国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部大臣あいさつ

                                         平成11年9月20日



1 はじめに

 本日は、ご多忙のところ、当会議にご出席をいただき、御礼申し上げますととも に、皆様方の日頃のご尽カに深く敬意を表します。
 本日、皆様方にお集まりいただきましたのは、国立大学の独立行政法人化の問題 について、文部省における検討の状況をご説明するためであります。この問題につ いては、本年4月の閣議決定により「大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環 として検討し、平成15年までに結論を得る」とされ、これを受けて、6月に開催 いたしました国立大学長会議において、私のあいさつの中で「文部省としては、各 大学における改革の状況を見つつ、教育研究の質の向上を図る観点に立って、でき る限り速やかに検討を行ってまいりたい」と申し上げたところであります。
 その後、文部省においては、「今後の国立大学等の在り方に関する懇談会」を5 回にわたって開催し、協カ者の方々からご意見をいただきながら、検討を続けてま いりましたが、このたび、国立大学を独立行政法人化する場合に、国立大学の教育 研究の特性を踏まえ、組織、運営、管理など独立行政法人制度の全般について所要 の特例措置等を検討する際の基本的な方向を整理するに至りました。
 その内容については、後ほど、高等教育局長より説明させますので、どうかお聴 き取りいただきたいと存じますが、その説明に先立ちまして、この問題についての 私の考えを述べたいと思います。

2 独立行政法人化の検討の親点

 まず、国立大学の独立行政法人化の問題を検討する際に、いかなる観点に立って 検討を行うべきかという点についてであります。
 申すまでもなく、大学は、未来を拓く新しい知を創造するとともに、社会の各分 野で活躍しうる優れた人材を養成するなど、知的活動によって社会をリードし、そ の発展を支えるという重要な役割を担っております。このような大学における教育 研究活動は、教育研究者の自由な発想の下、長期的な展望に立って、大学自らが企 画立案し、実施することにより、はじめて真に実りある展開と発展が見られるもの であります。すなわち、教育研究を含む国立大学の運営については、自主性・自律 性と自己責任を基本として行われるべきものであります。
 このような考え方から、昨年10月の大学審議会答申においても、今後の大学改 革の在り方として、世界的水準の教育研究を展開するために、@学問研究の動向や 社会的要請等に応ずることができるよう、教育研究システムを柔構造化すること、 Aまた、それを可能とする責任ある意思決定と実行システムを確立すること、Bさ らに、不断の教育研究の改善を促すための多元的な評価システムを構築することに ついて、それぞれ必要性と具体策が指摘されております。
 したがいまして、国立大学の独立行政法人化を検討するに当たっては、これと同 様の考え方に基づき、国立大学を独立行政法人化することによって、@教育研究及 びそれを支える意思決定と実行の仕組みや人事・財務等における大学の自主性・自 律性が確保され、さらに拡充することができるものであるかどうか、A長期的な展 望に立って教育研究を展開できるものであるかどうか、B教育研究に直接携わる教 員について、自発性や主体性が十分に担保されるものであるかどうか、C教育研究 の自主性・自律性を保障するため、教育研究に対する評価が、国によるのではなく、 大学関係者等によって専門的見地から行うことができるものであるかどうか、Dそ して、世界的水準の教育研究を行い、期待される役割を十分に果たすことが可能な 条件整備が図られるものであるかどうか、といった観点からの検討が必要であると 考えております。
 現在、独立行政法人通則法及び中央省庁等改革の推進に関する方針(いわゆる本 部決定)によって明らかにされております独立行政法人制度は、先に述べましたよ うに、大学自らが教育研究の制度設計をし、これを実現するという大学の特性を踏 まえたものではなく、そのままでは国立大学にふさわしいものと言うことはできな いと考えております。
 したがって、国立大学の独立行政法人化を検討するに当たっては、大学という教 育研究機関に必要かつ相当な特例措置等を、以上申し上げたような観点に立って講 ずることが必要不可欠であります。

3 法人格の取得

 次に、そのような特例措置を講ずることをいわば当然の前提として、現行制度と 独立行政法人制度とを比較した場合、独立行政法人化することについて、どのよう な意義が認められるかという点についてであります。
 その第1は、国立大学が自主性・自律性を高め、自己責任を果たすためには、で きる限り自らの権限と責任において大学運営ができるよう、欧米諸国の大学と同様、 法人格を持つことが適当である、という点であります。
 これまで、国立大学には、他の行政分野に比べて、教育研究の実施や教員人事等 の面で一定の自主性・自律性と自己責任が認められてきましたが、国家行政組織の 一部にとどまる限り、文部大臣の広範な指揮監督権が及ぷため、その自主性・自律 性と自己責任には、自ずから限界があります。
 このため、昭和40年代以降、国立大宇の設置形態を巡り様々な議論が行われて きましたが、昭和62年の臨時教育審議会第3次答申は、当面、国立大学に対する 諸規制の大幅な緩和を進めることとし、将来に向かって設置形態についての抜本的 な検討を行う必要性を指摘しました。その後、この答申を受けた大学審議会の諸答 申を踏まえ、大学設置基準の大綱化・弾カ化など諸規制の緩和が進められるととも に、自己点検・評価が実施され、また、大学の組織運営の改善が図られるなどして 大学改革が進行し、今日に至っていることは、皆様方もご承知のとおりであります。  しかしながら、今後、国立大学が、さらに自主性・自律性を高め、自己責任を社 会に対して全うするためには、国家行政組織の一部ではなく、自ら権利・義務の主 体となって、できる限り自らの権限と責任において大学運営に当たることが望まし く、その意味で、国立大学に独立した法人格を持たせることが適当であるというこ とは、否定できないと考えております。
 因みに、欧米諸国においても、国立大学や州立大学を含め大学には、独立した法 人格が付与されているのが一般的であると承知しております。

4 自主性・自律性の拡大


 意義の第2は、大学の自主性・自律性の拡大という点であります。
 文部省では、国立大学の自主性・自律性を高めるために、これまでも教育研究面 や人事・会計面などについてある程度の弾カ化を図ってまいりましたが、教育研究 の特性に応じたさらなる柔軟化が必要であると考えております。
 一方、独立行政法人制度は、行政の一端を担い、公財政支出に支えられることか ら、各法人に対する国としての必要最小限の関与が予定されています。具体的には、 国による事前関与として、主務大臣による中期目標の指示や中期計画の認可が行わ れ、また、国による事後チエックとして、評価委員会による評価や主務大臣による 検討が行われますが、これらは、いずれも独立行政法人の自主性・自律性を保障す る上での前提となるシステムであります。国立大学の教育研究の特性を踏まえ、こ れらに関し必要かつ相当な特例措置等を講じた上で、独立行政法人化する場合には、 次のようなことが初めて可能になるものと考えております。
 その第1点は、内部絹織について、各法人の長が決定するとされていることから、 教育研究組織について、学部・研究科など教育研究を実施する基本組繊を除き、各 大学が主体的に決定、変更、改廃することが可能となります。その結果、学科や専 攻等については、大学限りで時宜にかなった整備ができるようになる点であります。  第2点は、教職員定員がいわゆる総定員法等の法定定員制度の対象外となるため、 中期計画における人件費の見積りがあるとはいえ、各大学において、機動的かつ柔 軟な教職員の配置が可能となる点であります。
 第3点は、給与が、いわゆる給与法等の適用の対象外となり、各大学において給 与の支給基準を定めることになるため、優れた教員の招聘等に資する教職員の業績 等に応じた弾カ的な給与決定が可能となり、また、給与決定の迅速化が図られる点 であります。
 第4点は、国からの運営費交付金は使途の内訳が特定されないため、費目等によ る予算執行上の制約が解消され、教育研究活動の実態に応じた弾カ的な予算執行が 可能となる点であります。また、次年度への繰り越しも容易に可能となります。
 なお、各大学の自主性・自律性が拡大すれば、それに伴い、各大学の運営責任も 当然に重くなります。このことを関係者の皆さんに深く認識いただくとともに、各 大学の運営体制について、教育研究の効果的・効率的な実施に向けて、機動性や責 任性を高めるなど、学長のリーダーシップの下に、適時適切な意思決定を行い実行 できるものに見直し、工夫していく必要があると考えております。また、関連して、 学長の選考方法についても、現行の教育公務員特例法の規定の趣旨を踏まえ、評議 会により実質的な学長選考が行われる方向で検討がなされる必要があると考えてお ります。

5 個性化の進展

 意義の第3は、各大学の個性化の進展という点であります。
 大学の自主性・自律性が拡大することにより、各大学は、教育研究や教職員配置 など大学運営全般について、これまで以上に自由な制度設計が可能となり、各大学 の個性化の一層の進展が期待されます。さらに、個性化の進展により、教育や研究 等の面で様々な特色をもった多様な大学が併存することを通して、お互いに切磋琢 磨する環境が創出され、教育研究の多大な進展が期待されます。
 但し、このような期待は、大学に対する十分な公的資金の投入があって始めて可 能となるものであると考えております。独立行政法人制度は、独立採算制を前提と するものではないとされておりますが、さらに高等教育及び学術における国の責任 の範囲をどう考えるかという点も考慮すべきであり、我が国の高等教育及び学術へ の投資が欧米諸国に比して著しく低い状況にあることに留意する必要があります。
 また、この点に関連して、欧米の最高峰と目すべき一部の大学が、永年にわたっ て築き上げた巨額の基金を有することにより、教育研究の安定的かつ意欲的な遂行 を可能としていることについては広く知られているところであります。我が国にお いても、財政的な基盤の充実のために各大学が積極的な努カを払うことは当然であ りますが、同時に、国が果たすべき役割には大きなものがあると考えております。
 いずれにせよ、我が国の大学が世界の大学に互して世界的な教育研究を推進して いくためには、公的資金の拡充、特に施設の老朽・狭隘の解消と、教育研究に対す る適正な評価に基づく競争的資金の充実等に向けた取り組みが不可欠であります。
 なお、多額の公的資金の投入と更なる拡充に応じて、各大学におかれては、大学 運営に当たって、教育研究に関する高い識見のみならず、優れた経営感覚をもって 臨んでいただくことが大切であると考えております。

6 大学共同利用機関

 以上、国立大学の独立行政法人化の問題について、私の考えを申し述べてまいり ましたが、関連して、大学共同利用機関について一言申し上げます。
 大学共同利用機関の独立行政法人化については、本年4月の閣議決定において「他 の独立行政法人化機関との整合性の観点も踏まえて検討し、早急に結論を得る」と されているところであります。
 大学共同利用機関は、個々の大学の枠を越え、全国の大学から研究者が集って共 同研究等を推進する機関として、大学と同様、研究者の自由な発想の下に、自主性 ・自律性と自己責任を基本として運営されるものであります。
 したがいまして、大学共同利用機関の独立行政法人化の検討に当たっては、基本 的には、国立大学と同様の観点から検討を行い、国立大学に準じて必要かつ相当な 特例措置等を講ずることが必要であると考えております。

7 おわりに

 終わりに、国立大学の独立行政法人化の問題に関連して、国家公務員の定員の削 減との関係について申し述べたいと思います。
 本年4月の閣議決定により、国家公務員の定員は、「平成13年からの10年間 で少なくとも10パーセントの削減を行うとともに、独立行政法人化等により25 %の削減」を行うこととされております。その詳細については、内容、手続きとも になお未確定でありますが、今後の作業の見通しとしては、従来の定員削減計画の 例によれば、平成12年度の早い時期には一定の方向性が明らかになるものと考え られます。
 本来、独立行政法人化の問題は、「大学改革の一環として検討」するものであり、 世界的水準の教育研究を目指し、これを実現すべき大学の設置形態としてふさわし いかどうかという観点から検討すべきであり、国家公務員の定員削減問題とは、切 り離して検討を進める必要があると考えております。
 しかしながら、国家公務員の一律の定員削減が国立大学に適用される場合には、 国立大学の教育研究に甚大な影響を及ぼすことは否定できないところであり、この 問題に適切に対応し、遺憶なきを期するためにも、国立大学の独立行政法人化の問 題の検討を急いできたところであります。
 いずれにせよ、国立大学の独立行政法人化については、国立大学における教育研 究の特性に十分に配慮した特例措置等の実現が当然の前提であり、本日、その検討 を行う際の基本的な方向をお示ししたところであります。今後、国立大学協会をは じめ関係者のご意見を伺いながら鋭意検討を進め、平成12年度のできるだけ早い 時期までには、講ずべき特例措置等の具体的な方向について結論を得たいと考えてお ります。制度の詳細については、その後、十分に時間をかけて慎童に検討していく 必要があると考えております。どうぞ、存分にご議論、ご検討いただきたいと存じ ます。
 皆様方のご理解、ご協カをお願い申し上げまして、私のごあいさつとさせていた だきます。

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