国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部大臣説明
 
平成12年5月26日
 
1 はじめに
 
 本日は、ご多忙のところ、ご出席をいただき、御礼申し上げます。また、皆様方の日頃のご尽力に、深く敬意を表します。
 本日、皆様方にお集まりいただきましたのは、懸案となっております国立大学の独立行政法人化の問題について、文部省としての現時点での考え方と今後の方針をご説明するためであります。
 振り返りますと、この問題は、平成9年に発表された行政改革会議の最終報告に端を発しております。この報告は、行政機能のアウトソーシングや業務の効率化等の方策として独立行政法人制度の創設を提唱いたしましたが、国立大学についても、独立行政法人に移行することが、「大学改革方策の一つの選択肢となりうる可能性を有している」と指摘しました。
 その後、政府部内で、独立行政法人制度の具体的な制度設計の作業と対象事務・事業の選定が進められ、昨年4月には、89の国の事務・事業の独立行政法人化が閣議決定され、さらに、7月には、制度の具体的な内容を定める独立行政法人通則法が国会で成立しました。
 一方、国立大学の独立行政法人化については、昨年4月の閣議決定において、「大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る」とされました。つまり、この問題については、教育研究の充実を目指す大学改革の一環として考えるべきであること、また、大学にふさわしい制度設計が可能であるかどうかなど十分に時間をかけて慎重に検討する必要があること、の2点が、政府として公式に確認されたわけであります。
 文部省では、これを踏まえて、昨年8月以降、「今後の国立大学等の在り方に関する懇談会」を開催して、有識者の方々からご意見をいただいた上で、9月には、国立大学の学長及び大学共同利用機関の所長の皆様方にお集まりいただき、国立大学を独立行政法人化することの意義や、大学の自主性、自律性を踏まえた特例措置等の必要性、さらには、高等教育及び学術研究に対する公財政支出の拡充の必要性等を指摘し、独立行政法人化を検討する場合の基本的な方向をお示ししたことは、ご承知の通りであります。
 並行して、国立大学協会では、独立行政法人通則法をそのまま適用することには反対である、との立場を明らかにしつつ、第1常置委員会において、仮に独立行政法人化した場合の課題や対応の在り方について検討が進められ、また、各大学でも、熱心に議論が行われてきたと承知しております。
 また、今月、自由民主党から提言が公表され、「国立大学は、独立行政法人制度の下で、通則法の基本的な枠組みを踏まえつつ、一定の調整を行う調整法(又は特例法)の制定を含め、大学の特性を踏まえた措置を講じることにより、「国立大学法人」といった名称で独立行政法人化する」との方向が示されております。
 こうした動きを踏まえながら、文部省では、地区別の国立大学長会議を始め、多くの会議等に参加して、国立大学の幅広い関係者と意見交換を行い、また、その他の関係者からも意見を伺いながら、独立行政法人制度と国立大学との関係について検討を進めてまいりましたが、この際、文部省としての現時点での考え方と今後の方針を整理すべきであるとの判断に立ち、先般、改めて「今後の国立大学等の在り方に関する懇談会」を開催し、有識者の方々のご意見を伺ったところであります。
 
 
2 我が国の大学制度と国立大学
 
 独立行政法人化の問題を考える前提として、まず、我が国の大学制度と、その中での国立大学の位置付けについて、考えを述べたいと思います。
 よく知られております通り、欧米の主要諸国の大学は、主として国又は州の公費によって運営されており、また、設置形態別に整理すれば、国立大学又は州立大学が大きな割合を占めております。私立大学が比較的普及していると言われるアメリカにおいても、学生の7割近くは州立大学に在籍しているというのが実態です。
 他方、我が国の大学制度は、明治10年に最初の官立大学が設置されて以降、政府によって大学が整備される一方、国を挙げての近代化の取り組みの中で、戦前から、少なからぬ私立大学が、創立者の建学の精神に基づき設立され、育ってまいりました。戦後、新制大学への一元化や量的な拡大期を経て、国立、公立、私立という異なるタイプの大学が併存し、それぞれの特性を生かしながら、互いに補い、競い合って、全体としては極めて多様で柔軟な構造を持つ、我が国独自の大学制度が形成されて、今日に至っております。
 我が国の大学が、将来にわたって、教育研究の高度化を図りつつ、個性化を進めて、国民や社会の様々な要請に応えていくためには、このような多様で柔軟な構造は、今後とも維持されるべきであると考えております。
 また、私立大学が、我が国の教育風土の中で、諸外国に例がないほどの成長を遂げ、大学制度全体の充実、発展に果たしてきた貢献には、非常に大きなものがあります。その重要性にかんがみ、今後とも、建学の精神が十分に発揮され、教育研究の一層の進展が見られるよう、経常費助成の充実を始め、私立大学の一層の振興を図っていく必要があります。
 一方、我が国の大学制度において、国立大学は、国が直接の設置主体となり、安定的に国費が投入されるという特性を生かして、大規模な研究プロジェクトの推進、医師や教員など社会の要請に応じた政策的な人材養成などを展開してまいりましたが、特に次のような点に、その特色があります。 
 第1に、国立大学は、教育面での貢献とともに、我が国の学術研究と研究者養成の主力を担っております。研究内容も、社会の要請に即応する研究に加え、短期的には成果を予測しがたい先駆的な研究や基礎的な研究、社会的需要は少ないものの重要な学問の継承などにおいて、大きな役割を担ってまいりました。
 第2に、国立大学は、全国的に均衡のとれた配置により、地域の教育、文化、産業の基盤を支えてまいりました。学部学生数で見て、私立大学の75%が、いわゆる三大都市圏に集中しているのに対し、国立大学は、60%以上がその他の地域に立地しております。また、地方の国立大学は、各地域特有の課題に応じたユニークな教育研究の実施やその解決にも、貢献してまいりました。
 第3に、国立大学は、学生が、経済状況に左右されることなく、自己の関心や適性に応じて、分野を問わず大学教育を受ける機会を確保する上で、大きく貢献してまいりました。
 もちろん、こうした役割や機能は、国立大学だけに限られるものではなく、国公私立の大学の役割や機能は、時代の変化や社会の要請などを踏まえて変化するものであり、固定的にとらえるべきではないと考えております。また、期待される役割や機能に照らし、国立大学の在り方そのものも、常に問い直していかねばなりませんし、これまでも幾多の改革を重ねてまいりました。
 
 
3 国立大学の改革の経緯
 
 戦後、我が国の国立大学は、1県1大学等の方針の下に、新制大学として一元化されるなど、大きな変革を遂げました。新制大学の発足直後の混乱期を経て、昭和30年代以降は、高度経済成長や国民の進学意欲の高まりなどを背景に、理工系分野の拡充、医科大学の全国的な整備、新構想大学の設置など、一連の整備が進められてまいりました。
 これは、私学では対応し難い分野や地域を中心に、国立大学の拡充整備を進めたものでありましたが、いわゆる大学紛争以降は、紛争を通じて顕在化した国立大学の課題に対処するため、従来とは異なる新しい構想に基づく大学を整備することにより、国立大学改革の先導役を期待するという側面を、併せ持つものでありました。
 一方、国立大学の設置形態の問題については、国の行政機関として位置付けられているために、大学運営の自主性、自律性に限界があるといった問題意識から、昭和30年代の末頃から、各方面より、多種多様な法人化論が提起されるようになりました。
 その中には、法人化を国立大学改革の選択肢の一つとして位置付けた中央教育審議会の昭和46年の答申も含まれておりましたが、こうした提案は、多くの議論を招きつつも、世論や関係者の広範な支持を必ずしも得られず、現実の政策課題として具体的な検討に至ることはありませんでした。
 その後、昭和50年代に入って、経済成長が鈍化し、さらに、いわゆる臨調行革路線による国立大学の新増設の抑制、受益者負担の強化といった傾向が定着するにつれ、昭和30年代以降の拡充整備を通じた改革路線を進めることが、困難な状況となってまいりました。
 そうした中、昭和59年に設置された臨時教育審議会は、国立大学の改革の方向性を「自主・自律体制の確立」と「教育研究の特質に応じた柔軟・活発な運営」に求めました。その手法の一つとして、国立大学の特殊法人化についても検討されましたが、慎重な検討を要する問題であり、俄には結論を導き難いとして、当面、現行の設置形態を維持しながら、「行財政的諸規制を大幅に緩和・弾力化する」との方針を示しました。ただし、同審議会は、国立大学の抜本的な改革のためには、将来に向けて国立大学の設置形態そのものについて検討を加える必要性があることを、併せて指摘しております。
 この臨時教育審議会の答申以降、今日まで10年以上にわたり、国立大学の改革は、「自主・自律体制の確立」と「教育研究の特質に応じた柔軟・活発な運営」の実現を改革の方向としつつ、「行財政的諸規制の大幅な緩和・弾力化」をその手法として進められたと言ってもよいかと思います。
 具体的には、大学審議会の答申等を受け、大学設置基準の大綱化、大学院制度の弾力化を始め、人事、会計、組織など制度全般にわたって規制の緩和を進めてまいりました。また、平成11年には、学校教育法等を改正し、大学紛争以来の懸案であった国立大学全体を通じた組織運営体制の整備が実現されたところであります。
 
 
4 国立大学の新たな改革の可能性
 
 臨時教育審議会及び大学審議会による改革路線は、現行の設置形態の枠組みの中での改革として、多くの成果を納めてまいりましたが、10年以上にわたる行財政的諸規制の緩和のための取り組みは、現行設置形態に由来するところの改革の限界点をも、徐々に明らかにしております。
 例えば、予算面では、国の行政組織の一部である以上、予算の単年度主義や費目間流用の原則禁止の壁は、極めて厚いと言わざるを得ません。給与や服務など人事面の諸規制は、公正、中立を旨とする公務員制度の性格上、現行のままでは規制緩和が非常に困難な領域であります。さらに、組織編成の面でも、国の機関である以上、組織の設置改廃や定員管理を担当官庁の審査対象から除外する、といった抜本的な改革を実現することは、極めて困難であります。国立大学が法人格を持たず、権利・義務の主体となり得ない組織である以上、意思決定や財政の使途等において裁量権を制限されているのは、当然ということになります。
 また、そもそも、国立大学が、国の行政組織の一部、言葉を換えれば、いわば文部省の附属施設(施設等機関)として位置づけられている以上、規制緩和を進めたとしても、文部大臣の広範な指揮監督権の下に置かれる状況には変わりはなく、国立大学の運営の自主性、自律性と自己責任の範囲が、依然として不明瞭なままであることも否定できません。
 一方、国立大学を取り巻く社会の情勢に目を転じてみますと、グローバル化、情報技術革命、少子高齢化といった時代の大きなうねりの中で、戦後の我が国の発展を支えたシステムや考え方の多くが、時代に適合しないものとなり、「次なる時代」への改革が迫られております。このため、「知」の再構築が求められ、人材養成と学術研究を通じて社会の発展を支えてきた国立大学に対しても、各界から、かつてないほどの大きな関心と期待が寄せられるとともに、運営の効率性を高め、国際的な通用性を重視し、世界的水準の教育研究を展開し、さらにリードしていくことが、強く要請されております。
 21世紀の大学像を今後の改革方策とともに提言した平成10年10月の大学審議会答申は、今後の大学の在り方として、学生や社会の要請等に的確に応えられるように教育研究システムを柔構造化すること、教育研究の質的向上に主体的に対応し、適時適切に意思決定を行うなど、開放的で積極的な自主・自律体制を構築すること、そして、教育研究の不断の改善を図りつつ、各大学の個性化等を進めるため、多元的な評価システムを確立することを求めております。つまり、21世紀においても、大学が、真の自主性、自律性を確立し、自己責任を全うするための取り組みが、引き続き大きな課題として位置付けられているところであります。
 このような状況の中で、今回、大学改革の方策として、また、行政改革に資するものとして、国立大学の独立行政法人化の問題が提起されたところであります。従来の行財政的諸規制の大幅な緩和・弾力化という改革手法に限界が見える中で、大学の教育研究システムや組織運営の自主性、自律性や自己責任を大きく前進させ、世界的水準の教育研究を展開していくためには、今こそ、国立大学にふさわしい形での法人化の可能性について、真剣に検討する時期にある、と受け止めるべきではないでしょうか。
 
 
5 独立行政法人制度の目的と国立大学
 
 法人化を検討するに当たっては、まず、現在、提起されている独立行政法人という制度が、果たして国立大学にふさわしい制度であるかどうかを十分に吟味しなければなりません。そのため、まず、行政改革会議の最終報告や独立行政法人通則法などに照らして、この制度の目的と国立大学との関係について考えてみる必要があると思います。
 第1に、独立行政法人制度は、「民営化することが難しく、公共上の見地から確実に実施される必要がある事業を主たる対象とする制度である」という点であります。このため、各独立行政法人の予算は、独立採算制ではなく、国の予算における所要の財源措置が前提とされ、移行前の公費投入額を十分に踏まえて、運営費交付金等を措置することとされております。
 このことは、非常に重要な点であり、国立大学は、独立行政法人化後も、使途を特定されない運営費交付金等を受けて、その果たすべき役割や機能を実現していくことが可能であると考えております。
 なお、独立行政法人化によって、地方の国立大学や基礎的な教育研究の分野などが、深刻な影響を受けるのではないか、との不安を耳にすることがあります。この点については、独立行政法人制度の下では、独立採算性ではなく、国から運営費交付金等の財源措置がなされることが前提とされ、さらに、その他の競争的な資金の拡充とオーバーヘッド制度の導入を進めることにより、地域や分野を問わず、各大学において、バランスのとれた教育研究環境の整備を図ることができると考えております。地方分権が進む中で、国土の均衡ある発展を図るためには、各地域において大学が果たすべき役割が、ますます重要になるものと考えており、こうした点を踏まえた対応が必要であります。
 第2に、独立行政法人制度は、「行政機能をアウトソーシングするため、政策の企画立案機能と実施機能とを分離する制度である」という点であります。アウトソーシングという点では、国立大学における教育研究は、必ずしも国の行政機関が自ら行うべき事業とは言えず、その質的な充実のために、よりふさわしい制度が可能ならば、これを追求する必要があることは、過去の国立大学の法人化論を持ち出すまでもありません。
 一方、企画立案機能と実施機能の分離という点については、この制度は、主務大臣の各法人に対する監督、関与を限定し、業務運営の自主性に十分配慮しつつ、中期目標の指示や中期計画の認可等を通じて、国が企画立案した方針が、各法人の運営に反映される仕組みとなっております。
 この点、国立大学は、私立大学と異なり、国の意思に基づいて設置され、主として国費によって支えられてきたことから、これまでも、全国的な地域バランス、重点的な人材養成、基礎研究その他特定分野の振興など、国全体としての高等教育政策や学術政策を踏まえつつ、各大学において主体的な取り組みが進められてきました。これは、大学の教育研究活動は、教育研究者の自由な発想や、大学人自身による企画立案が尊重されることによって、はじめて真に実りある展開と発展が見られるものである、という教育研究の特性に由来するものであると考えております。
 そして、このような国と国立大学との関係は、独立行政法人制度の下においても、互いの責任の範囲をより明確にしつつ、基本的には維持されるべきものと考えており、したがって、国立大学を独立行政法人化する際には、大学の教育研究の特性を踏まえ、大学の主体性を尊重するための一定の調整を図ることが、不可欠であると考えております。このことは、教育研究の方針、内容、方法はもとより、その質的充実を図るための評価、教育研究を実施する教員の人事、これらに関する組織としての意思を決定し、実行する組織運営について求められるものであります。
 第3点は、独立行政法人制度は、「規制を緩和し、その機関にふさわしい組織や運営の形態を追求して、業務の効率性の向上や透明性の確保を図る制度である」という点であります。
 言うまでもなく、業務の効率性や透明性の向上は、いかなる組織においても当然に求められるものであり、国立大学とて例外ではありません。
 ただし、大学の教育研究の効率性とは、需要と供給の市場原理に委ねれば必ず実現されるとの保障はなく、むしろ、第三者による客観性や専門性の高い評価と、評価結果を踏まえた適切な資源配分を通じて高められる点に、一般の企業活動などとの大きな違いがあると考えております。したがって、独立行政法人制度の下において、大学のこのような効率性や透明性の向上に寄与する組織や運営の形態を追求できるかどうかを、十分検討していくことが必要であります。
 この点、独立行政法人制度は、基本的には、市場原理ではなく、評価システムを前提とした制度でありますが、さらに、その評価システムが、大学にふさわしいものとなるかどうかを考えていかねばなりません。
 他方、予算執行、組織編成、定員配置、給与決定などの面で規制を緩和し、組織や運営の自主性、自律性を拡大することを制度設計の工夫によって可能とするというこの制度の長所は、単に経営面だけでなく、大学の教育研究の多様な展開と発展を図るということについても、十分活かしうるものであると考えております。
 
 
6 国立大学の独立行政法人化についての考え方と今後の方針
 
 以上申し上げた諸点を踏まえ、文部省としては、国立大学の独立行政法人化については、現時点で、次のように考えております。
 まず、独立行政法人制度は、この制度の目的や、冒頭に触れましたような国立大学の特性や、役割、機能に照らして、国立大学についても十分適合するものであると考えております。
 また、独立行政法人制度は、日常的な国の規制が緩和されることにより、透明性の高い手続きの下に、国立大学の自主性、自律性を大幅に拡大し、教育研究の柔軟、活発な進展を図ることが期待できる制度であります。
 例えば、国からの運営費交付金は、使途の内訳が特定されず、また、年度間の予算の繰り越しも可能となりますので、各大学の教育研究活動の実態に即した弾力的な予算執行が実現します。また、講座や学科などの教育研究組織の編成や教職員の配置は、毎年度の概算要求や担当官庁の審査を経ることなく、学内での検討と手続きによって、社会の需要に応じた適時適切な見直しが可能となります。
 さらに、自主性、自律性の拡大により、各大学の個性化が進展し、様々な特色を持った多様な大学が併存することを通じて、社会の多様な要請に応えるとともに、互いに切磋琢磨する環境が創出され、個々の大学はもとより、我が国全体の教育研究の進展が期待されると考えております。
 このような考え方に立ち、文部省としては、今後、独立行政法人制度の下で、大学の特性に配慮しつつ、国立大学を独立行政法人化する方向で、法令面での措置や運用面での対応など制度の内容についての具体的な検討に、速やかに着手したいと考えております。
 その際、独立行政法人通則法をそのまま国立大学に適用した場合には、大学が本来有するところの教育研究システムや組織運営の主体性が損なわれるおそれがあり、また、大学の教育研究の効率性の向上に適切に結びつかない面もあることから、このような点については、大学の教育研究の特性を十分踏まえ、自主性、自律性を実質的に拡大することにより、教育研究の進展に寄与することができるよう、通則法との間で一定の調整を図ることが不可欠であると考えております。
 特に、法令面については、例えば、主務大臣による長の任免、教員人事、中期目標、中期計画、評価、組織運営などについて、調整法あるいは特例法による対応を含め、通則法には直接に定められていない事項を整備するなど、大学の教育研究の特性を踏まえた幅広い検討が必要であります。
 検討の進め方としては、「今後の国立大学等の在り方に関する懇談会」の下に調査検討会議を開催し、この調査検討会議には、国立大学の関係者や公私立大学、経済界、言論界など幅広い分野から有識者の方々にご参集いただいて、多面的、多角的にご議論いただきたいと考えております。
 具体的な検討課題や方向性については、昨年9月にお示ししたところでありますが、例えば、組織運営面では、組織運営の基本的な在り方、経営面での体制強化の方途、中期目標・中期計画・評価の内容、方法などについての検討が必要であります。人事面については、学長を含む教員人事や事務局人事の在り方、弾力的な給与の仕組みなどが課題となります。財務会計面では、国からの運営費交付金等の措置の在り方、企業会計原則の適用の方途、特別会計の借入金の返済や長期的な施設整備の仕組みなどについて検討を行い、さらに、これらを踏まえた法人の名称や移行方法などが課題になると考えております。
 このように、検討課題は、極めて広範多岐にわたることから、検討を終えるまでには、相当の時間を要するものと考えておりますが、平成13年度中には、調査検討会議としてのとりまとめをお願いしたいと考えております。
 文部省としては、調査検討会議のとりまとめを踏まえ、独立行政法人化後の大学の在り方について、最終的な結論を得たいと考えております。
 
 
7 教育研究の高度化のために
 
 以上、国立大学の独立行政法人化の問題について、文部省としての現時点での考え方と今後の方針を述べてまいりましたが、関連して、大学共同利用機関についても一言申し上げます。
 大学共同利用機関は、全国から第一線の研究者が参画する開かれた共同研究の拠点として、学術研究の最先端に立って、研究と教育を一体的に推進してまいりました。その運営は、大学と同様、自主性、自律性と自己責任に基づくものであり、したがって、今後、国立大学に準じて、独立行政法人化する方向で、検討を進めていきたいと考えております。具体的には、先に申し上げた調査検討会議に、大学共同利用機関の関係者の方々にも参画いただき、調査検討会議の場で、大学共同利用機関の特色を踏まえつつ、国立大学に準じた検討を進めていきたいと思います。
 なお、公立大学についても、関係者の意見を伺いながら、国立大学に準じた対応を検討する必要があると考えております。
 最後に、国立大学の独立行政法人化の問題の発端となった行政改革会議の最終報告の中から、次の一節をご紹介したいと思います。
 「21世紀日本を展望するとき、われわれは、新たな叡智の広がり、すなわち学問や研究教育、さらには我が国独自の文化の継承・醸成そして発信といった価値の重要性にあらためて思いをいたさざるを得ない。21世紀日本は、学問や文化を通じての国際社会への価値の発信を最重要課題のひとつとし、研究教育環境の充実に格段の努力を傾注すべきである。」
 これは、最終報告の冒頭で、行政改革の理念と目標を述べている中での一節であります。行政改革を進める中にあっても、21世紀の我が国が、世界のフロントランナーとして、国際社会に価値を発信し、知的リーダーシップを発揮していくことの大切さ、そして、そのために大学が果たすべき役割の大きさを、改めて痛感せざるをえません。「次なる時代」に向けて、「新たなる大学改革」に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
 また、国際社会に向けて我が国独自の価値を発信していくために、個々の大学等の枠組みを超えて、我が国の高等教育や学術研究の在るべき姿を長期的な視点から展望し、学問分野のバランスや重点的に振興すべき領域などについて、国全体の視野から議論しうるような場を設けることを考えていきたいと思っております。
 同時に、大きな役割を担う我が国の大学が、国際的な競争力を備え、高めていくためには、これを支える公的投資の拡充が必要不可欠であります。この点については、大学審議会の答申においても、我が国の高等教育に対する公的投資が、欧米の主要諸国に比べて著しく低い状況にあることを踏まえ、これらの諸国並みの水準に拡充していくことの必要性が指摘されているところであり、今後、適切な評価に基づく競争と、効率的な運営に留意しつつ、国公私立大学等に対する公的投資の拡充に向けた積極的な取り組みを進めてまいる所存であります。

 皆様方のご理解とご協力をお願い申し上げ、私の説明といたしま。

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