文部科学省科学研究費基盤研究A
「獣医学教育の抜本的改善の方向と方法に関する研究」

(研究代表者 徳力幹彦:平成13〜14年)

研究の目的・方法と計画

本研究の目的は、わが国の獣医学教育の抜本的改善の方法を明らかにし、それを具体化する案を作成し、実現することにある。

(1)
平成13年度: 平成11,12年度における科研費によって明らかにされてきた教育改善のための研究成果が、具体的なかたちでは実現しなかった理由を掘り下げ、学生、社会、地域の視点からも獣医学教育改善の方法を検討する。そして、この研究成果を実現させる具体化案を模索する。
平成14年度: 13年度で得られた研究成果ならびに具体化案をもとに、16校ある国公立大学と私立大学の獣医学部・獣医学科における獣医学教育改善の実現を目指す。

(2)
わが国の獣医学教育システムは、昭和59年に4年制から6年制に移行したのを例外として、戦後から基本的にはほとんど変わっていない。しかし、獣医学の展開の場は急速に変わってきている。すなわち、高度経済成長とともに迎えた核家族化の進行により、伴りょ動物の家族権が欧米並みに確立されつつあり、伴りょ動物の高度な臨床獣医教育が要求されるようになってきたこと、畜産の多頭飼育化によりpopulation veterinanary medicineの必要性か高まってきたこと、冷戦崩壊後のグローバリゼーションの急速な進展によって、生きている動物や畜産食品の流通が世界的に加速されており、高度な獣医公衆衛教育・畜産食品衛生教育の要求が求められるようになってきたことなどである。
このような、わが国の社会ならびに世界から要求されている、高度な応用・臨床獣医学教育を実施するためには、少人数の教官による獣医学教育(国公立大学)、および学生数に比べて少なすぎる教官数による獣医学教育(私立大学)を抜本的に改める方策を模索し、それを至急実現しなければならない時期にきている。この研究による成果をもとに獣医学教育の具体的な改善が実現できると、日本の大学において始めて教官自身の手による教育改革が実現することになり、今後の日本の大学の改革に大きな影響を与えると同時に、日本の獣医学教育は飛躍的に前進することになり、日本の社会に貢献する度合いも飛躍的に高まることになるであろう。

(3)
EU(欧州連合)の成立に伴うEU加盟国内の獣医大学・獣医学部の教育・研究の急速な改革・改善により、欧州の獣医大学・獣医学部が米国獣医大学協会のアクレディテーションを取得する動きが高まりつつある。わが国の獣医学教育改革が実現すると、先進国における獣医学教育か高いレべルで統一化されてくる可能性が出てくるであろう。

帯広畜大、岩手大、農工大、岐阜大の4獣医学科は、獣医学教育の現状を分析し、獣医学教育改善に向けて、「獣医学教育・研究に関する理想像」という小冊子を平成9年6月にまとめた。その後、これら4獣医学科はまとまって、東北大学に獣医学部を作ることを模索し始めた。鳥取大、山口大、宮崎大、鹿児島大の各獣医学は、まとまって九州大学に獣医学部を模索することを決めた。しかし、4つの獣医学科すべてが、九州大学との交渉に農学部の理解が得られたわけではないので、交渉は進展しなかった。

このような運動の過程において、下記の研究費が配付された。

名称: 文部省科学研究費補助金基盤研究(A)(1)
期間: 平成11,12年度
研究課題名:  獣医学教育の抜本的改善の方向と方法に関する研究
研究者氏名:  唐木英明(代表)および研究分担者16名
研究経費:  22,500,000円(平成11年度)、14,700,000円(平成12年度)

平成11年度の科研費により、獣医学教育改善に関するホームページも開設され、獣医学教育改善の研究に関する情報を全国規模で交換することが可能となった。16校の獣医学部・獣医学科の抱えている問題を分析し、獣医学教育改善の方向性を示唆することも可能となった。この結果、獣医学教育の改善には小規模獣医学科の統合再編の必要性が明瞭となってきたが、その具体策については議論がまとまらなかった。
平成12年度の科研費により、東と西の地方大学4校同士、自助努力を目指す北大、東大、大坂府大同士、および私立大学5校同士の話し合いが活発となり、獣医学教育の現状に関する問題点のいくつかが浮き彫りとなってきた。私立大学では、学生数は欧米の獣医学部に比肩できるために、教員の増員が論じられてきている。しかし、東4校がまとまって獣医学部を模索するという案は後退した。北大と東大では自助努力案は不可能との結論に達したが、大坂府大は部局化によって、当面の獣医学教育の改善を目指すことを決めた。西の地方大学でも、農学部の理解が得られない獣医学科があるために、4校による九州大学との獣医学部案を模索するまでには至っていない。獣医学教育改善に関する研究成果を実現する運動は、現在、非常な困筆に直面している。

これまでの研究では、獣医学教育改善の研究の視点が教官側のみの視点に片寄っていた恐れがある。獣医学教育改善の実現のためには、いくつかの負の要素があり、これらを十分に分析して、それらの負の要素をできるだけ少なくする研究を取り入れていく必要がある。従って、本研究では、学生、社会、地域などの視点からの獣医学教育改善の研究を実施して、できる限り実現可能な具体化案を作成し、それを実現する。


研究計画

本研究は、わが国の獣医学教育改善の方法の検討、具体案の作成、具体案の実行について2年間で研究を行う。

平成13年度: これまでの研究の成果から、主として教官の視点から考えていた従来の獣医学教育の抜本的改善方法に加えて、学生、社会、地域などの視点から見た獣医学教育の改善方法を研究し、それを具体化する方法を作成する。

平成14年度: 初年度の研究成果に基づき、カリキュラム、施設、設備、教員数などの面から総合的な研究を行い、獣医学教育改善の研究成果を実行する。

研究班の編成: これまで3年有余にわたり進められてきた獣医学教育改善運動が、大きな障害に遭遇して、空中分解しかねない現状から、再度、根本的にこの運動に取り組むシステムを作り上げる必要がある。このため、獣医学教育改善の問題点を別の視点から掘り下げること、およびそれを具体化する方法を模索するための研究班を作成する。この研究班によって得られた研究成果を、全体会議で議論していくことによって、わが国全体の獣医学教育の改善に具現化していく。

各大学の現状の相違と問題意識によって、国立大学を2班に分け、私立大学を別の班にして3班を編成する。

総括斑  
3人の総括担当者は互いに連絡を取り合って、それぞれの班の研究成果を常に交換する。必要に応じて、国公立大学11校と私立大学5校の研究分担者すべてが集まる集会を開催する。この獣医学教育改善の研究成果は、わが国の国公立大学と私立大学のすべての獣医学部・獣医学科が共有しなければ意味がないので、その方向性を常に発信する母体となる。

国公立大学班  
第1班には、帯広畜大、岩手大、農工大、岐阜大に北大、東大、大阪府大を含める。これら6校で、獣医学教育改善を研究し、その具体化案を模索していく。小規模獣医学科における獣医学教育改善が、この班における最大の課題となる。6校がのような組み合わせで獣医学教育を改善していくのかの議論を実施し、結論を模索する。

第2班には、鳥取大学、山口大学、:宮崎大学、鹿児島大学が参加する。農学部から九州大学との交渉に理解を得られていない2校が、どのようにしたら理解を得られるのか、最大の問題となる。

私立大学班
私立大学獣医学部が国公立大学獣医学部・獣医学科と決定的に異なる点は、すでに獣医学部であること、少なくとも学生数に関しては欧米の獣医学部と比較してもひけをとらないことである。従って、私立大学が抱えている獣医学教育改善のための問題は、応用獣医学ならびに臨床獣医学を充実させるための教員数を如何に増員するかということにある。この班では、獣医学教育改善のための、学費の値上げ、経営の効率化、および国家による私立大学への補助など、広汎な問題を議論することになる。

研究方法

総括班においては獣医学に関する全体的な問題について調査、研究を行い、全体会議において研究成果のまとめを行う。また、各班においては独自の問題点について調査を行い、問題点への対応についても研究を行う。
研究の方法としては、内外の現状、すなわち我国における獣医学教育の現状に対する、学生、社会、地域の考え方、獣医学に対する社会の要請、社会の変化とこれに対する獣医学の対応の変化などを調査・研究する。さらに、欧米の獣医学および獣医学教育の現状について詳細に調査し、その内容を解析し、我が国の獣医学および獣医学教育のあるべき姿について研究を行う。

従って、本研究に要する費用の多くの部分が情報交換、情報収集ならびに討議などのための国内旅費と国外旅費、文献調査ならびにアンケート調査などの調査費用、および研究会費用と会議費用である。
さらに、本研究の成果は海外の関連学会において発表し、批判、示唆を得ることにより、国際的な獣医学教育のレベルを確保することも重要である。


 

文部省科学研究費基盤研究A

「獣医学教育の抜本的改善の方向と方法に関する研究」

(研究代表者 唐木英明:平成11〜12年)

研究の目的・方法と計画

 

 

 

 

研究目的

本研究の目的は、我が国の獣医学教育の抜本的改善の方向と方法を明らかにすることである。

1)研究の目的我が国の獣医学教育体系は、戦後、獣医学教育が再出発した50年以上前からほとんど変わっていない。すなわち、基礎、応用、臨床のいわゆる3本柱をもって教育を構築することを標榜しながら、技術教育より基礎教育を重視し、特に臨床分野と応用分野の教育は極めて不足している。基礎分野については臨床、応用より「相対的」には充実してはいるが、実質的内容は決して満足すべきものではない。そして、このような現状は獣医学教育の理念に基づくものではなく、講座数と教員数の大幅な不足という現実により止むを得ず生じたものであり、教育に人手がかかる臨床、応用分野の技術教育より、少数の教員で教育が可能な基礎知識教育に重点を置かざるを得なかった結果である。さらに、授業科目とその配置についても、新たな科目が少数加わったことを除けば、この50年間に本質的な変化はない。このような獣医学教育の現状は教員、学生、そして学生の受入先の3者にとって極めて不満足であり、全国の獣医学担当教員は主に教育組織の拡充・改組の面からこの問題の解決に組織的に取り組み始めている。このように、新しい体制で生れ変わろうとしている我が国の獣医学教育の現状に鑑みて、現在緊急に求められていることは「獣医学教育内容の改善の方向と方法を明らかにすること」であり、本研究はこれを目的とする。

2)獣医学教育の抜本的改善の方向と方法 獣医学教育内容の改善の方向については、教育の理念を明らかにすることが必要である。もとより教育理念は大学の自治の範疇であり、各大学が独自に設定すべきものではあるが、その議論の原点としての獣医学の理念を明らかにしておかなくてはならない。そして、この理念に基づき各大学が教育理念を定める際にも、大学の独自性、地域性とともに、国際的な観点および全国的な観点からこれを調整する必要があろう。このような獣医学および獣医学教育の理念を明らかにすることが本研究の第1段階である。

次に、このような理念を具体化するためには、これにふさわしい授業科目の設定とその配置について研究しなくてはならない。さらに、このようなカリキュラムの実施に適した教育組織の編成についても研究が必要である。その際、他大学との関係、地域的配置等を考慮し、調整も必要であろう。このような新しい獣医学教育実施の方法を明らかにすることが本研究の第2段階である。

注:獣医学教育の現状と改革の方向については、1998年9月7日に文部省高等教育局長に提出した要望書をご覧ください。

研究方法・計画

1)研究班の編成

 我が国の獣医学関係大学は国公立大学と私立大学の大別される。国公立大学はさらに、2つの連合大学院に参加する4大学ずつ、合計8国立大学と、独自の大学院を持つ3国公立大学のグループに分けられる。これらの大学は、獣医学教育機関として全体に共通の問題を有すると共に、グループとしての問題、そして各大学毎の問題を持つ。このような状況に的確に対応して本研究を推進するために、下図のような班編成を行うこととする。

総括班  国公立大学班 第1班   帯広畜産大学  岩手大学  東京農工大学  岐阜大学 

                第2班   山口大学  鳥取大学  宮崎大学  鹿児島大学

                第3班   北海道大学  東京大学  大阪府立大学

      私立大学班   酪農大学  北里大学  日本獣医畜産大学  麻布大学  日本大学

(注:研究実施の班編成については申請時と現在とでは若干違っています。)

(1)総括班においては全体にわたる問題を調査、研究すると共に、全体の調整を行う。総括班には国公立大学班と私立大学班の2つの班をおく。

(2)国公立大学班は、国公立大学に特有の問題点について調査、検討し、対策を研究する。この班にはさらに東連合大学院参加4大学を中心とした第1班、西連合大学院参加4大学を中心とした第2班、独自で大学院を持つ3大学を中心とした第3班を編成する。そして、それぞれの班における独自の問題と対応に関する調査と研究を行う。

(3)私立大学班には、私立5獣医科大学を含み、私立大学に特有の問題点について調査、検討し、対策を研究する。

(4)各大学における問題点についての調査・検討・研究の結果はそれぞれの上位の班においてさらに研究を行い、総括班においてこれをとりまとめる。

2)研究計画

本研究は我が国の獣医学教育の抜本的改善の方向と方法について、2年間で研究を行う。

初年度:初年度においては獣医学教育の抜本的改善の方向を中心に研究を行うこととし、獣医学の理念と獣医学教育の方向について調査、研究を行う。

2年度:2年度は、初年度の研究成果に基づき、獣医学教育のあるべき姿について、カリキュラム、施設、設備、教員数などの面から総合的な研究を行う。

3)研究方法

総括班においては獣医学に関する全体的な問題について調査、研究を行い、全体会議において研究成果のまとめを行う。また、各班においては独自の問題点について調査を行い、問題点への対応についても研究を行う。

研究の方法としては、内外の現状、すなわち我国における獣医学教育の現状、獣医学に対する社会の要請、社会の変化と、これに対する獣医学の対応の変化などの調査・研究、さらに、欧米の獣医学および獣医学教育の現状について詳細に調査し、その内容を解析し、我が国の獣医学および獣医学教育のあるべき姿について研究を行う。

従って、本研究に要する費用の多くの部分が文献調査、アンケート調査などの調査費用と、研究会費用および会議費用である。

 さらに、本研究の成果は海外の関連学会において発表し、批判、示唆を得ることにより、国際的な獣医学教育のレベルを確保することも重要である。

 

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