chemical communication哺乳類におけるケミカルコミュニケーションに関する研究
01ラットの警報フェロモン
古くから、「一度ネズミがかかったネズミ捕り器には、二度とネズミがかからない」ということは知られていましたが、長らくその理由は謎のままでした。
私たちはこの現象について、ネズミ捕り器にかかったネズミが嗅覚シグナルを使って危険を他個体に伝えていると考えました。
このような嗅覚シグナルは哺乳類にとって重要なシグナルだと考えられ、動物種によっては警報フェロモンと呼ばれています。
ラット警報フェロモンに対する解析を行った結果、このフェロモンはストレスを受けたラットの肛門周囲部から放出され、受け取ったラットの分界条床核を活性化させることで状況に応じた不安反応をもたらすことを明らかにしました。
フェロモン物質を同定しました!
危険を伝える匂いに含まれている4メチルペンタナール (4-methylpentanal) とヘキサナール (hexanal) の混合物が、それを嗅いだラットの不安を増大させるフェロモンであることを明らかにしました。
また本研究成果は、さまざまな記事にて紹介されました。
現在継続中の研究です!
フェロモン受容機構の解明
4メチルペンタナールは鋤鼻上皮で、またヘキサナールは嗅上皮で、それぞれ受容されることが示唆されています。ヘキサナールの受容体は既知である一方で、4メチルペンタナールは新規物質のためその受容体が明らかとなっていません。
現在、鋤鼻上皮に発現するV1R受容体に着目し、4メチルペンタナールの受容体を同定することを目指しています。
フェロモンの中枢メカニズム解明
鋤鼻系からの4メチルペンタナールを受容したという情報と、主嗅覚系からのヘキサナールを受容したという情報の、2つの情報が揃うことで初めて不安と関連すると考えられている分界条床核が活性化することが明らかとなっています。
現在、この2つの情報が統合されるメカニズムを検討しています。
02ラットの安寧フェロモン
多くの哺乳類では、同種の個体がそばにいるとストレスが軽減されることが知られており、社会的緩衝 (Social Buffering) と呼ばれています。
このような現象は母子やつがいをモデルとしてこれまで研究されてきましたが、ラット、ヒツジ、ウシ、サルや私たち人間では、同性の仲間の間でも同様の現象が観察されることが近年明らかになってきました。
我々はこの現象に着目し、ラットを用いて研究を進めた結果、ケミカルコミュニケーションの関与が明らかとなってきました。
すなわち、ストレスを受けていないラットはその体表から安寧フェロモンを放出し、放出されたシグナルは主嗅覚系を介してシグナルを受け取ったラットの扁桃体を抑制することで、ストレスを緩和しているのです。
フェロモン物質を同定しました!
ストレスを受けていないラットから放出される2-メチル酪酸 (2-methylbutyric acid) が、それを嗅いだラットの恐怖を緩和させるフェロモンであることを明らかにしました。
また本研究成果は、さまざまな記事にて紹介されました。
現在継続中の研究です!
安寧フェロモンの中枢作用メカニズム解明
行動神経科学的手法や電気生理学的手法を用いて、主嗅覚系で受容された安寧フェロモンが扁桃体の活性化を阻害する神経メカニズムを解析しています。
社会的緩衝の解析
動物は進化の過程で社会的緩衝を示すようになったため、他個体と一緒に過ごす時間が増え、結果として社会行動を発達させ、群れを形成するようになったと考えられます。
このような観点から、なぜラットは社会的緩衝を示すのか、社会的緩衝を引き起こす仲間とは何か、などの「大きな問い」に答えるために、in vivoとin vitroの両面からさまざまな研究を行っています。