以下は自民党麻生委員会の提言で、今後の文部行政はこの方針に従って行われるものと思われる。


提言 これからの国立大学の在り方について   平成12年 3月30日

文教部会・文教制度調査会教育改革実施本部高等教育研究グループ
 
自由民主党政務調査会 文教部会・文教制度調査会合同会議(部会長 栗原裕康衆 院議員、会長 森山眞弓 衆院議員)は3月30日、教育改革実施本部高等教育研究 グループ(主査 麻生太郎 衆院議員)の策定した以下の提言を了承した。

はじめに
 国立大学の在り方が問われている。きっかけは独立行政法人化の問題である。政府 は、平成15年までに、国立大学の独立行政法人化の問題を検討し、結論を出すとし ている。しかし、この問題が「大学改革」ではなく「行政改革」の議論の中から提起 されたことに、関係者は強い警戒感と不信感を隠さない。大学に「独立行政法人」と いう名称を冠することへの違和感を指摘する声も少なくない。
 高等教育、学術研究は、一国の国力の源泉である。国立大学の在り方は、わが国の 高等教育、学術研究の将来像、ひいては、わが国の未来を左右しかねない重大な問題 である。だからこそ、われわれは、国の行政機関としての国立大学の在り方、すなわ ち「高等教育行政」について論ずる前に、まず、国としての「高等教育政策」の在り 方について論ずるべきである。
 こうした認識に立ち、本グループは、発足以来、大学関係者や学識経験者から計5 回にわたってヒアリングを実施し、幅広い観点から精力的に研究を進めてきた。その 成果として、まず、今後の高等教育政策の在り方について基本的な提言を行い、その上で、焦点である国立大学の在り方について、運営、組織編成、独立行政法人化の諸 点について、具体的な提言を行うこととする。
 なお、この提言は、当面の課題である国立大学の独立行政法人化を中心に整理した ものであり、その他の重要課題については、引き続き時間をかけて検討を行う必要が ある。

1.今後の高等教育政策の在り方
 現在、われわれは、21世紀を輝ける時代とするため、「教育立国」と「科学技術 創造立国」の2つの目標を掲げている。教育も科学技術も、国家発展の基盤であり、 原動力である。豊かな教養、優れた創造力、高い倫理観、自立した精神、健全な社会 性など、「人づくり」のテーマは尽きない。わが国の科学技術の遅れに対する危機 感、焦燥感も各界から指摘されつつある。
 そうした中、高等教育と学術研究の双方を担う大学の役割と責任は、極めて重大で ある。わが国や世界の未来を担う多様な人材の育成、社会を動かす新しい知の創造、 貴重な文化の継承など、大学に対する期待はますます高まっている。大学が、本来、 自律的な存在である以上、まず、大学人一人一人に、強い自覚を求めたい。その上 で、21世紀のわが国の大学が目指すべき「3つの方向」と、それを実現するための 高等教育政策の「3つの方針」を提言する。
 まず、大学が目指すべき方向の第1は、「国際的な競争力を高め、世界最高水準の 教育研究を実現する」ことである。わが国の大学の国際的な評価については様々な見 方があるが、教育、研究とも必ずしも十分に満足できる状況とは言いがたい。あらゆ る分野のグローバル化が進む中で、大学が、わが国の発展を支え、教育研究の分野を 通じて世界に貢献していくためには、まず、国際的な競争を明確に意識し、世界最高 水準の教育研究を目指すべきである。
 方向の第2は、「大学の個性化・多様化を進める」ことである。国公私立合わせて 600を超す大学が、画一的な大学である必要はなく、それぞれの特色を生かし、研 究重点大学、教育重点大学、教養型大学、実践的な職業人の養成大学など多様なタイ プの大学があってよい。個性化、多様化は、序列意識の解消にもつながる。これから の時代は、大学の個性こそが高く評価されるべきである。
 方向の第3は、「教育機能を強化する」ことである。わが国の大学教員の関心は、 ともすれば研究に偏り、教育面がおろそかになる面があったことは否定できない。近 年、カリキュラム改革や教授方法の改善の取り組みが見られる点は評価できるが、大 学教育のユニバーサル化が進み、学力低下の問題も指摘される中で、社会性や倫理 観、道徳観の涵養にも留意しつつ、大学の有する教育機能を、学生の立場に立ってさ らに重視し、その強化を図るべきである。
 大学が目指すべき「3つの方向」を実現するために、今後とるべき高等教育政策の 方針の第1は、「競争的な環境を整備する」ことである。教育、研究、大学運営をめ ぐる競争的環境の中でこそ、大学の個性は磨かれ、国際的水準の大学も育まれる。大 学に市場原理をそのまま適用することには慎重であるべきだが、適切な評価に基づく 健全な競争は、大学の発展に不可欠な要素である。もちろん、評価が研究に偏ること なく、教育に対しても適切に行われるよう十分留意しなければならない。
 方針の第2は、「諸規制の緩和を推進する」ことである。大学の個性化の観点か ら、柔軟かつ弾力的な教育研究の展開を図るためには、諸規制の緩和が必要である。 とりわけ、私立大学については、建学の精神を踏まえ、より自由な教育研究活動を促 すためにも、例えば、学科の新設、改廃は、基本的に大学の主体的な判断に委ねるこ となど、諸規制の緩和方策について具体的に検討すべきである。
 方針の第3は、 「国公私立大学を通じて高等教育、学術研究に対する公的投資を拡充する」ことであ る。わが国の高等教育に対する公的投資が、欧米諸国に比べて極めて低い水準にとど まっていることは、周知の事実である。例えば、対国内総生産(GDP)比では、アメリ カ1.1%、イギリス0.7%、フランス0.9%、ドイツ0.9%であるのに対 し、日本は0.5%である。わが国が、欧米諸国へのキャッチアップを目標とした時 代から世界のフロントランナーとなる時代を迎えるためには、高等教育、学術研究に 対して国が果たすべき役割にも、時代にふさわしい姿が求められる。今後、競争的環 境の中で、わが国の大学の国際的な競争力を高め、世界最高水準の教育研究の実現を 目指す以上、公的投資も、欧米諸国並みの水準に拡充すべきである。次期科学技術基 本計画においても適切な対応を求めたい。
 今後、「3つの方向と3つの方針」の下に、わが国の高等教育政策を展開する必要 があるが、わが国の大学制度は、歴史的な経緯の下に、国立、公立、私立の3つの形 態が併存し、それぞれの性格に応じて、得意な領域を伸ばしつつ、また、時には競い 合いながら発展してきた点に大きな特徴があり、こうした多様で柔軟な構造自体は、 今後とも基本的に維持されるべきである。

2.国立大学の運営の見直し
 以上のような高等教育政策を前提に、国立大学の運営の在り方については、以下の 方向での見直しを提言する。
 第1は、「護送船団方式からの脱却」である。全ての国立大学が、国の手厚い保護 の下、いわば護送船団方式で運営される時代は、もはや終わりを告げるべきである。 これからは、国立大学といえども、より大きな自由とより重い運営責任の下、教育研 究の業績に対する評価を基礎に、より競争的な環境の中で運営されるべきであり、そ の結果によっては、選別と淘汰も避けられない。
 第2は、「責任ある運営体制の確立」である。競争的な環境の中で、各国立大学の 運営責任は、より重いものとなる。このため、学部の意向を踏まえつつも、運営の最 終責任者たる学長が、様々な場面でリーダーシップを発揮しうる権限と体制を確立す べきである。
 第3は、「学長選考の見直し」である。より大きなリーダーシップが期待される学 長に、真に大学運営に見識を有する適任者が選ばれるよう、選任の在り方を見直す必 要がある。学長選考は、制度上評議会が行うこととされているが、実際には慣行的に 全学選挙によって選考が行われる結果、必ずしも適任者が学長に選ばれないような状 況は、速やかに改善されるべきである。
 第4は、「教授会の運営の見直し」である。学部の教授会が、「自治」という名の 殻にこもって既得権の擁護に汲々とし、本来の権限を越えて全学的な課題にまで硬直 的な対応に終始していることが、大学改革の前進に大きな障害となっている。昨年、 学校教育法等を改正して、学長、評議会、教授会などの役割分担を明確にした趣旨を 踏まえ、現状の教授会中心の運営の在り方を抜本的に改めるべきである。
 第5は、「社会に開かれた運営の実現」である。より自由な運営を可能とする以 上、国立大学の国民や社会に対する説明責任は一層重いものとなる。第三者評価機関 による評価は当然のこと、さらに活動実態を積極的に公表し、また、社会の意見を恒 常的に運営に採り入れる取り組みが必要である。
 第6は、「任期制の積極的な導入」である。競争的環境の整備の一環として、教員 に対する任期制の積極的な導入が必要である。平成9年に制度が整備されたにもかか わらず、多くの国立大学で導入が遅れている状況は極めて遺憾である。任期制を大幅 に導入することで、若い教員にも多くのチャンスを与えるとともに、厳しい選抜を経 て、真に優秀と認められる教員にテニュア(任期の付かない在職権)を付与するよう な開かれた教員人事の在り方を検討すべきである。また、講座制の弊害を打破し、若 手教員がより自由に独創的研究を行いうる環境を整えることも必要である。
 第7は、「大学の運営に配慮した規制の緩和」である。通常の行政事務とは異なる 大学の教育研究の実態に配慮して、予算執行、給与決定、組織編成などの国の諸規制 をできるだけ緩和し、運営の自由度を高め、学長の権限を拡大すべきである。

3.国立大学の組織編成の見直し
 次に、国立大学の組織編成については、以下の方向での見直しを提言する。  第1は、「様々なタイプの国立大学の併存」である。戦後の国立大学は、画一的 で、総じて個性や特色を失いつつある。世界的水準の研究の遂行を目指す大学、有為 な人材の育成を重点とする大学など、様々なタイプの国立大学が併存するような姿に 変えていくべきである。
 第2は、「学部の規模の見直し」である。国立大学の学部の規模については、国公 私立の大学の機能や役割を踏まえ、また、学問の進展や社会的需要、さらに各地域に おける国立大学の役割なども考慮しつつ、適切に見直しを進めるべきである。
 第3は、「大学院の一層の重点化」である。主として国費で支えられる国立大学 は、真に世界的水準の教育研究の遂行を目指す大学を中心に、大学院に重点を置く方 向で、教育研究組織の編成を見直すべきである。その際、研究者養成のみならず、実 践的な教育を重視した高度職業人養成の大学院の拡充も必要である。  第4は、「国立大学間の再編統合の推進」である。大学の再編統合が、教育研究の 高度化、学際領域への積極的な展開、教育研究資源の重点的投資、教育研究基盤の強 化にも資する点を踏まえ、大学の自主性を尊重しつつ、積極的に再編統合を推進すべ きである。
 なお、国立大学の組織編成の見直しに当たっては、国立大学として今後とも引き続 き維持強化すべき点にも十分留意すべきである。  具体的には、まず、地方国立大学の果たす役割、機能があげられる。これまで、地 方国立大学が、地域の活性化、産業の振興、文化の継承と創造等の基盤を支える重要 な役割を果たしてきたことは十分評価されるべきであり、今後ますます地方分権の進 展が求められる中で、地方国立大学が果たすべき役割や機能は、その設置形態の如何 にかかわりなく、今後、一層維持強化される必要がある。
 また、国立大学が、私立大学や公立大学では必ずしも十分に担えない教育研究領 域、例えば、基礎研究など、社会的需要は乏しいが貴重な教育研究分野において果た してきた役割、機能についても、一層強化すべきであることは、言うまでもない。

4.国立大学の独立行政法人化
 以上のような高等教育政策の在り方、国立大学の見直しの方向を踏まえ、国立大学 の独立行政法人化の問題は、次のように考える。 国立大学を、護送船団方式から脱 却させ、より競争的な環境に置くためには、国立大学に国から独立した法人格を与え ることの意義は大きい。欧米諸国の国立大学、州立大学も、政府から独立した公的な 法人格を有しているのが一般的である。法人化により、国の様々な規制が弱まる点 も、教育研究の遂行上、メリットが大きい。
 他方、独立行政法人通則法をそのまま国立大学に適用することは、不可能である。 なぜなら、大臣が、大学に目標を指示したり、学長を直接任命し、解任するような制 度は、諸外国にも例が無く、国と大学との関係として不適切である。評価の仕組みも 検討の余地が大きい。「独立行政法人」という名称も、大学にふさわしくなく、特に 「行政」の文字には強い違和感を禁じ得ない。
 したがって、国立大学を独立行政法人化する場合には、大学の教育研究の特性を踏 まえ、その自主性・自律性が尊重されるよう、具体的には、少なくとも以下の点に十 分留意し、独立行政法人制度の下で、通則法の基本的な枠組みを踏まえつつ、相当程 度の特例を加えた特例法を定めて、これにより移行するなどの方法を検討すべきであ る。
・ 学長人事は、大学の主体性を尊重した手続きとする。
・ 教育研究の目標や計画は、教育研究の特性を十分踏まえた内容とするとともに、 各大学の主体性を十分尊重して定める。
・ 教育研究の評価は、専門の第三者評価機関の評価を尊重する。
・ 「国立大学法人」など大学にふさわしい適切な名称とする。
・ 評議会、教授会、運営諮問会議を基本組織として位置付ける。
・ 企業会計原則を適用する場合には、大学の特性を十分踏まえる。
・ 特別会計の借入金の返済や長期的な施設整備を円滑に進める仕組みを設ける。
・ 法人化が公的投資の削減に結びつくものではないことを踏まえ、運営費交付金を 十分確保するとともに、産学連携などの自助努力を通じて中長期的に内部的な蓄積を 進めることにより、多様な教育研究を保障する。
 また、国立大学を独立行政法人化する以上、特に経営面での体制を強化する必要が ある。経営担当の副学長を配置することは当然のこと、さらに経営面を担当する何ら かの学長補佐機関を設けることも検討すべきである。
 政府は、以上の諸点を踏ま え、国立大学を独立行政法人化するために、広く関係者や有識者の参画を得て、具体 の制度や運用の在り方、移行の方法等の検討を進め、平成13年度中に具体的な法人 像を整理し、できるだけ早期に「国立大学法人」に移行させるべきである。
 また、 関連して、国立大学を「国立大学法人」に移行させる場合には、国立の大学共同利用 機関も同様の方向で独立行政法人化すべきであり、名称も「国立大学法人」と同様に 適切な名称を検討すべきである。さらに、公立大学についても独立した法人格を付与 することについて検討を行う必要がある。

5.高等教育・学術研究への公的投資の拡充
 今後、国公私立大学を通じて高等教育、学術研究に対する公的投資を、欧米諸国並 みの水準に拡充する必要があるが、その際には、以下の点に留意が必要である。
 第1に、「競争的経費の拡充と基盤的経費の確保」である。大学間のより競争的な 環境を整備するため、科学研究費補助金などの競争的経費を、より公正・客観的な配 分方法に留意しつつ拡充するとともに、教育研究の長期的な展望や基礎的な教育研究 分野に配慮して、基盤的経費を十分に確保することが必要である。
 第2に、「客観的な評価の結果に基づく資源配分の実施」である。特に、公的資金 の占める割合の高い国立大学については、より競争的な環境の整備の観点からも、各 大学の教育研究の実態に対して厳正かつ客観的な評価を行い、その評価結果に基づ き、透明性の高い資源配分を行うための仕組みについて検討すべきである。
 第3に、「私学助成の抜本的拡充と傾斜的な配分の推進」である。わが国における 私立大学の重要性を踏まえ、私学助成を抜本的に拡充すべきである。とりわけ、教育 研究に極めて高い成果を上げる私立大学に対しては、国としても、国公私立の枠組み にとらわれない積極的な支援を行うべきである。
 第4に、「寄附金等の受け入れ促進のための税制の見直し」である。大学の教育研 究に対する善意の寄附金等が、各界各層から円滑に寄せられるよう、税制の見直しを 進めるべきである。

6.今後引き続き検討が必要な重要課題
 上記の諸点のほか、以下の諸点について は、今後の高等教育を考えていく上での重要な課題として、引き続き時間をかけて幅 広い観点から検討をする必要がある。 
○海外との研究者・留学生交流の拡充  
○教養教育の充実強化  
○生涯学習システムの拡充  
○教員養成の在り方  
○産学連携の推進  
○試験科目の在り方など大学入試の在り方  
○学部教育の年限の在り方  
○大学の教育研究施設の老朽、狭隘への対応  
○社会システムとしてのロースクールなど専門大学院制度の在り方  
○開かれた教員の任用の在り方  
○単位互換制度の積極的な活用など大学間連携の推進  
○国公私立の枠組みを超えた大学間連携の在り方  
○大学附属病院の経営の改善  
○短期大学、高等専門学校の見直し  
○専門学校の見直し  
○育英奨学制度の在り方

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