岩 手 大 学

 

1999年9月13日 講演会「農学・獣医学の将来と大学のあり方」が以下のように開催されました。

講演会「農学・獣医学の将来と大学のあり方」

主催: 獣医学部創設準備委員会    委員長: 内藤善久

最近、社会における学術研究の高度化、国際化・情報化の急速な進展に伴い、大学外からの大学の変革が強く求められてきております。と同時に大学内においても自からの手による新たな大学像を目指して変革しようとする動きもまた見え始めてきております。その様な状況を踏まえて、標記委員会は下記のような講演会を企画致しました。ご多忙な時期とは存じますが、多数ご出席戴きたくご案内申し上げます。

講演会:農学・獣医学の将来と大学のあり方 

○ 日時: 1999年9月13日 (月)15:00〜18:00

○ 場所: 岩手大学農学部会議室

○ 講師および演題名: 時間:15:00〜16:00

講師:東京大学副学 長小林正彦先生 演題:「大学における農学関連学問の将来と国立大学の独立法人化の問題」

講師:東京大学教授 唐木英明先生(全国獣医学関係大学代表者協議会会長) 演題:「日本の獣医学の将来と世界の状況 −  応用学問のグローバルスタンダードー」

○総合討論: 17:30〜18:00

○懇談会(立食): 18:30〜20:00 会場:インシーズン(参加自由、会費3,000円、当日徴収)

注:本講演会は文部省科研費(代表:唐木)の調査研究の一環として行われました。  

 


1999/9/20 講演会「農学・獣医学の将来と大学のあり方」を開催して: 内藤善久

司会の内藤教授

高橋農学部長のご挨拶

 

1.開催に至るまでの経過

岩手大学においても他大学と同様に、一時盛り上がった再編整備の動きは、各論に至 ると種々の意見の相違から低迷していた。また、学科内の論議を学部へ波及させるこ とが出来ない状況にあった。しかるに、この4月学科長からの学部論議の要請や全国 学部長会議の経過、あるいは学外における新聞による情報などにより獣医学教育の再 編整備に関して学部内においても論議を進める必要があると学部長は判断し、学部内 にある既存の獣医学部創設準備委員会においてその論議を進めることを指示した。そ れを受けて、全国との連携のもとに獣医学教育の再編整備をどう進めるかについて岩 手大学では学部内での正式な討議の場が出来、また学部内外へ情報を発信できること となった。その目的は獣医学教育の再編を他大学との連携のもとに岩手大学としての 案を作成することにある。そのための第一歩として獣医学教育の再編は農学教育の再 編、さらには法人化などの大学のあり方と連動していることを再認識することが重要 であるとして、本講演会を開催する運びとなったものである。

2.講演会の成果

以上の経過を踏まえて、9月13日(月)「農学・獣医学の将来と大学のあり方」と題 して二人の講師の先生を招聘し周知の講演会が催された。講演に先立ち、農学部長よ り本講演会の趣旨について挨拶があった。出席者は約50数名で農学部の教職員以外に も事務局長、工学部長、学生部長の出席があった。各講演の論旨は非常に明解であり 、理解しやすかったこともあって講演後の質疑応答は大変活発であった。はじめに小 林先生は今後の大学のあり方と法人化の存立の仕方については独自の独立法人のあり 方を大学人自らがbottom upの中で構築すべきであると述べられた。また、唐木先生 からは獣医学の再編は獣医学のみの問題ではなく、今後の農学の再編と連動して考え るべきであり、また国際的な視野から見ても獣医学だけでなく他の学問分野においても改革が迫られてきている。それを達成させるのはやはり小林先生と同様に大学自ら の自立的な改革が最も重要である旨が話された。講演会の後、引き続き懇談会が催さ れ、質疑応答で言い尽くせなかった問題についてさらに論議を深め、盛会裏に講演会 と懇談会を終了することが出来た。それぞれの講演の概要は以下のとおりである。

1)東京大学副学長 小林正彦先生 15:10〜16:10(その後の質疑25分)
「大学における農学関連学問の将来と国立大学の独立法人化の問題」
論旨:
獣医学と農学の再編、・大学の改革、・独立法人化の3点であった。
○はじめに:
日本は科学立国とされてきたが、それが危うくなってきている。それを 支えてきたのは、日本が教育立国であったことによる。これから高等教育の再構築が 必要である。
獣医学と農学関連について:
・獣医学教育の再編は教育理念のもとで論議されなけ ればならない。
・獣医学科が抜けると農学が崩れると言われるのはおかしい。農学が果たす意義を良く考えて欲しい。
・東大農学部では学科エゴを排するために学科を廃 止し、教官集団と学生集団とを対比させて学生に多くなった専修コースを自由に選択できるようにさせたので、学生の人気は高くなった。
大学の改革について:
・bottom upで理念を構築しなければ、これからの大学は新 しくならない。top downでは経済効率だけに陥る。
・社会にとって大学とは何かと問 われれば、それは知的存在としての意味であり、社会の知的基盤としての存立理由がなければならない。
・それぞれの学部や学科において設置の理念を持たなければなら ない。それは社会的な要請を踏まえた上でのものである。
独立法人について:
・大学の自治の本質を考える必要がある。
・学問の自由を持つために自治はあるが、自治を拡大解釈してはならない。
・大学に行政法を導入するこ と自体に無理がある。それに反発しなければならない。
・大学が経済効率を求めるべ きではない。経営の管理は学術経営に限るべきである。
・今の法人化では大学は行政 の末端に加えられる。
・国家公務員の13万人をどうするか。これに協力するために大学は外に出ることには協力する。従来法とは異なる別法を設けると同時に教育の国家予算をGDPの0.7〜0.8%へと要求する必要がある。また、大学の中にもっと競争原理 を入れることも大事である。
おわりに:
・100年の計を考えて大学の改革に取り組まなければならない。
・それ には国大協などに頼るのではなく、大学人一人一人からの積み重ねによる理念の構築 により改革に取り組むことが大事である。

2)東京大学教授 唐木英明先生 16:40〜17:45(その後の質疑25分)  
「日本の獣医学の将来と世界の状況ー応用学問のグローバルスタンダード」  
講演はスライドによるものであり、非常に明解であった。
その論旨は、日本と欧 米における獣医学教育の現状と比較・日本の獣医学教育の将来、を主とするものであ った。
はじめに:
・応用学問としての獣医学教育、とくに臨床教育の充実が緊急の課題で ある。
・そのためには獣医学研究・教育の理念を再構築し、社会へ知的貢献を果たさ なければならない。
日本と欧米における獣医学教育の現状と比較:
・欧米の獣医学と比較すると臨床教 育に大きな格差がある。
・それは教員の努力の問題もあるが、システムの違いから来 るものが大きい。
・日本の大学設置基準では獣医学科は教授4人がいれば良いことと なっている。それを医学・歯学教育の設置基準へと変えて行かなければならない。
・ EUでは獣医学教育の基準が作られ始めている。EU非加盟のスイスでもベルン大学とチ ューリッヒ大学の統合が始まった。その理由はEUの基準に達しないと畜産物の輸出入 や獣医師の国家間の流動化などに対応出来ないからである。
・北米では獣医師資格授 与については第三者機関を設置して厳しく査定している。
日本の獣医学教育の将来:
・現状を打開するためには「各大学が平等に損をして、平等に得をする」精神で大学の再編に臨む。
・これからの少子化時代を考えると現有 の資源を用いてそれをどう再構築して行くかに大学の将来がかかっている。
・大学の 役割と地域への貢献をあまり強く言うと大学本来の使命が失われる。
・新制8大学が 九州大と東北大に再編するか否かは所属大学と受入大学の問題である。
・法人化に対 しては自主的な獣医学教育の改革案を早急に提案することが重要である。
おわりに:
・獣医学教育の再編は単に獣医学科だけの問題ではなく、農学再編と連動するものである。その意味を含めて獣医学教育について話した。
・国立大学の護送船団方式の時代は終わり、競争の時代となった。農学全体もそれぞれの特徴を生かしてスケールメリットを図る時代となってきている。

3.懇談会
講演会におけるテーマについてさらに懇談会を設けて論議を深めた。講師との質疑応答や自説の披露などがあって大変活発な会となった。とくに出席者20数名の中で獣医学科以外の多くの先生方や事務局長や工学部長などの出席もあって全く別な観点から獣医学教育の将来について論議が出来たことは今後の獣医学教育の再編への大きな弾 みとなった。

小林副学長

唐木教授

 


 

 

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