以下に再録するのは昭和604月から624月まで国公立大学獣医学協議会長を務められた藤原公策教授がまとめられた、いわゆる「藤原メモ」の全文です。時あたかも第1回再編整備の真っ只中であり、多くの困難の中で各大学が努力を続けているときでした。再編の問題点の全てがここにあり、その内容は今日に第2回再編運動と全く同じといえます。再編運動の成功のためにぜひ参考にしてください。 唐木

国公立大学における獣医学教育再編整備の現状と当面の課題

昭和623

東京大学農学部教授 藤原公策

 

1 はじめに

わが国の教育制度全体、とくに大学のそれは昭和21年以降大変革を遂げ、獣医学教育もその例外ではなかったが、それは獣医学領域固有の必要に追られた変革ではなく、全教育制度の変革の一端であった。しかしながら今回われわれが経験しつつある獣医学教育制度の改変は、畜産経営規模の拡大・多様化・合理化を基盤とする食糧動物資源の確保、量産される化学物質の対生物効果の評価、精神生活の充実に必要な伴侶動物の健康確保など、人類生存に直接かかわる領域としての獣医学に向けられた社会的要請の結果であり、すでに学校教育法第55条の改正(58.5.25)により昭和594月入学の学生から学部6年の新教育制度が適用されている。教育制度の変革にともない、教育目標として@新しい事態に対応できる能力の開発と養成を図ること、A臨床獣医学の原理の教育に重点をおくこと、G環境の意義を認識させること、C応用生物学の発展を推進する能力の開発を図ること、などがすでに提言されている(文部省科研費59308010報告書 研究代表者:尾形学)。獣医学関係大学がこの教育制度の改変に適切に対応できるか否かは、すでに一世紀の歴史を有するわが国の獣医学教育・研究のこれからの動向を左右する重大な問題である。

現在わが国では、国立10校、公立1校、私立5校計16校において獣医学教育が行われているが、国公立11大学にかぎっても、それらの存立基盤はかなり異なるばかりでなく、学内での位置づけも独立学部(北大)あるいは農学部の1学科と差があり、また、大学院博士課程(北大、東大、大阪府大のみ)の存否もあって、教育制度の変革に対応すべく歩調を合わせることはむずかしい。すでに学校教育法改正から今日まで4年を経緯しながら、国公立大学は、学部以上の規模を目指して再編整備すること、大学院を併設することなど、総論的な合意事項(60.3.20文部省高等教育局長宛申し入れ)が表明されたにとどまっている。現実には、すでに学部教育の4年次までが新制度(学部一貫6年教育)の学生となる今日、依然として極めて貧弱な教育体制のままで専門教育の実施を余儀なくされており、しかも学問の創造と人材養成に不可欠な大学院(新制)が昭和65年度には発足していなければならないのに、その構想も未だに具体的ではない。各国公立大学教官は社会的要請に対処すべく、理想的な教育・研究体制の確立を目指す立場と、所属大学の構成員としての立場の両立を考えつつ日夜心を砕いているにもかかわらず、すでに目標として揚げた再編整備の遅滞を批難する声は最近とみに大きい。

このような事態を踏まえて、新制度の教育に責任を持つためには、あまりに過小な現行大学設置基準(58.6.24改訂)による各国公立大学の現状(資料2)を直視し、これから速やかに脱皮して、獣医学に対する社会的要請に即して充実した教育体制の実現に向けての今後の活動に資するために、また、広く周辺の理解を求めるために、ここに昭和5510月に発足した国公立大学獣医学協議会(資料1)を中心とする新教育制度への対応の動き、とくに再編整備の各論的具体化に向けて動き出した年4月以降の経過を記述するとともに、当面の課題について考察する。

2 経過と現状

すでに昭和46年頃から獣医学関係大学(国公私立)代表者会議が存在していたが、来るべき獣医学教育の年限延長に対処する上で、国公立大学は私立大学とは異なる立場にあるとして、当時の北 昂、尾形 学、今道友則各獣医学視学委員、及び各国公立大学教官15名による獣医学教育想談会(仮称)(55.7.29日本獣医師会)が持たれ、文部省関係官の意向も糺した上で、“国公立大学における獣医学教育年限の延長を含む教育制度の変革に積極的に取り組むために関係大学の意志を集約する機関の設置が必要である”との結論に達した。これを受けて、「国公立大学における獣医学教育の改善を図ること」を目的(規約第2条)とし、国立10大学(北大、帯広畜大、岩手大、東大、東京農工大、岐阜大、鳥取大、山口大、宮崎大、鹿児島大)および大阪府大の農学部または獣医学部の獣医学関係学科を構成員として、国公立大学獣医学協議会(以下協議会)が設立(55.10.1)され、「獣医学教育の改善に関する事項について、会員に共通する問題を協議する」(規約第5条(1))こととなり、以来、原則として春、秋の獣医学会を機会に、今日まで18回の会合を持ち鋭意協議を重ねてきた。

21 第1回(55.10.1)〜第6回(57.41)協議会:幡谷正明会長(宮崎大)

1回協議会(55.10.1山口大)で会長、副会長に幡谷正明教授(宮崎大)原茂る教授(農工大)をそれぞれ選出、事務局を農工大におき規約を起草することになった。また、協議会での協議結果のうち、国公立大学固有の問題については、全国獣医学関係大学代表者会議を通さずに直接文部省当局に要望することとし、獣医学6年教育(4200時間)実施のために国立大学で少なくとも14講座の整備を、とりあえずの要望事項とした。これに対して会長、副会長との話合い(56.1.24)において、文部省前畑技術教育課長は、「獣医学教育の改善に関する会議」の答申(54.6)の骨組み(統廃合、定員60名、4,200時間、14講座)のうち統廃合は困難(関係学長懇談会から文部省大学局長宛申入れ、55.10.19)として講座増、定員増のみを実現することは不可能と述べている。

2回協議会(55.12.16東京青山会館)で協議会規約(資料1)が承認され、第3回協議会(56.4.6日本都市センター)では、いわゆる「大学院修士積上げ方式」に対応すべき初めての修士(57.4入学)選抜試験の実施方法、修士論文の取り扱いかた、などが協議の中心であり、第4回協議会(56.9.10北里大)では「修士積上げ方式」の実施にともなう教官の過重負担、それにともなう研究時間の不足について論議された。第5回協議会(56.12.23駒場学園)では、学科のままで学部一貫6年教育になった場合の問題点が協議されたが、教育研究者の養成を目的とする大学院教育については、将来の検討に委ねるべきであるとした。また、幡谷会長の推薦により次期会長に山根乙彦教授(鳥取大、農学部長)、副会長に原茂教授(農工大、留任)が選出された。

2-2 第6回(57.4.1)〜第8回(58.4.1)協議会;山根乙彦会長(鳥取大)

6回協議会(57.4.1麻布大)では、「修士積上げ方式」の実施状況を踏まえた論議が中心で、修士教育と学部教育では目的が異なり制度上、運用上も無理があるので「修士積上げ方式」から早急に脱皮したい、との意見が強かった。これと関連して、全国公立大学における獣医学博士課程の設置、修士課程の存続が要望事項として出された。第7回協議会(57.10.5鳥取大)で、農学部獣医学科のままで学部6年教育を実施した場合の大学院のありかたについて更に協議を重ね、来るべき学校教育法55条の改正に国立大学がいかに対処すべきか、が論議された上で、同じく6年制をとる医・歯学部に比してあまりにも過小な現在の各大学教育単位を大きくすることが必要とされ、獣医学部としての独立、博士課程の設置を文部省に対して強く要望することとした。

8回協議会(58.4.1日本都市センター)でも獣医学6年制教育は、学部組織で実施すべきであるとの共通の見解に立って、再編整備間題を各大学において討議の上、次回協議会で検討することとした。また、山根会長の提案により、次期会長として望月公子教授(東大、農学部長)、副会長に大賀 皓教授(北大)を選出した。

2-3 第8回(58.4.1)〜第16回(60.4.6)協議会:望月公子会長(東大)

9回協議会(58.7.15東大)では主として新学部教育制度に対応した大学院制度について討議された。すなわち、新博士課程設置には23年後を目途に学部の再編整備を実施することが必要であり、昭和65年度までに学部の再編整備ができれば、国立大学の博士課程定員増も考えられるとされた。ついで第10回協議会(58.8.28帯広畜大)では国立大学における臨床・応用領域の教育・実習設備の貧困を補うために、農水省・厚生省関係など国公立機関所管施設の利用について協力を求めることとし、要望書が関係方面に提出された。

11回協議会(58.12.9東大)においては、再編整備の方向として、@獣医系単科大学設立、A旧帝大を核にした学部新設、B近隣大学獣医学科の統合による学部新設、の3案が会長から提示され、積極的に検討することになった。第12回協議会(59.4.6東大)では獣医学教育基準検討小委員会による教育基準案(59.5.18)を検討するために、設置基準、再編、整備、大学院の4小委員会を発足させることとした。第13回協議会(59.8.1東大)において、再編整備を行なうことに異論のないことが再確認され、前記基準案について、大筋においては異論はないが、提示の時機が尚早である、などの意見が出された。

14回協議会(59.10.12鹿児島大)では、現教員数(288名、96講座)を基本として、学部以上の規模を目指して再編整備を行ない大学院を併設すること、が確認された。しかし、前記、現有講座数との関運で、地域配置を背景に再編整備後の学部数(20講座以上の45学部)を重視する意見と、充実した教育のためには大規模学部(25講座以上)が望ましいとする意見とが激しく対立し、結論は次回に持ち越され、第15回協議会(60.1.21東大)で、第11回協議会以降の論議を踏まえて、望月会長により、@国立大学は再編整備を行なう、A現有教官数を基本とする、B早急に概算要求などの行動に移る、C学部創設を目指す、E大学院設置を目指す、E再編整備後の規模は25議座以上が望ましいが1820講座でよいとの意見もある、と取りまとめられた。文部省遠山技術教育謀長からは、再編整備にともなう組織の新設には少なくともそれに見合う既成組織の改廃整理、すなわちスクラップ・アンド・ビルドの原則が要求されること(昭和58臨調路縁)、獣医学科の再編整備は農学部再編整備と深いかかわりを持つこと、が強調され、所属学部での話し合いを鋭意進められたい旨の要望があった。

上記討議経過をもとに、1)獣医学教育の改善に向け、国立大学の再編整備を行なうこと、2)再編整備は現有教官数を基本とし、農学部の再編整備と深くかかわりを持つこと、3)再編整備後の規模は学部ないしそれ以上(25講座以上が望ましい)とし、大学院を併設すること、の3項が、協議会合意事項として、獣医学の研究展開とその教育への実効ある還元、国際交流の円滑化をはかるために配慮されたい旨の要望とともに、望月会長から文部省高等教育局長宛送付(60.3.20)された。

16回協議会(60.4.6東大)では望月会長の提案により、次期会長に藤原公策教授(東大)、副会長に伊沢久夫教授(北大)が選出された。

2-4 第16回(60.4.6)〜第18回(62.4.2)協議会:藤原公策会長(東大)

国立大学獣医学科の再編整備の目標(60.3.20文部省高等教育局長宛申入れ)は既に示されたが、それに即した協議に入るためには、まず近隣大学問の話し合いに多少時間をかける必要があるとする藤原会長の判断で、協議会開催は翌61年春まで見送られた。なお、昭和60年秋の日本獣医学会が設立100周年記念として特別の開催形式をとり、協議会開催が困難であったことも副次的な理由ではあった。この問の各大学の動きについては後に詳述する。

17回協議会(60.4.5麹町会館)では、北海道(北大、帯広畜大)、東日本(岩手大、東大、農工大)、中日本(岐阜大、鳥取大)、西日本(山口大、宮崎大、鹿児島大)、大阪(大阪府大)の地域別に、第16回協議会以降の動きが、説明された。文部省小林技術教育課長、北川課長補佐からは、農学部再編との関連もあるので再編整備を急いで欲しい旨の要望があった。

18回協議会(61.9.26東北大農)では、特に現行修士課程の廃止にともなう移行措置及び新制度大学院設置について協議され、旧制度の留年学生は新制度に組み込むよう努力すべきこと、新制大学院設置の前に学部の再編整備が先決であること、などが文部省側(北川課長補佐)から改めて強調された。なお、協議会活動の継続性を図るべく次期会長の早期選出が藤原会長から提起されたが、次回に持ち越された。すでに述べたように、すでに協議会合意事項として提示された再編整備の目標に即して再編整備の貝体策を協議するためには、近隣大学間の緊密な接触が必要である、との会長の意向は折にふれて各学科主任に伝えられ、各大学の考えかたと動きが相互に広く熟知できるように、藤原会長は各大学獣医学部、学科を各25回延べ33回(60.6.2662.3.20)にわたり歴訪し、大多数の教官と、あるいは学科主任を中心とする少数の教官と懇談する機会を持った。また、この間、各教官側からの要望に応じ、または会長の判断にもとづいて、名大、九大の農学部長あるいは畜産学科の一部教官とも懇談して獣医学再編整備の趣旨、現状を説明、側面からの協力を要請した。更にこの間、会長は単独で、あるいは各大学教官と同道して文部省技術教育課にもしばしば出向いて現状を説明、意見を求めた。以下に、現在までの2年間(60.462.3)の動きの概要を地域別に述べる。

2-4-1 北海道地域(北大、帯広畜大)

両校獣医学科は昭和60年春以降、再編整備のため合同委員会を発足させ、札幌あるいは帯広で繰返し委員会を開催、両学料の統合に関して討議を重ね、重複講座についての将来の役割分担に至るまで詳細に検討された。しかしながら、キャンパス問題、すなわち将来の学部を何処におくか、に関しては、合同委員会では結論が得られず、決定を両大学レベルに委ねることとしたが、昭和616月両大学学長の会談においても結論が得られなかった。わが国最大の畜産基盤を背景にした北海道地域においては、再編整備が2校間の問題として早期に実現することが期待されてはいたが、両校再編整備委員会の積み重ねた努力が実るためには、両大学の事情から、なお多くの困難があると承知している。早期の再編整備実現が多方面から期待されていた北海道2校間の停頓の現状は、この事業がいかに困難であり、格段の努力を要するものであることを改めて示したものであろう。

2-4-2 東日本地域(岩手大、東大、農工大)

東北地方唯一の国立獣医学科として独自に獣医学部創設の意向を堅持するようにみえる岩手大、本質的にいわゆる大学院大学の体質がきわめて濃い東大(院生約4,800名、61.5.1)、超大都市圏内での獣医学教育のありかたに腐心する農工大の、3校相互問では、立地条件あるいは存立基盤についての接点が極めて乏しい。藤原会長は2校間でも接触を図るよう各学科主任に要請し、岩手大と農工大間、あるいは東大と農工大間の教官有志による会合が各23回持たれたが、再編整備案への糸口も掴めないままに時日が経過し、ようやく最近(61.8.23)、農工大の提唱で3校の会合が実現した。しかしながら、現在地での学部創設を中心におく岩手大と、関東地区に単科大学もしくは学部の創設を描く農工大との間でも論議は進展せず、更に現存博士課程の活用・充実を図り学科レベルでの再編整備を進めたい東大と他の2校間では、当面の対応、描く将来像に大きな差異があって、現状からみて、この地域の再編整備がいつ具体化するのか、果たして地域の枠内でそれが可能なのか、予測に苦しむところであるが、困難にも拘らず、なお3校間の接触は続けられている。

2-4-3 中日本地域(岐阜大、鳥取大)

岐阜大では当初、学内での学部昇格が考えられたが、組織の改廃には同等の組織の廃止を必要とするとした昭58臨調路線以降、大学院博士課程併設を必須とする立場から、同一都市圏に存在する名大に獣医学部創設を望む方途が一部教官により打ち出された(60.7)。これを承けて、従来とも実験動物学領域の教育、研究、人材養成に深く関与し、獣医学の教育、研究に参入する希望をもっていた名大・農・畜産学科が岐阜大の要望を容れるかたちで話が進められてきた。鳥取大は従来、山口大との話し合いを続けていたが、岐阜大の誘いに応じて、名大の計画への参加も併せて検討してきた。当初から学部として出発することを主張する岐阜大、鳥取大側と、現時点ではそれは不可能として学科レベルでの統合を考える名大側との調整は困難であったが、一応名大としては学内努力を積重ねた上で、昭和62年度概算要求案を文部省に提出する運びとなった。すなわち名大農学部畜産学科(学部学生定員20名)を獣医畜産学科(定員60名)に改組拡充、現在の5講座に加えて学部内既存1講座の移行と獣医学関係10講座の新設によって、合計16議座の新学科設立を目指す、というものである。この名大の概算要求の経過・内容は岐阜大、鳥取大にも逐一通知されており、昭和63年度も改めて提出されると承知している。

岐阜大と名大との関係は、会長と岐阜大との懇談(昭60.6.26)時にもすでに話題の中心ではあったが、上記の名大の動きに対する岐阜大側の対応が学部・大学レベルの問題とならなければ進展は望めないので、岐阜大獣医学科教官との懇談(61.9.2)で会長は、岐阜大が名大の将来計画に参加する意志が固いのであれば、来るべき岐阜大農学部の再編とのかかわりから、態度を明確にすべきであろうことを示唆し、最近になって、学部レベルでの理解はすでに得られ、大学レベルでの接触の可能性もあると承知している。

いっぽう鳥取大に関しては、獣医学科としての対応が山口大あるいは岐阜大獣医学科との対応に終始している間に、農学部レベルのいわゆる農学部再編が急速に進行し、昭和62年度からの1学部1学科大講座制とする予算措置から除外された獣医学科の帰趨は深刻な間題となっている。いずれにせよ、鳥取大の事態は今後の国立大学における獣医学教育の再編整備全体に大きなインパクトを与えるであろうが、場合によっては農学再編の先駆となったかもしれない獣医学領域の再編整備が、甚だおくれをとってしまった現状は残念でならないし、将来の動向に重大な影響をもたらすかもしれない。

2-4-4 西日本地域(山口大、宮碕大、鹿児島大)

さきに触れたように、山口大は前期協議会(58.4.160.4.6)の過程では、むしろ鳥取大と比較的早くから連携し、両獣医学科教官間で数回の会合がもたれ、統合ないしは再編問題が話し合われていた。昭和604月以降も両大学の接触は続けられ、岐阜大、鳥取大の動きを介して名大を含む3大学関係教官の懇談会に、山口大の一部教官が参加した経緯もあった。

いっぽう藤原会長と山口大との懇談会(60.8.30)で、九大での獣医学科ないしは学部創設の可能性について論議があり、会長は九大を訪ねて大村農学部長および畜産学科関係教官との懇談の機会(60.9.11)を与えられ、‘九大としては具体的に西日本各校獣医学科からの申し出があった時点で、協力の是非を検討する”旨を承つたので、これを関係大学の教官に伝えた。これを承けて西日本3大学では、九大での獣医学部創設を含めて再編整備について協議を重ねていると承知していたが、第74回国立大学農水産学部長協議会(61.6.45)では大村九大農学部長から、いまだ接触はない旨の発言があった。その後、九州地区農学部長連絡協議会などでは非公式の接触が持たれ、ようやく最近になって、少なくとも山口大、鹿児島大の2校獣医学科は九大と公式に接触する意向を固めたと承知している。なお、宮崎大獣医学科でも獣医学部創設の方向は打ち出されてはいるが、細部については承知していない。

2-4-5 大阪地区(大阪府大)

国立大学とは設置主体を異にする大阪府大では、学校教育法第55条の改正に対応して、早くから学部長を委員長とする獣医学部設立準備委員会を構成し、学部レベルで取り組んできたが、設置主体が超大都市圏を中心とする大阪府ということで、設立趣意害にも教育・研究の動向として獣医公衆衛生・実験動物医学への指向が強いことが示されている。加えて、国公私立を含めて西日本唯一の獣医学博士課程を持つ大学としての役割も強調されている。再編整備の相方を直接見出せないことから、現在の学科規模を学部規模に拡大していくことは容易ではないが、現在、わが国の獣医学部・学科の中では単独で最大規模の教官陣容を持つ(資料2)ことでもあるので、今後の国立大学側の対応を見極めながら、設置主体との話し合いのもとに、独自で新しい教育・研究体制の確立に向けて動いていくであろう。わが国の獣医学が、高度に加工型の畜産を支え、またbiomedical scienceの一翼を担う役割が極めて大きいことから、大都市圏、地域社会との関係が特に密接(資料3.4)な大阪府大の対応策は決して地域特殊性の高いものではなく、ある程度普遍的に国立大学再編整備に当たっても参考となろうし、国立大学としても大阪府大の新体制の確立を支援すべきであろう。

3 当面の課題

学校教育法第55条の改正(58.5.25)にともない国立大学における獣医学部・学科を再編することが社会的要請となっていることはすでに述べた。(財)大学基準協会においても、これまでの獣医学教育基準(28.4.21)を改め、新しく設定された「獣医学教育に関する基準およびその実施方法」(61.6.23)では、新教育制度に見合う獣医学部の規模は、講座数18以上(必置14、選択4以上)、教員数72名以上(教授18名以上)、学生定員60120名としている。

国立大学については原則として農水産系の講座増、教員増があり得ないとされる現状では、既存組織の再編整備により規模の拡大を図らないかぎり、新制度に見合う教育・研究態勢の向上は望めない故にこそ、協議会として再編整備に関する合意事項(60.3.20)が表明されている。再編整備は単なる既存組織の統合ではなく、文部省当局からも協議会の都度、繰返し強調されているように、現教育・研究組織のスクラップを伴うもので、それなしには前進は望めない。すなわち、学部教育6年制に合わせて獣医学教育・研究の新しい展開を図るためには、現教育体制の否定が前提であり、このことはすでに学校教育法改正に関連した文部省大学局長通知(58.6.4)にも明示されている。すでに国立大学農学部の再編も着々と進行中で、時日の経過とともに獣医学科の立場は微妙となり、孤立化のおそれもある。部外からは新しい獣医学教育・研究体制への指向に対する関係教官の熱意が足りないとの批判もある。

しかしながら、法改正に関連した国会での討議(58.5.11衆議院文教委員会)にも明らかなように、再編に当たっては現在各獣医学科が所属する学部・大学との関係、地域社会との関係も無視できず、大学問に跨る未曽有の変革を短時日で仕上げることは無理であり、遺憾ながら現段階では関係教官の努力、心労に見合う果実は未だ得られていない。かつて盛んであった抽象的な議論への逆行を懸念する向きもあるが、社会的要請にもとづく再編整備はすでに各論的、具体的、現実的段階にあり、一刻も早くその第一歩を踏み出すことが望まれるので、以下にこれまでの経緯を踏まえて、当面取組むべき若干の課題について考察する。

3-1 所属学部・大学の理解と協力

大学構成員として存在する限り、獣医学科の再編整備問題は獣医学科単独で進められる問題ではなく、その要望を所属する大学・学部レベルに上げていくことが必要である。昭和61645日に開かれた全国農水産学部長協議会までは、獣医学科の再編整備間題は北海道地域を除いては学科レベルの部内討議に終始し、多くは学部レベルの討議事項にさえなっていなかった(藤原会長メモとして61.6.26各学科主任に配布)。すでに大学間の統廃合は至難とする関係学長懇談会申し入れ(55.11.19)にもあるように、所属する学部・大学と無関係に獣医学科の再編整備をすることは不可能であるが、さきに述べたように、獣医学科を有する岐阜大と現有しない名大の関係者の努力により、中日本地域の再編整備は学部・大学レベルの問題となってきている。各獣医学科としては、教養課程、関連学科の教育分担の問題もあって、今後とも所属学部・大学の理解を求めつつ、周辺の意向を汲んで再編整備に対処しなければならない。獣医学の再編が学部・大学の意志となっていない限り、今回の改変に参画することは不可能であろうし、その努力を怠っていては、所属学部・大学の構成員としての資格・責任を厳しく問われる事態も招きかねないだろう。

加えて、獣医学の再編整備は農学のそれと深くかかわらざるを得ないことは、協議会でもしばしば言及されている。わが国の現状からみても国際的視野に立っても、農学と無縁には獣医学の存立基盤は考えにくい。わが国の畜産は、動物、飼料のみならず畜舎材料、敷藁まで輸入に依存する、いわゆる加工型の色彩が濃く、後にも触れるように、病態のみならず飼育管理、環境への理解の深い畜産獣医師あるいは管理獣医師の養成が強く望まれている。いうまでもなく、獣医師が主として畜産の振興のためにある(獣医師法第1条)以上、獣医学は農学、とくに畜産学との関係を緊密に保つ必要性がある。獣医学の再編整備が農学のそれの嚆矢となる可能性はすでに消えたとしても、少なくとも農学全体の再編と獣医学再編整備とは自ら連動すべきことは協議会でも合意(60.3.20)されており、2-4-3で触れた岐阜大と名大との接触は、この路線に沿った動きとみることもできる。因みに国立10校獣医学科の学部学生定員は330名である(資料2)のに対して、畜産学科のそれは17770名であり、博士課程学生定員は前者が24名、後者が51名である。3-2で述べるように、近年とみに守備範囲を広くした獣医学の再編整備に当っては、近隣領域特に畜産学、農学領域の理解と協力を求めつつ学際的見地に立つ必要があり、無思慮に閉鎖的、画一的な方向は排さなければならない。

3-2 職域要員の充足

近年、疾病の予防や診療のみならず、繁植、飼育管理、畜舎、環境など、およそ畜産経営に関する技術にも広く対応できる、いわゆる“管理獣医師”の養成に強い要望が寄せられており、その充足に関して大学の責任は大きいが、教育内容、進路指導に必ずしもそれが充分に反映されておらず、獣医師の職域別配置と社会的要請との問には現在かなりの食い違いがある。すなわち、新たに獣医師免許を取得した者の約12%が小動物診療につく(資料3)のに対して、畜産関係と公衆衛生関係の都道府県職員においては、昭和614月の時点で70名近い欠員を生じている。624月には更に畜産関係約160名、公衆衛生関係約180名の採用が予定されているが、その充足が危ぶまれている。国公立大学においても最近の社会的要請を十分に考慮して、幅の広い視点に立って獣医師養成を行ない、学生の進路指導に遺漏なきを期する必要がある。また、食品・医薬品などをはじめ工業製品の安全性の追求の厳しさとともに、いわゆる実験動物医学にかかわる獣医師の求人が激増していることは国際的傾向であり(資料3)、再編整備後の教育においては、この領域への対応も大切であろう。獣医学がヒトのそれを含む生命科学に深くかかわることを反映して、今や欧米の獣医科大学ではDepartment of Biomedical Scienceを名乗る講座ないしは研究室が珍らしくないが、例えば米困Colorado州立大学などにみられるごとく、最近ではCollege of Veterinary Medicine and Biomedical Scienceといった大学・学部レベルの名称さえも普遍化しつつあることに注目すべきであろう。更に一方で、医師、歯科医師の過剰対策が昭和62年から予算化され、医学部入学定員の削減、他の学部・学科へ転換さえも取り沙汰されており、その影響が、専門的に近い関係にある獣医師の職域にも早晩及んでくることはさけられず、biomedical関係の教育充実は卒業生の将来にとっても重要な課題であろう。

3-3 地域社会との関係

地域社会の産業の振興、生活の充実に寄与することも国立大学の使命であるが、より高度の科学的、技術的貢献を図るためには、現存の過小な獣医学科の再編整備による教育・研究内容の充実が必要であり、そのために社会との結びつきがある程度広域化することは、むしろ望ましいことであろう。すなわち、各大学の対応する社会が広域となれば、有為の人材をより広く集めることができ、得られる教材、研究課題もより豊富になり、教育・研究成果の社会への還元も質的、量的に高まることが期待される。近年の交通手段の著しい発達は広域化にともなう欠点を捕って余りあるであろう。

いうまでもなく、国または地方自治体が設置主体である以上、再編整備に当たって人材養成の使命をもつ大学の地域的配置を考えることは必要であろうが、第37回獣医師国家試験(61.3)受験者の本籍地(資料4)および終了後の地域別就職先(資料5)をみると、私立大学のみならず、最近では国立大学についても学生の出身地、就職先は一部を除いて広域化している。

地域社会とのつながりとして附属家畜病院の診療(資料6)もあるが、国立大学のそれは専任教官1-2名にすぎず、臨床講座教官の極端な過重負担の上に業務が行なわれているので、再編による人員増が望ましい。なお、大中動物診療では多くの場合、輸送経費の問題もあって診療側が患畜所在の現場に出向することが主となっていると承知しているので、再編による対応地域の多少の広域化は、交通手段の発達を考慮すればさして問題とはならないであろう。

3-4 私学教育との対比

獣医学教育では国公立大学と私立大学との学生定員比が約12に近く、職業教育、社会への人材供給の面からは、前者より後者が占める部分が大きい。かつては少数の学生定員でより充実した教育を行なうことが国立大学のメリットとされたが、獣医学領域の私立大学は教員数、設備、運営経費において現在すでに国立大学を凌いでいる(資料2)。すなわち、私立5大学は経営基盤との関係で国公立大学より制度改変への対応が速く、すでに教員数3975名(平均49名)、うち教授1325名(平均17名)となっている。国公立大学で、辛うじてこれに近いのは北大と大阪府大(教員数45名および46名、うち教授13名および10名)のみで、他の国立大学の教員数は多くは20名余で、うち教授は910名にすぎず、著しく劣る。この貧弱極まる陣容では6年問にわたる学部一貫教育の重い負担に到底堪えることはできず、充実した教育、人材育成は不可能である。職業教育、獣医師免許の取得のみで学部教育の効率を単純に比較、論ずることはできないが、例えば第37回獣医師国家試験(61.3)受験者(国立10303名、私立5675名)の学校別合格率(61.3修了者のみ)でみると、私立5校は3位(99%)、8位(93%)、1112位(86%)14位(84%)を占めており、12位は国立大学であるが、1516位も国立大学となっており、多数の学生を抱えながら最近の私立大学の教育効率の向上は注目に価する。国立大学としては再編整備により規模の適正化を図り、大学院博士課程を併設してより充実した教育・研究体制を確立しないかぎり、その存在意義を問われる事態ともなりかねない。

3-5 大学院の併設

後述するように、獣医学の学部レベルの職業教育に関しては、私立大学の学生定員が国立大学のそれに比して大きいが、大学院の教育・研究に関しては、これまでの実績に照らしても、国立大学にその重点がおかれるべきであろう。しかも新制度の大学院博士課程は昭和654月に発足していなければならず、概算要求などその準備についてはもはや一刻の猶予も許されない事態となっている。

臨時教育審議会二次答申(61.4.23)には大学設置基準の見直しと大学院の飛躍的充実、国際化などが強調されており、すでにこの路線の一部は昭和62年度予算案に具体化されつつある。今後、臨教審答申の線に治ってく大学及び大学院の改革が進められていくに際して、獣医学関係大学も学問の創造と人材養成に参与する高等教育機関のひとつとして存在する限り、学部段階の整備拡充を図るとともに大学院を併設して教員、研究者の育成、再生産に努めることが必須であろう。今日まで、獣医学領域においては、人材養成、とくに教員、研究者の育成、競争選抜原理にもとづいた補充が必ずしも円滑に行なわれてきたとはいえないが、その一因は国立大学の獣医学博士課程が2校(北大、東大)のみにしかなく、定員わずか24名にすぎないことにあり、教員、研究者の再生産の指標となる学位取得についても畜産学などの関連領域に大きく依存している現状である(資料7)。再編整備の機会に獣医学専攻大学院博士課程の定員増を実現し、内容を充実することが肝要であろう。併せて、特に学部の修業年限が45年にとどまっている東南アジアあるいは中東から、多くの国費、私費留学生を国立大学に受入れている現状を踏まえて、国立大学大学院としては、創造性、先導性とともに国際性を失なわないために、何らかのかたちで留学生が円滑に受け入れられる方途を講ずる必要があり、周辺の理解を強く求める必要があろう。

学部6年制の国立大学42医学科では学部学生定員4,400余名に対して博士課程定員2,300余名であり、歯学科(6年制)では学部学生定員840名に対.て博士課程定員300余名であることを勘案すれば、国立大学獣医学科の学部学生定員330名に対しては100余名の博士課程定員を持っても当然であり、再編整備後の各講座は全て大学院担当でなければならない。なお、講師以上の教員数でみると、国立42校の医学科は計約4,800名(平均約120名)であるのに対して、国立10獣医学科では計90名(平均約19名)にすぎない。因みに畜産学科(4年制)では国立17校中5校(北大、東大、名大、京大、九大)に博士課程を有し、定員は51名である。

再編整備に当たって、学問の創造と人材養成の機能を持つ高等教育・研究機関すなわち“大学”を指向するならば、臨教審答申に照らして大学院の併設が必須の要件であるが、大学院必置の理由として次のような事実も見逃してはならない。

現在、国立大学、特に博士課程を持つ大学の運営は校費のみならず、科学研究費あるいは寄付金に大きく依存している(資料8)。獣医学科では修士積上げ方式の施行により、大学院の定員増加を享受し、修士課程学生当たり積算校費分の増配を受けて今日に至っている。しかしながら昭和65年度から修士課程が廃止されると、学生1名あたりの積算校費は183,700円(修士)から53,300円(学部)すなわち3分の1以下になる。現在各教室または講座に平均約6名の修士12年次学生がいるとして、それが同数の学部56年次学生に置き換わることにより、講座単位では学生あたり積算校費は1,102,200円から319,800円に切り下げられることになる。加えて大学院担当教官あたり積算校費は現行の講座あたり約744万円から、学科目制に変わるので教授、助手各1名として約340万円、すなわち約2分の1となる。末端への予算配分方式は大学により異なるので、上記の影響が各大学でどのように処理されるかは一律にいえないが、いずれにせよ、修士課程の廃止にともない、教育・研究活動は予算面で深刻な打撃を受けることは避けられず、このことはすでに学校教育法第55条改正についての国会審議(58.5.1衆議院文教委員会)でも詳しく言及されている。なお、医学系(医学科・薬学科・衛生看護学科)の学部学生あたり積算校費は他の理科系よりやや高く57,700円であるが、これは学部6年制とは関係のない措置で、獣医学科が6年制ということのみでは該当理由とはならないと承知している。更に、教官個人としても大学院を担当しないときはその分の本俸加算額が減額となり、中堅教授(5-12)で月額15,670円、中堅助教授(4-14)で13,376円の滅額となろう。

いずれにしても、新制度の学部卒業生が巣立つ時点で、新制度の獣医学専攻の大学院が昭和654月から発足しなければならず、本来ならば学部レベルの再編整備の目途が立った上で大学院の骨格が定められるべきであろうが、現状ではそのような手順を踏む余裕はなく、現行制度の活用を含む変則的な出発を余儀なくされるかもしれない。このような厳しい背景から、ある程度の臨時措置の可能性なしとはいえないが、それによって旧制度が規模・内容ともに温存されることのないよう、充分な配慮が肝要であろう。

4 おわりに

以上、学校教育法第55条の改正(58.5.25)にともなう獣医学領域の学部教育6年制に対応するために必須の要件とされる、国立獣医学関係学部・学科の再編整備に関して、これまでの経過と当面の課題について述べた。現存する国公立大学の極めて小規模かつ貧弱な体制では:社会的要請によって拡大した専門領域の教育・研究には対応できないことは、すでに法律改正時(58.5.11衆議院文教委員会)でも特に問題とされたところである。再編整備は社会的要請にもとづくものであるから、それに対応すべく国公立大学獣医学協議会として文部省高等教育局長に申し入れた目標(60.3.20)に向かって、条件の整ったところから、充実した体制を速やかに確立し、社会の要請に応えられるよう関係者の格段の努力が期待される。

新しい獣医学教育制度に対応するためには、国立大学獣医学部・学科の再編が不可欠の要件であり、国立大学獣医学科の再編整備が“各大学問の合意が得られない”との理由で万が一にも回避されるならば、すでに指摘したように修士課程の廃止にともなって“現状”が消去されて現存の教育・研究環境が大きく揺らぎ崩れる危険も目前に迫っている。医学部のそれにならって狭い専門領域の講座を標榜しながら、現実には若手、中堅教官数の貧弱さ、科学としての基盤確立に必然とされる競争原理を生む可能性が極めて低い現体制の欠陥はおおうべくもないが、長年にわたり教育・研究に責任を負ってきた各大学教官の視点が、その基盤となってきた現存の組織をどのように新体制に組み込んでいくか、のみに向けられて、目指す新体制の論議に深く入れないでいる憾みなしとしない。しかし再編整備は現状否定にもとづく新体制への移行であり、現存体制のこれまでの獣医学の教育・研究への貢献を大きく評価しつつも、それを否定して社会的要請に対応できる新しい教育体制を具体化していく決断が必要である。

当事者の自覚と努力により、また周辺の温かい理解と協力が得られて再編整備が進行し、獣医学領域の後進達が理想高く、情熱に燃え、希望に満ちて、学業・研究に励める環境が一刻も早く実現されることを願ってやまない。

本稿をまとめるにあたり、資料の作製に御協力頂いた、波岡茂郎(北大)、亀谷勉(帯広畜大)、菅野弘(岩手大)、光岡知足(東大)、吐山豊秋(農工大)、杉村誠(岐阜大)、篭田勝基(鳥取大)、鹿江雅光(山口大)、江藤禎一(宮崎大)、森園充(鹿児島大)、荒川皓(大阪府大)各教授をはじめ、直接、間接に御協力頂いた多数の教官に心から感謝の意を表する。また、数多くの貴重な御意見、御示唆を頂いた文部省高等教育局技術教育課 小林敬治謀長、北川功二課長補佐、櫛山博係長に厚く御礼申し上げる。

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後 日 談(唐木)

ここに再録したいわゆる「藤原メモ」は、1) 6年制教育を実あるものにすること、そして、2) 修士課程消滅に対処し博士課程を設置すること、の2点を目的として、文部省の強力な後押しを得て行われた獣医学再編運動の昭和623月までの経緯を述べている。

昭和6211月に、この運動を根幹から揺るがす大事件が起こった。中曾根内閣が退陣し、竹下内閣が成立したのである。竹下新首相の「ふるさと創生」「首都1極集中まかりならん」との方針が出され、獣医学科の再編のための会談を行っていた農工大と東大の両学部長に文部省技術教育課長より次のような要請があった。すなわち、「竹下内閣の下で『地方分散』の方針がとられている現在、東京都心に獣医学科を統合するような動きは慎重に進めて頂きたい」。この連絡を契機に獣医学再編の機運は一気に沈静化し、文部省は「緊急避難」として連合大学院を設置し、今日に至っている。しかし、文部省は今日に至るまで再編整備の旗は降ろしていない。

 

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