平成12年1月7日 十勝毎日新聞

 

(写真説明)

各国の獣医学教育と比較したデータを示し「獣医学科再編は不可欠」と説く唐木教授

 

国立大学獣医学科再編・整備 西日本で先行の動き

山口、宮崎が九州に統合か

2003年度に大学独立行政法人化  再編機運に高まり


【東京=目黒精一】

帯広畜産大学が候補の一つにあがっている国立大学獣医学科の再編・整備にからみ、西日本の大学が先行する動きが出てきた。山口大学、宮崎大学の農学部教授会が、獣医学科の離脱・九州大学への統合を容認する方針を決めたの受け、国公大学獣医学協議会の徳力幹彦会長(山口大教授)が今月未、九大に獣医学部新設を打診する。 徳力教授は獣医学教育の実情調査のため、獣医学関係の大学教官らとともに五日から訪米中。この調査は、文部省の科学研究費を使って行われ、国のお墨付きを得ている。同教授は帰国後、九大の杉岡洋一総長に面会し、これまでの経緯を説明したうえ獣医学部新設を求める。話し合いの進展によっては、来年の概算要求に学部新設が盛り込まれる可能性もある。

山口大の農学部教授会は一昨年十一月、九大との交渉にゴーサインを出した。宮崎大は昨年二月、「九大に獣医学部が新設されたら統合してもよいと農学部教授会の了承を得た」同大獣医学科長の新城敏晴教授)。宮崎大は獣医学科の離脱を前提に今年四月から農学部再編をスタートさせることも決まっている。こうした動きと、大学の独立行政法人への移行が二○○三年度に迫っているなど大学自体が変革を求められている状況を受け、再編機運が高まってきた。畜大では昨年十二月二日、唐木英明東大教授を招いた講演会を開き、約百人の教職員が獣医学教育の現状と再編について説明を受けた。

<獣医学科再編・整備>戦後新設された国立八大学の獣医学科は九−十講座しかなく、大学基準協会が出した最低基準十八講座も満たしていない。獣医学教育が国際レベルと比べ大きな格差があることに危機感を持つ獣医学関係者が、畜大、岩手大、東京農工大、岐阜大の同学科を東北大に新設する獣医学部へ統合、鳥取大、山ロ大、宮崎大、鹿児島大学の同学科を九大獣医学部に統合する構想を打ち出し、実現を目指している。

計画まとめた唐木・東大教授に聞く

獣医学科の再編・整備計画をまとめた唐木英明東大教授は「再編・整備は避けて通れない課題。畜大にはどんな選択肢があるか、学内、地域の論議を深めてほしい」と強調する(唐木教授との一問一答は次の通り)

−世界の獣医学教育はどうなっているのか。

唐木 例えばミュンヘン大学(ドイツ)は教員二百八十人、ゲント大学(ベルギー)は百五十人など欧州連合(EU)諸国では最低百人の教員がいないと獣医学教育機関の基準を満たせない。アメリカも同じだ。獣医学では臨床が重視され、少なくとも百人の教員が必要というのが常識になっている。畜大など再編対象の獣医学科の教授数は十人前後。その結果、獣医師国家試験の必修科目さえ満足に教育できていないのが現状だ。

−酪農王国・十勝にとって獣医学科がなくなること影響は計り知れない。

唐木 地域の感情はわかるが、大学はしっかりした教育・研究をするのが大前提だ。それを実現するには教員や研究施設といった教育資源を集約するしかない。不備がある学部・学科は独立行政法人化の波に飲み込まれ消えてゆくだろう。東日本の四大学を東北大学ヘ、というのは地理的に四大学からほぼ等しいこと、それに大学が独法化したときでも確実に獣医学教育を続けていけることを考えた。

−畜大に他の選択肢はないのか。

唐木 三大学と一緒になるのが一番いいと思うが、論理的には他に二つの選択肢が考えられる。一つは道内で再編・整備を完結することだ。つまり北大の獣医学部との統合だ。もう一つは畜大単独で獣医学科存続をめざすことだ。地域にとっては最後の選択肢が一番いいのだろうが、現実的には(他の学科力をつぶして獣医学科に教員を集中するなどしなければならず)難しいだろう。しかも(そうまでして獣医学科を残したとしても)他の大学が再編・整備を進めたら太刀打ちできる教育内容を畜大が維持できるだろうか。大学の独法化と少子化時代を間近にしていることを考えると、(畜大獣医学科が)単独で生き残るのは非常に難しい。

<唐木教授は母方のおばが帯広に住んでいる開係で、子供のころから帯広を訪れ十勝や畜大についてもよく知っている>

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