岐 阜  大 学


北海道大学と岐阜大学による獣医学教育に関するジョイント・フォーラム

日 時: 平成13年2月3日(土)13:30〜17:30
場 所: 岐阜大学農学部獣医学科会議室
参加者: 北海道大学 藤田、斉藤、喜田、桑原、藤永、梅村、伊藤、廉澤、鈴木、 浅沼、奥村(11名)
岐阜大学 小森、鈴木、平井、源、柵木、工藤、深田、武脇、志水、野、福士、山口、杉山、柳井、北川、坪田、山添、鬼頭、村瀬(19名)
概 要:
 岐阜大学小森学科長の司会により、以下のように北海道大学と岐阜大学の情報を紹介し、意見の交換を行った。
1. あいさつと概況説明(小森学科長)
 小森学科長より、まずこのフォーラムは、1)両大学の新獣医学教育構想理念の紹介、2)大学院重点化の視点からみた新獣医学教育理念、3)日本の獣医学教育からみた両大学の新組織構想の位置づけ、4)両大学の特徴と新組織構想などについての情報および意見交換を目的とすることが述べられた。続いて、岐阜大学におけるこれまでの獣医学教育改善運動の経過が説明された後、1)基準協会案以上の規模であること、2)場所は問わない、3)社会全体のコンセンサスが得られるような全体像の構築に努力することの3項目が、岐阜大学獣医学科の再編に向けた基本原則として紹介された。さらに、いわゆる“新設置論”について説明がなされた。

2. 新しい獣医学学部教育の理念と具体像
  岐阜大学側から、「新獣医学教育の理念およびそれに基づくカリキュラム案http://jvm2.vm.a.u-tokyo.ac.jp/Kaken/org/Gifu.htm」について、まず理念の基本となる6項目(1)獣医学ジェネラリスト教育、(2)体験学習・実践教育、(3)世界に通用する教育、(4)臨床教育および獣医公衆衛生学教育の充実、(5)国際化教育、(6)特色ある教育について解説がされた。さらに、その理念を理解しやすくするために具象化した学部教育カリキュラム案が、前記6項目に基づき説明された。
 北海道大学側からは、「特別研究および教養教育の全体に占める比重」、「ゆとりの教育と教育充実の整合性」、「器官別臨床教育の現実性」などについて質問が出され、追加の説明と意見の交換がなされた。
 次に、北海道大学の新獣医学教育の理念について、大学院大学においては学部と大学院を連携する教育が必要であるものの、教育理念の基本部分は岐阜大学と同じであるという説明がなされた。岐阜大学と同様に獣医学ジェネラリスト教育を基本とするという説明の後、世界に通用する教育そして臨床教育および獣医公衆衛生学教育の充実のために専門大学院構想(後述2)が現在進行中であること、北海道大学がこれまでに行ってきた国際化教育に関する活動、北海道および札幌という地理的背景を活用した特徴ある教育などについて、岐阜大学基本理念6項目に準じて説明された。続いて、ワーキンググループによってまとめられた「獣医学教育改善に関する第1次原案」をもとに、北海道大学獣医学部・獣医学研究科の歴史と教育理念そして再編後の学部教育カリキュラム案について解説された。これらに対して岐阜大学側からは、「多い卒業要件単位数」、「多種多様な選択必修科目と獣医学ジェネラリスト教育の整合性」などについて質問が出され、追加の説明と意見の交換がなされた。
 
3. 北海道大学・大学院獣医学研究科の新構想について
 北海道大学が現在進めている大学院獣医学研究科の新構想案についての説明があった。その骨子は、獣医学研究科を研究部と教育部に分離し、教育部に博士課程に加え2つの専門大学院(臨床獣医学および疫学・保全生物学専攻修士課程)を設置するというものであった。岐阜大学側から、本案の国立大学3大学再編構想における位置づけおよび日本の獣医学教育における役割に関して質問があり、北海道大学側からはこれらについてまだ検討していないとの回答があった。なお、この問題については、日本全体の獣医学教育構想の中で今後検討する必要があり、そのなかで答えがはっきりしてくるという藤田研究科長の見解が述べられた。

4. その他
 「新設置論への理解」、「農学部長会議」、「大学院大学での再編の意義」などについて意見交換が行われた。


東京大学と岐阜大学による獣医学教育に関するジョイント・フォーラム

日時:平成13年2月12日(月)13:30〜17:30
場所:岐阜大学農学部獣医学科会議室
参加者: 東京大学 吉川、佐々木、局、尾崎、中山、大野、唐木(7名)
岐阜大学 小森、佐々木、平井、鈴木、源、深田、工藤、柵木、福士、 山添、海野、柳井、北川、坪田、志水、山口、桃井、鬼頭、村瀬(19名)
概 要:
 岐阜大学小森学科長の司会により、以下のように東京大学と岐阜大学の情報などを紹介し、意見の交換を行った。
1. あいさつと概況説明(小森学科長)
 小森学科長より、まずこのフォーラムは、1)両大学の新獣医学教育構想理念の紹介、2)大学院重点化の視点からみた新獣医学教育理念、3)日本の獣医学教育からみた両大学の新組織構想の位置づけ、4)両大学の特徴と新組織構想などについての情報および意見交換を目的とすることが述べられた。続いて、岐阜大学におけるこれまでの獣医学教育改善運動の経過が説明された後、1)基準協会案以上の規模であること、2)場所は問わない、3)社会全体のコンセンサスが得られるような全体像の構築に努力することの3項目が、岐阜大学獣医学科の再編に向けた基本原則として紹介された。さらに、いわゆる“新設置論”について説明がなされた。

2. 新しい獣医学教育の理念と具体像
 岐阜大学側から、「新獣医学教育の理念およびそれに基づくカリキュラム案http://jvm2.vm.a.u-tokyo.ac.jp/Kaken/org/Gifu.htm」について、まず理念の基本となる6項目(1)獣医学ジェネラリスト教育、(2)体験学習・実践教育、(3)世界に通用する教育、(4)臨床教育および獣医公衆衛生学教育の充実、(5)国際化教育、(6)特色ある教育について解説がされた。さらに、その理念を理解しやすくするために具象化した学部教育カリキュラム案が、前記6項目に基づき説明された。
 これに対して、東京大学側からは、「専門教育開始時期」、「ポリクリ実施期間およびその位置づけ」、「科目数が多いこと」、「必要な教官数」、「コース制と東京大学の状況」などについて質問が出され、追加の説明と意見の交換がなされた。
 次に、東京大学から配布された資料「東京大学獣医学専修カリキュラム案http://jvm2.vm.a.u-tokyo.ac.jp/Kaken/org/TOKYO.HTM」について説明がなされた。その概要は、1)教官数72名を想定したものではないこと(教官数を考えないで作成した)、2)1-2年次は教養科目、3-5年次は共通科目、6年次はコース制(基礎と臨床コース)とすること、3)5年次はテーマ式講義で基礎から臨床までつながった講義をすること、4)教官数は現在の3倍は必要であり、特に臨床教育に重点を置いているので臨床系教官の増員が必要であること、5)基礎系も細分化して充実する必要があることなどであった。岐阜大学側からは、「低学年からの専門科目の実施」、「大学院と学部の違い」、「学部教育に対する意識」、「コース制」について質問が出され、追加の説明と意見の交換がなされた。

3. その他
 「東京大学の獣医専修の教官数および応用動物科学系との関係」、「農学部長会議および文部省との対応」、「東京大学での部局化の可能性」、「新設置論の理解」などについて意見交換が行われた。


岐阜大学農学部獣医学科が目指す
新獣医学教育構想の理念とそれに基づくカリキュラムの一案   
2001/1/17  PDFファイル

岐阜大学農学部獣医学科長 小森成一

本学科では、平成8年9月に学科内で開催した「獣医学教育の問題点」と題するフォーラムを契機として、今日まで教育改善について検討してきました。その間に、(財)大学基準協会による獣医学教育に関する「新基準」の提示、岐阜大学大学院連合獣医学研究科を構成する4獣医学科による「獣医学教育・研究に関する理想像」の公表、本学農学部における獣医学教育改善に関する討議などがありました。ここに公開する教育理念とカリキュラム(案)は、それらの経緯も含めて長年本学科で検討してきた産物です。

教育理念が独断に過ぎないのか、カリキュラムにきちんと反映されているのか、カリキュラムは適切に構築・配置されているのか、などいろいろな問題点があるかと思います。渦中にいると、それがなかなか分かりません。皆様の新たな目からご意見、ご批判をいただければ幸いです。

 


                           平成12年1月19日

講演会「農学の将来と大学のあり方」の成果報告                            

岐阜大学農学部獣医学科                              
学科長 小森 成一

<はじめに>  
  岐阜大学農学部では、基本問題委員会において獣医学教育(組織)を農学部として 今後どのように位置づけ、どのように扱うかも含めて、学部の将来像について鋭意検 討中である。このような状況の中で、幅広い視野に立った議論を展開するために農学・ 獣医学関連の問題について学外の現状・趨勢を理解したいとの考えから、「農学の将 来と大学のあり方」と題してお二人の先生にご講演をお願いした。この講演会は農学 部基本問題委員会と獣医学科の共催という形で、平成11年12月10日に開催した。 講師の先生と講演タイトルは次の通りである。   

 ○小林正彦先生(東京大学副学長)       
     「大学の独立行政法人化と農学の将来」    
 ○唐木英明先生(東京大学教授・全国獣医学関係大学代表者協議会会長)
     「日本の獣医学教育の現状と将来」

<講演会の概要>  講演に先立ち、農学部長より本講演会の趣旨について挨拶があった。出席者は約  35名で、農学部の教職員のほかに大学本部の事務官の出席もあった。

(1)小林先生の講演の概要  

 大学とは行政(文部省)の出先機関に過ぎないのか、憲法に支えられた公的なもの なのかの法律論から自然の摂理を原理とした大学改革論へと展開する内容の話であっ た。  

○大学には研究の充実と教育の高度化が求められている。これを果たす一方策とし て、独立行政法人化(通則法)の導入が検討されている。藤田論文(東北大学)では 独立行政法人化の導入を主張している。しかし、この導入を憲法違反とする主張も一 方にある。  

○「大学の自治・学問の自由」というが、法律的裏付けはなく、またその実体は教 員・学部長など選ぶ程度のものである。むしろ、自治・自由を盾にして、大学、学部、 学科は「変えない自由」「拡大一辺倒」というエゴを通してきたのではないか。  

○これまでの総定員法(国家公務員をこれ以上増やさない)によって、例えば農水 省関係の削減分(7万人)が文部省に増えたことを忘れてはならない。しかし、この 総定員法を今後も続けることは困難であり、このことが独立行政法化導入の理由でも ある。  

○独立行政法人化が導入される場合には、「変える自由・変われる自由」が得られ なければ、意味がない。  

○農学は様々な分野の集合体であり、今日ではその学問体系が不明瞭になってきて いる。学科ごとの入試・教育を行っている以上、農学一体化の必要性がどこにあるの か疑問である。学科や学部が教育・研究組織などの新陳代謝に努力を怠ってきたこと が、その原因と思われる。  

○基軸となる学問(教育)体系を構築し、その基軸を中心にして学部、学科などヒ エラルキーごとに新陳代謝のできる構造を持つべきである。  

○生物の生命は個々の細胞の新陳代謝という自然の摂理が基盤になっている。大学、 学部、学科もそのような自然の摂理を原理とした改革を進めるべきではないだろうか。

(2)唐木先生の講演の概要  

 日本の獣医学教育の現状とその改善・充実の方策が主な内容であった。講演はスラ イドを使って行われ、以下のような内容が話された。

○全国の獣医学教育組織をもつ国公私立大学と学生定員および教官数。  

○獣医学教育の成果(卒業生)に対する社会からの批判:臨床・公衆衛生の教育の 不備、基礎教育のレベル低下。  

○教育成果が不十分な原因:教官の努力不足、教育システム上の欠陥(例えば、国 家試験科目17科目に対して8〜9講座しかない。教官数の不足、施設・設備の不備) 。  

○欧米諸国の獣医学教育との比較:教育組織の規模および教育内容(特に臨床教育) に大きな格差がある。  

○獣医学教育の国際的基準化の動き:獣医師業務を国際間で円滑に行うことを目指 して、すでに欧米諸国では獣医科大学の評価が行われた。  

○国際的基準化の動きに対する我が国の対応:(財)大学基準協会から獣医学教育 基準が提示された(例えば、教育規模については、学生定員60名までは教授18名 以上とする72名の教官を必要とする)。  

○再編問題:東4大学(帯畜大、岩手大、農工大、岐阜大)の獣医学科は東北大学、 西4大学(鹿児島大、宮崎大、鳥取大、山口大)の獣医学科は九大にそれぞれ統合す る案がある。しかし、この案に対する大学(学長、学部長)、地元・同窓会、受け入 れ大学などの反応は現在のところ様々である。  

○農学部等との関係:獣医学教育の改善再編問題は、近い将来必ず求められる農学 教育の改革・再編の先駆けに過ぎない。独立行政法人化が導入されれば、生き残り競 争が益々熾烈になる。農学部全体にも思い切った改革が必要な時代が来ている。

<おわりに>  

 「大学・学部・学科の自治」=「変えない自由」=教官のエゴという図式や改革原理を生物の自然の摂理に学ぶという考えに、インパクトを受けた出席者は少なくない。 また、国内外の獣医学教育の現状についての理解が、農学部の様々な分野の教官にこ れまで以上に深まった。今回の講演会が農学部の今後の改革議論に大いに生かされる ことが期待される。 


 


 

 

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