基礎実習の授業から病院での実習まで充分な練習をして自信をつける期間がない」という意見や「日本の獣医師、獣医学についてどう思うか」と言う質問にたいし、Dr.Buyukmihci は、両国の制度は違うから(例えばアメリカでは獣医学教育は臨床医を育て為にあり、又獣医師法上学生が出来る事が多い。)一口では云えないが、Davis 校で学ぶ為に行った日本の獣医師の知識は向こうの獣医師には及ばないように感じた。これはもっぱら学生勉強する時間の長さの違いだと思うとのこと。Davis では1年から3年生までは朝8時から6時ごろまで授業がびっしりあるし、4年生は受け持っている症例によっては、朝の6時から夜中まで、週に6−7日間、如何に正しい診断を下し、適切な治療がほどこせるかを勉強しているとのこと。日本の学生が世界で通用できる獣医師になるにはDavis の学生に負けないくらいの努力が、いやそれ以上に自分で積極的に勉強しなければならないと思います。
臨床獣医師として開業し又はそこで働いているさまざまな年齢の方々約30名のご協力で得た御意見を学生に渡しましたが、それによると研究室での経験は「どの経験も現在ある自分に立っている」と言う方もおられましたが、ほとんどの臨床医にとって臨床系の部屋もふくめ、残念ながらあまり有意義な1−2年とは云えないようです。大学への要望、学生への助言について多かったものをまとめてみますと、
1)卒業後の進路には幅があるので、各分野別、専門別の授業を願う人もあり、各分野で活躍している先輩の話を聞きたかった、まはそれぞれ違った職場へ実習に行き自分が将来進む道を探すべきである。
2)長期休暇中に病院で臨床実習を是非するべきである。動物や飼い主に対しや、経営方針についていろいろな考え方の獣医師がいるのでいくつか違う病院へ行くと良い。知識と技術の習得の為ばかりでなく、動物の保護をしておられる出席者も云ったように、動物に感情を持って接し、おごらず、よく飼い主の話を聞き、説明指導をしているかも学ぶこと。大学では臨床実習の時間を増やし、実践的内容にして欲しい。
3)基礎学科を学ぶ時と臨床の授業があまりにも離れている。基礎学科の重要性に気が付かなかった。基礎と臨床を結びつけて教えて欲しい。と言う意見がとても多く、これは学校側としても考えて欲しいし、学生も国家試験の勉強をする時でも、自分で臨床問題とその背後にある基礎理論を結びつけて学ぶように心がける必要がある。
カナダのオンタリオ獣医学校では大学病院へ送られてくる珍しい、難しくて重症な症例を診る4年生になるまえの夏休みに8週間全員が一般的な開業医のもとで校外実習をすること。イギリスでは各職場での見習い制度があること。出席者の一人で薬剤師の方によるとできたカリフォルニアの臨床薬剤師の教育には教師の不足を補うため一般の薬剤師が講師となり指導にあたっているが、日本の獣医教育でももっと
臨床医を授業の講師として、又病院を実習の場として活用してもよいのではないかと の事。日本の開業医での実習にあたっては、その学生が将来その近辺で開業するので
はないかという問題の話。等などこれからも考え、討議するべき話題がでました。
私が提案した、希望の研究室に入れない場合には臨床医の下で勉強しそこでの臨床例をもとに卒論を書くことについては、大動物の臨床へ進みたいがその方面の研究室には入れなかった学生が早速、それが自分の本当にやりたいことかを確かめるため先輩に会いに行くことになりました。
以上が町田市でおこなった学生との話し合いの内容です。 これからも、学生、教授、臨床獣医師などが日本の臨床教育改善の一緒に話し合いを続けていけることを願っています。
2001年12月26日
小林敦子
atsukokobayashi@mercury.sannet.ne.jp
〒373−0827 群馬県太田市高林南町810
以下のものは、11日に学生に渡した資料です。
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1) 在籍中の所属研究室での経験。
*生物学 全ての経験が今ある自分に役立っている
*畜産学 研究の進め方について役立っている。
*解剖 さまざまな現象を生理学と関連づけて考える研究をしていたので,今も検査結果や薬の作用を生理的な面から見ようとできるのが良かった。
*実験動物 ウサギ,モルモット,ハムスターの診療に役立った。どこも良い点あり。
*生理学 生理的機能については理解しやすいがほとんど役にたっていない。・臨床に役立つ研究を希望したが,在籍校の臨床研究室は魅力がなかった。
*神経系の疾患に少し役立っている。 *役だっていない。
*生理化学 ほとんど役にたっていない。(アルバイトをする時間が欲しいため,時間的な自由のきく部屋に入った。)
*病理 生体検査,剖検,血液検査などの病理分野での診断に役立っている。
*手術中や予備検査でのスライド塗抹/自分の好きな分野の研究室に入るべき。
*基礎的な面では一部役立っている。/内科外科の部屋のほうが良かったかも。
*臨床病理学 検査について役立つ面あり。
*薬理学 薬の処方をするときに多少なりとも知識が役立っている。/内科外科に入り,臨床の現場で必要な技術,知識をもっと得たかった。
*薬理学の知識を注射,内服に生かしている。
*微生物 臨床系の部屋なら就職後,技術面で役立ったかもしれない。
*公衆衛生 環境問題への取り組み,細菌を取り扱ったことがプラスになっている。
*特に役立っていない。
*衛生の考えかた,人畜共通感染症の知識取得が役立った。
*衛生学 外部検査機関でおこなう検査などの理解がしやすい。
*外科 解剖,科学実験に近く,臨床外科には役立たなかった。自分で夏休み中におこなった開業医の下での病院実習が役立った。
*臨床の現場が見られてよかった。/ただもう少し自分の時間が欲しかった。
*大学病院での実習は経験として役立っているが,卒論の研究に関する勉強はあまり役立っていない。
*特別役に立っている事なし。/自分の時間が持てたのがよかった。
*ほとんど役に立っていない。・ 卒後臨床に即役立たなくとも,興味のある分野で(臨床系とは限らず)指導力のある先生の部屋でもっと価値ある研究がしたかった。
*放射線 何も役立っていない。学生時代に内科や外科など臨床に関連のあるゼミに入っていたらよかったと,今思う。
*臨床繁殖 ほとんど役にたっていない。・別の部屋でもかわりないのでは?
*栄養学 とくに役にたっていない。/臨床系の部屋に入り勉強したかった。
*内科学 大動物の扱い方は役立っている。各種動物について具体的に学びたかった。
2)大学への要望
* どの研究室に入ったかにより経験に差が出てしまうのは少し悲しい。
* 大学病院へ来る動物の診断,治療に基礎学の研究室も協力する体制がもっと整っていたらよかった。
* 授業が臨床と結び付けられるとよい。/基礎学も臨床と関連付けて教えてほしい。+
* もっと生体に触れる機会がほしかった。
* 将来の就職先、分野別のカリキュラムを組んで、専門的な内容の授業を望みます。
* 各分野での実習を体験でき,その後自分が進む道の実習を深く行う機会を与えて欲しい。++++
* 職業訓練的な意識を持たせる授業,その科目がどんな仕事に役立つかの説明が欲しかった。
* 獣医師の仕事の魅力ややりがいを見せて欲しかった。各職場で活躍している先輩諸先生の話を聞く機会があれば,職業をイメージし,目標をはっきりさせられたと思う。
* 教科書を読み上げるだけの授業がわりとあった。
* 教科書の内容が古いものもあった。
* 人間として,獣医師として,教師としてふさわしい人だけを教授にしてください。
* 学生に教員の授業内容,教え方についての判定をさせることで,マンネリ的教授を刺激できると思う。
* 臨床の分野が大学では手薄な分,校外の施設の利用を考えるべき。+
* 学生の数に対し動物も講師の数も少ないし,実際の臨床を知らない講師もいた。+
* もっと開業臨床医を講師に採用してもよいと思う。
* 臨床の現場で実施されている,新しい内容をもう少し講義に採用して欲しかった。
* 臨床の授業でも,もっと実践的なカリキュラムがあればよかった。+
* 小動物臨床について講義,実習ともすくなかった。
/内容をもっと充実させ,特に実践的な,現場で即必用とされる基本技術など、実習の時間を増やして欲しい。動物臨床の基礎、問診、触診、聴診なども分らなかった。
++++++
* 国家試験対策の講義だけでなく,実際の現場で役立つ講義,実習をして欲しかった。+
* スライドやプロジェクターをもっと使い視聴覚的に教えて欲しかった。
* インターネットを通じて講義の内容を公開し,復習,自習をさせる。
* 技術だけでなく,大学本来の学問の追及も忘れないで。
* 自分が学生時代には、日本の獣医学校の臨床教育が良いか悪いか分らなかった。でも,アメリカの教科書を見て驚いた。
* 特に改善して欲しい事なし。
*
* 3)在学中にするべきこと
* 長期休暇中に病院実習をして,AHTの仕事から体験する。++++++++++
* いろいろな病院で実習し,自分に合った病院をみつけ,生き方を考える。+++++
* 自分の将来が就職先の開業医の実力,経営方針に大いに影響されるので,よく調べる。
* 開業医は大学の先生と考え方,方法も違うので勉強になる・
* 獣医の各分野を見学し,生きがいを感じて働ける場をさがす。自分に合っているもの、自分の好きな分野を見つけ、他に負けないくらいがんばる。++++ ・
* 就職してからの仕事のイメージをしっかり持つ。/目的意識をしっかりと持ち,冷静さと情熱を持ち合わせた獣医師を心がける。
* 将来の自分について厳しく考える(例:どんな獣医師になりたいか)。
* 解剖、生理,病理などの基礎学は面白くないかもしれないが臨床には大切なのでしっかり学ぶ。++++
* 一つの病気について、基礎学と臨床を関連付けて勉強する。
* 云われた事だけをするのでなく、積極的に動物に触れ,観察し、生体を知る。/自分から何かを得ようとする努力を。
* 自分で犬や猫を飼う。/動物に触れる機会をつくる。(例:ペットショップ,訓練士,ブリーダー,その他)
* 内科,外科の実習をがんばる。+++
* 臨床実習で飼い主とのやり取り(問診の仕方,病気の説明など)を体験する。
* 飼い主とのコミュニケーシはとても大切であり,難しいので、人との話し方、人付き合いをうまくする。(例:サービス業でのアルバイト) +
* 人の話が聞けて,人と話ができるように努力する。
* 国際語である英語をマスターし、文献を読み、論文が書けるようにする。/英会話も。
* いろいろの獣医学会に出て,獣医師と交流を持ち,又異なる大学との交流もはかる。
* 獣医師以外の世界も知り、友人も作る。
* よく学び,よく遊ぶ。・獣医以外の事にも見識を広める。
* 体育系の部活。
* 犬猫の行動学も学ぶ。
* 獣医医療の倫理学も。
4)学生を臨床実習生として受け入れる条件
* 健康である。
* 最低限の社会常識がある。(約束,時間を守る。適切な言葉使い。礼儀正しい。) +++
* 自己責任の取れる人。
* 何か学び取ろうとする意志を態度で示してくれる人。やる気がある事。熱意。+++
* 臨床体験をしたいと自分から積極的に来る人。+++
* 困難にも忙しさにも立ち向かう努力をする人。
* 病院の設備、診療方法、経営方針などさまざまである事を悟り,その中で何かを学び取ろうとする姿勢がある。
* 能力より人間性を重視する。
* 獣医倫理学を学んでから。
* 6年生で就職活動の一環としてなら。それ以前の学生では,病院のスタッフの気が散る事が多いから。
* 事故に対する保険に加入してくる。
* 一月以上実習できるひと。
* 大学の教官と実習先の獣医師がよく連絡をとり、指導を分け合える。
* 特に条件なし。・希望する人は全て。++
* one-man practice であり,年寄りだからもっとわかい新進気鋭な先生に任せる。
* 設備があまり整っていないので学生を受け入れるのはどうかと思う。
* 受け入れ可能な人数なら。(1名。*2−5名)
* 専門病院なので,基礎的臨床教育には向いていない。
以上は,動物病院を開業している、またはそこで働いているさまざまな年齢の臨床獣医師,約30名の先生がたに答えていただいたものです。
2001年12月10日小林
参考: 獣医学教育改善ホームページ
CAP 2001年,1月、2月号
「21世紀における日本の獣医学教育」
日本獣医師会「獣医教育のあり方に関する懇談会資料」2000.12.7
獣医師広報版;獣医師フォーラム http://www.vets.ne.jp
「獣医学教育会議室発言集」1997.7.5−98.7.14
日本小動物獣医師会2000年年次大会
「獣医師の誓いを実現する為の獣医教育及び獣医療の現場における具体化
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