産経新聞 平成16年2月18日記事
   くすり新世紀 30 : 動物用医薬品


専用薬増える環境づくりを   

今や大切な家族の一員である犬や猫などのペット。高齢化やストレスで、がんや糖尿病など人間と同じような病気になるペットも少なくない。

動物の病気治療のために開発された動物用医薬品の中には、人間の薬が元になっているものも多い。たとえば小型犬に多い心臓病の一種、僧帽弁閉鎖不全症の治療薬「エナカルド)」は、人間では血圧を下げる薬として使われているものだ。また、飼い主が出かけた後、室内のあちこちにおしっこをするなど問題行動をする犬の分離不安症の治療補助剤「クロミカルム」は、人間の抗うつ剤と同じ成分。ただし、人間の薬と同じ成分だからといって、素人判断でペットに人間の薬を与えるのは禁物だ。

動物用医薬品は、病気の犬や猫で治験を行い効果を確認したものだ。動物用医薬品がない病気には、人間用の薬が使われることが多い。たとえば五キロcの犬なら人間の十分の一というように、主に体重を目安に薬の量を決め投与する。実は日本でペットに使われている薬の九割は人間用の薬という。

東京大大学院・獣医薬理学教室の尾部視ウ授は「薬は主に肝臓で代謝されるが、薬を代謝するための肝臓の薬物代謝酵素の構成が、人間と動物では異なる。そのため、薬によっては、犬や猫には代謝されず体に蓄積され、過剰投与となり副作用が出ることもある。人間の十分の一の体重だから、人間の薬の十分の一の量を与えればいいというものではない。本来なら犬には犬、猫には猫で、薬の効果を確認した薬を使うべき」と指摘する。

欧米ではペットの薬の半分は動物用医薬品だ。日本で動物用医薬品が少ないのは、たとえ欧米で認可されている薬でも、日本で改めて治験を行い、農林水産省の認可を得なければならないためだ。日本での治験は、人間の薬の場合と同様、欧米に比べ時間とお金がかかる。「欧米でも日本でも、犬は犬、猫は猫。欧米で効果があると認められた薬があるのなら、日本でもそのまま使えばいいのに」と思う人は多いが、国の制度の問題だけに簡単に変えることができないのが実情だ。こうした薬をめぐる事情は、「世界的な標準薬が日本で治験が行われないため使えない」という人間の薬の事情とよく似ている。

尾赴ウ授は「基本的には動物には動物の薬を投与するべき。最近では海外の治験データが使えるようになり、動物薬の開発が少しずつ増えてはきているが、さらに動物専用の医薬品が増えるように環境を整えることが必要だ」と話している。

(平沢裕子)