「獣医学に関する大学院基準」のこれから

獣医学教育研究委員会委員長、東京大学名誉教授 光岡 知足

最近、獣医学を取りまく社会的背景に大きな変化が起こっている。すなわち、人間生活の質の向上に果たす動物の役割がますます高く評価されるに至り、これと関連して高度動物医療の必要性が認識されてきた。また、畜産食品への農薬等有害物質の残留や口蹄疫、0-157感染症、狂牛病などを防止し、健康で安全な畜産食品の提供や人口増加に対処するための食糧確保・提供に加えて、ダイオキシンをはじめとする環境汚染物質による環境トキシコロジーなど、新しい教育・研究分野への対応など、獣医学の積極的な貢献が要請されている。これらの課題に応えるために、獣医学教育・研究の中核をなす大学院の重要性はますます大きくなっている。

ところで、現在の「獣医学に関する大学院基準」は、6年制獣医学教育の発足に伴い、昭和63216日に定められたもので、この基準は「当面の目標を定めたものであり、学問分野の進展、教育体制の整備などに応じて検討、改訂されるべきものである」と付記されているように、暫定的な性格をもつものであった。そこで、近年の国際化、情報化が進む時代における獣医学をめぐる社会環境の変化に適切に対応するため、このたび「獣医学に関する大学院基準」の改定を行った。

この改定にあたっては、とくに以下の点を考慮した。すなわち、各大学は獣医学研究科の大学院の理念・目的および教育研究条件をより明確にし、その実現に向けて具体的方針を定めることを求めるとともに、教育研究の人的条件として、教員組織および教育支援体制の整備、教員確保や他機関との連携、さらに,教員の責務、資格および再評価とそれらの公表についても言及し、研究費の確保、教育研究の物的条件として附置研究施設・設備および学外協力施設などの基準と整備・確保、国際的研究推進の体制について明示した。また、大学院の管理運営、人事については、自己点検・評価、相互評価および外部評価を行うこととし、その結果を「公表すること」とした。

なお、専門家臨床獣医師、乳肉衛生専門家、環境トキシコロジー専門家、野生動物保全専門家、社会健康医学専門家、社会獣医学専門家などのより高度な技術を有する専門職業人の人材育成を目標とする修士課程を博士課程の他に設置することについては、今後の課題として残された。

(大学基準協会 じゅあ第28号 2002年3月15日)