USA TODAY FRIDAY 20003月17 (金)Dennis Cauchon

動物実験の廃止を迫られる獣医大学

動物愛護団体が獣医大学に学生実習への実験動物代替法導入を求める

 


 動物の権利保護を目的とする活動家らは、全国の獣医大学に対して学生実習のために動物の命を犠牲にすることを止めるように抗議を行ってきたが、その圧力はますます強まってきている。一部の獣医大学の学部長らによると、これらの抗議によりすでに外科学と生理学の授業では生きた動物を用いることは少なくなっており、これ以上実習に使う動物数を減らすと教育レベルの低下は避けられないところまできているという。

 動物保護活動家の中には大学で授業を担当している獣医師もいるが、動物を殺すことは非人道的で不要な行為であり、実習は自然死した動物の死体を利用するといった方法に代えるべきである、と言っている。

 この2ヶ月間で論争は拡大し、ハンガーストライキや座り込み、獣医大学の学生らの動物を犠牲にする授業へのボイコットにまで発展している。

アメリカにある27校の獣医大学の中で、ボストンの近郊のタフツ大学とウィスコンシン大学はいち早く実習を取りやめた。先月イリノイ大学では、獣医学部の専門課程1年目に行われていた動物の命を奪うような生理学の授業を一時的に中止することを決定した。他の大学では必修科目から実習をはずす一方、たいていの場合は外科のような選択科目の中にこのような実習を残している。

 アメリカ獣医大学協会(AAVMC)では年次総会でいくつかの会合を開き、このような批判への対応策を協議する予定となっている。総会は今日からワシントンで始まる。

 

長き伝統

 昔から獣医大学では外科手術や骨折の治療、その他様々な技術を学生に教えるために生きた動物を使ってきた。通常、実習に用いる時は動物に鎮静剤を与え、実習が終わると安楽死させる。

 最も一般的に使われる動物は犬と猫である。馬、羊、山羊、兎などの動物も実習後、殺処分する。大学関係者によれば、いずれにせよ実習に使われた動物は全て、安楽死させるとのことである。

 動物の権利保護活動家は、どういう運命にあるかということは関係なく、健康な動物を手術したり骨折させることが間違っているのだと言う。「動物を救い、治療家になろうとしている学生を教育しているのに、その教育過程で動物を殺すことを教えているのです」と、「動物の権利を守る獣医師の会」会長のテリ・バーナートは説明する。

 バーナートは大学が代替法を使いたがらない理由の一部に、経費の問題と不便さがあると言う。たとえば死体を使うと、冷凍保管する場所、事故や自然死による動物の死体を見つける手間がさらに必要となるからである。

 獣医学部の学部長や教授は、開業後に飼い主が連れてくる動物について一々勉強しなくてもいいように学生時代に外科を習得しておく必要があるのだと言う。彼らが特に指摘するのは、人を対象とする多くの内科医と違って獣医師はみな、外科の技術が必須になるということである。

 「動物愛護の活動家は私たちがいかにも残酷に動物を取り扱っているかのように言いますが、これには本当に憤りを覚えます。生きた動物を使うことは深く考え抜いた末の方法であり、これが最善の方法であるという時にしか使いません。外科学は経験によって身につく技術なのです。臓器に触れたときの感触や、動物はどのように出血するのかを学ぶ必要があります。こういうことは、教師の指導のもとに管理された状況下で学ぶことにより初めて理解しうるものなのです」と、オレゴン州立大学獣医学部のロバート・ヴァン・スーザン教授は言う。

 動物の権利保護活動家は、獣医学部の学生は死体を使うか、あるいは卵巣摘出や去勢を必要とする動物の手術を行うことで、たいていの外科手術を覚えることができると言う。

 論争はさらに混乱の相を呈しつつある。128日にオレゴン州立大学獣医学部のケルヴィン・クーン部長室で5人の活動家が警察に逮捕された。お互いの体を鎖でつなぎ、部長室に居座ったのである。その後も、活動家たちは同学部長の自宅前にピケを張った。

 「彼らは誤解しています。毎朝目がさめると自宅の前に抗議する人がいるというのは、うれしいものではありません。この問題はこれからも私たちについてまわるでしょうが、獣医学部の学生にとって最善のことをしていかなければなりません」と、クーン学部長は答えている。

 しかしこの抗議は、かなりの影響力があったようだ。オレゴン州で毎年殺処分されていた動物の数が約25%減って、犬40匹と猫15匹となった。また同大学では、毎年競売で馬を1頭購入し、実習に使用後、殺処分している。クーン部長は、この馬は大学が買い取らなければペットフードの原料として殺されるはずだったと説明している。

 

コンピュータによる模擬実験

現在、動物を犠牲にすることに道義的に反対している学生のために、ほとんどの大学では動物を殺すかわりにプラスッチク製の模型、コンピュータによる模擬実験や死体を使う代替法を用意している。これは1991年にオハイオ州立大獣医学部で、スーザン・クレプスバークの主張が認められて以来の大きな変化である。当時、クレプスバークは動物を犠牲にする授業に出席したくなければ大学に来る必要はないと、言われていた。彼女は訴訟を起こすと迫り、大学側の態度を軟化させた。「私が教育を受けるために、1匹の動物も死ぬ必要性はないのです。動物を殺さないと獣医になれないなら、獣医になりたいと思いません」と話すクレプスバークは、現在ウィスコンシン州のマディソンで犬と猫を診療する獣医師となっている。彼女はオハイオ州で実験用の犬を引き取って助けたことさえあった。学生の多くは動物犠牲にする実験に加わることを重荷に感じている。

「大学は口先では代替法に同意していますが、学生が代替法を望むと、ほとんどの教授や他の学生の反感を買うことになります」と、クレプスバークは言う。

代替法を使う学生は皆無か、あるいはいたとしても10%に満たないことから、獣医学教育の一部として動物を殺すことに反対しているのは、ほんとうに少数派なのだと学部長らは言う。

「ふつうの学生なら、代替法より実際の動物で実習をする方がいいということがわかるはずだ」と、ミズーリ大学獣医学部の准学部長であるカステンは言う。

 

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