皆様

本日午前中に開催された文科省協議会において、下記のような座長たたき台が示され、議論が行われました。私としては、教育改善の到達点とタイムテーブルを示して欲しい旨発言をしまし、多くの賛成意見がありましたが、それについてはまだ協議会として合意に達していないという意見があり、それなら引き続き協議会において検討すべきとの意見がありました。この議論は今月末に再度開催される予定の協議会において続けられるものと思います。

前回議事要旨とあわせて教育改善HPに掲載します。

ぜひご意見をお寄せください。

唐木 2003.03.18


国立大学における獣医学教育の充実方策について(協議の概要)(たたき台)

1.はじめに

○今日、国民の食生活における畜産物の消費の増大や伴侶動物の飼育種類の多様化、先端科学技術の進展等による家畜改良技術や獣医療診断技術等の高度化、さらには国際社会の進展等に伴う家畜感染症の予防の重要性の高まりなど、獣医学を取り巻く状況は複雑化・高度化しており、獣医学教育研究を担う大学の果たすべき役割はますます大きくなってきている。

○特に、多額の国費により運営される国立大学の獣医学科にあっては、これらの期待に十分に応えていく上で、獣医学教育の充実が重要な課題となっている。

○本協議会は、このような社会的要請を踏まえ、より充実した獣医学教育の展開を図るため、国立大学における獣医学教育の具体的な充実方策について協議を行ってきた。

○平成15年2月に第1回の協議会を開催して以来、今までに_回協議を重ねてきたが、このたぴ、これまでの協議の概要を取りまとめたので、ここに公表する。今後、関係者等の意見を踏まえながら、なお一層揮議を深めることが必要であろう。

2.獣医学教育の主な沿革

○昭和52年の獣医師法の一部改正により、獣医師国家試験の受験資格が学部卒業から修士課程修了に引き上げられ、昭和53年度の学部入学者から学部と修士課程を合わせた6年の獣医学教育が実施された。これは獣医学の広範な領域にわたる専門性に対し、一般教養を含めた4年の課程教育ではその根幹的な専門教育すら万全を期し得ない状況であることや、専門教育を4年以上実施する諸外国との国際的な通用性の観点から、6年の教育の必要性が認められたものであり、当面修士課程を活用し、学部課程と合わせて6年の教育を実施するものとして講ぜられたものであった。

○その後、学部6年制への速やかな移行を図るため、大学設置基準の整備など所要の準備が行われ、昭和58年に学校教育法が改正されて、大学における獣医学を履修する課程の修業年限が6年となった。これにより、昭和59年度入学者から現行の6年制課程の獣医学教育が実施されることとなった。

○大学院については学部の学年進行の完成に伴い、平成2年度入学者から修業年限4年の獣医学博士課程がスタートした。なお、国立10大学のうち8大学については東と西の4大学ずつで連合大学院を形成し、1大学では期待し難い分野を複数の大学で相互に補完しつつ、幅の広い高度な教育研究を行う体制が構築された。

○獣医学の学部6年制教育の在り方については、当時、獣医学教育の改善に関する調査研究会議が検討を重ね、昭和58年に、6年制教育への移行に当たっては原則として学科を独立の学部として教育を行うことが望ましいが、早期に独立学部に移行することが困難な現状を勘案すれば、農学関係学部の中の獣医学科においても学部6年制教育が実施できるよう措置する必要があること、今後国立大学にあって、獣医学科の総定員を大きく変更しないものとして学部への移行を図るとすれば、国立10大学に設置されている獣医学科を対象として再編整備を推進する必要があること、が報告されている。

3.獣医学教育の現状

(大学数)

○我が国の大学における獣医学教育は、国立10、公立1、私立5の計16大学において行われている。・方、欧米諸国での大学の獣医学教育は、イギリスで6大学、ドイツで5大学、フランスで4大学において、また、アメリカでは約半数の州に1大学程度で計28大学において行われている。

(教育組織)

○獣医学の教育組織としては、我が国においては獣医学科が設けられているが、私立大学の場合は、概ね、獣医学部または獣医畜産学部を置き、その中に獣医学科を単独ないし関連する畜産学科等とともに設けられているのに対し、国立の場合は、そのほとんどが農学部の一学科として設けられている。一方、欧米諸国の場合は、専門の獣医大学や獣医学部として独立した教育組織となっている。

(学生規模)

○獣医学科の入学定員は、編入学定員を含め、我が国全体で930名である。欧米諸国での年間卒業者数は、アメリカ約2100名、イギリス約510名、ドイツ約960名、フランス約450名となっており、我が国の学生規模はこれら欧州諸国と同等もしくはそれ以上となっている。また、国の人口と卒業者数の比率では、我が国はこれら欧米諸国と概ね同等の状況である。

○1大学当たりの獣医学科の入学定員は、国立大学が25から40名、私立大学が80から120名となっている。一方、欧米諸国では、イギリス、フランス、アメリカがそれぞれ平均で90から110名程度、ドイツが200名程度となっている。

(入学状況)

○獣医学科の志願倍率は、国立大学で10倍を超え、私立大学は20数倍と極めて高い。また、各国立大学とも、獣医学科の在学者の出身地はほぼ全国にわたっている。

(教員数)

○専任の教員数は、国立大学が概ね20数名、公私立大学が50名程度となっている。欧米諸国においては、100名以上の教員組織を擁する大学が相当数見られるが、学生数と教員数の比率では、我が国の国立大学と欧州諸国の大学とはほぼ同等の状況にある。

(教育内容)

○各獣医学科では一般教養科目のほかに専門科目の授業を行っており、卒業要件として6年間以上の教育と182単位以上の修得を課している。このうち専門教育については、平均で約60科目、計110単位の講義・実習を行っている。

○講義・実習科目は各大学間でほとんど差がなく、国家試験出題関連科目を重点的に教授するカリキュラムとなっている。また、5,6年次では卒業論文研究が配当されている。

(国家試験の状況)

○獣医師国家試験の合格者は年間約1000名で、国公私立大学の間で合格率に大きな差はなく、最近では概ね90%の合格率となっている。

(卒業後の進路)

○獣医学科の卒業生の進路は、全体でみると、農林畜産、公衆衛生関係の公務員が約17%、個人診療施設が約48%、製薬、食品関係企業が約7%、農業団体が約4%、進学が約10%となっている。

(附属家畜病院)

○獣医学科を設ける大学には教育研究上必要な附属施設として家畜病院が置かれている。家畜病院には診察室、検査室、手術室、放射線室、入院室などが設けられ、国立大学の場合、数名の専任教員が配置され、学科の臨床系教員とともに教育研究や診療業務に当たっている。

4.獣医師の活動領域等

(獣医師の職域)

○獣医師は、牛、豚等の産業動物やイヌ、ネコ等の家庭動物などの飼育動物の診療業務を行うほか、畜産分野での家畜改良や増殖に関する業務、動物の検疫や食肉・食鳥の衛生検査などの公衆衛生関係の業務、製薬・食品等企業における研究開発など、その活動領域は次のとおり多岐にわたっている。

@獣医師に限定されるもの

・飼育動物の診療

・家畜の人工授精

・と畜検査員

・狂犬病予防員

・家畜保健衛生所長、家畜保健衛生所獣医師職員

・飼育動物診療施設に配置する管理獣医師

・家畜市場に配置する検査獣医師

A原則、獣医師のみに対象が限定されるもの

・家畜防疫官、家畜防疫員

・動物愛護管理員

B獣医師が対象とされるもの

・食品衛生監視員

・薬事監視員

・家畜人工授精所に配置する管理獣医師

・食鳥処理場に配置する食鳥処理衛生管理者

・乳製品等特定の食品製造施設等に配置する食品衛生管理者など

C獣医師である必要はないがその知識・最術が求められるもの

・医薬品、食品、飼料等の開発研究者など

(最近の動向)

○現在、獣医師の数は約3万人であり、最近10年間で約3000人の増となっている。活動領域別には、農林畜産・公衆衛生関係の公務員に約31%、農業関係団体に約8%、製薬や食品等の企業に約5%、個人診療施設に約37%がそれぞれ従事している。

○近年、産業動物診療の獣医師、農業関係団体に従事する獣医師が減少傾向にある一方で、イヌ、ネコ等の個人診療施設の獣医師が大幅に増加している。また、獣医事に従事しない者も年々増加しておリ、その割合が現在約13%になっている。

(需給関係)

○農林水産省による産業動物診療獣医師の需給推算では、必要獣医師数に対する就業者の割合は99%でほぼ充足しているとの結果が出ている。また、小動物分野についても、診療施設当たりあるいは獣医師当たりの診療頭数が減少している状況にあり、養成規模を拡大すべき状況ではないとしている。

5.獣医学教育への使命と期待

(獣医学を取り巻く状況の変化)

○獣医学を取り巻く状況は、

・家畜の飼養戸数の減少と一戸当たり飼養規模の拡大など生産構造の変化

・クローニング技術などさらなる生産性向上のための技術開発需要の増大

・BSE(牛海綿状脳症)、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザなど国民生活に不安をもたらす動物伝染病や動物由来伝染病の発生

・動物や畜産物の輸入の増大や輸入先国の拡大など防疫需要の増大

・動物愛護思想の普及1浸透による伴侶動物の診療や保健衛生指導の増大

・飼育動物の多様化や給与飼料の高エネルギー化等による疾病の複雑化

・より高い効果と安全性を有する医薬品の研究開発における実験動物学や動物病理学の知識一技術を有する人材需要の高まり

・産業開発等に伴う生態系の変化の進展による希少野生動物保護や獣害予防の需要の増大

など大きく変化している。

(獣医学教育の使命)

○獣医学科を有する各大学においては、獣医師が多岐にわたる分野において様々な役割を果たすことが求められておリ、また、獣医師に対する国民の要請が一層高度化・多様化していることをしっかリと受けとめなければならない。

○運営費の多くを国民の税金により支えられている国立大学においては、国民の負託に応え、増大する社会的ニーズに対応できる獣医師を確実に養成していく必要があることはいうまでもない。

6.獣医学教育の直面する課題

(教員の配置状況)

〇獣医師国家試験出題科目数は18科目であるが、国立大学の獣医学科の教授数は概ね10名程度と少なく、このため各大学においては、解剖学、生理学等の基礎獣医学の分野を中心に専任教員を配置し、臨床獣医学の分野には専任教員が配置されているものの、内科学・外科学といった大括りの配置となっている。公衆衛生教育の分野などについては、一他学科の教員や非常勤講師等によって対応せざるを得ない状況となっている。

(授業科目の状況)

○獣医学教育の水準向上や通用性の観点から、EU内では教育内容の統一評価基準が、またアメリカでは獣医大学の認定基準がそれぞれ設けられているが、これら欧米の教育標準と比較してみると、我が国の国立大学の獣医学科には臨床関連科目、食品衛生関係科目について、開講されていない、もしくは、一部の大学でしか開講されていない科目が多い。

○欧米の獣医大学では、臨床ローテーションが高学年次の授業の中心となるが、

我が国の国立大学では卒業研究が中心となっておリ、臨床教育に重要な臨床ローテーションはごく一部の大学でしか実施されていない。

(事業所の評価)

○獣医学科の卒業生は、実際に動物を使ってのいろいろな意味での研究能カを備えている点で、医薬品等の企業の研究者として、他の学部・学科の卒業者よりも高く評価されておリ、アンケート調査においても、技術職・研究職に従事する獣医師は事業所から一定の評価を得ている。しかしながら、診療に従事する獣医師についての事業所の評価は、技術職・研究職のそれと比較して低い。

(卒業者の評価)

○国立大学獣医学科卒業者に対するアンケート調査では、基礎獣医学分野の科目については不十分とする者の割合は少ないが、臨床分野の科目については不十分とする者の割合が多い。

(附属家畜病院の状況)

○附属家畜病院における患畜はイヌ、ネコ等の小動物が中心となっておリ、産業動物の患畜を得られている大学は一部のみとなっている。このため産業動物関係の臨床実習の機会が得にくくなっている。

○欧米諸国の大学附属家畜病院には多くの職員が配置されているが、我が国の国立大学においては、臨床系の教員が診療業務の多くを兼務しており、その負担が大きい。

○国立大学の家畜病院における支援職員は、事務職員を除くと1〜2名程度であり、家畜病院の支援業務を学生に担わせている大学も見受けられる。医学部における附属病院、工学部における実習工場、農学部における農場、演習林や水産実験所など、実習教育のための附属施設には一定程度の支援職員が配置されていることに比べると、十分な対応の努カがなされていない。

○施設・設備の面においても、一部の大学では診療台のような基本的設備を代用品で賄っているような例も見受けられる。

(地域の獣医療施設の状況)

○実習教育の充実のため、医学教育においては、地域の医療施設を活用してローテーション形式の実習教育を行っているが、獣医学にあっては、地域の獣医療施設のほとんどが小規模であるため、その活用が困難な状況にある。

7.獣医学教育の充実方策

(1)関係者の取組

(全国農学系学部長会議における取組)

○獣医学教育の充実は、獣医学科関係者を中心に議論がされてきたところであるが、平成13年10月には国立大学農学系学部長会議(現全国農学系学部長会議)が、「獣医学教育の改善のための基本方針」を取りまとめるなど、現在、獣医学教育の充実が、農学分野全体の問題として、考えられるようになってきている。

○当該基本方針では、

・獣医学教育研究組織の規模は教員数72名以上であることが望ましいが、獣医学教育の改善が急を要するので、それが直ちに実現できない場合でも、当面、18名の教授を含む54名程度が必要である。

・各大学の自助努カで獣医学教育の改善が達成できない場合は、他大学獣医学科等との再編などの道を考える。再編は全国を5ないし6地区に分け、産業基盤を考慮して、地域的に偏らないことに配慮し、なるべく既存の施設などを利用できるよう努めることが望ましい。

・これらを具体化するためには、獣医学科を有する大学のみならず、全国立大学農学系学部の教育研究組織の構造改革を視野に入れて議論を進めることが不可欠である。

とした上で、

・獣医学教育の改善は、唯一の理想案を性急に実現させることによるのではなく、複数の選択肢の中で実現可能なことにまず着手してこれを先行実現しつつステップを積み重ねることによって達成されるものであろう。

と結んでいる。

○現在、全国農学系学部長会議においては、この基本方針の具体化の検討を行うため、特別委員会を設けている。

(各大学における取組)

○各大学においても、

・全学的視点からの教員配置数の見直しによる獣医学科の教員組織の拡充

・獣医学に関連する領域を持つ他学部1他学科や学内教育研究センター等との協カ連携体制の構築

・農学部の他学科の関連分野との連携を進めやすい体制にするため、縦割りの教員組織となる学科に代えて、学生の履修上の区分に応じて組織する課程制への学部の改組

・地方の獣医学科と都市部の獣医学科による機能別の連携の検討

・大学を超えた獣医学科の統合の検討

など、様々な充実に向けた取組が開始されている。

○このように、現在、獣医学教育の充実に向けて、学部内、大学全体、あるいは大学を超えた視点から、自助努カ、関連組織等との連携協カ、組織の再編や統合などの様々な方策の検討やその実施についての取組が進められつつある状況になってきている。

(2)獣医学教育の充実のための基本的な視点

(学部教育で行うべき範囲)

○獣医学教育の充実を考える上で、学部教育で行うべき範囲はどこまでかという視点が重要である。これについては、

・最低限国家試験に合格することが学部教育の基本であり、大小動物の臨床や公衆衛生などのスペシャリストは大学院で養成することでよいのではないか。

という意見があったが、一方で、

・学部教育を考える場合医学が参考になるのではないか。医学の場合は、学部教育ではしっかりとした臨床医を育てる、しっかりとした臨床教育を施すという社会的要請から、卒業研究等は課していない。

・獣医師国家試験は、獣医師としての技能・知識の最低要件であり、学間としてはそれ以上高いものがあってしかるべきである。

・獣医学の場合は学部6年制に移行したのであるからその獣医学にふさわしい臨床教育を行うべきである。

・専門の知識・技術が乏しいため、獣医師としてインフォームド・コンセントができないことが社会的問題となっている。専門の知識・技術は大学を出てからでも学べるなどという問題ではなく、それを身に付けるためのより充実した臨床教育を大学で行うべきである。

・臨床、家畜防疫やと畜検査は法律によって獣医師でなければならないとされている。この点を踏まえ、教育をいかに充実するかが重要である。

など、様々な意見があった。

(充実のための基本的な視点)

○国立大学の獣医学教育は基礎研究者の養成としては一定の評価を得ているものの、獣医師資格が求められる臨床分野や公衆衛生分野の教育についてはさらなる充実が必要であるということは各委員の意見の一致するところであり、これらの分野を中心として、いかに充実を図るかが国立大学における獣医学教育の充実の基本的な視点であると考える。

(3)具体的な充実方策

○臨床分野、公衆衛生分野の教育の充実のために具体的にどのような方策が考えられるかについて、数次にわたる協議の中で種々の意見があった。ここではなるべく網羅的に記すこととしたい。

(他分野との連携)

○獣医学教育の関連分野との連携という観点では、

・医学や歯学など様々な関連分野とコンバインドした学部教育を進めることが重要ではないか。

・例えば、国家試験出題科目となっている魚病学は水産学部で行われているが、この水産学も獣医学科に取り込み、動物の生産から流通、食の安全などを含めた幅広い教育の中心を獣医学科が担っていくというように、獣医学の守備範囲を積極的に広めていくことが重要ではないか。

・グローバリゼーションの進展で、様々な病気が畜産物に伴って入ってくることが懸念されており、畜産における生産から流通、消費までを含めた大きな枠組みの中で獣医学教育を位置付けていく発想が必要である。

・東京大学は学科ではなく獣医学課程の組織形態をとっており、獣医学と応用動物科学の2つの大学科目の教員含計約50名により獣医学課程の学生を教育している。畜産学の分野の教員も獣医学に入るということが、課程制という柔軟な組織体制をとることで可能となっている。

など、他分野との連携の意見のほか、

・自分自身が獣医学部学生であった時、医学部や農学部や理学部などの単位を自由にとることができれば有効であったと思う。単位をより自由にとることができるような仕組みを考えることでも充実が図られるのではないか。

という履修要件の柔軟化の意見もあった。

(教育方法の改善)

○教育方法の改善という観点では、

・公衆衛生、家畜衛生の教育の充実には、学外との連携、インターンシップの利用が効果的ではないか。

・臨床教育のより高度な部分はフィールド教育が非常に重要になってくるが、このフィールド教育は必ずしも附属家畜病院で行わなければならないというものではなく、むしろ本当の生産現場の中で教育していくのが本当のフィールド教育ではないか。

・産業動物の患畜が足りないならば、畜産分野に強い地方の大学へお願いし、小動物については近隣の獣医療施設で実施してもらうなど、積極的に臨床ローテーションを行ったらどうか。

・技術教育はフェイス・ツー・フェイスが重要なところであり、獣医学もまさにそうではあるが、lTを活用して効果的にできる部分もあるのではないか。現場での教育をしっかり行っていくためにもlTを活用することは有り得るのではないか。

・卒業生のアンケート調査では、社会における必要性・重要性に対し臨床系のほとんどの科目について不十分とする意見が多い。また、現場ではOO病、△△病といった各論から始まるのではなく、食欲がない、痒がる、目が赤いなどから始まるのであって、より実践的な教育を望むとの意見もある。諸外国では一般的になっているプロブレム1べ一スド1ラーニングなどの実践的教育手法を取り入れる必要がある。

など、学外との連携、lTの活用、問題解決型実習手法の導入などの意見があった。

(施設の充実)

○施設の充実という観点では、

・医学では、学外の医療施設を利用して臨床教育を行う方向であるが、獣医学もそのような方向で充実することがよいのではないか。

との意見があった一方で、

・獣医療においては、大学附属家畜病院以外はほとんど個人診療施設しかなく、社会的整備がなされていない。

との意見もあり、

・臨床家になるための臨床教育の充実のためには、臨床講座の充実と病院の拡充によって、ティーチング・ホスピタルを大きくするしかないと思う。

・外国の獣医大学にあるような、設備は大学が用意し、獣医師が来て診療にあたるといった、オープン・ラボ形式の施設ができればよいのではないか。獣医師にとっても最先端の施設を利用しながら、しかも指導も受けながら診療できるメリットがあり、学生も学びやすい場所となる。

・国立大学が法人化されれば、家畜病院を拡大して収入増を図ることによって、レジデントを雇用し、研修医や技術職員も入れて、内部で相当の臨床教育を賄えるのではないか。

など、附属家畜病院の充実について意見があった。

(大学を超えた統合)

○教員組織の充実という観点では、

・スイスのベルンとチューリッヒの2大学では、教員組織が小規模なため、両大学の教員が共同して教育することを始めている。最近は、大学の場所を含めて本格的に再編することを検討していると聞いている。

・卒業生のアンケート結果にあるような教育上の不備による不満が他の農学系学科にあったら学生は来なくなる。これは大変な状況であり、何とかしなければならない。これを見ていると統合はやむを得ないのではないか。

・各大学で、まず自助努カで獣医学組織を強化しようと試みているが、抜本的改善は不可能ではないかと感じている。20数年前からの試行錯誤に時間を費やしてはいけない。獣医学部設置のための再編統合は各大学の利害を超えた問題として取り扱われることを期待する。

・国立の獣医学10大学の教員、学生全部を合わせ、これをうまく分割するだけで欧米並みの獣医学組織ができる。つまり獣医学教育には既に十分な資源が投入されており、その再分割の問題ではないか。獣医学教育に与えられた資源を再配分するだけで他の分野を侵食することなく獣医学教育の改善ができることになる。

・1つの大学からしかものを見ていないと、日本全体の構図に考えがなかなか及ぱないところがあるのではないか。やはり発想は2つのところから出てこないときちんとしたものにはならない。もう少し全国的視野から見た場合どうなのかという議論を具体性をもって行う必要がある。

など、大学を超えた統合により教員数の増加を図る方策について意見があったが、

一方で、

・教育の現状を聞き、やはり統合が必要と思い、複数の大学間で統合について努カしたが、結局不調に終わった。地方大学にとって獣医学というのは非常に大きな位置を占めており、獣医学科を大学から出すということは現実問題として進まない。

・各大学がほぼ同じ講座構成であり、それを2つ合わせても教授が交代するまでの15年くらい先までは統合の効果は現れないのではないか。やはり、今足りないものを中心に、あるいはどう個性を出すかを考え、自助努カで拡充することが現実的な対応ではないか。

・内科と外科の教授が一人ずつというのは信じられない状況だが、だから統合ということではなく、民間獣医療施設を使う、客員教授を活用する、など現在でもできることをすぐにでも実施すべきではないか。

・再編統合しかないという観点から話を進めるのではなく、身近な獣医と一番密接に関わる畜産とか応用動物科学とか他学科の協カを仰いで、より日本の獣医師の教育に適したような組織に向けて、もっと幅広く考えていくというところが非常に大事である。

などの意見があった。

(関係者の意識改革)

○また、種々の意見の中で、関係者が意識を変えていくことも重妥であろうと考えられる意見がいくつかあった。具体的には、

・世界獣医学協会の定める24科目には、倫理や環境まで獣医学の守備範囲を超えるものもたくさん入っている。獣医学科が広がっていくという発想だけではなく、他分野とのつながりをどう持つのかということを真剣に考えるべきではないか。獣医学科を大きくするという議論ではなかなか理解を得ることは難しい。

・獣医学がもう少しいろいろな分野、例えば畜産学の教育も行うべきだろうと思うが、畜産学の教員からは、他分野のテリトリーを侵すのかといった抵抗が出てくる。

・畜産学、獣医学といった近い分野は、かえって不仲という難しさがある。

・獣医学科が卒業論文を課しているのは非常に驚きである。これは、6年制に移行したというものの、獣医学科自身が「4年十修士課程」という考えから抜け切れていないためではないか。この意見に対しては獣医学科からは相当の反論があったが、学生が最後の2年間研究室に入ってくると研究に便利だからという本音もあるように思われる。

・国立大学の家畜病院は、意欲があればかなりのことができるポテンシャルを持っている。収入増を図りその資金により臨床教育を充実していけるのではないか。

といった意見があった。

(4)国立大学の獣医学教育の充実のための本協議会からの提案

(各関係者の努カ)

○国立大学における獣医学教育の充実のためには、獣医学科関係者のみならず、学部をはじめとする大学関係者、獣医学に関係する国など、それぞれにおいて、その役割を十分に果たし得るよう不断の努カを尽くす必要がある。

(教育基盤の充実)

○国立大学が法人化されることによって、大学の自主性・自律性がより高められ、大学の自助努カによる収入増や支出抑制の結果生じる資金を新たな用途に充てることが可能となることや、教職員の配置が弾カ化されることなどのメリットがもたらされることに伴い、各大学においては、学内資源の見直しや自己収入の増加等の経営努カを最大限に図ることなどにより、獣医学教育の基盤として必要な人的・物的資源の整備に努める必要がある。

(学内自助努カ)

○現在、各大学においては、全学的視点に立った教員配置の見直しによる獣医学科の教員組織の拡充や、関連する他学部等の協力連携体制の強化、あるいは課程制などの柔軟な教育組織の構築などにより、教育研究体制の充実を図ろうとしているところである。もとより、大学教育における直接的な責務は大学自身が負うべきものであり、このような各大学の自主性・自律性に基づく獣医学教育の充実に向けた努カは、当然、尊重すべきものである。

(大学を超えた統合)

○教員や支援職員の拡充という観点では、獣医師養成の需給関係から全体として学生の規模を拡大できない状況を踏まえると、大学を超えた獣医学科の統合によるスケールメリットの確保は、有効かつ重要な手段であると考える。これを進めるに当たっては、まず各大学、大学間での自主的な話し合いが進められることが基本であり、また地域社会の理解を得ることが必要不可欠である。このため、学内において十分な議論が尽くされるとともに、地域関係者との密接なコミュニケ一ションの基に、適切に合意形成を図って行かなければならない。

(大学間の連携)

○試行錯誤に時間を費やすなかれという指摘にはあえて反論はしないが、一般的に、大学を超えた統合は大学故の様々なしがらみから、それを円満・円滑に解決するには容易ならざる課題といわざるを得ない。また、大学を取リ巻く状況の変化はこれらの取組をいっそう複雑なものにしている。このようなことを踏まえると、まずは大学間で可能な範囲の連携協カから始めることで相互の充実に資していくことが大事ではなかろうか。例えばカリキュラムの共同開発やその実施に当たってのスタッフの派遣な&緩やかな連携からより緊密な連携へそのような状況の中から統合の合意形成に必要な基盤が生まれてくると考えたい。

○ここで重要なことは、自助努カか統合かの二者択一ではなく可能なところから進めるべきであるということである。全国農学系学部長会議の基本方針にもあるように、複数の選択肢の中で実現可能なことにまず着手してこれを先行実現しつつステップを積み重ねることによって獣医学教育の充実が達成されるものであろう。

(教育研究体制の充実)

○いうまでもなく教育研究体制の充実に当たっては、それぞれの教育研究組織における教育目標が明確にされ、その目標達成のためのカリキュラムが適切に構築された上で、それを支える教育研究スタッフやその支援スタッフが万全に配置されることが前提になければならない。けっして教育研究体制の充実が単なる数量的なものに流されることがあってはならない。充実を必要とする客観的・具体的な根拠の存在が最重要である。

○この場合、獣医学の各分野に関する基本的な知識・技術を偏りなく修得させることを念頭に置けば全国農学系学部長会議の基本方針にもあるように、獣医師国家試験の出題領域である18分野の充実については最低要件として考えるべきであろう。

(附属家畜病院の機能の充実)

○事業所や卒業生のアンケート調査において特に臨床教育の充実が求められていることの重要性・緊急性を考慮すると、臨床教育の場としての附属家畜病院の臨床実習機能を向上し、学生の臨床実習の充実を図るとともに地域の獣医師のスキルアップ機能を担う施設とする必要がある。

○そのため各大学においては、効果的な臨床教育サービスを提供し得る施設とするための具体的なプランを策定し、これに則して必要な人的・物的資源を全学的な視点から整備するよう努める必要がある。

○例えば、医学部に見られるような臨床教授(助教授、講師を含む。)の制度を活用して、臨床現場で豊富な経験を有する優れた人材を用いて臨床教育の充実を図ることは有効な手段の1つであると考える。

(教育研究環境の充実)

○また、国としては、獣医学教育の充実に資するため、附属家畜病院などの施設・設備の整備改善を図るなど支援することが必要である。この場合、各大学の臨床教育の充実への取組を踏まえ、効果的な教育サービスを行い得ると評価できる大学に対し重点的に支援するなど、各大学の努カが報われ、充実へのインセンティブが働くようにすることが重要である。

○今次、特色ある大学教育改革の取組を選定し支援する国の補助事業が大幅に充実されてきており、各大学が獣医学教育の充実を図るために種々の取組を推進していく上で、このような補助事業の活用を視野に入れて取り組むことは重要であ

る。

以上