東 京 大 学

2000/4/1より、獣医学専攻長は吉川泰弘、応用動物科学専攻長は塩田邦郎に交代します。


2000/4/7

東京大学獣医学専修カリキュラム案 PDFファイル 

 このカリキュラム案は現在我々が考えている獣医学教育を充実するにあたり最低限満たすべき内容を考慮して作成したものである。講義内容、講義名、実習名および単位数についてはまだ不備な点も残されており、今後さらに検討を加える予定である。

 教官数、専攻分野数についても残念ながら十分に検討されていない。獣医応用動物科学、形態学、機能学、生体防御・寄生体学、臨床学に含まれる各科目の教育にあたっては、教官各人がそれぞれの専門性に応じて横断的に講義、実習を分担しあう形式を採用する。

 学生がどの時点で各研究室に入室し、またどの時点で基礎コース、臨床コースを決定するか、あるいはその決定方法についても議論は尽くされていない。したがって、現在提示されている案はあくまでも今後の検討を重ねるためのたたき台である。

 このような教育を実施するためには、仮に臨床、非臨床と単純に分けて考えた場合、臨床系が13分野、非臨床系が17分野、合計30程度の専門分野が必要と考えられる。大講座制をどのように取り入れるか、といった議論はまだ十分に行われていないが、おそらく教官数としては90名程度を考慮せざるを得ない。また、そのような組織となった場合、どの程度の学生数を教育できるかに関しては、おそらく施設との兼ね合いがもっとも重要になるが、少なくとも60名程度の学生の教育は実施可能と考えられる。

(佐々木伸雄獣医学専攻長 平成12年3月30日)

獣医学教育(学部教育)の理念

本学においては以下の分野に重点を置いた基礎教育を行う。
1.動物の疾病予防と治療に必要な獣医療
2.人獣共通感染症や食品衛生を中心とする公衆衛生
3.ライフサイエンス(基礎研究)
4.獣医畜産行政、環境問題

 上記の教育を行うための授業科目として、一般教養授業科目と専門授業科目とがある。 専門授業科目はさらに基本授業科目と専修授業科目から構成される。基本授業科目は全学生が斉一に受ける科目であり、専修授業科目は学生が選択して受ける科目である。(大学基準協会、獣医学教育に関する基準、平成9年参照)

1.動物の疾病予防と治療に必要な獣医療教育

 疾病の予防と治療は、生物学、化学、物理学、生態学などを基盤にした総合科学である。獣医学教育カリキュラムの主要な目的は、動物の疾病予防と治療を最善のものとするために必要な教養を学生が身につけることである。このためには、従来の臨床科目のみならず、生理学、薬理学、生化学、解剖学、行動学、実験動物学などの基礎科目あるいは境界領域の科目においても、臨床との接点をより多くもつ教育方法を考慮する必要がある。
  わが国、とりわけ本学においては理想的な獣医臨床教育を行うにあたって、いくつかの問題を抱えている。1)米国などとは異なり、わが国では大学入学後の6年間で獣医師教育を行わなければならない。2)しかも、入学後は教養課程を経なければ本格的な獣医学教育に着手しにくい。とくに本学では制度上、獣医学教育の開始時点が遅くなる。3)臨床系教官の人数が極めて少ない。また、臨床系だけでなく、基礎系、応用系においても膨大な領域の学問体系の教育を教官1人あるいは少人数で背負っている例が少なくない。 3)のうち、とくに臨床教育に関しては、多数の専門科(専門領域)を設置することが望まれる。(獣医学教育将来像検討委員会答申)

2.人獣共通感染症や食品衛生を中心とする公衆衛生学教育

 ヒトと動物との間には多種類の共通感染症が存在する。既知の感染症をはじめ、最近になってヒトへの感染を示すようになった新興感染症、あるいは今後発生するであろう未知の感染症に対して、迅速かつ適切な対処をとる必要がある。また、食品衛生にかかわる獣医師の任務の重要性はますます高まっている。このような観点を踏まえ、獣医学教育カリキュラムにおいては従来にも増して公衆衛生学教育を組織だって行う必要がある。
 このために、従来の微生物学、伝染病学、寄生虫病学、免疫学、衛生学(管理学、疾病統計)および臨床学などを有機的に結びつけた目的論的な教育方法を主体にしたカリキュラムを組む必要がある。

3.ライフサイエンス(基礎研究)推進教育  

 生命科学への貢献は獣医学が担う大きな柱の一つである。将来を担う学生には日進月歩の新技術の習得と生命論も含めたライフサイエンスの基礎を履修する必要がある。このことは、学生が将来どのような分野に進むにしても重要な礎となるものである。
 ライフサイエンスの教育で重要なことは、分子・細胞・器官・個体・群の有機的なつながりと、個々の生命体にとって何が大切なことであるのか進化論的立場にも立脚した考え方を学ぶことと思われる。生命体は種や個体に特有な生命維持様式と成長、繁殖、死に至る一連の過程で必要となる要素を動員しており、そのことに対する理解が、たとえば薬物反応や疾病(病理)の発現様式をより深く理解することに結びつく。遺伝子発現と生体防御、病態発現の生理学的、生化学的機序、イオンチャネルと疾患、生殖の情報伝達機構、疾患モデル動物の開発と基礎研究など獣医学教育の中で取り組むべき課題が多い。一方で、生命体に共通してみられるホメオスタシスのしくみを、生理学、生化学、分子生物学、病理学などの観点から総合的にとらえた教育カリキュラムも必要である。

4.獣医畜産行政、環境問題  

 本学は従来より広範な学問的知識の習得を基礎にして、社会的な指導者としてのジェネラリストを育成する要請に応えてきた。しかしながら、これまで多数の行政官を輩出してきたものの、それらは一般的な畜産学、獣医学教育を受けたにすぎず、意識的、意図的に行政マンを育成する教育を行ったわけではなかった。これはそれなりにうまくいった面もあったというのが実感であろう。しかしながら、今後とも獣医畜産行政や環境問題などの分野で優れたリーダーシップをとる人材を多く育てるためには、獣医師としての一般素養に加えて国際的感覚をもった人材の育成が必要と思われる。このためには、食糧問題、海外伝染病、環境科学、家畜文化論などに関連する講義を柔軟に組む必要があるとともに、アジア諸国、アフリカ諸国、中南米諸国など、海外の獣医系大学との留学生の派遣、受け入れと単位の互換性などについて検討する必要がある。


2000/3/29

以下、3月28日付で、帯広畜産大学、岩手大学、東京農工大学、岐阜大学の獣医学科長宛に出された書簡です。

           学科長殿              2000年3月28日  

 ようやく春の日差しを感じる季節となって参りましたが、先生にはますますご健勝 のこととお喜び申し上げます。  さて、この数年、獣医学教育のグローバリゼーションの流れを意識しながら、我が 国の獣医学系大学における教育の充実を目的に多くの話し合いが行われて参りました。 特に昨年4月からはこの問題に関し、科学研究費の補助を受けて様々な側面からの検 討がなされているところであります。その中でもっとも根本的な問題は、より充実し た専門教育を行うことが必須であるとの認識では一致しているものの、現在の各大学 の人員ではその達成がきわめて難しい、という点にあり、それを受けて既存の連合大 学院の枠組みをもとに、東の4大学、西の4大学が再編、統合を目指して話し合われ て参りました。
 昨年の話し合いでは「平成13年度の概算要求を目標として何らかの形で合意する」 ことが会議で得られたコンセンサスであったと思います。西の4大学におきましては、 まだ多くの問題を抱えてはいるものの、現在九州大学との話し合いが進展しつつある ことは周知のことと存じます。また、東の4大学におきましては、我々の知る限り、 まだまだ様々な問題が山積している状況にあるものとお見受けしております。
 一方、北海道大学と東京大学は獣医学教育充実のため、各私立大学ならびに大阪府 立大学とともに、何らかの自助努力の道を探るための検討を進めて参りました。しか し、この間の国公立大学獣医学協議会、全国獣医学関係大学代表者協議会の席上でも 申し上げましたたように、様々な制約の中での教育の充実はきわめて困難であるこ とは論を待たないことであります。
 そこで、両大学といたしましては、合意がいただけるのでしたら、8大学と同じテー ブルの上で獣医学教育の改善について論議させていただきたいと思います。できれば この4月の学会時、あるいは時間的に困難であればその後できるだけ早期に、とりあ えず東の4大学と北大、東大を加えた6大学で獣医学教育の充実のための勉強会ない し懇談会を開催していただきたく、申し入れをさせていただくことにいたしました。 これは決して西の4大学を排除するものではなく、少しでも先が見えて来た現状に雑音を入れないための配慮です。もちろん、望まれるのであれば、西の4大学にも加わっ ていただくことに異存はありません。また、これは現在の8大学あるいは4大学にお ける再編・統合の話し合いを阻害するものではなく、また、そこでの結論は当然優先するべきものであります。しかし、大学の独立行政法人化の問題など、獣医系大学の 再編、統合といった獣医学教育充実のための手段を進行させるための時間には必ずし も余裕がないように考えられる現在、再編、統合の話し合いと平行して、第2,第3 の可能性を話し合う機会を持つことも、きわめて重要かつ緊急のことと思われます。
 このような考えをもとに、この申し入れを北海道大学、東京大学の連名で、帯広畜 産大学、岩手大学、東京農工大学、岐阜大学の獣医学科長宛にお出しすることにい たしました。
 4月の学会時までの時間は余り余裕がなく、各大学でご検討いただくことは困難か とは存じますが、できうる限りで結構ですので、早急にご返事を賜りますようお願い申し上げる次第です。

藤田正一
北海道大学大学院獣医学研究科
電話:011−706−6948
e-mail : fujita@vetmed.hokudai.ac.jp

佐々木伸雄
東京大学大学院農学生命科学研究科
電話:03−5841−5404,5420
e-mail : asasaki@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp


2000/3/9

平成12年3月2日専攻長会議
平成12年3月9日教授会

平成14年度 概算要求にむけて

(各専攻の課題)

研究科長 林良博

はじめに

 少なくとも過去8年間、文部省に認められたか否かはともかく、本研究科は機構改組の概算要求を出し続けてきました。その結果に対する自己点検評価は、現在農学評価委員会で作業が進められている最中であるため、ここでは私見を述べることを差し控えます。
  確かに言えることは、目的を達成した充足感と同時に、なにかに追い立てられて作業した後にくる気怠さが本研究科に漂っていることです。
  そこで、今年は「立ち止まってじっくり考える年にしたい」と1月20日の専攻長会議と1月27目の教授会で申し上げました。現在のところ特段のご意見を頂いておりませんので、恐らくこの思いは教授会構成員の方々に共有されたと考えます。
  しかし、ゆっくり休息できるほど本研究科の機構が整備されている訳ではありません。「平成14年度以降の概算要求骨子」を固めるために、今年の12月までに構想すべき課題を抱えている専攻が少なくないように思えます。
  そこで執行部からみた「各専攻の課題」をまとめてみました。これから12月にむけて各専攻で論議される際に、この小文がお役に立てば幸いです。

       ――― 途中省略 ―――

8.獣医学専攻

 昨年来、新聞報道等で話題になっております国立大学の獣医学部・学科再編論議は、大学院重点化等の手当てがなされた本学と北海道大学を除外して進められてきましたが、今年の4月以降はその縛りが解けるとお聞きしております。
  そもそも獣医学の再編論議は、欧米と比較して圧倒的に弱体である臨床獣医学や公衆衛生学等の「実学」を強化するために大学をこえた学科の合併も辞さないとの覚悟で進められてきたと理解しております。獣医学に限らず農学全体にとって、実学を強化することが重要であることは、JABEE(日本技術者教育認定機構)の例一つをとっても明らかです。
  したがって今年の4月以降、本研究科の獣医学専攻において実学強化の方向で論議が進められ、平成14年度概算要求として構想されることを歓迎いたします。
  しかし、論議される際に留意していただきたいことは、本学はあくまで研究重点大学である点です。いま全国的に論議されていることは、学部および卒後の獣医師養成教育をいかに充実させるかでありますが、それが本学の研究重点機能を弱体化させることにならないよう配慮して下さいますようお願いいたします。        

       ――― 後半省略 ―――


2000/1/7

専門大学院構想について

現在、卒後教育の充実の一環として専門大学院の設置を構想しています。目的は、専門医制度の確立にあります。

一方、この問題と現在全国的に進められている獣医学再編とどう整合性を取ることも十分考慮されなければなりません。我々は獣医学再編の方向性が決まる本年4月の全国協議会の決定を待って、平成13から14年度にかけて具体的構想を確立し実現へ向けての動きを起こしたいと考えています。

東京大学 林良博、小野憲一郎


1999.12.1

臨床教育充実の一環として、4年生に以下の「糖尿病」に関する講義を課しました。はじめての疾患別講義の試みですが、今後発展させていきたいと思っています。 (臨床病理 小野憲一郎)

 

獣医学特別講義について                (獣医学専攻主任 佐々木伸雄  獣医学専修担任 吉川泰弘)

これまで獣医学専修の講義は年次進行で基礎から臨床へと積み上げる方法でしたが、臓器別あるいは疾患別に行う講義方法が学生にとって興味深い内容になると指摘されています。そこで、まず疾患別講義を試行してみようと考え、以下の日程で行うこととしました。この講義は単位認定を行いませんが、獣医学専修4年生は是非受講して下さい。

対象: 獣医学専修ならびに応用動物学専修学生(とくに獣医学専修4年生)

講義内容:糖尿病の基礎と臨床

日時:

日時 内容
11月10日(水) 糖尿病とは
 17日(水) 解剖学からのアプローチ(隣の構造、微小循環など)
 24日(水) 生理学からのアプローチ(糖代謝、脂質代謝など)
12月 1日(水) 薬理学からのアプローチ(糖尿療薬など)
 8日(水) 感染病理学からのアプローチ(ウイルス性糖尿病など)
 15日(水) 実験動物学からのアプローチ(合併症モデルなど)
1月12日(水) 臨床からのアプローチ(1)
 19日(水) 臨床からのアプローチ(2)

午前10:40-12.:00

場所: 7号館104講義室

担当教官:小野教授、林教授、西原助教授、尾崎助教授、土井教授、吉川教授


1999/9/8 東京大学における基本姿勢

 基本的に世界で通用する獣医学教育を目指すことに異論はなく、そのためには少な くとも臨床教育の充実は緊急に改善すべきと考えています。しかし、同時に 基礎獣医 学研究、教育も充実すべきである、との考えから、コース分けを考慮したカリキュラ ム案なども含めて検討しています。しかし、それらに必要な最も重要かつ実現困難な 問題は、教官スタッフの充実であり、まだ議論は固まっていないのが現状です。


 

 

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