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国立大学における獣医学教育に関する協議会 議事録

 第6回  第5回  第4回  第3回  第2回  第1回


文部科学省に提出した調査報告書 2003.7.28 PDF

国立大学における獣医学教育に関する協議会(第6回)議事要旨(案)

1.日時 平成15年10月6目(月)10:00〜13:00
2.場所 東海大学交友会館美保の間
3.出席者
(協カ者)梶井功、大森伸男、加藤紘、唐木英明、岸玲子、喜田宏、黒木登志夫、
古在豊樹、杉村征夫、鈴木直義、長尾拓、林良博、藤原宏志、松原謙一の各氏
(全国農学系学部長会議)曾田勝美会長
(文部科学省)高等教育局杉野専門教育課長、吉村専門教育課課長補佐他
(オブザーパー)農林水産省消費・安全局衛生管理課矢野課長補佐
4.配付資料
資料1 前回(第5回)議事要旨
資料2 「獣医学教育の改善」へ向けた取組み状況について(全国農学系学部長会議からの資料)
資料3 追加説明資料(唐木委員提出資料)
資料4 獣医師の需給動向等について((社)日本獣医師会からの資料)
資料5 第1回から第5回までの主な意見
資料6 今後さらに検討を要する課題(案)

5.議事
(1)全国農学系学部長会議曾田会長から、獣医学教育の改善についての農学系学部長会議の考え方について、資料に基づき、次のとおり説明があった。
・平成13年10月16日に国立大学農学系学部長会議において「獣医学教育の改善のための基本方針」(以下「基本方針」)が承認され、同時に、獣医学関係10大学で獣医学教育改善ワーキンググループが設置された。
・このワーキンググループが基本方針承認後の1年間における具体的な進捗状況について関係10大学に尋ね、その結果を平成14年10月10日の全国農学系学部長会議で報告した。
・その報告では、「各大学ではまず、自助努カで獣医学教育組織を強化して、獣医学教育の改善を図ることを試みているが、自助努カだけでは獣医学教育の抜本的改善は不可能であるとの結論が得られたところであると思量する。次に2校ないし4校の教育連携協カ、獣医学部設置、再編統合が現在検討されつつあることがわかる。本件は、各大学の利害を超えた国家レベルの問題であることから、今や文部科学省の大所高所からの強い指導と支援によって解決されるべき段階に至っているものと判断される。さらに東の4大学および西の4大学の学長レベルの懇談・調整がすでに開始されている。東京大学および北海道大学の学長が参加する10大学の学長レベルの話し合いが実現し、わが国の獣医学教育改善のための検討がなされることを期待する。」とまとめられている。
・その後、平成14年12月24日に全国農学系学部長会議の役員会が開かれ、獣医学教育改
善について審議されたが、農学系学部長会議としてどうするかということで、基本方針の具体化のため、役員会の構成員による臨時委員会を設置することが了承されたが、同時期に文部科学省に協議会が設置され、メンバーに農学系学部長会議の前・元会長が入られたということもあり、この臨時委員会の設置については、役員会では決まったが本会議に提案されるには至っていない。
・平成15年6月4日、関係10大学の農学系学部長が集まり、獣医学教育改善に関する打ち合わせ会議を開催し、各大学における基本方針の具体化の現状について、意見交換を行った。その結果、1○大学のうち7大学は、大学レベルあるいは農学部内の再編等による自助努カで獣医学分野の拡充を既に図りつつあり、その成果も出ている、あるいは現在計画中であることが判明した。また、自助努カはせずに本協議会の審議を見守りたいという大学、基本方針に示された基準に準ずる規模として18名の教授を含む54名の教官からなる組織を有している大学、あるいは基本方針に示された基準である72名の教官からなる組織を目指すとした大学があった。また、獣医学の社会的な使命の増大から、獣医学科学生定員増について検討する必要があるという意見を述べた大学もあった。
・これらの報告から、基本方針をガイドラインとして、多くの大学がすでに自助努カをし、すでにその成果が上がっていることが判明した。この自助努カが具体的に進みつつある背景には、国立大学の法人化を目前に控えて、まず各大学が自助努カで獣医学教育の充実を図り、獣医学分野の発展を期すことを大学の方針としていることが挙げられると思う。
・ただ、自助努カの内容を聞くと、多くの場合、国家試験科目である18教育分野、つまり36名の教授、助教授の体制をまず自助努カで達成することを日標としておリ、基本方針に示された必要最低限の規模には達しない可能性が高いと考えられる。基本方針に示された規模については、それぞれの大学で考えがあり、基本方針では大学基準協会が示した基準を満たすことが望ましいとしているのだからあくまでも教官数72名以上、学生数60名以上を目指すのが基本であるという考えをお持ちの大学、あるいは自助努カでは72名以上の教員組織への再編が不可能とすれば、人畜共通感染症対策を含む新獣医学教育は、食品安全行政の国家プロジェクトとして国主導型で整備ないし再編すべきではないかというお考えの大学、小さな規模でも他にない特徴的な教育研究が行えるのであれば、存在意義は十分にあり、画一的に規模のみで縛るのは学問の広域的な発展の面からも避けるべきであり、様々な規模と形態が許されるべきであるとお考えの大学、自助努カで獣医学教育を充実させるには基本方針が厳しすぎる、など幅広い意見があるのが現状である。
・このような状況であるが、全国農学系学部長会議としては、全会一致で承認したこの基本方針をあくまで守り、これに則って獣医学教育の改善を進めるべきであると考えるというのが本会議の基本的なスタンスである。そのために、当面各大学が自助努カを進めた上で、必要ならば大学間における獣医学分野の統合再編も視野に入れるべきであると考えている。その過程において文部科学省による予算措置等により獣医学教育の改善がより加速されるように要望している。
・懸念するところとしては、自助努カの成果が大きければ大きいほど、獣医学系以外の農学系の分野の縮小を招く可能性がある点が危慎される。獣医学が農学の一分野として存在する以上、獣医学教育の改善に向けた改革は必然的に農学教育研究組織の改革の一環と考えられ、基本方針に述べられているように、全国農学系学部長会議では教育研究組織の構造改革も視野に入れて今後議論していくことが必要であろうと考える。本会議がその場として機能すべきであると考えており、来る10月9日・10日に第109回の会議がありますので、その場で獣医学の教育改善を含めた検討組織を是非設置したいと考えている。
・なお、この報告は平成15年8月30日に役員会で取りまとめた後に、全国農学系学部長会議の報告書として会員の了承を得たものである。

(2)この後、次のとおり意見交換があった。(○協カ者、◎全国農学系学部長会議会長、● 事務局)
○2ページ目の最後に、「多くの大学で獣医学教育の改善に向けた自助努カがなされているが、その成果が大きければ大きいほど獣医学系以外の農学系分野の縮小を招く可能性があることが危倶される」とある。これは自助努カである限りはそのとおりだと思うが、この点は非常に長い間獣医学関係者でも検討し、それから農学系学部長会議の委員会でも検討された結果、獣医学の10大学の教員全部を合わせると290名、学生定員330名、これをうまく分割するだけで欧米並みの獣医学組織ができる、ということは、獣医学教育にこれ以上資源を投入しなくても、既に十分な資源が投入されているので、その再分割の問題ではないか。獣医学教育に与えられた資源を再配分するだけで他分野を侵食することなく獣医学教育の改善ができるということがひとつの方法として提案されているので、縮小だけをここに取り上げられると、あたかも獣医学が大きくなると他分野が小さくなるという拮抗関係にあると思われると、少し今までの検討の結果と違う感じがする。
それから、農学系学部長会議は、獣医学教育の改善の問題について非常に真撃に検討をしていただいた。ここに書いてあるような問題がほとんどこの前の委員会で検討され、私も説明に上がり議論を進め、その結果結論を得られたということで非常に高く評価をしているし、感謝を申し上げる。ただひとつ残念なことは、学部長が変わった途端に前とまったく同じ議論が再び出てきている。2ページ目の真中あたりにあるような、小さな規模でも特徴があれば良いではないかというような意見など、代表されるような意見は繰り返し議論されて、しかし最低限の教育ができない組織は存在する価値がないということで、農学系学部長会議の基本方針は決定された。しかしその議論がまた出てきている。ある意味では仕方がないが、ある意味では非常に残念なことだと思っている。しかし、全体としての結論は基本方針を堅持するということで、この点についても大変感謝を申し上げたい。
◎290名の教官、330名の学生、これがそのままで再編できれば何ら他の分野には影響を緊及ぼさないと私もそう思う。ただ、今、国立大学の法人化を目前にして、各大学ではそれぞれ獣医学に自助努カで拡充してでも自分の大学に残したいというスタンスの大学がほとんどであるということである。法人になるとポストについてかなり学長が自由に使える部分が出てくる。全学、あるいは農学部の一部を吸い上げた部分を獣医学科につける、そのようなことでかなり自助努カが進んでいるので、そういう形で拡充がまず進んでいくと、場合によっては農学系の他分野にその影響が出てくる可能性がなきにしもあらずと、少し懸念しているということである。
○その点は十分存じ上げている。ただ、この点も農学系学部長会議の委員会で十分検討された結果、自助努カでそういう困難があるならば、再編整備もやむを得ないという結論はそこにかかっておリ、農学系学部長会議の結論は明らかにもう出ている。我々獣医学関係者ももちろん再編整備などはしたくない。それぞれ充実したいということで20年やってきた。しかし、それが困難だったら再編整備もやむを得ないということになった。農学系部長会議もまったく同じ検討をして、立派にしたい、しかし無理だったら再編整備も仕方がないとなった。次に今は、学長レベルで同じことが起こっていると思う。獣医学科を単独で充実することは非常に難しい、他の分野を潰すことになるのであれば、どうしたら良いのかということを学長レベルでこれから本気で検討していかなければいけないことだと思う。
○基本方針が平成13年10月16日に全会一致で決められた時の会長として、基本方針をきちんと守られていることに感謝したい。基本方針を朝令暮改的に変えると、全国農学系学部長会議は何だったのかとおそらく社会的には評価されるのではないか。先程の意見であるが、2ページの最後のところでは、「自助努カはなされているがその成果」と言っているので、「その成果」というのは自助努カを受けているので、ここに何ら問題はないだろう。この文章で精一杯がんばっておられると思う。それから、上のほうのいろいろな意見がでるのは当たり前である。つまり、学科レベル、あるいは学部レベル、大学レベルで考えていく時に、同じ論議が蒸し返されるというのは、これは当然で、これからもまだまだ過去にあった論議が出てくると思うが、是非とも学部長会議としては最低中期目標期間程度の5年、6年はこの基本方針を堅持していただきたいと思う。
獣医学は、このように長い間努カしてきているが、他の分野もやはり規模が小さすぎて、世界的な教育研究の流れに対応できない。教育で言うとJABEEの流れを見ていると、ひとつの教育単位がどのくらいなのかというのは今後大きな問題になってくると思う。これを跳ね返すためには、農学のいろいろな分野が、それぞれ自分たちの分野の向上を目指すことではないか。是非、全国農学系学部長会議としてそれを促されてはいかがかという気がする。それがひいては、獣医学だけに留まらないで、農学のほかの分野に及ぼされるのはとても良いことであるし、しかも国立だけではなくて私立も含めた高等教育全体に対して影響を与えることは非常に重要であり、もし農学系学部長会議にそういう議題が挙がっていなければ、そういう問題提起を会長からしていただけないかとお願いしたい。
◎農学の今後の発展、特に他分野についてはまだ具体的な動きはない。私もそういう方向で考えたいと思う。
○法人化を理由に出して自助努カだということは論理的には少しおかしいのではないか。法人化するのは2年前もわかっていた。論理的に法人化だから自助努カでなければならないという法則はない。それから、2年前も昨年も学生定員及び教官定員は動かさないという前提で議論が進んでいた。また、他分野についても再編統合が必要な分野があるからそこも一緒に改善すべきであることを農学系学部長会議で提案してきた。他分野を食ってしまって獣医が大きくなるということは避けることが基本方針の一番注意したところである。
○法人化の受け止め方は大学の規模によってかなり違うと思う。非常に大きい大学であれば獣医学の問題はあまり影響カがないが、国立の8つの地方大学にとって、獣医学の問題は非常に大きな問題である。法人化の中で言われていることは、各大学が個性を出しなさいということである。個性的に何かを作っていくということになると、本学で私は「ミニ名古屋大学にならない」ということを言っている。名古屋大学にない学科を強くしていくことが一番大きい戦カなるわけである。その中で、薬学を取リ込むために薬科大学と連携しようということになった。もうひとつが獣医学で、是非ともこれは自分たちの中で大きくしたいということになり、東日本の連合獣医学研究科を構成する4大学の間で統合の可能性を一年に渡ってかなり探った。その結果、どこの大学も法人化の中で自分の大学を個性化していくという時に獣医学が柱になることがわかってきたわけである。したがって法人化というのは、少なくとも地方の大学においては、獣医学の充実を自助努カで行うことに非常に大きなインパクトを与えたと言えると思う。それから農学の各分野に影響を及ぼさないということは、岐阜大学では10名のポジションを用意したが、農学部からは3名で、他は全部他の学部からのものである。なるべく農学には影響を与えない最小限のところがそのくらいだと思っている。ただし、農学部全体については、学部の在り方、農学の構成ということを一度考え直してほしいということで、例えば農業経済、農業土木というものがこのままで良いかという問題提起を繰り返しした。そして農学部を応用生物科学部として生物科学を主とした学部にし、その中に獣医が入り、植物が入り、という形で再編するという方向ができた。したがって、現在の協議は法人化と深く結びついているというのが私の考え方である。
○私の知っている限りでは、農学部長会議の基本方針を作る委員会では、既に法人化を前提として検討をやっておられたと思う。
○自助努カをしなければならないが、自助努カだと36名が限界というところで結論になるのでは、基本方針を提案した精神とは違う。ゴールはどこにあるかというと、獣医学墜教育の改善であり、大学がいくつになるかということも念頭においた議論をした。
○私は3月まで学部長をやっていて、少なくとも国立大学法人化を前提として物事を考えたことはない。そういう可能性があることは知っていたが、それを前提に物を考えたりはしていない。国全体として国立大学の法人化が決まった以上、国民の一人だから当然これに従う、その方向でこの4月以降考えているが、おそらく多くの学部長は私と同じような考えできたのではないかと思う。
○多分法人化の問題というのは、自分たち自身の問題としてなかなか受け止めていなかったのではないかと思う。具体的に国立大学法人法が成立して移行準備をやらなければならない段階になって初めて法人化の中身を皆さんがよく知ったというのが実態ではないか。その意味で、法人化を契機に従来の考え方について再検討に向けていくのは当然だと思う。これは確認だが、ここで例えば獣医学科についてどうこうするというのを決めたときには、中期計画に盛り込むと考えて良いか。
●獣医学科に限らず学内の組織について、中期計画期間の6年間に何らかの変更をするとの方針が決まっているのであれば、各大学で書いていただいて構わないと思っている。ただし、新しい組織のことを書いたからといって、その部分に追加的な財政措置等が保証されるものではないので、追加的な財政措置がなければ不可能な計画の場合は多少慎重さが必要とは思う。
○今、法人化が実施された後では計画を考え直すのは当然ということであり、農学系学部長会議の基本計画を設定する時にはそれを前提にしていないという意見もあったが、皆さんの念頭あるいは議論の中で、当然法人化になったらどうなるだろうかということは言葉の端々に出てきた。それは、もうそれを前提にしないと考えられないという状況であり、それが実施されることが良いか悪いかは別として、仮にされたらどうなるのだろうかということがあったことは事実である。その際にも、法人化になろうとなるまいと教育の基準は変わらない、どうするかという方法論が変わるかもしれないが、そこの問題であって基準は変わらないということで、この基本方針が出た私は理解している。
○中期計画についての事務局の説明に関連してもう少しお尋ねしたい。法人の仕組みの中では、中期計画は文部科学省が認可をすることになっている。この協議会でどのような答申がでるのかはこれから詰めていくわけだが、ここで出された答申と認可するにあたっての文部科学省の立場・姿勢についてはどのようにお考えか。
●各大学から中期目標の素案を9月末に提出いただいたところである。そして第1回の国立大学法人評価委員会がおそらく今月中に開かれ、これから大急ぎで各大学の中期目標、中期計画を御審議いただくことになる。スケジュールは確定していないが、諸手続を考えると年内にはあらかたの審議をすると考えられる。この協議会のとりまとめがいつになるのかということにもよるが、年内には至らないと思うので、この協議会の結論が評価委員会における審議に直結することは難しいと思う。ただ、文部科学大臣は最終的には法人が発足をする平成16年4月1日以降に速やかに認可ということであり、各大学は中期目標、中期計画の最終原案を4月1日以降に学内の運営組織を立ち上げ、そこに諮った上で大臣に提出し認可をするということとなるので、理屈上はぎリぎりこの協議会の報告を踏まえた何らかの調整は可能かもしれないし、それに必ずしも間に合わなかった場合でも、学内で議論がまとまり次第変更申請を出していただき、随時変更認可をするという手続きもあり得る。その場合にはこの協議会の最終報告書は文部科学大臣として、あるいは国立大学法人評価委員会としての有カな参考になるのではないかと思う。
○法人化に際して学内で獣医学科と他の学部や学科で少しニュアンスが違うと学長として気になるのは、他の組織は、内容をどうするか、どのような機能のためにやるかという議論をやっているが、獣医学に関しては、教官の数がまず出てくる。その数をどう確保するかというのが議論で、内容やそのようなことがなかなか動かない。そこのところが法人化の中期計画を練っていったりする中でちょっと別の感覚で学長としては受けている。その内容について54名、あるいは70数名、あるいは今の人数をどう動かすかということについて、しかも教官以外の職種はどうなるのか、できあがり図はどのような格好になるのかなど、我々は議論しているが、教官の数だけというのが収まるかというのが非常に不安である。それから、獣医学はやはり農学部全体として、もっと言うと自然科学系、それから大学全体で大学院も含めて全体構想を議論しなければいけないので、獣医学科だけの話には収まらないというのは当然だと思う。したがって、他に引きぬくとか、追加するとかではなく、全体としてのことなので、獣医学科だけで完結した改革や変化はなかなか動かないだろうという印象を持っている。
○獣医学改善は教育内容ではなく人数ばかりという話はたびたび出てくる。ただ、前回私が資料を説明したように、我々としては内容について十分議論して、周りの方々にその内容についての理解をお願いしているのだが、何しろ獣医学というのは医学と同じように非常に専門的な分野のため、農学部の他の先生でもなかなか内容のそれぞれが理解できない。例えば解剖学がなぜ2講座必要か、あるいは外科学がなぜ2講座、3講座必要かというようなことは、なかなか理解ができないし、この中でどういった専門をやるという詳しいことをお話しても理解できない。一番典型的な問題が、これだけの教育をするのに何人の先生が必要かというところなので、それだけが取り上げられているところもある。したがって決して人数だけがいきなり出てくるはずがなく、教育の内容を十分に精査した上でこれだけの人数が必要だということを申し上げていることは御理解いただきたい。
○地方にある農学系学部で獣医学科を手放すことは致命的なダメージを与え、学部の存続そのものに非常に大きく影響する。手放した代わりに何か他の学科ができるというのなら別だが、手放すだけを了解する大学はあり得ない。だから少なくとも学部長、学長にとっては、絶対的に守らなければいけないことになるだろう。一方で、では自助努カでどうするのか。岐阜大学のように一生懸命学長が音頭を取って努カして最大限権限を使っても他の学部から集めるのは10名そこそこが限度。各大学の獣医学科の教員は大体25名くらいなので、増やして35名だということになる。一方で、獣医学科あるいは農学部長も最低54名必要だと。できたら72名だとずっと10年以上主張しつづけてきたわけである。また一方、それでも各農学部が学内の措置で10名ずつ増やすと、8大学あると80名獣医学科の教員が増えてしまう。他方では教員300名で十分なのだとずっと主張してきた。その辺の論理を整理していくには、もうひとつ何か別の切り口がないとこの問題は絶対解決しないことではないかという気がする。獣医学科のいわゆる学内措置、自助努カで解決しようとされている場合、その辺に関してどのような考えか。
○この議論の時には常に人数が最初に出てくる。本当にそれだけの人数を学内で増やすことは不可能だし、せいぜい30名くらいしかいない地方大学にとっては、出すか、獲るか、の2つの選択しかなくなってしまう。最初我々は獲る方の戦略でいった。他大学にずいぶん迷惑をかけたが、獲るほうの戦略で4大学の学長会議でも提案し、他大学の学長を怒らせたり、事務局長を怒らせたり、いろいろなことをした。さらに副学長を送ったりしたがどうしてもだめだった。そこで、内容でいけば少ない数でなんとかやれるのではないかということで、ただ増やすのではなく何が必要か、臨床が必要である、それから公衆衛生が必要である、大学の独自性も出さなければいけない、その3つの視点で10名増員し新しい講座を増やしていった。しかし、限界は35名、せいぜい40名にいけばという程度。数からいうと非常に不満足な結果になって、中途半端な獣医学科が各全国にあるということになる。したがって、もうひとつ何か新しい考えを入れないとこの問題は解決しない。それは、例えばいくつかの大学を教育する、臨床に重点化する形でのスクール・オブ・ベテリナリー・メディスンというような考え方を取リ入れるなど、何かをして獣医学全体をうまく生かしていくことが必要だろうと思う。
○法人化の成果だろうと思うが、各大学が本気になって自分たちの大学のことを考え出した。今まではある意味で文部科学省にお任せという感じだったのが、本当に自律性・自主性を持って判断されている。しかし、やはりひとつの大学からしかものを見ていないので、日本全体の構図に考え方がなかなか及ばないところがあるのではないか。ひとつの大学でがんばった場合40名止まりくらいというのは本当だと思う。これを日本全体で考えたらどうなるか。例えば、同一県内に複数の獣医学科があるところがある。一番美しいのは大学全体を統合することだが、大学全体を統合しないのであれば、獣医学をどちらかに置くかわりに、それ以外のものを一方の大学が強化するということがあるべきではないか。地方の農学部のレベルでの構想で、複数の大学が一緒になって、その中で農学部が大きくなって任務分担をしようと考えておられるような例もある。このくらいの考えはひとつの大学からはなかなか出てこない。やはり発想は2つのところから出てこないときちんとしたものにならない。そういう意味では、各大学がじっくりと考えられたことなので、これまで出てきたいろいろな論議も全部含めてある程度のところまできていると思うが、もう少し全国的視野から見た場合どうなのかという論議を具体性を持って話しても良いのではないか。
○今の点は是非学部長会議でも議論していただければ大変ありがたいと思う。このほか、農学系学部長会議に議論していただきたいことはないか。
○現実に各大学とも獣医は自助努カという道で歩んでいるのが大半である。先程御意見があったことも、これは大前提として獣医学教育の充実ということで、十分に検討を重ねたことなので、少なくとも最終の到達目標はそこにあると思う。農学部長にお願いしたいのは、今、現実に獣医学科を持っている大学が、獣医学科の専任教官をどれだけ努カしても、先程御意見があったようにせいぜい54名体制にどうやって近づくかということが現実の問題だと思う。したがって、獣医師の国家試験18科目に他学科、あるいは他学部の関連の教官の協カを仰ぎ、トータルとして最小限の獣医学斉一教育をやり遂げるということは、何度も申し上げているし、そのことは学部長会議でも出ていると思うが、やはり学部、特に農学部の関連学科などが獣医学教育に協カするということを十分に論議していただければ、教官に伴う学生の移動など、そういう問題は当分解決されて、ベストでなくてもベターな教育改善につながると思うので、十分に論議していただきたいと思う。

(3)唐木氏から資料3に基づき、前回の追加説明があった。
・まず質問1の学部教育においてどの程度の斉一性と専門分化を実施するのかということである。学部教育レベルで専門分化をして、学部教育レベルで基礎、臨床、あるいは公衆衛生の専門家を育てる大学があっても良いではないか、これを特徴とすれば各大学は小さくても良いではないかというような議論があったし、前からずっと出ている。しかし、獣医師は医師と同じで国家試験を通ってしまえば、その後何でもできるので、卒業後どの分野にでも就けるような基礎的学カと技術を身につけることが目的であり、国家試験もそういう理念に基づいて全科目を必修としている。したがって獣医学の学部教育は斉一性が非常に高く、大学間のカリキュラムの差が小さいという宿命を持っている。もし、学部教育レベルで専門化してしまうと、国家試験に対応できないということにもなる。では学部教育で選択が全くないのかというと、選択性はあるが、少なくとも8割くらいは斉一教育であるのが獣医学の学部教育である。もし学部教育レベルでこういった専門分化をしてしまうと、卒業してからいろいろな障害が起こってくるだろうということで、学部教育の斉一性はかなりの部分で守らなければならないと考えている。
・質問2は、欧米の大学は臨床と公衆衛生が中心で、わが国の大学はこれに基礎獣医学教育を加えた3本柱であり、欧米並みの臨床教育の充実は必要ではないのではないかという質問である。人数からいくと確かにその通りである。基礎分野に進む学生がかなり多い。それから公衆衛生に行く学生も多い。それから臨床に行く学生は4割程度と思う。それは日本とアメリカあるいはヨーロッパとの違いだという話があるが、そこはちょっと誤解があり、アメリカの4年制の獣医学部に入るまでの最初に、プレ・ベテリナリ一コースというのを出なくてはならない。そこで基礎教育を十分やってから臨床の4年間に入るので、アメリカの獣医学教育でも基礎は日本並にきちんとやっている。それからもうひとつはEUやアメリカが臨床中心というのも最近はずいぶん変わってきておリ、1ページの最後から次のページに書いてあるが、アメリカでもそうだし、それからヨーロッパでごく最近VET2020という報告書があり、2020年のヨーロッパでは、小動物臨床が多くなるということと、食品安全、環境保護、それから基礎研究、開発などの分野に獣医師が進出していくと予想している。日本はむしろアメリカ、ヨーロッパの一歩先を進んでいると考えても良いかもしれない。したがってアメリカも日本もこれから3本柱教育になっていくということであろうと思う。臨床教育は公衆衛生の基礎であり、基礎研究についての基礎でもある。獣医師である以上は臨床を知らないと基礎研究も公衆衛生も十分にできないということを考えると、欧米で行われている程度の最低限の臨床教育はやらなくてはならないと考えている。
・質問3は、仮に再編整備で2大学が集まっても、同じような講座が集まるだけで新しい分野が増えるわけではなく意味がないのではないかという質問である。これは学部長会議でも我々でも議論を尽くしてきた問題である。確かにそういう面はあるが、獣医学担当教員のほとんどは再編もやむを得ないと考えており、その場合には新しい教育科目の担当に変わるのも仕方がないと覚悟している。また実態を申し上げると、同じ講座名であっても各大学の研究内容はかなり異なっており、別の教育科目の担当をすることはそれほど困難ではない例が多い。また、一番大事なことは、例え現在同じ専門の講座が集まって、直ちに大きな改善が期待できなくても、将来の大きな改善につながるところが一番大きいことだと考えている。それから、臨床関連講座を大幅に増やしても、適当な人材がいないのではないかということについては、臨床関係の優秀な人材が不足していることは確かである。それは臨床関連の講座があまりに少な過ぎ、その講座に行ったら学生は臨床で酷使されてフラフラになるということであまり優秀な人材を育成できていない。ここがまさに獣医学教育の大問題であって、これは問題が逆で、きちんとした体制を作って是非優秀な人材を育てていきたいと考えているということである。
・質問4は、大学から助手をなくす方向に議論が進んでいるときに、獣医学もそのように考えてはどうかという質間である。これは72名というのは一講座あたり教授1名、助教授1名、助手2名という考えから出てきたのだと思うが、現在の法令では助手はきちんと置くことになっていることがひとつある。それからもうひとつは獣医学教育の中心が技術教育であることである。教育全体の半分以上が実習になっている。教授、助教授はそれぞれ講義あるいは学内業務や社会活動などをしており、実習を実際に行うのは助手しかいないということである。もし、助手を廃止するのであれば、これに変わる人員、例えば欧米であれば教員数が100名、それに対して技官が100名あるいは200名配置されているが、そういった人たちがいれば別であるが、日本では技官がほとんどゼロという状況であり、やはり助手をなくすわけにはいかないと考えている。それからもうひとつの大きな問題は教員の再生産の問題から考えても獣医学領域では助手が必要だと考えている。

(4)この後、次のとおり意見交換があった。
○基礎獣医学やあるいは臨床、臨床の中でも大動物、小動物、さらに公衆衛生という分野が出てきて、そういうものをカパーするために18の試験科目に対応する講座という話が出ている。これは例えば戦前の状態であればおそらく大動物中心であっただろう。社会的な二一ズの変化に対応する形でおそらく国家試験の内容も変わってくるだろうと思う。それがどのように変わってきて、それに対応する教育をするためにはこれだけの講座が必要なのだという、そういう説明をいただきたい。今までの議論の中でそこの点は欠けていたのと思う。これは獣医学関係の方というより農林水産省からお答えいただく内容と思うがお教えいただけると非常にありがたい。
○国家試験は農林水産省からお答えいただくことにし、私は教育の内容についてお話しする。この質問も実は農学系学部長会議の基本方針決定のときに十分に議論をした。簡単に申し上げると戦前は先生のおっしゃるように馬が中心の獣医学教育で国家試験はなかった。国家試験が始まったのは戦後である。その時から農水省の獣医事審議会の審議でだんだんと国家試験科目が充実されてきている。少なくともこの20年くらいは私の知っている限り国家試験科目は科目としてはほとんど変わっていない。ただこの数年で大きく変わったのは、今まで科目がそれぞれ書いてあったのが大きな科目に括り、臨床関係や基礎関係などそういう括りになったが、その中に入っている科目は国家試験関連科目と称して、それを数えると18科目になるということである。したがって、内容やそこに書かれている試験の項目については少しずつ改定はされているが、解剖がなくなるとか病理がなくなるというようなことはあり得ず、つまり教育内容が変わることはあり得ないわけである。何が変わっているかというと、どこに少し重点を置くかということである。しかし少なくともこの20年間、動物の愛護が盛んになって小動物の臨床が盛んになるというようなことはあるが、それはすべて折込済みの国家試験の教育体系なので、体系としては変わっていない。ただ、どこに少し時間をかけるか、どこに少しウエイト
を置くか、ここが少しずつ変わっていると私は理解している。
○今おっしゃったことの資料があるならば是非いただきたい。獣医学教育の充実は、たぶん獣医師の国家試験に対応するということがベースにあると思う。もちろんその前に社会的な二一ズに応えることが前提にあるわけだが、社会的な二一ズに対応する形で獣医師の国家試験の内容も変わっていく。そういう国家試験に対応する教育をするために何が必要なのか、どうしなければいけないのかという論理だろうと思うのでわかりやすい資料があればお示しいただければと思う。
○その論理は違う。20年前、学部6年制になる前から、全く同じ議論が続いている。既に6年制教育を始めるときに6年制教育をするだけの国家試験はもうあるし、それから必要な教育も決まっているのだが、これを実施する人間がいないことが問題になり、その時から再編整備を含めた教育充実の議論が20年間続いている。この20年間に何かがあってこういう問題が起こったのではなく、20年前からこの問題がずっと存在している。したがってこの間の変遷は何かと言われても、先程申し上げたように国家試験の科目も教育内容もほとんど変わっていない。重点を置くところだけが少し変わっているだけであって、この問題は20年間変わっていない問題だと認識している。資料を出すのは構わないが、変遷が国家試験に現れているかと言われると、細かいものを括った以外の変遷、あるいは非常に細かい小項目、中項目、大項目になっている項目が少し変わっている程度の違いだろうと思う。
○しかし、この20年間で獣医学を取り巻く社会環境は大きく変わっている。その間の変化は、獣医師国家試験に入っていないということか。
○重点を置くところが変わっている。私が大学に入った40年前は大動物中心であった。しかし、それは馬ではなく牛や豚だった。教育の内容は大動物の教育が非常に多く、牛の品種論や豚の品種論、その飼育などは非常に良く教わった。その代わり大猫の臨床はほとんど教わらなかった。しかし、国家試験の科目もあったし教育の科目もあった。今はそれが逆転して小動物のことを一生懸命教える。大動物のことは軽くなっている。しかしそれは科目として消滅したわけではなく、基準はまったく同じである。どこにウエイトを置くのか、それは大学によっても違うと思う。宮崎や北海道ではまだ大動物にウエイトを置いた教育をしているかもしれない。都会では小動物にウエイトを置いた教育をしているかもしれない。しかし基準としては全部やりなさいという基準になっているし、国家試験には全部出てくる。基準が非常にうまく出来ていて、この20年間の社会の変化には対応できるような基準だと言っても良いのかもしれない。
○20年間も持つような基準があるというのはまさに脅威に値すると思うが、それはそうとして、最初から少ないのだという論理、おそらくそういうことなのだろうと思うが、やはり獣医を取リ巻く状況というのは本当に大きく変わっていると私は認識している。だから変えなければいけないのだと。最初から少ないという話だと、ある意味ではどの分野でもそういう問題を抱えているわけで、やはりそれは説得カにちょっと欠けるのではないか。やはりこれだけ大きく社会的に変わってきている、二一ズが変わっており、それに対応するためにはこれが必要なのだという、この変更はマイナーな変更ではないので、マイナーというのは、例えば1〜2講座増やす程度であればマイナーだが、倍にも3倍にもするという話だから、やはりもう少しわかりやすい説明がいるのではないかと思う。
○先生のおっしゃるような獣医学を取り巻く状況がどんどん変化した。動物愛護の問題、その他、獣医学に対する世の中の期待が非常に高まったことも確かである。ただし、何度も申し上げているように、獣医学を教えなければならない範囲や基準というのはこのところ全く変わっていない。それを教えるべき教員が足りないというのももう戦後ずっと続いている。先生の御意向に沿ってお答えするとすれば、まだ獣医学に対する世の中の期待がそれほど大きくなかった時は、たかがイヌ、ネコの医者だからそんなに基準を高くしなくてもいいじゃないかと、そういう考えが非常に多かったことは確かである。しかしこの20年間で何が変わったかというと、たかがイヌ、ネコが自分の家族になってきた。そうすると自分の家族と同じ位の医療をちゃんと与えたい。そうすると獣医師の資格というもの、教育の内容はどうでなくてはいけないかということに世の中の方がやっと目を向けるようになったということが非常に大きな外的要因かもしれない。しかし、私が申し上げているのは内的な要因で、我々としてはこの20年間まったく同じことを言い続けている。これが最近やっとそういった状況で、先生方あるいは世の中の方が認めてくれるようになってきた。そこが大きな変化だといえばそのとおりである。
○獣医師国家試験の実施主体は農水省だと思うがいかがか。
○獣医師国家試験については、法律上は獣医事審議会長の名で実施されている。合格者については農林水産大臣に審議会長から報告があり、合格者名簿を備え、申請に基づいて獣医師免許証を発行、授与する仕組みになっている。獣医師国家試験を行うに当たっては、審議会に試験を実施するための専門会を置き、関係の大学あるいは科目の責任者を置き、その時代時代、その時点時点で必要な出題の範囲について審査をし、出題基準を設定する。そういう意味では、時代時代のいろいろな学問的、技術的新知見、新技術などが出題基準、出題範囲の中に反映される仕組みになっており、出題範囲が拡大・追加されると、それに対応した問題の作成が行われ出題されることになっている。国家試験は確か昭和26〜27年くらいから実施していると思うが、かつては記述式になっていた。設問があり、それに対して論文を書く形で回答する。その後、だんだんと獣医師に対する出題の必要性が広がってくる。そうした段階では記述式の問題を採点することについては、レベルを一定にする、採点の基準、採点の労カなどが問題になり、50年代の半ばから問題の出題基準を明確に作成するようになり、同時に現在行われているような多岐選択式の設問などを進め、また出題するについても、その時その時の獣医師に対するいろいろな二一ズを含めて出題数のバランスを決めているというのが実態である。
○出題基準は公表されているのか。
○公表されている。
○出題基準の変遷みたいなものを皆さんにお配りしていただければ良いと思う。
○国家試験の内容や基準というのは、今のままで今後とも行くということで良いのか。国家試験の合格率は良いので、人員を充実していくという方向は数か質かということに興味があるのだが、例えば看護婦などは数が足りないから充実していこうということになる。それから教官について、あるいは人員も質というよりはむしろあまりにも数が少ないということが原因であれば、例えばいきなり50名、60名にいかなくてもステップ・ワイズに数を充実していくという方法も考えられるが、質的な観点がぜんぜん抜けているので、これが抜けても仕方がないということであれば、ある程度の数が入らなければならないということも起こり得る。それとも国家試験が今から大きく変わる可能性がある、JABEEのような特別な基準が入ってくるということになると、内容的なことも考えなければならないが、そういう点で国家試験というのはあまりこれからもこの方向で変わらなくても大丈夫かということがひとつ。それからそれに対応する、国家試験だけではなく内容ということについては数を充実していくということで基本的な考えで良いのか。
○獣医師の数、質の問題だが、教育の質の点についての期待というものは持っている。世の中の獣医師に対する二一ズは、先程意見があったとおりだろうと思う。獣医師の数は、だんだん獣医師としての知識、技能を必要としない、そういった職業についている者が若干増えているので、全体の獣医師の量は需給関係としては今大きく変化をさせるようなことにはならないのだろうと思うが、その技能の中身、それに対して獣医師国家試験というものがどのように応えていくのかという点からいくと、今のところは大幅に変更をする必要があるとは考え難いと思っている。むしろ獣医師国家試験の出題基準を大幅に変えるというよりは、何年間に一度大きな見直しをしており次第に変わってきているので、そういう意味では出題の範囲を今急に大きく見直す必要性はないだろうと思うし、それは獣医学教育の面から国家試験を大きく変えるというよりは、獣医師に対する二一ズを基にして国家試験を実施しているので、連続性を持ってここしばらくそういう大きな変更をする必要性は乏しいだろうと思っている。
○今、国家試験の体制について説明があったとおりだと思うが、この点は農水省と我々獣医学教育関係者と少し考え方が違う。我々としては非常に残念なことに、国家試験というのは現状追認でいかざるを得ないというところがある。我々が理想とする教育をした時に達成すべき程度というのがあり、これを国家試験の採点基準にしたら、合格率はたぶん30%、40%になってしまうかもしれない。しかし、それをやったら社会的混乱が起きるので、そこのところは現状に合わせざるを得ないところがある。しかし我々としては、これは何とかしていただきたいと農水省あるいは獣医事審議会に常々お願いしている。国家試験でやはり基準がある以上は、この基準をきっちり達成するという試験制度を取っていただくことが、教育側にも緊張感を与え、また制度の改革も促すという意味では非常に大事なことであるので是非お願いしたい。
○助手制度自体を新生大学院がスタートしたときに変えるべきだったと思う。その問題をやると時間が長くなるのでやめるが、このところ、各大学の教員採用において助手から採用するということは原則になっていないと思う。大学院のドクター修了者から直接採用することも大いにあり得るので、助手制度がなくなったら教員の供給源がなくなるというのは少し言い過ぎではないかと思う。
○先程獣医師国家試験の出題基準の変遷なり推移なりをまとめるようにとの話があったが。
○まとめるのではなく、出題基準を以前大きく変えたということがあったとのことなので、何年の出題基準はこうだったが今はこうだという、典型的なものの例があればと思う。
○その点については農林水産省のほうに検討してもらうようにお願いしてみたいと思う。今すぐここで即答ができないので、また御報告させていただきたい。

(5)資料4に基づき大森氏から次のとおり説明があった。
・獣医学科卒業者は、毎年1,100人でほぼ一定である。獣医師国家試験合格者は毎年約千人であり、合格率は80〜85%である。
・医師、歯科医師、教員、獣医師等の特定の人材養成については、需給ギャップが生じないよう適切に対応していく必要があるので、養成規模の拡充は予定しないことになっている。
・獣医師の届け出総数は30,723人である。医師、歯科医師等については95%以上が診療業務に従事しているが、獣医師は公務員が31%、民間団体会社職員が17%、個人診療施設が38%、獣医事に従事していない者が13%、大きくこの4つに区分できる。このうち、動物診療施設で診療に従事する者は、産業動物が15%、小動物が31%の合計46%である。
・10年前と比較すると、獣医師届出総数は約9%増加しているが、公務員はほぼ横ばい、民間団体会社が19%減少、個人診療施設が逆に33%増加、第4区分の獣医事に従事していない者が26%増加している。増加の主体は動物診療業務に従事する者で20%増加している。内訳をみると小動物診療が49%増加しているが、産業動物診療は14%減少している。
・このような需要動向を反映して診療獣医師のシェアは10年前の42%が46%に増加し、この中で小動物診療獣医師の就業シェアが22%から31%に増加し、一方、産業動物診療獣医師は19%から15%に減少している。以前、農水省からも都道府県別各職域の獣医師の立地はほぼバランス良く配置されているという説明があった。
・次に需要の動向である。これも10年前と現在の比較をしている。家畜は全畜種、農家戸数、頭羽数が年々減少しているのが現状である。一方、家庭動物、小動物、イヌ、ネコの頭数を見ると、イヌは大体飼育率が6世帯に1世帯、ネコが8世帯に1世帯とかなりの割合で飼育されている。頭数はここに示したとおり、平成9年がピークでその後最近では停滞ないし減少傾向にある。
・獣医師1人当たリの動物飼育頭数については、欧米諸国の数値に比べて極端に少なく、日本が182になっている。イヌ、ネコについても欧米諸国に比べてかなり少なく549であり1人当たりの獣医師がカバーするボリュームは極めて小さく、獣医師数は10年前に比べて9%増えており、家畜の飼養頭羽数が小動物も含めて減っているので、今後ますます小さくなる傾向にあると思う。
・10年前と現在の新規卒業者の就業状況の比較であるが、平成14年度卒業者は、公務員一が19%、民間団体1会社が10%、個人診療施設が47%になっている。10年前と比較すると公務員はほぼ同程度、民間団体1会社は大幅に減っている。減少の主体は農業共済団体が顕著に減少していることが大きな要因と思う。一方、個人診療施設は大幅に就業者が増えている。増加の要因は小動物診療の志望者の大幅増である。この傾向はここ7〜8年で見ても、毎年4割を超える水準で一貫して増加している。学生の就業志向はかなり臨床、しかも小動物診療に根強いものがあり、この傾向は当分継続するのではないかと思っている。
・今後の見通しとしては、獣医事非従事者の割合が毎年増加しており、新規の卒業者においても獣医事以外の分野の就業者が、就業未定、不明者も含め毎年10%前後存在する状況になっている。また、小動物診療業務を志向する者は一貫して増加しており、地域によっては過密、過剰感が生じているのが実状である。したがって獣医師需給は全体需給を見た場合全く逼迫していない。
・免許取得者の供給は、需給の現状や動物の飼育動向等から見て現状の千人程度の新規獣医師でトータル需給はカバーしておリ、これまで農水省からご説明いただいた見解と同じである。
・BSE等で少ない部分があるのではないか、あるいは、離島僻地等の産業動物獣医師がいないのではないかという議論があったが、こういった特定地域の特定職種の短期的な不足は全体を増やすのではなく、個別政策で対応すべき問題で、獣医療法の中で、獣医療計画制度として地域の需給に応じた体制整備が制度化されているので、その中で個別の政策、個別の受入れ職域の中で奏カをして対応すべき問題ではないかと思っている。
・これらのとおり、大学の獣医学科の入学定員については、現状を堅持することが必要と思っている。

(6)この後、次のとおり意見交換があった。
○私立大学卒業の獣医師と国立大学卒業の獣医師とが分けられてない。
○分けていない。職業選択の自由ということで当然そこは分けても全く意味がない。
○私立大学の獣医学科の卒業者は本当の意味の獣医師が多いと思うが、企業としては国立大学にはやはり研究者を期待している。また、獣医学の教員等を養成するという役割もあるのではないか。
○獣医学科の入学定員は全体で930人である。国立大学はほとんど定員を守っているが、卒業者が毎年1,100の水準ということは私立大学が20〜30%増やしているということがわかる。国立大学の一番大きな問題は定員が少ないことであるので、国公立、私立大学共に定員をきちんと守リ、その中で国公立の定員を見直すという考え方も出来るのではないか。これは当然私立大学からかなり反発があるかもしれない。この会は国立大学における獣医学教育に関する協議であるが、やはり我が国の獣医学教育という立場から考える観点が必要だと思う。
○基本的に賛成だが、順番から言うと、国立大学の充実が喫緊の課題である。この論議をしていく時に当然ながら私立大学の問題を論じなければいけない。例えば大体毎年1,100人水準で卒業しているのであれば、これを少しでも減らすというか、少なくとも現状維持で国立大学の方にある程度の定員が欲しいという要求が出た時に当然私立大学が、今オーパーしていることをやめれば、200人近く減少する。その200人位の原資が生まれるという考え方は当然有り得ることだと思う。それが考えられるには実際医学分野で定員を守れ、その代わり医学のきちんと質を高める、今は需給パランスを取ることと質を確保するということでやっているのだが、その場合厚生労働省が私立大学に対して援助している。定員を守らせるための補給を厚生労働省がやっている。当然ながらこういう問題について農林水産省がいかなる考えを持っているのかどうかお聞きしたい。前からこの話はでているが、農林水産省が本当に獣医師の需給バランスをちゃんと考えようとしているか、きちんと援助をしようとしているのか。
○これまでの動きや考え方を整理すれば、獣医師国家試験合格者率は80%〜85%程度で、千名前後の合格者が出ている。獣医療計画などを考える時に実際の需要というものは診療需要等を踏まえて各地域毎に決められて、それをトータルとして農林水産省はおよそ需給バランスはどうかということをチェックし、結果としては国家試験の合格者数ということを見ている。大学毎に就職状況を報告いただいているが国立と私立を分けての検討はしていないというのが実状である。なお、獣医師の卒業者数、大学における教育実態の現場について、農林水産省は、水準、レベル、質的なものについての要請を国家試験という窓からサインとして投げかけているが、卒業者数をこのようにしてほしいといというお願い、いろいろな政策や手段を使うことはやっていない。医師の方でどのような対策をやっているのかはよくわからないが、農林水産省では獣医師養成に関する最後の出口の国家試験の行政経費を出しており、また、産業動物に従事する獣医師が非常に少なくなって地域的に不足しているので、そういった所への誘導策という点での奨学金制度はあるが、大学毎の定数管理について農林水産省として経費を支出することはやったことはない。現在の財政事情、社会的な二一ズを考えれば、今後もそういうことを導入するようなことを前向きに考えるようにはならないのではないかと思う。
○厚生労働省がやったというのはいつからか。
○医師、歯科医師、獣医師は資格試験なので考え方が非常に似ている。今の御説明からすれば、農林水産省は獣医師に対して社会的にサポートする程の理解がされていないということで、この協議の前提がおかしくなってしまうが、やはり試験としての性格は非常によく似ているので、医師、歯科医師の国家試験の経緯を調べて出していただいた方がいいと思う。
○最近の話ではなくて、だいぶ前からなのか。
○私が聞いているのは数年前からそういう話を聞いている。
○医師のインターンの義務付けに関連して同時に厚生労働省の方ではそのための予算を組んでいるという話ですが、その辺の経緯も後で教えていただくと良い。
●私立大学で国から認可されている学生定員を超えて学生を受け入れていることにはペナルティーを課される。私学振興事業団からの私学助成がカットされるというしくみがあり、これは他の分野も同じである。出来るだけ国から認可された学生定員を守っていただくことが前提だが、学生入学の見込み違いもあり得るし、多少は経営の観点という事もあり、許される範囲内で学生定員を上回った学生を受け入れるという実態がある。しかし、それを前提に国立大学獣医学科の学生定員そのものを議論するのはおかしいのではないか。私立であれ、国立であれ、学生定員は国が認可した基礎基本のルールであり、それは大前提である。私学の入学定員超過の現状を踏まえて学生定員の増加や教育組織の在り方の議論に結びつくのはいかがなものか。獣医学科の学生定員が現状で良いのかということについては別の議論ではないか。
○国公私立別の学生の進路については、我々としては調査している。一言で言うと、私立、国立のほとんどで学生の動向は一致している。ただ、東京大学は臨床に行く学生がほとんどなくて基礎研究の学生が非常に多い。北海道大学はその中間である。だからこの2大学がかなリ違う。他の大学は私立も含めてやはり3分の1程度は小動物臨床へ行っており一致している。
○明らかにその傾向が違うのであれば分けて集計してもらった方が良い。文部科学省にもあるのか。獣医師会の方にもあるのか。
○大学別にデータをいただいているので、そういう集計も当然可能だが、そういう事をやってもどうかということで今回はまとめて示した。それともうひとつ、大学入学定員の件に戻らせていただくが、アローアンスは国公私立とも同じであるべきと考えている。私立は3割の超過は構わないとのようだが、同じスタンスではないのか。
●入学定員を遵守することについては国公私変わらない。ただ私学助成を受けるにあたって、あるいは新たな設置認可を行う場合のi定の目安が立てられており、それが1.3倍といったような段階があるが、入学定員を遵守すべきということについては国公私変わるものではない。
○私立が経営上の問題で学生を1人でも多く取りたいといいうことはやむを得ないと思う。ただし、どこまで認めるかということは需給バランスを考えていく時には非常に重要であろうが、一方で先程発言があったとおり論議は別である。もうひとつ根本から獣医学教育全体の問題を考えると、ひとつの教育機関の教員数が最低どの位必要なのかという論議と同時にもっと世界的に重視されているのは学生と教員の比率である。以前出していただいた資料で教員と学生の比較をみると私学の状況は良くない。この論議はどこかでいつかしなくてはいけない。この論議をしていく時に学生の定員問題というものは出てくることであろうが、今の段階ではどこでも定員をきちんと守るということが大前提だということはよく理解できる。

(7)事務局から資料5,6について説明があった後、次のとおり意見交換があった。
○資料5の7ページだが、全国大学獣医学教育代表者協議会の検討としては上の2つは既に検討は終わっているので、検討中は3番目だけにしていただきたい。
○前回欠席したのでどういう議論があったのかわからないが、5ページの家畜病院の欄で、そもそも大学の家畜病院は家畜共済の診療施設指定を受けている所はほとんどないと思うので、因果関係がはっきりわからない。ここは、「例えば」までは落としではどうか。
○「例えば」までを切るということでよろしいか。
○保険で治療したりするのは、ほとんど牛、馬である。家畜病院での診療と家畜の保険制度は必ずしも繋がる話ではないだろうと思う。
(8)今後の協議を円滑に進めるため、これまでの議論のまとめということも含めて今後の鮮協議のためのたたき台を整理することとし・その作業を座長に一任することとなった。
6.その他
次回の日程は、後日事務局より連絡することとなった。

国立大学における獣医学教育に関する協議会(第5回)議事要旨[案]

1.日時 平成15年7月28日(月)14:OO-16:00
2.場所 霞ヶ関東京会舘エメラルド・ルーム
3.出席者
(協力者)梶井 功、大森伸男、加藤 紘、唐木英明、喜田 宏、黒木登志夫、古在豊樹、酒井健夫、島田壽子、杉村征夫、鈴木直義、長尾 拓、林 良博、藤原宏志、山岸 哲の各氏
(文部科掌省)高等教育局 高塩高等教育局審議官、杉野専門教育課長、吉村専門教育課課長補佐他
(農林水産省)消費・安全局衛生管理課 谷 技官

4.配付資料

資料1 前回(第4回)議事要旨
資料2 米国の大規模動物診療施設の代表例(大森委員提出資料)
資料3 学部教育の理念、教育内容、今後の方向に関する調査検討結果(全国大学獣医学教育代表者協議会からの資料)
資料4 第1回から第4回までの主な意見

5.議事

(1)資料1「前回(第4回)議事要旨」について、意見がある場合には、8月6日までに事務局まで連絡することとし、今最終的な文面の調整は座長に一任することとなった。

(2〕大森氏から資料2に基づき、次のとおり説明があった。

・資料に3箇所の診療施設を掲げたが、最初の2つがイヌ・ネコ等の小動物を対象にした診療施設であり、3つ目がウマ専門の診療施設で、大動物関係の一番大きいところを調査した。

・小動物診療施設は、両施設とも経営形態はNPOであり、これらの施設に勤務する獣医師数は100名ないし100以上とかなり大掛かりである。このうち、4分の1程度は、インターン、レジデントといった研修獣医師である。診療科目は、18科日、28科目であり、年間診療頭数は、回答を得られた施設で6万頭である。

・3つ目の施設は個人経営ながら、獣医師が39名、診療科目12科目、年間診療頭数1万頭となっており、ウマの診療、人工授精などを行っている。

・これら3施設は、米国でも特別視扱いされる大規模診療施設であり、これ以外は、獣医系大学の診療施設を除けば、米国でも1箇所あたりの獣医数は平均2名であり、我が国の平均である1名ないし2名とほぼ同数である。

(3)唐木氏から資料3に基づき、次のとおり説明があった。

・「全国獣医学教育代表者協議会」は、獣医学教育を行っている全国公私立大学の代表者が集まり、種々の問題について協議をしている組織であり、本資料は、そこが中心になってまとめた資料である。

・この資料には、科学研究費補助金による獣医学教育の改善についての調査に関連する協議内容も入っている。

(学部教育の理念・目標)

・各大学の教育の理念と目標はほぼ共通しており、全体を括ると、
1)産業動物臨床、公衆衛生、食品衛生等を通じて安全な畜産食品の供給に資する。
2)伴侶動物臨床を通じて国民のQOLの向上に資する。
3)野生動物の保護、種の保存等を通じて環境保護、自然保護に資する。
4)基礎獣医学の研究を通じて、先端生物学・先端医学の発展に資する。
ということであり、これら4つの目的を達成するために基礎知識へ獣医師としての診断・治療技術を身につけ、高度専門職職業人としての人格の形成を行う。ただし、上記の広範な理念・目標をどこまで学部教育で実現できるのかは、授業時問や教員数、講座数などの条件によることから、最低限必要な知識・技術のレベルを国家試験合格というところに置くことを明記している大学もある。

・各目標のうち、大学の特徴となる目標を協調している大学もある。例えば、帯広畜産大学、宮崎大学は大動物重視を、岐阜大学は野生動物重視を、東京大学は研究重視を書いている。しかし、実際のカリキュラムは、ほとんど同じで、大学の特徴を出すような講義科目はきわめて少ないというのが現状であり、各大学が掲げる特徴は、大学院教育及び研究課題で実現されていると理解できる。

(教育内容)
・特徴としては、各大学は教養科目のほかに、平均、約60科目、約110単位、約2,400時問の専門科目の講義・実習を行っており、そのうち卒業論文に8〜14単位を費やし、5年次、6年次の大半の時間をこれに充てている。

・さらに、5年次、6年次は各講座における演習等の単位が2〜8単位あるため、講座に所属し、セミナーに出席して、卒業実験を行って卒業論文を書くというシステムになっている。このシステムは旧4年制教育時の大学院とほぼ同じである。これは6年制教育実施により、専門教育が2年から4年に倍増したにも関わらず、教員の増員がわずかであったため、人手があまりかからない卒業論文に時間を配分せざるを得なかったという歴史的な経緯があるということである。

・次の特徴として、講義及び実習科目は各大学問でほとんど差がないということである。これには3つの理由があり、
1)教育体系が世界的にも確立し、教授すべき科目がほぼ決まっている。
2)6年間の教育時間から、国家試験出題関連科目を重点的に教授し、獣医師としての基礎を修得させることが中心となり、大学が理念に基づいて行うべき特徴ある教育課目を実施する時間的余地がほとんどない。
3)卒業論文に長い時間を配分するため、旧4年制教育時とほぼ同じカリキュラムにならざるを得なかった。
ということである。

・次の特徴は、国家試験関連以外の科目も開講されているが、これらの科目についても動物行動学や野生動物学など新しい分野や畜産関連分野で是非必要な科目であり、各大学間でそれほど大きな違いはないこと。

(問題点と改善の方向)

・学部教育の改善のため、@教員の質、Aカリキュラム、B教育システム、の3点をどのように改善するのか、ということについて検討を行った。

・教員の質の改善については、全大学の全教員について本代表者協議会が教育実績、発表論分数、社会的活動等の調査を行い公表した。

・カリキュラムの改善策については、@岐阜大学連合獣医学研究科の構成校である帯広畜産大学・岩手大学・東京農工大学・岐阜大学という東日本の4大学が共同して作成した改善案、A山口大学連合獣医学研究科の構成校である、鳥取大学・山口大学・宮崎大学・鹿児島大学という西日本の4大学が共同して作成した改善案、B北海道大学の改善案、C東京大学の改善案、と4つの改善案が作成されている。本代表者協議会としては、これらの改善案を基にして改善案を検討中であり、資料には現時点での、2つの案を示してある。

・カリキュラム改善案の特徴は、教育理念・目標・方向性を大幅に変更するということではなく、教員の不足、施設・設備の不足から、現在の教育内容が、理念・目標に比べ極めて不十分であるということがカリキュラムの改善の目的である。

・改善の芳法として3点掲げている。第1が教員・施設・設備など教育システムの充実により、非常勤講師による短期集中講義の解消、学生が自分で手を出すことができない見学実習の改善、特に教育の不足が強く指摘されている臨床実習の充実と公衆衛生教育の強化を大きな目標にするということ。第3は長い時間と多くの単位を割り当てている卒業論文を考え直し、5、6年次に選択制あるいはコース制を取り入れ、研究者志望者は卒業論文を書いても良いし、獣医師実務志望者は書かなくてもよいとする選択制を取り入れようという3つの方法の改善を考えている。

・教育システムの改善については、施設の充実として、附属家畜病院の充実と産業動物臨床センター、公衆衛生教育センターの設置の2つが目標である。家畜病院については各大学必置として法定されているが、産業動物臨床センターとか公衆衛生教育センターについては共同利用を考えるべきという議論が進んでいる。

・教員数については、少なくとも国家試験関連18科目を教えることができ、社会的要請に応えられる最低限の技術教育を行うことができる数ということが目標である。その最低限の技術教育の中には臨床ローテーションを中心とする臨床実習が当然含まれている。

・現状では多くの大学において1講座に教員が2名しか配置されていない。特に教授・助教授だけで助手がいない講座が多い。その結巣、教員の自己再生産が非常に難しくなっており、他の大学に人材供給を頼らなくてはならない。また、2人の教員で講義・実習・大学院生指導、研究室の管理、社会活動等の任務を全て行わなければならないということで、十分な研究時間の確保ができない。特に、内科学・外科学などの臨床関連講座では、朝の9時から夜中の2時、3時まで、家畜病院の診療・治療・手術・検査等に追われて文献を読む暇も学生を指導する時間さえも取れないというような悲惨な実態が報告されている。このような現状に対する反省から、1講座に最低限各1名の教授・助教授・講師または助手ということで3名。臨床関連講座については助手が2名で計4名の教員を配置し、大学院教育をするためにはその数をさらに増やす必要がある。

・以上のような前提に基づき、以下のような教員数の計算をしている。
1)国家試験関連科目18科目のうち、解剖学から寄生虫学までの11科目は、それぞれ教授・助教授・助手による講座で、33名が必要である。
2)魚病学と倫理・法規も同様の講座が望ましいが、当面は非常勤講師でも仕方がない。
3)公衆衛生教育の充実のためには獣医公衆衛生学と衛生学の2講座だけでは不足ということは意見が一致しており、少なくとも疫学、食品衛生学、環境衛生学など3講座程度を加えて、公衆衛生関連で5講座15名の教員が必要である。
4)臨床教育の充実のためには内科・外科・臨床繁殖学というのが大体の大学にあるが、動物種別あるいは臓器別、あるいは臨床に関連する麻酔科、臨床病理、臨床薬理などいろいろな形態が考えられているが、臨床講座としては最低6講座程度が必要である。臨床講座は業務があるので、各講座助手2名として合計24名が必要である。
5)家畜病院には、教授・助教授に助手が4名程度いるだろうということで合計6名を考えている。家畜病院には15ないし20の診療科を設置しなくてはならない。そのうち大動物臨床関連の診療科は全国の大学のうち適当な箇所に設置して共同利用とし、そのほかの診療科は全大学に置く。20の診療科をおく場合にはその維持に最低40名の教員が必要であるが、臨床関連講座と家畜病院所属の教員を合わせて30名になるので、この30名を活用して診療科の業務を行うとともに、教育の臨床ローテーションを担当する。
6)標準的な臨床ローテーションは、16診療科とする。米国の大学附属家畜病院は軒並み20診療科以上あるので、日本で16診療料ということはアメリカの8掛け程度かそれ以下という感じである。一応、16診療科として、そのうちの半分の8診療科は必修の診療科とし、残りの8診療科のうち4つを選択するということで、学生は全部で12の診療科を6年次の1年間で回るという臨床実習を行うように計画をしている。講義は、臨床関連講義が4年次後期から始まり、5年次のほとんどを占めるので、臨床関連の教員は、4年次・5年次の講義と6年次の臨床ローテーションを同時に実施する必要がある。したがって、それだけの教員数が必要ということになる。
7)臨床担当教員はほとんどの時問を教育に割かれるため、病院業務を担当する教員やレジデントの雇用が必要となる。そのため、家畜病院収入を利用するというような工夫も必要ということである。
8)以上の国家試験関連科目以外に、各大学は当然動物行動学や野生動物などの新しい分野の教育あるいは畜産関連や各大学が特徴とする産業動物臨床センター及び公衆衛生教育センターなどに教員を置かなくてはならない。各大学が国家試験関連以外の講座を3ないし4講座持つとすると各講座3名として9〜12名以上の数が必要になる。
9)教員数をまとめると、国家試験関連18科目のうち11科目で35名、魚病学と倫理・法規については0名、公衆衛生関連で15名、臨床実習教育関連で24名、家畜病院6名、
新分野で9〜12名で合計25〜28講座、教員数87名〜96名という討算になる。その数は欧米諸国の獣医科大学の教員数とほぼ同様の数である。しかし、このような多数の教員配置は直ちには困難であるため、教育への支障を最低限にするということを前提にして、当面大学基準協会がいろいろな状況を考えて最低基準とした数72名を最低配置するとして、不足する教員は病院収入を利用したレジデントの雇用や、非常勤講師で補う等の工夫をするようなことを考えている。

・これらは、最初に申し上げたとおり、検討の中間段階であり、本代表者協議会として全大学の意見を伺って少しずつ修正をしなくてはならないものであることを付言する。

(3)この後、次のとおり意見交換が行われた。(○:協力者、●事務局)

○全国大学獣医学協議代表者協議会というのはいつからあるのか。
○獣医学の教育年限の延長をどうするのかということから始まったので30年くらい経っている。獣医学教育を行っている全大学から数名ずつの代表者が選出され、その代表者が春と秋に開催される獣医学会の折に全体会議を開き、獣医学教育の改善を目的として協議を進めている団体である。
○この資料は、1ページの「はじめに」にある3つの資料を基に、先生がまとめられた報告ということなのか。
○そのとおり。獣医学教育改善ホームページに出ている資料もあるが、ここに書いてあるような資料を基にしてまとめたものである。
○中間報告ということだが、これは科研費による調査を続けてさらに新しい提案をするということになるのか。
○科研費については、おととしの3月が第1回目、去年の3月が第2回目で終わっている。ただし、科研費とは無関係に全国協議会として教育改善のための検討を続けているということで、まだ検討中ということである。
○講座編成の仕方ということでお聞きしたい。他の学部などでは、ひとつの専門領域ではなく、学際・融合的な方向が出てくるように教授1名・助教授1名といった小講座編制ではなく、学際・融合的な大講座方式にしている。そのような方向性についてのお考えはいかがか。もうひとつ、学部教育で、セミナーや卒業論文は、将来外されることになるのか。国家試験以外の科目もあるとのことだが、学部教育のメインは、実学としての国家試験関連的なもので、研究者育成と臨床家育成と2重の方向性を説明されたが、その辺りをどのように行うのか。
○全国協議会としては、小講座単位で人数を計算するのが一番分かりやすいということで、ここではそういう計算にしている。大講座にすることは可能である。科目を中心に、書いているので、大講座に組み込むときにもこの数が基本になると考え、このようなやり方をしている。
セミナーや卒業論文は、選択制にしたいというのが原案である。卒論を全く止めるわけではない。しかし、臨床ローテーションというのが6年次のかなりの時間をとるので、臨床ローテーションを必修にすると卒論の実験研究の時間がなくなる。臨床ローテーションの負担を軽くして卒論を行う学生がいて、その人は研究者になっても良いではないかという議論が続いている。我々の間で2つの意見があり、やはり卒論は必須にして研究者養成は大事にすべきだという意見と、獣医師のアイデンティティというのは臨床にあり、医学部で臨床ローテーションをやらずに医師になる者がいないように、獣医学においても、きちんと臨床ローテーションを行った上で基礎研究に戻るということが筋であるという大きく分けると2つの議論が進行中である。
○これはまだ決まったということではないのか。
○案である。
○これは重要な示唆であると思う。5ページの一番下に、「教員数の総計は欧米諸国と同様の数となる」と書いてある。これは、本当に日本でも一緒なのかどうか。つまり、欧米と日本では、獣医学教育が目指しているものが違っているのではないか。欧米の獣医学教育の目指しているのは臨床獣医師の養成であるが、日本ではそうはなっていない。この違いを教育にどう反映させるのかが議論になる問題である。今、医学部の学生と対比させた発言があったが、例えば東京大学の医学部でも8割以上が臨床実習を行っているのではないか。
○国家試験の合格率はそのくらいである。臨床に入っても基礎指向の学生はいる。やはり、かなり基礎指向だと思う。
○教育というのは人材を育成するための行為であるということを考えた場合、東京大学は、3割も臨床獣医師になっていないし、おそらく、北海道大学でもそういう状況と思う。これで1O年後、20年後を考えたときにどのような予測を我々は立てるのか。欧米と単純に比較すべきではないと思う。つまり、必要とされている人材が違うのではないかということである。臨床獣医師を養成するための獣医学教育なのかどうか。これは卒論のところでも言えるし、ありとあらゆるところで言えることである。
○かなり意見の対立があるところである。全国協議会としてはまだ検討中であるが、東4大学と西4大学の案はすでに確立している。国立10大学中8大学は、これでいきたいということを明確に表明している案を中心にして協議会で検討している。北大案と東大案については北大案は了承されていると聞いているが、東大案はまだ了承されていないので、少なくても9大学は確定した改善案から出てきた数字がこの数ということである。
欧米と同じと言ったのは人数が同じということで、内容についてはおっしゃるとおり、かなり違う。欧米は臨床中心で、基礎の教員は米国ではほとんどいない。それは、プレ・ベテリナリー・コースで基礎の教員が教えている。目本では臨床も基礎も教えなくてはいけない。いろいろなジャンルの学生を出して行くということになると、米国以上の教員、講座が必要という考え方にもなる。その辺のところをどうするのかというのは非常に大きな間題と思う。個人的には、基礎は現状程度で、臨床を強化するのが必要と思っている。
○医学が参考になるかも知れないが、医学部も6年コースで、さらに4年間の大学院コースがあるが、ひととき問題になったのは修士課程がないということである。レビューを含めた論文を書くというコースがなく、いきなりドクター・コース的な研究に行く。修士課程が欲しいという本音はあるが、それを学部教育の方に持って行くことはできない。学部教育は、やはり、しっかりとした臨床医を育てるという社会的要請が高いので、学部教育の6年の間にそれは入れない。獣医学において、セミナーや論文というのは、やはり研究者養成上どこかで入れなければならないと思うが、これと臨床獣医師の養成とを同じ中で行うと混乱が起こる可能性があると思う。医学の方もメディカル・スクールの発想が出てきているのは、最初の基礎的なところは同じにして、基礎教育をやった人を臨床の専門校として教育し、それとは違う形で大学院を置き、一緒にしないようにできれば良いという意識からである。
○我々も全く同じことを考えている。
○前回、臨床と研究と公衆衛生という3コースに分けるという3コースに分けるという案の発言があり、そのためには人数が足りないということであった。私はその3コースは、獣医学科の卒業生が現実に活躍する場に対応していて非常に分かりやすく、学生の方も目的意識があって良いと思うが、ここで出ている卒論を選択制にするということは、研究と臨床という2つの方向ということになる。できたら3つのコースにして、ひとつの大学の中で3コースを用意することは大変なので、大学をコースで分けてしまい、たとえば4年次を終えた時点で公衆衛生のコースはこちらの大学に、臨床はこちらの大学に移る。非常に思い切った案だが、そういう形にすれば少ない人数でさらに集中してできるのではないかと思うがいかがか。
○実はそういう案もあった。まず、臨床ローテーションをするコースと卒論をするコースの2つに分ける。大動物臨床を知らないと公衆衛生の基礎ができない。したがって、臨床ローテーションは大動物臨床と公衆衛生の2つのコースに分けられると考えられる。大動物臨床実習と、公衆衛生実習は、全大学が置く必要がないかも知れないと考えているので、それを考えると今の案に少し近くなる、ただ、我々の中でこの案が必ずしも支持を得なかった最大の理由は、例えば基礎のコースに行った学生が、将来臨床をする可能性が当然ある。この学生が全く臨床ローテーションをやっていないで獣医師になるということになら、現在と少しも違わないことになる。これは公衆衛生についても同じであるが、特に、基礎だけしかやらないということについては非常に問題が多い。臨床コースと公衆衛生コースは小動物中心なのか、大動物・公衆衛生中心なのかということであり、これは、臨床をやらないよりは問題が少ないだろうと考えているが、これは議論の途中である。ただ、基礎獣医学専門大学というのを作ることは反対が多い。
○東4大学案、西4大学案というのはいつできたのか。
○3年くらい前だと思う。
○東4大学、西4大学、北大案、東大案というのは同じような時期にできたのか。
○東大案はまだ検討中である。東西の大学案と北大案は3年くらい前にできたと思う。
○これはもう成文化されて公表されているのか。
○最初の資料一覧にある科研費の報告書に出ているし、確か、ホームページにも載せていると思う。
○東京農工大学で東4大学案がまとまったという話は聞いたことがないが。
○各大学の状況は知り得ていないが、4大学の教員の集まりがあり、そこで長い間検討されて全国大学獣医学教育代表者協議会に報告いただいた。
○全国大学獣医学代表者協議会というのはどういうものかというと、例えば演習林協議会というものや農場協議会というものと同様、各大学の農学部の1パートが横の連絡を取っているものである。したがって、大学の案ということは決してないし、農学部の学部レベルの案でもない。学科レベルが横につながった組織の案であって、これは各々の大学の学部とか評議会など、大学でオーソライズされたものではない。したがって、決まったというのは獣医学科の中で合意に達したと理解していただけると分かりやすいと思う。
○しかし、農場協議会や演習林協議会などの議事や決まったことは、教授会で報告されるのだが。
○大学というのはそういうふうになっていない。
○少なくとも東京農工大学では演習林協議会と農場協議会についてはきちんと報告がある。この話は聞いたことがなかった。この案は、代表者会議の資料として固まったものではなく、ここに4つばかり掲げてある資料から、唐木委員が、学部教育の理念、教育の内容、今後の方向に関する調査検討としてまとめられたという資料で、そういう理解で良いか。
○科研費報告書を中心として、私が少し追加をしたということであり、最終的には私の責任で変えたものである。
○獣医学教育の目標なり理念の4本柱のうち3番の野生動物保護とか種の保存については、国家試験の科目にすらひとつもない。これはどういうことなのか。非常に奇異に感じる。そういう中で岐阜大学は、特徴としてこの野生動物重視をあげておられる。資料の中には岐阜大学のカリキュラムがないので、どのようにやっておられるのか簡単でも良いので説明していただきたい。なぜならば、これだけ「3」がないがしろにされているにも関わらず、必ず大学のパンフレットにはこの4本の柱が絵になって出る。そうすると高校生は非常に幻想を持つと思う。ここに行けばこういうことができるのかと思って行ってみると、国家試験にもないし、講座もないし、借り物の非常勤教員による教育だったり、ということでは、非常に看板に偽りがあるということになってしまう。このところを説明いただきたい。
○国立大学で野生動物の講座があるのは岐阜大学だけであり、そのほかの大学にはない。
○岐阜大学にも正式には講座はない。ただ野生動物をやっている人はいる。
○これがまさに獣医学教育の現状を表しているということである。4本の柱があるが、産業動物臨床・公衆衛生にしても1講座ないし2講座しかない。本当は3分の1の講座くらいなくてはならないくらい大事なところである。2番目の産業動物臨床にしても内科・外科くらいしかない。3番目の野生動物の保護・種の保存は、各大学やろうと思っているが、講座をつくるような資源がない。あるのは基礎獣医学。基礎獣医学は、せめてきちんとやらないと人材養成ができない。これが獣医学教育の現状である。これをどうしたら良いかということを、ここでぜひお考えいただきたい。
○私は解剖学教室にいて実際には繁殖学をやっているが、今までで過去10年間学生が取り上げたテーマの中で野生動物を対象にしたのは半分くらいある。鯨とかコウモリが主体だが、そういう形で繁殖学という切り口で野生動物学教室という名前がつかなくても対象にしているところは全国に結構ある。生理学とか生化学などはマウスとかラットしか使わないが、わりと素朴な分野のところは野生動物を相手にしているところはかなりある。ただやはり1講座くらいは野生動物の専門学的なことをやるセンター的な講座がないとマネージできないという意味では確かに不足していると思う。
パンフレットと実際の研究内容にものすごい乖離があるのではないかということは、これは、文部科学省から、これで本当に大丈夫なのかと指導いただいた方が良いのではないか。やはり受験生に対して極めて不誠実である。
○岐阜大学でも野生動物という講座があるわけではなく、熱心な教授が2〜3人いて、その人たちが中心になって、21世紀COEプログラムで、野生動物を指標とした環境評価という大きなグラントを取った。その中には、帯広畜産、岩手、東京農工の各先生に入っていただき、例えば帯広畜産だと、確か海の大きい動物のいろいろな聞題など、現実に小動物だけではなく、野生動物はかなり大きな分野を中では占めている。これが講座という名前ではなかなか出てこないし、これを強調して全面的に売り出す中心テーマに据えようという大学は岐阜以外にはあまりない。
○岐阜大学の2人の先生は、l00%野生動物の先生なのか。
○カモシカを対象としておられる方と、クマを対象にしておられる方がいる。
○確かに各大学とも野生動物の研究は行っているが、これが本当に講義という形で行われているかというと、それはほとんどない。研究と講義はかなり乖離している。研究のレベルで言えばあらゆることをやっているが、きちんとした人材がいて講義をして学生を育てているかと言われる、それはやっていないと言わざるを得ない。
○前回、事務局で今までの論点整理を行ったが、今回、前回分も含め、改めて論点整理していきたいと思う。資料4の説明を事務局からお願いしたい。

(4)事務局より、資料4について説明の後、次のとおり意見交換があった。

○今の論点整理でよいとは思うが、全国獣医学教育代表者協議会の資料に基づく議論を聞いていて申し上げたい。これまで獣医学教育が非常に小規模な教育組織でやってきて、これではまずいという反省がある。したがって、これまでのそういう組織での教育を続けるという前提を取り払わないと議論ができないと思う。農学部長会議でも全国獣医学教育代表者協議会でも、それぞれの大学が全部大きくなるというのではなく、教官数も学生数も今とそんなに変わらないということが前提であれば、再編しかないのではないかということが結論である。臨床に特化するとか、あるいは基礎研究に特化するとか、あるいはどれかのコースをある大学で行って、別のコースは別の大学で受けるという案も獣医学科の中でも出たことがあるが、結局、基本的な獣医学教育をするために圧倒的に規模が小さいわけで、これをまともにすると、今の我が国の国立大学の教官定員と学生定員を考えると3つか4つにするしかないということが先の結論であったかと思う。
申し上げたいのは、これまでやってきたことが不十分だから十分にしたいということであって、基本的な獣医学教育を、幾つかの大学でそれぞれきちんとやるにはそれなりの規模がやはり必要であり、各大学の特色はやはり大学院教育や研究で出すべきものであって、基本的な獣医学教育はほとんど斉一であるしかないと思う。
○私の理解も、国立大学の今の規模でやってきたことの制度的不合理性を何とかしようということであると思うが、3から4にするというのは今まで出ていない。全国農学部系学部長会議では5から6という数字が出ている。
○それは大学の数ではない。
○そのとおりそれは地域の数である。したがって、大学の数については出ていない。地域については出ているが、大学の数は出ていない。3から4という数字も出ていない。これは確認しておく。どこでどういう話が出ているかということは、はっきりさせでおいたほうが良い。
○はっきりした話が出ているのは、獣医師会が有識者会議を開催し、そこの詰論で、獣医学教育をするのに教員72名が最低限必要で、どうやってそれを充実するのかというと、現状入学定員30ないし40、教員数25ないし50の大学を例えば3つ集めれば入学定員が90ないしl00、教官数は75ないし100になる。そうなると全く今の資源をこれ以上増加することなく良い教育ができるではないか。仮に3大学集めるとすると全部で3校とか4校にとか、なるわけである。そういう意味で数が出ている。もうひとつ議論で出たのは、3校集まれば十分な教員数で十分な教育が行える組織ができるが、今の状況は教員数が少なすぎて教育が不十分であるため、獣医の大学は税金の無駄使いをしていると言わざるを得ないので、この状況は至急なんとかすべきというのが納税者の立場から言えることというような意見があったということを付け加えておく。
○資料3の5ページ目の教員数のまとめは非常に検討に値する。これは私とは意見が違うが、財団法人大学基準協会で私も関わった教員数72名の案は、18科目に、教授1、助教授1、助手2ということで、18x4=72という数字を出したもので、どの分野をどう充実させるという観点での数ではない。したがって、本当に根拠がどうだったのかということに関しては弱い数字と思う。しかしこの資料では、積上げをされてひとつの大学で充実させるとこうなるという計算で、たたき台としては大変貴重なものではないかと思っている。しかし、例えば獣医公衆衛生学分野に5つの講座が上がっているが、ここまで挙げると、ある意味専門教育をより高いレベルで行う専門大学院的なレベルではないかと私は思う。学部教育でここまで獣医公衆衛生学でレベルの高いものを、しかも全ての大学で行うというのは、果たして本当にこれは全体のバランスを考えたときに必要なことなのかという意見があるが、ひとつの貴重な資料とは思う。関係して、各大学ごとに分担して5年次から別の大学に移るということは、今の国立大学だったらできるような気がするが、事務局の資料の最後にもあるが、法人化したら経営的な側面を各大学とも強めるので、やりにくくなるのではないかと思うがいかがか。
○法人化したほうがやりやすいのではないかと思う。特徴を出すという意味では一番良いチャンスだと思っている。
○自分の大学だけで教育を完結することができないということになるが、果たして法人化後、各大学がそれを指向されるのだろうか。
○基本的な点は今の人数でやっていくとして、その上に例えば5講座の中に特殊性のある個性を発揮できるような講座を自助努カで作っていく。72人というのは、これはどうやってもできない数字だから、そこまでいかないけれども、より個性化するという方向でいけば生き残る道があると思っている。
○今の話に関係するが、これは設置基準の改正を何かやったのではないか。大学院について、他の大学と協議して作る。何かそう書いてあったのではないか。
●連合大学院ではないか。
○連合大学院でも連携大学院でもなかったと思うが。確かめてもらいたい。
○72人という数が出ているが、法人化後は定員管理ではなく人件費管理となる。計画上は教授何人、助教授何人と一応計算はすると思うが、一括して交付金となり、人件費の安い若手を増やすなど、教員数はかなり動く可能性がある。まだ法人化になっていないので実態は分からないが、教員の数だけという議論ではないと思う。
○以前、国立大学協会の第4常置委員長と第7常置委員長の連名で、これだけ大学院で研究者養成コースということが明確に定まっている以上、助手制度はもうやめたほうがよいのではないかという意見書を出している。これから、各大学でどういうような教員構成をとるのかということは、各大学で自由にお決めになる時代なので、教授1、助教授1、助手2ということをあまり念頭に置く必要性はないのではないかと思う。分野でもって、これにあたる教員は何人必要なのかという議論の方が良いと思う。
○関連するが、この獣医学科の問題を議論していつも引っかかるところが、どの大学でも獣医学科だけが他の学科と違うということ。例えば、改組をやっていない農学部はないが、獣医学科だけは改組の埒外となっている。ほとんどの農学部の他の学科の講座は大講座ないし中講座だが、獣医学科だけが小講座。これはいろいろな意味で大学の中のあるいは学部の中の運営に実は支障を来たしている。獣医学科というのは、他の農学部の他の学科と明らかに異質な取り扱いしてきた。ところが、実際には例えば今獣医学科を改組しなければいけないという理由の中に畜産の問題も出てくる。畜産学科との関わりはどうしたら良いのか。本学の農学部もこれにずいぶん長い時間議論してきた。まとまらなかったひとつの理由は、畜産学科というのは、いわば大学の畜産学科でものを決めることができる。ところが獣医学科の場合は、横との関連があってなかなか一大学の獣医学科の問題でものを決めきれない。つまり全国的なレベルとの横並びの問題というのが出てくる。これはおそらく獣医師教育との関連もあると思うが、これがなかなか話がまとまらないひとつの要因である。それが全てとは言わないが、大きな問題として考えた場合、今、獣医学科が当面している、例えばグローバリゼーションに伴うBSE、あるいは食品の問題、あるいは公衆衛生の問題は獣医学科固有の問題ではなく、畜産学なりあるいは他の流通まで含めた幅広い食品の間題だろうと思う。そう考えると、単なる獣医学科の議論の話ではないのではないか。もっと思い切って視野を拡げたところで問題点を整理しないといけないのではないか。例えば今の話の中でも、小講座の議論などは農学系でやっているのは獣医学科だけであって農学科出身としては、聞いていて非常に違和感を感じる。やはり獣医学科の中だけの議論ではないかと感じる。もうちょっと大きな視野から考えないとこの問題は解決しない、べースはそういう問題ではないかというのはずっとあるがいかがか。
○確かに我々も大きな視野で考えたい。しかし目先の教育ができないような組織があるときにそれをどう改善するかという問題と、大きな視野の問題とは別個の問題として考えるべきであって、我々としてはまず目先の教育をきちんと行うためにどうしたら良いかということを検討している。大きな視野で畜産や農学全体とどうするのかはむしろ外の先生方から良い意見があれば伺いたい。ぜひ出していただきたいと言っているが、具体的な意見を承ったことは残念ながらない。自らが考えろといわれると我々はまず目先のことで手がいっぱいというのが現状かも知れない。大きな視野で考えるにしろ、我々が責任を持っている教育をどうするのかをまず解決しない限り、大きな視野は考えられないし、まず大きな視野で農学部全体が獣医を含んでこういうふうに考えましょうという案を出してくれれば、それはまた検討に値する。そういうことでその辺の議論は常にすれ違っている。したがって、ぜひ、ではどうしたら良いのかという具体的な案を提案いただきたい。
もうひとつ、小講座で人数を数えるのが数えやすいということでやっていると申し上げたが、もうひとつの理由は、先程、獣医公衆衛生で5つもいらないのではないかというお話もあったが、これは全ての大学で、あるいはほとんど全ての大学でこの5つの講義をやっている。それから実習もやっている。ということはそれを担当する教員が必要であるということである。教員だけで良いのか、この分野の研究をやる人はいなくてもよいのかということを考えて、こういうことを研究する人たちの集団が必要ということで、これは別に小講座でなくてもかまわない。大講座であってもかまわない。しかし、我々としては教育科目を一応講座という名前で言っているが、科目と読み変えていただいても結構である。少なくとも東京大学の獣医学課程は大講座になっているし、北海道大学もなっている。したがって、獣医学科が全体の流れから遅れて小講座に固執しているというのではない。
○統合しなくてはいけないということに関してはほとんど異論がないような状況になっていると思うが、一番少ない数で54人で、多い数にしては100を超える人数も出てきているが、農学部の中で教員数が50を越えるというのは相当大きな学科である。70とか80とかは、地方大学では農学部全体の教員数に相当する。獣医学科以外の私からは理解しにくいところがある。農学部の中に70〜80人もの教員の規模がまとまって獣医学科というのができると、農学部全体の運営にも相当のきしみが出てくることも考えられる。教員数80名とか72名とか100名とかいう議論は、学科という範囲で考えているのか、それともそのくらいの規模になれば獣医学部独立ということも可能性としてあるのか。
○獣医学関係者の中の話では、このくらいの数になったら学部として独立せざるをえないだろうと考えている。
○先程から大体学生数、教員数というのはあまり動かないということを前提にして議論しているが、獣医関係者の方々は今の獣医師の数というのを世界的状況でこの程度で良いというような理解になっているのか。この前、獣医師の需給推算を農水省からお聞きしたように、あれは完全に産業動物を前提にしての需給推算になっている。しかし今獣医学あるいは獣医師に求められているものからいえば、小動物の間題もあるし、公衆衛生の間題など、産業動物を前提にしての需給推算は収まりきらないファクターがいっぱいある。にも関わらず産業動物を前提にした獣医師の需給推算でもって、入学定員1,000名の枠でよいのか。そこのところこれはむしろ獣医師会より、あくまでも獣医学科の先生方にお聞きしたい。学生を送り出している立場からどうか。
○入学定員は正確には930名。930という定員をどう考えるかということだが、これから時代時代に伴って獣医学教育に対する要請がどんどん変わって行くと思うが、日本の獣医学教育に対する要請というのはこれから2,30年先を見てもやはり大きく3つくらいの分野だろう。この3つを進めて行くべきではないかと考えているので、今の930名という定員であれば、受験生は、大変最近は入りにくくなってきているのが、これを変えないで続けて行くべきではないか。そのときに一番大きな問題は、獣医学と畜産学の教育の関係をどうして行くかということは急を要することではないかと考えている。つまり、資源としては獣医学教育の教育資源があり、畜産学科も教育資源があるので、この2つについてもう少し資源の有効活用ということを考えていったらよいのではないかということを考えている。
○獣医師の需給推算については、確か2回目の協議会で農水省から説明があり、主として産業動物分野における需給推算ということであったが、現状では足りているのではないか。その1つの証左して、全く獣医事に従事しない者が約2割おり、この部分が年々増えている。一方、特に小動物の分野の関係については全体、国公私立を合わせて毎年1,000人の卒業者が出るが、約4割は小動物臨床現場に新規参入している。この部分はここ10年くらいで急速に増えた。最近やっと上げ止まりかなというところだが、そのうち4割が小動物臨床分野で増える。地域的に見ると農水省が需給推算をやっていない小動物臨床分野においてはやはり過剰感、過密感が出ているのではないかという感じがする。
もう1つは、獣医師は医師と違い、医師は9割が臨床分野に従事されるが、獣医師の職域は非常に多岐にわたるということで、約3分の1が公務員の獣医師、3分の1が開業の獣医師、残りの3分の1が団体・民間会社ということで非常に多岐にわたる。私の立場で申し上げると、多岐にわたる分野での1分野でその時々の需給ギャップが確かにあろうかと思うが、それによって全体枠を増やすことになると、全体の需給上の悪影響がでるのではないか。医師、歯科医師、獣医師、船舶職員、教員というものについては、当面学生定員枠を需給上の政策的配慮から増やさないとされているということもあり、獣医師の教育の質の充実を図る中で総定員枠930人を増やすということはなかなか難しい話があるのではないかと思う。
○入学定員というのは教育の内容と密接に関係があると思う。4年制教育の時代には日本の獣医学教育は臨床を非常に無視して基礎教育中心だった。それでも臨床に行くのは3分の1はいたのでよかったが、企業としては、4年制教育で動物のことがわかっている人間というのを、非常に便利で製薬会社関係などでは非常にたくさん採っていただいたという歴史がある。それが6年制になったが、現在の6年制は昔の4年制プラスマスターみたいなものだから、大学院を出て薬学とかその他の学生を採るのと変わらないセンスで企業が採ってくださっているということがある。ただ、我々が真剣に考えているのは、教育内容についてもうちょっと臨床を重視し、あるいは公衆衛生を重視しようというように教育を変えていこうと考えている。そのときに、基礎教育をどうするのかは、私は基礎教育の部分は4年制の大学プラス大学院で、昔の獣医学科がやっていたような基礎獣医学、あるいは基礎生物学、バイオ関係をやったらよい。獣医の方はもっと臨床・公衆衛生を重視したら良いというように考えており、そういう方向で行くとすればそういう求人数は別のところへ行ってしまうので、私はこれ以上獣医学科の入学定員を増やすことはできなくなるだろうと思う。したがって、今後教育内容をどうして行くのか、やはりバイオ、生物学の学生を多量に作るということを獣医学教育の中にとどめておくのであれば、ある程度需給を考えると学生数を変えなくてははけないかも知れないが、そういう要請と獣医学の我々の将来計画とは別の方向、つまり基礎はある程度で良い、臨床・公衆衛生を重視しようという方向であり、結論としては入学定員を増やす方向には考えていないということである。
○入学定員の問題は非常に重要である。今まで増やす必要はないという意見を伺っているが、現実にはBSEが出て、これから1頭、1頭のウシを全部検査するとなるとかなり専門の獣医師を増やさなくてはならないのではないか。それから最近はSARSという問題が出て野生動物のいろいろな微生物学的な検査というのが重要になってくる。そういう点で見て行くと、むしろこれから公衆衛生方面の獣医師というのが長い目で見るともっと必要になるのではないかという気がする。しかし、どのくらい増やせば良いのかということをきちんと数字で基礎のデータを示すということは難しいと思う。ただ、食の安全の委員会もでき、もっときちんとするということになると、やはりそれに応えるのが獣医師である。そうすると獣医師の定員もそちらの方向を強化する。強化するということを、はっきりとバックできるのはやはりコース制というものがないとそれに対応することができないのではないかと思う。
○6年間の高等教育を全員が必要かどうかを考える必要がある。やはり獣医学の領域も医学と同じように検査技師に相当する質の高い人たちを養成する教育システムを作りあげることが行われるようになると思う。そういう分野が大きくなるということは、頂点があってピラミッドを形成することになる。ピラミッド全体を獣医師が行うということは、獣医の分業ということになるが、これは考えていない体制ということになるので、その頂点のところに獣医師がくるのだろう。そのピラミッドを高くするためには、頂点の特に上のところの人たちに相当な教育をするという意味で、資料3の5ページのように獣医公衆衛生学に5つくらいの講座がある大学が、専門大学院的に全国にひとつあれば大変ありがたいと思う。しかし全部の大学がある必要はないというのが私の率直な意見だ。というのは獣医公衆衛生学で大きく各大学は2つくらいの分野を持っているが、解剖学でいうと、解剖学は、いわゆる解剖学と組織学と発生学をやっており、ひとつの分野の中でいくつもやっている。そういう意味では、獣医公衆衛生分野だけで5つもの講座を全部の大学が持つ必要はない。頂点の大学をどこかにひとつ作る必要があるだろうとは思うが、獣医業全体の分業ということで、全体的な獣医師の数を増やすとことはあまり重要ではないのではないか。むしろ、今、BSE騒ぎによる全頭検査によって大量の獣医師を用意してしまった。しかし、私の大学の教授もああいう体制は必要ないと、言っており、ひょっとするとあちらこちらの獣医師を解雇しなければならないのではないかという話が出てきている。今、少し全体として大騒ぎしすぎているのである。きちんとした体制を持っていないからであって、今後きちんとした体制をもつということを考えた場合に、それほど大規模な獣医師の数を増やすことにならないだろうと思う。
○企業の立場から申し上げたい。資料4に獣医師の需給関係というものがあり、獣医師はそれほど増やす必要はないのではないかと出ているが、我々の見るところでは薬剤師も同じだが、私立の薬科大学に求めている薬剤師と、国立大学の薬学部に求めているものとは、我々の立場ではちょっと違う。それは獣医師に対しても同じで、私立の獣医学科出身者は、確かにいろいろな面での獣医師、本当の意味での獣医師になられる方が多いのかなと思うし、小動物の獣医師になる人も多いのだろうと思うが、国立大学の獣医学科に我々が求人するときにはそういうことではなく、やはり動物を使ってのいろいろな意味での研究能カを養成しているところに非常に魅力があって、そういうことでお願いしているのであって、基本的には獣医師の資格を持っているかいないかということはそれほど重要ではなく、そういう能力を持ってやっていくというところに我々の需要がある。我々は、はっきり申し上げて、とてもではないが満足な数を採れているわけではない。もっともっと必要だが実際は採れない。数が少なくて採れない。そういう意味では、本当の意味の獣医師になる数というのは十分足りているのかも知れないが、潜在的需要というのはかなりまだあるのではないかと思う。医学部の先生方もそうだろうが、基本的にはヒトで実験するわけにはいかないので当然動物をつかっていろいろなモデルを作ってやって行く。医学部の基礎のところも動物を使ってやっているのだから、そういう意味で、動物をきちんと使っていろいろなことを予測し、いろいろなことがやれる獣医師、獣医学の教育に基づいた研究者は、まだまだたくさん必要と我々は思っている。
○私立大学に籍をおく立場から2点ほど非常に興味をもったのは、ひとつは入学してきた学生に対してどのようにサービスをするかということが、学生の視点と離れていささか学部の存在の上に成り立っているのではないかと思う。かつて獣医学にきた学生と今の学生では非常に大きく違っており、今は、類医学部的なものを教育に求めてきていることがあるのではないかと思う。そうするとそれに対応するような教育システム、あるいはサービスをしなければいけないと思う。出口の方にしても、1つは確かに食の安全というところで獣医師の存在は非常に大きいが、コンパニオン・アニマルに対する診療行為というところに、やはり別の考え方が出てくるだろう。そうなると臓器別、あるいは診療科別の教育による獣医師ということも、やはり必要になってくるのではないかと思う。したがって、学生の要望というものに対してどのようにサービスして応えるかが、新しい獣医学教育の切り口になるのではないかと思う。第1回目にいただいた資料4にそのことがもう明記されている。前回の農学部長会議の臨時委員会委員長から、農学部長会議の会長宛に出ている問題でも、人数の問題、それから72名、当面54名というような人的措置の問題が出ている。その後の黒川先生の答申についても、獣医師会会長宛に出しているものは、これらの学部教育ということが完全に言葉として出てくる。ですから、そういう面では、国立大学の方向性というものは、第1回目の資料の中で、ある程度方向は出ているのではないかと私は思う。後は、これからの大学・学部間かどのように調整をして行くかということが必要になってくると思う。私立の立場から見ていると、やはり4年教育と6年教育、それから先ほどいろいろな講座制の問題などの話も出たが、教育のシステム、あるいは学生へどのようにサービスをして行くかということが多少異なってきているので、逆に農学部の中で考えるのではなくて、大学教育のなかで獣医学教育をどのように考えて行くかということが非常に重要なポイントではないかと思う。
出口管理のところで人数が多いか少ないかということだが、私は現状の数で十分だろうと思う。分野によって大きく振れることは事実だろう。小動物分野、あるいは公衆衛生分野。とくに現在はBSEの問題で検査業務が非常に多くなっているが、大きく分けて、臨床、衛生行政、教育研究というように、3つの出口がある。そのバランスは現状のままでいいというように思う。資料4の5ページ目の上から3つ目に、産業動物を主体とする地方大学では家畜病院収入は赤字となると書いてあるが、現在産業動物の場合には農業災害補償法というもので、いわゆる国2分の1、飼い主2分の1の保険制度がある。したがって、この表現よりは家畜共済の保険制度があるので、例えば地方大学では小動物の来院件数が低いというような表現で実質的には赤字という、収入の赤字ではないのではないかということ。2ページ目の卒業後の進路のところで3つ丸があり、その真ん中にある記述の中で「3K」というのはやはりちょっとなじまない。現在産業動物に行く学生もこれは一時期採らなかったこともあるが、現在非常に増えているし採用もしている。レたがって、ここでは「産業動物獣医師は類医宇部といわれる職務内容と異なるため敬遠される」などの表現がよいのではないかと思う。
○18教授に3人なり4人という形で54名、あるいは72名ということがあったが、大学基準協会の示す教官というときに、その提言の中に第1に各大学がこれに向かって自助努カをするというのが選択肢に入っていたと思う。第2番目には、獣医学6年教育を指向しないで、各大学で指向しない大学にあっては4年制の応用動物科学、あるいは生物科学を指向することも考えられるというのが第2の選択として、第3に大学同士が各大学でそれらができない場合に統廃合するなりして、という3つの選択肢がそこに入っていたと記憶している。今論議している、特に臨床教育と公衆衛生教育というものが欧米に比べて非常に低いということは万人が認めているところではあるが、ややもすると基礎獣医学、あるいは基礎医科学の分野のレベルは欧米と大体一緒だから充実する必要性がない、というように受け取られる面があるが、日本の会社、あるいは就職の面から見ると、この分野の卒業生は非常に多く世の中で活躍しているということであって、この3つの教育の領域をどのようにこれから考えて行くかということが非常に大事だろうと思う。したがって決してそういうことではないと思うが、そのためには再編統合しかないという観点から話をすすめるのではなくて、身近な獣医と一番密接に関わる畜産とか応用動物科学とか他学科の協カも仰いで、より日本の獣医師の教育に適したような組織に向けて、もっと幅広く考えていくというところが非常に大事だろうと思う。
○卒業生の職種と教育の質を維持しようとすれば、やはり率直な意見をいうとある程度まとまって強力にしていってトータルでは変えないというのは自然と思う。もうひとつは、教育はするが職業とは乖離する、と割り切ってしまえばいろいろなやり方があるのだと思う。それはまさに自由競争になって行くと思うし、学生も免許は取得し後の自分の職業の自由も得るけれども、せっかくの教育が生かされないというリスクもある。どっちをとるのかでかなり違うのではないか。
○統合のことだが、2年前に現在の大学に転任して初めて現状を聞いたときに、やはり統合が必要だなと思っていた。昨年、特に東の4大学の間で統合について努力したが、結局不調に終わった。それは東4大学、西4大学いずれも中規模な地方大学であり、そういう大学にとって獣医学というのは非常に大きな位置を占めており、各大学ともそれを率先して統合して行くために、受入れるのは皆OKだと思うが、出すということにはなかなか現実の問題として進まないということがあると思う。
もう、ひとつ統合のときの大きな問題は、1+1が2になるのではなく、1+1’になってしまうのではないか、つまり各大学が持っているのは解剖学であり、薬理学であり、生理学であり同じ講座を持っていて、それを2つ合わせても新しい教授がくるまでの15年くらい先までは統合の効果が現れないということがあるかと思う。そういう点で、ひとつはやはり自助努カで拡充して行くとか、そしてそのときは今足りないものを中心にする、あるいはどうやって個性を出すかということを考える方がより現実的な対応ではないかと思っており、実際我々は動いているところである。
○予定の時間となったので、本日の議論はここまでにしたいと思う。
●先ほど座長から設置基準の中で、新しい概念ができたのではないかというご指摘があったが、これは、先般の大学院設置基準の改正の中で、従前から置かれていた連合大学院について、今回、「大学院には、二以上の大学が協カして教育研究を行う研究科を置くことができる。」と条文上明確にしたものである。
○従前は国立大学設置法施行規則の別表に書いてあったが。
●そのとおり。大学院設置基準には明確にしていなかったため、今回条文化し明確にしたということである。
○それでは、本日はここまでとしたい。

6.その他

次回の日程は、後日事務局より連絡することとなった。


国立大学における獣医学教育に関する協議会(第4回)議事要旨[案]

1.日時 平成15年6月16日(旧)10:30〜12:30

2.場所 霞が関東京會舘エメラルドルーム

3.出席者

(協力者)梶井 功、大森伸男、加藤 紘、唐木英明、喜田 宏、黒木登志夫、古在豊徹、酒井健夫、杉村征夫、鈴木直義、長尾 拓、林 良博、藤原宏志の各氏

(文部科学省)高等教育局木谷高等教育局審議官、徳久専門教育課長、吉村専門教育課課長補佐他

(農林水産省)生産局畜産部小野寺衛生課課長補佐

4.配付資料
資料1 前回(第3回)議事要旨案
資料2 唐木委員提出資料(科学研究費基盤研究(A)(1)「獣医学教育の抜本的改善の方向と方法に関する研究」各大学へのアンケート調査結果まとめ)
資料3 附属家畜病院の現状について
資料4 大森委員提出資料(民間の飼育動物診療施設のうち、大型施設の運営状況)
資料5 第1回から第3回までの主な意見
(参考資料)大森委員提出資料(獣医学教育に関するアンケート調査報告書)

5. 議事
(1)資料1「前回(第3回)議事要旨案について、意見がある場合には6月23日(月)までに事務局まで連絡することとし、最終的な文面の調整は座長に一任することとなった。

(2)資料2に基づき唐木氏から次のとおり説明があった。
・国家試験関連科目のうち、解剖学、生理学、薬理学、病理学、微生物学、公衆衛生学、内科学、外科学、臨床繁殖についてはどの大学にも講座があるが、解剖学や公衆衛生学については、講座所属教官では足りず、他大学から講師を依頼している。

・国立大学においては、衛生学、実験動物学、毒性学、魚病学、倫理・法規、生理化学、伝染病学、放射線学、寄生虫学の講座を置く大学は少数であり、講座がない大学では他の講座の教官が担当するか、非常勤講師に依頼している状況。
・公私立大学においては、魚病学と倫理・法規を除くほとんどの講座が置かれており、国立大学と公私立大学の間に格差がある。

・国家試験関連科目以外の科目についても、国立大学は公私立大学と比べて学内外の非常勤講師の比率が高い。

(3)唐木氏の説明に関して、次のとおり意見交換があった。
○東京農工大学は講座があっても非常勤講師を雇用しているがなぜか。

○近くに家畜衛生保険所があるなど、非常勤講師を依頼しやすい環境にあるということが考えられるのではないか。

○北海道大学の衛生学は、「◎」になっているが、「○」が正しい。

(4)資料3について、事務局から説明があった。

(5)資料4に基づき、大森氏から次のとおり説明があった。
@小動物診療施設について
・獣医療の場合、医療と異なり営利が法律上禁止されていないため、大型の獣医療施設は株式会社あるいは有限会社の形態になっている。

・これらの獣医療施設には、将来開業を目指す獣医師免許取得直後の獣医師、いわゆる代診獣医師が、診療技術習得のため相当数勤務しており、これらの施設は、卒後研修施設としての一面を有している。

・医療における看護師に相当する動物看護師などの補助員が勤務している。

・年間の売上高は大きなところで7億円である。

・大規模診療施設は、ほとんどが大都市に所在している。

A産業動物診療施設について
・小規模な施設が多く、売上げも多いところで1億円程度。

・業務内容は、産業動物の診療だけでなく、農家と契約し、衛生管理全体のコンサルテーションを請け負うところが多い。

・産業動物の診療には農業災害補償法に基づく家畜共済制度があり、保険医療と似たような仕組みとなっている。この業務は各都道府県単位にある農業共済組合連合会が行っている。

・最も大きい農業共済連合会を例にすると、傘下の診療施設が81あり、ウシ、ウマ、ブタなどの家畜診療に加えて人工授精業務、損害防止事業、また、都道府県から委託を受け伝染病防疫事業にも参画しており、獣医師が651人、人工受精師や補助員がl16人、年間売上高が132億円となっている。

・このように産業動物診療施設については、都道府県の共済施設が発達しており、それ以外に小規模な民間の診療施設が対応している。

B米国における診療施設の運営状況について
・アメリカには小動物診療施設、大型動物診療施設、その他州設置のもの、あるいは小動物大動物両方の診療施設など21,625の診療施設がある。

・1施設あたりの獣医師数は平均で約2人。年間の平均売上高は6干万円から7千万円程度で、民間診療所施設の獣医師1人当たりの年間収入は約800万円。これに対して公務員、大学勤務の獣医師の年間平均収入は約900万円である。

C獣医学教育に関するアンケート調査報告書について
・小動物診療施設を開業するまでに、1年から3年程度の期間、代診獣医師として診療業務に従事する者が多い。

・本来、この部分は大学の家畜病院において研修を行ってほしいと考えているが、プライベートな民問獣医療施設が研修を引き受けているのが実態。

・平均的な小動物診療施設の規模としては、過半数以上の診療施設が獣医師1名という状況であり、いわばワンマン・プラクティスの状況が大勢を占めている。

(6)この後、次のとおり意見交換があった。(O:協力者、●事務局、■農林氷産省)
○資料3の東京大学の患畜頭数は延べ診療頭数ではないと思うが。

●後日確認させていただきたい。

○ブタがゼロとなっているが、ブタについては、あまり大学に診療の要求がないということか。

○ペット用のブタも診療に来ていない。

○資料2について説明を付け加えさせていただきたい。これは、各大学へのアンケート結果であり、とりまとめの際、東大や北大は少し実態と違うという気がしたが、調査した側で修正を加えるわけにはいかないのでそのまま記載しているということを付言しておく。

○資料4であるが、アメリカの獣医師は年間、例えば小動物であれば、74,000ドルの年間平均収入を得ているということだが、これにあたる日本の統計はないか。

○聞きにくい問題でもあり、獣医師会でも調査していない。

○アメリカの74、000ドルは信用できると考えて良いか。調査してもあまり信用できる数字が出てこないのではないかと思うが。

○アメリカの場合、米国獣医師会市場統計という形でかなり以前から調べているデータであり、信頼性は高いのではないかと思う。

○アメリカの統計は何年か。

○ホームページで取り寄せた最新のデータであり、おそらく1,2年前だと思う。

○たいへん興味深いのは、小動物診療の平均収入よりも公務員又は大学病院勤務獣医師の平均収入の方が高いこと。これは非常に驚いた。

○質問だが・医師は、医師国家試験後インターンが制度化されていると思うが。

○今度、法律改正がなされて2年間の臨床研修が義務付けられるようだ。獣医師の場合、獣医師法に、診療業務に従事する獣医師は大学又は大臣の指定した施設で、少なくとも6ヶ月以上臨床研修に充実するよう努める、という努力規定がある。しかし、努力規定ということと受け入れ体制の問題もあり、なかなか法律が求めている状況まではいっていない。

○努力規定か。

○「努めるものとする」という法律上の求めがある。

○医師法のインターンの規定とだいぶ違うのか。

○医師も努力規定があるが、今度、それが2年間義務付けられるということではないか。

○私は医学部を昭和41年に卒業した。その時は1年間インターンがあったが、無給ということで学生運動もあり廃止になった。その後、デューティーではない研修制度があった。それが、今度は2年間の必須の研修制度になった。国家試験は合格しているので受けないことも可能ではあるが、受けない場合、診療所の開設や病院の管理者になることができないなどの制約がある。ただし、給与については、まだはっきりしない。給料がまたうやむやになるようであれば、当然研修医の不満が出るだろうし心配している。

○現状はどうか。

○現状の研修医は月当たり17万〜18万程度は給与が支払われていると思う。また、プラス・アルファとして別の病院で働くこともできる。おそらくプラス・アルファも含めると25万〜30万程度の収入があると思う。臨床研修が必須化になるとそれができなくなる可能性もあるので、そこが少し課題となっているようである。できるようになるかも知れないが、まだはっきり決まっていないようである。なお、インターン制度という名前では今のところない。

○制度と思っていたが違うようだ。獣医師会では、努力規定で「努めることとする」とされていることができるように、政策的なバック・アップはやっているか。

○法律制度の中で求めていることであり、国が、大学あるいは大臣が指定する施設として、家畜共済の診療施設トレーニングセンターが指定され、そこに卒後臨床研修受入れのための運営費の一部助成を行っている。

○獣医師会では、アメリカやヨーロッパなど、先進国の大きな病院のデータはあるか。

○そういう御質問もあろうかと思い調査したが、今回は間に合わなかった。引き続き調査をしたい。

○大学で若い人の研修をお願いしたいという獣医師会の意図はよく分かるが、資料3のとおり、国立10大学では獣医療を補佐する者はほとんどの大学で1名から多いところで7名である。資料4を見ると、民間の小動物診療施設のAには補助員が55名いる。Bは10名、Cは18名、Dは12名、Eは20名。人の病院の看護師や検査技師に相当する人材がこれらに当たるが、日本の国立大学10大学は補助員がおらず、病院の体をなしていない。病院の体をなしていないところで研修を受けると、極論を言うと研修というよりも下働きの状況にならざるを得ない。現状では大学で研修を受けるには非常に無理があると思う。

○先ほどの卒後研修の運営補助費というのは、いくつぐらいの大学に出ているのか。

○大学では毎年私立大学も含めて60人から70人程度が卒後臨床研修を実施しているようである。それと、大臣が指定している家畜共済診療施設。最近は採用数が少ないこともあるが、年間10人から20人。これらは、法律に基づく正規の卒後臨床研修を習得したということである。民間の大型施設での代診獣医師という形は、実質上卒後研修だが、それは、法律で求められている卒後臨床研修には該当しない、プライベートな研修ということである。

○大学院生、研究生等が病院にいるのは東大と岩手大だけだが、それ以外はどうしてできないのか。

○これは獣医師の国家資格を持っている歴とした獣医師にもかかわらず、授業料を払っている獣医師である。したがって給料を支払っているどころかお金を徴収している獣医師であり、たいへん気の竈な獣医師である。卒後臨床研修の助成対象者が他におられるとしたら、もう少し別の形で身分を保証されているのではないかと思うが、大学院研究生というのは、授業料が確か半期で24万〜25万、年間で50万円ぐらい払わなければいけない。

○岩手大学、東京大学以外は、大学院生、研究生がゼロということは考えにくいが。

●これは、獣医療法に基づく農林水産省への届出による獣医師数を前提に調査したものである。

○大学の附属家畜病院では補助員はゼロに近いということであるが、制度上例えば、非常勤などの形態ででも動物看護師等を雇うことは不可能なのか。あるいは、経営上そういう人を雇うことができないという問題なのか。制度的問題か経営的問題か、どちらか。

○現行制度でも非常勤職員として雇うことは可能だろう。主な問題は雇用するための費用がないということではないか。東京大学でもl0人、20人必要だという認識は非常に高く、病院に看護師がいない方がおかしなことだがお金がなくて雇えないと院長は言っている。

○資料4で株式会社あるいは有限会社という形になっているが、営利を目的とする業務形態を取るということが、家畜の大きな病院を作りにくくしている制限要素になっていると考えられるのか。例えば医療法人のような形であれば、公益追求のため条件がある意味では厳しいが、経営ということに日を向けないでやることができる。

○おっしゃるように、株式会社ではなく人の医療のような法人がしっかりあるべきだろうと。そういう意味では制度的な含みがあると思う。

○そういう制度的な不備について、獣医師会では何か改善要求などをされているのか。

○獣医療自体は非常に公益性が高いと主張しているが、必ずしも営利を禁止してまで制限しなければいけないか、という話は議論がある話だろう。必ずしも獣医療において医師と同様に営利を禁止して、その代わり獣医療法人を設立するべきだというところまでにはなっていない。しかし、公益ということで方向性を検討していかなければいけないとは思っている。社団法人や財団法人という公益法人が動物診療施設を開設することが禁止されているものではなく、一部、都道府県の獣医師会、これは社団法人だが、そういう組織が診療施設を経営しているという実態はいくつかある。獣医療法人でないから大規模施設が疎外されているということについては、私は得心がいかない部分がある。方向性はそう望むべきではないかとは思う。

○産業動物は、健康保険に相当するものが設定されている。小動物はそういうものがないので、どちらかというと小動物の方が営利を目的とすることが可能なのではないか。

○医学の立場から申し上げると、保険診療のような形でやるかどうかについては、十分議論した方が良いと思う。医療では、看護師が何人、どういうことをやればどれだけ支払いがあるということがあり、ベッド数に応じて看護師あるいは検査技師から薬剤師まで決まっているので雇う。それはそれで職員数が増やせて良いかもしれないが、医療費の枠の縛りがあり、これは国の方針で動くし、支払い者側の負担も1割から3割に上がって医療費抑制の方向に動くので、制限されているところがある。医療の内容あるいは患者さんとのコミュニケーションなどいろいろなところでかなり弊害が出ているのは事実であり、それが両刃の剣である。小動物は診療保険制度のようなものがないと聞いている。聞いているところでは、獣医師の経験年数あるいは給料や手術時間等、いろいろな要素で診療費を決めておられると思う。医療はそれができない。1年目の医者でも20年目の医者でも同じ診療費となっている。そういうところで不協和音が出ている。獣医療にそのような制度を導入するかどうかは十分な議論が必要だと思う。質間だが、卒後研修は、必ず免許を持った立場でなければならないので必要なのか。それとも、教育が充実していないので必要なのか。前者だと思うが。医療の方では、2年間研修制度が必要なのは、卒業するまでに十分教育をしていないからだという議論があり、それは冒涜ではないかと思った。6年の間で免許は持ってなくてもできる範囲の研修的なことはきちんと充実してやり、卒業後にやることは、免許を持っているからこそ初めてできることをやるべきで、そこは違うのではないかという議論をしたことがある。代診制度ではどういう位置付けになっているのか。これは必ず必要なのか。

○診療業務についてどういう研修が必要かということについては、今の御発言のように、大学での卒前研修と卒後研修と二通りあると思う。卒前研修の場合、獣医師になっていないので診療業務はできない。したがって、大学での卒前研修はその範囲の中での習熟となり、自ずと制限がある。法律で求めているのは、免許を取った直後の方が診療業務に従事するに当たっては、卒前研修では当然不足する部分があり、その部分について6ヶ月以上の研修の努力義務が課せられているのだと思う。法律で求められている卒後研修は、諸般の情勢によってなかなか溝足にいっていない。特に小動物臨床の分野ではそういうことが顕著にあるので、やむを得ず必要性にかられて、すでに開業されている獣医師のところで1年ないしは3年程度代診という形で、ある程度の給料を得ながら、臨床業務を勉強し、それから独立するという形態が過去から現在まで続いているという状況ではないかと思う。

○前回の卒業生が行なったアンケートの資料の中にも出ていたように、臨床分野の技術教育が不足していると指摘する学生が大部分であり、大学における臨床教育が非常に質・量とも不足していることは確かである。また、大学附属家畜病院としても体制ができていないので、十分な教育ができないということがあると思う。その結果が卒業してからの研修ということで、これは卒後の6ヶ月研修とは全く意味が違う。6ヶ月研修の理念は、卒業してから実地教育を6ヶ月はきちんとやりなさい、ということ.だと思うが、卒前教育が十分ではないことが、むしろ今は大変な問題になっていて、この2つは分けて考えなくてはいけないと思う。

○卒後研修について運営助成費が出ているのは大学60〜70人という話であったが、これは国立大学ではゼロか。

○平成4年からこの研修制度は発足し、それに伴って助成制度も発足した。現実的に申し上げると、助成の思恵を受けているのは共済の診療施設がほとんどである。現在、大学でも卒後の臨床研修を引き受けているが、データを見ると大学には助成措置が現実的にはいっていないということのようである。

○厚生労働省は医学教育に対して随分きめ細やかな援助をしている。ところが獣医学教育について農林水産省からは援助がない。これについては、農林水産省は少し考えていただきたいし、是非がんばっていただきたい。厚生労働省の援助についての資料を私の方で用意しても良い。先ほど発言のあった卒前教育は、免許を持っていない人に対する教育である。これと資格取得後の研修とは当然分けて考えるべきだと思う。まさにその通りだが、両方とも不足していると思う。混同して語ると問題が混乱するが、卒前教育は不足している。卒前教育を行なう主たる病院は当然ながら大学附属家畜病院である。先ほど病院の体をなしていないと申し上げたが、サポーティングスタッフがいないという不思議な病院は、全世界にないのではないかと思う。そこが一番大きな問題だろう。それが充実できれば、卒後教育も担える施設になると思う。また、今のところ、大きな獣医療施設が日本には不足している。資料4に掲げられている5施設は、私にはだいたい見当がつくが、株式会社や有限会社ではどうしても利益追求に目が向いていて、公益法人的な良さがない。しかし、公益法人であるがゆえにがんじがらめになって柔軟性がなくなるという面では、株式会社や有限会社という良さはある。このように良さ悪さ両方ある。外国の例では、例えばマンハッタンにあるアニマル・メディカル・センターは、世界最高水準の獣医療水準を持っており、24時間体制を取っている。真夜中の体制は、獣医師はパーマネントの院長とインターン3名の4名しかおらず、救急医療を手がけている3人の看護師と看護助手2人、あとはボランティアの人という体制を取っているだけである。しかし、昼間の体制は大体100人規模である。そういうものが日本にはない。救急医療は獣医療でも大切な分野だが、それを学ぶ場所もない、何もない、ないない尽くしだ。つまり、小動物に関しては、卒後教育をやる場所が日本にはないという問題がある。しかし、卒後教育に関する問題を全部大学の充実だけに求められるのはいかがなものか。これは獣医師会のほうで卒後研修の場所をもっと確保していただきたい。ただし、卒前教育についても非常に問題なので、これは大学で急速に拡充しなければいけないと思う。

○先ほど農林水産省のお話しがあったが、産業動物に対する態度と小動物に対する態度は違うのではないかと思う。やはり、農林水産省としては産業動物に対してはしっかりとお考え頂かないと当然まずいだろうが、小動物の犬、猫についてまで農林水産省がどうこう考えることなのだろうか。

○しかし、獣医師を所管しているのは農林水産省である。

○そのとおり。もし、そういうことならば、農林水産省としては産業動物獣医師だけを所管していただければ良いわけである。どこの官庁がどこをどう所管するかは大変難しいところもあるが、やはり獣医療全体を所管している省庁なのだから、産業動物、小動物、それから野生動物も含めて、ちょっと農林水産省からすれば無理があるというのかもしれないが、獣医師を管轄している以上、獣医師養成について側面からサポートするのは農林水産省だと思う。

○先日、某都道府県の農業共済組合連合会の方と話をした。過去50年間新卒の獣医師を採用された場合には、6週間以上の研修をやっておられた。その内容をつぶさに見せていただくと、大学でしなければいけないことがたくさんあって恥ずかしい気がした。「6年制になってからも同じか」と言うと、「基本的には同じだ」という答えだった。結局、卒前の教育も実際には共済組合連合会では再研修と言いますかトレーニングをしないといけないということが現実である。

○だいぶいろいろと新しい論点が出てきたが、これまでの全3回までの議論を事務局で整理しているので、さらにどのように問題を高めていくかという議論に移りたい。

(7)資料5について事務局より説明があった後、次のとおり意見交換があった。
○1ページ目の1番の最終項目に、農林水産省の獣医師需給予測において養成規模の拡大は必要ないとあるが、産業動物についてもこのようにお考えか。

■産業動物の獣医師の予測については、平成12年に基本方針を作っているが、その際、現状の家畜の飼養頭数と実際の診療獣医師数の将来予測をたてており、その中で獣医師数は現在99%程度の充足率という数字が出ている。将来的にも産業動物獣医師について同等数程度必要と考えているが、最近の新卒者の就業状況からいうと、若干産業動物分野への就職者が減ってきているということが懸念されている。

○この問題は大きな問題だ。先程、産業動物と小動物で政府の対応が違うのではないかという話があったが、私は、日本での小動物の社会的な位置付けがものすごく変わったと思う。音はまさに犬、猫であったが、このごろは「伴侶動物と言うべきだ」という話を聞く。それほど小動物に対する私共の認識が変わってきた。変わってきたことが前提となって、これをどう獣医師として対応していくかというのは最近の新たな間題だと思う。おそらく、農林水産省は従来から産業動物に視点を1本に絞った形で獣医師行政をやってきたと思うが、小動物がこれだけ社会的な重要性をもってきたということとの関わりの中で、獣医師養成をどうするのかということは、農林水産省にも新たに考えていただかなくてはならない問題だと思う。この点では、従来のような獣医師の需給予測のやり方で良いのかについて、ここではまだいろいろと問題があるということの指摘だけにとどめ、農林水産省の方でも検討していただければと思う。最近、農林水産省で小動物係というのを置かれたそうなのでやっていただけると思うが。

○同じような問題で、公衆衛生関係の公務員が約17%とかなりの割合である。この部分が、今非常に社会的要求が大きい部門ではないかと思う。ユトレヒト大学で公衆衛生、非臨床系の学生確保のためにコース制を導入し、学生数の拡大を図った例があるということだが、公衆衛生、非臨床系のために獣医学科の中に臨床系、あるいは別の公衆衛生系という分け方も先を見た場合に必要になってくるのではないか。そういう可能性を検討をされているのか、また、必要性があるのか。

○これはむしろこれから議論していただかなければならない課題だと思う。

○ユトレヒトの話だが、かつてヨーロッパは産業動物中心だったが、今は日本と同じで小動物に学生が流れていき、公衆衛生に就職する学生が少なくなってきたため、獣医師全体の規模の問題とかいろいろ議論したようである。結局、獣医師の数を増やしてもしょうがないということで、教育の中で臨床コースと公衆衛生コースに分け、学生を誘導するようにしたということだ。日本も同じだが、公衆衛生コースに行ったら臨床をやってはいけないのかという議論があるようで、その辺はまだ始まったばかりでどう決着したかは知り得ていないが、必ずしも上手く行っているかどうか話は聞いていない。

○制度上大きな問題もあるだろうから。

○私は公衆衛生関係だが、最近公募制で採用するようにしているが、実態としてはPh.D.を持った獣医師が割合として非常に高くなっている。多分、微生物関係、動物関係という他分野があまり教育していないところに特徴があって、医師は医師の分類で採用するが、後はPh.D.の分類で採用する方向になっているので、絶対数は少ないが、我々の仲間としてはかなり増えてきている。

○このまとめの中でも臨床教育を今後どうするかということは大きな問題になっているが、民間獣医療施設の場合と大学附属家畜病院の場合と両方あり、やはり大学附属家畜病院での臨床教育をどのように充実するかが大きな問題だと思う。そのネックのひとつは補助者がほとんどいないということだが、その背景をきちんと整理してそこを充実する必要があるのではないか。前回、東大は年間3億円以上の売上げがあるということだった。その収入は一旦国庫に収め、それが歳出予算として措置された中から専門学校などを卒業した動物看護職員を民間の動物病院よりも良い待遇で迎えることができれば、大学にとっても動物看護関係者にとってもプラスになることではないかと思う。このような可能性は有りうるのか。

○来年からもし予算の仕組みが変わるなら、今は6割程度、確か3億円の収入で2億円位歳出予算として還元されているが、2億円のうち薬品費が1億円近い。これは管理する薬剤師がいないということで合理的でないところがある。それを節約しながらもっと効率化を高めなければいけないが、3億円をそのまま返していただければ1億円で人を雇用できるので是非そういう体制をお願いしたい。

○単純な推測で専門学校新卒者を人件費5百万円で雇うとすると10人で5干万円。3億円収入があれば、その程度の人件費は経営的には可能と思うが、制度的な問題があるのではないかと思う。

○今の問題は大学がやる気を持てるかどうかの重要な点である。法人化された時に是非家畜病院を拡大して収入をあげて、レジデントを雇って、研修医や技術職員も入れて、内部のかなりの努力で臨床教育を賄えるのではないかと考えている。

○学部教育でどういうことをするかに関してであるが、非常に領域が広く、小動物からいわゆる畜産、魚病の分野まで非常に多岐にわたっていて、しかも、卒業生に小動物分野の希望者が多くて、あるいは希望者が少ない領域ができつつあって、という現状で、6年間ですべてのことを学生に教育するのか。どこで専門性を分けるのか、大学院で分けるのか、卒業後の研修のところで分けるのか、それとも学部の中でコースを作って後半の2年で分ける方向で行うのか。また、あまり人気がない分野があるならば、それを手当てしないとだんだん人が偏っていくので、それは大学の問題ではなく、待遇等社会的なことであり、そういうことも含めてやらなければ、いつまでもある部分は人が少なく、小動物は人が増えていくということになると思う。それを少しふるい分けし、どのように6年間の教育の充実を考えて行くのか御意見いただきたい。ひとつの流れとして医学部や工学部で話していることだが、人間対人間の付き合いは、その時間をどのくらい充実したものにするかという方向で産業や機械をいろいろと充実していかないと、機械のための機械を作るとか、あるいは動物のための何かをする方向ではもたないかもしれないという流れがあるので、小動物に対する需要が今からどんどん増えていく、それはいい方向と言われているが、そうするとそちらの人間がどんどん増えていくのでよけいに希望が偏る可能性がある。必要な人材がいるのであれば、それなりのシステムと後の手当てを今から考えた方が良いと思う。

○その辺は非常に大事な問題点だ。

○その点については各大学の意見をアンケートを取って検討した結果がある。6年制とは昔で言えば学部プラス修士だ。修士に当る5年生、6年生の部分でコース制をとったらどうかという意見が強かった。例えば東京大学では基礎分野の研究者志向が非常に強い教育をやっていた訳だが、学生にとってはそれだけではいけない。やはり、基礎コース、臨床コース、応用コース、という3つのコースを考えた。応用コースとは公衆衛生だが、公衆衛生の基礎になるのは産業動物なので、応用コースとは公衆衛生に産業動物の臨床も含めてやるということであるが、このような3つのコースを考えてはどうかということがプランとして出ている。3つのコースを全部の大学でパラレルにやるかということについては、この3つのどれかを強化することは有りうるが、どれかひとつ取るということは有り得ない。3つともきちんと教育をやった上で、どれかのコースを特に大きく取り上げて大学に特色を与えるということは有りうるということが考え方として出ている。

○国家試験のやり方としては、全部の学生に同じ種類の国家試験を課すのか、それとも、少し特徴を生かして、ということについてはどうか。

○我々の検討の中では、国家試験の科目は最低レベルなので、すべての学生がこれは揃えなくてはいけない。その上で、コース制でプラス・アルファを加えていこうという考え方だ。

○家畜病院の収入の問題が出ていたが、大都市の場合は小動物が対象となるためかなり収入は良いが、産業動物を主に扱うような地方の農業地帯の大学での家畜病院は赤字になる。資料の中でも3干万円以下が4大学となっているが、これでは実際に赤字になる位の状況だ。そういう意味では小動物の位置付けは基本的に産業動物、つまり経済動物とは違う。その点は教育の仕方、物の考え方が大きく違う点で、大学院へ行ってからのコース制くらいで対応できるのかという感じがする。その意味で、もうひとつは公衆衛生の問題、あるいは産業界でケミストリーの分野も結構需要があり、その辺りもふくめてもう少しカテゴリーの整理が必要なのではないか、それは6年制教育の中でも必要なのではないかという感じがする。

○おっしゃる通りで、国家試験のレベルは最低レペルであり、6年制教育の中でそれはきっちりと教育をする。その上で、5年生、6年生の全部がコースのどれかだけをやるわけではないが、コース制を取り入れて、学生それぞれが将来進むべき道について3つの中から選択して特にそれを勉強していく。あるいは、大学がその中のどれを強化するかを与えていく、ということで、それぞれの大学で国家試験レベルの上に何をするかを考えてやっていただきたいというのが基本だ。

○家畜病院の収入によって、良い待遇で補助職員を雇用してはどうかと申し上げた先ほどの私の発言は、小動物診療を中心に言ったものであり言い方が足りなかった。産業動物に関しては、医学教育と同じように農林水産省が獣医師教育に対してきちんと補助することを明確にすべきではないかと思う。そういう意味では、小動物と産業動物をきれいに教育上構成も含めて分けるのか、動物として一括りにするのか、今後再編を考える時に非常に大きなポイントになってくるのではないかという気がする。

○お話を聞いていて、獣医学教育そのものの問題と出口管理を含めて社会の受け皿の整理をどうしていくかという問題が少し混同されている感じがする。もうひとつ、受け皿の問題は膨大な問題だが、現在獣医師の処遇が4年制から6年制に移行したままの状態であり、特に公務員は、単に2号俸上がっただけである。そうすると教育投資したものの還元がほとんどない。したがって、これから社会を整備するには獣医師の待遇改善、例えば獣医師のライセンスを持っている者を公的機関が引き受ける場合には、ある程度の手当てを増額しない限り、獣医師は喜んで社会獣医学、特に現在問題になっている食の安全、公衆衛生に進学する学生数の確保は非常に難しいであろう。それをコースで確保するというのは歪んだ形になってしまうだろうと思う。したがって、社会獣医学を受けるならば出口の管理、社会の受入れの整備を早急にすべきだと思う。それから獣医学の検討事項でコース制の議論がでているが、国立大学の場合は入学定員が25名から30名。これは果たしてコース制にして十分できるかどうか。おそらくそのような数でのコース制教育はほとんど不可能であり、ある程度の数を合わせないとコース制教育は絶対不可能ではないかと思う。現在、私立大学では卒業後のインターンレジデント制度がほぼ定着していて、私の大学では10名近くの学生数に15万円から20万円出しており、その中でインターンを行っている。国立大学も将来するのであればこれらを参考にしていただきたい。それから先ほどニューヨークのアニマル・メディカル・センターも国内における協カ病院の検討の上でひとつの指標になるのではないかと思う。ホームページが出ているので、是非検討する価値があるのではないか。目本人も現在かなりアメリカに留学しており、メディカル・センターにも数
名在籍していると聞いている。

○私の言い忘れたことを言っていただいたが、コース制の計画をした時に何人の教員が必要か計算したところ、大学基準協会の72では多分不足で、大体72から100位の教官がいればコースがきっちりとできるという試算ができている。

○教育課程の問題を考えていく場合、獣医学だけの問題ではないと思っているが、おそらくこれから10年で大学教育の有り様は随分変わるだろうし、変えなければいけないと思う。今までの大学は18歳の学生をピックアップして大学という箱の中に入れて、箱の中だけで教育していくというやり方をやってきた。しかし、既にe-ラーニングのような形でITを利用した教育が始まっている。その意味では手抜きではなく、メディアを活用してできる。これは専門の内容や教科目の内容で当然違うが、その方が効果的なものが有りうるのではないかと思う。ひとつの箱にとにかく入れていくという発想ではなく、教育の仕方、講義の仕方を十分工夫しながら、ITの活用が有りうるのではないか。どうしてもフェイス・トゥ・フェイスでやらなければいけないことも当然あるので、それはしっかりやっていく。いずれにせよ今までとは大学教育の在り方が変わって行くであろう。これは獣医だけの問題ではないが、その辺も視野に入れてお考えいただきたい。

○学術会議で教育体系の再構築という特別委員会があり、その委員長がメディア教育開発センターのセンター長で、非常に激論があった。ITで何ができる、IT教育で取り入れていい部分と取り入れられない部分がかなりあるという大議論があり、IT教育だけではだめというのが医学部の先生で、やはり技術教育とはフェイス・トゥ・フェイスが非常に大事なところで、手を掛けて大事に育てなければいけない。文系の先生は案外IT教育でできるということで、我々獣医学の領域もまさにできるところは随分あるし、全く出来ないところもあると思う。その辺は上手く分けてこれから考えていかなければいけないと思う。

○ITは獣医学に対しても相当入ってきていて、私共の解剖学は随分昔のように動物を解剖するだけでなく、IT技術を使った色々な代替法を、動物の福祉も考えてたいへん発達してきている。日本もJABEEが立ち上がっており、全体的に大綱化されているのが、大綱化ではない方向へ行っているのは、例えば教員と学生とのフェイス・トゥ・フェイスの関係を2千時間は取らなくてはいけないという点。これはむしろ強まっている。これがないと技術者教育とは言えないという方向に世界的に向かっているので、私はITを入れながらも、フェイス・トゥ・フェイスが増えていくと思う。技術者教育の中に獣医学教育も入ると思う。

○それぞれ専門によって対象になるフィールドは違うが、今強化しなければいけないのは現場での教育、フィールド教育だと思っている。それをやることとITを使った教育をやることは矛盾しない。むしろフィールド教育をしっかりやっていくためにIT教育を活用することは有りうるのではないか。今はそれがいいかげんになっていて、今はほとんど大学という箱の中でやっているが、2干時間のフェイス・トゥ・フェイスの時間は確保できない。そこはきちんと教育内容として整備すれば両方とも生かせるのではないかと思っている。

○先程の話では、私立大学の方は研修医などいろいろなことを考えてやっている。資料2でも私立大学の方が生理化学の下の方に二重丸が幾つも国立にないところにある。それから前回出た宮崎大学の卒業生のアンケートでも、「私立大学の卒業生はきちんと画像診断、放射線教育を受けているので差を付けられている」ということがある。私立大学がどうして国立に比較して非常に充実した教育の方に向かっていったのか、その要因は何だったのか。

○私立大学は5校あるが、我々がいつも話しているのは競争と連合ということである。私立大学の5校が共通しているのは学生サービスの充実で、入ってきた学生に満足感を持って卒業させようというのが我々の共通の考え方である。国立の先生方から見ると私立は学生数が多すぎるとお叱りを受けるかもしれないが、我々はできるだけ充実した教育をしたい。その中でやっているのが、教員の数と教室数の充実であり、現在行っているのが病院の拡張である。大学基準協会では、5干平方メートルということで、既に3年前から私立大学ではすべて家畜病院の拡張を計画し、おそらくここ1〜2年の間に5千平方メートルのティーチング・ホスピタルが各私立大学に設置されると思う。すべて学生サービスにどのように取り組むかということではないか。

○先程コース制の前提として、学部教育では国家試験をパスすることを最低限共通にやるということで、例えば焦点の臨床、公衆衛生の問題はその国家試験に必要な限りでの臨床、公衆衛生の教育という面もあるのではないか。

○現在はそれが足りないので当然まずそこを埋めなくてはならない。その上にプラス・アルファをコース制で、もっと技術・知識を付けようということである。

○いわば卒業研修として実際診療に従事する場合に必要な診療技術、義務としてではなく、望ましい規定として6ヵ月行われている卒後研修とは違った意味での、それも欠けているということか。そこをはっきりさせておかないと、問題の焦点として、いちばん欠けているのはアンケートでも臨床に対する教育、公衆衛生についての教育とある。しかしそれでも国家試験はパスしている。

○それがいつも問題になって、我々も国家試験を農林水産省で考えていただきたいと言っているが、国家試験は現状追認で行かざるを得ないという現実がある。我々からすると国家試験の基準は最低基準であって、これをクリアすれば世の中に出てもおかしくないと思うが、その基準のレペルと国家試験の出題、それをほとんど90%の学生が合格しているというところに、はっきり言うと多少ギャップがある。国家試験に合格しているから、今の教育が十分であるとはとても考えられない。

○いわゆる職能教育、獣医学の教育、学部教育とその上の大学院教育をどう考えるかということが討論のポイントではないかと思う。やはり4年制から6年制になったその2年間で、国家試験18教科目の最小単位の獣医師としての資格のレベルアップを可能な限りできれば超したことはないと思うが、その獣医師の資格を取った上での専門教育は大学院でやるべきではないか。そうしないとこの6年間の学部教育は、次から次に増えてくる社会ニーズに対応するように組織は到底作り上げられない。従って、基準協会の70名に対する一般の獣医師としての資格認定にひとつポイントを置くべきではないか。本当に小動物、大動物の専門家を6年間の教育でやり得るのはほとんど不可能ではないかと考えている。

○獣医師資格を持っている国家公務員で専門行政職としての扱いを受けている職種はあるのか。

○国家公務員と地方公務員の2通りあるが、国家公務員には純然たる行政職としての役割と現業部門、特に検疫の関係だが、これには専門行政職という俸給表が適用されており、国家公務員については2通りの扱いである。地方公務員も基本的に同じで、例えば都道府県庁における一般行政職は行政職の俸給表、都道府県の家畜保健衛生所、食肉衛生検査所等の現業部門については医療職の(二)という特別俸給表が適用されている。これには色々議論があり、医療職の(二)とは看護師の関係である。獣医師をそこに位置付けるのはいかがなものかということで私共獣医師会は組織として獣医職専門の俸給表を作ってほしいと言っている。

○先程の社会的な受入態勢ということに関連する事柄である。専門行政職の扱いになっていれば給与テーブルが違うのではないか。

○先ほどの発言に関わることだが、獣医学科の大学院をどう位置付けるのかということが4年の間で専門教育ができないので大学院で専門教育をするという大学院の位置付けにするのか、それとも大学院はやはり研究者育成、研究するという位置付けにするのかというのは議論してはっきり決めた方がいい。6年の間で臨床的な専門教育ができないということになると、今度は大学院の方の位置付けが中途半端になり、獣医関係の研究、研究者育成はどこでやるのかということになる。4年間の医学部も同じような問題が起きている。6年間ではできないので、4年プラス4年のメディカル・スクールでやらなければならないという議論になってしまって、大学院の位置付けがちょっと不明確になる。私は、6年間で今おっしゃった国家試験と言われた公衆衛生を基盤的には押さえて、それが試験されるかどうかは別にしてやった上で、臨床的なことも必要なところは国家試験として6年終わった時にやり、後は専門性をどうやって伸ばすかという大学の位置付け、研修の位置付けを積み上げられた方がすっきりするのではないか。

○おっしゃる通りでいろいろな考え方があろうと思う。大学院も研究主体、専門職を主体にする形があろうと思うが、少なくとも獣医学6年制の学部教育の最終的な国家試験の認定をどこに置くのかということが非常に大事な問題だと思う。

○日本の獣医学教育の規模があれば満足できるところは最低どのくらいかということだ。私が全国農学系学部長会議の会長をしていた時に、この問題がずっとあり検討されてきた。臨時委員会から54名ということで臨時委員会から上がってきて、これを全会一致で妥当と認めたその根拠であるが、先程発言があった、私立大学がある程度の満足性があるというのはやはりスケールメリットがあるからだろう。学生数の問題ではなく、教員がある程度の層を成すと、ざっと見ても相当な項目数を白前の教員でやっているとか、病院の経営でも私立大学は独白に予算を動かせることもあり、私立大学のほとんどは動物看護師を置いている。置いている国立大学はないが、置いていない私立大学はないというくらいだ。私立大学は、そういう点で、まだ不溝足とは言えちゃんとした体制をとり、多くの私立大学は大体教員が50名規模くらいまでにきているというメリットがあるのではないか。ただ私立大学と国立大学の大きな違いとして、国立大学は教育以外にかなり研究面で貢献してきたということである。これは発表論文数で見た場合に非常にはっきりしているが、研究面での貢献はどうするのかという問題がある訳だが、教員54名だったら学生数はせいぜい60名位にしかならず、実際には私立大学の半分位だ。その分私立大学と同じような教育の打ち込み方をしたとしたら・あと学生数が少ない分だけ研究に打ち込める時間が出るのではないかと言うようないろいろなファクターを考えた上で、最善の基準ではないが、54名程度という規模は非常に苦しいが、コース分けも可能になるのではないかという基準である。私が知るには、自分の大学の中でコース分けしている大学はあるが、世界的にあなたの大学は産業動物獣医師だけを養成しなさい、あなたの大学は小動物獣医師だけを養成しなさいという分け方をしている先進諸国はない。つまり、そこは大学毎に分けられないのである口学生達が小動物に行くか、大動物に行くかはともかく全部引き受けて、フランスを始め先進国で農林水産省が獣医師教育をやっている制度もあるが、そこでも決して小動物を排除していることはしていない。むしろ学生の大部分は小動物にいくが、なんとか大動物に残らせようという工夫は随分されていると思う。そういう形で大学を作っているのである。そうでない限り大学は経営的に困難を起こすと思う。例えば宮崎県は畜産が盛んだから、宮崎県の獣医学科は大動物獣医師だけを養成するコースにしたらどうですかということになったら、経営的に困難をきたすだろう。獣医学科はいろいろなところに進めるような形で作らないと先進国のスタンダードにも合わないし、日本でも経営的に難しいだろう。そういうことを考えると、コースを作るとしたら大学が別々に分担するのではなく、ひとつの大学の中で作ることとなり、最低必要な教員が54名ではないかと言うのが、私が理解している全国農学系学部長会議が決めた基準ではないかと思う。ただ、各大学がこれから自分の大学をどのようにするかということは別で、学部長会議が押し付けるものではないが、ひとつの基準としてこれを出したということを申し上げておきたいと思う。

○農学部長会議において、私は臨時委員会の委員長として基本方針を提出した。もう一度申し上げるが、基本方針として、教員54名ということをうたったのではなく、大学基準協会が提示した基準を満たすことが望ましいが、獣医学教育の改善は急を要するから、できるところからどんどんやっていく。しかし54名以下では到底目標とすることはできないだろう。最終目標は、教員72名以上で、全国に何校ということは申し上げなかったが、教員54名が目標であっては農学部長会議の基本方針としては満足ではないと思う。

○ありがとうございました。獣医学教育の学部としてどういう体制でやるかというのが一番の焦点の問題ですが、予定の時間がまいりましたので、本日はこれまでとさせていただく。なお、今後充実方策を考えていく上で、今お話に出た全国農学系学部長会議、獣医学教育代表者協議会等の関係者の意見を踏まえていく必要があると思う。できれば次回これらの団体のお考え、御意見を出していただければと思うので、事務局の方で調整していただきたいと思う。

6.その他
次回の日程は、後日箏務局より連絡することになった。


国立大学における獣医学教育に関する協議会(第3回)議事要旨(案)

1.日時 平成15年5月12日(月)14:00〜16:00

2.場所 文部科学省分館 201・202特別会議室

3.出席者

(協力者)梶井 功、大森伸男、唐木英明、喜田 宏、黒木登志夫、酒井健夫、島田壽子、杉村征夫、鈴木直義、長尾 拓、林 良博、山岸 哲の各氏

(文部科学省)高等教育局徳久専門教育課長、吉村専門教育課課長補佐 他

(農林水産省)生産局畜産部小野寺衛生課課長補佐

4.配付資料

資料1 前回(第2回)議事要旨案

資料2 国立大学における畜産学関係教員数

資料3 国立大学獣医学科在学者数(出身都道府県別)

資料4 私立大学等経常費補助金の算定方法(平成15年度)

資料5 小動物診療獣医師関係資料

資料6 大森委員提出資料(6年制獣医師に関するアンケート調査報告(抄))

資料7 唐木委員提出資料

7-1      獣医学科卒業生を対象としたアンケート調査報告(抄)

7-2      各国獣医学教育授業科目の比較

5.議事

(1)資料「前回(第2回)議事要旨(案)」について、意見がある場合には5月19日(月)までに事務局まで連絡することとし、最終的な文面の調整は座長に一任することとなった。

(2)資料2〜4について事務局、資料5について農林水産省より説明があった後、大森、唐木の各氏より提出された資料6及び7に基づき、両氏から獣医学教育の現状について、次のとおり説明があった。

○大森氏の説明

@獣医師に対するアンケート調査結果

「獣医学科で得た知識、技術」について、「不十分」または「不十分なものが多い」という回答が半数以上を占めている。

不十分な科目としては、臨床関係の教育と、畜産学関係、動物行動学、動物福祉、関係法規といった獣医学に関連する分野をあげる者が多い。

職域別に見ると、就業上必要な知識に係る科目について不十分と感じる者が多い。

A獣医師を雇用している事業所に対するアンケート調査結果

「採用した獣医師が事業所の要求を満たしているか」については、「十分満たしている」「ある程度満たしている」とする意見がかなり多いものの、「6年制教育を受けた獣医師の知識技術は、4年制教育を受けた獣医師と比較して優れているか」について、「どちらともいえない」「やや劣っている」が53.5%と、6年制教育を受けた獣医師が4年制教育を受けた獣医師より必ずしも高い評価を受けているという結果は得られなかった。

事業所が大学に望む点としては、診療関係分野では、臨床関係の知識・技術の充実を、その他の分野では応用関係の知識・技術の充実をあげる意見が多い。

B獣医学系大学の教員に対するアンケート調査結果

「講座数及び教員数の充実が図られているか」について、「全く図られていない」とする回答が、私立30.9%、国公立が69.2%となっており、国公立は私立に比べて充実度が低い結果となった。

施設等の充実、教育内容の充実についても、私立より国公立の方が充実度が低い結果となった。

C調査結果のまとめ

結論として、教育年限自体は6年制に移行して修業年限は長くなったが、教育研究の質の充実というものがなされていないことが指摘されたと考えられる。特に臨床・応用関係の教育の不足が獣医師・事業所の両方から指摘された。

○唐木氏の説明

@卒業生に対するアンケート調査結果について

このアンケートは獣医学科の卒業生が自主的に行ったものである。

在学中に受けた知識の習得について、基礎系の知識については満足とする意見が不十分とする意見を上回っているが、臨床系の知識については75%が「不十分」「かなり不十分」と答えている。自由記述では、「基礎と臨床の接点がわかりにくい」「講義・実習、教官、講座が足りない」などの意見がある。

技術の習得については、基礎系の技術は「満足」と「不満足」がほぼ拮抗しているが、臨床系については「不十分」「かなり不十分」が70%と多かった。自由記述では、「臨床について2週間の実習では不十分」「卒論にかなりの時間を割く」「大動物について資格の得られる人工授精の教育が全く行われていない」「大動物の実習が非常に少ない」「内科学は大動物が専門で小動物の実習はほとんどなかった」「臨床系の実習については多岐にわたる内容を少人数の教官が多忙な診療と並行して行っている」「全体的に技術は下働きをしながら見て覚えよという雰囲気であった」などの意見がある。これらは、臨床を担当する教員が少ないこと、看議士に相当する臨床支援職員がいないこと、内科と外科の大くくりの教員組織しかないなどのマイナス要因があり、十分な実習ができていないことによるものと思う。

「社会における必要性・重要性に対し教育が不十分と思う科目」との設問では・臨床系のほとんどの科目について不十分とする意見が多いほか、放射線学や伝染病学など講座の置かれていない科目について不十分を指摘している。自由記述では、「現場では食欲がない、痒がる、目が赤いなどからスタートするが、教育は○○病・○○病という各論から始まり終わる。より現実的な実践的な教育を望む。」との意見がある。海外では当たり前になっている、プロブレム・べースド・ラーニングなどの実践的な教育手法が我が国ではまだ十分に行われていないことからこのよう意見が出てくると考えられる。

A各国の獣医学教育科目について

欧米の大学では、臨床ローテーションが高学年次に授業の中心となるが、我が国の国立大学では、ごく一部の大学しか実施していない。

欧米の大学では卒業論文は課されていないが、我が国の国立大学では卒業論文が高学年次の中心となる。

欧米に比較して、臨床関連科目、動物生産関連科目について、開議されていないかあるいは一部しか開講されていない課目が多く、これらの課目は、アンケート調査結果においても不十分とする意見が多い課目である。

(3)この後、次のとおり意見交換があった。(○:協力者、●事務局)

○鳥取大学には畜産学関係の教員はいないのか。

●獣医学科以外の教員で言えば、そのとおりである。

○照会されたこのようなアンケートは、他大学ではやってないのか。

○宮崎大学のみである。

○獣医師会のアンケート調査はこれ以外はやっていないのか。

○やっていない。

○このアンケート調査は数年前の実施であるのでほとんど現在と同じと捉えて良いのではないか。6年制教育を受けた獣医師に対して、回答数1,389件という大規模な調査結果、ほとんどの事業所は十分満足あるいはある程度満足と言っているが、営業分野だけがそうではないのはなぜなのか獣医師会としてはどのようにお考えか。

○事業所の70%が都道府県の県庁サイドの回答結果で回答数に偏りがあった。応用分野としては6年制修了者と4年生修了者の差はあまりなかったと読み取っていただければ良いと思う。

○家畜内科学、家畜外科学、家畜臨床繁殖学、獣医放射線学、産業動物臨床技術、小動物臨床技術は臨床科目なので不十分科目ワースト10に入っているのは予想通りであるが、公衆衛生は公衆衛生関係以外に従事している者以外は足りないという認識がないということになるが、そういう強い偏りがあると解釈して良いのか。また、畜産関係について足りないとする意見が以外と多いのはどう考えるべきか。

○資料6の10ページの表中、各職域別のシェアは、地方自治体の農水部門が23.5%、公衆衛生部門が21.5%、団体・会社の診療施設が11%、団体会社の試験研究機関が2.2%、小動物診療施設が35.3%という分布となっている。公衆衛生の職域従業者公衆衛生が必須とする意見が一番多かったが、ただ、全体のシェアからトータルの順位は高くなかったということしか読み取れない。

また、畜産関係が足りないということについては、都道府県の農水関係と団体・会社の臨床診療の獣医師のシェアが高く、畜産関係全体についてもう少し勉強したかったがこの部分についてのケアが少なかったと感じているのではないか。同様に産業動物診療分野についても生産農家へ指導する上で、この部分について不足していたという結果になったのではないかと思う。

○地方公務員で公衆衛生に就いている人は公衆衛生が足りなかったと言っており、地方公務員の農水関係で見ると畜産関係が一番必要だった。また団体・会社の診療関係でも2番ということになっている。また、小動物臨床関係従事者では小動物診療技術が最も高く、動物行動学のような臨床にとって必要な関連科目も3番目と高いとなると、これから言えることは、その分野の従事者はその分野に関する教育が足りないという、当たり前と言えば当たり前だが、見事な相関がある結果となっている。

○まさにその分野に就きながら、その分野の教育が足りなかったということは、問題があると言えば非常に問題がある。

○公衆衛生については、卒業生の調査結果でも不満としている学生は少ない。これはなぜかというと、ひとつは公衆衛生の教育内容に非常に問題があるという気がする。公衆衛生分野に進んだ学生が自分達の領域が公衆衛生の学問をバックグラウンドとしてやっていると思ってはいないのではないか。むしろ微生物学や人獣共通伝染病などの臨床分野を必要としており、公衆衛生で教えていることと必ずしもフィットしていないというようなことがあるのではないか。調査の中では、疫学が不足だという意見はあった。

○資料7−2は、諸外国については、ベルリン大学、ウィーン大学、ケンブリッジ大学、コーネル大学とそれぞれひとつひとつの大学についてまとめているが、日本の場合、国立大学卜―ルとしての統計になっている。本来、個々の国立大学ごとに比較しなければならない。講座は各大学ごとに見ると極めて少ないのではないかという気がする。

○その通り。獣医師国家試験の関係で、国立大学の教育科目は全国どこでもほとんど同じである。どの講座があるかというのは大学でかなりバリエーションがあるが、どんな科目を教育しているのかということについては90%同じである。そういう意味で、国立大学は一緒にして記述してあるが、各大学別に記述してもほとんど変わらない。ただ若干違うところは「△」で示してある。これについては開講しているところもあり、開講していないところもあり、ということである。

○当該大学の先生が講義をしているのか、非常勤講師がしているのかということについては違いがあるのか。

○非常勤講師にお願いしているのも「△」の中にある。

○「○」がついている中ではどうか。

○「O」の中でも非常勤講師が担当しているものは相当ある。

○そこは大分違う。

○両委負より提出された2つの資料は、この協議会にとって非常に重要な資料だと思う。特に卒業生のアンケートというのは、まさにこれに従って改善していくことが大事なのではないかと思う。特にこういうアンケートを卒業生自身がやったというところが、学生自身が非常な危機感を持っているということのひとつの現われではないかと思う。

いくつか質問があるが、国立大学の獣医学科の中で規模の大きな北大と東大で、もしアンケートを取ればいったいどういう答えがでるのだろうか。満足しているという答えが出るのか、それとも同じような傾向で不満という答えが出るのか。

2番目に、卒論のことが学生のアンケートで出ており、先ほどの説明でも最後の2年間で8単位を取得するということになっているとのことだった。自分自身、獣医学科の教員たちと、どうやったらカリキュラムを改善できるかという話し合いをしている中で、獣医学科が卒論を課しているということを話を聞くまで全く知らなかった。医学部の学生に卒論を課すということはあり得ないだろう。なぜなら医学部は臨床教育を充実してやっていく、そのために国家試験もある。同じように国家試験があるところで卒論を課しているということは非常に驚いた。例えば、薬学も卒論はない。そういうところで卒論を課しているということは、6年制になったとは言いながら、実は獣医の教員自身が、「4年+修士課程」という考えから抜けきれないのではないか。それはやめたらどうかと獣医学科の教員に言ったが、それに対しては結構反論があった。学生が最後の2年聞入ってくると研究に便利だからという本音も随分あると思う。しかし、今問われている獣医学の教育の問題を考えたら、もしどうしても学生に卒論のような研究の協力をさせたいのなら、学部の2年生、3年生、あるいは4年生の時に1年くらいやったらどうか。東大の医学部では学生が4ヶ月くらい各教室に行って研究に従事するという取り組みがあって、それはそれで非常に良い制度だと思っている。最後の2年間や1年間は、臨床ローテーションをする。例えば産業動物が足りないというのであれば帯広畜産大学や岩手大学にお願いしましょうと、そして小動物については近所の獣医療施設に行ってそこで実施してもらうというように、積極的にローテーションしたらどうか、ということを言っていたのだが、まさにそれと同じ結果が出たということで、自分の意見が間違っていなかったのではないかと思っている。

○なぜ卒論が未だに必修になっているのかという最大の理由は、ひとつは御指摘の通り卒論の学生がいないと先生方の業績が上がらないというのが本音としてあることは一部は確かだろう。しかし、6年制にした時、卒論を無くそうと我々は随分努カした。しかし卒論を無くして臨床実習をやるとしたら、臨床の先生を何倍にも増員しなくてはいけない。内科と外科の2講座で2年聞のローテーションなどとてもできない。臨床ローテーションをするためには、検討してみると臨床講座が最低6講座、教員18人が必要になるということとなり、随分努カをしたがそれはできなかった。そうすると、今までどおり修士課程のスタイルで卒論研究をさせるのが一番便利であるという、非常に現実的な理由から続いて来てしまっているということが最も大きな理由である。我々は途中で何度も変えようとした。今後実施すべきカリキュラム案というものに常に出てくるのは、卒論は完全に廃止ではなくて選択制にしよう、一部の学生は基礎系に行くのでそういう学生には卒論は残しても良いだろう。しかし、これはあくまで選択であって臨床系に行く学生は、8単位の臨床の演習をしてもらうということで、最後の2年間は選択制で実施したら良いのではないかというプランが出ている。しかし、東大でもこれを実施するだけの臨床の教員がいない。そういうことで、未だに卒論が続いているのは非常に残念なことだと私も思っている。そういうことで、最初の質問で東大について言うと、基礎系の学生は講義の内容も実習の内容も卒論の内容もかなり満足をしているが、臨床の学生は非常に不満に恩っている。臨床の学生が臨床の講座に行って臨床のことをやっているが、臨床をやりたい学生がもし基礎の講座に配属されたら臨床をやるチャンスがほとんどない。その辺のところが学生にとって非常に不満だという話を聞いている。北大についてはどうか。

○科目については北大も東大も各大学も斉一教育で同様だが、ただ北大と東大は非常勤講師の割合が少ないということだと思う。ただ、例えば私は、ウイルス学、細菌学、免疫学、家畜衛生学、その他いろいろと担当しており、学生は不満だろうなと忸怩たる思いがする。それだけ基礎に関しても教官は足りない状況である。北大の場合は東大よりも学生がのんびりしているということもあるかも知れないが、私の教室にいる5年生の3人のうち2人は臨床に進みたいという希望を持っている。「臨床に進むのにどうして来たの」と聞くと、「今しか基礎の研究はできない。この研究をちゃんとやれれば臨床もできると思う」と答える。先ほど御説明があったように、臨床の場合には国家試験を通ってから5年くらい小動物の見習いとして安い給料で臨床の技術を覚える。大動物の場合には、農業共済で先輩について回って、これも5年くらい自分で診療ができるようになるまでトレーニングしてもらうという状況になっている。学生はそれを知っているせいかも知れない。

○東京大学では臨床分野に就く者はほとんどゼロに近い状況が続いてきており、何年間に1回ずつ小動物臨床に行く程度だった。最近はようやく小動物臨床に行くという学生が出てきているが、いかに東京大学は研究重点大学と雖も、10名は毎年臨床に行ってもらいたいと思うが、残念ながらその状況ではない。したがって、農林水産省の資料では、毎年1000名くらいの新卒の就業者のうち466名、約5割が小動物診療獣医師として就業したということであるが、それとは東京大学も北海道大学も違って臨床には就業していない。最近は希望者が増えつつあることは事実で、少なくとも複数人が小動物臨床あるいは大動物臨床に就きたいという状況はある。

卒論は先ほど言われた通りだが、臨床実習について残念ながら獣医療の世界では大病院というのはない。資料5にあるとおり、診療従事者数が9116名。診療施設が8143箇所だから、1施設に1人くらいしかいない。最近は東京付近には10名以上の獣医師が診療している獣医療施設も増えてきており、そういうところで臨床実習ができるのではないかというのはあるが、やはり、外国の獣医科大学にはあるようなオープン・ラボ形式、つまり、設備は大学が用意してそこに獣医師が患畜と一緒に来て診療しながら大学全体としての活性化を図るというようなことが必要である。それは、獣医師にとっても最先端の大学の施設を利用しながら、しかも指導を受けながらやるという、そこは非常に学生にとって学びやすい場所である。法人化されれば別であるが、現在までの国立大学の仕組みではちょっとそれは馴染まないという状況があった。しかし、そういうことを望んでいる学生が増えていることは事実だと思う。先ほどの質問の答えとしては、日本の大学の授業科目はほとんど金太郎飴的になっており、資料7−2を各大学ごとに書いても似たような状況になると思うが、問題は、日本の獣医学科卒業生の就職先のダイバーシティ。欧米の大学で臨床獣医師になる比率が50%以下の大学を探すのは無理だが、日本の場合、就職先のダイバーシティが広いので、ひとつの大学ですべてを満たすようにすると、欧米の大学以上のもっと大きなものを作らないと要求を満たせないということになってしまう。したがっての獣医学大学は、それぞれある程度個性化せざるを得ないのではないかと思う。もちろん獣医学という非常に専門的な教育であるので、教育の均一性と大学の個性化というのは、出口のところのダイバーシティを見ながら考えるという方向に行くのではないか。

○現実の問題として東京大学で臨床分野を選択する学生が少ないということはそのとおりである。ただ、それがなぜなのかということについて考えなければならない。それは、我々が学生のころから東大は研究重視なのだ、臨床よりも基礎をやるべきだ、という非常に強力な教官の方向付けが常にある。学生が獣医学科に来た時は8割程度が臨床をやりたいと言っているのだが、卒業するまでに8割が基礎志向となる。学生の希望が途中で変わっても希望は希望なのかも知れない。ただ、それは東京大学がどういう獣医学教育をすべきなのかという確たる理念を持ってやっているのかどうかは私自身そこに長い間いながら非常に疑問に思っていた。結果としてそうなっていることは確かであるが。

○国立大学、特に東大とか北大で学生がなぜ臨床志向にならないかと言うと、はっきり言って臨床の授業内容が非常に不満足だからだと思う。レベルが低いからだと思う。満足するような臨床の知識と技術がそこで学べないから、あるレベルに達している講座に入るのだと思う。したがって、それは大学の中で要求しても叶えられないので、より高いレベルで学べる基礎を学んで、卒業してから臨床技術を身につけようという志向にならざるを得ないのが現状なのだと思う。その結果、先ほど卒後5年くらい見習いをすればと発言があったが、就職先自体も元々は獣医師教育として専門性の高い教育を受けている人が非常に少ないわけで、開業で受け入れるとしても徒弟制度みたいなところで臨床技術を身に付けなければいけない。私が今弁護士として対応している獣医療トラブルでは、飼い主から要求される水準の知識と技術が獣医師にはない。飼い主から「先生いったいどういうことなんですか」と聞かれても、病気を診たときにどのように病態が推移していくのかという知識をあらかじめ持っていないので、飼い主に説明することができない。知鐵と専門技術が乏しいためにインフォームド・コンセントができないのである。獣医師会がインフォームド・コンセント徹底宣言というのを打ち出して、なんとか獣医師にそれを徹底させるようにしても、ベースとなる知識と技術が足りない、社会の要求に応えられないのである。これが非常に社会的問題としても出ており、それは大学を出た後に身に付けられるなどという問題ではない。それを身に付けられる場は大学しかないので、そこでもっと充実した臨床教育というのをやらなくてはならないと思う。北大と東大は学生の人数が少なくて、教員数は学生一人当たりに対して多いということは、必ずしも内容の充実を意味するものではない。臨床の部分が足りないことは、学生の人数の問題では充足できない。獣医師会のアンケートでもあったとおり、すべての教育環境が乏しいというところに一番問題があるので、それは人数を増やして設備も充実させて教員の対象分野をもっと広げて充実させる以外に日本の獣医学の臨床教育を高めるという方法はないのだろう。結論が見えている気がする。

○だいたい皆さんと同じ意見だと思うが、4年制から6年制になってもなんら変わるところがなかったということに一番問題があるのではないかと思う。もう問題点は皆さん御理解されていて、ただ、なかなかそれが解決できない状況にある。何が解決できないかというと、教員が足りないということだと思う。やはり獣医学の特徴は臨床をやっていける場所がある。そこを活かしていかないと理学部の生物学科など他の学部とあまり変わらなくなってしまう。ただ、日本の教育が細かい実験を重視する方に行きがちだというところは別に獣医学に限ったことではない。私はMlTにいたことがあるが、ああいうところのマスターコースは、実験をあまりやらないで、教育を非常に熱心にやって、基礎的な学問をコースできちんとやらせるが、日本の修士課程はほとんどおざなりで実験一本やりになっている。そこでさえ問題があるのだが、特に、獣医学の場合は学部6年制にしたわけだから、やはりそういう面で獣医学らしい教育をやっていかなければならないし、やるべきだと思う。そこをどう解決するかというと、やはり人数を増やすしかないと思う。

○卒業生のアンケートの回答率が非常に高くて自由記入欄にきちんと真剣に答えている。これほどの不満が、もし他の農学系学科であったら学生はまったく来ない。私たちも2年に1回卒業生を含めてこういうアンケートをやっているが、このような状況になったらもうだめだ。ただ獣医学科の場合は、競争率10倍以上の非常に安定した志願者がいて、その後の就職もきちんと用意されているので、これだけひどい状況でも受験生が集まってくるということだが、もし、これが外部に漏れたらどうなるのか。これは公表資料なのか。これはかなりショッキングな内容だ。これは何とかしなければいけない。東大みたいな研究志向のところとそうではないところとはちょっと違うのかも知れないが、これを見ていると統合はやむを得ないという気がかなり強くする。

○医学部でこういうアンケート結果が出たら国民の大問題になってしまうが、物言わぬ動物が相手だからやって来られたのだというところが正直なところだと思う。先ほど発言があったとおり、内科と外科の教授が1人ずつしかいないというのは、やはり信じられない。だから卒論をする、だから統合、ということの他に提携獣医療施設を使うとか客員教授を活用するとか、ともかく現在でもできることをすぐにでもやらなければならないのでないか。自分自身医学部出身なので医学的な発想が多いが、例えばこれから研修医というのは大学病院以外の病院に半分くらいは出なければならないということになってきている。したがって、そういう形でちゃんとした教育をできるということを現在の段階でもいろいろ考えなければならないのではないか。

それからもうひとつ、薬学が6年制になろうとしていて、修士課程を上乗せした形になるかどうかということが問題になっている。ただ薬学の方はもっと獣医よりもはるかに規模も需要も大きいし、私立が非常に多くあるという点が違うが、獣医学と少し似ているのは、東大の薬学部はほとんど薬剤師を志向していない、研究を志向している。それはそれでいいかも知れないが、そういう人があちこちの薬学部の教授になるということが、心配である。そういう意味で、獣医学がきちんとするというのは、薬学に対しても模範ともなると思うので、しっかりと考えていかなければならない。ともかく修士論文まがいの卒論はやめて、何とかして獣医療をするように今の5年生6年生の教育体制を考え直すのがひとつの切り口だろうと思う。

○卒論の点で私学はどうか。

○私学も同様に卒論を課している。違うのは小動物臨床に行く人数とパーセントが高いということである。今の話の中で二つ問題点があると思っている。ひとつは、どこに最終的な方向を見出すか、例えば小動物臨床教育を目指していくのか、あるいは社会獣医学というような公務員も含めたものを目指していくのかによって、かなり方向性が違ってくると思う。卒業生のアンケートと獣医師会のアンケートは全く一致していると思う。というのは、卒業生についても52%が臨床に従事している卒業生が書いているということ。それから獣医師会の分についても38%が臨床に現在いる人が書いているということで、結果として不満足であるということがこれは絶対的であろう。ただし、その次にその不満足のどこを充実させるかという方向性が検討されていない。今後、方向性をどうするかということも必要ではないかと思う。国家ライセンスが使えるような教育に教育現場が耐えられるようなものを構築しなければならないというのが結論だろうが、方向性についてある程度検討しなければいけないのではないか。

○私は東大の薬学科にいたが、薬剤師の業務に関わることをやろうとすると、非常にマイノリティで苦労した。獣医学の話を聞いていて違うと思うのは、教室の後継者を選ぶ時に、臨床の教室が増えないというのはそういう伝統があるからなのか。我々のところはそういうことはなくて、必要だと思ったら違う領域を持ってくるというようなことをやり、徐々に臨床系が増えてきているという実態はあるのだが。獣医学の場合は、あまりにも人数が少ないから基礎の教員を少し減らして臨床の教員を増やすということができなかったということか。

○資料7−2を見ていただければお分かりになるとおり、基礎だけで10科目国家試験関連科目があるが、どこの大学も9講座から10講座しかない。解剖をやらないで臨床をやるわけにいかないし生理をやらないで臨床をやるわけにいかない。そうするとやはり基礎の講座優先ということになってきたということである。例えば解剖と生理を合わせて1講座にして、その分を臨床にしようということができれば良いが、それは不可能で今までやってこられなかったということだと思う。

○ということは、やはり全体の枠を大きくするしかないのか。

○そうしないと不可能である。

○皆さんと意見は変らないが、やはり世界に比較しての一番弱いところは、公衆衛生領域と臨床ということだろう。我々も色々と自分たちで検討している中で、臨床は非常に大事だと言うのだが、実際に大動物、小動物と分けてみても動物自体がかなり減ってくるということで、果たして臨床教育について全部の大学が人員を拡充するだけの必要性が本当にあるのかと思う。先ほど意見があったが、各大学に重点領域というか、こういうものに力を入れるというような、ある程度棲み分けをして行かないと、全部が理想に沿って教官数を増やすということは日本の獣医領域では不可能ではないか。公衆衛生との獣医畜産業と結びつけて考えると、畜産学関連教育をかなり取り入れないと実際に日本で役に立つ獣医師を育成するのは難しいのではないか。それをどうカリキュラムに入れていくか。先ほど卒論という問題があったが、卒論があるがために重要な科目を入れようと思っても入れるところがない。したがって、ひとつの例として5〜6年目のところにいろいろな科目を入れるような模索というのが非常に大事だろう。先ほど御発言の卒論を使う時間を別に考えるということに私も同じ意見である。

○東京大学の獣医学科の卒業生で獣医師の資格を取ることが自分のその後の仕事に影響があるのか。

○研究者にとってはあまり影響がなかったということは言えると思う。例えば大学では医師免許を持っていると手当てが支給されるが、獣医師の場合はそれがない。その点ではまず大学の場合ほとんど役に立っていない。実際に我々もそうだが、過去のアンケートで、獣医師のライセンスは必要かという問いに対して、特に研究関係ではあまり必要性を感じないという意見が多かったと思う。先ほど御発言があったが、修士課程で獣医師を養成していた時代は、教員によっては「国家試験を通らなくて良いからきちんとした論文を書きなさい」、「きちんとした雑誌に投稿できるくらいのレベルまでやりなさい」と指導をしている教員がいたことは事実である。今は、私が知る限りではそういう先生はいなくなっていると思う。プラスアルファのメリットがあるかないかと考えると、獣医師の免許がなければできない業種があり、そこでは絶対的に必要であるが、そうではないいろいろな分野の人と競合するところにおいて、現実的にメリットはない。しかしながら、多くの若い人たちは現実的なメリットではなく、獣医師免許を持ちたいということ自体を希望しており、東京大学でもそれを支援するという体制に今はなっている。

○関係法規というものがあるようだが。

○各大学で獣医学のあるべきカリキュラムを作成しているがまだ偏っている。例えば動物福祉関係とか、職業倫理とか生命倫理、それに法規関係はあまりにも少なすぎる。つまり教員の本音は、学生の要求と実際にそこに人を置くのか、20人いたら必ず専門の人を雇うかということについては、今のところそういう意欲はない。社会的な要求と大学の教員の具体的な動きとの間には乖離がある。医学部でもそうだと思うが、例えば医学部でも文系的な人を学部に取り込むようなことに他の教員は積極的でないとお聞きしているが、我々にとっても残念ながら同じことが言える。

○第一回の会議でも私は申し上げたが、やはり獣医学という職業教育の場合に、職業倫理とか法学とか、心理、動物心理、こういうものは絶対に欠かしてはいけない。もっと強くこれらは入れていかなければいけない。魚病学のように実際に国家試験科目の中に獣医では賄い切れないような科目があるのだから、これらは専任でなくても関係の専門家に協力教官という形などでやっていただくことで良いと思うが、これからますます大事になる人間教育の柱をはずしてはいけないと考えている。

○獣医関係法規というのは、国家試験の科目になっているにも関わらずあまりやっているところはないのか。

○あまりない。教員がいないので。

○全国的に公募すれば教員は集まると思う。しかし、そういうところに熱心ではないということだと思う。

○それでよく国家試験が通るものだ。

○それは学生が勉強しているから。

○おそらく関連法規は各学科目の関連しているところで教育しているのではないかと思う。学校によっては非常勤講師にお願いしているところもあるのではないかと思うが、専任教員はおそらくいないと思う。

○専任教員がいなくても良いとは思うが。

○例えば公衆衛生なら公衆衛生の科目の中で関連している法律を教育していると思う。

○しかし、資料7−2では「△」印になっている。

○ちなみにどういうことを教えているかというと、獣医師法、獣医療法、薬事法、家畜衛生行政法規、公衆衛生行政法規、動物の保護管理に関する法規、放射線防護基準、ICRP勧告その他、家畜改良増殖法、そういったものを教えることに国家試験出題基準ではなってる。

○本当に勉強している人にとっては、いろいろな判例などは臨床的にも実際的にも役立ち、非常におもしろい科目として成り立つと思うが、そういう教員は、大学の中に現時点ではいない。そういう経験を持っている人を公募をすれば、様々な人が来てくれるのではないかと思うが。

○関係法規といっても、どの程度のものが要求されているのか。今説明のあった国家試験の法規はかなり過大な要求ではないだろうか。

X線を使う以上は、放射線防護基準を知る必要があり、麻薬を使う関係から、麻薬取締法や覚せい剤取締法は知っていなければならないし、というようにいろいろ関わってくる。全く知らないわけにはいかない、さわりだけは知っている必要がある。

○「さわり」というのはどの程度なのか。獣医師の国家試験として要求される水準としては。そんなに専門家は必要ないと思うが。

○今のような体制でも試験には通っていると理解していただければ良いのではないか。

○試験問題のレベルがどうとかいうことではなくて、社会に出て実際に仕事に就いた時に基本的にどういう規制があるかという知識が、中身についてはその時に調べれば良いのだが、自分のやっていることは祉会の中でどういう位置づけをされていて、どういう規制があるのかという、そういう程度のレベルの知識というのは絶対に必要である。それを全然分からないまま社会に出て行くと学生が戸惑う。法規というのは、早い時期ではなくて、ある程度獣医学自体の知識を持った段階で、社会との結び付きの関係で把握できるようになった時に、ある程度の知識で良いと思うが提供されれば役に立つと思う。そのことと直接関係はないが、基礎と臨床という問題も今までの教育というのは完全に基礎は基礎、臨床は臨床と分かれていたような気がする。そうではなくて法規と実際の実務との関わりと同じように、学部に入学した段階で解剖学、生理学、薬理とそういうのを基礎として勉強させられるのでうんざりするところがある。そうではなくて、解剖というのは実際に生きた動物がどうやって動いてそれが病気になった時にどうなるのかという、臨床とのフィードバックという、有機的に結びついて初めて基礎の意味が出てくるので、そこのところを結びつけるというのが臨床で、今手薄、教員も手薄でありいろいろな部分が手薄であるがために、「基礎の教員はちゃんといます」、「これだけの教育レベルはやっています」と言うけれども、学生の立場からするとそこを結びつけるものがない。法規の問題にしても実際に現場の仕事をした時に、獣医療というのはどのように位置づけられて何をやるのかという意味合いを分かって初めて法規制の意味が分かる。そこのあたりの認識を持って教育を組み立てていただきたい。

JABEEで問題にしていることもその点である。

○獣医学の場合、臨床と基礎を結びつける大学病院というのはないのか。

○ある。

○どこにいくつくらいあるのか。

○獣医学科を置く大学にはどの大学にもある。

○人間の大学病院くらい大きな規模なのか。

○それは全然違う。ひとつの例を申し上げると、東大には東洋一の家畜病院があるが、それは欧米の個人診療施設の平均くらいの規模である。それで東洋一である。

○病院を充実させるという運動はしているのか。

○それはまさに獣医師会の問題。

○まさに臨床の学生教育と臨床実務を一体化するというのが教育研究の究極的な目的だと思う。大学の講座の充実プラス当然臨床を担当する病院の拡充強化ということを両面的にやらなければいけないと考えており、いろいろな方面にお願いをしている。御指摘のとおり現状では非常に規模が小さい。特に都会の大学では小動物臨床に偏っており、拠点的な整備ということを考えていかなければならないのではないかと思っている。

○ひとつの大学で持てないなら、地域でかなり大掛かりな獣医療施設を設置するとか、何とかする方法を考えたらどうか。人間の場合には大学病院に長蛇の列を作ってまで行くが、自分の動物が病気になった時にそこまで行こうと言う人はあまり聞いたことがない。人気はあるのか。東大に行けば治るとか。

○東大は非常に人気がある。国立大学の家畜病院の収入の半分が東京大学という状況である。3億5〜6干万円の収入がある。先ほど発言があった東洋一というのは収入で見た場合である。患畜数も収入とパラレルなので小動物で見ると東洋一である。しかし大動物関係で言えば東洋で最低かも知れない。問題は、各国立大学の家畜病院の収入の半分は東京大学だけで売り上げているというくらいだが、それでも本当に小さい。ましてや他の大学はもっともっと小さい。さらに問題なのは、内科と外科しかないから総合と言えるかどうかは分からないが、一応総合病院と言えるものは16の大学附属家畜病院程度しかない。例えば6億円くらい売り上げている個人診療施設というのが東京付近に3施設くらいあり、犬山市にはで最も売上の多い診療施設があるが、これらはやはり病院というよりも、やはり個人診療所という感じである。したがって、本当の意味で学生が研修できるような総合病院があればと思う。例えば医師会であれば、鹿児島県には医師会病院というのが県庁の目の前にあるが、そういうものが今のところ皆無なので、小さいと雖も大学病院はそれなりの総合病院で、それ以外は個人病院になってしまうという小動物臨床の非常に厳しい現実がある。

○今のお話のとおり、獣医療の場合は1施設に1獣医師というほとんどホーム・ドクターである。大きな規模のものが最近は出来てきており、MRIを持っている病院も増えてきているが、それは特殊な例であって、多くの場合がホーム・ドクターである。先ほど、どういう方向性で獣医学をやったら良いかということについて少し話したが、私はふたつしかないと思っている。ひとつは臨床家になるための臨床教育を充実させること。もうひとつ、社会獣医学で公衆衛生と家畜衛生。これは、法律によって獣医師でしか就業できない。例えば家畜防疫やと畜検査は獣医師でなければいけない。これらをいかに充実させるか。前者の臨床の方は動物病院を大きくしてティーチング・ホスピタルを充実させるしかないと思う。そうすると臨床講座の充実と病院の拡充だと思う。後者の方については関連の講座を増やすか、あるいは学外との連携、インターンシップをいかに利用していくかではないか。これから出口管理を十分議論しておけば、獣医学教育の充実に連携していくのではないかと思う。

○法人化の中で、医学部の病院は大学にとっては赤字を持ち込むのではないかと心配だ

が、獣医学科の家畜病院の方はやろうと思えばかなり黒字を持ち込めるのではないかと期待できる。もっと宣伝して周囲の獣医師と連携を取って難しい病気は大学でやるなどとすれば収入は上がるのではないか。その資金を使って、前回発言があったレジデントを増やすことで臨床教育を充実していこうと内部で提案している。国立大学の家畜病院は、今、ちょっと黒字、あるいはちょっと赤字で満足しているが、やる気があればかなりのことができるポテンシャルを持っていると思う。

○なぜ獣医学科がこんなに人気があるのかという根本的な理由がどこにあるのか。国家資格という男女の差別がない、就職が良いというのがあるのかも知れないが、そこがよく分からない。かなり多くの人が民間の小動物病院に就職してそんなに給料面で良いのか。人気のある本当の理由が分からない。また、これが長期的に続くのかどうか。獣医師の資格がなければ絶対仕事が出来ない分野と、そうではない分野とがあるが、先ほど発言のあった方向性ということかも知れないが、その辺の見通しというのがどうもまだ分かりにくいところがある。

○給与面では、卒業後開業するまでの研修期問の平均が5年という話はさっきから出て際いるが、見習い獣医師の平均年収は27歳で211万円である。厚生労働省の調査では同じ年代の一般企業の就職者は433万円。140万円低い。30歳では378万円に対して500万円ということで、給料は非常に低い。見習い期間はいかにひどいかということは、今日示した卒業生のアンケートに出てくる。今日は一部だけしか抜粋していないが・例えば、「卒業後実践訓練を先輩獣医師の下で働きながらやらなければならないが、先輩獣医師の主観に頼った教育を受けなくてはならず、偏った技術と知識の習得しか期待できない」というような問題など。

○それを知らないからではないか。そういう実態を知ったら学生は集まるのか。

○こういう問題があるにも関わらず、やはり小動物臨床に就職したいという夢が非常に大きい。こういう現実は分かっていてもここしか行くところがない。6年間我慢して勉強すれば獣医師になれるのだから獣医学教育にあまり期待をしないというのが、私が聞いた一番悲痛な学生の声である。

○あまり釈然としないが。

○しかし、職業というのはそういうものではないか。獣医師の周辺領域の、国家試験のない動物看護士の世界は悲惨も悲惨。なんと表現して良いか分からない。獣医学教育と同じくらいの授業料を納めなければならないところもあり、しかも全国に100くらい学校がある。

○私から見れば、そんな純真な学生を集めておいて、大学の教員がみんなで一緒になるとかならないとか、そんな勝手なことを言っていたら、これはもう本当に社会的な責任が非常に大きいと思う。

○このまま議論を続けた方が良さそうなのだが、予定された時間になってしまったので、本日の議論はここまでにしたい。

○先ほどからの議論のとおり、確かに現状はひどいわけで、どういう結論になるかは分からないが、資料3によるとどの大学も学生の出身都道府県は全く全国的である。ということは、大学同士の統合がどのような組み合わせであっても学生に不利益を与えることはまずないのではないか。それから資料2で畜産学の方が490名もおられるが、先ほど発言があったように畜産関係の教員がいない大学がある。そういうところに獣医学が孤立してあるという不利益が今あるのではないか。これは、これからどういう形で将来発展し得るのかということを考える上で参考になると思う。

○次回は家畜病院の収入等の現状がわかるような資料を用意いただければと思う。

○獣医師会で全国的に見て大型の獣医療施設の概要が調べられないか。もし、そのような資料があれば参考になると思う。

6.その他

(1)本日意見交換の中で求められた資料について、事務局において整理の上、関係委員に依頼して、次回以後事務局においてとりまとめて提出することになった。

(2)次回の日程は、後日事務局から連絡することとなった。

以上

第1回から第3回までの主な意見

 

事項

主な意見

備考

1獣医師の従事状況及び需給関係

○獣医師数は約3万人。獣医師の従事領域は産業動物医療のほか、畜産業、ペット医療、公衆衛生、製薬・食品業、野生動物保護等多岐にわたっている。 ○獣医師の従事職種には、診療獣医師、と畜検査員など法令で獣医師に限定されるもの、食品衛生監視員、家畜防疫員など資格要件に獣医師が含まれるもの、検疫官など獣医師である必要はないが獣医師の職域に関係するものなど資格との関係は様々。 ○近年、産業動物医療、農業関係団体に従事する獣医氏が減少傾向にある一方で犬猫等のペット診療への従事者が大幅に坤加している。 ○広い意味での獣医事に従事しない者が年々増加しており、1割以上となっている。 ○農水省の獣医師需給予測においては養成規模の拡大は必要ないとしている。

関係法令としては、獣医師法、と畜場法、食品衛生法、家畜保健所法、検疫法など。

ペット医療従事者(S63/5291人→H12/9116人)。

獣医事に従事しない獣医師(H12/3,820人)。

2獣医学科の構成、位置付け

○欧米の獣医学教育組織はスクールや学部として独立しているが、我が国の場合ほとんどが農学系学部の1学科として構成されている。 ○欧米では州単位で複数設置されている例は稀で集約的な配置となっているが、我が国では対照的に少規模散在の状況である。 ○国立獣医学科の学生の出身地はいずれの大学もほぼ全国ネットとなっている。 ○欧米と我が国とでは獣医学の生い立ちが異なる。欧米では畜産製品の安定確保の観点から出発しているが、我が国では輸送、農耕など労力としての牛馬の保全から出発。

国立10大学のうち、獣医学部を置くのは北大のみ。

/24州に各1校。2校設置は2州のみ。英/6校設置。独/16州のうち、5州に各1校設置。仏/4校設置。

3卒業後の進路

○約50%が個人診療施設に就職。農林畜産、公衆衛生関係の公務員が約17%、製薬、食品関係企業が約7%、農業団体が約4%と多種多様な職域となっている。そのほとんどが医療業務に従事する医師や歯科医師と異なるところ。○近年、産業動物獣医師は3Kといわれる職務内容のため敬遠され、小動物医療への志向が高くなっている。○新卒者の小動物診療獣医師への就業状況が約5割となっている一方で、卒業生のほとんどが臨床分野に進まない大学もある。

 

4学生規模

○国立の獣医学科1大学当たりの入学定員は25〜40名であり、欧米諸国(60〜250名)と比べ小規模。 ○欧州では公衆衛生等の非臨床系への学生確保のためコース制を導入し学生数の拡大を図った例(ユトレヒト大学)がある。 ○我が国全体の学生数規模は、英、独、仏などと比べて劣るものではない。

 

5教員組織

○国立の獣医学科1大学当たりの教員数は概ね20数名であり、欧米諸国(70〜100名以上)と比べ小規模。 ○国立の獣医学科1大学当たりの教授数は概ね10名であり、獣医師国家試駿科目数18に満たない。 ○小規模な教員組織のため臨床教育や公衆衛生分男への教員配置が不十分となっている。 ○獣医学科卒業生のアンケートでは、「基礎に比べ臨床系は膨大な内容の教育を少数の講座、教官が担っており、十分な質・量の教育が困難」、「臨床実習については多岐にわたる内容を少人数の教官が多忙な診療と並行して行っている」と指摘。○獣医の内科学、外科学は器官系統などで区分された組識になっておらず2講座相当の教員配置しかない現状は弱体といわざるを得ない。医学部で実施しているいわゆる臨床教授の登用などできることはやるべき。○獣医学教育の充実のため畜産系教員を活用することは重要と考える。○欧米では他学部や他大学等のパートタイム教員やレジデントの活用による柔軟な体制を持つ。

EUのEAEVE基準:教員約100名

AVMA基準:教員約70名

獣医学科卒業生有志による卒業生へのアンケート調査。回答数100

6教育課程

○獣医師国家試験対応のために限られた人的資源をフル活用するとともに、非常勤講師により対応しているが、その結果臨床実習への対応不足が生じてきている。 ○獣医学科卒業生のアンケートで多くの教育上の不足が指摘されていることは重大な問題。臨床系の知識・技術の習得については70%以上が「不十分」「かなり不十分」と回答。「基礎と臨床との接点が分かりにくい」「臨床実習時間が短い」「大動物の実習が非常に少ない」など具体的に指摘。 ○臨床教育の不足には5・6年次での卒論研究が原因の一つとなっている。国家試験があるのだから医学部のように卒論を課さずにこの時間を臨床実習に向けるべきではないか。 ○現実の間題として卒論を臨床実習に振り向けるには教員が足りない。 ○卒業生に臨床の知識・技術が足りないのは教育環境が乏しいことに尽きる。 ○非臨床系の公衆衛生分野については科目が不足ないし開講されてない。 ○公衆衛生学の充実については、フィールドでのインターンシップの取り組みが効果的と考える。 ○獣医師会のアンケート調査では、獣医師はそれぞれ従事している領域の関連分野の教育が不足していると指摘している。(農水関係従事者は畜産関係科目が、公衆衛生従事者は公衆衛生学科目が、動物診療従事者は臨床科目が教育上不足と指摘。) ○獣医師の幅広い従事領域を踏まえると、一つの大学ですべてを充足する教育課程を配備するためには相当大規模なものが必要。ある程度個性化することも必要か。 ○獣医学に関する幅広い教育分野については、獣医学と畜産学やその他農学、医学などとのコンバインド教育の工夫が大事。 ○関係法規や職業倫理などの関連分野については学内の協力体制で充実できるものもある。 ○獣医学教育の改善充実には、IT技術の導入やフィールド教育の重要性と、それらのバランスを考慮する必要がある。

獣医師、箏業所、教員を対象として実施。回答数1389。

7附属家畜病院

○家畜病院の患畜の状況は大半が犬猫に偏っている。 ○臨床教育そのものだけでなく臨床の基礎教育へのフィードバックも大事。その意味からも両分野を結びつける附属病院を充実することは重要である。 ○臨床教育の充実のためには学外へ出ることも重要であるが、獣医療に大規模病院がないのが現状。 ○諸外国にあるような獣医師、患畜を外部から取り入れるオーブン・ラボ形式の臨床病院の取り組みが必要。

 

8学部教育の施囲

○学部教育でどこまで行うか。大学院、卒後研修などそれぞれの人材養成の役割を明確にすることが必要。その上で,小規模学科であるが故の課題に対する方策を考えていく必要がある。 ○学部教育では、人間教育を行うとともに最小限獣医師国家試験に合格することが基本。臨床や公衆衛生分野は大学院でスペシャリストを養成すればよい。 ○獣医学教育が6年制に移行した以上臨床教育は学部教育でしっかり行うべき。 ○獣医師としてインフォームド・コンセントができるような臨床の知識と専門技術を大学で教育すべき。インフォームド・コンセントができないことは社会的問題。

 

国立大学における獣医学教育に関する協議(第2回)議事要旨(案)

1.日時:平成15年3月18(火)10:00〜13:00

2.場所:霞山会館「霞山の間」

3.出席者

(協カ者)梶井 功、大森伸男、加藤 紘、唐木英明、岸 玲子、喜田 宏、黒木登志夫、酒井健夫、島田壽子、鈴木直義、林 良博、藤原宏志、山岸 哲の各氏

(文部科学省)木谷高等教育局審議官、徳久専門教育課長、吉村専門教育課課長補佐 他

(農林水産省)生産局畜産部衛生課獣医事班 谷技官

4.配付資料

資料1 前回(第1回)議事要旨(案)

資料2 主要国の獣医学教育の概要

資料3 獣医学教員数の国際比較

資料4 諸外国における獣医学教育の現状について

資料5 産業動物診療獣医師の充足率

資料6 平成12年度活動領域別獣医師数(県別)

資料7 動物検疫に従事する獣医師数

資料8 獣医師の職務及び獣医師資格が求められる職種等

資料9 獣医師会パンフレット

5.議事

(1)資料1「前回(第1回)議事要旨(案)」について、意見がある場合には3月24日までに事務局まで連絡することとし、最終的な文面の調整は座長に一任することとなった。

(2)資料2,3について事務局、資料4について唐木委員、資料5,6、7について農林水産省、資料8、9について大森委員より説明があった後、次のとおり意見交換があった。(○:協カ者、■:農林水産省、●:夢務局)

○前回・ケンブリッジ大学の教員数は確か38名だったと思うと発言したが、これは、100%教育に従事しているという計算をした場合である。つまり、1人の人問が60%しか教育に従事していなくて.40%は研究に従事しているとしたら、56人x0.6という計算をする。そういうことでの38人である。教員数の比較は難しく、東京大学は、資料3で教員1人に対する学生数が3.7と良い状況になっているが、東京大学のようにいわゆる研究重点大学の場合は、1人当たりの教育従事率は低くなるので、厳密な比較が必要なのではないか。これは意見として申し上げておく。

資料2に家畜飼査頭教等というのがあるが、できれば犬と猫の数くらいは入れておいたほうがよいのではないか。ヤギや羊は、例えば、ニュージーランドには人口の何倍も羊がいるが、これは獣医療の対象には極端に言うとほとんどなっていない。どのくらい獣医として経済的な価値を生んでいるかということを考えたら、例えば、やアメリカはイヌやネコが多く、イギリス、ドイツ・フランスはよりも少ない、そういう見方をしないと入学定員1人に対する頭数というのはかなり違った印象になる。したがって、ここにイヌとネコは加えたほうが良いと思う。

また、ウマは日本には2万2干頭しかいないことになっているが、私の知っている限り、戦前の150万頭に比べたらとても減ってしまったが、現在でも10万頭は超えているし、イギリスの24万3干頭というのも、私の知っている限り50万頭くらいいるのではないか。家畜は、割と日本ではしっかり調べられているが、世界的には、ウマはコンパニオン・アニマルで産業動物のカテゴリーに入れない国のほうが多く、その数はかなり不確かである。ほかはおそらく届出がしっかりしているから確かではないかと思うので、細かいところはたいした問題ではないが、少なくともイヌとネコの数は是非入れていただいたほうが良いと思う。

○ブタもウシも同じ1頭として計算しているのは良いが、ニワトリは全体的な雰囲気をつかむだけだから、入れないほうが良いのではないか。

○イヌ、ネコの頭数の調査というのは国際的にあるのか。

○ペットフード会社で調査されている。厚生労働省では、犬は530万頭しかいないことになっているが、民間が調べたものでは1000万頭いる。

○先程アメリカの28校は認証校ということだが、認証を受けていないものもあるのか。

○今のところない。一度アクレディテーションを受けると、改善のための猶予期間が設けられ、その問に各大学は必死に改善するようだ。それから、認定を受けた大学はヨーロッパにもあり、各地で増えてきている。28校は、国内の認定を受けた大学ということである。

○資料5の獣医師充足数のところで、具体的には診療可能頭数ではなく戸数にしている理由は何か。

■獣医審議会計画部会の議論の中で、豚や鶏については、個体診療ではなく集団診療がメインになってきているという議論があり、戸数で積算したほうが実態にあっているのではないかという話があった。それで、試算においても戸教を使用している。

○平成4年と12年に比べれば豚も鶏も1飼育場あたりの飼養頭数が増えているが、1人当たり診療可能戸数は変わらないのか。

■若干古い実態調査データを用いているため、そうなっている。

○印象としてはアメリカ、ヨーロッパの獣医学教育は非常に臨床を重視していると思う。の講座構成を見ると、基礎教育は大体同じレベルであって、非常に不足しているのは臨床教育ということになるのか。

○そのとおりである。劣ってはいないと思うが、公衆衛生教育と臨床教育に決定的な差がある。そうなっている大きな要素は、先生の数が少ないため、まず基礎を充実しようという考え方があったのだと思う。例えば解剖、生理、薬理、公衆衛生などの教育をしないと獣医学教育になり得ない。そのため臨床教育を担当する教員数は非常に少ないという状況になっていると考えている。

海外でも臨床を担当する教授、助教授の数は3分の1ぐらいであるが、レシデントという臨床をサポートする人や技術員、技官などサポーティングスタッフが非常に多い。そこのところで臨床教育が充実していると考えている。したがって日本では臨床教育が決定的に足りない。加えて公衆衛生教育も足りないと思っている。

○レジデントという名前ではなくても、病院に入ってインターンシップをやって、今度は自分の大学ではなくてほかの大学で臨床教育をするという、かなり徹底した臨床教育が大学の外で行われる方向に医学は向いているが、もし獣医の臨床教育が内部でできないとしたら、外の医療施設をかなり重要視し、それを利用する方向に行ったほうが良いのではないかと考える。レジデントを入れるとしたら大学の家畜病院だけでは非常に不十分だと思う。そのことをどのように考えるのか。

○現状では、6年制の教育を受けて卒業する学生は臨床教育が徹底的に不足している。学生が臨床をしたければ、町の獣医師のもとで2年〜3年、長い場合は5,6年修業をして一人前になって世の中に出て行く、というケースが非常に多い。大学がやるべきことを、学生が卒業してから安い給料で下働きのようなところから始めて、自分で勉強しなければならない状況である。レジデントとして腕を磨くことも必要であるが、臨床を教える先生の数さえ多ければ、それ以前にもっと大学で充実した臨床教育ができる。その上でレジデントとして他の大学で勉強する。そのためにも各大学の臨床を今の何倍かは充実しないとそういうことはできないだろう。

○問題は、医療の世界とはばラレルになっていないということである。例えば大学の家畜病院は非常に小さいが、それでもレジデントをやろうと思ったらできる。しかし大学外では獣医療の場合には個人病院しかない。大学の臨床をやっている先生方が、大学の中だけでなく、社団法人病院のような施設があると非常に良い訓練ができるのでそういうものが欲しいとは言っているが、そういう社会的な整備がなされていないので、全部大学が行うことが期待される。救急病院さえも大学に要請が来ているところが問題だと思う。

○人件費がどこから出ているのかを教えていただけると良いと思う。医学においても、アメリカの臨床系の教官と日本の臨床系の教官を比べると数がぜんぜん違う。我々も増やしたいと思うが、アメリカは、例えば研究や病院の収入で稼いでスタッフを雇っており、むしろペイバックしているくらいである。施設に措置される人件費で賄うことは到底アメリカでもできない。

また、看護婦や研修医の人件費は、別のクライテリアで出ているので、そういうところは大学だけというよりは、国全体のシステムを考えていかなければならないのではないか。

○資料4の3ページのペンシルペニア大学の予算のうち、授業料は20%。残りのほとんどが州からの補助と寄付、その他となっている。5ページにはノースキャロライナの例があるが、これは病院収入というのは2分の1よりも少し少ないくらい。8ページにはコーネルの例があるが、コーネルは私立大学だが州政府から3分の1の教育資が出ている。ヨーロッパでは国から出ているというところが非常に大きな割合を占めている。特にヨーロッパの国では獣医学は安全な肉を食べるために絶対に必要であって、国の投資が必要であるということがコンセンサスになっているので、非常に立派な大学に税金を大幅に投入することに対して社会的な理解が得られていると聞いている。

○獣医学だけではなく、これからは、いわゆるフィールド教育をどう高等教育の中に取り込んでいくか、ということが大きな課題だと思う。もうひとつはコーネル大学の例のように、教育にlTをどう取り込んでいくか。これも獣医だけの問題ではなく、日本の高等教育としての大きな課題であろうと思う。このフィールド教育とIT化を考えていくと、今、大きく大学というものの姿が変わろうとしている。大袈裟な言い方をすると、今までの大学は18歳になった学生をピックアップして、大学という箱の中に閉じ込めて、何はともあれ大学に出てきなさいという教育で今までやってきた。しかしこれからの大学というのは、ITを十分に活用しながら、同時にフィールド教育もやっていくという、特に基礎的な部分はある程度閉じ込めてやらなければいけない部分もあろうかと思うが、より高度な部分はフィールド教育が非常に必要になってくる。そうなってくると今までの大学というもののイメージがこれから大きく変わるのではないか。そういう意味で、このフィールド教育、獣医の場合はレジデントなり臨床教育という形で今議論されているが、そのことと、コンピュータを活用した教育というものとの聞係について、どのように考えるのか聞きしたい。

○基礎獣医学の部分ではコンピュータ教育、あるいはeラーニングを使う余地があると思う。動物愛議との開連で、動物を実習に使うことにアレルギーを持つ学生が増えている。実際に目の前で動物による実習をするということが獣医学の教育には非常に大事なことだが、それができない場合にコンピュータでシミュレーションすることが海外でも随分行われている。もうひとつの側面として、獣医学は医学やその他の分野と同じように、職業教育、あるいは専門教育という部分がある。この職業教育、あるいは技術教育というものについてはコンピュータではできない部分がある。この部分については細かい技術を教えていくために一人の学生に何人も先生が付かなければならないこともあり、非常に人手がかかる。これはむしろサイエンスではなくてテクノロジーの問題である。これを教え込むということはコンピュータではできない。この2つをうまく大学の中でやっていくのかというところが大きな課題だろうと思います。

○コンピュータについては欠点と長所がある。長所は学生の積極性を引き出すこと。欠点はコンピュータを見て教官の顔を見ないこと。したがって、少人数でのチュートリアルのようなものを並行して行う必要がある。もう1つは技術のこと。シミュレーションはできるが実際の動きはできない。特に人間を相手にするところについてはマン・ツー・マンでやらなければならない。これは、獣医学でもそうだと思うが、限界があると思う。しかし方法論のひとつとしては学生の積極性を育てるので是非入れるべきではないかと思う。

○獣医学科の問題も、今までの高等教育、大学教育の枠組みの中で考えられてきた念が強いのではないかと感じている。そういう意味で、フィールド教育というのは必ずしも附属の家畜病院でやらなければならない話ではなく、むしろ本当の生産現場の中で教育していくのが本当のフィールド教育ではないかと思う。ITを活用した教育と、そのようなフィールド教育というのがおそらくこれからの高等教育の姿であろう。これは獣医だけの問題ではないと思うが、そういう発想の中での獣医学教育全体のあり方というのを考えていく必要があるのではないかと思う。

○学生の教育をフィールドでやるというのはとても大事なことだと思うが、獣医師法において獣医師でなければ動物の診療をできないとされており、学生がフィールドに行ってもただ見ているだけになってしまう。大学で実習用の動物を使って技術教育をして、獣医師免許を取得した上でフィールドに出て行くというのが法律の考え方であり、大学はそれに従わなければならない。

○前回の発言に基づいて家畜防疫の資料を用意いただいたが、家畜防疫というのは家畜だけの防疫なのか。ペットや家畜以外のものの防疫というのは誰がどこでしているのか。

○厳密に言うと家畜防疫というのは家畜伝染予防法に基づく業務で、基本的には産業動物の感染症対策ということになっている。ペットについては共通感染症であり、感染症予防法の中で動物由来感染症対策として厚生労働省の所管となっている。したがって、産業動物の感染症対策、いわゆる家畜防疫については農水省が主体的にやり、ペット由来の感染症対策は厚生労働省が主体的にやることとなっている。その間を繋ぐのが個人開業の獣医師であり、この人達が現場で犬猫を診療するので、この人達の役割というものはやはり家畜防疫、それと共通感染症対策をやる上で非常に重要だということになるのではないかと思う。

○それだと既に持ち込まれたものの治療や検査になる。水際でやらないと危ない病気などが、かえって家畜よりもあるのではないか。

○それは検疫の話だと思う。動物の検疫は農水省所資の動物検疫所が実施をしているので、家畜主体の検疫である。しかし、感染症予防法ができ、ペストの関連でプレーリー・ドッグ、エボラの関連でサルなど、特に野生動物が保有する感染症対策については徹底的に調査しなければならないということで、感染予防の見直しが来年なされる。ペット・野生動物で海外から持ち込まれるものについてのチェック体制に役所も対応するべきではないかと考えているようだが、現実はごく一部のペットしか検疫の対象になっていない。

○是非お進めいただきたい。

○前回の議事録に、医学関係から見るとどうして畜産は獣医の中に入ってこないのかという発言があったが、畜産においてどの程度の人が大学で研究教育、特に教育にあたっているのかという資料があったほうが良い。それからの場合ひとつの大学の獣医学科のスケールが小さいことによるデメリットがものすごくあると考えており、仮に統合ということが将来問題になったときには、学生の利益というものも考えなければならない。そこで、各々の大学の学生というのは地元から来ているのか、全的に来ているのか、というのはひとつの参考資料になるのではないかと思う。

○港の検疫官で獣医師資格を持っていない人は大学で畜産方面を勉強してきた人だという説明があったが、仕事の中身は獣医師と同じか。

○資料の7に家畜防疫官283人、うち獣医師が130人となっており、残り153人は何かという質問だと思うが、診療業務は獣医師しかできない。輪出入検疫の中身は大きく分けると生きた動物に対する検疫と畜産物・食肉等の検査の二通りあり、生きた動物に対する検疫は獣医師資格がないとできない。一方畜産学科や農学科等を出て、公務員に採用された人が家畜防疫官という官職で畜産物の検疫に対応している。

○現在獣医師が担っている実際の活動分野の仕事と、大学教育との閻で足りない部分というのが一体どこなのか少し具体的に分かる説明が欲しい。

○6年制教育を修了した獣医師、それとそれらを受け入れられている職域の代表者の方、それと大学の先生に対して平成8年にアンケート調査実施をした。この結果がまさに言い当てているのではないかと思うが、臨床教育部門について不満を言っている学生、受け入れ側が多い。また、公衆衛生部門にはかなりの職域・人数が就業しているが、この人たちが基本的に大学で公衆衛生に対する興味が湧くような教育を受けていなかったという不平不満が大変強い。私はそういった観点でその部門についての大学教育をきちんとやっていただきたいということを長年申し上げている。

○追加すると、臨床では日本の獣医学科や学部を出て、次はアメリカに行ってもう1回臨床の勉強をする人が非常に増えてきている。全体のパーセンテージは分からないが、それが不満をよく示しているのではないかという気がする。

○アメリカヘ行って臨床を勉強するのか。

○そのとおり。日本の6年問が終わってから。

○各大学の獣医学部で、誰がどういう研究をしているのかというような情報がどの程度開示されているのか。学生の立場から非常に知りたいのではないかと思うが、こういう勉強をしたいときにはどこに行って何を勉強したらよいのか、どういう研究が現在行われているのかということを知ることはできるのか。

○公衆衛生については、未だに公衆衛生の講座が無い大学があるのが日本の獣医学教育の現状である。情報開示については、各大学とも現在はホームページが非常に充実している。高校生などはホームページがちゃんとしていない大学は受けたくないという風潮になっており、大学はどこも一生悪命やっている。その中で大学の教育の内容や研究の内容、あるいは各研究室で何をやっているのかということは積極的に開示をしているので、ほとんどの構報はネットで手に入れることができると思う。その他に、印刷物として各大学は自己点検報告警というのを何年かに一度作っている。

○各大学の入試の案内のパンフレットはものすごく学生にとって魅カ的に書いてあるが、本当に教育体制としてそれくらいのことをやれる状況が作れているか点検した方が良いのではないかと思う。研究面で言えば、日本の獣医学は世界のレベルからみて確かに高いレベルにある気がするが、教育では非常に不満を持っている学生が多いのではないか。何かそういう統計を取られたようなことはないか。

○学生に対するアンケートはないが、先程の獣医師会のアンケートがある。それから獣医学科開係者の全国協議会で、受け入れ先に対するアンケートを取ったものもあり、先程の獣医師会のアンケートのお話のような結果が出ている。

○平成8年のアンケートというのは、印刷されているのか。

○次回説明させて頂きたい。

○獣医師として毎年900人以上出るということだが、これが将来どのくらい必要になるのか、もっと増やした方が良いのか、それとももう飽和状態で減らした方が良いのか、そういう獣医師の将来の必要性の予測といったようなものはあるのか。特に公務員に30%、臨床に30%、企業や研究関係に20%という比率が、将来はどうなっていくのかというようなことも含めて、そういう予測やデータがもしあればいただきたい。

○農水省の需給推算では、産業獣医に関してはもう99%充足されているという判断になっている。公衆衛生の側面では、前回、農水省開係委員から突発的なBSEへの対応などには配置転換で対応しているという話があったがペットの分野に関しての需給推算というのは無いのではないか。

○各職域での過不足は当然あるが、獣医師の職域はかなり広がっている中で、それなりに需給の調整が図られているのではないかと思っている。小動物臨床分野がかなり増加してきているということで地域的には若干の問題はあるかと思うが、獣医師会レベルで言うと需給は非常にバランスが取れているのではないかと思う。前回の資料にもあるが、獣医事に従事していない者が毎年確実に増えており、これをどう見るかということである。そういう部分が増えているということは、BSEの関係など突発的なことがあるが、概ね全体のバランスは取れているのではないか。そういうことで大学の入学定員についても現状のままでという結論は出ているのではないかと思う。

○私が農学部長の頃、複数の県の畜産課長から地元出身学生を卒業後に県に帰るように指導してほしいと頼まれた経験がある。地方公務員になる獣医師が少なく、その分野は供給不足になっているのかという印象を持っているが、どうか。

○現実には不足が各県多いのではないか。ひとつには小動物志向があり、また、公務員と家畜共済が獣医師の採用を控えるという時期があった。その間に学生の志向が小動物に流れ、特にBSE対策もあり、確保が難しい県が随分多いのではないかと思う。

また、資料5の産業動物の充足率の算出で若干気になるのは、数的ではなく産業動物獣医師の高齢化ということや無獣医村という地域的なものも考える必要があるのではないかと思う。

さらに資料5の2枚目に病症事故発生率があるが、現在はプロダクション・メディスンということで、予防衛生指導が非常に多くなってきており、こういうものも今後数字としては考えていく必要があると思う。

先ほど話があった、小動物分野、公衆衛生分野の実態もある程度細かく調査する必要があるのではないかと思うが、できれば次回、特に小動物分野の需給の実態がわかるような資料を提出いただければありがたい。

最後に、話を聞いていて、問題となっているのは6年修了後の出口のところだと思う。社会に出て獣医師として働くところのアンバランスがあるのではないか。それが大きく出てくるのがひとつは臨床教育であろう。したがって臨床教育の充実がこれからの検討課題ではないかと思う。

○需給バランスの問題で一言。実は私の県の農業団体からどうしても1人獣医師がほしいと昨年度から言われており、今年は何とかしてくださいと言われている。足りない地域は明らかに足りない。そういう点で、バランスが取れているところはどうなのかなという感じはする。

○確かにある分野では非常に足りない。特に産業動物分野。高齢化の問題もあり、また地方公務員が足りないという問題もあるが、それには原因がある。ひとつは学生が小動物臨床をやりたくて入学してくること。もうひとつは、産業動物臨床分野は昔から3Kと言われ、また、かなり寂しいところで仕事をしなければならないこと。このような色々な原因があって学生が行きたがらない。この辺りは、学生数を増やすことで人が行くとはとても考えられない。産業動物分野あるいは地方公務員の獣医師の待週を改善すれば変わるのかなとは思う。現状では学生定員を増やしてもそれだけ小動物臨床分野の獣医師が増えるだけだと思う。

○医療の世界で小児科医、麻酔医が足りないということと全く同じだと思う。獣医師の場合も獣医師免許というのは基本的にオールマイティーで、ある就業分野で足りないからといって大学定員を増やすことには基本的に繋がらないのではないか。これは、足りない分野にどういった形の政策努カで持っていくかということをまず考えるべきであり、やはり、この場では大学の質の中身をどう充実するかということを中心に議論すべきだと思う。

○資料の3で、日本の公私立大学は際立って教員1人に対する学生数が14.6とずば抜けて多い。私学は国立よりも獣医学に対する競争率が高く、学生がそれだけ希望しているところで、この状況というのは非常に気の毒な状況である。本来の学生定員を超過しており、定員どおりになれば国立大学の何校か分の学生数の削減になる。そのためには、もう少し私学補助を増やす必要があるのではないか。例えば、私学について医学に対する補助と比べていかに獣医学に対する補助が少ないのかということが分かるような資料がほしい。

○私学の獣医への助成というのは特別にあるのか。

●私学助成は教官数等に基づいて章定するというシステムであり、これ自体、獣医学部であろうと医学部であろうと変わらない。また、一人当たりの積算単価が獣医学部と医学部で違っているわけではない。医学部に私学助成が多くなるかということについて概略申し上げると、医学部の教員数が多いことによるものである。医学部は教員教が多いため、グロスとして算定される額も多くなる。そのような意味からも、獣医師養成のための教育の質の確保と現在の教員教が適正かという点が論点ではないかと思う。

○教育の内容、臨床の評判が悪いというのはどういう意味で、何で悪いのか。教官の数が少ないから悪いのか、それとも内容について見直しが必要なのか、私学のほうが充実しているとすると内容が違うのかということも含めて聞きたい。病態、あるいは病気の種類、これからの病気の動向などを調べるのが公衆衛生だと思う。学生が卒業した後に選択肢が広がるように、それに合ったように教育の内容を作リ上げて、それから研究の分野でも非常に大きな市場を抱えていると思うが、それに対する取り組みとすると大学院の教育で分野を広げられると思う。やはり疫学の公衆衛生だと思うが、そのようなことも含めて教育の内容が今のとおりで良いのか。私の大学でも、臨床系の教官の数が増えればそれで充実していると比較的短絡的に言っている気がするが、内容についてはどのようになっているのだという議論があればと思う。

○資料4にあるノースキャロライナの病院の収入をみると800万ドル、日本円で大体10億円ということになる。東大の家畜病院というのは3億5干万円くらいの収入があるが、そのうち運営費として翌年に跳ね返ってくる割合は60%程度だと思う。これが運営費として100%活用できるようになると、ノースキャロライナの規模に持っていくことは可能ではないかと思う。そのくらい期待されているが、規模が大きくなれない仕組みになっているため、開業獣医師からの紹介しか診療しない二次診療で抑えている。きちんと臨床の教官がいて、その下にレジデントが配置されるような体制を取らない限り、大学附属家畜病院への社会的需要は高く、また、大きな規模を作りたいという要求を臨床の先生が持っておられることは真実だができない状況にある。

○公衆衛生は医学部の中で教える公衆衛生学もあるが、欧米では実務教育としてむしろ公衆衛生大学院、スクール・オブ・パブリック・ヘルスの中で教えている公衆衛生学というものが多くある。私も公衆衛生の修士はアメリカで取得しており、日本と海外の公衆衛生教育の違いを非常に痛感している。また、海外に出て公衆衛生学の重要性を痛感し、基本的なことを勉強しなおすためには、それなりのコースが必要ではないかという意見を伺うこともある。今日の議論をお聞きして教えてほしいことが2点ある。臨床と同時に公衆衛生学が足りないという意見があったが、公衆衛生学といっても広い。この中で疫学統計、環境も含めたリスク評価、リスク・アセスメントの問題がある。リスク評価するためには疫学的手法も必要であり、また、疾病統計としての疫学もあり、そのようなことなのか。あるいは公衆衛生学のヒトの分野であれば、保健医療政策の国の政策のポリシーの部分もかなり扱う。国際保健や母子保健、高齢者保健などそういう個別の問題もボピュレーションベースでは公衆衛生の課題になる。こうした公衆衛生学の中のどの部分がもっと必要なのかということをもう少し具体的にしていただきたい。これについて、外国と比べてどこがどうなのか、日本の卒業生が実際に就いている職業の中のニーズとして何が足りないと痛感しているのか、あるいは日本の社会的要備と比べてどうなのかということを理解できる資料があると良いのではないかと思う。

もうひとつ、医学教育はむしろ学部教育はスリム化の傾向がある。獣医学と同じように日本の医師のトレーニングが非常に遅れていると言われ、例えばアメリカなどに比べると卒業したての医師が何もできないということは長年の議論となっており、学部教育のコアになるカリキュラムを充実して、臨床医として卒業した時点で海外並みにやれるようにという方向になっている。また、各大学の個性をかなり豊かにするような方向で、コアはコアで、それ以外はそれぞれの大学がどういう医師を作るかということで大学の特色が出てきていると思うが、獣医学教育の充実においても、学部教育と卒業した後の教育とが続いているものだと、あるいは生涯教育という観点の中で学部教育はどこまで何をするのかというところの整理をもう少しする必要があるのではないか。その中で獣医師が専門職業訓

練として学部教育で何をやったら良いか、卒業後の教育の中でプロフェッショナルなトレーニングで何が必要か、あるいは生涯教育の中で、ということを整理した議論をする必要があると思う。また、教員は少ないので、専門の卒後教育、あるいは学部教育の段階で医学、歯学、獣医学がもう少し連携をとる必要があると思う。私がやっている疫学研究には獣医のドクターが来ているが、少ないことははっきりしている。医学教育も足りないのである。全体の獣医師の教育の中で、公衆衛生が足りないということなら、むしろ医学、獣医学、歯学など足りないところ同士ですぐにでもやれることがたくさんあるので、そういう具体的な資料があればと思う。

○今のような要望に応えられるような資料というのは、ちょっと難しそうではあるが。

○教育の内容については国家試験基準があり、そこに項目がかなり詳しく書いてあるので、獣医師が要請されている公衆衝生教育の内容はお分かリになると思う。それは、公衆衛生に限らず全科目あるのでそれはひとつの資料になると思う。前回の資料3−5に国家試験出題科目の一覧があるが、この中で18科目の出題があり、その中のひとつが公衆衛生である。この公衆衛生の議座でさえない大学あるのは先程申し上げた通りだが、東大でも10何年前までは公衆衡生の講座がなかった。私は専門が薬理と毒性だが、実は公衆衛生も担当しており、薬理と病理と牧場の先生と協カして公衆衛生の請義や実習をやっていた、そういうことが現状である。

○資料4の中でユトレヒト大学が、分野が多岐にわたっており、公衆衛生や各分野別に課程を分けており、公衆衛生課程には入学者の30%が入るとある。この大学の公衆衛生というのは非常に充実していると思うので、国際的に高い水準の公衆衛生学というのは具体的にどういうことを教えているのかということが分かればと思う。

○ヨーロッパの大学はほとんど肉の衛生、乳肉衛生が中心。それからと畜場が中心である。内容は多分とれると思うので用意できると思う。

○アメリカの場合はシステムが違うが、例えばイギリス、ドイツ、あるいはフランスの獣医学教育のカリキュラムは分かるか。

○分かる。

○それを日本の国立大学のカリキュラムと比べてみるなど、そういう資料をお願いしたいと思う。

○獣医公衆衛生というのは医学の公衆衛生と随分違うことがだんだん理解できてきた。岐阜大学では今、講座数を増やそうと思っているが、その中で公衆衛生を人獣共通感性症と食品環境の2講座に分けてより明確に内容が伝わるものにする予定である。

6.その他

(1)本日意見交換の中で求められた資料について、事務局において整理の上、関係委員に依頼して、次回以降事務局においてとりまとめて提出することとなった。

(2)次回の日程は、後日事務局から連絡することとなった。

以上


国立大学における獣医学教育に関する協議(第1回)議事要旨(案)

1.日時:平成15年2月5日(水)10:00〜12:00

2.場所:霞山会館「まつ・たけの間」

3.出席者

梶井 功、大森伸男、加藤 紘、唐木英明、岸 玲子、喜田 宏、黒木登志夫、古在豊樹、酒井健夫、島田壽子、杉村征夫、鈴木直義、長尾 拓、林 良博、藤原宏志、松原謙一、山岸 哲の各氏

(文部科学省)遠藤高等教育局長、木谷高等教育局審議官、徳久専門教育課長、吉村専門教育課課長補佐 他

4.配付資料

資料1 国立大学における獣医学教育に関する協議の実施について

資料2 獣医学教育の経緯

資料3 獣医学教育の現状

(1)獣医学関係学部・研究科一覧

(2)大学設置状況(獣医学関係)

(3)国立大学獣医関係学科教官定員

(4)獣医関係学科の入学状況

(5)獣医師国家試験出題科目

(6)獣医師国家試験の状況

(7)獣医関係学科卒業者の進路状況

(8)附属家畜病院の患畜頭数

(9)活動領域別獣医師数の推移

資料4 獣医学教育の改善のための基本方針(国立大学農学系学部長会議)

資料5 獣医学教育に関する基準(大学基準協会)

資科6 獣医学教育のあり方に関する懇談会の答申(獣医師会)

資料7 世界獣医学協会(WVA)が定める獣医学教育の最低必要科目

5.議事

(1)座長に梶井功東京農工大学名誉教授が選出された。

(2)本協議の議事は、原則として公開することとされた。

(3)座長から挨拶があった。

(4)高等教育局長から挨拶があった。

(5)事務局より資料に基づき説明があった後、次のとおり意見交換があった。

○資料6について説明を補足したい。日本獣医師会、全国大学獣医学開係代表者協議会、国公立大学獣医学協議会、私立獣医科大学協議会、学術会議の獣医学研究連絡委員会、大学基準協会、獣医学会の7団体の関係者が獣医学教育関連連絡会議という組織を作り、この組織に対して、国立、公立、私立大学における獣医学教育の充実に関すること、国立大学の獣医学部の適正な規模の配置に関すること、ということで諮問をし、1点目の諮問については、国公私立大学については学生入学定員に応じた十分な数の教員を有する規模に早急に改善する必要があるということ、2点目の諮問については、現在の国立大学獣医学科を3,4の獣医学に再編整備することが適当であろう、こういう、答申をいただいたものである。

日本獣医師会が、6年制教育を受けた獣医師、これらの卒業者を受入れる職場の関係者、大学の教員に対して6年制獣医師についての対応について各種アンケート調査を実施しており、よろしければ、資料を準備して提出したいと思っている。

○資料4の文言の意味について補足説明したい。国際レベルの獣医師養成が可能な獣医学教育組織の適正な規模として、大学基準協会が提示した72名の教員組織が望ましいというのが前提としてある。しかし、獣医学教育の改善が急を要するので、それができない場合でも、54名程度の教官から成る組織が必要最低限であろうということであり、54名程度の教官から成る組織を目指すということでは決してない。

それから2番の「新たな再編は全国を5ないし6地区に分け」ということについては、農学部長会議ではいくつの大学ということはうたっていない。農学部長会議としてのコンセンサスは、唯一の理想案を性急に実現させることによるのではなく、複数の選択肢の中で実施可能なことにまず着手して、これを先行実現しつつステップを積み重ねることによって達成されるものであろうということである。

20年以上にわたって獣医学教育の改善は必要だということで、様々運動があったが、そのためには農学部あるいは大学の協カも得る必要があるとのことから、このたび農学部長会議でこのような基本方針を出した。

現在、各大学で、まず自助努カで獣医学組織を強化しようと試みているが、抜本的改善は不可能ではないかと感じている。また、教育連携協カ、獣医学部設置、再編統合というのが現在検討されている。しかし、20数年前からの試行錯誤に時間を資やしてはいけない。これは、各大学の利害を超えた国家レベルの問題であり、今や文部科学省の大所高所からの強い指導と支援によって解決すべき段階ではないか。さらに学長レベルの懇談調整が開始されている。東京大学および北海道大学の学長が参画する10大学の学長レベルの話し合いが実現し、我が国の獣医学教育改善のための検討がなされることを期待している。

○国際的基準の観点という点では、一大学の希望がどのくらいしっかりしているかということと同時に、学生と教員の比率というのは世界的に重視されている。学生数については、公私立大学についても資料があるが、教員と学生、両方の数字が見える資料を準備していただきたい。

○ただいまの件について、平成14年の6月に私立獣医科大学協会の作成した総合評価報告書に記載があり、助手以上の教員敷として41名から64名ということが報告されている。

○今回の検討に際して、日本の獣医学教育をどうするかという切り口も必要ではないか。1999年の12月に高等学校3年生に対して私立5大学が共同で行ったアンケート調査では、国立大学と私立大学のどちらに入学するのかということについて、国立大学が多いのは授業料が安いということ、私立大学は施設が良いということが結果として出ている。また、私立大学に入ってきた場合の授業料の限度額はどの程度かという点について、250万年未満というのが約50%であった。こうした授業料の問題もあるので、獣医大学の卒業後の社会的保障も何らか考える必要があるのではないかと思っている。

また、アンケート調査では、約70%の生徒が同じクラスの中に獣医を志望する者が居るという結果が出ており、獣医学科の志願者は、今後とも確保できる見通しはあると考えている。

○国際的に代表的な獣医学部が、どの程度の規模で、どういう教育をしているかという資料があればと思う。

○獣医学科関係者が諸外国の調査を行っており、そういったデータはあるのではないか。巨大な獣医学部から比較的小ぶりな獣医学部とバランス良く出すことによって、よく理解ができるのではないか。

EUの通貨統合に伴い畜産製品が欧州中に動くことから、獣医師が畜産製品をチェックできなければ伝染病が懸念されるといった観点から、EUのEAEVEという機関が欧州の各獣医科大学を訪問して一定の教育レベルを有しているかを審査したということがあった。EAEVEでは、助手以上の教員が約100名、サポーティングスタッフが約100名、合わせて200名程度を獣医大学の標準としている。典型的な例として、スイスのベルンとチューリッヒの2大学は、それぞれ50名程度で我が国の東大や北大と同程度の規模であるが不合格となった。スイスはEUに加盟しておらず、EAEVEに従う義務はないが、両大学は、当面は先生が行き来をして共同して教育をするということ始めたようである。それから既に何年か経っているが、最近は、両方の大学を場所も含めて本格的に再編しなくてはいけないという検討を始めているということを聞いている。

米国については、獣医学のためのアクレディテーション協会がある。米国や欧州の場合、大学の卒業試験の合格をもって獣医師免許とされており、国家試験はないが各ステートで開業試験が別途ある。いずれにせよ、大学がアクレディテーションに合格していないと、卒業生は獣医師として認められず開業試験も受けられない。そのアクレディテーション基準が、米国の獣医科大学の基準と考えることができる。なお、カナダもそれと共通の基準を使用している。米国の場合、教官総数が70名程度、サポーティングスタッフが50名程度というところもあり、欧州よりは基準が緩やかではないかと思う。

北海道大学でも自己点検・評価として、米国の獣医学関係者に視察してもらったということがあるが、人数面、教育の内容面も全く足りないということであった。

国際基準が米国で70名、欧州だと100名程度とされる教員が、我が国の場合多い大学で50名、少ない大学では25名程度しか居ない。内容面では、国家試験出題科目18科目をどうして10講座で18科目の教育ができるのかということ。例えば外科学とか内科学は、一人の教授で教えられるはずがないことは、医学部の教員であれば理解できると思う。米国や欧州では、内科や外科には3〜4人の教員が配置され、その程度の講座があるというのが常識である。獣医師国家試験出題関連科目は18科目であるが、実質ではこれよりも多い教員が必要である。したがって、我が国の獣医学教育は、国際的な基準からも国内の試験科目からも全く足りないというのが現状だろう。

○ケンブリッジ大学の教員数は、確か38人だったと思うが、やはり倍ぐらいは必要なのではないかと思う。隣のロンドン大学にも獣医学科があるが、統合はできていない。また、オーストラリアは行政改革が進展しており、メルボルン大学、シドニー大学など、獣医学部を農学部と統合して効率良く教育をやっていこうという動きがある。

○獣医師は需給バランスが取れているので学生定員は抑制基調とのことであるが、獣医師の需給推算というのは、農水省はやっているのか。

○牛、馬、豚といった産業動物を中心にした獣医療の提供の観点からは、獣医事審議会の計画部会で必要数の調査検討をしている。しかしながら、獣医師の実際の就業の場は、企業活動も含め多岐にわたっており、そうした点は、獣医療提供の観点外であり、需給推算はしていない。

○新聞紙上では、BSE問題などで、検査するのもままならないほど獣医師が足りないということが言われており、国民から見ると、食の安全の面から獣医師はもっと必要なのではないかというのが一般的ではないか。例えば医師の数とか歯科医師の数というのは医師会とか歯科医師会が非常に強い意見を持っているが、獣医の場合は、公衆衛生という点で要講が大きいので、獣医師の必要数というものを見直す動きはないのか。

○公衆衛生部門の獣医師の需要に対して、各自治体では、新規採用ではなくて、農林水産分野に従事をしている獣医師の職員を公衆衛生部門に配置転換をするといった対応がなされている。また、各自治体では、検査対応をどこでどのようにすれば効率的に行えるかといった側面も含めた対応をしていると聞き及んでいる。全体的には、獣医事に従事しない者が増加している動向も含めて考えると、獣医師が不足しているということではなく、短期的な公衆衛生部門における需要の増加に対して、定数管理された公務員の偏在という面での要求があるのではないかと考えている。

○獣医学教育の問題は、我が大学の中でも長い期間議論してきて非常に難しい問題だと認識している。BSEの問題やグローバリゼーションの進展で、いろいろな病気が畜産物に伴って入ってくることが懸念されており、獣医学教育を充実しなければならないことは理解している。しかしながら、獣医師教育だけで良いのか、つまり、畜産における生産から流通、消費までを含めた大きな枠組みの中で獣医学教育というものをきちんと位置付けていく発想が、少なくとも国レベルでは必要なのではないか。農水省としてはどのようにお考えであろうか。

○学間としては高いものがあって然るべきだと思う。獣医師国家試験の出題科目あるいは出題基準は、獣医師の技能あるいは知識の最低要件だと思う。

○畜産業をサポートするのは畜産学であろう。獣医の仕事は現状から見ても二つあり、一つは公衆衛生であり、公衆衛生をやるためには大動物臨床まできっちり教育する必要がある。もう一つは、小動物臨床の分野。これは畜産と離れた問題として国民のQOLに直接関与する問題として大事にしなくてはいけない。そういうことで畜産学と獣医学の教育というのは、多少違った分野でありながら両方が連携してやっていかなくてはいけない。しかし、各大学から畜産学という議座がほとんど消えてしまっている。あるいは畜産学教育というのは農学教育の中に埋没してしまっている。むしろそのあたりをどうするのかということを別途考えなくてはならないのではないか。

○獣医学教育はライセンス教育であり、一年生から生涯教育が始まっていると思う。したがって、大学教育の中では卒前教育と卒後教育の一体化ということがなければならないだろう。今、獣医師会が中心になり、ポイント制度による生涯教育が始まっている。これをもって、在宅学習も含め、医学部と同じようなかたちで卒後教育も一体化しているということで、ライセンスに対する保障を付けているのではないかと思うが、国立大学は、こんな人数で教育ができるはずがないと思う。一学年20数名の教育、あるいは獣医師国家試験の科目数の18科目に対する教員数がこの程度では非常に不十分であると思う。やはり学生の視点に立った教育をしていない。入ってきた学生の視点で教育をサービスするという必要があるのではないか。

獣医師の社会への対応は変わってきていると思う。産業動物は個体管理から集団管理になり、最近ではプロダクション・メディスンということで、予防衛生学で対応する方向になってきており、獣医師が減ってきている。あるいは広域的な診療ということもあり、その面での減少もあるのではないか。それに比べ、小動物分野はここ10年間でも倍増している。特にこの中で女性獣医師が非常に多くなった。小動物の希望が多いという学生の希望を反映するためには、施設の充実が不可欠ではないか。

それから獣医師の需給バランスについては、公務員の定数の問題があり一気に増やせない。国民の安全性を保障するために普段からある程度の数の確保が必要であるが、付加価値を付けることが重要であり、バランスとしては現在のバランスでも十分に対応できるのではないか。

○食品に関する品質や安全性といったレギュラトリーサイエンスを担当している医薬品食品衛生研究所から見ると、獣医学教育のバランスは非常に良いと思う。医師が安全性をやるというのが良いが、なかなか医師は参加しない。獣医師は、公衆衛生よりも広い、レギュレーションに絡む部分でも非常に活躍している。

○医学関係から見ると、どうして畜産は獣医の中に入ってこないか、あるいは、獣医の先生方は獣医学を狭く考えて、動物の病気だけを扱う学問というように狭く捉えているのではないかと感じる。例えば、国家試験科目に魚病学あるが、これは確実に水産学部でやっている。水産学も畜産も獣医の中に含めるというかたちで獣医の守備範囲を広くしていく。病気だけじゃない、食の安全も含める。そのために動物の生産から流通までも全部含め、その中心を獣医学科が担うというように、獣医の守備範囲を積極的に広く取ったほうがいいのではないかと、外から見ていてそういうふうに率直に思う。

○先ほど畜産学が見えなくなったとの話があったが、農学の各分野が教育的な融合を図ってきているということであって、畜産学がなくなったということではない。昔の農学、林学、畜産、水産と分かれていた教育では、今の社会に対応できないため、獣医学科以外の農学系学科は、ほとんどの大学でそのような学科再編をやっているということであって、畜産学の教員は依然として配置されている。世界基準の24科目においても、倫理から環境まで、現在の獣医学の守備範囲を超えるものもたくさん入っている。そういうものも含めるということであれば、獣医学科が広がっていくという発想だけではなくて、他分野とのつながりをどう持つのかということを真剣に考えるべきではないか。獣医学科を大きくするという議論ではなかなか理解を得ることは難しいと思う。

○国際基準の資料で掲げられている中で、公衆衛生や集団獣医療というのは、かなりポピュレーションベースの研究とか評価だと思う。疫学はまさに公衆衛生学のディシプリンであり、環境科学も公衆衛生学の中では一大分野である。また倫理・福祉・医療経済学なども医学の中でも特に考えられている問題である。遺伝学も獣医学科でも重要な問題であると思うが公衆衛生学でも考えていかなければならない問題である。国際基準の資料でも、獣医学のコアになる部分の他に、サポーティングの色合いが濃く医学や歯学など、かなりいろいろな学問分野とコンバインドなディグリープログラムでやっていくほうが良いのではないかと思う部分もある。近年、医学部でも診療報酬に関する仕事をしたいといった学生のニーズの多様化があるなど、一つの学部だけで教育をしていくということがかなり難しくなってきている。したがって、教育の枠組みを今までのやり方にとらわれないで考えていくことが重要ではないか。

また、獣医学科の卒業生の公衆衛生学分野に占めるシェアはかなりあるが、保健所の中で職員を引っ張って仕事をやっていくためには、実務に携わってからの教育が重要ではないか。そういう意味で学部の中で完結するのではなく、やはり実務に出てからの教育の在り方も含めて考える必要があるのではないか。その場合に、それぞれの地域で実務者を教育する場所というのが必要であり、卒業者が全国にいることを視野に入れて考えなければならないのではないか。それに関連して、卒業後の獣医師がどういう教育が必要とされているのかという資料があったらいただきたい。

○獣医師の有資格者の各県別の分布というのはどうなっているのかというのは、分かる資料はあるのではないか。

○東京大学は、以前、畜産学と獣医学が合同した学科となっていた。現在離れているのは、国家試験の範囲をしっかり教育しようということをはじめ、様々なことがあったためであるが、私自身も、獣医学がもう少しいろいろな分野、例えば畜産学の教育もやるべきだろうと思っている。しかし、畜産学の教員にとっては、獣医学科は人のテリトリーを犯すのかといった意見も出てくる。

○資料では東京大学の教員数は35名となっているが、東京大学は学科ではなく課程としての組織形態をとっており、獣医学大学科目と応用動物科学の2つの大学科目の合計約50名の教員が獣医学課程の学生を教育している。畜産学の分野も獣医学科に入るということが、このように一つの大学の中で柔軟な組織体制をとることで可能となっている。畜産学はプロダクション・バイオロジーとプロダクション・メディスンの狭聞にあって、多くの大学では、プロダクション・バイオにジーに引っ張られているのではないか。東京大学はそうではなく、プロダクション・メディスンの側で畜産学と獣医学の一種の統合ができたが、新たな再編、改変の際に問題なのは、近い分野は、かえって仲が悪い。この問題は、農学系全体の再編を進める上で非常に大きな障害になっている。こうした難しさがあるということのきちんとした認識が必要ではないか。もう一つ、単なる数合わせの改革で、組織図上に線をつなぐだけのごまかしの改革は避けなければならない。

○自分自身、大学で獣医学部に居た時に、単位が学部の中で限られているのではなくて、もっと自由に単位をとることができればという感想を持っている。一定以上のものを勉強しようと思うと、大学を出てから他の学部への学士入学や研究生などのかたちをとらなくてはいけないので時間も費用もかかる。そうではなく、例えば、獣医学部以外に医学部の教育も受けた上で公衆衛生分野に就職するといったことができるようにすべきではないか。私は、心理学、動物行動学といった部分に関心を持っていたので、学校を出てからいろいろなところをクロスオーバーしながら自分自身で獲得していったが、あの当時に、医学部の教育だとか、農学部の教育だとか、理学部の教育とか、そういうものを単位としてもっと自由にとることができれば、獣医学部の中でもっと有効な教育を自分自身で獲得していくことができたんじゃないかという気がする。したがって、学部をどうするのかと同時に、学生の側の視点で、単位をもっと自由にとるといった制度を考えることでも充実ができるのではないかと考えている。

○その点については、制度としてはかなりの大学で導入されているのではないか。

○製薬企業の研究所には随分獣医師がいる。製薬企業においては、獣医師は動物を実際に扱える生物学の研究者という立場で他の生物学の関係者と対等な形で採用している。生物学の関係看は、インヴィトロな実験をやっている人が多い一方で、獣医師は動物を実際に扱える。しかし、大学における勉強で十分というわけではない。病理学を例にすれば、医師の病理は亡くなった人の病理であるが、製薬企業にとっては、実験動物に薬を投与してどうなっていくかという、生きている動物の病理が重要である。ところが、動物の病理というのは必ずしも大学の中では充分でないようである。そういう点では獣医学教育が充実されることは、製薬企業にとっても非常に寛要なことである。なお、資料の3−(9)では会社関係の獣医師は減っているが、製薬企業に関しては減っているということはまずない。製薬企業としては獣医師を今後も増やしたいし、現実問題として採用ができていないという状況であると思う。

○全国農学系学部長会議では、獣医学教育の改善は非常に大きなテーマで、毎回論議されている。このように、農学系学部長もこの問題に関して議論し、他方で、獣医学教育の関係者だけでのグループでも議論している。さらに、各学長も獣医学の問題が大学や学部の改編とも関係するので非常に大きな関心がある。また、獣医師会や地域関係者も非常に関心を持っている。これらをどうやってまとめていくかということが非常に大きな問題であり、その点で、この協議会は非常に大きな価値がある。それぞれの立場で固執していたのでは、なかなか良い案が出てこない。是非、ここでは大所高所の立場に立って長期的展望を持って議論していただきたい。農学系学部長会議は、そのようなかたちで議論がまとまってくれば、それをサポートするという立場で進みたいと思っている。

○まず、獣医学6年の学部教育でどのような人材を育成するのかという基本をはっきりしておく必要があるのではないか。私は、学部教育の中では獣医学の専門職の基礎をきちんと履修させ、それと同程度の人間性教育も加え、最小限、国家試験に受かるような教育というのが学部教育の基本と考える。専門職、例えば大小動物の臨床や公衆衛生などは、大学院でスペシャリストを養成することで良いのではないか。イギリスでも獣医師のスペシャリスト養成ということで、ケンブリッジの教授などが中心になってやっておられるような例もある。我が国においても、社会人教育として大学院で行うことが良いのではないか。学部教育は、獣医学科と関連する畜産や動物に関する教員が担っていく。それができないのであれば統合するという順序を踏んで論議すべきではないか。

○環境管理という面から、例えば野生動物がどうなっているのかということも獣医師にやってもらいたいと期待している。家畜ではなく、獣医学の範疇ではないかもしれないが、他にはできる人がいない。獣医師は、もっと外に出て、環境汚染の程度などを具体的に見ていただければと思う。また、環境問題では、輸入種、輸入動物の問題がある。家畜の食品としての危険性もさることながら、ペットなどの持ち込む病気が問題になっている。そういうことについては、多分、水ぎわで獣医師が携わっているのではないかと思うが、どのぐらいの獣医師が携わっているのか。そういう資料も用意いただけたらと思う。病気だけではなく、ワシントン条約に抵触するものが入ってきてはいないかといったことにも獣医師が目を向けるべきではないか。

○野生動物に関しては、今年度、東の連合獣医学研究科のプロジェクトが21世紀COEに採択された。野生動物も認知されたと思っている。

○今日のところはここまでにしたいと思う。

確か、BSE問題検討調査委員会の報告書に、BSE問題は近代畜産の落とし穴であるといった表現があったが、飼養形態の変化によっても、病気がもたらされるようである。私自身の感想を一例として申し上げると、畜産業が効率化を図ることによってもたらされる問題などを議論する時には、獣医師も参加していただく必要があるのではないかと感じている。

○獣医師の実際の仕事の内容について、具体的にどういうことをされているのかがわかる資料がいただきたい。獣医師会で以前あったと思うが。

○簡単なパンフレット資料でまとめたものがある。

6.その他

(1)本日意見交換の中で求められた資料について、事務局において整理の上、関係委員に依頼して、次回以降事務局においてとりまとめて提出することとなった。

(2)次回の日程は、後日事務局から連絡することとなった。

以上