東京大学大学院 農学生命科学研究科 獣医薬理学教室(堀教授)

クイック学習:筋線維芽細胞 Myofbroblast

  1. 線維芽細胞の亜種で支持細胞の1つです。新しい教科書では、筋細胞にも分類される細胞です。
  2. 全身のほとんど全ての臓器に分布し、場所によっては固有の名前が付けられています。
  3. 炎症によりαアクチンを発現するようになり、盛んな免疫応答をかねそなえた平滑筋様の細胞へと変化するのが特徴です。
  4. 創傷治癒機転、組織の線維化に関わることが最近明らかになり、注目されている細胞です。

皮膚のmyofibroblast

皮膚の創傷治癒過程で、線維芽細胞はαアクチンを発現する強い収縮能をもつ細胞へと分化します。この機転によって肉芽組織を収縮させ、傷口を小さくする働きをします。この筋線維芽細胞の分化や増殖には、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、成長因子、さらにPGやNOなど低分子の生理活性物質などの多数の要素が関与します。しかし、これらの反応が過剰におこると瘢痕やケロイドなど皮膚創傷治癒異常の発症につながるので、その治療法の開発(医薬品の開発)が模索されています。

腎臓のmyofibroblast

腎臓においては、糸球体硬化および尿細管間質線維化といった不可逆的な変化が、患者の腎機能を失わせ透析治療に追い込む重要な機構です。そこでは、メサンギウム細胞や尿細管間質細胞がαアクチンを高発現する筋線維芽細胞へとトランスフォームし、そこで過剰な細胞応答を起こし、線維化をもたらします。その治療法はまだ確立していません。


実験的腎硬化症モデル:間質にαアクチンを発現する筋線維芽細胞が見られる。

肝臓のmyofibroblast

肝臓の筋線維芽細胞は未分化間葉系細胞から分化し,器官形成期においてはコラ-ゲンを産生してマトリックスを構築する細胞で,細胞骨格にアルファアクチンを持っています。成長すると細胞形態は変化し,非活性型の肝星細胞(Hepatic Stellate Cell:HSC、伊東細胞とも呼ばれる)へと変換します。

HSCは通常,肝臓内の類洞腔に位置して類洞の構築を支持するとともに,細胞質内にはビタミンAを含む脂肪滴を持っていますが, 肝細胞傷害が起こると,αアクチンを高発現する筋線維芽細胞へと形質転換が起こって,コラ-ゲン線維産生が活発となって肝線維化がおこります。最終的には肝硬変へと進行します。

肝硬変を治療する薬も現在のところありません。


胆管結紮ラット肝硬変モデルにおけるHSCの電子顕微鏡像

HSCとPortal myofbroblast の比較表

  in vitro  (rat) in vivo  (rat, CCl4 model)
  HSC Portal fibroblast HSC Portal fibroblast
Marker quiescent activated quiescent activated normal
(Disse腔内)
cirrhotic
(Disse腔内,septumとparenchymaの境界領域)
normal
(portal vein及びcentral vein周辺)
cirrhotic
(septum全域)
vitamin A +++ - - -        
vimentin ± +++ +++ +++ +++ +++ +++
desmin ± +++ +++ +++ +++ ++
GFAP +++ ± - -〜± +++ - -〜±
α-SMA - ++ +++ +++ - ++ +++ +++
VCAM-1 +++ +++ - - ++ ++ - -〜±
NCAM - +++ - ++ +++
fibulin-2 - - +++ +++ -〜± -〜± +++ +++
P100 +++ +++ - -        
α2-macroglobulin - +++ - -        
IL-6 - - +++ +++        
CD95L - +++ - -        

 

各種肝硬変モデルの特徴

  線維化に要する期間 線維化の程度 肝実質細胞への影響 線維化のメカニズム
胆管結紮(BDL) 3〜4週で線維化
8週でピーク(肝硬変症)
+++(極めて重度) 広範囲に死滅する
(ALT値;200前後)
胆汁うっ滞による肝細胞損傷
ブタ血清(PS) 6週で線維化
8週でピーク
+(軽度,可逆的?) ほとんどない
(ALT値:80以下)
異種血清に対する免疫応答
四塩化炭素(CCl4) 4〜6週で線維化
8〜12週で肝硬変症
+++(重度) 損傷が見られる フリーラジカル代謝物による膜障害
メチオニン-コリン欠乏食(MCDD) 2週で脂肪滴の蓄積
8〜12週で炎症
12〜16週で線維化
++(中程度,
大量の脂肪滴が見られる)
わずかに損傷が見られる
(ALT値:100前後)
抗酸化酵素の活性低下による酸化ストレスの増大
ジメチルニトロソアミン(DMN) 2〜3週で線維化
4週でピーク
(後に肝癌へと進行する)
++(中程度) 損傷が見られる
(ALT値は,ラットの種類によって差が見られる.Wistar ratはSD ratに比べて重症になりやすい.)
核酸等の生体高分子のメチル化による肝細胞損傷
concanavalin A (Con A)
(
注:ラットでは実験例が少ない)
投与後12〜24hで急性肝炎の症状
10〜20週で線維化
+〜++(?) 急性期にはアポトーシス・ネクローシスによる細胞死が起こるが,慢性期では肝細胞の損傷は見られなくなる 肝内T細胞の刺激による免疫応答
(急性期:TNF-α・IFN-γ,
慢性期:IL-10)

消化管のmyofibroblast

消化管粘膜上皮下の部分に、毛細血管網に被さるように筋線維芽細胞が分布しています。炎症に伴って増殖し、粘膜固有層にも見られるようになります。クローン病や種々の慢性腸病変の線維化に関わるとされ、腸管閉塞の原因となることがあります。他の臓器にみられる筋線維芽細胞と同じように、サイトカインやケモカイン産生能を有しています。

筋線維芽細胞が産生するサイトカイン、成長因子

Myofibroblastは、活性化すると様々なサイトカイン、ケモカイン、成長因子、炎症性メディエーターを産生分泌します。

サイトカイン ケモカイン 成長因子 炎症メディエーター
IL-1
IL-6
TNF-a
IL-10
IL-8
MCP-1
GRO-1a
MIP-1a
MIP-2
RANTES
ENA-78
TGF-b
CSF-1
PDGF-AA
PDGF-BB
bFGF
IGF-1
NGF
KGF
HGF
SCF
PGE2
PGI2
HETEs
PAF
NO
CO
ROS

筋線維芽細胞の受容体

Myofibroblastは同時に、炎症応答細胞であり、様々な受容体を発現して活発に活動します。

サイトカイン 成長因子 炎症メディエーター 神経伝達物質ほか 接着因子
IL-1
IL-1Ra
TNF-a
IL-6R
IL-8R
IL-4R
IL-11R
TGF-a/EGFR
TGF-b RI and RII
PDGF-a
PDGF-b
c-kit
aFGF and   
bFGF R
IGF-IR
FGFR-II
PGsR
HETEsR
ACh
Histamine
5HT
Bradykinin
ETA and ETB
ANP
AT-1
ICAM-1
VCAM-1
NCAM
a,b integrin
CD18