獣医学数育・研究に関する理想像
平成9年6月14日
帯広畜産大学、岩手大学、東京農工大学、岐阜大学
(岐阜大学連合獣医学研究科構成校)の獣医学科による獣医学教育検討怒談会



小冊子、「獣医学教育研究に関する理想像」を読まれる前に



本冊子を作成した目的は三つあります。
一つは、獣医学関係者以外の方々に獣医学とは何かを、知ってもらうためです。 医学といえば多くの人が、概略を思い浮かべることが出来ます。獣医学についてはど うでしようか。獣医学って何ですかと問われたときに、「犬や猫のお医者さん」または 「犬や猫のお医者さんのことかしら?」と答える方がほとんどです。その答えは、獣医 学の一部を示していますが、全てではありません。獣医学の分野はその何倍も広いこと を知って頂きたいのです。
いま一つは、獣医学の一部を担っている教育研究者および獣医師が、本冊子によって 獣医学全体の枠組みを理解し、自分が所属、活動している分野が、どのような立場にあっ て何をする必要があるのか認識を深めることにあります。
最後の一つは、獣医学教育研究の枠組みを、諸外国の枠組みおよび日本の社会的要講 を考慮に入れて構築し、国際的に受け入れ可能な組織案として提示することです。比較 のために日本と諸外国の現在の教育研究組織を資料として添付しました。
表題は「理想像」となっていますが、理想像は、人の考え方、社会的背景等によって 異なってきます。今後いくつかの「日本の社会・経済状態に含った、より現実的な案」 が作成され、活発な論議を経て、日本の獣医学が理想とする教育研究に向かって踏み出 して行くことを願っています。

帯広畜産大学
岩手大学
東京農工大学
岐阜大学
獣医学科獣医学教育検討懇談会

参考資料 1.
帯広畜産大学、岩手大学、東京農工大学ならびに岐阜大学獣医学科の現在の教 育研究組織(1996年度)
講座名 帯広畜産大学 岩手大学 東京農工大学 岐阜大学
家畜内科学
家畜外科学
家畜臨床繁殖学
獣医放射線学
家畜衛生学
動物行動学
獣医公衆衛生学
家畜微生物学
家畜奇生虫病学
家畜生理学
家畜薬理学
家畜解剖学
家畜病理学
付属家畜病院
教官数 31 25 25 25
学生数(一学年) 40 30 35 30


参考資料2.
1)日本の大学基準協会の獣医学教育組織の基準(向上目標)と米国および ドイツの基準の比較
国名 日本
(1997/4)
米国 ドイツ
教官数 72名以上 80
(1983;獣医学教育の最小教官数)
100
任期制:教授(Professor) なし なし なし
任期制:准教授(Assoc. Prof.) なし なし
任期制:助教授(Assist. Prof.) なし あり なし
任期制:講飾(Instructor) なし あり あり
任期制:助手(Assitant) なし あり あり
学生数 60名 80名 125名
教科目数 18以上 24以上
小講座数 18以上 16+8a)(日本で言う小講座)
大講座(部門) 4−5 4−5 4−5
教育年限 6年
(教養+専門)
4年
(前獣医学教育終了後の専門のみ)
5年
a)Related field:獣医経済学、動物遺伝学、植物学、細胞生物学、環境科学、職業倫理学、 動物福祉学、獣医統計学

2)国際的な獣医師教育に関する委員会
*世界獣医師教育委員会(WVA Accreditation, 6/28-30, 96 Geogia Univ. (Since 1863)Journal of Vet. Med. Education, 3, 1996)
---2年に一回開催
*Lored Soulsby(Cambridge Univ., England)
1)Internationalization of Vet. Educaion and Vet. Practice
2)International Licence of DVM (獣医師国際免許)
[International Accreditation Program(国際公認プログラム)] b)
b)1群:英国、オーストラリア、二ユージーランド、南アフリカ、インド(一部)、香港、シンガポール、 カナダ‐‐‐開始済み 2群:米国、カナダ、中南米‐‐‐開始済み 3群: EU 諸国‐‐‐開始済み 1群と2群はカナダが入っていることから両者を統合すぺき(Lored Soulsby,1996) 以上の中に日本、韓国、中国、台湾は抜けている

主な国の獣医師における職種別の割合
1)家畜・家禽・愛玩動物の数(百万)
国名 人口 羊・山羊 家禽
アメリカ 260 110 11 58 1,624 53 64
カナダ 29 13 0.4 0.7 11 102
イギリス 58 14 0.1 29 139
ドイツ 81 21 0.5 26 101
フランス 57 25 0.3 11 13 273 10
イタリア 57 10 0.3 12 160
スイス 0.05 0.4
オランダ 15 0.06 14 111
ニュージーランド 11 0.08 50 0.4 10
インドネシア 194 12 0.7 18 666
韓国 44 0.006 0.5 75
日本 124 0.02 0.05 10 324 10

2)獣医師おける職種別の割合(%)('94)
国名 人口 政府機関 大学他 臨床 総数
アメリカ 260 6.4 9.4 69.8 14.5 55,700
カナダ 29 12.5 6.9 70.9 9.6 6,623
イギリス 58 4.0 6.1 51.5 38.3 16,827
ドイツ 81 10.7 13.8 49.1 26.4 17,572
フランス 57 5.1 9.1 76.4 9.3 10,936
イタリア 57 28.9 2.0 69.1 15,920
スイス 10.5 9.4 71.8 8.3 1,810
オランダ 15 5.0 6.8 53.9 34.3 4,385
ニュージーランド 18.9 7.7 64.6 8.8 1,164
インドネシア 194 35.5 27.0 29.3 8.2 4,048
韓国 44 21.5 3.2 29.0 46.2 5,808
日本 124 29.0 5.0 54.8 11.2 28,252


主な国における家畜・家禽・愛玩動物および獣医師
1)家畜・家禽・愛玩動物(百万)
国名 人口 羊・山羊 家禽
アメリカ 260 110 11 58 1,624 53 64
カナダ 29 13 0.4 0.7 11 102
イギリス 58 14 0.1 29 139
ドイツ 81 21 0.5 26 101
フランス 57 25 0.3 11 13 273 10
イタリア 57 10 0.3 12 160
スイス 0.05 0.4
オランダ 15 0.06 14 111
ニュージーランド 11 0.08 50 0.4 10
インドネシア 194 12 0.7 18 666
韓国 44 0.006 0.5 75
日本 124 0.02 0.05 10 324 10

2)獣医師('94)
国名 人口(百万) 政府機関 大学他 臨床 総数
アメリカ 260 3,537 5,211 38,903
Hosp:16,000(小)
Vet:28,000(小)
8,049 55,700
カナダ 29 830 460 4,695 638 6,623
イギリス 58 676 1,032 8,666 6,453 16,827
ドイツ 81 1,876 2,427 8,632 4,637 17,572
フランス 57 560 1,000 8,357 1,019 10,936
イタリア 57 4,600 320 11,000 15,920
スイス 190 170 1,300 150 1,810
オランダ 15 218 299 2,364 1,504 4,385
ニュージーランド 220 90 752 102 1,164
インドネシア 194 1,436 1,093 1,186 333 4,048
韓国 44 1,249 187 1,686 2,686 5,808
日本 124 8,196 1,410 15,471
Hosp:7,500(小)
Vet:8,700(小)
3,175 28,252


人口10万人当たりの職種別獣医師
国名 人口(百万) 政府機関 大学他 臨床 総数
アメリカ 260 1.4 2.0 15.0 3.1 21.4
カナダ 29 2.9 1.6 16.2 2.2 22.8
イギリス 58 1.2 1.8 14.9 11.1 29.0
ドイツ 81 2.3 3.0 10.7 5.7 21.7
フランス 57 1.0 1.8 14.7 1.8 19.2
イタリア 57 8.1 0.6 19.3 27.9
スイス 2.7 2.4 18.6 2.1 25.9
オランダ 15 1.5 2.0 15.8 10.0 29.2
ニュージーランド 7.3 3.0 25.1 3.4 38.9
インドネシア 194 0.7 0.6 0.6 0.2 2.1
韓国 44 2.8 0.4 3.8 6.1 13.2
日本 124 6.6 1.1 12.5 2.6 22.8


産業動物を対象とする獣医師
国名 臨床獣医師 産業動物獣医師 牛(百万) 馬(百万) 獣医師当たりの数:牛 獣医師当たりの数:馬
アメリカ 38,903 10,903 110 10,088 275
日本 15,471 6,771 0.02 886 2.9


愛玩動物を対象とする獣医師
国名 臨床獣医師 愛玩動物獣医師 病院数
見習い数
犬(百万)
猫(百万)
獣医師当たりの数:犬
獣医師当たりの数:猫
病院当たりの数:犬
病院当たりの数:猫
アメリカ 38,903 28,000 16,000(病院)
12,000(見習)
53
64
1,892
2,285
計4,177 3,312
4,000
計7,312
日本 15,471 8,700 7,500(病院)
1,200(見習)
10
1,149
804
計1,953 1,333
933
計2,266


人口100人当たりの家畜・家禽・愛玩動物の数
国名 人口(百万) 家畜 家禽
アメリカ 260 70.00 624.62 20.38 24.62
カナダ 29 86.55 351.72
イギリス 58 88.10 239.66 12.07 12.07
ドイツ 81 61.11 124.69 3.70 4.94
フランス 57 86.49 478.95 17.54 14.04
イタリア 57 53.16 280.70 8.77 10.53
スイス 49.29 85.71
オランダ 15 147.07 740.00
ニュージーランド 2049.33 333.33
インドネシア 194 19.95 343.30
韓国 44 21.60 170.45
日本 124 12.96 261.29 8.06 5.65

本 文


目次
はじめに・・・・1
1.獣医学の教育・研究に対する社会的要請・・・・2
(1)人間社会の構成要素としての獣医学に対する要請
(2)産業動物獣医学に対する要請
(3)伴侶動物獣医学に対する要請
(4)人と動物の共生のための獣医学に対する要請
2.獣医学の教青・研究の基本理念と教育目標・・・・8
(1)獣医学の教育・研究の基本理念
(2)獣医学の教育・研究の基本理念の概要
(3)獣医学の教青目標
3.獣医学部の組織およぴ教育・研究の内容・・・・12
(1)獣医学部の組織
(2)講座の教育・研究内容
(3)獣医臨床センター
4.獣医学の教育と研究を支援する全国共同利用施設の組織と内容・・・・16
(1)全国共同利用施設の目的
(2)全国共同利用施設の組織と活動内容
5.獣医学教育・研究体制の改革により期待される効果・・・・18
6.獣医学の教育・研究における自己点検・自己評価およぴ外部評価・・・・19
おわりに・・・・20



はじめに

 獣医学は、動物の医療を根幹とする総合的な動物医科学で、人以外の高等動物を対 象に、比較生物学的知識を最も集積体系化させた学間分野である。現在、獣医学教育 は、国立10大学、公立1大学およぴ私立5大学で行われ、年間約1,000名の獣医師を社 会に送りだし、産業動物臨床、伴侶動物臨床、公衆衛生ならぴに医学関連分野等で約 27,000名が活躍している。
 獣医学教育は、動物医療の高度化や公衆衛生の重要性などの社会的要請と国際水準 へのレベルアップを目標に、昭和53年の大学院修士課程2年の積み上げ方式による6 年制を経て、昭和59年から一貫教育による学部6年制になり、現在に至っている。し かし、国立大学、特に新制大学では、大学間の再編を前提とした6年制移行による専 門教育期間の借増であったにも拘わらず再編は行われず、さらに教育スタッフをはじ め教育設備、教育経費などの人的・質的整備は、文教予算の強い抑制基調等のため、 現在も当時の規模のまま改善、拡充されていない。
 このような中で、「動物の医療」に加えて「環境と野生動物」「人獣共通感染症」「食 品の安全性」など獣医学領域の社会的・学問的な認識と必要性は、国内外から高まり、 適切な対応と人材養成・研究活動が強く要請されている。また、獣医師資格の国際化 にも対応できる高度な専門教育の改善・整備が欧米諸国から強く求められている。さ らに、発展途上国からの知的・技術的援助の強い要請にも今後益々応えなければなら ない。
 以上のような背景から、東日本の連合獣医学研究科博士課程を構成する帯広畜産大 学、岩手大学、東京農工大学およぴ岐阜大学の各獣医学科では、数名づつの代表者を 出して獣医学教育を考える懇談会を発足させ、(1)多様化・高度化する社会的要請への 対応、(2)国際水準に対応できる人的・質的教育・研究体制の整備、の2点を中心的視 座に置き、獣医学の教育・研究に関する将来構想について、平成8年2月以来議論を 重ねてきた。この間に、大学審議会からは「平成12年以降の高等教育の将来構想につ いて」の答申が出され(平成9年l月)、また大学基準協会からは「獣医学教育に関す る基準について」の新しい構想が提示された(平成9年2月)。この小冊子が獣医学関 係大学の関係者、各大学の同窓生、各都道府県獣医師会などにおいて、獣医学教育・ 研究体制の改革を考える基盤になれば幸いである。


1.獣医学の教育・研究に対する社会的要請


 今日、各専門領域は、より高度に深遠化・細分化され、学際領域や国際社会などと の横断的・縦断的連携が益々重要になっている。疾病予防、食糧確保、地球環境保全 などの獣医学領域においても、産・学・官およぴ諸外国との横断的連携による高度な 専門的知識が必要とされている。したがって、これらに対応できる知識・技術に加え、 広い見識と応用力を兼ね備えた総合的な人材養成が大学に強く求められている。以下 に、現在獣医学が直面している社会的要請について解説する。

(1)人間社会の構成要素としての獣医学に対する要請

 創造性豊かな人材の養成:大学教育の目的は能力の開発と人材の養成にある。今日、 高度かつ多様化した社会二一ズは、多くの職業分野においても、より一層の高度かつ 専門的知的能力を有する人材(研究者や技能者)の養成を求めている。獣医学領域に おいても、広い見識と応用力に長けた人材の養成が強く求められている。また獣医学 を習得した獣医師には、法律的に強い権限が与えられることから社会的責任を十分に 遂行できる人材の養成が求められている。

 産学官の連携交流と学際色豊かな学術環境:これまでの学術研究は、産業界、大学、 国立研究機関などの独自性が強く、相互交流は少なかったが、今後は間題意識を共有 し、お互いに刺激しあい研究開発を推進していく必要がある。特に獣医学は各種動物 を介して産業界と密接に関係している。例えば産業動物は畜産業と、実験動物は医療 産業と、伴侶動物は医療産業と動物産業と結ぴついており相互協力が不可欠である。 また獣医畜産分野にあっては国立およぴ都道府県立の研究機関も多いことから学術交 流の環境作りが求められている。さらに獣医学は医学、農学、理学、水産学、工学、 薬学とも学問上深い関係を有しており、数多くの学際的な問題を解決するには他関連 学問との協力関係が必要である。

 学問の国際化:獣医学分野にとどまらず、あらゆる分野で国際化や情報化が進行し ている中で、これらに対応していくためには、国際水準に達した高度な知識・技術を 身に付けた人材を養成する必要がある。現在、獣医師免許の国際ブロック化が英国と 米国を中心に進みつつあり、獣医師教育の質的高度化は急務と考えられる。同時に、 我が国の獣医学の国際協力への要請がますます増加している中、疾病予防、環境保全 などの分野で、地球規模で活躍できる人材の養成が求められている。

(2)産業動物獣医学に対する要請

 疾病の予防と食品の安全性の確保:食料生産動物である産業動物の疾病予防と事故 防止は、獣医学の主要な目標の一つであり、これまで伝染病の予防に多大な努力を払 ってきた。しかし、こうした努力にもかかわらず、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、 クリプトスポリジウムなどの各種病原体による人への感染が大きな社会問題となり、 その感染源として産業動物の対策が急務となっている。また一方で、疾病予防や発育 促進に用いられた動物用医薬品が食品に移行したり、残留する恐れがあるなど畜産食 品の安全性の面からも問題が提起されている。さらに、抗生物質の全く効かない耐性 菌の出現は、獣医領域における抗生物質の使用について重大間題を提起している。こ のように産業動物部門では、疾病の予防と畜産食品の安全性の観点から、新しい分野 の獣医学の知識や技術が広く求められている。

 食料の安定供給と生産性の向上:諸外国からの安い畜産物の輸人に対抗するため国 内の畜産農家は、家畜の多頭羽集団飼青によって低コスト化を計ってきた。しかし、 それに伴い生産病や飼養疾患による損耗が多くなり、管理学や栄養学を基礎とした代 謝病の予防などの集団衛生指導による生産性の向上が求められている。また、生産性 の高い家畜を生産するため受精卵移植などのバイオテクノロジーを応用した技術が普 及しつつあるが、未だ解決すべき問題点も多い。さらに近年、高能力を有する家畜の 間でいくつかの遣伝性疾患が発見ざれ、異常遣伝子の摘発に遣伝子診断が応用される ようになった。その結果優良家畜を生産しながら病気の発生を防ぐことができるよう になったが、しかし優良家畜作出のためには、より精度の高い診断法の開発が望まれ ている。

 生物資源の保存と生物生産技術の開発:生物は長い年月の間に多くの種と属に分化 し、環境との適応のなか、有用な遺伝子を自然に獲得し進化してきた。家畜は家畜化 されて以来、人の手により改良が進められ、乳牛の泌乳量や肉牛の産肉量に見られる ように有用な形質が選抜されてきた。しかし一方では、有用な形質も淘汰されてきた。 今後はこうした希少な有用遺伝形質を無駄にすることなく、近未来の生物資源として 保存する必要がある。

 生命科学への貢献とバイオテクノロジー産物の安全性の評価
:分子生物学を基礎と した生命科学関連の知識と技術(バイオテクノロジー)は爆発的に進歩し、あらゆる 分野で活用され、急速に多くの成果をあげており、今後さらなる発展が予想される。 バイオテクノロジーは、病気の診断・治療、公衆衛生管埋、畜産物製造、希少有用物 質の生産、モデル動物の作出など、人類に貢献できる可能性を秘めている。また一方 で、バイ才テグノロジーを用いて製造された畜産物、医薬品、栽培作物に対して安全 性の面で疑問の声も聞こえる。生物学的知識が最も集積している学問分野である獣医 学は、分子生物学を積極的に取り入れ有効利用を目指すとともに、バイオテクノロジ ー産物の安全性の評価や危険性予知に対応できる教有研究にも刀を注ぐ必要がある。

(3)伴侶動物獣医学に対する要請

 伴侶動物に対する高度獣医療:近年、犬・猫を中心とした伴侶動物に対する価値観 にも変化が生じ、動物が一日でも長生きすることを望むようになり、これら動物に対 する高度獣医療が要求されるようになった。また動物の長寿命化に伴い、従来見られ なかった病気が問題になってきており、病態発生機序の解明や治療法の確立が望まれ ている。一方、飼い主の伴侶動物に対するしつけや対処方法の知識が不足しているた め、糞尿による環境汚染、鳴き声、咬傷事件などの社会的問題も多くなっている。こ のような問題の対策や動物の取り扱い方法を教育することも獣医師の大きな役割と考 えており、伴侶動物への医療の高度化とともに、伴侶動物との共生を目的とした新し い社会規範作りが求められている。

 伴侶動物を介した対人福祉:小家族化と高齢化社会が進みつつある今日、犬・猫を はじめとする各種動物は人の伴侶・仲間として認識されるようになってきた。特に老 人や病人の精神衛生に動物を飼育することの重要性が知られ、動物介在療法(アニマ ル・アシステッド・セラピー)も広く普及しつつある。さらに、欧米ではペットを亡 くした人に起こるペットロス症候群などの対応も獣医師の役割であり、わが国におい ても今後獣医師の重要な任務となり、動物を介した対人福祉のきめ細かい対応が待た れている。

(4)人と動物の共生のための獣医学に対する要請

 人獣共通感染症の予防:近年、地球上には野生動物から人に伝播すると考えられて いる感染症(エイズ、エボラ出血熱およぴハンタウイルス感染症)、畜産物を介して起 こるといわれている腸管出血性大腸菌や牛海綿状脳症などの新しい感染症が次々と出 現している。その上、地球の温暖化あるいは森林破壊に伴って様々な熱帯病の拡散お よぴ末知の感染症の発生も予測されている。以上のように、これらの疾患はいずれも 人獣共通感染症であり、これらの感染症の疫学、早期発見、診断およぴ予防・治療の 確立は、これからの獣医学にとって極めて重要な課題である。また、このような知識・ 技術は特に発展途上国で強く求められており、地球規模で活躍できる国際人の養成が 期待されている。

 動物を用いた医薬品および化学物質の生物学的評価:多くの化学物質が多様な目的 で開発・製造されてきた。その種類はますます増加しており、時には医薬品や食品を 介して人体に入ることもある。化学物質の有効性や安全性は、培養細胞から動物個体 に至るまで様々の試験で検査・評価されている。化学物質に対する生体反応を正確に 評価するには、実験動物を適切に管埋するとともに、生体諸機構の関連をよっ総合的 かつ体系的に理解する獣医学を発展させる必要がある。また、一方で動物愛護の精神 に基づき実験動物の便用を最低限に抑える必要があることから、その代用となる有効 な実験系の開発と評価法の確立も獣医学に託されている重要な課題である。化学物質 と生態系の相互作用や化学物質の危険性を地球規模で監視・予知できる体制を築くこ とも獣医学の役割である。

 環境に配慮した畜産形態の確立
:畜産分野では多頭羽飼育が定着し、獣医師の診療 の形態も個体診療から群管埋ヘ、また、病気の治療から予防対策へと変化しつつある。 また一方、飼育形態が大規模化するのに伴い、糞尿、臭気、病害虫など畜産公害が深 刻な問題となり、獣医師の果たす役割は、個体の疾病管理にとどまらず、家畜の生産 に付随した諸間題に及んでいる。さらに近年、環境に配慮した農業形態の確立が叫ば れ、環境循環型あるいは環境保全型の畜産経営が求められている。今後は、予防衛生、 家畜衛生、畜産環境に関する研究を推進する必要があろう。

 環境保合と野生動物保護:地球環境の変化に伴って、国際自然保護連合が「21世紀 には100万種をこえる動植物が絶滅するかもしれない」と警告しているように、野生動 物種の減少は、かつてない連度で進行している。わが国においても、ニホンオオカミ、 トキ、ニホンカワウソなどの動物種が絶滅しており、絶滅危惧種も多く指定されてい る。さらに、地球上の特定地域に限定されていた未知病原体が、野生動物と人・家畜・ 家禽との直接・間接的接触により野生動物から人ヘ、また逆に人から野生動物に侵入 しつつある。アフリカにおけるジステンパーウイルスのライオンヘの広範な感染は、 その例であろう。このように野生動物を取り巻く環境は急速に悪化しており、地球環 境保全、特に野生動物の生態系保全に対する種の減少が危ぷまれている。野生動物は 植物とともに地球生態系の重要な物質循環の担い手であり、資源、環境、生態の保全 にとって必要不可欠な存在である。今後は獣医学の1分野に野生動物医科学を導入し、 環境汚染物質の調査・監視、傷病鳥獣の治療と自然復帰、遣伝資源の保護、野生動物 の生息環境の保全などに関する教育と研究を充実しなければならない。


2.獣医学教青・研究の基本理含と教育自標

(1)獣医学の教育・研究の基本理念

 獣医学は、生物学を基本とする「動物医学」であり、生物体が有する生命の基本原 理と生物体相互間にみられる生物事象を総合的に科学し、環境の共生と動物の保健の 向上に必要な理論と実践を通じて、動物およぴ人間の福祉に寄与することを基本理念 とする。この理念を達成するために獣医学の教育と研究は、学究の促進と技術の開発 を目指し、すべての動物を対象とする臨床獣医学の展開に必要な能力の開発と養成を 図り、生命の尊厳に対する深い認識と倫理観に基づいた学術基盤を創造することを目 的とする。

(2)獣医学の教育・研究の基本理念の概要

附図の説明
 動物を樹の幹にたとえ動物と獣医学およぴ他の分野との関わりを描いてみた。
 獣医学の全ての対象動物が太い幹を形成している。この幹に養分を送っている のが獣医学という根である。根は獣医臨床学、生体防御学、生理機能学、形態機 能学、環境科学等に分岐し幹を支える。産業動物の幹の部分から伸ぴた食糧の安 全供給という枝には肉やミルク、人の健康および国際協力の果実が実る。犬や猫 の幹からは動物の福祉の枝が伸ぴ、その先には人間に対する福祉の実が大きくな っていく。その上の野生動物の幹からは野生動物の保護管理の枝が伸ぴていき、 環境保護や種の保存の果実がつく。これらの果実は獣医学以外の分野の人たちの 手も加えられて、おいしい料理に調理される。また3つのセンターは獣医学以外 の分野と緊密な連携を保ちながら動物に関する研究を進め、研究成果という肥料 を土に還元して獣医学という根を養う。
 また日本国内にはこの動物の樹が複数茂っており、相互の関係から樹によって 太くする枝あるいは細目に仕立てる枝がある。地上にあるセンターでつくる肥料 も樹の本数およぴ土地面積や土質(社会的要請)によって必要量が異なるため適 正な配置と規模に考慮する。

(3)獣医学の教育目標

@ 臨床獣医学原理の教育と社会的責任の認織
 獣医師は、獣医学の知識と技術を用いて、動物を診断・治療する社会的使命を遂行 するが、診療する動物は、生命を有する貴重な個人的財産であることから、その診療 のためには当然社会的責任が伴う。従って、獣医学を修める学徒には、このことを十 分に自覚させる教育が必要である。獣医療の対象となる動物は、産業動物、伴侶動物 およぴ野生動物であるため、対象動物により自ずと診療のためのレベルと目標が異な ることを教授することが大切である。とりわけ臨床関連教育科目(獣医内科学、獣医 外科学、獣医臨床繁殖学、獣医放射線学、獣医臨床病理学、獣医麻酔学、家畜衛生学 など)においては、こうした状況を踏まえ適切な教育目標を定める必要がある。

A 生命および社会倫理観の函養
 獣医学に携わる者は動物の生命を直接扱うことから、生命の尊厳に対し深い認識と 倫理観を有することが必要である。特に、人類の高齢化が進む現在、対人福祉に対す る深い理解と人と共に生きる伴侶動物に対する動物愛護精神は、他の動物との共生を 図る上で欠くことのできない基本となる認識である。また、獣医師は、法律に基づい た多くの権限が与えられることから、社会倫理観を有する必要がある。そのためには 自然科学分野はもとより、社会科学分野の教養も教授せねばならない。

B 安全な食料の確保に関する認識
 食橙の安定供給およぴ、その安全性の確保は人類の最重要課題であり、そのために は産業動物の疾病予防、有用遺伝資源の保全およぴバイオテクノロジーの応用に関す る知識と技術を習得させる。

C 生物の相互関係の理解
 自然界の動・植物は、相互に影響し合いながら長い年月にわたり種属を維持してき た。また獣医学が取り扱う高等動物は、先天的あるいは後天的に獲得した抵抗性によ り非目己を認識し、異物を排除する。これら生物体間にみられる相互作用や病的状態 を「生体の恒常性の維持」の面から解析し、その疾病を正確に理解したうえで、その 予防法や診断法を開発することが必要である。微生物学、免疫学、伝染病学、寄生虫 学、病理学や人畜共通伝染病学は、これら動物の疾病状態を解明し、その解決方法を 提供する学問として重要であり、医学領域への貢献も大いに期待される。

D 生物を理解するための能カの開発と養成
 獣医学は、生物学およぴ動物学を基礎とする総合科学であり、生物が共通に保有し、 維持してきた生命の基本原理と、生物体が進化の過程で固有に獲得した系統特性を十 分に理解しうる能力を持った獣医師を養成する。生命体の基本原埋を理解するための 解剖学、生理学、生化学、薬埋学などの学問分野を用意するとともに、生物固有の系 統特性を理解し、水生動物と鳥類およぴ哺乳動物について比較生物学的に把握できる 能力を養成する。

E 生命科学を理解し、応用する能力の開発
 生物体の基本節理を分子およぴ遣伝子のレベルで理解し、得られた知識や技術(バ イオテクノロジー)を駆使する能力を開発する。また、生命科学の新知見を応用生物 学分野に導人しうる能力を持った獣医師を養成する必要がある。生命科学の基礎研究 部門として分子生物学を、応用部門として動物発生学と動物遺伝学を用意し、生命科 学の進歩に即応できる能力の開発を図る。

F 自然環境保全の重要性の認識
 生物を取り巻く環境は、年々悪化し、地球規模ではオゾン層の破壊、温暖化、酸性 雨として、また、地域では公害や動植物種の減少や絶減として現われている。人類は、 地球の生態系を構成する一員であるとともに、地球上の動・植物相の健康と調和を維 持・向上させる能力を保有する。このように人類の健康と動植物相との共存・共栄を 一層推進する責任が、人類に帰属することを教育する必要があり、公衆衛生学、毒性 学、動物生態学の充実は欠かせない。

G 国際感覚に基づいた世界観の養成
 情報化社会は、あらゆる分野に浸透し、情報の豊富さ、正確さ、ならぴに迅連さが 社会生活の豊かさを左右する時代に入り、諸外国との協力関係や、競争関係は日に日 に激化しつつある。世界に開かれた社会を目指す我国にとっては、獣医学による国際 協力・国際貢献は、将来とも実践すべき重要課題である。獣医学の学問レベルの国際 化をはかり、獣医学徒に国際感覚を修得させるために、語学教育およぴ専門教育分野 においても教育環境作りが必要である。将来とも国際協力に積極的に参加しうる獣医 師の養成に向けた教育プログラムの整備を図らねばならない。


3.獣医学部の組織および教育・研究の内容

 獣医学は動物の生命を直接預かる臨床分野と、そこから生じる多くの問題に対処す る応用分野、そしてそれらを支える基礎分野からなり、これらが機能的かつ効果的な 教育単位として組織されねばならない。また限られた期問内に教育効果を上げるため には各分野の教官相互の有機的連携が必要である。そのため従来細分化されていた臨 床、応用ならぴに基礎獣医学の小講座を、獣医学の一屑の高度化を図ると共に、社会 の要請にあった教育体系を作るため、新たに獣医臨床学、生体防御学、生理機能学、 形態機能学、ならぴに環境科学の5講座に再構築した。さらに、付属施設を充実し、 講義の実践の「場」を提供すると共に、社会や産業の変化に柔軟に対応できる人材養 成を日的とした教育・研究体系を構築する。

(1)獣医学部の組織

@組 織    5講座(5デイパートメント)
A教員組織   教授  40名、助教授  40名、助手  63名   計143名
B学生入学定員   1学年 80名   計480名

形態機能学講座 生理機能学講座
獣医臨床学講座
獣医臨床センター
環境科学講座 生体防御学講座

講 座 分 野 教育科目
1.獣医臨床学

教授 23名
助教授 23名
助手 46名
軟部外科学、硬部外科学、
反芻動物外科学、運動器
外科学、脳神経外科学、
眼科学、歯科学、麻酔学、
産科学、生殖器病学
放射線学、
消化器病学、循環器病学、
神経病学、遺伝病学、
皮膚病学、伝染性疾病学、
内分泌疾患学、
臨床病理学
鳥類疾病学
野生動物疾病学

家畜衛生学
総合臨床学
計 23分野
軟部外科学、硬部外科学
反芻動物外科学、運動器外科学
脳神経外科学
眼科学、歯科学、麻酔学
産科学、生殖器病学
放射線診断学、放射線治療学
消化器病学、循環器病学、臨床血液学
神経病学、遣伝病学
皮膚病学、伝染性疾病学
内分泌疾患学
臨床病理学
家禽疾病学、野生鳥類疾病学
野生動物疾病学

家畜衛生学
獣医倫埋学、動物福祉学、病院論、
畜産経済学、動物心理学
2.生体防御学

教授 5名
助教授 5名
助手 5名
公衆衛生学、
微生物学、
免疫学、
寄生虫病学、
原虫病学
計 5分野
獣医公衆衛生学、食品衛生学、疫学
獣医微生物学、人畜共通伝染病学
獣医免疫学、獣医伝染病学
獣医寄生虫病学、衛生動物学
原虫病学
3.生理機能学

教授 5名
助教授 5名
助手 5名
生理学、
生化学、
薬理学、
実験動物学、
毒性学
計 5分野
獣医生理学
獣医生化学
獣医薬理学
実験動物学
獣医毒性学
4.形態機能学

教授 3名
助教授 3名
助手 3名
解剖学、
分子発生学、
病理学
計 3分野
獣医解剖学、獣医組織学
動物発生学、動物遣伝学
獣医病理学
5.環境科学

教授 4名
助教授 4名
助手 4名
環境衛生学、
動物生態学、
水生動物学
生物統計学
計 4分野
環境衛生学、家畜栄養学、家畜飼養学
動物生態学、野生動物学、動物行動学
水生動物疾病学
国際情報論、生物統計学


(2)講座の教育・研究内容

講 座 講座の概要
獣医臨床学 各種動物の諸疾病の発生機序ならぴに病態を把握し、的確な診断およ
ぴ治療を行い、さらに予防法を確立するための教育・研究を行う。ま
た、動物の生命に直接関与することから生命倫埋、人と動物の福祉、
動物の心理学についても教育する。
生体防御学 細菌、ウイルス、寄生虫、原虫などの寄生体と宿主の相互作用を、双
方の個体群から分子に至る様々なレベルで解明し、これに基づいた治
療・診断法の開発に関する教育・研究を行う。また、人畜共通感染症
を含む動物の感染症について、病原体の種類、性質、感染、伝播様式、
発症機構、宿主防御機構に関する教育・研究を行う。さらに、安全な
食品を供給するための教育・研究を行う。
生理機能学 生体の生命雑持に関する情報伝達機構、各種生理機能ならぴに制御調
節機序を理解し、生命現象の仕組みならぴに各種生体分子の生物学的
役割とその代謝について教育・研究を行う。
形態機能学 生命体の基本である構造と機能について各種動物を対象に比較生物学
ならぴに系統発生学の視点から教育・研究を行う。特に、臓器、組織、
細胞が有する形態学的およぴ機能的特性を分子あるいは遺伝子レベル
で解明し、その機能制御システムについて教育・研究を行う。
環境科学 環境汚染物質および生物学的環境要因による各種哺乳動物,鳥類なら
びに水生動物の生理的病的変化に及ぼす影響と、これらの環境要因か
ら生物を保護し生態系を保存する対策について教育・研究する。


(3)獣医学部付属獣医臨床センター

 獣医臨床センターは獣医学部の獣医教育病院として臨床関係の教青・研究を総合的 に行う「場」であるとともに、各種動物の診療行為を通じて広く社会や地域と接する 獣医学部の社会的窓口でもある。従って、獣医臨床センターは、獣医学部が行う教育 と研究に対し積極的に参加するとともに、その一方で、地域産業の育成を含めた社会 的要請に対しても柔軟に対応しなければならない責務を有する。
 獣医臨床センターは、日常的には外来動物の診療業務を通じて教育研究を行うが、 来院する動物は、個人の大切な財産であるとともに学術的に貴重な研究・教育の材料 であることから、診療行為の社会的責任を十分に自覚して、臨床教育・研究に対応す る必要がある。診療活動は、獣医臨床学講座の教官(92名、兼任)が行う。
 当センターは、以下に示す3診療科で構成される。

内科診療科
 内科疾患に罹患した産業動物、伴侶動物ならぴに野生動物を診療し、疾病の原因、 症状、病態を明らかにして、診断およぴ治療を行い、獣医学の教育と研究に役立 てる。

外科診療科
 外科的治療法が適応しうる答種疾病について、診断、治療の業務を行い、獣医学 の教育と研究に役立てる。

総合臨床科
 疾病の発症に至った諸要因を、物埋学的ならぴに生化学的千法を用いて解析し、 総合的に疾病を珍断し、治療およぴ予防に関する業務を行い教育と研先に役立て る。特に家畜衛生およぴ動物の飼養管埋に関する知識と技術の集積をはかり、動 物の生産性の向上に寄与する。


4.獣医学の教育と研究を支援する全国共固利用施設の組織と内容

 獣医学の教育と研究を支援する全国共同利用施設として、産業動物総合臨床研究セ ンター、動物発生工学研究センターおよぴ野生動物保護研究センターの3つを全国に 設置する。この3つの全国共同利用施設は、以下の6項目の目的を達成するために設置 され、他大学およぴ他分野の学生や社会人などの教育・研究を実践する共同利用施設 としての役割を担う。

(1)全国共同利用施設の目的

@獣医学部および大学院研究科の教育と研究の活性化:高度な獣医学の知識と技術 の修得に必要な「場」を提供し、学部教育と大学院教育の強化と研究の高度化を 図る。
A社会人の卒後ならびに生涯教育:社会人の卒後の再教育ならぴに生涯学習を指導 し、最新の知識と技術を教授する。
B国際協カと国際共同研究:国際協力を目的とした獣医学の教育と研究の拠点とし ての機能を有し、国際学術協力の教育コースを用意して、諸外国からの留学生の 教育と研究にあたる。また、日本の国際協力を担うリーダーとしての人材の要請 を図る。さらに、国際共同研究を展開し、自らその調整機関としての役割を果た す。
C先端的な技能の開発と普及:新たな学術理論や技術の開発に努め、それを広く社 会に普及させるとともに、高度な先端的知識や専門的技能を有する人材を養成す る。
D学術情報の収集と広報活動:各専門領域の最新情報を収集し、広報活動により、 広く社会に還元して、社会で活躍する獣医師の教育と資質の向上を図る。
E他の学問領域との協力体制:他の学問領域と綿密に情報交換を行い、独創的な学 際研究を行い社会の二一ズに応える。

(2)全国共同利用施設の組織ど活動内容
                          
全国共同利用施設 活動内客と所属研究室
産業動物総合臨床研究センター

4研究室
教授 4名
助教授 4名
助手 4名

 

産業動物(食糧生産動物、Food Animal)の疾病およぴ
生産に関する教育、研究、診療、研修を行い、獣医学部
付属の獣医臨床センターの機能を補完しつつ、産業動物
に関する臨床総合研究センターとしての役割を担う。
特に産業動物の生産性の向上と事故防止を目的とした理
論と実践の開発に努め、高度な産業動物診療体制の構築
を図る。
獣医代謝機能学研究室

獣医機能回復学研究室

獣医高度医療学研究室

獣医総合予防学研究室

 

産業動物の循環、代謝、呼吸、運動およぴ神経などの内
科疾患に関する教育、研究、研修を行う。
産業動物の重度外科疾患に関する教育、研究、研修を行
う。
産業動物の難治性疾患について診断、治療およぴ予防法
に関する教育、研究、研修を行う。
産業動物の生産病や飼養疾患について予防獣医学の視点
から教育、研究、研修を行う。

 

動物発生工学研究センター
4研究室
教授 4名
助教授 4名
助手 4名
哺乳動物の初期発生、形態形成、細胞分化、系統進化、
ゲノム情報に関する教育、研究、研修を行う。国内の発
生工学に関する中心的研究センターとしての役割を担う。
動物遺伝子工学研究室


動物育種学研究室

動物ゲノム研究室

動物分子系統学研究室
遺伝現象と遺伝情報の解析に必要な知識の収集およぴ技
術の開発を行い、哺乳動物の生殖およぴ発生に関する教
育、研究、研修を行う。
疾患モデルの作製と開発に必要な理論およぴ実践につい
て教育、研究、研修を行う。
各種動物のゲノム解析に必要な技術の開発と、その技術
の応用について、教育、研究、研修を行う。
遺伝資源生物に関する国内外の情報を収集し、有用遺伝
子の収集維待管理に必要な理論と実践について、教育、
研究、研修を行う。

 

野生動物研究センター

4研究室
教授 4名
助教授 4名
助手 4名
野生動物(水生動物、鳥類、哺乳動物)と展示動物(水
族館、動物園、サハリパークなどで飼育されているすべ
ての動物)の生態、環境、行動、生理、遺伝、疾病、進
化に関する教育、研究、研修を行い、国内の野生動物の
保護に関する中心的研究施設としての役割を担う。特に
傷病鳥獣の診断法、治療法およぴ救護法を開発し、それ
を実践する。
水生動物学研究室

鳥類学研究室

哺乳動物学研究室


生物情報学研究室
水生動物の生理、生態、疾病、行動、進化、保護、管理
に関する教育、研究、研修を脊う。
鳥類の繁殖、生理、生態、疾病、行動、保護、野生復帰、
救護に関する教育、研究、研修を行う。
傷病野生動物の診断法およぴ治療法を開発し、野生動物
の保護活動に必要な理論と実践に関する教育、研究、研
修を行う。
野生動物に関する国内外の情報を収集し、環境と動物生
態について教育、研究、研修を行う。

  5.獣医学教育・研究体制の改革により期待される効果

 獣医学部の組織と教育・研究内容、獣医学部附属獣医臨床研究センターならぴに獣 医学教育研究を支援する全国共同利用施設の組織と教育・研究内容の改草・整備によ って、以下のごとき教青・研究の進展が期待できる。

(1)学部は5講座(獣医臨床学講座、生体防御学講座、生理機能学講座、形態機能学 講座、環境科学講座)で構成され、学問の境界領域をできるだけ包括・集約する ことによって、教育と研究の流動化と弾力化が図られる。
(2)各講座は、3−22の分野で組織され、各専門分野の教育と研究にあたる。各分野 は、教授、助教授、助手から構成されており、学問の進展に対する後継者の養成 が図られる。
(3)近年、進歩の著しい学問領域に対し、新たに教育・研究組織(獣医臨床学講座で は、脳神経外科学、遣伝病学、伝染性疾病学、内分泌疾患学、鳥類疾病学、家畜 衛生学ならぴに総合臨床学の各分野を、生体防御学講座では、免疫学分野を、形 態機能学講座では、分子発生学分野を、環境科学講座では環境衛生学、動物生態 学ならぴに水生動物学の各分野)を設けることによって、社会の二一ズや学問の 多様化と専門化に対応する。
(4)獣医学部附属獣医臨床センターの診療は、獣医臨床学講座の教官が行うため、社 会二一ズに合致した獣医臨床の高度化と専門化に対応でき、総合的に教育研究す ることが可能となる。
(5)諸外国からの留学生の受け入れに関しては、大学院獣医学研究科が中心となり、 教育研究を行うが、全国共同利用施設も参加することから、留学生の教育研究が 弾力的かつ総合的に行うことができ、人材の養成の面で国際貢献が可能となる。
(6)大学院研究科およぴ全国共同利用施設が開設する生涯教育のリカレントコースに より、獣医師およぴ獣医学に携わる社会人に対し再教育およぴ生涯教育が実践で き、学問の高度化に対処する中心的な教育研究機関としての役割を果たすことが できる。
(7)3全国共同利用施設は、獣医学に対する社会的要請により設置された施設である ことから、将来、緊急を要する新たな社会的要請が生じた場合は、全国共同利用 施設の組織およぴ教育研究内容を柔軟に変革して、社会の二一ズに答える準備が ある。


6.獣医学の教育研究における自己点検・自己評価および外部評価

  獣医学部およぴその附属施設、ならぴに全国共同利用施設は、各組織が有する理念・ 目的に添った教育・研究活動を行うために必要な組織、制度を整備し、目的が達成さ れるよう努めなければならない。また、各組織は、自己点検・自己評価に関する制度 を整備し、自発的に自己点検・自己評価活動を行う必要がある。特に、自己点検・自 己評価を行うにあたっては、獣医学やその他の学問分野からの外部評価に加えて、海 外の獣医学関係機関からの評価およぴ助言を尊重し、学術の進展や社会的要請の変化 を考慮しながら、各組織の理念・目標の適切性や妥当性について定期的に検討するこ とが大切である。


おわりに
 今、世界の政治経済は変革の激流の中にあり、教育分野においても大学審 議会からのこの数年の答申にみられるごとく、大学改草は急速に進められて いる。このような時期に20年、30年先の社会情勢を睨んで改革を行うことは 至難の業であり、一歩間違えば後世に大きな禍恨を残すことにもなりかねない。
 獣医学教育の分野においては、機会あるごとに改革の必要性が繰り返し叫 ばれてきたが様々な事情により実施されず今日に至っている。しかし、獣医 学教育年限延長から20年を経過し、獣医学教育の国際的な基準化の流れの中 にあって、従来のままの体制で、これを満たすことは困難である。これらの 要請に応えるためには教育内容およぴ組織の見直しが必要であり、もはや改 革を先送りする時間的余裕はない。大学教官は、この機会を逃がすことなく 教育の現状、社会的要請と教有の在り方あるいは日本の獣医学教育における 自己の大学の役割等について真剣に考える必要があるのではなかろうか。

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