外界と直接向き合う消化管とこれに直結する肝臓には高度の免疫機構が備わっていますが、最近これらの臓器が連携して生体防御に当たると考えられるようになり、腸肝軸(Gut-Liver Axis)と呼ばれて注目されています。従来のこの領域における免疫学研究では、免疫担当細胞そのものの働きに関心が寄せられていました。しかし、炎症等の刺激により、腸肝軸に圧倒的な細胞容積でしかも連続的に配置されている間葉系細胞がどの様に変化するのか、特に免疫担当細胞とどの様に相互作用するのかは明らかにされていません。
本研究では、「間葉系細胞群は免疫細胞群に物理的な場を提供するだけではなく免疫細胞の活性維持のための重要な環境をも提供し、自らも生体防御機構に積極的に関わっている」との仮説を立て、腸肝軸に展開する免疫機構の解明に取り組みます。
具体的に証明しようとする事項は以下の3段階の反応原理です。
第1段階:炎症に伴いマクロファージ、樹状細胞、肥満細胞などが活性化し、サイトカイン・ケモカインを産生分泌して初期炎症が成立する。
第2段階:これを起点に、消化管壁の構成細胞である平滑筋細胞、筋線維芽細胞、血管内皮細胞、カハール介在細胞などの間葉系細胞群にフェノタイプ変換が生じ、免疫能や細胞間マトリックス産生能を獲得しながら、共通の未分化な細胞へと収斂する(間葉系細胞の収斂ポケット)。これらの細胞はどの様な情報伝達系を持ち、炎症に寄与するのか?
第3段階):これらの間葉系細胞群は大量のサイトカイン・ケモカインを産生分泌するが、それらは免疫担当細胞に対しても働いて強い支持基盤を提供する。
この様なプロセスを経て本格的な炎症が成立し、過剰に反応すれば消化器機能が障害されるという仮説です。独創性が高くまた社会的にも意義ある研究として申請し、平成20年度の基盤研究Sとして採択されました。
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