意 見 − 異 見   

     このページは自由に意見を述べることの出来る壁新聞のようなものです。 
     記名、匿名、ペンネーム、 所属機関のみなど、どの様なスタイルでも構いません
       (匿名、ペンネームの場合、秘密は厳守します)。ozaki@mail.vm.a.u-tokyo.ac.jpへお寄せ下さい。
     このホームページの目的にかない、建設的で真摯な議論を前提とするものであれば、
     原則として無修正で掲示します。

メーリングリストに寄せられた意見・質問の一部もこちらに公開しています。


IINDEX

以下、各項目ごとに掲載した日付順に並べています(新しいものが上)。


獣医学再編

 
 
獣医学教育体制の整備・充実及び学校飼育動物支援体制の整備に向けて  〜河村建夫・文部科学副大臣と五十嵐幸男・日獣会長らとの会談〜
(社) 山口県獣医師会会長  2003.6.23.
 中間 實徳
獣医学再編についてアメリカから思う 2003/2/7 池田正浩
国立大学における獣医学教育に関する協議 2003/2/6 唐木英明
淡青への原稿について 東勇三 2002/11/30
淡青への原稿について Taka Miyabayashi 付:Response 2002/11/29
淡青への原稿について 小林敦子 2002/11/28
淡青への原稿について 佐々木伸雄 2002/11/28
山口大学・加藤紘学長への要望 中間 實徳 2002/11/27
東京大学広報誌「淡青」に掲載予定の原稿 唐木英明 2002/11/27
獣医学教育改善と「中期目標・中期計画」
第7回 獣医学再編に関する東6大学懇談会議事録案 佐々木伸雄
今後の指針 特に旧帝大問題について 唐木英明 2001/12/25

文部科学省の「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」 中間報告 2001/9/12 唐木英明

昨今の情勢 唐木英明 2001/9/6
現状報告 2001/8/11
全国大学獣医学関係代表者協議会会長および国公立大学獣医学協議会会長に対する質問状への回答を読んで 鈴木勝士 2001/4/10
文部省は教員養成学部の再編を計画しています 唐木 2000/11/24
九大、府大、東大、北大、5私立獣医科大学という全体像が現実的である  2000/11/6
再編後の連大の扱いについて 2000/11/5
単科大学構想は現実的ではありません 唐木 2000/10/28
唐木です。再び緊急の検討をお願いします。 2000/1028
藤田原案について 2000/10/27
同じ過ちをくり返さないために、今やるべき問題点を整理します 唐木英明 2000/10/25
今、最後の踏ん張りどころです #2 唐木英明 2000/10/24
獣医学再編には獣医学教育の全体像(フィロソフィー)が必要です
今、最後の踏ん張りどころです 唐木英明 2000/10/16
獣医学科学生定員について 松山先生への返答 2000/10/13
学生定員の増加は慎重に 松山茂 2000/10/11
獣医学再編における選択肢 学生定員の増加 藤田正一 2000/10/10
島田先生への回答
唐木教授からのH12/8/20付けのメール(唐木メモ)「緊急のお知らせ」についての質問 鳥取大島田
第2回 獣医学教育改善に関する臨時委員会議事録
獣医学教育改善に関するWG会議議事録 藤田正一
オレゴン方式は? 伊藤勝昭
農学部長会議WGの設置について 追加 唐木英明
獣医学教育充実に関する農学部長WG会議座長メモ
鳥取大学講演会 (文部省高等教育局永山視学官)の要旨と感想 島田章則 
帯広畜産大学の新しい動き 山田純三
国立大学はだれのものか? 大学教官のものか、納税者のものか? 唐木英明
東大北大はどうあるべきか? 藤田正一
なぜ東大と北大は再編から除外されたか? 唐木英明
東再編に対する東北大学の対応 唐木英明
東再編に関する唐木教授の意見に対する 北大 藤田教授の意見
東再編に関する唐木教授の意見に対する 岩手大学内藤教授の意見
全国農学部長会議: 獣医学教育改善ワーキンググループ会合について
東日本の獣医学再編について 唐木英明
獣医学学生定員と教官移動の根拠 (浅川さんへの回答:唐木)
国立獣医学再編で学生定員と教官の移動はあるのか? その根拠は?(質問:浅川)
帯広畜産大学の態度、九大統合案に関する質問
専門大学院構想について(東大の対応)
専門大学院構想について(北大の対応)
獣医の専門大学院を創ろうとする動きがあると聞きましたが、、、(埼玉大の自助努力の記事をみて)

畜産からみた獣医学再編

 


獣医学教育
 
 
獣医学教育に関する基準と第三者評価について 布大学学長 政岡俊夫 2003/3/13
宮崎大学若手卒業生:獣医学教育に関するアンケート を読んで 佐々木伸雄
ゲルフ大学教員評価から学ぶこと  津曲茂久
アメリカの獣医学PBLの事情 Taka Miyabayashi
PBL情報 小川先生のメールをみて 山城茂人
赤間晴子著「アメリカの医学教育、続アメリカの医学教育」(日本評論社)を薦めます 小川博之
我が国の獣医学教育についての私見 津曲茂久
佐々木先生のご意見に対するコメント 山城茂人

PBLに関する意見 佐々木伸雄

獣医学教育におけるPBLの最新情報(北米における現状) 山城茂人
PBLについてのコメント 山城茂人
獣医学教育改善にどれほどの教員が感心を持っているのか?
若手教員減少の問題
獣医学科学生定員の適正数

大講座制について 高橋迪雄

 


独立行政
法人

大学評価
 
 
岩手、秋田、弘前大学連合のホットニュース
国立大の統合「推進を」 自民研究班提言案
山梨大、山梨医大の統合決定
国立大学法人化ニュース2題
山梨大学と山梨医科大学統合の新聞記事
私立は生き残りをかけて基準を達成できるのか? (HKさんの意見に対して)
大学評価・独立行政法人化・獣医学再編はセットで考えるべき!(KI&THさんに対して:HKより)
大学評価で地方大学はどうなってしまうのか?(KI&THさんからの意見)
独立行政法人問題新聞記事

独立行政法人化問題と獣医学再編

 


その他
 
 
佐々木のご意見に対する返答(柳井) 2002/5/7
The Second World Veterinary Day取り組みに対して 佐々木伸雄 2002/5/7
家庭動物等の飼養及びほかに関する基準について 中川 美穂子 2002/4/5

獣医学教育改善について思うこと: 受験生からのメッセージ 2001/1/5

鳥取大学若手教官のメッセージを読んで  汾陽光盛
ホームページ 知のディズニーランド・ハーバード大学 の紹介 真木康之
J Vet Med Sciのインパクトファクターが0.499になった 唐木英明
一臨床獣医師からみた日本の獣医学教育の問題点(要望) 小林敦子
獣医学再編を獣医師会からどう支援できるか?
産業界(水産業)から獣医師に期待すること
農水畜産物の安全性に獣医師はどうかかわるか?
日本獣医師会のインフォームドコンセント徹底宣言

来年度から国立大学の積算校費が大幅に削減される

 

 

(社)山口県獣医師会では、月刊の会報を発行しておりますが、この度標記の会談を持ちましたので、下記のような概要を会報7月号に掲載することにしております。
関係者にもお届け致します。  平成15年6月23日   中間 實徳

 獣医学教育体制の整備・充実及び学校飼育動物支援体制の整備に向けて  〜河村建夫・文部科学副大臣と五十嵐幸男・日獣会長らとの会談〜
    
         (社) 山口県獣医師会会長  中間 實徳

去る6月18日(水)午後、文部科学省の副大臣室で日本獣医師会の五十嵐会長、辻副会長、大森専務理事、朝日事務局長それに小職が河村文部科学副大臣と会談を持ち、下記のような要請を行った。

この会談については、河村副大臣が山口県選出の衆議院議員であり、また山口県農業共済組合連合会長を務めておられたことから、小職も同共済連の家畜損害評価委員などを長らく務めていて、顔なじみということから、五十嵐会長から是非会談には同席して欲しいとの事であった。

初めに、五十嵐会長から河村副大臣に要請することになった経緯を説明し、「要請書」、「獣医学教育の在り方に関する懇談会の答申」、「学校飼育動物の診療ハンドブック」及び「学校における望ましい動物飼育のあり方」についての資料を手渡して説明を行った。

1. 獣医学教育体制の整備・充実について

大森専務理事:来年度から大学の独立法人化が始まるが、

1) 国指導で獣医系大学の学部への再編を決定していただきたい。西日本については、関係する獣医学科の意向を踏まえ、九州大学に獣医学部を創設していただきたい。
2) 公立・私立大学についても相応の予算措置を講じてもらいたい。少なくとも国家試験の18科目に相当する講座が必要である。

五十嵐会長:平成13年に黒川 清・日本学術会議副会長を座長とする懇談会から「獣医学教育の在り方に関する懇談会の答申」が出されており、この中にも10の国立大学は3ないし4つに統廃合するのが適当だと謳っている。

河村副大臣:面談して正式に聞くのは今回が初めてであるが、文部科学省では今年1月「国立大学における獣医学教育に関する協議会」を発足させ、現在検討中である。江藤代議士からも実現に向けて早急に努力するように言われている。

中間県獣会長:大学の独立法人化に向けて、各学長は特色ある大学をと言って各大学に自助努力で獣医学部を創ると言っておられるが、全国的に大局的見地からみて西日本には九州大学に獣医学部を創るようにしていただきたい。

河村副大臣:国の経済事情から「スクラップ・アンド・ビルド」でないと学部は創れない。

2. 学校飼育動物支援体制の整備について

辻副会長:学校での動物飼育は、子供の情操教育に必要であり、動物の福祉や衛生面を獣医師が指導するように持っていきたい。幾つかの県では予算も付けて積極的にやっているところもあるが、獣医師のボランティア精神でやっていくようにしたい。

大森専務理事:ぜひ教育委員会が主体的役割を果たし、獣医師会との委託契約による学校飼育動物獣医師の委託の仕組み作りを支援していただきたい。

河村副大臣:山口県ではどうか?

中間県獣会長:昨年の山口県自民党政策聴聞会でも、獣医師が学校の先生方に飼育法や衛生面の指導をするようにしたいと説明した。一昨年は県生活衛生課や県教育庁へも行ったが、教育庁では学校長に任せてあるとのことで、消極的であった。

要請の状況は、以上のとおりであったが、最後に文部科学省から「獣医師組織の法人認可の問題については、農林水産省の所管事項であり、文部科学省がコメントする立場にない」との話があった。

最後に河村副大臣と全員が握手を交わし、お礼を述べて副大臣室を辞した。


獣医学教育に関する基準と第三者評価について
各位 麻布大学学長 政岡俊夫 2003/3/13

科研MLで「国立大学における獣医学教育に関する協議会」設置のお知らせがあり、その後、いくつかの情報やご意見を拝聴することができましたが、私学の関係者の一人として第三者評価の関係から気になることがあり、私見を述べさせていただきます。

学校教育法第69条が改正され、平成16年4月より施行されるにともない、全ての大学は7年に1度、文部科学大臣から認証される第三者評価機関による評価が義務付けられます。

現在のところ、認証機関としては、独立行政法人大学評価・学位授与機構があるだけですが、今後、大学基準協会、日本技術者教育認定機構、日本私立大学協会が設置する評価機関等が認証機関として予定されております。

国立大学は学位授与機構で評価を受けることが予想されますが、私立大学はこれから認証されるであろう大学基準協会等で評価を受けることが予想されます。一方、大学基準協会は日本における獣医学教育に関しては、平成9年2月に改正した「獣医学教育に関する基準」を持っており、獣医学部を持つ私立大学が基準協会に評価を申請すれば、この基準で持って評価を受けることが十分予想されます。

いわば私立大学は、向こう7年間でこの基準を如何に達成するかが問われることになります。現在、文科省に設置された「国立大学における獣医学教育に関する協議会」に期待い致したいのは、国立大学においても大学基準協会の獣医学教育基準を如何にして達成するかの方向性をぜひ示していただきたく、私立大学の関係者の一人として期待を持って結論を待ちたいと考えております。


宮崎大学若手卒業生:獣医学教育に関するアンケート を読んで
  佐々木伸雄
  2003/2/19

宮崎大学の若手卒業生が忙しい中で行った獣医学教育に関するアンケートを興味深く読みました。その中で、臨床分野に進んだ人だけでなく、公衆衛生分野(主として公務員)に進んだ卒業生が、臨床教育の貧弱な点を大きな問題点ととらえていることは、非常に重要と思われます。従来ややもすると臨床と公衆衛生はそれぞれ異なる分野のようにとらえる向きもありますが、実際には、臨床をよく知り、また公衆衛生関連の伝染病、微生物学、寄生虫学等にも十分な知識と技術がないと公衆衛生を担当することが困難であることを示すものと思われました(当然のことですが)。

また、共済等、産業動物臨床に関わる卒業生は、日本の大学では、臨床といっても小動物だけではないか、という批判を載せています。これは確かに重要な問題で、多くの獣医系大学では、多くの小動物の症例が殺到し、少ない臨床教官はそれに忙殺されている現状です。したがって、どうしても学外に出なければならない産業動物獣医臨床の現場から離れ、学生に対する教育も小動物中心に移行しています。しかし、獣医学の基礎は比較動物学であり、単にある種類の動物の獣医学を教えればよい、とはとうてい言うわけには参りません。また、日本の今後を考えれば、産業動物の獣医学は我々が大学で基礎からあるレベルの臨床や公衆衛生まで教育する義務があります。

これらを解決する唯一の方法が再編整備による大学教育組織の拡大であることは間違いありませんが、少なくとも、現状で少しでもこれらを改善することも各大学は考える必要があると思います。

一方、各大学の病院の収入実績についても触れられています。東大としては、アンケートにも触れられていますが、もちろん地域、新しい機器の導入、などの利点はあると思います。しかし、我々が考える最も重要な点は、臼井先生をはじめとする多くの先達たちの臨床に対する姿勢、飼い主や紹介してくださる先生に対する努力といった日々の積み重ねの結果が、今日の状況を作り出したものと理解しております。問題は、それだけ症例が多いにも関わらず、それを学生教育には十分に生かせてない点だと思います。

いずれにせよ、このようなフランクな考えがこのリストに発表されたことは非常に意義のあることと思います。できれば、これに刺激されて各大学のOBが同様のアンケートをお取りになり、その結果をまた公表していただくと非常にありがたく思います。現在、サーバー変更のため、新規のメーリングリスト加入を制限しているとのこと、このアンケートのまとめ役である、宮崎市の伊東輝夫さんも入っておりません。彼としては、このアンケートに対する批評を是非聞きたいと言う希望を持っており、是非これをお読みになった方から、以下のメールに直接、あるいはここの場に投書され、同時にその内容を伊東君に送っていただきたいと思います。

伊東さんのメールアドレスは、Teruo Itoh <t-itoh@vet.ne.jp> です。是非意見をお送りください。あるいは、このメールに送ってくだされば、それを本人に転送いたします。


唐木先生御机下 2003/2/7

ご無沙汰しておりますが、お元気でしょうか。

宮大家畜薬理の池田です。アメリカからメールしています。

渡米してから早いもので、一年と十ヶ月、滞米も残すところ二ヶ月となりました。残りの期間を有意義に過ごすべく、毎日実験と格闘しているところです。

さて、文科省に協議会が設置されることを聞き及びましたので、それに関しまして、私の意見を聞いていただきたくメールいたしました。先生が若輩者の意見に耳を傾ける人格だと言うことにつけ込みました。済みません。

言わずもがな、教育は国家の基本的な要素の一つです。それを変革することは国家百年の計でもあるわけです。最近になり、独法化の動きが俄に進み始めました。現在の大学組織になってから直面する初めての大きな改革だと言われています。しかし実際には、その目的は怪しいものだと言わざるを得ません。率直に言えば、公務員減らし以外に妥当な理由が見つかりません。ノーベル賞の昨年度のダブル受賞や3年連続受賞などで日本は沸いたようですが、ご承知のように、田中さん以外の受賞対象は全て、1990年以前の、現在の形態を備えた、しかし遙かに貧乏であった大学組織の中で行われた仕事です。現在の大学の形がとりわけ悪いとは言えないことは、これを見ても明らかです。しかし、アメリカをはじめとする欧米諸国に、これから先、研究の面で戦っていくためには、また、社会から要求される教育に答えるためには、現在の大学の形では、不十分なのかも知れません。不備な点を解析し、それに基づいて改革するのが道筋だと思いますが、今回の独法化にはそのような側面は見受けられません(私が実感していないだけかも知れませんが)。個人的には全国30大学案のような、血を流してでも、大学を再編統合してその規模を大きくし、それにともなって質も向上するようなドラスティックな改革案に賛成です。私が今いますJohns Hopkins Univは、全米でも医学研究ではここ数年Harvardについで二位にランクされています。臨床部門は一位だとも評価されています。理由はいくつかあると考えられますが、大きな理由は、Departmentが大きく、何か新しいことを始めたいと思ったときには、近くの研究室にエキスパートがいることと、教授が研究を指導するふりをしながら、最先端の研究に関する教育を受けた大学院生から、最先端のことを逆に学び、その知識をもとに、新しいことをどんどん自分の研究分野にも取り入れて推進しているからだと思います。現在の日本でも、組織を大きくするだけでも、いろんなバックグランドを持った人が集まるわけですから、研究レベルが僅かながらアップしていくことが考えられます。そしてその後、大学院教育が充実すれば、さらに進んでいくものと思います。そうなれば欧米諸国にも対抗できる研究環境が構築できそうです。国家百年の計にあたって、単なる独法化程度では、大した改革にはならないし、また、これを嚆矢として、step by stepに良くなるんだと叫んでみても、日本の歴史から見て、改悪でない大学改革を皆が認識できるようになるまでには、30年以上はかかるのではないでしょうか?もし改革をするのであれば、血を流す改革が必要です。最近の日本の若者の元気のなさを憂慮する意見が跋扈していますが、アメリカの大学に身を置いて両学生を較べてみて、私自身も本当に危惧しています。彼らが担う日本の将来はどうなるのか?昔、世界を制したヨーロッパ諸国の現在の姿のようになっていくのではないか?とっても不安です。この状況で、時間のかかる、しかも魅力のない大学改革を行った場合には、若者の向学のエネルギーも一層萎え、将来の日本の姿に輝かしいものを想像することができません。

獣医学にとっては、独法化と再編整備を迎え、改革する絶好のチャンスを得ています。独法化後にいくつかの見直しはあると思いますが、この機会を逃したら、ドラスティックに変えることは、この先、近未来にはもはや難しいでしょう。この機会に10年、20年先を考えた改革ではなく、国家百年の計となるような改革、しかも他の学部の再編の手本となるような改革をする必要があると感じます。早い機会であれば、他学部も独法化の後に我々を追従でき、引いては、充実した大学組織が生まれる可能性もあります。また、改革の理念として、ここ数年来、獣医学教育を改善することばかりに重きが置かれ過ぎていることにも疑問を感じています。大学は研究する場でもあります。先生のラボは別にしても、日本の多くの獣医大学にある研究室の研究レベルは、お世辞にもすばらしいとは言えないのが現状でしょう。生命科学を研究するのに垣根はありません。他学部と互していける、あるいはそれ以上の生命科学を研究する研究室も獣医大学の中に作る必要があるのではないでしょうか。血を流しても、いくつかの拠点大学に獣医を再編することこそが教育、研究の一層の充実につながり、世界にアピールできる獣医学教育、研究の場を日本に築くことになると思います。そうすれば、学生もそういうところで学べることを誇りに感じ、情熱を持った元気な獣医師に育ってくれると思います。

協議会は文科省の後ろ盾があるものと推察しています。ここででた案には実行力が伴うのでしょう。トップダウンも可能かも知れません。もしそうであれば、小手先の案ではなく、将来を見据えた最終案を協議会から答申し、血を流してでもそれを実行し、獣医学の将来が明るくなることを切に願っています。

最後まで稚拙な文章におつきあいいただきありがとうございました。

申し遅れましたが、少し早いかも知れませんが、御退官おめでとうございます。帰国が最終講義に間にあわない非礼の段、お許し下さい。また、獣医学会が盛況であることをお祈りしております。御退官後も、学会等でお目にかかることができるのでしょうか?その時はまた、変わらぬご厚情を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

池田正浩


唐木です。 2003/2/6

昨5日、午前10時から12時まで、霞ヶ関において、別紙委員全員が出席して、第1回「国立大学における獣医学教育に関する協議会」が開催されました。その概略をお知らせします。

最初に高等教育局長から協議会の目的について、資料1に記載されているように、「国立大学における獣医学教育の充実を図るための具体的な推進方策について協議を行う」ことであることが明言され、協議の期間を1年程度とすることが紹介されました。

続いて座長の選出に入り、梶井委員が選出され、協議会を原則公開とすることが認められました。

吉村課長補佐が獣医学教育の現状と教育改善の歴史について説明した後、自由討論に入り、卒業生の就職先、畜産業、畜産教育との関係、他学部との連携の可能性、海外での獣医学教育など幅広い問題についての意見や質問が出され、議論が行われました。また、古在委員(農学系学部長会議会長)から、同学部長会議もこの協議会を支援することが述べられました。

この問題に関する背景の知識をある程度そろえるために、このような自由討議を次回も続けることとし、第1回は終了しました。

文科省も委員も、教育の改善が必要であることは認識されていますが、その方法について、私たちが長年考えてきた案に近い形で、協議会が具体的に提案できるよう努力をします。

この協議会は傍聴可能ですので、興味がある方は来ていただきたいと思います。

*************************
資料1

国立大学における獣医学教育に関する協議の実施について

1. 趣旨
獣医学教育については、学部4年制教育から学部及び大学院修士課程の積み上げ式6年制教育に移行し、その後、現在の学部6年制教育の実施と逐次改善が図られてきたが、近年、国際化の進展等に伴う家畜感染症の予防の重要性が高まっているなど、より充実した獣医学教育の展開が課題となっている。
このような社会的要請を踏まえ、獣医学教育に関する各般の関係者が、国立大学における獣医学教育の充実を図るための具体的な推進方策について協議を行う。

2. 協講事項
(1)獣医学教育の現状と課題
(2)国立大学における獣医学教育研究組織の在り方について
(3)その他必要な事項

2. メンバー
メンバーは別紙とし、必要に応じ、別紙以外の者も加えることができる。

○ 口頭による追加
 協議会は一年を目処に結論を得る

○ 審議事項
 協議会は原則公開とし、傍聴を認め、議事録を公開する

(別紙)

〔五十音順〕

大森伸男 社団法人日本獣医師会専務理事
梶井 功 東京農工大学名誉教授
加藤 紘 山ロ大学長
唐木英明 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
岸 玲子 北海道大学医学研究科教授
喜田 宏 北海道大学大学院獣医学研究科長
黒木登志夫 岐阜大学長
古在豊樹 千葉大学園芸学部長
酒井健夫 日本大学生物資源科学部教授
島田寿子 弁護士
杉村征夫 三共株式会社専務取締役研究本部長
鈴木直義 帯広畜産大学長
長尾 拓 国立医薬品食品衛生研究所長
林 良博 東京大学農学生命科学研究科長
藤原宏志 宮崎大学長
松原謙一 農林水産省生産局畜産部長
山岸 哲 山階烏類研究所所長

計17名



唐木先生、こんばんは。

先日からの諸先生の貴重な意見を拝見し、同じように思っているものです。
しかし、臨床に携わる教官の増員だけでは解決されると思いません。
国立系大学の臨床教官に顕著ですが、論文の数を追求して真の臨床学を体験していないようです。
米国のように大学と開業医との人的交流が必要かと思われます。
日本では一度大学教官に採用されると一生大学人としての保証がありますので、良い意味での学問的な競争が欠けているように見受けます。

先生の北大獣医学部設立50周年記念祝賀会での講演を拝聴して、心から賛同しました。
いつまで我々小動物臨床家が、獣医関係大学卒業生の臨床教育を、一から手ほどきしなければならないのか情けない教育環境です。

大学再編問題に置いても、これからの獣医学教育のための論議というより、何処に獣医大学を持ってくるかという綱引きの論議に終始しているようで残念で
す。

市井の一臨床かとして意見させて頂きました。

東 勇三

札幌市南区川沿3-3-4-28
もなみ動物病院

Response 唐木英明

東 先生、貴重なご意見ありがとうございます。大学の先生は臨床をいくらやっても評価されず、論文を書かないと教授になれない。そんな現実が臨床教育をゆがめているのは、獣医学も医学も同じです。全国協議会では臨床への貢献を業績として評価するよう各大学にお願いをしてはいますが、その実施状況はまだまだのようです。先生がおっしゃるように、大学が閉ざされた空間ではなく、臨床経験が豊富な方を教員に迎え、交流ができるシステムを充実することが大事です ね。

教育についても、昔から獣医学教育は基礎を重視すべきであるという意見が強く、臨床は軽視される傾向がありました。そのおかげで基礎研究の分野では獣医師が大きな顔をしているというプラスもありますが、その陰でで臨床ができない卒業生を出すのであれば本末転倒ですね。それに、薬学か理学かわからないような基礎研究者を育てても、あまり意味がありません。臨床を知って初めて獣医学者らしい貢献が可能だと私は考えています。東大では基礎教育と臨床教育のバランスをどのようにとるのか悩んだ末、6年生はどちらかを選択する制度も考えていますが、教育の時間が限られ、教員数が限られている中で、基礎と臨床をどのように配分するのかは将来の難しい課題です。

再編については、私たちの本意は教育が可能な教員数を確保することで、どこに設置するのかは2番目の問題です。議論を高めるために設置場所を提案しましたが、そちらのほうばかり取り上げられている現状は意図するところとは違い、残念な状況です。

最後に、このような形で関係者の幅広いご意見をいただくことは、今後の方針を考えてゆく上で大変に参考になります。ありがとうございました。

唐木

Response 東 勇三

唐木先生、返信ありがとうございました。

実は、自分は札幌市小動物獣医師会の会長を仰せつかっています。
札幌市は人口180万人に動物病院が140軒と、超過密状態です。
こういう現象が生じる一因として、臨床知らずの卒業生を研修勤務医として安く使用出来るから、
多く雇っている状況が見られます。
人医の世界では看護士がするような業務を若い獣医師がしているのが現状です。
このような職環境ですから、2年もすると未熟でも開業して高所得を目指すわけです。
卒業後の進路の50%が小動物志向という現象は喜ばしい状況ではありません。
人医並みに、いわゆる動物看護士が国家的統一資格が確立し資質が向上しますと、使い捨て的存在
の若手獣医師の数が減少するでしょう。

獣医学教育の在り方と同時に、適切な獣医師数についても議論していただければ幸いです。
獣医学生の低減と同時に教官数を増加してください。

今後のご活躍に期待して・・・

東 勇三


唐木先生
 米国獣医大学臨床教員として、私見を述べさせていただきます。間違っているかもしれませんが、日本の大学では法律上、学生が実際に飼い主の動物を診療することができないのではないでしょうか。アメリカにおいては、各州において、学生は直接臨床に参加できます。あるいは、学生が参加しないと、獣医教育病院は回らないという状況だと思います。アメリカでは日本に比べ、テクニシャンの数も多く、また、レジデントが臨床においては、一番時間を使ってくれるわけですが、学生たちが問診を始め、患者の世話(内科や外科では週末や夜間の世話も含まれます)をし、各検査結果をレジデントや教員に報告し、入院患者の経過を報告する際に飼い主との連絡係になったりというふうに、臨床に直接参加することによって日常の診療ができていると思います。学生という立場で飼い主に対応するのではなく、獣医師として対応するように指導することにより、彼等の獣医師としての責任感、社会における役割が直接、身に付くように感じます。当フロリダ大学では、2年生(全4年制)が終わると同時に、7か月間、3年生で臨床に入ってきます。2年生の後期試験が終わると、白衣の授与式(Coating Celemony)があります。家族が遠方から駆けつけ、卒業式と同様の儀式ですが、中間点を超え、ようやく実現する臨床への門出を祝うという意味合いのものです。23、24歳くらいの3年生ですので、臨床現場での失敗、知識不足、飼い主との応対の不手際さもあり、また、ジーパンやTシャツを卒業し、きちんとした服装で毎日、臨床に入るという生活になります。内科に入った学生が2週間のローテーションの際に、自分が担当した全ての入院患者が安楽死か死亡に至ったと泣いている姿を見たこともあります。私たち臨床教員に取っては、4年生の卒業式を境に、天国と地獄のような大きな変化を迎えます。しかし、3年生における経験が4年生の後期に再度、臨床に戻ってきた際に、大きな自信につながっていて、教員として、彼等を獣医師として卒業させるという満足感が得られます。フロリダ大学の卒業生は80人中20人近くがインターンのマッチングに合格します。その理由は3年生の前期に臨床を経験し、人間としても、獣医師としても成長しているからではないかと思います。
 学生として実習という形で臨床を見学するのと、実際に獣医師として臨床を行うことには大きな違いがあるように思います。毎年、500人以上が小動物の臨床に出ていき、将来さらにその数が増えていくと思われる中、臨床(特に、小動物)獣医師が共通意識を持ち、社会的な評価を正しく受けるには、獣医教育病院という充実した環境下で直接、臨床に携わり、教員や大学院生からの指導を受けることが必要ではないかと思います。
 日本の獣医教育事情や教育法を詳しく知りませんので勝手なことを書きましたが、獣医教育病院を介し、教員の下、積極的・直接的な臨床教育がなされることを日本人臨床獣医師として切に望むと同時に、学生諸君の積極的な臨床への取り組みを期待します。

Taka MiyabayashiBVS, MS, PhD, Dipl. ACVR
Associate Professor, Radiology
Department of Small Animal Clinical Sciences
College of Veterinary Medicine
University of Florida

Response 唐木英明

Miyabayashi先生、米国での獣医学教育の様子をお知らせいただきありがとうございます。
 日本では獣医師資格がない学部学生は法律上動物の診療ができないことが教育上の障害になっていることは事実です。従って、法律を変更してこれを可能にし、米国のように充実した臨床実習を行うことが理想ですね。
 しかし、現在の法律下でも工夫をすれば方法はあると考えています。たとえば、動物の所有権を一時的に大学に移し、「実習用動物」として教員と学生が責任を持って治療に当たり、適当な時期に所有権をもどすことも可能でしょう。勿論その前提として、飼い主と大学の間の強い信頼関係がなくてはなりません。そして信頼関係の構築のためには、患畜の治療に当たる前に、学生には「問題解決型教育」(PBL)などを通じての実務型の実習を重ね、大学所有の動物を使って診療のシュミレーション行っておくなど、十分な教育を受けていることが必要でしょう。
 問題は、このような事前の教育さえ十分に行うだけの教員配置が現在の日本の大学にはないことです。まずそこから解決しなければならないと考えています。
唐木


2002/11/28
唐木先生
 声を大にしてこのような文を「淡青」以外にも投稿なさってください。
人間の医学生でも「まず人を診る」ことができるよう臨床研修を努力義務から義務に戻そうとしている現在、獣医学生の臨床教育の不備をぜひ獣医師、獣医学関係者も含めた一般人に知って欲しいです。ほとんどの飼い主は、または動物愛護や福祉に関っているひとでも、自分の愛するペットの獣医さんがどんな教育を受けてきたかなど知りません。また大動物や基礎研究にたずさわっておいでの獣医師やお役人のなかにはペット、コンパニオン・アニマルがいかに現代人の生活に重要な位置を占めているか、卒業生の半数は小動物臨床についていること、十分な問診の仕方、内科外科の実習を受けないため如何に多くの動物と飼い主が不必要に悲しい目にあっているかを知らない方が多いと思います。獣医学生のなかには臨床実習が不足している事に気づかないで、または仕方ないとあきらめ、自身が十分な技術と獣医倫理を身に付けなかった「親方」のもとで卒後見習をする人が少なくありません。その結果、飼い主から怒りと悲しみにあふれた苦情を申し立てられる事が起こりうるのです。将来臨床を希望している学生の中にも、卒後はなかなか出来ないから研究と論文書きの勉強もよいと言う学生もいますが、それは本から得た知識だけでは生身の、病気の動物を目の前にして的確な診断、
適切な治療をし、飼い主と意志の疎通がはかれることにはならない、十分な指導を受け、繰り返し練習する必要があることが分っていないからです。6年間と言う長い時間と、教育費を出してくれている両親の苦労が無駄にならないよう、われわれ皆が頭をしぼり、努力を重ねて臨床教育の改善を図りたいですね。
小林敦子


2002/11/28
唐木先生:

原稿の内容は実際の現状と思いますし、どのような波紋があるか分かりませんが、結構だと思います。一カ所、基礎系の教育の努力・・・は良いのですが、臨床系についても、教官としては非常な努力を払っています。しかし、専門化し、より高度な教育をすることが不可能になっている、ということと思っております。このあたりのニュアンスを字数制約のあることと思いますが、多少加えていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
佐々木伸雄



2002/11/27
唐木先生
 御無沙汰致しておりますが、ご健勝でご活躍の由、何よりです。
江藤議員からの河村建夫委員長宛の「お願い」および東大広報原稿をお送り戴き有り難う御座いました。
 去る8月12日に五十嵐・日獣会長と唐木先生および日獣・大森専務他我々で、山口大学加藤 紘学長と会談を持ちましたが、その後、学長からは何の連絡もありませんので、私は先日下記のようなお願いを致しておりますので、念のためお送りいたします。 

   記
山口大学・加藤紘学長殿
 去る8月12日、東京から大変多忙の中、五十嵐幸男・日本獣医師会長、唐木英明・全国大学獣医学関係代表者協議会会長(東大大学院獣医学科教授)等に来て貰い、学長との会談を持たせて頂きましたが、72名の教官とプラス20名ほどの技官等を擁する獣医学部をどのように作るかという実現可能な具体策が求められております。
 その時の会談で、加藤学長は山口大学に獣医学部を創設するという件について、鳥取大学との話を進めていると表明されました。その折り、まだ鳥取大学からは返事がないので待っているという事を申されました。あれから既に3か月以上も経っておりますが、その後加藤先生は学長としてどのような動きをされたのでしょうか? 先般その件を含めて山口県農林部の上田正士審議監と一緒にお伺いしてもう一度お話を聞かせて頂きたいとお願い致しましたが、ご多忙とのことで残念ながら断られました。今月29日までに文書(電子メ−ル)でお返事を頂きたいとお願いしておりますが、未だに頂いておりません。私は日本獣医師会理事会へ出席のため30日(土)朝上京します。
 加藤学長のその後の取り組みをお聞かせ頂きたく29日までにご返事を頂きたく再度お願い申し上げます。なお、これまでの経緯について、私は山口県獣医師会報に掲載する予定であることを申し添えます。
   11月22日
      社団法人・日本獣医師会理事  中国地区連合獣医師会会長
      社団法人・山口県獣医師会会長  山口大学名誉教授   
                        中間 實徳

2002/11/27
東京大学広報誌「淡青」に掲載予定の原稿
ご意見を頂ければ幸いです。唐木

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診療ができない獣医師たち

 本学に獣医学科が設置された明治時代には陸軍の重要な輸送手段は馬であり、戦前の獣医学教育の主な目的は馬だった。戦後は軍馬も農耕馬も消え、畜産振興政策とともに教育目的は牛、豚に変わった。次いで高度経済成長のなかで犬や猫が家族の一員になり、人間と同じ高度医療が求められるようになった。また輸出入の増加とともに、日本の畜産に壊滅的な打撃を与える口蹄疫などの伝染病や、狂犬病や牛海綿状脳症のように家畜から人間に伝染する病気の侵入と拡大を防ぐ仕事、輸入畜産食品の安全を確保する公衆衛生の仕事、そして薬や食品の開発を支える基礎医学の研究も獣医師の重要な任務になった。
 こうして国民の身体と心の健康に責任を持つようになった獣医学は、国際的にほぼ共通する20数科目の教授と臨床教育の充実とを目指して1978年に医学、歯学に並び6年制教育を実施した。ところが以後20数年間の関係者の努力にもかかわらず、現在もまだ必要な教員ポストが確保できていない。大学基準協会が定めた最低基準では18名の教授を含む72名。本学の獣医学科は協力講座を含めても約50名。これでも基礎教育はかろうじて実施できる。というより基礎教育だけは充実する努力を続けている。そのしわ寄せは人手と時間がかかる臨床教育に及び、学生は本来履修すべき臨床実習ではなく、教員数が少なくても可能な卒論研究に多くの時間を費やす。
 毎年巣立ってゆく知識はあっても診療ができない獣医師たちは、6年制教育実施以前と同じように開業獣医師のもとで見習い修行をし、技術を身につけなくてはならない。全国16の国公私立大学獣医学科のなかで、本学に限ってこんな問題があるわけではない。獣医師になりたい若者は、教育の実情が分かっていても獣医学科に入学するしか選択肢はないのである。ノーベル賞受賞に沸き立ち、世界の一流を自認する本学の片隅での教育の現状である。


2002年7月29日
獣医学教育改善と「中期目標・中期計画」
全国大学獣医学関係代表者協議会
会長 唐木 英明

既にご存知のように、平成13年10月16日〜17日に開催された第105回全国農学系学部長会議において、「獣医学教育改善のための基本方針」が確認された。その主要な部分は以下のとおりである。

(1)日本の獣医学教育組織の適正な規模

我が国の獣医学教育研究組織は、大学基準協会が提示した基準注を満たすことが望ましい。しかし、獣医学教育の改善が急を要するので、これに準ずる規模でも、当面その設置を可として支援する。新教育研究組織の規模は、72名以上の教官から成ることが望ましいが、それが直ちに実現できない場合でも、当面これに準ずる規模としては、18名の教授を含む54名程度の教官から成る組織が必要最低限であろう。

注専任教員数は、学生入学定員60名までの場合72名以上とする。このうち、教授、助教授又は講師の合計数は36名以上とし、そのうち18名以上は教授とする。入学定員が60名を越える場合は、その越える入学定員に応じて相当数の教員を増加するものとする。

(2) 獣医学教育改善の方法

自助努力で獣医学教育の改善が達成出来ない場合には、他大学獣医学科等との再編などの道を考える。新たな再編は、全国を5ないし6地区に分け、産業基盤を考慮して、地域的に偏らないことに配慮し、なるべく既存の施設などを利用できるよう努めることが望ましい。

(3) 農学教育研究組織改革の一環としての獣医学教育改善

獣医学が農学の一分野として存在する以上は、獣医学教育改善に向けた改革は必然的に農学教育研究組織改革の一環である。したがって、上の(1)及び(2)を具体化するためには、獣医学科を有する大学のみならず、全国立大学農学系学部の教育研究組織の構造改革を視野に入れて議論を進めることが不可欠である。

獣医学教育の改善については6年制教育実施以前から検討が行われ、抜本的な改善が行われない限り6年制教育の内容の充実が困難であることが強く指摘されていた。そして、獣医学教育関係者は文部省(当時)との全面的な協力の下に再編整備による教育充実を目指した。しかし、組織の現状維持を教育改善より重視した当時の学長の動きなどにより時間切れとなり、6年制教育が見切り発車された。そして、修士課程の廃止により大学院を持たない獣医学科となる新制8大学では「緊急避難」として4大学ずつ2つの連合大学院設置が認められた。

獣医学教育関係者は引き続き文部省と協力して「再編整備の旗は降ろさない」ことを方針とし、再編整備による教育改善と連合大学院の解消を出来るだけ早い機会に実施する努力を続けてきた。獣医学関係者の中からは、「文部省が大学に獣医学教育改善の指示をして欲しい」という要望も強かったが、大学の自治がある以上その実施は各大学の決定に待たなければならなかった。そのような流れの中で出された全国農学系学部長会議の方針は獣医学教育改善の必要性を再確認し、改善の方法論にまで踏み込んだ方針を明らかにしたもので、その意義はき分けて大きい。それは、全国農学系学部長会議という公式の会議において自主的に出された方針については、関係農学部長および所属大学がその実施に道義的責任を負うからである。

時は将に大学法人化実施目前であり、各国立大学は来年4月から6月頃に提出が求められると予想される「中期目標・中期計画」の準備に多忙な毎日を送っている。そして、そのなかに全国農学系学部長会議の方針を踏まえた獣医学教育の改善の計画を加えなくてはならないことは、すでに文科省との話し合いの中でも繰り返し指摘されている。各大学は最低限72名以上の教官から成る獣医学教育組織を構築する(発足時は54名程度の場合にはこれを72名以上に充実するタイムテーブルを示す)責任があり、それなしには中期目標・中期計画が認められることは無いであろう。

さらに、この全国農学系学部長会議の方針は連合大学院にも波及する。そもそも連合獣医学研究科は先に述べたような事情により緊急避難的に発足した、他に例が無い広域連合大学院であり、可及的速やかに解消すべきものである。従って、獣医学教育充実の具体策を述べた中期目標・中期計画には、当然、連合大学院の解消と、独自の大学院設置が構想されなくてはならない。さもなければ、大学院を持たない獣医学部になるからである。一部の大学からは「連合大学院解消反対」の声も聞かれるが、そのような主張により他大学の教育改善の努力を妨げることが許されるはずはない。

全国農学系学部長会議による基本方針の確認は、その実施を関係大学の責務とするものである。仄聞するところによれば、このような状況を十分に把握して対処を始めている大学がある一方、このような重大な状況をほとんど把握していない大学もあるという。獣医学教育関係者から大学執行部にこのような情勢を十分に伝えて、早急に対処するよう要請して頂きたい。

最後に、獣医学教育関係者が掲げている再編案について意見があることも聞く。勿論、建設的な提案は大いに歓迎するが、この時期に「実施可能な対案なしの反対」は社会的常識からも決して許されないことも明記しておきたい。   

以上


佐々木のご意見に対する返答(柳井)

佐々木先生
早速のメイルありがとうございました。
また,今回の企画に御理解を賜り,重ねてお礼申し上げます。御質問につき,お答え いたします。柳井

<佐々木>
非常に良い試みだと思います。是非成功裏に終了することを願っています。
昨年、すでに説明されていたものと思いますが、このような運動に関し、各WVA 加盟国にどのように取り組んで欲しい、といった付帯条項はあるのでしょうか?
付帯条項はなく各国の自主に任されているようです。 上記のウェブサイトを見る限り、まだ始まったばかりで各国での取り組みにはばらつきがあるようですが、特に公衆衛生分野に関する獣医師の役割を社会に認識してもらうために は大きな力になり得るように思われます。

まさにその通りと考えます (後述)。

<佐々木>
とすると、昨年、本年は岐阜大、ファイザー製薬に自主的に取り組んでいただいたわけですが、来年以降に関しては、もっと大きな規模での取り組みを考慮されても良いものと思います。例えば、WVA という組織を考えれば日本獣医師会ないし日本獣医学会、あるいはその両者が協力してその母体となって取り組むべきものかも知れません。

将来的に,獣医師会および獣医学会が対応して頂き,全国的な広がりを期待しております。

<佐々木>
柳井先生に、再度この運動の背景、今後の予測される方向、あるいは、先生ご自身で考えられている将来的なプラン、などをこのメーリングリストでご紹介願えますと幸いです。

以下に私見を示します。

背景:
一昨年の牛の口蹄疫,さらに昨年の牛海綿状脳症(BSE)の発生と,食の安全を脅かす事件が我国に激震を引き起こしました。これらの事象により,人々は,食に不安を感じた場合,いかに恐慌状態に陥り易いかということ,さらに安全な食料を確保する ためには,国家自らの一貫した戦略が必要であることなどが痛感させられました。安全な畜産製品を確保するための家畜疾病の制圧,さらに食肉,牛乳および鶏卵の衛生に多くの獣医師が日夜貢献しております。一方,狂犬病をはじめとする人獣共通感染 症の防止のための公衆衛生の分野においても,少なからず獣医師が活躍しております。また,医薬品の開発でも,新薬の薬効探索と安全性のチェックを中心に,獣医師 は不可欠な役割を担っています。そして,人々に癒しを与えてくれるコンパニオンアニマルを疾病から守る小動物診療も,今後とも益々重要な獣医師の活動分野となっています。しかし,このような多岐にわたる獣医師の役割は,縁の下の力持ちのような存在で,あまり市民に知られていない印象があります。また,獣医師の役割とニーズも日々変化しております。そのため,一昨年の2000年,獣医師の役割をできるだけ多くの市民に知ってもらい,獣医業務に対する認識と理解を共有する目的で,世界獣医師会(WVA)がThe World Veterinary Dayの制定を提唱しました。この世界同時発の行事に呼応するため,私どもは前出のようなイベントを計画しました。

今後の予測される方向:
私たちが抱えている大きな目標,獣医教育の改善は,結局,市民を巻き込み,その理解を得ることによって,最終的に政治が動かねば,何時までたってもコップの中の嵐でしかないと思います。畜産が国を左右する欧米とは,獣医業務に対する市民の認識が異なることは分かりますが,少なくとも獣医の役割りを正しく認識して頂くことは,必要不可欠と思います。本企画の最終目標は市民に獣医師の役割りを知っていただくことに尽きます。数年,本企画により,市民を獣医教育に巻き込む運動に挑戦してみたいと私どもは考 えております。その際,是非獣医師会と獣医学会にご支援いただくことを切望しております。

近日中に本企画に関したホームページを作成する予定です。

今後ともご指導の程,宜しくお願い致します。


The Second World Veterinary Day取り組みについて 2002-5-7

柳井先生:

非常に良い試みだと思います。是非成功裏に終了することを願っています。

昨年、すでに説明されていたものと思いますが、このような運動に関し、各WVA 加盟国にどのように取り組んで欲しい、といった付帯条項はあるのでしょうか?上記のウェブサイトを見る限り、まだ始まったばかりで各国での取り組みにはばらつきがあるようですが、特に公衆衛生分野に関する獣医師の役割を社会に認識してもらうためには大きな力になり得るように思われます。

とすると、昨年、本年は岐阜大、ファイザー製薬に自主的に取り組んでいただいたわけですが、来年以降に関しては、もっと大きな規模での取り組みを考慮されても良いものと思います。例えば、WVA という組織を考えれば日本獣医師会ないし日本獣医学会、あるいはその両者が協力してその母体となって取り組むべきものかも知れません。

柳井先生に、再度この運動の背景、今後の予測される方向、あるいは、先生ご自身で考えられている将来的なプラン、などをこのメーリングリストでご紹介願えますと幸いです。

佐々木伸雄


2002/4/5 家庭動物等の飼養及びほかに関する基準について 中川 美穂子

私は日本小動物獣医師会の学校飼育動物対策委員ですが、獣医学教育に 関して皆様に知っていただきたいことがあります。

このほど、新動物愛護法制定にともない 「家庭動物等の飼養及びほかに関する基準」が定められますが、この中で 学校、福祉施設等における飼養保管の項目が、「管理者は、動物の飼養保管が、獣医師等の指導のもとに行われるよう努 め、適切な動物の飼養及び動物による事故の防止に努めること」となる予定です。

[獣医師等]とのことばが使われていますが、、、、

教育施設の動物は子供達に必要だと理解されているから飼育されています が、実際には担任の教師の情熱のみで支えられているところがあります。 また問題は、教師は教育の専門家ではありますが、動物の専門家ではない ことです。解らないまま飼育に苦労している学校を支える体制が必要で、 特に動物と人の関係について診療の場で長く対応している獣医師の支 援は欠かせないものです。

今、小学校での動物飼育に関して各地で獣医師会が関わって、飼育指 導、助言など支援している地域は、自治体が予算手当てをしているところだ けでも10県、7政令都市、51市区町村になります。県の中で関わっている市町村を数えれば、何らかのかたちで獣医師が関わっている市区町村は昨年 度末の時点で244を越えており、小学校の数は概算で2600になっています。 この連携は平成10年以来急激に増えており、今年度も各地で契約が準備さ れ、あるいは県獣医師会の行政への働きかけも多く報告されています。
 
 また、先日茨城県の美浦村のある小学校では、生命尊重の教育のために 学年ごとに30種以上の動物を飼育して、父兄から子どもが思いやり深くなった と評価されているとの報道がありましたが、この学校の児童の親には近くの JRAのトレーニングセンター勤務の獣医師が何人もおり、この方たちが全面 的に支援してくれているおかげで、この教育が可能になったとのことです。 (この村での開業獣医師はいないそうです)  この学校の例のように、自治体と獣医師会との連携事業がない地域でも、 児童の保護者として、請われて小学校や、幼稚園、保育園に関わっている 獣医師は全国で見られています。これらの獣医師は、その施設から必要と されていると、いえます。

昨年発表された国立教育政策研究所の鳩貝太郎教育課程研究センター総 括研究官がまとめた「初等中等教育における生命尊重の心を育む実験観察 や飼育のあり方の調査報告」でも、獣医師の支援体制がある地域の小学校 の83%がこの制度を「良い、非常に良い」と歓迎していたと報告しています。

平成10年初めに、文部科学省もこの学校と獣医師との関係を大事にしたい と、見解を示しています。それ以来、日本小動物獣医師会が全国で行ってい る獣医師や教師向けの「学校飼育動物に関する講習会」に、文部科学省の 視学官や教科調査官が、全面的に協力しています。このことは、彼らも、こ の問題を解決する糸口を求めていることを表しています。

私達は、教育方や親達、動物愛護団体など、つまり社会の獣医師によせる 期待の大きさに、気づく必要があると思います。

次世代を健全に育てるために、もてる知識と技術で支援することは、新しい 獣医師への社会的要請であり、また他にはこの役割を果たせる業種はないと 思われます。

大学でも、獣医学生にこのような役割もあることを教えて頂きたいと思っておりま す。
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 全国学校飼育動物獣医師連絡協議会   主宰 中川 美穂子
    西東京市(中川動物病院内)
      m-nakagawa@vet.ne.jp
     「 学校飼育動物を考えるペ−ジ」
http://www03.u-page.so-net.ne.jp/wc4/mihi-n/jsca.index.html
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12月22日に岩手大学において東6大学の再編整備に関する懇談会を行いました。この件に関してはすでに唐木先生からリストへの投稿がなされ、会議内容の概略はすでにご存じかと思います。我々の目指してきた獣医学教育の充実を目指した運動にとっても、今年は特に重要な年になるのではないかと思われ、またその進展が期待されます。現在各大学に対する文部科学省のヒアリングが行われており、その後の情勢は、我々の運動にとっても重大な関心事です。

12月の会議は、昨年10月に開催された農学系学部長会議以降の各大学での動きを踏まえ、我々の目指す獣医学教育のビジョンの達成のために今まで行ってきた3大学ずつの枠組みでの検討結果を確認し、その運動を継続することの重要性を再度各大学で認めることが第一の目的でした。しかし、同時に唐木先生が指摘されている文部科学省から内々に提示されている問題点を考慮し、今後の運動の方向について柔軟に対応する必要性もあり、それに関しても議論することも会議の目的のひとつでした。

その時の議事録案を添付いたします。すべての大学からの合意にはなっておりませんが、ほぼ合意が得られ、またメーリングリストに投稿することもほぼ認められております。東の現状に関するひとつの情報になれば幸いです。

懇談会会長  佐々木伸雄


第7回 獣医学再編に関する東6大学懇談会議事録案

日時:平成13年12月22日(土) 15:00−17:30
場所:岩手大学農学部3号館2階会議室
出席者:
  会長:佐々木伸雄
  全国大学獣医学関係代表者協議会会長:唐木英明
  国公立大学獣医学協議会会長:徳力幹彦
  北海道大学:桑原幹典、斉藤昌之
  帯広畜産大学:山田純三、前田龍一郎
  岩手大学:内藤善久、岡田幸助、三宅陽一、安田準、品川邦汎、森松正美、
       冨沢伸行、重茂克彦、大澤健司、津田修司
  東京大学:吉川泰弘、局博一、尾崎博、中山裕之
  東京農工大学:加茂前秀夫、山根義久、桃井康行、下田実、柴田秀史、
         佐藤俊幸
  岐阜大学:小森成一、平井克哉、源宣之

議題:
1. 第6回懇談会議事録案の承認について、異議なく承認された。
2. 各大学の現状
北海道大学:ワーキンググループ(WG)の作成した案を組織検討委員会で承認した。帯広畜産大学と教育充実を目的にした協力に関する覚書協定を締結した。
帯広畜産大学:2002年1月からの新学長に鈴木直義先生が選考された。新総長は選挙の中で自助努力による教育充実の方針を打ち出しており、今後の方向は不透明である。
岩手大学:学部内の将来構想委員会で獣医学の将来問題を検討している。 12月に岩手大学から北東北3大学(秋田大学、弘前大学、岩手大学)統合案が提案され、今後検討される予定である。
東京大学:WG案は専攻内で了承された。農学生命科学研究科内に設置された獣医学教育検討委員会の検討状況を総長に報告予定である。
東京農工大学:学長から学長私案として提案された自助努力案に対し、獣医学科として返答した内容が資料を基に説明された。その中で、回答書にはこの計画案があくまで中間目標であり、最終的には基準協会の基準である教官72名以上を念頭に置いたものであること、またもし学長提案による獣医学教育充実が困難な場合、他大学との獣医学科再編の道を探る、という内容を盛り込んであることが紹介された。
岐阜大学:黒木学長が赴任した後、獣医学科との間で様々な意見交換が行われた。学長としては自助努力により岐阜大学に獣医学を残したい意向であり、現在大学の企画委員会に獣医学に関する作業部会が設置され、新年には様々な検討が開始される予定である。これに対し、獣医学科内では、作業部会の設置は歓迎するが、獣医学教育の規模は基準協会案以上を望むことが確認されている。

徳力国公立協議会会長から、九州大学への獣医学府等設置に関する情報が述べられた。次いで、唐木全国協議会会長から、最近の情勢ならびに文部科学省との話し合いに関する情報が報告された。

3. 今後の再編運動の進め方
以上を踏まえ、今後の方針が討議された。最終的に、(1)今春以降WGによって検討され、承認された教育組織、カリキュラム案は我々が目標とする教育充実には必須のものであり、当面は3大学ずつの枠組みを守り、この案に基づく新しい教育組織の設置に向けて努力すること、(2)しかし、今後このような枠組みでの教育組織設置が困難になることもあり得るので、その際の代替案に関しては各大学で検討を始めること、の2点が了承された。


今後の指針 特に旧帝大問題について 唐木英明 2001/12/25 

12/22(土)、3時から、小雪がちらつく中、岩手大学において東6大学の会議が開催された。年末の多忙な時期にもかかわらず関係6大学の代表者が集まり、徳力国公立会長および唐木も出席した。正式な議事録は後日、同会議の佐々木議長から発表される予定であるが、獣医学教育改善の将来に関係する極めて重要な内容を含むので、個人の責任でその概要を報告する。

我々の運動の目的は獣医教育改善であり、そのために「基準協会基準」遵守について妥協はしないことを方針としてきた。また、新獣医学部設置大学についても最善と考えられる原案を作り、その実現に努めてきた。

我々の努力に応えて、文部科学省は獣医学再編を支援する姿勢を明確にしている。しかし同時に、すべての新獣医学部が旧帝大に集中することに繰り返し強い懸念を示している。同様の懸念は農学部長会議からも表明されている。

東6大学はこの1年間、北大に帯広と岐阜が集まり、東大に農工と岩手が集まる「3+3案」をもとに、運動を続けてきた。しかし、帯広や農工では学長が自主努力の方針を表明し、岩手と岐阜ではこの問題についての交渉権もまだ得られていないなど、その進展は極めて遅いと言わざるを得ない。その大きな原因の一つは、「3+3案」への所属学部、大学、そして文部科学省の理解が得られていないことである。 
 
さらに、我々が獣医学教育改善の第一歩として位置付けている「九大案」の実現も、「旧帝大問題」の決着にかかっているといえよう。

これまでは教育改善についての「我々の希望」を一方的に述べる段階であった。しかし、農学部長会議において「獣医学再編」が公式に認められて以後、この問題は外部との本格的な「交渉」の段階に入った。その中で「我々の希望」が100%認められるとは限らないことはすでに経験しつつある。さらに、来年早々から「大学再編」の動きが加速する。これらの大きな波の中で教育改善を実現させるためには、強い意志と行動力と共に、的確な情勢判断と、柔軟で素早い決断が求められる事態がやって来よう。

このような情勢を受けて、今回の東6大学の会議では、「基準協会基準遵守」の方針を堅持しつつ、必要であれば「再編先」には柔軟に対応する必要性を認めた。そして、その場合にも外部の力によって受動的に動かされるのではなく、あくまで自主的に判断し、自主的に行動することの必要性が議論された。

今回の東6大学の会議は、このような意味で非常に重要な一歩を踏み出したものであり、佐々木議長および関係者一同の努力を高く評価するものである。

 


2001/9/12 唐木英明

文部科学省の「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」は、9月6日に開いた「連絡調整委員会」で、「中間報告(案)」 (PDFファイル)について議論・検討の結果、「座長(主査)」にとりまとめを一任することを確認しました。

9月中旬には、「中間報告」として公表し、その後約1ヶ月程度「パブリックコメント」を求め、2001年度中に「最終報告」としてとりまとめる予定です。


2001/9/6 唐木です。大分涼しくなりましたが、お元気でしょうか。

小泉内閣の特殊法人改革の方針に対して「抵抗勢力」の動きが激しいことが伝えられています。私たちが払っている税金を投入する以上、それがどのように使われているのか、本当にその必要性があるのか、完全な情報開示が行われる必要があります。

それもしないで「公益性がある」という主張をくり返しても、私たち納税者の目には「既得権益を守るため」としか映らず、とうてい納得できません。

日本学術会議では、「21世紀の日本のあるべき姿」を提案するために、現在、審議を重ねています。私は「国際関係」と「教育体系」の二つの常置委員会に籍を置いていますが、教育体系の委員会では現在の大学、特に国立大学の欠点を以下のようにまとめようとしています。

1)若い世代の求める、時代の要請にかなった知識内容・学習形態を供給できていない。
2)時代の変化に柔軟に対応する構えに乏しく、教育内容の革新に取り組む意欲に欠け、卒業生の品質保証について十分な関心を払わない。
3)こうした現状を放置しておいても外部からペナルティを課せられることはなく、自ら進んで改革に取り組む意欲と、これを刺激する仕組みに欠けている。

これも、「大学が既得権益にあぐらをかいている」ということです。しかし、この状況は大きく変わろうとしています。IT技術革新による「ヴァーチャル大学」の出現で、私たちは世界の一流大学の最新の講義を聴くことができるようになり、その積み重ねで大学卒業資格を得ることができるようになりつつあります。「言葉の壁」のために日本では欧米の大学の講義を聞く人は少ないでしょうが、国内でもその体制は整備されつつあります。これから既存の大学はヴァーチャル大学との激しい競争にさらされるでしょう。

18歳年齢の減少で大学受験生の数は減りつづけ、今や大学入学定員より少なくなりました。だれでもが大学に入れる時代になったのです。しかし、このことは学生の質の低下を招いていることも事実です。大学を出ても、実力がなければ企業が採用してくれない時代がきたのです。その中で「一流大学」の地位を保とうとすると、優秀な学生を獲得するためのきびしい教育改革の努力と激しい大学間競争を勝ち抜かなくてはなりません。

このような状況を前にして、「国主導の大学改革」が動き出しました。国立大学は「遠山プラン」に盛られた以下の内容の実行案を本年中に作成して、文科省に報告することを求められています。

1.国立大学の再編・統合を大胆に進め、スクラップ・アンド・ビルドで活性化する。
2.新しい「国立大学法人」に早期移行し、国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。
3.大学に第三者評価による競争原理を導入し、国公私「トップ30」を世界最高水準に育成する。

私たちが努力してきた「獣医学教育改革」は、まさにこのような動きを「先取り」したものであり、その実現に努力しなくてはならないことは文科省も国立大学農学系学部長会議も認めて下さっています。

去る9月2日に開催された国立大学農学系学部長会議臨時委員会においても、「獣医学教育改革をどのように実現するのか」という立場にたった真剣な議論が行われたと聞いています。会議の内容については10月15日開催の農学部長会議においてに正式の議事録が公表されるまで待たなくてはなりませんが、不完全な内容の「風評」が流されているようなので、私が理解しているところをお知らせします。

農学部長会議は北海道・東北、関東・甲信越、東海・近畿、中国・四国、九州・沖縄の5つの地区制をとっています。そして、平成12年10月に開催された第103回国立大学農学系学部長会議において了承された「獣医学教育改善に関する臨時委員会の基本姿勢」5項目のなかに、「新たな再編は、産業基盤を考慮して、地域的に偏らないことに配慮し、なるべく既存の施設などを利用できるように努める」という項目があります。この2つを結び付けて、各地域に1校づつ、5校の大学に獣医学部を設置してはどうかという話は出たようです。

しかし、「基本姿勢」には「日本における獣医学教育体制が諸外国のそれに比べて小規模に過ぎることが、最も大きな問題点であると考える」、および「自助努力で獣医学教育の充実を計る場合でも先進諸国に準じた国際レベルの獣医師養成を目標とする」との項目があります。「国際レベルの獣医師養成」のためには「大学基準協会基準」を達成する必要がありますが、同時に「現有の資源を持って教育改善を行う」という前提がある限り、5つの大学を作ることは困難であることも事実です。その場合には、54人の教官で1:1:1の18講座をつくり、これを出発点にして順次改善する考えなどもあったようです。

一方、農学部長会議において獣医学部を設置する地区を決定すること、すなわち再編の具体的な案を作成することは「大学の自治」とも関連して困難であると考えられます。さらに、「教育改善のためのプラン」が「地区割り案」にすりかえられ、過去に経験した「総論賛成各論反対による再編の失敗」をくり返す可能性もないとはいえません。そして、教育の不備を熟知し、改善の方向を長年にわたって検討し、その実現に努力してきた獣医学関係教官の案はそれなりの重みがあります。さらに、山口、宮崎両大学農学部教授会における決定を覆すことができるのは当該教授会だけです。

このような理由で、私は再編の具体的な組み合わせや、具体的な大学数や、具体的な教官数を提示した結論になるとは考えられず、10月の農学部長会議においては「総論的な結論」が承認されるものと予想をしています。

いずれにしろ、未確認情報をもとに「農学部長会議が九大案潰しに走っている」などの風評が流れていることは、農学部長会議との信頼関係を損ね、私たちの運動の足並みを乱すものとして大変に残念です。文科省も農学部長会議も九大案を公式に否定したことは一度もなく、むしろ大変に好意的に考えてくださっているものと私は考えています。

残暑がぶり返すとの予報もありますが、ご自愛くださいますよう。


現状報告 2001/8/11 唐木

酷暑の夏ですが、お元気でしょうか。久しぶりに最近の情勢をお知らせします。
獣医学教育改善の動きもいよいよ大詰めを迎えようとしています。

1 政治情勢の大きな変化

2001/6/18付けで「今後の見通し」としてお知らせしたとおり、4月以来、政治情勢が大きく変わってきている。最初にこれを簡単に振り返って見る。

5/11 小泉首相は参院本会議で「国立大でも民営化できるところは民営化する視点が大事」と答弁。
遠山文部科学大臣が「国立大学民営化反対」を首相に進言したが即時却下され、新方針の準備に入る。
5/25 国立大学事務局長会議で小野事務次官、工藤高等教育局長が「21世紀教育新生プラン」の実行を指示、国立大学の再編統合の方針を述べ、獣医学科の再編にも触れた。
5/31 政府経済財政諮問会議(議長・小泉首相)で大学民営化の方針を検討、文科省は国立大の一層の効率化を促す方針を決定。国立大を独立行政法人化する際の基本制度を審議している調査検討会議・業務組織委員会(主査・阿部東北大学長)に検討案を示す。
6/01 国立大学協会(会長・長尾京都大学長)理事会は国立大の法人化による改革姿勢を鮮明にして民営化を阻止する方針。
6/04  文科省はまず大学業務の一部を大学本体とは別の法人に実施させる形で民営化への道筋を付ける方針を示した。
6/07-08 国立大学農学系学部長会議において、西阪専門教育課長が「獣医学教育関係者の改革の努力」を高く評価した。
6/9 文科省がまとめた「大学(国立大学)の構造改革の方針」(以下、遠山プラン)で、再編・統合により国立大学の数を大幅に削減する方針が明らかになった。
遠山プランの概略は以下のとおり。

<大学(国立大学)の構造改革の方針:活力に富み国際競争力のある国公私立大学づくりの一環として>
1.国立大学の再編・統合を大胆に進める。
○各大学や分野ごとの状況を踏まえ再編・統合
・教員養成系など→規模の縮小・再編(地方移管等も検討)
・単科大(医科大など)→他大学との統合等(同上)
・県域を越えた大学・学部間の再編・統合など
○国立大学の数の大幅な削減を目指す
→ スクラップ・アンド・ビルドで活性化

2.国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。
○大学役員や経営組織に外部の専門家を登用
○経営責任の明確化により機動的・戦略的に大学を運営
○能力主義・業績主義に立った新しい人事システムを導入
○国立大学の機能の一部を分離・独立(独立採算制を導入)
・附属学校、ビジネススクール等から対象を検討
→ 新しい「国立大学法人」に早期移行

3.大学に第三者評価による競争原理を導入する。
○専門家・民間人が参画する第三者評価システムを導入
・「大学評価・学位授与機構」等を活用
○評価結果を学生・企業・助成団休など国民、社会に全面公開
○評価結果に応じて資金を重点配分
○国公私を通じた競争的資金を拡充
→ 国公私「トップ30」を世界最高水準に育成

6/13 国立大学協会総会で法人化が容認された。
6/14 国立大学学長会議で遠山文部科学相はこれまで大学同士の協議にゆだねていた国立大の統合再編について「同省が主導、決定するとの方針転換」を明かにした。工藤高等教育局長が「努力が見られないと取り残さざるを得ない。場合によっては見捨てていかざるを得ない局面があるかもしれない」と述べ、各大学に「遠山プランに沿った計画の本年中の策定」を促した。質疑で田中鹿児島大学長が「地方の切り捨てにつながる」と懸念を示したが、工藤局長は「一県一大学は未来永劫の原則ではない」との厳しい見方を示した。
6/21 政府経済諮問会議の基本方針決定。構造改革の具体策として「国立大学の民営化推進」を明記。
6/26 参議院文教科学委員会での工藤高等教育局長答弁。「遠山プランに沿って、大学の再編統合は来年から一つでも二つでも取り組んでいきたい。」
7/28 第7回農学系学部長会議「獣医学教育改善に関する臨時委員会」が開催され、新たな事態との関連で議論が行われた。
7/29 第19回参議院選挙で自民党が大勝。小泉首相の改革案が支持された。
8/10 自民党は10日午後、小泉首相(総裁)の再選を正式に決定。任期は2003年9月30日までの2年間。

2 獣医学教育改善の現状

2−1 九州大学の動き
5月14日に九州大学総長は山口、宮崎両大学に以下の依頼を行った。
「九州大学は、山口大学及び宮崎大学農学部長の依頼を受けて、獣医学府等設置準備委員会の設置を評議会へ提案した。ついては、山口大学及び宮崎大学から委員会に参加を依頼したい。」
ところが、それから3ヶ月近くを経過した現在、山口、宮崎両大学はこれに回答をしていない。うわさでは、宮崎大学学長は、山口大学の態度を見た上で態度決定をする意向であり、山口大学学長は文科省の指示があれば態度決定をする意向。
鳥取大学獣医学科は早くから九大再編を決めていますが、道上学長は「自主努力による獣医学部教育改善」の方針を考えているとのうわさ。
鹿児島大学も鳥取と似た状況。

2−2 東6大学獣医学科の動き
東6大学は、北大、帯広畜大、岐阜大グループと、東大、岩手大、農工大グループに分かれて、それぞれが教育改革の基本プラン作成に取り組んでいる。

2−3 概算要求ヒアリング
各大学から提出された概算要求について文科省においてヒアリングが行われ、各大学とも厳しい注文をつけられた。その詳細については各大学からの正式な発表はないが、私が個人的に入手した情報の範囲では「獣医学関係」の主なところは以下のとおり。(もし間違いがあれば訂正をお願いします。)
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全体としては、遠山プランに沿った大学の再編整備なしに大学の拡充は不可能であり、しかも、再編は「数あわせ」ではなく、「教育・研究内容の充実」という原則が問われている。
単科大学の再編を進めるが、北海道においては「札幌への固定と集中」にはこだわらないカリフォルニア大学方式もあり得る。
東北地域においても、教育・研究内容の充実のための大学の再編は避けてはとおれない。特に獣医学科と教育学部の再編問題への対応策が求められた。
関東地域の連合農学研究科参加大学には、3つの農学部再編の可能性、獣医学教育改善の方策が問われた。
中部地区については、名古屋大との関係、教育学部の廃止、自主努力以外の方法での獣医学教育充実の方策などが問い掛けられた。
****************

3 文科省西阪専門教育課長との会談

各大学とも獣医学科の意思は再編に固まっている。そして、国立大学農学系学部長会議は獣医学再編の必要性を公式に確認した。私たちが乗り越えなくてはならない最後の壁は、各大学の決定である。
この時期に大きな政治的変動が起こったことが獣医学教育改善にどのような影響を及ぼすのかについて、8月10日午前11時から文科省において西阪専門教育課長と会談をした。出席者は徳力国公立会長、佐々木国公立事務局長、そして私である。

 西阪課長の意見は以下のとおり。
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1) 現在は「遠山プランに沿った再編整備の具体案」を各大学に作成して頂いている段階である。その期限は年内になっている。
2) 6/14に開催された国立大学学長会議で遠山文科相が述べたように、これまで大学同士の協議にゆだねていた国立大の統合再編については、今後「文科省が主導、決定する」ことになる。文科省は各大学から提出された具体案を最大限尊重する形で、来年から再編整備の具体案を作成し、各大学に指示する。
3) 再編整備の精神は「数合わせ」ではなく、「充実した教育と研究が可能な大学作り」である。戦後始まった現在の国立大学の制度に初めてメスが入るのであり、この機会に日本の大学を立派なものに作り変えなくてはならない。
4) 文科省としては獣医学教育関係者のこれまでの努力を高く評価している。獣医学再編については5月25日に開催された国立大学事務局長会議で小野事務次官、工藤高等教育局長が、6月7、8日に開催された国立大学農学系学部長会議においても西阪課長が言及しているとおりである。
5) 文科省が行う大学再編の具体案作りにおいて、獣医学再編は重要な課題の一つであり、獣医学関係者がこれまで努力を重ねて作り上げた案を念頭において検討させていただく。
6) 「一般論」として大学再編が旧帝大に集中することには問題がある。獣医学についても、最終的にすべての獣医学部が旧帝大に集中することがよいか、さらに検討が必要である。
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4 まとめ

私たちは「教育改善」を第一に考えてこれまで努力を重ねてきました。しかし、私たちの再編整備案は、「自分の組織を守る」ことを第一に考え、変革の先頭には立ちたくない学長・学部長の承認が困難な情勢でした。
この情勢が大きく変わります。来年からは文科省主導で大学再編が動き出します。
そのなかで、獣医学再編が大きく動きます。その先駈けが九州大学獣医学府設置です。「九大案が潰れた」という根拠がないデマがこれまでも何回も流されているようですが、改革の流れは九大案実現の方向に向かっています。
国立大学獣医学部が旧帝大に集中することは問題があるかもも知れません。しかし、これまでの獣医学関係者の合意である九大、東大、北大は動かせません。これ以外の1ないし2大学に獣医学部を設置できれば、獣医学のためにもよいことであろうと思いますが、現在のところその具体案はありません。この点は、農学部長会議の合意事項も念頭において、私たちとしても検討すべき今後の課題です。
この何ヶ月かは、各大学において遠山プランに基づく再編案作りでいろいろな雑音もあると思います。しかし、獣医学教育改善については農学部長会議と文科省の後押しも受けています。私たちは、雑音に惑わされず、これまでどおり教育充実の具体案を検討し、その実現のために各大学において地道な努力を続けなければなりません。
暑さの折からご自愛ください。


2001年4月8日 日本獣医畜産大学 鈴木勝士
国立農学系学部長会議「獣医学教育改善に関する臨時委員会」委員長より
全国大学獣医学関係代表者協議会会長および国公立大学獣医学協議会会長に対する質問状への回答

読み終わって、この回答にどのように対処しようか迷っております。

昨年末、唐木先生と徳力先生に非公開の個人的なメールをお送りしました。徳力先生とは電話で会話することができました。その時の会話内容が、一部この回答に反映しているようにも見えます。しかし、まだ不十分に感じます。今回もとりあえず、両先生に添付文書でメールします。

お読みいただいて、公表した方がよいとお考えでしたらMLでお回し下さい。

獣医学の理念:人類と動物の福祉の向上に資する学問(学部基準案)
この理念で獣医師の行ってきた仕事、研究領域、は全てくくることができるのか。例えば小動物臨床、大動物臨床、いわゆる公衆衛生として旧来型の人畜共通伝染病や食中毒、そのほか毒性学でカバーしている領域は、具体的にどのような点で「人類と動物の福祉の向上」に役だっているのか。現在の進歩した医学や環境問題など社会的な懸念の多い状況の中で、獣医学に外から新たにどのような分野が要請されているのか、またそれらの分野が獣医学として位置づけられるとしたら、なぜか。

僕はこの理念で獣医学をくくるのが適切であると考えています。人類の福祉の向上および動物の福祉の向上と言わず、人類と動物の福祉の向上と言っている点はよく考えなければならない点です。動物を仲立ちとして人類の福祉の向上に役立つと解釈するのが良いのではないかと思います。そうしないと、獣医師として動物を殺す仕事が、動物の福祉向上に偏った意見の持ち主から一方的に非難されることになります。獣医師はこの理念に基づいて、個々の局面で派生する目的のために、時に動物を治療し、時に動物を殺す職業であるということになります。

後の部分でも例示するつもりでいますが、例えば牛を食肉用に殺す仕事では、安全な食物を人類に供給するという安全性の担保(人類の福祉向上には役立つ)のために、微生物、抗生物質、農薬などについての検査が実施されており、既に殺し方の術式までO157との関連で変更がされています。でも殺される牛について、どのようにしたら動物の福祉なり人類の福祉なりで説明できるのでしょうか。どのみち屁理屈になるはずですが、これは食物連鎖から解き起こし、人類が食物連鎖の頂点にいる限り、動物を食することはやむを得ないとし、無制限に牛が地球上で繁殖に繁殖を重ねたら、人間界との間に住む場所で折り合いがつかなくなるので、いわば適切な規模で牛を維持するために、牛は自殺できないから人間の手で殺さざるを得ない(間引き)というような説明になるのでしょう。せめてできることは、死んでゆく動物が苦痛を味わう時間がなるべく短くてすむ様な方法で殺すことでしょうし、逆説的ですが、このことが動物の福祉向上ということではないかと考えています。せめて生きている間は、牛に無用の苦痛を与えないことも必要でしょう。

遺伝性疾患に関しては、かつて黒毛和種で家系淘汰が行われたために、新規の疾患に関しては、経済的損失が莫大な家系淘汰を危惧するあまり、遺伝性の認定がなかなかできませんでした。分子診断でキャリヤーが判明する時代になって、やっと非保因牛を種牛に用いれば家系淘汰はしなくても、病気は撲滅できることが実証され、分子診断は既にいくつかの病気で実用化され、保因状況も公表されています。これとて、こんな診断法がなければ、キャリヤーとは判定されず、その雄牛は種牛として繁殖の機会が与えられたはずですが、診断できるようになったため、この牛は繁殖という生物学的に崇高な行為をなすことなく死ぬことになるのです(現実には、雌の遺伝子型によってはキャリヤーは繁殖に用いることができるので、全て死ぬ訳ではありません)。この死ぬ運命の牛についても「人類と動物の福祉の向上」に役立っていると説明されなければなりません。人の相同疾患のモデルになる、進化の観点から新事実が発見される可能性があるなど様々な理由を付けて、これらのキャリヤーあるいは発症動物を有効利用する必要が生じます。

学部基準案では、前にも指摘したように、獣医学科は、農学部から外に出て独立した獣医学部になる必要があることが示されています。この点については、獣医学関係者が十分に自覚しないと外部からのサポートが得られないと感じています。医学ですら、現在変革を迫られています。

時代が変わったのです。唐木先生と徳力先生の分析では、医学と獣医学の対比が十分ではないと感じます。国際化を言う前に医学部並教育の実現を図る必要があるように思います。

獣医学部となった場合、畜産学との関係を危惧している方たちがおられるようです。産業動物はこれから先も獣医学の対象動物であり続けるはずです。それらは、現状から考えるとさらに多種類の対象動物のなかのひとつとなるはずです。医学では病気に対する考え方が急激に変化し、微生物を含む環境要因に対する感受性すら、遺伝子(複数)の関与する現象ととらえ始めています。畜産の育種で経済形質の分析を行うのに使う方法論(QTL解析を含む)が人の病気の原因遺伝子の解析でも応用されています。しかし、この方法は表現型との遺伝相関について可能性の証明にとどまることがあったり、追跡していた表現型の原因とはかけ離れた別の関連因子の遺伝子がつられたりするという限界があります。もっと積極的な証明法として、トランスジェニック動物、ノックアウト動物などで付与された機能、失われた機能から病気の原因が探られています。

この領域では、医学から獣医学に非常に切ないラブコールが発せられています。ノックアウトで発症した動物を沢山使えるとなれば、その遺伝子の機能や病気との関連はすぐにでも解明されると多くの人が考えているに違いありません。これらの動物は多かれ少なかれどこかに異常を持っていますから、手厚く介護しないと命の維持すらままならないのです。発症動物同士で交配しても繁殖がうまくいかないことが多いのです。従って、発症動物を得るためにはヘテロ動物を遺伝子診断で探し出し、それらを交配して、メンデルの法則に従って分離する発症動物を作り出さなければならないのです。僕は既に何カ所かの医学部の教室から、このような動物の繁殖の委託の相談を受けています。医師はなぜそれまでして遺伝子操作した動物にこだわるのでしょうか。

答えは簡単です。胎内で既に発症しているような異常の場合、人からサンプリングすることはできません。殺人罪が適用されます。動物モデルであれば、倫理の壁はずっと低いことになり、研究によって有用な類推ができることになります。治療法を開発することだってできるでしょう。

医師がノックアウト動物を使って仕事をしていることは、そっくりそのまま獣医師がやっても何の違和感もないはずです。獣医学はすべからく基礎医学の側面を持っているわけですから。医師であれば、その研究の目的は人類の福祉向上で、動物はその目的のための材料ですが、獣医師の場合は、ノックアウト(マウス)は他種の動物のモデルにもなるという点で、目的が「人類と動物の福祉に役立つこと」になるのです。

移植医学や再生医学にもかなりの矛盾があります。臨床獣医の一部に犬猫の腎移植がナウイと考えている人たちがおられるようにきいています。医学では既に実用化されていますが、手術手技開発には犬が用いられ、医学の領域には莫大なバックグラウンドデータがあります。加えて組織適合性に関する免疫遺伝学的知識と免疫抑制剤についての蓄積があります。これについても、ドナーの問題でたとえ脳死としても結構大変な倫理の壁があります。今、豚に人あるいは他の動物の遺伝子を導入して移植用の器官を供給しようと考えている人たちがいます。この計画にはおそらく獣医師も参画せざるを得なくなります。これが実現すれば、まさしく「人類と動物の福祉」の向上に役立つことになるのでしょう。

公衆衛生学にしても、獣医師はなぜ必要なのでしょう。それは、食べ物を通じてであれ、環境を通じてであれ、有害な作因を直接人間で試すことは倫理的にできないから、一旦動物実験を実施せざるをえないという所にあります。唐木さん達の将来像では、薬物開発、毒性、環境ホルモンなどをただ併置しているだけですが、実際は深いところでつながっています。ラットを用いた毒性実験は、ある意味では組織された臨床なのですが、飼育中から始まって、様々な臨床検査、病理検査、繁殖的影響、遺伝子への作用など多面的なデータを解析します。この中には、薬物代謝など従来の獣医学では比較的苦手な領域も含まれています。これらの総合的な評価ができなければ、安全な薬品、食物、環境などは担保されません。実験の際に沢山の動物の命が失われます。これも「人類と動物の福祉の向上」という理念がないと誤解されかねません。

ここ数年厚生省(現厚生労働省)の科研費の審査委員をさせられました。医学では動物実験も含め、非常に科学的に高度な研究が行われていますが、獣医学領域ではなかなか思うような研究費は入手しがたい状況があります。医学部に対しては、「人の命は何よりも尊い」ということで文部省以外に厚生省から桁違いの研究費が配分されています。現在、いわゆる環境ホルモンの悪影響が懸念されており、環境省では昨年度の定常予算と補正予算で12物質について1世代繁殖試験を外部ラボに発注し、仕事が進んでいる状況があります。先行きさらにこの仕事は継続される見込みです。しかし、この分野で専門家が足りないのです。厚生省の内分泌かく乱化学物質の人健康影響に関する委員会の中間報告でも、人材の育成を言わざるを得ませんでしたが、どこがどのようにやるのかは示していません。獣医学領域でラットでもマウスでも継代繁殖を実施し、あるいはその施設をもち、経験に富んだ獣医師を供給できる体制が整っている大学はあるのでしょうか。教員の中に繁殖試験を実地に経験したり、それに対する哲学をもち、改善点について提言できるような方はおられるのでしょうか。このような大規模な仕事を支えるだけの資金を監督官庁である農水省(衛生課)は保証できたのでしょうか。あるいは今後、獣医師の理念が「人類と動物の福祉向上」となって、それを保証するだけの予算措置を考えているのでしょうか。この理念にふさわしい監督官庁を我々は見据える必要があります。

私は、ラットに関してはここに赴任して以来23年間で約40万頭を生産し、様子を見てきましたから、この動物種については多少は理解できます。それとて、スタートは全くの素人で、基本的に動物から学ぶしか方法がありませんでした。どれだけの数に当たるかというのがその人の実力を決めるように思います。学生、教員に十分な数の動物に触れる機会はどの程度あったのでしょうか。多くの教員、研究者が必ずしも多種類の動物について実際に飼育して仕事をしたとは私は考えていません。動物を飼い出したら最後、自分でご飯を用意する訳じゃないし、トイレの始末もできないのですから、休みがなくなります。たいへんにつらい仕事なのです。しかし、やろうと思えばできることでもあります。私は教室予算のおよそ半分をネズミの餌代に充て、様々な研究所から放出される飼育器具をもらい、それでも足りない分は私費でまかなってネズミの系統維持をしてきました。世界中のウィスターラットの系統の中で僕たちのコロニーにしか発見されていないミュータントの生じた原因が知りたかったからです。その中で、基礎の生理学でありながら、病気の遺伝学という医学と共通するテーマに出会えたのです。

EttingerのTextbook of Veterinary Internal Medicine 5th Ed.の第1章がClinical Geneticsになったのを、小動物臨床の諸先生方、あるいはアカデミアで臨床を教えている教員の方々はご存じでしょうか。アメリカの獣医学は間違いなく医学の進歩と共同歩調をとろうとしています。日本では遺伝子診断は大動物分野に先を越されました。なぜでしょう。これは、大動物分野では往診が一般的で出産に立ち会うことが多いからです。生まれて直に死ぬ動物に出会うことがあるからです。このような動物には遺伝的に異常のあるものが多数存在します(ラットの経験とバンドV欠損牛発見の経緯から)。犬で約400種類の遺伝性疾患があると言われるようになりましたが、実際にはもっとあるはずです。人医学と同様に単一遺伝子疾患は約数パーセントとすれば、圧倒的多数は多因子性疾患であろうと予想されます。糖尿病、高血圧、高脂血症など人の知見を利用しているばかりでなく、自前で人の疾患に対して提言できるような知見を得ることを目指すのが本来の獣医の姿であろうと思います。遺伝学に基づく獣医学の展開を提唱する所以です。

畜産学との関連で付け加えておきます。現在のヨーロッパでの狂牛病、口蹄疫の流行から、先行き畜産品だけでなく、飼料作物の輸入もままならなくなる状況が予想されます。東南アジアの状況も不安材料です。高品質で安全な蛋白資源を確保するために、畜産品、飼料の自給率をもっと高める必要があります。安全性という点では残留農薬についても視野に入れておく必要があります。単に化学分析で農薬を検出するだけでなく、動物を使って安全性のデータを出すことが我々獣医師の仕事として極めて大事なものであるとの認識が必要です。外国では日本で登録されていないような農薬が使われていることもあります。国内の我々の監視できるところで生活産品を作るのが、一番安心できることであると思います。

このような観点から獣医学の過去現在未来を見つめてみると、自分がどのような社会的要請に応えることができ、どのような学生を世の中に送り出すことができるのか不安になります。20数年前に動物から学ぶとスタートしたことと同じことをしていては、進歩した科学状況には間に合いそうにありません。ご自身のこととして、自分は何が教えられるのか心に問い直す覚悟が必要だとも思います。不足とあれば、明治の時代のように外国から人を招聘したり、医学部、薬学部、工学部、理学部など他分野の有能な方々の力も借りて、獣医学を再構築する必要があると思います。身を切る覚悟がない限り、獣医学の改善はあり得ないと思っています。

これまで、日獣大の現状を考えると、僕の個人的な見解を公表しても実際に僕の大学に何らの効果も与えないはずなので、公表はしないできました。今までつらいとき、神様が課してくれた試練と思って耐えてきました。僕に力があれば、これまで書いてきたような理念で新しく獣医学部を作りたいと思っています。定年まで残り10年ありますから、そのうちには一緒にやりたいと声をかけてくれる方が現れるのではないかと楽観しております。


獣医学教育改善について思うこと: 受験生からのメッセージ 2001/1/5

意見です。   大沢大輔

始めまして。
現在、獣医学科入学に向けて勉強中の男子です。再受験生です。

時々、拝見させていただいてますが、このHPには受験生・在学生等の声を反映させるような場が無いように以前から感じておりました。
確かに、獣医学科再編に関しましては、国レベルのたいへん難しい問題が多くあることでしょう。しかし、正直いいまして、皆さんの記事内容がさっぱりわからないことも少なくありません。現場の状況認識に乏しいので当然のこととは思いますが。

しかし、獣医になりたいと考えている人たちは恐らくまだ増えつづけるのでしょうから、その声にも耳を傾けて欲しいと考えます。

私が、今、興味があるのは、統合後の学生に対する経済的な援助策についてです。統合の結果、恐らく全体の入学定員は今よりも少なくなることと思います。そうなると競争率の異常な上昇が加速され、いくら頑張っても道が開けないような状態が起こるのではないでしょうか?私たちの感覚では、受験科目の少ない私立はその意味でとても入りやすいのです。しかし、ご存知のとおり納入金の額があまりにも高額で、普通の家庭の収入ではとても入学することは叶いません。ですから、例えば、国に働きかけて、米国並みの教育ローン/基金の設立を促す・日本育英会奨学金の貸与規定を更に緩和する等の経済策を待ち望んでいます。(特に、前大学で借り入れた者は再貸与不可という規定を何とかしてもらいたい。借りた分の返還は順調でも二度と貸してもらえないのはおかしい。現に再受験者は確実に増えているというのに、時代に合わないように感じます。)やや、自分本位な意見ではありますが、これに類似した事を思っている受験生・保護者は多いのではないかと思います。金持ちしか入れないような大学では、やはりいけないと思います。

また、以下は愚痴のような話です。

人づてに聞いたところによると、獣医学科に在籍している学生の1割程度が医学・歯学・薬学系に転籍してしまうらしいと聞きました。更に、受験時に医学部の滑り止めとして獣医学科を受験する者が相変わらず存在します。また、動物に対してあまりにも無感覚な獣医学生の存在も確実なようです。

私が、言いたいのは、このような学生を受験段階でできるだけふるい落とせないかというものです。このような学生が存在する事を聞くたびに、どうにもやり切れない思いがいたします。現行の後期日程試験でセンター試験のみを課すようなやり方を改めて欲しいと考え
ます。企業の入社試験のほうがまだいくらか健全です。

上で述べたような事に関して、議論はなされているのでしょうか?

さて、なんとも、支離滅裂な内容ではありますが、現在、心からよい獣医を目指して真剣に努力している受験生諸君が多くいるのですから、ハイレベルな議論も結構ですが、もっと受験生や在学生にわかり易い議論を期待します。また、私も含めて、彼らが議論に参加できる場も会っていいのではないでしょうか?今はとても参加し難いです。

駄文・拙文、まことに失礼いたしました。

では、失礼いたします。


文部省は教員養成学部の再編を計画しています。唐木

獣医学再編にも影響する動きですのでお知らせします。とくに、最後の一節が私達にとっても頭が痛いところです。

東6大学の集まりで、東の6大学を2つに再編する方針が打ち出されるという大きな動きがありました。詳細は、近く、議事録としてお知らせします。

Date: Sun, 20 Aug 2000 09:25:52 +0900
●教員養成学部を再編へ 採用数減少で文部省 地域から反発も  共同通信ニュー ス速報

少子化の影響で小中学校教員の採用数が減っていることから、文部省は十九日まで に教員養成課程がある国立の大学・学部の再編、統合を検討する懇談会を今月末に発 足させることを決めた。

地域ブロックごとに統合するなどのスリム化案を討議し、来年三月ごろまでに結論 をまとめる方針。

大学側には縮小や統廃合に強い反対がある上、都道府県からも地域の教育への影響 を懸念する声が上がるのは必至とみられる。具体的な再編計画の策定や実行までには 曲折も予想される。

教員養成課程は私立大三校以外はすべて国立大に設置されている。新潟県は新潟大、上越教育大の二校に養成課程があるが、ほかは各都道府県に一校ずつ。

国立の教員養成課程がある大学、学部を卒業し、教員になった割合は十年連続で下 がり続け、昨春は過去最低の三二%。

文部省はこうした状況を受け、教員養成の学部内で免許取得を目的としない生涯教育課程などのコース(通称「ゼロ免課程」)の定員の割合を増やした。

これで一九九八年度からの三年間で、教員養成課程の定員を約一万五千人から約一万人に削減した。教員養成大学、学部の定員の四○%近くがゼロ免課程の学生となっている。

懇談会では@ゼロ免課程を他学部に改組するA地域ブロックごとに二、三校を一カ所に統合するB小学校教員養成課程のみの大学や、教員養成の大学院だけがある大学を設けるなど機能分担をする―といった再編統合の具体策を探る。(了)

[2000-08-19-16:39]
●「地域の教育の核」と大学 統廃合に強い反発  共同通信ニュース速報

文部省が教員養成課程がある大学・学部の縮小や統廃合に向けて動き出すことにつ いて、大学側には「地域の教育の核として不可欠」「一方的に再編するのでなく、競 争原理にゆだねるべきだ」などと反発の声が強い。

ある地方国立大の学長は「ある程度の再編、縮小はやむを得ないかもしれない」と 社会情勢の変化に対応する必要を認める。

しかし「教育学部は教員養成の機能だけでなく、教育現場と日常的に連携して教育 実践の研究をしており、地域の教育のセンター的機能を果たしている。全くなくなる というのは受け入れがたい」と話す。

別の学長は「県内に小中学校の教員養成課程がすべてそろっていないと、教育がア ンバランスになる」と再編自体に反対の立場。「学生が集まらない大学はいずれ脱落 していく。自然淘汰(とうた)を待つ方がいい」と訴える。

文部省も、再編が容易ではないことを認める。幹部は「今回の懇談会ではとりあえず大まかな方向性を出すが、問題はその先。具体的にどこを縮小し、統廃合するかという話になると、行政だけでは手には負えず、政治的な決断が必要になる」と話している。(了)


九大、府大、東大、北大、5私立獣医科大学という全体像が現実的 2000/11/6

北里大学の汾陽です。

「今後の獣医学教育の全体像を明確な形で示す」ために、北大、東北大、東大、大阪府大、九州大の5校と5私立獣医科大学で日本の獣医学教育を行うという案に異論ありません。

ただし、既に全国獣医学関係大学代表者協議会や、日本獣医師会など、唐木先生を始め皆様が繰り返し説明することで積み上げてきた了解事項だけでも、九州大学獣医学 部設置の必要性を十分説明できると考えます。

以下のように考えられないでしょうか。

1)大学基準協会の「獣医学教育の基準」が受け入れられている、つまりスケールアップによる日本の獣医学教育の改善はコンセンサスである。

2)東大、北大、大阪府大、私大では、「獣医学教育の基準」を視野に入れた改革が既に進行している。

3)その結果、獣医学教育を行う大学間に著しい差が出来た場合、例えば如何なる形でも「獣医学教育の基準」を満たせない場合、獣医学教育を止めなければならない事 態も起こり得ないわけではない。

4)日本に必要な獣医師は、毎年約1000人であることは、各位の了解事項であると聞き及んでいます。しかし、ぎりぎり必要な獣医師数は、もう少し少ないでしょう。これを仮にクリティカルラインと呼ぶと、クリティカルラインを維持するための施策という視点が当然あるはずです。

5)スケールアップを果たせない獣医学科が出た場合にも、日本に必要な獣医師数を供給しなければならない。

6)北大、東大、府大、九大、私立が教育を続けるならば、現状のままでも700名ほどの定員を維持できます。クリティカルラインを満たすことが可能になります。

九州大学への獣医学部設置は、日本の獣医学教育にとってのぎりぎりの生命線ではないでしょうか。九州大学に獣医学部を設置することは、日本でスケールアップした獣医学教育を始め維持するための必須条件だと言えます。これをやっておけば生き延びられるということほど説得力のある説明は無いと思います。

勿論、最終的な着地点が藤田案のようであれば、問題ないでしょうし、そうあることを望むのは言うまでもありません。

しかし、獣医学教育の全体像を示せと言われても、文部省がトップダウンでやらない 限り、現状を変えるものは何なのでしょうか。ある時点で、文部省は直接改革を指導するのでしょうか。あり得ないという気がします。

だとすれば、現状のまま推移すれば最悪の場合、必要な獣医師数の確保という点で齟齬の出るおそれさえあるのではないでしょうか。それとも、待っていると何か起こるのでしょうか。変わらないところは、変わらないままでいられるのでしょうか。

恐らく想像できないほどの困難を克服して九州大学への統合を実現しようとしている宮崎大学、山口大学の先生方の御努力を無にしないためには、九大、府大、東大、北大、5私立獣医科大学という全体像を考えてもいい時期に来ているような気がします。

統合に踏み切れない大学が、大学院教育を続けられなくなるのは、とりあえず仕様の ない事態ではないでしょうか。予定調和というか、将来統合するのだから連携大学院で行くという発想は現実的でしょうか。勿論、続けられなくて良いと言っているのでは決してありません。この発言で、ご不快になられる方もいらっしゃるかもしれませんが、他大学の改革の努力に対しても声援となっていることをご了解いただきたいと
存じます。

至らない点、御教示願えれば幸いです。


再編後の連大の扱いについて 2000/11/5

北大の藤田です。

獣医学教育改善のホームページで唐木先生より、西の2大学が九大に再編した時、西4大学の連大をどうするかと言う問いかけがあります。西の4大学だけではなく、東の4大学も足並みが揃わずに、準備の出来たところから再編を目指すと言うことになれば、当然、東でも同じ問題が発生するわけで、獣医全体で考えておくべき問題であろうと思います。

14年度に西の2校が九大に行くことが決まれば、西の連合大学院は13年4月入学の院生が修了するのをまって、2005年頃には解消することになると思います。すぐには再編に参加できない大学では、14年度以降の連大への大学院生募集が出来なくなります。大学院生をとれなくなると言うことは大問題です。唐木先生の言われるように、東の連大に参加することも事実上、あるいは政略上、不可能であるなら、別の方式で大学院教育を継続しなければなりません。同様のことは、東の連大でもおこる可能性もあります。

そこで、以下のような対応策は如何でしょうか。再編に今回乗ることのできなかった2校は、便宜上の措置として、新しくできる九大の獣医学研究科より教官の併任発令をしてもらい、学生には九大大学院を受験してもらって、その学生を自分の大学で教育する、連繋(連合ではない)大学院方式で九大と繋がりつつ、再編の機会を待つ方法でどうですか、というのが私の提案です。連合大学院ではないので、基幹校は必要ありません。九大が、新制大学の先生の研究室を大学院教育を行うに足る研究室と認め、その先生の併任を決め、新制大学で、九大の大学院生を教育してもらうと言う形をとると言うことです。筑波大学が行っているような連繋大学院方式です。筑波大学では、周辺の企業の研究者に教授併任発令をして、企業に大学院生を送り込み、その併任教授の研究指導を受けさせるということを行っています。

もう一つ、再編に向けての提案です。新制大学の獣医学科が将来の再編先として大学院重点化大学を選ぶのであれば、東の大学をも含めて、受け皿となる大学が、その大学と再編希望の大学の教授を受け皿大学の大学院教授に併任し、再編後の連大解消
の混乱に備えると言う方法は如何でしょう。受け皿大学と新制大学のより強い結びつきが出来、再編もスムーズに行くのではないでしょうか。いきなり再編と言うより、連繋大学院教官併任方式で、教育研究の協力をしながら、再編後の組織像、教育カリキュラム等を協力して構築して行くというステップを踏むと言うことです。

このためには、正規の大学院を持つ重点化大学を受け皿とすることが前提条件ですが、これは既に合意が出来ていると思います。各新制大学が正規の大学院を持つ受け皿となる大学を予め協議のうえ決定し、新制大学の各教官がどの重点化大学の大学院から併任発令を得るのかを明確にする必要があると思います。(御存じと思いますが、大学院重点化大学では、一部の特例を除いて教官は全て大学院に籍を置き、学部に籍はありません。大学院から学部へ出向いて学部の学科目教育を行うと言う形をとっています。従って、併任発令は大学院教官としての発令になると思います。)この準備には少し時間がかかると思いますが、こうした中で、日本の獣医学教育のあり方やそれを充足するための再編のあり方、理念等が醸成してくると思います。このようなステップを踏んだ上で、農学部長会議や文部省に再編の提案をすると言うことはいかがでしょうか。時間がかかリ過ぎますか。


単科大学構想は現実的ではありません 唐木 2000/10/28

メーリングリスト会員の方から、個人的に、以下のようなご意見をいただきました。意見を送ってくださる会員が少ない中で、獣医学の問題を真剣に考えていただき、建設的なご意見をいただいたことに深く感謝します。

「緊急のお願いメール」拝見しました。お教え下さい。獣医学教育を全体像として考えるなら、全ての関係者の足下を同一のラインに揃えなければ進まないような気がします。国内に獣医学の国立大学を1校(1組織)で、地方地域に分散させることは考えられないでしようか。大きなカになりませんか。

同様のことをお考えの方もおられると思いますので、私の考えを書きます。

どこに再編するのかは、確かに大きな問題です。かつて、牧田国公立協議会長から、全国に2つの国立獣医学単科大学を作ることを提案されたことがあります。また、今回のご意見と同様に、全国に一つの獣医学単科大学を作って、その分校を各地に置いたらよいのではないか、という提案をしてくださった有識者の方もおられます。従って、これは検討に値する提案だと思います。

一方、問題もあります。第1に、「獣医は出さない」、という現状は、行く先はどこであれ、変わらないこと、第2に、全国に置く分校のそれぞれを充実させることを考えると、その数は3-4校となり、再編とそれほど変わらないこと、仮に、分校の規模を小さくして数を多くすれば、教育組織としての実態は現状と変わらないことになり、教育改革にならないこと、第3に、各地の既設大学に獣医科大学の分校を併設す
ることは制度上困難であるが、別個に分校単科大学を置くことはもっと困難であること、第4に、国立総合大学から獣医学教育組織がなくなってしまうこと(獣医学が総合大学の一員であることに意義を認めなければこの問題はありませんが)、などです。

さらに、問題がここまで煮つまって、タイムリミットも近づいていますので、ここでこれまでの方針を大きく転換することの困難もあり、現在は単科大学案は表舞台に出てきてはいません。

しかし、文部省からは教育充実のためのあらゆる可能性を検討するように求められていますので、先に述べましたように、この案も一つの選択肢であることは変わりません。


唐木です。再び緊急の検討をお願いします。 2000/1028

山口、宮崎の西2校が九大に再編することは、私達が続けてきた獣医学教育改善の第一歩であり、その成功は獣医学関係者全員の願いです。

そして、これを成功させるために、「わが国の獣医学教育の将来像」を明確にすることを求められました。これに応えるために、10/24のメーリングリストで、私の考えとして再編先の大学名を示唆させていただきました。また、藤田北大獣医学部長からは、臨時委員会等で農学部長に説明しなければならない立場から、将来の獣医学教育態勢の青写真と、そのフィロソフィーを明確にすることが求められています。

再編先の大学名に関連して、○○省の皮肉もお伝えします。
「先生方のこれまでの運動から見ると、北大、東北大、東大、九大に集まることは既定の事実だと思っていましたが…?」

要するに、いまだに固有名詞も明らかに出来ないようなことで再編が出来るのか、という危惧の念と、当事者がコップの中の争いを続け、現実的な議論を先送りにしているような意識の低さでは危なくて、本気で再編の話には乗れない、という不信感が垣間見えて、非常に残念でした。

同時に、石原都知事が「常識を詰めたかばん」をもった事務官を××大学に派遣した、という話も思い出しました。事務官の公金使い込みについての△△大学長の非常識なコメントも世間の笑いものになりましたが、大学人として世間から馬鹿にされないような常識ある対応を取りたいと、自戒の念をこめて、考えています。

次に、もう一つの重要事項です。それは、西2校が九大に再編すると、西連大が解消するので、その後、再編に参加しない大学の大学院をどうするのかを考えることです。これも、「わが国の獣医学教育の将来像」の重要な部分であり、早急な青写真の作成が求められています。

この問題については、2つの基本的な考え方があります。

 1 自主努力により「基準」に達する学部を作ることが出来るならば、現在の北大や東大より大きな組織となり、当然、独自の研究科を設置できるはずである。このような大学の大学院問題に口出しをすることは「大学の自治」の侵害になる恐れもある。従って、再編に参加しない大学の大学院設置については、当該大学の「自主努力」にまかせるべきである。

 2 仮に、一時的にせよ、自主努力大学において独自の研究科が設置できない事態が生じた場合には、当該大学は大学院進学を前提に入学した学生に対する責任を果たせない。そのような場合には、関係大学全体として、学生が大学院を終了するまでの
保証を行うべきである。

保証の仕方としては、以下の2つが考えられる。

 1)このような学生を既設の大学院で受け入れる。その際、入学試験や、研究の継続性のための外部指導教官の指名などを十分に考慮する。
 2)あるいは、独自の研究科が設置できない大学を集めて、再び連大を設置する。(これに関連して、九大に2大学が先行して再編し、新しい獣医学研究科を立ち上げた場合、再編に参加せず、しかも独自で研究科が設置できない大学はこれと連合して、新たな連大をつくる案があったそうですが、これは制度的に不可能だとの回答を得ていますので、検討課題からは除外します。)

このように、基本方針2-2)を採用する場合に限って、新たな連大についての検討が必要です。

新たな連大をどのように設置するのか?その可能性は次のようなものです。

可能性 1) 西の連大が解消した時点で、東の連大も一旦廃止して、独自の研究科が設置できない大学が集まって、全国で1つの新たな連大を作り直す概算を出す。

この案の欠点は、1)東の連大を廃止する理由に乏しいこと、2)そのようにして新たな連大を作ると、ここに参加した大学は当面(5年間)は連大を抜けられない(抜けたとたんに、新たな連大が崩壊する)、すなわち、遅れて再編に参加することが出来ないことです。そして、これは、段階的に獣医学教育を改善して、最終的に3-4国立大学にするという、「将来の姿」の実現を不可能にし、ひいては、「再編が西2大学で終わるなら認められない」という結末になります。

それではどうしたらよいのか?

可能性 2) 結局、全大学がそろって再編に参加し、あるいは、独自で学部と研究科を設置して、「緊急避難的措置」として発足した連大は発展的に解消することしかありません。
 
これが私達の最終目的であり、もっとも望ましい選択です。基本方針2-1)に述べた方法で、問題点も解消できます。

前回も書きましたが、今、本音で議論しておかなければ、その機会も、必要性もなくなるでしょう。 この問題についての皆さんの本音を、至急、お寄せください。

メーリングリスト経由でもかまいませんし、直接お送りいただいても結構です。私のメールはahkrki@mail.ecc.u-tokyo.ac.jpです。

10/27付けの藤田メールによる要望に対しては、再編先の大学名を明らかにすることと、連大の将来を明らかにすることによって、「獣医学教育の将来像」と「そこに至る過程」を明らかにすることができます。これに加えて、私達は「なぜ、それらの大学を再編先に選んだのか」を、農学部長会議に対して説明しなくてはなりません。

 11/10の東6大学の集まりでは、ぜひ、これらの点をご検討ください。また、この問題を検討するために、なるべく早い時期に臨時国公立協議会を開催することを、徳力会長にお願いするつもりです。


藤田原案について 2000/10/27

北大の藤田です。

唐木先生のメールで、私の「私的な示唆」に固有名詞を入れて、獣医学関係者が一致して認めることが提案され、びっくりしています。固有名詞はあまりいれたくなかったのですが、現在の暗黙の了解ですし、はっきり言ってしまえば、そうすることの賛否も明確になり、問題点も浮き彫りにされることでしょう。言ってくれて良かったのかも知れません。

ところで、視点をかえれば、獣医学教育機関の配置は、私学を含めると、
    北日本3ー4校、
    東日本4校、
    西日本2校
と言うことになります。

具体的に言ってしまえば、私学を含めた我が国の獣医学教育態勢として、北日本(北海道・東北)地区では北海道大学(あるいは他の国立大学1校を加え国立2校)および私学2校の計3ー4校、東日本地区では、東京大学および私学3校の計4校、西日本地区では大阪府立大学、九州大学の2校とすることを目指す。と言うことになりますが、本当にこのような配置で良いのか、時間の許す限り、論議は必要でしょう。
論議の課程で、ぜひ、日本の近未来の獣医学教育態勢の青写真と、そのフィロソフィーを構築して下さい。臨時委員会等で農学部長に説明しなければならない私の立場から、よろしくお願いします。


同じ過ちをくり返さないために、問題点を整理します 2000/10/25

唐木です。

これまでの努力にもかかわらず、国立大学獣医学科からの再編参加の提案はほとん どの大学において農学部の了承を得られていません。私たちの目的は「再編をするこ と」ではなく、「教育を改善すること」ですが、長い検討の結果、教育改善のために は再編しかないことが明らかになっているのです。

ところが、いまだに「自主努力」とか、「オレゴン方式」、「カリフォルニア大学 方式」、「単科大学方式」など、過去に否定された方式を再検討する声があるように 聞いています。

同じ検討を何度も繰り返して、時間を無駄にして、結局は教育改善が出来なくなる 愚を避けるために、これらの方式についての過去の検討結果を述べておきます。

1 自主努力による改善は不可能

自主努力による国立大学の獣医学教育充実が不可能な理由は以下のとおりです。

第1に、私たちは獣医学教育の充実のために何年間も自主努力を続けてきました。 そして、教員数の純増、入学定員増による教員数の増加、他大学や他学部や他学科と の協力など、考え得るあらゆる手段を検討しました。その結果、獣医学教育充実は自 主努力では不可能であり、再編整備しかない、という結論に達し、その実現を決意し たのではありませんか。自主努力が可能なら、とっくに教育改善が完成しているはず です。

第2に、獣医学教育の基礎は医学教育の基礎と類似性があるので、この部分を共通 にすればよい、という議論がありますが、これが机上の空論です。すなわち、国家試 験出題科目のうち、医学部と共通で教えることが可能なものは生化学の一部くらいで あることは、医学、獣医学両方の教官が認めるところです。実際に、スイスの獣医科 大学においては一部の前臨床系教科を医学部で教育していましたが、EUの外部評価の 結果、獣医学に適した教育内容になっていないという理由で、改善を余儀なくされて います。

第3に、仮に獣医学教育のために他学部・学科の人員を割いて、「獣医学教育に関 する基準」に適合する72名の教員数を確保できたとしましょう。この場合、入学定員 30−40名は変えることが出来ないのですから、学生/教員比は0.42-0.56となり、学生 あたりで計算すると、医学(入学定員120名/教官数140名=0.86)の2倍近い教官が配 置されることになります。獣医学教育に対してこのような贅沢な教官配置をすること が納税者の納得が得られるでしょうか?教官数が72名であるならば、学生数は60名以 上で医学部並の学生/教員比になるのです。再編により適正な学生数と教官数となる ことは簡単な算数であり、もっとも安上がりで効果的な方法であることは自明の理で す。(この観点からは、将来、大阪府大については入学定員を多少増やすことも必要に なるかもしれませんが、その程度の増加は獣医界の承認を得ることが可能であると考 えます)

2 「オレゴン大学方式」や「カリフォルニア大学方式」による改革は成立しない

 オレゴン州立大学(0SU)獣医学部とワシントン州立大学(WSU)獣医学部は協力して教 育を行っています。1998年当時、OSUは34名の教育スタッフしかもたず、米国獣医師 会による教育評価に合格できないために、2年次と3年次の前半の学生をWSUに移動さ せて、基礎と臨床科目の一部を受講させていました。しかし、OSUはWSUに学生1名に ついて年間23,000ドルの費用を支払わなければならず、財政負担が大きすぎること、 そして、この制度はOSUの学生、特に既婚者には大きなストレスであり、不満が増大 して続行が難しくなっているなどの理由で、オレゴン州はOSUを充実させ、単独で教 育を行う方針です。

わが国では、近距離にある宮崎大学と鹿児島大学の獣医学科間で授業協力を行い、 各講座の教官が1回ずつ相手校で授業を行い、学生が年1回相手校に行って実習を 行っています。これまでの経験から教官、学生にとって年1回程度の往来が限度であ り、それ以上に規模を拡大すると、負担が大きくなりすぎます。本来、この交換授業 は獣医学教育の不備を補うためのものであり、この方式をもって獣医学教育の根本的 な改善を行うことは不可能です。 (これらの点については、教育改善HPで伊藤勝昭先 生が詳しく解説しています)

カリフォルニア大学は、それぞれが単独の大学として成り立ち得る一流の分校が1 つの名称の下に集まっています。一方、わが国の国立大学の獣医「学科」がいくら連 合を組んでも、それぞれが不十分な組織であり、遠隔地に点在している限り、十分な 教育協力が不可能なことは、オレゴン方式と同様の理由で明らかです。十分な教育を 行うためには、国立10大学のうち、A大学には解剖と生理学講座だけ、B大学には薬理と 毒性学講座だけ、などという専門分担をして、学生が10大学すべてを動いて教育を 受けるようにすることが考えられますが、そんなことが可能でしょうか?学生はどこ の大学の卒業生になるのでしょうか?解剖と生理学講座だけしか持たない組織を獣医 学科と呼べるのでしょうか?「カリフォルニア方式」は全く非現実的です。

3 「単科大学」案は否決された

国立大学獣医学科を集めて一つの単科大学を作り、これを各地に分散配置してはど うか、との考えもありますが、これは2つの理由で困難です。

第1に、単科大学案はかつて国公立協議会において提案されましたが、今の時代に、 新たな大学を作る財政的基盤も、論理的な理由もないことから、否決されました。再 度提案しても、同じことになるでしょう。

第2に、仮に、単科大学を作ろうとしても、各大学から獣医学科が出てゆかなければ新 しい大学は出来ません。獣医学科が出て行くことに反対がある以上、問題の解決には なりません。名前は単科大学にしても、元の大学にそのまま獣医学科を置いておけば いいではないか、という議論もありますが、これでは教育改革になりませんし、A大学に B獣医単科大学の一部をおいておく理由が成り立ちませんし、学生と教官の管理が極め て難しくなりますし、そんな概算要求は通らないでしょう。

再編整備に伴う数々の面倒を考えると、これを心から喜ぶ人がいるはずはありませ ん。しかし、あらゆる可能性を検討した結果、獣医学教育の整備の方法は再編しかな いのです。幸いに西の2大学と九州大学が正式の話し合いに入ることが決まったよう です。私達は全力でこの動きを支えてゆきたいと思います。獣医学を志す優秀な学生 と、獣医学に期待してくれる納税者・国民のために、私達は過去の亡霊を引っ張り出 すことはやめて、現実を直視しましょう。


唐木です。緊急のお願いのメールです。2000/10/24


藤田北大獣医学部長のメールにあったように、10月18日の農学部長会議では、日本の獣医学教育の単位が小さ過ぎること、そして、その改善のためには再編などの道を考えることが認められ、大きな進展がありました。

臨時委員会の藤田座長の努力にお礼を申し上げます。

次の大問題は、現在進行中である西2大学の九大再編の概算要求を、文部省に認めてもらうことです。そして、そのために条件があることが明らかにされました。それは、「今後の獣医学教育の全体像を明確な形で示す」という、文部省の要求に応える
ことです(10/19藤田メール)。

従って、今直ちに、今後の獣医学教育の全体像を明確な形で示すことができれば、西2大学の再編に明るい見通しがつき、獣医学教育改善は一気に進むでしょう。

もし、それができなければ、西2大学の再編は文部省の承認を得ることが出来ず、これまでの我々の努力は水泡に帰し、獣医学教育改善運動は終わるかもしれません。

では、今後の獣医学教育の全体像とはどのようなものでしょうか?一つの案が、下記のような、藤田学部長の私的な示唆です。私はこの案を獣医学教育関係者が一致して認めることが、教育改革の第1歩だと思います。

<今後の獣医学教育の全体像>
  北海道:国立1,私学1
  東北・北陸・関東・中部:国立1−2,私学4 
    東北:国立1,私学1 
    関東・北陸・中部:国立1,私学3
  関西・中国・四国:公立1
  九州:国立1

つぎに、全体像を明確な形で示すためには、上の案に固有名詞を入れなくてはなりません。公・私立は固有名詞が確定しています。国立については、多くの関係者が暗黙のうちに、北大、東北大、東大、九大が候補であることを認識していますが、これに反対する人もいます。しかし、今は、小異を捨てて大同につくべきときです。固有名詞を入れて、将来の獣医学の姿を明らかにしなければ、改革は終わります。

獣医学教育の全体像を、獣医学教育関係者の間で合意する。これを農学部長会議にかける。同時に文部省に伝えて交渉に入る。西2大学と九大が概算要求を提出する。文部省がこれを受け取る。大蔵省と協議に入る。この長い過程を考えると、残された時間はほとんどありません。そして、獣医学関係者の合意が出来なければ、この作業は第1段階で停止してしまいます。

11月10日には東6大学の集まりがあります。東6大学の将来像が「今後の獣医学教育の全体像」を決定する一つの焦点です。ここで明確な結論が出なければ、西2大学の再編、ひいては独法化以前の獣医学教育の改善は時間切れになるかもしれません。

現在、このような「天下分け目」の情勢にあります。

そこでお願いです。

今、本音で議論しておかなければ、その機会も、必要性もなくなるでしょう。 「今後の獣医学教育の全体像」についての皆さんの本音を、至急、お寄せください。

メーリングリスト経由でもかまいませんし、直接お送りいただいても結構です。私のメールはahkrki@mail.ecc.u-tokyo.ac.jpです。


獣医学再編には獣医学教育の全体像(フィロソフィー)が必要です 2000/10/20
北大:藤田正一

各位

北大の藤田です。10月18日の農学部長会議の際に、文部省の専門教育課長と話すことが出来ました。九州大学2大学先行に関して直接言及したわけではありませんが、私学教育を含めた、日本の獣医学教育のあり方の全体像がきちんと確立した中での2大学先行案でなければ、文部省として、大蔵を説得することが極めて困難という印象を得ました。事実、一部の農学部長には課長がそのように語ったと聞きます。

国公立大学獣医学関係代表者協議会の決議に基づくと、学生定員が現状のままであるならば、全国の国立大学獣医学科を3−4学部に再編集約することになります。ここで、再編集約先は言及されていませんが、お叱りを覚悟で言えば、暗黙の了解として、4学部の場合、国公立の獣医学部は北から、北海道に1学部、東北に1学部、関東・北陸・中部に1学部、関西・中国・四国に1学部(大阪府大)、九州に1学部に集約するということになるでしょう。 地理的には日本列島をバランスよく5つに分けて国公立獣医学部を配置すると、このようになると思います。さらに、私学を考慮すると、

北海道:           国立1,私学1
東北・北陸・関東・中部:国立1−2,私学4 
  東北:          国立1,私学1 
  関東・北陸・中部:  国立1,私学3
関西・中国・四国:    公立1
九州:             国立1
という形になります。

九州大学2校先行案を実現させるためには、我が国における獣医学教育の拠点をこのように配置(あるいは別の配置でも)再編することが、教育効果、志願者数、産業基盤、社会的ニーズなどの上からも、各校の獣医学教育研究における役割分担からも、地理的な配分からも、最も好ましい再編であると考えられると言う根拠を早急に明確にする必要があります。そして、九州大学2校先行案はこのような理想的全体像実現のための第一歩であると言うことを示す必要があります。

臨時委員会の農学部長達も、必ずしも再編に反対と言うことではないのです。自助努力がダメな場合は、再編等の道を考えるとまで合意してくれました。十分な獣医学教育が出来ていないのはスケールが小さいことが原因であることも納得していただけました。再編の仕方に納得の行くフィロソフィーがあれば、反対はしないと思います。

文部省も農学部長も納得できるようなフィロソフィーを考えて下さい。

* 印象に残ったある農学部長の言葉(司馬遼太郎の言葉だそうです):
  改革への一歩を踏み出しますか、あと100年同じことを続けるのですか。



獣医学再編 今が最後の踏ん張りどころです ご協力を!
 

唐木です。

私たちは今、再編の胸突き八丁にさしかかっています。獣医学の外の世界の人たちに再編の必要性を説明し、ご理解を得て、協力していただかなければ、動きが取れないところにきています。

外部の人達から、山口と宮崎の2校が再編したあと私たちはどうするのか、教育改革の全体像を示すことも求められています。これに応えるために、先日の国公立協議会では国立大学の獣医学科を最終的に3-4校に集約することに合意しました。そして、教育改革は一歩一歩前進すること、すなわち、再編が一気に完成することが望ましいけれど、それが不可能であれば、まず2校が集まり、ここに後から何校かが参加し、といった段階的な改革を行う道についても合意しました。私たちにとっては大きな前進ですが、これを外に人たちに認めてもらわなくては意味がありません。

外の世界の人たちには、「再編の話の裏には、獣医のわがままと、拡張主義があるのではないか」、という懸念があります。

私たちは、前者については、1)国家試験出題科目も十分に教授することが出来ない体制の不備、2)国際的な基準にはるかに及ばないこと、3)学生/教官比では、歯学部より獣医学のほうが優遇されているにもかかわらず、教育が十分に出来ないのは、各獣医学科の規模が小さすぎるためであること、などの理由を説明して、再編は獣医学のわがままではなく、学生のためであり、グローバリゼーションのためであり、そして税金を効率的に使うためであることを主張してきました。

後者については、「現有の資源をもって再編するのであり、学科数では大幅に減少すること、教員数も、もとの大学においてくる可能性を考えると、減少するかもしれないこと、入学定員は現状の約1000名を維持することなどを説明して、獣医学は拡張を目指すのではないことを主張してきました。

もちろん、獣医学内部では、入学定員を増やすべきとか減らすべきとかの議論があることは承知しています。教員も現有の数では足りないので増やすべきとの議論もあります。獣医学関係大学の間、そして教官の間に意地とか、面子とかによる対立もあります。現在の土地を離れたくないために、再編に消極的な教官もいます。

しかし、私たちが一枚岩にならないで、どうして外部の人たちを説得できるでしょうか。獣医学を志す優秀な学生たちのために、獣医学教育のために税金を払ってくださる国民の期待に応えるために、そして、私たちを信じて獣医学受け入れのために努力してくださっている大学の関係者の努力に報いるためにも、私たちは再編を成功させる義務があるのです。

今は、獣医学内部の論理や議論や私情は棚上げにして、再編の成功に向かって一致協力すべきときです。


獣医学科学生定員について 松山先生への返答 2000/10/13
北大: 藤田正一

獣医師会の様子を教えていただき有難うございました。私もそのようではないかと思っておりました。獣医師会を敵に回して再編を勝ち取ることは出来ません。しかし、数を増やすと言うことは長い目で見れば、獣医分野の力となることは確実です。医師会があれだけの力を持ち得るのも、数が多いこともその大きな要因の一つです。定員を減らして個人収入を増やせても、数が減って獣医学が先細りになってしまうこと恐れます。職域を広げて数を増やすためには、社会の要求する人材の供給が必要です。そのためにはそのような人材の教育を行う新しい組織や学問体系づくりも必要です。社会医学における医学部の対応は素早いものがあります。獣医の対応できる人獣共通感染症分野も、医学部側からの職域拡大に圧されてしまうかも知れません。本当に学生数を減らして良いのでしょうか。獣医師会にも再考をお願いしたいところです。しかし、この論議は今は深入りするのを止めましょう。獣医がまとまって教育態勢の再編を考える時ですから。質の高い教育は新たな職域に需要を生む可能性もあります。どうも有難うございました。


学生定員の増加は慎重に  2000/10/11
日本獣医師会: 松山 茂

藤田先生のご意見拝見しました。

国立大学再編に関し、教官定員増の解決策選択肢の一つに学生定員増も考えるべきではないかとのご意見ですが、かつて、全国大学獣医学関係代表者競協議会で小生が申し上げたことがあると記憶していますが、日本獣医師会の内部には、獣医学科学生定員を減らせという意見があることにもご注意願いたいと思います。

「勤務、開業を問わず獣医師の過剰は、待遇の低下、過当競争、過剰診療、社会的信頼の低下等きわめて重大な基本的な問題につながる。」ということを旗印に、獣医師の需給見通しについて緊急に検討を行い、適切な処置を講ぜよというものです。要するに学生定員を減らす運動をせよということです。

具体的には、日本獣医師会に獣医師需給検討会を設置せよと理事会に提案されてます。しかし、小生、執行部の一人として現在の大学再編の動きを説明し、今は時期が悪い、しばらく待つようにと採択を避けています。一方では新しい分野への職域開拓も努力すべきであると意見開陳していますが、あまり乗ってきてはもらえません。

要望されている検討会は獣医師会内部に設置する委員会ですから、結論は火を見るよりも明らかです。もし、藤田先生だけでなく、何人かの先生が、この委員会に出席され多くの開業獣医師(特に小動物)を説得し、学生定員増の結論を導き出せる自信がおありでしたら、直ぐにでも検討会設置に動きたいと思います。そしてその結論をもって文部省等に働きかけることも不可能ではありません。しかし、小生の観測では逆の結果が出そうな気がします。試みに地元の獣医師会等に当たってみてください。

将来にわたって、先生のご趣旨を生かすためには、大学の先生方が、地元獣医師会に働きかけてそのようなムードを作っていただくのが先決かと思います。

また、卒業生の就職に、新しい分野への開拓にも努力してただきたいと思います。いずれ需給検討会は作らなければならない空気ですから。

先進国の一つとして、世界の獣医学教育に見劣りしない獣医学教育を、現在の、そしてこれからの学生さんに受けさせたいとは誰しもが願うことであろうと思います。一刻でも早く、少なくとも基準協会の基準に到達することを願うものです。


獣医学再編の選択肢 学生定員の増加  2000/10/10

北大:藤田正一


10月6日の国公立大学獣医学関係代表者協議会で、

1.全国立大学の獣医学科が獣医学再編に加わり獣医学教育改善を目指す。
2.これまでの検討の枠組み以外の可能性についても検討する。
3.国立大学の獣医学教育機関として、全国3〜4学部に集約・再編することを目指す。
4.九州大学への2大学獣医学科先行を全面的に支持する。

と言うことが決議されたことは、皆様既に御存じのことと思います。

特に3についてですが、これは現在の獣医の学生定員および教官定員がこのまま増加しないと仮定した時の当面の解決策であると言う認識が必要かと思います。獣医としては、獣医師以外にも人材を輩出しており、特に公衆衛生方面では人材が不足しているかに見受けられます。そこを狙って、医学部等で、社会医学と言うことで、修士コース等の新設の動きが多いのも事実です。獣医としても、人獣共通伝染病等の疫学専門家の養成は必至ですし、このような方面に進む人材の養成のため定員の増も検討すべきではないでしょうか。

開業獣医師が飽和状態にあるとしても、別の職域の需要に答える必要はあると思います。

学生定員の増がこれ以上望めないと言うことを絶対の前提条件にはしない方が良いのではないでしょうか。難しいかも知れませんが、学生定員増とそれに伴う教官増によるスケールメリットの確保と言う選択肢も残されていると言うことをどこかに覚えておく必要があります。その意味では、日本における獣医学部の数より、学部としてどのようなスケールが最も獣医学教育に適しているかの認識が重要です。基準協会の基準は最低基準であると認識し、少なくともその基準に到達できるのであれば、どのような枠組みによる編成でも良いでしょう。

将来に渡ってのそのような含みを残しつつ、当面は迅速な対応を考えて、3〜4校を目指すと言うことであると思います。(当然のこととは思いますが、学生定員が確保できれば4校以上の獣医学部を考えることも許されると言うことだと思います。)

このことに関する皆さんの御意見を伺いたいと思います。

 



鳥取大学若手教官のメッセージに対して思うこと
  2000/9/29
北里大学獣医畜産学部  汾陽光盛

初めて発言させていただきます
本日ご紹介のあった、鳥取大学若手教員からのメッセージを読んで、若干の危惧を抱 くに至りました。

私は、私立獣医科大学の教員です。国立大学の統廃合問題には、直接関係ないと思われる方も多いと思いますが、大学基準協会の策定した「獣医学教育の基準」は、私立大学にも重くのしかかっております。しかしながら、私はこれを日本における獣医学 教育の改革と受け止めておりますし、そのための関係各位のご努力に深く敬意を抱く ものです。

鳥取大学のメッセージには、今後訪れるだろう様々な困苦に対する危機感があふれており、切実な焦燥感が感じられます。しかしながら、その根底にあるのが、個人的な 生活に対する危惧感であると正直に表明されている行を読むにつけ、その目的意識の在処に疑問を感じたのです。果たして、これで人を説得できるのでしょうか。国立大 学の独立行政法人化を始めとする、教育の質的レベルの向上に対する世間の要望とい った言葉もちりばめられてはいますが、各自の家族の扶養という言葉にかき消されてしまっています。

恐らく、それが原因だと思われますが、様々に展開されている九州大学への統合の必要性に対する議論にも説得力が感じられません。全て、どこかで聞いた議論のつなぎ合わせのようにさえ読めます。このままでは、これを読む他学部、他大学ひいては一般社会の人たちが間違った印象を持ってしまうのではないでしょうか。原点に立ち返 り、日本における獣医学教育発展のために何が必要かという立場で理論展開されることを切に望みます。大学教官の「ポスト」は「私」の物ではないはずです。

違う立場(視点)からの意見も、まれには有用であるかと期待し、一文を寄せさせていただいた次第です。エールと受け取っていただきたく存じます。


 


ホームページ 「知のディズニーランド・ハーバード大学」 を紹介します
 
真木康之

いつもML拝見させていただいてます。大阪で以前勤務獣医師をしておりました真木と申します。現在は動物病院向けソフトウェア開発の会社をやっております。 何らかの参考になればと思い下記の記事をご紹介させていただきます。

http://tanakanews.com/a0921harvard.htm


ゲルフ大学教員評価から学ぶこと (獣医学教育の国際化へ、もう1つの課題:教員評価)
日本大学生物資源科学部 助教授 津曲茂久

はじめに
 日本の獣医学教育のレベルは欧米諸国のものと比べると、人的、物的、質的に遠く及ばないだけでなく、ますます取り残されつつあるという認識が昨今急速に広まった感がある。しかしながら、従来の教員評価に慣れ親しんできた大多数の大学教員には、その方向性は認めつつも、それほど改革の必要性を感じられないのではなかろうか。その最大の理由は獣医科大学だけでなく日本の大学全般に通ずる問題に由来するからであろう。日本の大学教員の最大の関心事は、研究に対する評価である。研究に対する評価が即ち学者として評価であり、教員としての評価でもある。勿論、これは一概に否定されることではないが、獣医師会からの要求や学科(獣医学部ではなく)からの厳しい評価のある諸外国と異なり、日本の大学では教育に対する評価が殆ど存在しないのが現状である。
 翻って、日本の大学の入学試験は一般に難しいとされているが、一旦入学すると卒業までは一般に容易である。一方、欧米の大学においては、入学は比較的容易であるが、振るい落しのために卒業することは至難である(大学院教育を行う医科・歯科・獣医科などの専門教育大学は入学も困難である)。一般に欧米の大学においては、1単位取得するにも厳しいハードルがある。講義の折のクイズ(5分間小テスト)、毎週のレポート(大学図書館は日曜日オールナイト開館である)、通常2回の中間試験と1回の最終試験等を合わせた点数で総合評価される。この教育システムは、学生に大きな負担を強いているが、同時に教育を授ける教員にも多大な職務を強いている。しかしながら、大学教育が教員だけで行われているのではなく、多くのサポーティングスタッフの協力の基に行われていることも事実である。多くの大学でその人数を聞かされると驚きを禁じえないが、経済原則を離れて大学が存在する訳でもない。多くの大学は多様な地域社会へのサービスを担っており、そのサービスを提供するための人と施設を州政府や民間からの資金で賄っている。従って、非教育的業務に教員が携わることは教育基盤を大きくしたり、維持するために必須であり、教員評価がそこにも及ぶのは当然である。
 多くの大学教員が欧米の大学に行き来していると思われるが、それらの獣医科大学の教員評価を知ることは余りなかったのではなかろうか。これからの獣医学教育を進める際に欧米の教員評価の実態を知ることは有益と考え以下に紹介する。以下に記されている内容は、カナダ・ゲルフ大学獣医学部生物医学科の教員評価書式であるが、最後のところに、臨床獣医学科との違いも付記した。


ゲルフ大学獣医学部生物医学科の時間・能力向上評価の簡易履歴書

評価期間:   年9月 〜   年9月 (2年間) 

氏名                地位         

1.過去2年間の職務(以下の5項目の評価は優、良、不可に判定される)
 1A  教員による自己評価(%)
教育、研究、他の学術活動、サービス、管理事務
  (各年度ごと記載)
 1B 学科主任の評価(%)
  教育、研究、他の学術活動、サービス、管理事務
  (各年度ごと記載)
 1C 1Aと1Bの差異に対するコメント

2. 教育職務
 2A. 学部教育
  1)講義と実習
   コース#、受講者数、1区分実習人数、講義数、実習数、実質総時間
   (各コース全て記載)
  2)コースコーディネート
   コース#、受講者数、講義数、実習数、単位、実質総時間
   (各コース全て記載)
  3)教育に必要な教育効果と評価法に対するコメント
  4)カウンセリングなどの授業以外の、もしくは教育に関連した活動
   コース名称、登録、推定実質時間
   (各コース全て記載)
  5)学部学生の研究指導
   学生名、課題名、推定実質時間
   (全て記載)
 2B 大学院コース
   コース#、コーディネーター、受講者数、授業数、実習・セミナー数
   (各コース全て記載)
 2C 大学院学生
  1) 指導教員
   学生名、プログラム(MSc, PhD,DVSc)、開始日、終了日
   (全て記載)
  2) アドバイス委員会委員
   学生名、プログラム(MSc, PhD,DVSc)、開始日、終了日
   (全て記載)
  3) 試験委員会委員
   学生名、試験(MSc, PhD, DVSc)、学科、セメスター、試験官・主任
   (全て記載)
 2D その他の教育活動
   他の紙にリストすること。出版(全ての参考資料または教育的課題の出版の詳細)、授業ノート(日本のような教科書を使わない代わりに教員が用意する簡易教科書)と補足資料(長さ、関係学生数、新、改定、共著者などを含める)、教育法の刷新(記述と支持文献を添付)、学会、ワークショップにおける寄与(参加/発表)

3. 研究関連と出版
 3A すでに発表された出版物
  1) 本
  2) 本の章
  3) レフリー雑誌論文
  4) 技術レポート(政府、会社、大学)
  5) アブストラクトまたは読み論文
  6) その他(ワークショップでの発表、招待講義)
 3B 正式にアクセプトされた出版物(上記1)〜6)についてアクセプト日を記す)
 3C. 獲得研究費
   提供団体、研究課題、共同獲得者、獲得額、提供期間
   (全て記載)
 3D 応募した研究費
   提供団体、研究課題、共同獲得者、獲得額、提供期間
   (全て記載)

4. 普及活動(Extension)、卒後教育など
 1) 非レフリー雑誌記事のタイトル
 2) 卒後教育と普及活動の会合で使用された論文のタイトル
 3) 短期コースへの参加―教育分野、学生数、教育の期間、共同教育者数
 4) その他

5. 評価期間における国際的活動もしくはサバチカル関係

6. 学外での専門分野表彰や学術活動
  組織、委員会、専門研究などにおける地位や職務、非大学機関からの要請、
  重要な賞などを詳細に記載。

7. 管理事務
 7A. 評価期間における大学内の大学、学部、学科の委員会および同様の団体
   (安全管理者のような非委員会の役職も含める)
   委員会名称、人数、会議回数、レベル*、活動の概要
  (各委員会全て記載)*大学、学部、学科、その他
 7B. 評価期間に行ったその他の管理事務

8. サービス
 1) 実施された州サービスとその他のサービス、誰に
 2) サービス活動に専念した推定時間と成果、専門的アドバイスの範囲を示す。
     サービスに関係する全ての研究もしくは展開について説明すること。
 3) この報告にあるサービスの自己評価を示すこと。
 4) 評価期間における教育と研究責務外の大学におけるサービス責務の情報を含めること。

9. 昇格、テニアおよび限定の昇格委員会に関係したその他の職務

10. 追加添付書類
  この書類とともに提出する追加書類は以下のとおり。
 1) 教育関係書類(Dossier)(必須)
 (Dossierは日本人には馴染みがないが、これには各科目、コースの教育方針、所属学会、購読 雑誌、図書館での繁用雑誌、最近の参加学会、教育に準備した教材、過去に行った全ての教育経験などが含まれ、約10枚ほどになる)
 2) その他行政的活動の要旨(オプション)

最後に
 以上がゲルフ大学の獣医学部生物医学科の評価概要である。一言で感想を述べると、実に評価内容が詳細であることに驚く。この中には大学の役割が明確に意識されており、社会のニーズを踏まえた教育機関であり、その目的を忠実に実行する意思が感じられる。臨床獣医学科では以下の点が生物医学科と異なる。1)臨床教員には教育職務の中に獣医教育病院VTH(Veterinary Teaching Hospital)での臨床教育が追加される。2)生物医学科では下位にある非教育的臨床サービス業務が、教育、研究に次いで重視される。即ち、VTHの利益に関係したサービスに寄与することは教員の責務であり、非教育的臨床サービスを全業務の10%以上費やすことが求められている。北米の大学における臨床教員のVTH活動の全業務に占める割合は30〜70%とされており、ここに学科ごとの教員評価が必要となる所以がある。3)研究業績は、臨床教員でも当然要求されるが、臨床では特に研究の質(有用性)を重視している(実際の記載内容:年に5本発表しても学問的に寄与することが少ないものもあれば、年に1本でも脚光を浴びる研究がある)。
 近年、国内でも臨床教員の教員評価を見直す試みとして、従来の研究業績一点張りから臨床業務も含めた総合評価を提案した経緯があった(私立獣医科大学協会臨床教育担当者会議)。これは、教育の国際化即ち、臨床教育の充実が最大の課題になることから、臨床教員が担っている病院業務も評価に加えたり、基礎、応用分野とは異なる研究評価基準を要望した内容であったが、その後、この提案が各大学の教員評価に影響をもたらしたという話はない。
 大学基準協会の最大の指針とされる教員数と施設の充実の目的は、勿論、獣医学教育の充実を計ることであるが、もし、従来のような教員評価が続くようであれば、臨床を中心とした実務教育の充実がどの程度達成されるのか定かでない。端的に表現すれば、評価されないことを評価されることより優先させることは非常に困難であり、その咎を個々人の資質の問題にするのは見当違いではなかろうか。獣医学教育6年制の成果は現在のところ全く不十分であるが、これは教員数や施設の問題だけであったのか、再検討する必要もある。
 最後に、この貴重な教員評価の資料をご提供頂いたゲルフ大学の山城茂人先生に衷心より感謝申し上げます。


唐木です。昨夜までアジア・トキシコロジー学会のため韓国にいましたので、遅くな りましたが、鳥取大再編事務局島田先生からのメールにお答えします。

1)「国立大学はそれぞれ獣医学教育の充実を目指す」の意味について。
 最初に、なにかあるごとに再編を止めようとする力が働くことは非常に残念です。
この文章には、「この変更は、従来の方針を否定するものではない」との注釈がありますように、これまでの方針を大幅に変更するものではありません。
 ただ、帯広の新しい状況から、東4大学がそろって東北大学に再編整備を行う概算要求は期限までに完成できません。従って、これまでの「東西4大学はそれぞれ東北大学と九州大学への再編を目指す」という決定は、この時点で意味を失いましたので、新しい方向を決める必要があります。
 新しい決定を分りやすく解釈すれば、次のようになるでしょう。
「国立大学はそれぞれ獣医学教育の充実を目指す。すなわち、東4大学は、新たな事態に対応して、それぞれ新しい充実計画を作成し、期限までに概算要求を行う。新しい計画には、東北大学への新たな再編整備案も含まれる。その他の大学は、これまでの努力を継続する。」
改めて、このように注釈をつけます。

2)再編なしの獣医学教育充実の可能性
 獣医学教育改善は我々全員の悲願です。その方法論については、過去20年間にわたって議論を続けた結果、再編が最も実現の可能性が高いという結論に達したのです。
 勿論、私達は1大学単独での充実策を否定はしていません。しかし、教官の純増が困難で、入学定員の増加も困難な現在、単独での努力とは、他学科を潰して、あるいは他学科の教官に獣医学教育の義務を負わせて、獣医学を充実する方法しかありません。それは、北大、東大でもほとんど不可能です。
 もし、単独で獣医学教育を充実する妙案をお持ちの方が居られたら、ぜひお知らせ ください。私達全員が喜んでその方法を採用するでしょう。私達の目的は「再編すること]ではなく、「教育を充実すること」だからです。しかし、残念ながら、現在のところ、この2つの課題は表裏一体となっているところが私達の苦労の元凶ですね。

 私達の努力も最終局面を迎えています。14年度概算を出せなければ、これまでの苦 労は無駄に終わるかもしれません。私は現在、獣医学以外の方による「賢人会議]に おいて、「獣医学教育改善の方向と方法」についてのご意見を早急に頂き、私達のこ れまでの運動の方向をオーソライズして頂くい努力を行っています。
 雑音はいつもどこからか聞こえてきます。しかし、雑音は改善も進歩も生み出すこ とはありません。私達は後ろ向きにならず、未来を信じて努力を続けましょう。皆様 の、とくに、これからの教育に責任を持つ若いかたがたのご健闘を心から祈り、期待 しています。


唐木教授  鳥取大再編事務局島田です。

唐木教授からのH12/8/20付けのメール(唐木メモ)「緊急のお知らせ」の内容、特に
「国立大学はそれぞれ獣医学教育の充実を目指す」について確認させて下さい。


下記の1)の文章は、
a.「再編という方法ではなく、各大学が独自で自助努力をする」ということを意図したものなのか、あるいは
b.「獣医学教育充実のための方法としての東4大学再編、西4大学再編、北大および東大の自助努力というこれまでの枠組みを外す」ということを意図したものなのか
どうか補足説明して下さい。

下記の1)「国立大学はそれぞれ獣医学教育の充実を目指す」については、現時点で は、(唐木メモ)であり、詳細が不明です。しかし、すでに少なからぬ影響(混乱) が出ております。


1)新たな状況に対応して、「東西4大学はそれぞれ東北大学と九州大学への再編を目指し、北海道大学と東京大学は独自で充実を行う」との国公立大学獣医学協議会 の方針を、「国立大学はそれぞれ獣医学教育の充実を目指す」と変更することとし た。
 なお、この変更は、従来の方針を否定するものではないが、平成14年度概算要求を目指して各大学がその他方法で獣医学教育改善の努力を行うことを認めるものであることが了承された。
 このことについての正式決定は次回の国公立大学獣医学協議会で行われる予定であるが、平成14年度概算を目指して一刻の猶予もない事態であるため、各大学はこの新しい方針に従って直ちに努力を行うこととした。


第2回 獣医学教育改善に関する臨時委員会議事録

日時:平成12年7月16日
場所:品川プリンスホテル、品川大飯店
出席者:関係農学部長、帯広畜産大学長代理
議長:北大獣医学部長 藤田正一

議題 1.本会議の議決事項の拘束力について
   2.今後のタイムスケジュール
   3.獣医学教育改善に関するフリーデイスカッション

議事内容

1.本会議の議決事項の拘束力について
(1)本会議の審議事項は各学部の自治を拘束するものではない。
(2)本会議の提言は11大学の農学部長の合意事項として相応の重みを持つ。
(3)決定事項を遵守する拘束の必要性が本会議で発議された場合は、当該事項につき、各部局で教授会の承認を必要とする。一学部たりとも、承認が得 られない学部がある場合には、当該決議事項は、全体に拘束力を及ぼすものではない。

2.今後のタイムスケジュール
(1)獣医学教育改善についての具体策の策定については、十分な論議を必要とし、拙速はさけるべきであるが、諸般の事情から、秋の農学部長会議を目処に具体策を提言できるように努力したい。
(2)今後、秋の農学部長会議までの間、e-mailによる意見交換を行い、必要が生じれば会議を開催し、検討する。

3.獣医学教育改善に関するフリーデイスカッション

 各大学の現状報告に次いでフリートーキングを行った。

(1)第1回西日本地区獣医学科の九州大学への統合・再編に関する私的懇談会:
 新しい動きとして、「九州大学より獣医学部を設置する案が提出された場合には、山口大学農学部は前向きに検討するという立場を取る」ことが6月14日の教官会議で決定され、これを受けて、6月29日の九州大学への統合再編に関する私的懇談会に山口大学農学部長が出席したことが報告された。
 尚、宮崎大学農学部長より、この件に関して宮崎大学農学部では、獣医学科が、十数年に渡って、獣医学教育改善のあらゆる可能性を検討し、九州大学に獣医学部創設しか道はないと言う結論に達したことに、宮崎大学農学部として、これを理解し、サポートを決めたことであって、農学部長が率先して獣医学科を九州大学へ出すことを牽引しているわけではないと言う発言があった。
 宮崎大学農学部は平成12年度に獣医学科を除く改組が終了しており、山口大学農学部も、13年度に改組が実現する運びになっている。さらに、理学部との新たな組織づくりの構想もある。両学部とも獣医が出た後の学部のあり方にきちんとした方策がある為に、獣医学科に協力できたという説明があった。
 今後、この2獣医学科の九州大学への統合・学部創設を進めるためには、地元への対応、連合大学院のあり方等、超えなければならない種々のハードルがあるが、九州大学としては、14年度の概算要求を目指したい意向であるようだということが紹介された。

(2)獣医学教育改善のための具体策に関するフリートーキング:
 獣医学教育改善の具体案のデイスカッションは、まだ、学部内で検討委員会が発足したばかりのところもあり、多くは検討されなかったが、連繋獣医学科案、地域に均等に4つ程度の獣医学科、学部に再編する案、東北大学案の可能性等が話題にのぼった。地域均等と言う際の地域は単純な地理学上の均等分配ではなく、産業基盤を加味したものでなくてはならない等が話された。


2000/6/26

アメリカの獣医学教育におけるPBL事情

今回、初めて参加します。PBLについて、書かれているのを拝見しました。アメ リカにおいても、PBLについてはどこの大学も興味を持っているようですが、実際 にはあまり、採用されていないのではないでしょうか。これは教員たちの以前からの 授業中心に対する慣れと自己評価による実績によるものであるように思います。ここでご紹介したいのは、アメリカにおいて、PBLが採用されるようになる前の段階で、アメリカ動物病院協会(AAHA)が7、8年前に、キャンペーンのようなこと を実施したことです。医学部においては、かなり前から、この制度が採用されている 大学があり(確か、ボーマングレイ大学だったと思いますが)、その卒業生たちの州 の試験に合格する率は変わらないが、卒業後、継続して勉強する医師を育てるのに、 PBL方式が役立ったという事でした。アメリカ動物病院協会では、その当時、卒業後も続けて勉強していく、小動物臨床獣医師を育てるにはどうすればよいのかという 事を熱心に考えていたようです。このことからアメリカ動物病院協会が北米の各獣医 大学から2名の教員を招待し、PBLとはどういうものかを講義と、実際の学生たち (医学部生でした)の討論の見学、また、参加者も同時にPBLの実験台になるとい うことを2日かけて、セミナーの形で実施しました。たしか、2年か3年、連続して行われたと思います。私も2年続けて、参加させてもらいました。交通費や宿泊代な どはアメリカ動物病院協会がほとんどを、足らない分は各大学が支払っていました。 聞き及んでいたのと、実際に参加したのでは、かなり、考えにずれがあったように記 憶しています。


日本の大学関係者では、PBLに対する理解は深いものであると思います。反面、 PBLについて、開業医の方々はどれくらいご存知でしょうか。卒業生の5割が開業 方面に進むようになったわけですから、受け入れ側の開業医において、先生方が行わ れておられる事に協力してもらえるような体制が出きればと思います。アメリカでは 、卒業生の9割以上が臨床に進みますので、医学部と同じように、臨床教育の充実、 また、卒後の獣医師の勉強ということが大きな課題となります。残念ながら、日本と 異なり、アメリカでは、一度卒業すると、その後の継続教育にはあまり参加せず、難 しい症例は専門病院に送るというケースが増えているように思います。日本では、小 動物開業医の勉強会や欧米の専門医を招いた国際セミナーが毎月、あるいは隔週にどこかで開催されているのが現状ですから、大学教育において、PBLを用いて、分か らないことは自分で調べるという基本的な考えを将来、臨床に進む学生に植え付ける ことは有意義だと思います。卒業後の勉強意欲がますます増えるように思います。  

私見ですが、日本獣医師会や、開業医の協会などとの意見交換などをさらに持たれ 、雇用者側の理解度を深めることも重要ではないかと思います(もう既に、行われて いるかもしれません。その場合は、私の認識不足です。ご容赦下さい)。アメリカ動 物病院協会が行ったようなセミナーで、日本の各大学の先生方、また、開業医の協会 の役員たちが、一緒に集まり、話す機会があれば、異なった角度からの意見も聞ける のではないかと思います。


あまり、まとまりの無い内容でしたが、ご参考にしていただければ幸いです。
 

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Taka Miyabayashi, BVS, MS, PhD
Diplomate, American College of Veterinary Radiology
Associate Professor, Radiology
Department of Small Animal Clinical Sciences
College of Veterinary Medicine
University of Florida
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2000/6/23

小川博之先生のPBLに関する情報、私は初めて知りましたが、多分そのような本がるだろうとは想像していました。
先に、意見を送りましてから数週間になりますが、その後Mississippi 大学の Dr.Kristi Green とDr. Phil Bushby から新しいカリキュラムの情報を頂きました。


しかし、内容を見ると鹿児島大学の岡本嘉六先生のホームページの中に北米の獣医公 衆衛生学教育に関する情報にホームページのアドレスが掲載されており、そのページ から直接情報を得ることができます。


先述の本に歴史的な記載があるか知れませんが、30数年前にマクマスターのカリ キュラムを作成したDr. H. Barrows はまだ健在で、アメリカの医学部のカリキュラ ム作成の助言者になっています。


英語のホームページを日本語に翻訳するソフトがNECによって開発されたと聞きま したが、先生方は英語の読み書きはなに不自由ないかと思いますので、各大学のホー ムページをご覧になれば良いかと思います。


さて、獣医学教育の改善について日本の獣医学科ー学部の先生方で何人の方が Journalof Vetrinary Medical Education ,( published by The Association of American Veterinary Medical Colleges )読んで居られるでしょうか? 1996年 冬号 に日大の津曲先生(Menon,M.A.,te.al.,Vol.23, pages 37-40) 等の日本の獣医学教育の国際化に関する論文が掲載されたのをご存知でしょうか?こ の雑誌に、獣医学教育に実際に試されたPBLの評価等の報告が数多く掲載されています。是非、各大学の図書館に購読して欲しいものです。


又、昨年LSU( Lousiana State University )で開催されたアメリカ獣医解剖学会 に出席しましたが、形態学を教える場合に最も困難なのは立体を理解させることであり、かなりの大学でコンピューター シミュレーションを開発しているようでした。 OSU( オレゴンではありません)、オハイオ州立大のDr. Inpanbutr さんがマクロの解剖のプログラムを開発していました。それに、最近の学生の漫画に対する親近感から動物
の漫画を講義に使って効果を上げているという発表もありました。Anthropomorphism という単語は皆さんご存知だと思いますが、一般生活にも新聞等でつかわれています。学生の嗜好に合わせた教育が必要かと思います。

最近気が付いたことを書いて見ました。もう一つ日本の大学の先生方にお願いがあり ます。あまりカタカナの語源が分からないような言葉は出来るだけ使わないで下さ い。国の最高学府の先生が使われると影響は大きいと思います。先日、あるグループ との交信で、私のメールにレスがないから。。。とありまして、私は多分 response だろうと想像しましたが?こういう言葉が一般的なのでしょうか?やはり浦島太郎な のでしょうか。

山城 茂人


2000/6/22

 本homepageにPBLに関する情報、意見の交換が行われているのを拝見しましたが、幡谷先生から拝借した、赤間晴子著「アメリカの医学教育、続アメリカの医学教育」(日本評論社)という本がPBLの実状を詳細に紹介しており獣医学教育改善の参考になると考えますので、本書の内容に関するメモを添付して、皆様に一読をお薦めします。

小川 博之(東大)

 

目次

赤津晴子:アメリカの医学教育 日本評論社

1.問診学
   1年生1学期14週間、週1回2時間
    2週間:講義、模擬問診、ビデオ、論文ディスカッション
    その後:病院実習(4人グループ、担当医2名)
         手引き書、ロールプレー、担当患者の長期問診(1年間)
     評価:中間試験、期末試験、レポート 
2.アメリカ式講義
   学部4年終了後進学〔4年の博士課程〕
    授業2年間、病院実習2年間 
     2年間で実習のための知識をすべて修得する
     1年目1学期:解剖学、組織学、生理学、問診学
        2学期:病理学、薬理学、生化学、微生物学、行動学
     2年目通 年:身体診察学(集中)
            病棟実習
             チーム制(2年目以上の研修医1,1年目の研修
                  医2,学部4年生1,3年生1)
             身体診察学、内科、外科(各3ヶ月)、産婦人科、
                   小児科(各6週間)
            病態生理学(循環器、消化器その他)
            薬理学、病理学、神経学、身体診察学(病棟)
        2学期:精神科
    授業形式
     Syllabus(講義要綱):スケジュール(講義内容)
     宿題(教科書):毎回20-30ページ、症例問題
     講義ノート:毎回5-20ページ
     スライド中心
     出席はとらない、内容濃厚、抜けるとついてゆけない
     「講義方式」から「学生主導型グループ学習法」
    学生による講義内容の評価
    個人指導
     家庭教師の手配(ついて行かれない学生に)
     ハーフタイム(1年分を2年で学習)
3.人体解剖学、身体診察学
4.内科実習
   チーム制患者ケア
    Teaching attending physician
     教授・助教授級1名(週3回、1時間半のミーティング)
    Attending physician
     中堅・ベテラン医師1人
      セーフネット、役割は指示ではなく、アドバイス、指導
      交代制の診療もセーフネット
    Team
     2年目以上の研修医1人、1年目の研修医2人、
     準研修医(4年生)1人、医学部3年生1人:担当医
     (100床 4チーム程度、4日に1度当直))
    「See one, do one, teach one」
   セミナー(3年生用、4名)
    技術セミナー(心電図、トピックス、X線、CT、MRI)
    内科部長セミナー
    生命倫理スタディセミナー
    教育担当医師・Preceptor
    昼食時セミナー(毎日)
    外部講師セミナー(週1回)
   試験と評価
    院内試験
    終了時:全米共通マークシート方式模擬国家試験
        筆記試験、Preceptor, AP, 研修医による評価
        学生のコース評価
5.一般外科実習
   チーム制患者ケア
    Teaching attending physician
     教授・助教授級1名(週3回、1時間半のミーティング)
    Attending physician
     中堅・ベテラン医師1人
      セーフネット、役割は指示ではなく、アドバイス、指導
      交代制の診療もセーフネット
    Team
     3、2年目の研修医各1人、1年目の研修医2人、
     医学部4年生1人(チーフ)、3年生3人:3ペア
     (2チーム程度、20?30人患者/チーム、3日に1度当直))
     一般外科、胸部外科、泌尿器外科、救急外科、整形外科、形成外科
     25手術室
   日程
    朝回診:5:00?7:00
    外科セミナー
    手術
    病棟回り
    夕回診
    新入院患者のAdmission
    翌日の手術準備(検査チェック)
6.救急外科実習
   24時間交代制
   学生用セミナー(週2-3回)
7.コミュニティ・ヘルス実習
   プライマリー・ケア
    コミュニティの一員としての患者
    コスト・パフォーマンス
    医療保険制度
    電話での医療相談
8.Away elective
   パキスタンのスラムでの調査・実習
9.エイズ外来実習
10.アルコール中毒のリハビリ実習
11.患者の権利
   患者の権利
    カルテ開示、事前説明
   患者参加型医療システム
   患者の代表課
    フルタイム3人、ボランティア75?100人
12.レジデンシー応募規定
   終了後、専門医認定試験受験資格を与えられる
   NRMP(National Resident Matching Program)


赤津晴子:続アメリカの医学教育 日本評論社

レジデント教育の特徴
1. 臨床現場で自己流で学ぶのでなく、カリキュラムのもとに系統的に学ぶ
2. 幅広い臨床能力を身につける
3. 学ぶと同時に教える立場にある
4. Evidence-based medicineの重要性、体得
5. 分業体制とチーム医療を基盤とした医療システム
6. コンピューターの活用
7. 仕事とプライベートの峻別

概要
1.実習
   一般内科当直、救急外来、癌病棟、CCU、一般内科外来、集中治療室
   骨髄移植科、コンサルタント(消化器、腎臓、内分泌、呼吸器、感染症)
2.セミナー
   Attending Rounds(attendingとのミーティング、回診): 1 hr / day
   Noon Conference : 1 hr / day(水曜日はMMC)
   Morning Report(レジデント症例検討会): 1 hr / day
   Morbidity and Mortality Conference(死亡症例および重症症例検討会)
   Grand Rounds(セミナー): 1 / wk
3.システム
   柔軟な個別教育(家庭教師、ハーフタイム)
   コンサルタントチーム:腎臓、リウマチなど
   チーム制
   Admission Note(入院時要約)とDischarge summary(退院時要約)
    Dictation system(口述筆記)
   SOAP方式(担当者の申し送りカード)
    S : Subjective, O : Objective, A : Assessment, P : Plan
   アパートと日帰り病棟
   患者データバンク
    入院、外来患者のカルテ、血液検査、レントゲン、CT、MRI、
    アポイントメント
4.理念
   Good Doctor
    Compassionate Doctor
    Competent Doctor : Evidence-based menicine
5.医学教育システム
   学士課程修了後の大学院教育(4年)
    Medical School(125校:73州立、52私立)
    入学志望者:45365、入学者:17317
   入学資格
    学士号、無機化学,有機化学、物理学、生物学、微積分
   応募課程
    必要書類(小論文、推薦状、成績証明書、医科大学進学全国共通試験、
         MCAT: Medical College Admission Test成績)
     MCAT : Association of American Medical Collegesが行う
      読解力(verbal reasoning)15点
      物理化学(physical sciences)15点
      小論文(writing samples)(11段階評価:J?T、2人x2題))
      生物科学(biological science)15点
     第2次書類選考(各大学)
      小論文
     第3次専攻
      面接、学生との交流、学内および関連病院見学
   入学選考委員会
    構成(教官数人、医学部学生)
    推薦書、小論文重視
      人物(special and interesting)
      数人づつ面接者を決定(一括試験ではない)
   卒前、卒後教育
    評価:Pass / Failのみ


2000/6/8

各位  ようやく議事録がまとまりました。御報告いたします。

獣医学教育改善に関するWG会議議事要録

本WG会議は、北大獣医学部長の呼びかけにより、平成12年5月30日、東京にお いて開催された。

出席者:北海道大学獣医学部長、岩手大学農学部長、東京農工大学農学部長代理、東 京大学農学部長、岐阜大学農学部長、鳥取大学農学部長、山口大学農学部長、宮崎大 学農学部長、鹿児島大学農学部長

議事に先立ち、全国獣医学協議会会長の唐木英明東大教授より獣医学教育の現状と、 改革の必要性、これまでの経緯の説明を受け、質疑応答があった。唐木教授退席後、 各大学の現状説明があり、山口大学農学部長の提案により、(1)日本学術会議獣医 学研連の提言に対する対応、2)獣医学科のこれまでの動きの総括、 (3)これか らの対応策について検討した。以下に検討内容と論議を要約する。

1.日本学術会議獣医学研究連絡会議の提言にある、獣医学教育の抜本的改革について、獣医学科を擁する農学部の農学部長は、農学部の重要課題としてこれを検討する 必要があるとの認識を共有する。

2.獣医学科の再編整備の問題は、21世紀に向けての農学再編の胎動に獣医が先鞭 をつけた動きであると位置づけられるが、新制大学8獣医学科による東北大学と九州 大学への2獣医学部新設案は、現状分析から行き詰まり状態であると判断する。

3.今後、獣医学教育改善WGとして現実的で対応可能な案を検討・提案する必要が ある。本件は、即、農学再編に繋がる重要課題であるため、本WGとしては、この会 を第3常置委員会の下部組織としてではなく、常置委員会と対等な委員会(臨時委員 会)として位置付けること提案する。 (この要請は農学部長会議総会で了承された)

4.今後の検討に際して、藤田北大獣医学部長が世話役を継続することとなった。

獣医学科の皆様へ(座長コメント):

獣医学科へ以下を要望したいという意見が多かった。すなわち、「獣医学再編は即、 農学再編に繋がる重要課題であり、学部の理解無しには改革の実現はあり得ない。獣 医学科と学部との連絡と協議を密にとるとともに、改革案などの学部内への浸透をは かり、論議をつくし、対外的には、学部できちんとオーソライズされたものを発信す ることを要請したい。」というものです。対応をよろしくお願いいたします。

2.の現状分析は厳しい表現になっていますが、これから、この案がダメだと言う判 断ではなく、現状は行き詰まり状態であるが、学部の理解が得られれば、事態はかわ る可能性があるため、座長としては、今後の検討の中で、当然この案も含めて審議いたします。


2000/6/7

オレゴン方式は?

先日の全国農学部長会議で獣医学教育充実に関する農学部長WG会議が行われ、その中で ある学部長から獣医学教育はオレゴン方式でやったらどうかという意見が出たと聞いてい ます。これはオレゴン州立大学(0SU)獣医学部とワシントン州立大学(WSU)獣医学部の協力 による教育を意味するもので、私は平成10年度に宮崎大学と鹿児島大学の獣医学科同士 での授業協力を推進する立場から、アメリカのOSUとWSU(およびアイダホ大学も加わって いる)の協力関係がどんなものか資料を集め、また当時OSUにおられた松本教授にこの件 に関して電話でいろいろお尋ねして調べたことがありますので、この提案に対する意見を 述べさせていただきます。

1998年当時OSUには34名の教育スタッフと36名の学生定員があり、一方WSUには約8 0名のスタッフと57名の学生定員がありました(アイダホ大学獣医は学生11名で事実上 WSUの分校みたいになっている)。OSUの学部規模ではアメリカ獣医師会が定めた accreditationに達しないので、OSUは2年次の1年間と3年次の前半に学生をWSUに移動さ せて、そこでウイルス学、細菌学、病理学、薬理学、毒性学、公衆衛生学、寄生虫学、放 射線学などと大動物、小動物内科、外科の一部を受講させ、その後OSUで臨床教育を行っ ていました。この派遣のためOSUはWSUに学生1名あたり年間23,000ドルを支払わなければ ならず、オレゴン州にとって財政負担が大きいので、オレゴン州は教員を増員して自前で 獣医学部を充実させる意向と聞いていました。またこの制度はOSUの学生、特に既婚者に は大きなストレスで不満が増大して続行が難しくなっていました。  

私は以下の理由からこの方式は日本では実現できないと考えます。
 1)地方の国立大学は 2学科が協力しても教員50名未満で大学基準協会の基準に達せず、国際的にも認められな い。(もちろん、再編の途中経過では2大学が先行して再編し、あとから基準に合致するように再再編を行うことはありうるが)
 2)アメリカの獣医学部はそれぞれの特色、役割を 持っており、たとえば魚類や爬虫類の獣医になりたい学生はフロリダ大学、動物園獣医に なりたい学生はカリフォルニア大学デービス校、野生動物はコロラド大学、ブタ専門獣医 はアイオワ大学、馬専門獣医はオレゴン大と、専門コースで学生が自由に動けるようにな っているが、日本の国立大学はおしなべて似たり寄ったりの弱小学科でそのようなところ で学生が行ったり来たり(あるいは教員が行ったり来たり)するのはエネルギーを消費す る割には教育効果は向上しない。学科を統合して組織を再編成して各学部がそれぞれの特 色をもち、スペシャリストがいるようになれば学生が大学間を動く意味は出てくる。
  3)H 10年に宮大と鹿大で交換授業を始めるとき、文部省は連大の学部版はあり得ない、という 見解を表明した。
  4)宮大と鹿大の交換授業を3年間続けてきたが、それは各講座から教官 が1回ずつ相手校に行って授業を行う、学生が年1回相手校に行って実習を行うという制 度である。今までの経験から教官、学生にとってその程度の往来が限度であり、それ以上に規模を拡大すると相当なストレスとなることを認識している。もっとも近距離にあるこの両大学間での協力でもそのような現状であるから、他の大学では容認できないであろう 。  

ちなみに宮大-鹿大の交換授業は現状の獣医学教育を少しでも改善するために始めたも のであり、教育の不備をある程度補完することはできています。しかし、この方式を持っ て再編整備に代えたり、あるいは基準をクリアすることはできないことは本事業発足のと き両学科で確認したことです。

伊藤勝昭


2000/6/6

日本獣医学会会誌であるJ Vet Med Sci の1999年のインパクトファクターが発表されました。

驚いたことに、1998年には0.395であったものが、一気に0.499まで急上昇しまし た。当面の目標である0.500以上に、この数年で到達したいと思っていましたが、それも 夢ではなくなりました。 これも会員の皆様がBest Paperを投稿してくださって、編集委員、レフェ リーが的確な審査を行ってくださるおかげと御礼申し上げます。

私は本年3月末で編集委員長を退きましたが、小野憲一郎新委員長の下にJ Vet Med Sciがさらに発展することを祈っています。

唐木英明


2000/6/6

農学部長会議WGの設置について 追加

5月30日に開催された農学部長会議WGでは、藤田学部長からご紹介がありまし たように、獣医学教育の改善を学部の重要課題と認識し、WGを常置委員会と対等な 委員会として併設するという、大きな前進がありました。藤田、林両学部長のご努力 に感謝します。

この会議について、もう少し詳しい「うわさ」をご紹介すると、以下の2点です。 1)獣医学教育改善の具体的方法を、農学部長会議としてなるべく早期に検討する。 2)可能な方法としては、現在の東4大学案、西4大学案のほかに、オレゴン方式 案、単独充実案などが考えられるが、いずれも実現には困難を伴う。したがって、こ れらの案を原案として、より良い方式を考える。  

WGの雰囲気では、東西4大学案には一部の学部長がかなりアレルギーを示してい ます。私は全国協議会長としてWGに出席し、オレゴン方式は困難という文部省の見 解をお伝えしましたが、一部の学部長には未練があるようです。  

いずれにしろ、学部長会議自身で新しい方式を打ち出すことは困難と考えられ、獣 医学側から現在の案に加えて、新たな提案を行い、複数の案についてWGで検討して いただく段階だと考えられます。もちろん、現在の案の実現をお願いすることは続け ますが、学部長の承認を得られない状況であれば次善の案が必要なことはご理解いた だけると思います。  

各大学において、このような新たな事態に対応すべく、4大学ずつの枠を離れて、 次善の案の検討を至急開始していただきたいと思います。残された時間は余りありま せん。  

さらに、藤田学部長のメールにあるように、各学科の先生の支援がなければ学部長 は動けません。各大学において、獣医学教育改善の必要性を他学科の先生に十分理解 していただく努力も引続き行ってください。  以上よろしくお願い申し上げます。

唐木英明


2000/6/5

獣医学教育充実に関する農学部長WG会議座長メモ                           
文責 北海道大学獣医学部  藤田正一

本WGは、昨年秋の農学部長会議において、その発足が認められたもので国立大学の 獣医学部または獣医学科を擁する農学部の学部長がその構成員です。発足直後の会議 以来、開催がストップしておりましたが、今回の会議は、獣医学問題では当事者であ る北大獣医学部長の呼び掛けで、平成12年5月30日、東京において開催されまし た。

各農学部長より、様々な意見が出されましたが、その内容などについては、不正確な 情報を防ぐため、全員の合意を得られたものだけを皆様にお知らせすべく、現在調整 中です。もう少しお待ち下さい。ここでは、現時点で報告できることだけ、以下に御 報告いたします。

出席者:北海道大学獣医学部長、岩手大学農学部長、東京農工大学農学部長代理、東 京大学農学部長、岐阜大学農学部長、鳥取大学農学部長、山口大学農学部長、宮崎大 学農学部長、鹿児島大学農学部長

議事に先立ち、全国獣医学協議会会長の唐木英明東大教授にお願いして、獣医学教育 の現状と、改革の必要性、これまでの経緯の説明を受け、質疑応答、および、意見交 換をいたしました。唐木教授退席後、各大学の現状説明があり、日本学術会議獣医学 研連の提言に対する対応、獣医学科のこれまでの動きの総括、これからの対応策など について検討しました。  

その結果、各農学部長は、獣医学教育改善については、学部の重要課題と認識して いる。そこで、本WGを第3常置委員会の下部組織としてではなく、臨時委員会とし て、常置委員会と対等な委員会として併設することを農学部長会議に提案する。と言 うことになりました。 最後に、本WGの世話役について計られ、藤田北大獣医学部長が引き続き世話役を引 き受けることとなりました。  

なお、国公立大学農学部長会議では、本WGの臨時委員会への昇格が認められまし た。メンバーに大阪府立大学農学部長を加えたメンバー構成とすることが同時に決ま りました。 以上のような状況です。学部長レベルでは、獣医学教育改善の必要性は認識いただけ たと思いますが、獣医学科の先生方におかれましては農学部の先生方と十分協議し理 解を得るようにして下さい。農学部長とて、一人では動けません。学部の支持があっ てはじめて、ことが運べるものと思います。

前述のように、これは座長を勤めさせていただいた私の私的メモで、公式の議事要録 は、一部の農学部長の私的見解が本WGの見解であるかのような誤解を防ぐため、各農 学部長の合意を得た後、改めて報告します。


2000/6/1

我が国の獣医学教育についての私見

 わが国の獣医学教育が国際的に立ち遅れていることは否定しようのない事実であ る。この現状を打破するために国際化への取り組みが現在精力的に行なわれているわ けで、この方向性に対して関係者一同異論はないと思われる。しかしながら実施時 期、達成目標、教員評価、国立大学にあっては再編方法などがあり、各論や具体的プ ロセスになると、さまざまな考え方と疑心暗鬼とが交錯しているように見える。この ような状況下において、わが国の獣医学教育が立ち遅れてしまった現状分析と欧米に おける実情分析は、総論と各論とを結びつけるためのプロセスとして何回も繰り返す 必要があると思われる。以下の分析は独断的で、部分的であることを最初にお断り し、ホームページのご意向に沿いたい。

1.4年制から6年制教育の現状
1) 国家試験科目は12科目から19科目に増加、教員はミニマムに増員。
2) 実習は全科目で実施(検査室実習が大部分)
3) 実務教育の拡充は実現されず、卒論研究が6年制教育の目玉になる? (アメリカの大学院進学者の研究コースに相当するが、日本の大多数の学生にとって 卒論教育は獣医学教育として不適当)
4) 家畜病院は都市近郊では小動物診療に偏重、地方大学の一部では大動物診療に 偏重
5) 大多数の家畜病院の規模は小さく、施設設備の充実に乏しく、診療スタッフと 支援スタッフも少ない。一般に家畜病院の診療頭数も少ない。
6) 一般に臨床教員の診療経験は少なく、専門性に乏しいきらいがある(主に5に由 来)。
7) 一部臨床教員は臨床を雑務視する傾向あり(教員評価法に由来)  

診療活動の停滞する理由は診療スタッフ数の少なさに由来する部分も多分にあるが (一部の大学では根源的理由)、設備などの診療環境の不備による部分が最も大きい ことを、自らの経験から強調したい。7)については、大学人のノンアカデミックに 対する蔑視かもしれない。

2.これからの教育目標は如何に
1) 北米の獣医科大学(現時点での最高水準)
2) ヨーロッパの獣医科大学(アメリカの80%?、日本はアメリカの30%?)
3) どの時代の、どの国の、どの規模の大学を目標とするのか
4) どのような教育システムを取捨選択するのか
  PBL方式は理想的であるが、山城先生、佐々木先生の意見にもあるように現時点では 導入困難であろう。但し、PBL方式の精神は大切であり、演習や臨床カンフェランス での応用は可能である(山城先生)。PBLの根幹と思われる自己学習システムは教育 充実に不可欠である(ドライラボ、標本教材、図書室の充実など)。基礎科目にカル テを持ち込まないまでも、症例との関わりを通して教育することは重要である(教員 同士の情報交換必須)。科目別ではなく、疾患別、臓器別、症状別講義も必須課題で ある(従来の科目別より数倍の教員が必要になることに留意。毎週講義時間が変わっ たり、短時間であっても講義回数が増加する。もし、一定以上の教員数が確保されな いと、診療と研究に大きな支障を来す可能性がある)
5) カリキュラムの根幹  
  九州大学や東京大学の新カリキュラム案にもあるように、家畜病院での1年間以上 のローテーション実習は国際化教育の根幹になることは疑いない。4年制教育のアメ リカではローテーション教育が1年半に延長された大学もある(小林敦子先生より)

3.教員評価法の改革  
  教育の国際化を計るためには教員評価の国際化を先に行なう必要がある。国際化を 確実に進めるためには、学内的にも推進政策が必要であり、その方向性に合致した業 績を評価するシステムが必要であろう。
1) 研究  
  年間一定の論文数は不可欠。点数一点張りの大学入試と同様に、論文一点張りの教 員評価は改善の余地あり。社会のニーズに応える研究。発展途上国を含め外国の獣医 科大学や国内の医学部などとの共同研究の推進。もし、現在のように基礎教員と臨床 教員とを同じ土俵で評価するなら、ノースカロナイナ大学のように臨床教員に1名の テクニシャンと100万円以上の研究費、臨床の義務を50%以下に制限した上での研究 促進施策が必要であろう(科研費総括担当第2班報告)。
2) 教育  
  学生と教員からの評価が必要。小講座ではなく、中講座もしくは大講座単位による 各教員の講義の技術を評価する。技術の評価には学生の理解を助ける教材の意義が大 きく、有用な教材の開発には多大の時間を必要とすることより、この評価が確立しな いと獣医学教育の国際化への進展はあまり望めない。
3) 大学の機能としての行政補完、イクステンション、卒後教育
  社会の要求に応えて大学のパイを大きくするという戦略がアメリカの大学には存在す るように思われる。日本では行政機関が行う家畜保健所業務や改良普及活動も大学の 付属業務として行なっており、それに必要な施設、人員、予算が連邦政府、州政府、 郡レベル(25:50:25)からサポートされている(ワシントン州)。これらの活動が直 接間接に学生の教育に生かされている点も見逃せない。各獣医科大学は獣医師会から の要請をうけて、有料の卒後教育を実施しており、各専門医学会も有料の卒後教育を 毎年行なっている。

4.最後に
  いずれにしても国際化に見合う獣医学教育には莫大なお金がかかるという認識を持つ とともに、お金を授業料だけでなくどこから獲得するのかという戦略が必要である。 国立大学再編の中で現在は国立大学が生みの苦しみにあるが、今後最も危機的状態に 陥るのは獣医科大学を含めた私立大学である。多くの獣医師教育に関わってきた私立 獣医科大学が、これからもわが国の獣医界で共存していけるような方策を、全体的な 視点から切にお願いしたい。

 「米国の獣医学部の現状と特徴」(科研費総括担当2班)の報告にあるコーネル大学 の記載に(p11)、この授業法の欠点の1つは試験が多くなることであり、試験は2〜3 日続くことが多いとある。私の知るところでは、この記述とは逆で、日常的なクイ ズ、レポートは殆どなく、学期末試験の2〜3日の試験結果のみで評価されるので、 このような評価法に慣れていない1年生はかなりストレスを感じるとの意見をコーネ ル大学の学生から直接聞いているのですが如何でしょうか。

日本大学 津曲茂久


2000/5/30

佐々木伸雄先生、コーネル大学のPBLに関する情報とコメント有り難うございまし た。

私の意見で説明不足の面を明解に説明して頂き感謝しています。気を付けたつもりで すが実際には焦点がボケる結果となりました。佐々木先生のご指摘のように、カリ キュラムが異なると転校も困難だとコーネルの学生から聞きました。ご指摘のような事を一昨年前の八月に北大で講演しました( 北米における獣医学教育の現状:我々 はそれをコピーすべきか? )。

佐々木先生のおっしゃるように、日本の現状では実施するのは無理だとおもいます し、卒業生の進路や社会的要求とも一致しないかも知れません。

私達が実際に経験したPBLの短所と長所を少々付け加えさせていただきます。

先ず問題になりますのは、すでにコーネルの例でご指摘のように学生が臨床の先生方 やレジデントの学生に聞きに行くため、それでなくても忙しい先生方に大変迷惑をか けています。それに、図書館の充実やスタッフの増員が必要なのは間違いありません し基礎学科の縮小が懸念されます。学生の質にもよりますが(コーネルではどんな教 育をしても大丈夫だと冗談を言った記憶がありますが)一般に基礎科目で苦労するよ うです。ちなみに、マクマスターの学生はトロント大学で数ヶ月聴講して国家試験の準備をしていましたし、クイーンズ大学がPBLに変えてからの最初の卒業生の合格 率が30%下がったと聞いています。

私が一番気になりますのは基礎科目の教育です。矢張り、プロフェッショナルスクー ルは学生を高校から直接採るべきではないと思います。

PBLの長所は、学生が丸暗記しなくなり実際に役立つ知識を身につけるし、分担さ れた仕事を責任を持ってやる習慣がつきます。一々列挙する必要はないかと思いますがカリキュラムを変えるのと政治との関係も完全に否定できません。教育学、教育心 理学の博士課程をでた人の就職先に医学部と獣医学部を加えたという皮肉も聞いてい ます。

いずれにしましても、学生のし好も変わっていますし、社会の獣医師に対するニーズ も変わりつつあるかと思いますので、日本では国の事情に合わせて改革するのが賢明 かと思います。

コーネルのカリキュラムの実状を説明して頂き有り難うございました。 もし何方か他の大学の情報或いは賛成、反対のご意見をいただければ幸いです。

山城茂人


2000/5/30

PBLについての山城先生のご意見を読みました。

私自身は5ヶ月間、コーネルでPBLについて多少見聞して参りました。たぶんいず れこの教育法がどのような面で良く、どのような問題があるか、という点から評価を 受けるでしょうが、私自身が教官や学生と話し、自分自身でもし実施しようとすると 、どの点で問題が出るか、ということを以下に書きたいと思います。

私は麻酔科に所属しておりましたので、実際に話をしたのはほとんど rotationに参 加している3−4年次の学生です。彼らの意見では、1−2年次でまだ獣医学の基礎 的な部分も十分わかっていない段階でPBLを開始しても、実際には分からない点が 多い。(そのために自習できるための図書館、スライド、ビデオ、コンピュータが整 っている)。 clinical rotation に入ると、全く同じような形で少人数のディスカ ッションがあり、いかにも重複するように感じる(もちろん、 rotation  時の方が ずっと充実してわかりやすい)。従って、他大学のように、基本的な学問は系統的に やった方がわかりやすいのではないか。また、アメリカでは途中で他大学に移ること が可能であるが、他大学とカリキュラムが全く違うので、転校しにくい。このような 意見が多く聞かれました。

教官は、まず臨床教官の負担が非常に多く、その面の不満が多いように感じました。 ある教官は、これはもちろん医学部から始まった教育体制ですが、その意義は認めつ つも、医学部のような教官数(私は詳しく知りませんが、少なくとも80−90人の 学生を150人の教官で教育する獣医学よりは遙かに教官数が多い)であれば教官の 負担も少ないかもしれませんが、獣医学でそれを確実に、学生にとっても十分満足行 くように実施することは至難の業である、と述べています。また、コーネルでは新し い病院を建てる際、PBLを考慮して、前述した自習できる施設とともに、カンファ ランス用の小さい部屋をかなりたくさん作ってあります。こういう施設がないと、や はりPBLは実施が困難だと思います。

少なくとも、臨床教官に聞いたところでは、PBLに賛成している人はきわめて少な いように感じました。もちろん今後の評価によってやはりPBLが好ましい、という 結果になるかもしれませんが、基礎系の教官は比較的賛成している、との話ですが、 臨床教官にとっては(たとえコーネルのように45人前後の臨床教官数でも)負担が 多すぎるようです。また、他の大学の先生(私が聞いたのはウィスコンシン大学です が)、とてもじゃないが、PBL を始めるの困難だ、という考えが一般的のようで す。

翻って、日本の現状を考えると、再編整備によってたとえ70−80人の教官数とな ったとしても、PBLを行えるような体制になるでしょうか?そのうち臨床教官はせ いぜい30−40人でしょうから、その教官が学年が違う様々なグループの学生(8 −10人前後)に様々なテーマでディスカッションをし、併せて、病院での rotation の学生にもしばしばカンファランスを行い、実際の診療も行う。しかも技 術スタッフはほとんどいない、レジデントはいない、となって動それをこなしていけ るのでしょうか?たぶん、30−40人の教官が10位の専門分野に別れ、その部分 の臨床を主に rotation の学生に指導し、併せてその分野の研究を行う、といった ところがせいぜいではないでしょうか(それでも、現状を考えると画期的なことです )。

とはいえ、もしこのような教育が理想であり、教育効果も高い、という評価が下され れば、今後我々もそのあり方を検討せざるを得ません。しかし、現状は、まず教官数 を増やし、少なくとも現状よりはよい教育をできる体制を作ることが急務と思われま す。臨床教官は少なくともその専門性を養うのに5−10年はかかります。再編整備 がスタートしてすぐに臨床教育を充実することは困難と思います。それだけに、早く実現しないと、という焦りを感じています。 不十分な議論であることを承知した上で、意見をのべさせていただきました。

佐々木伸雄 (東大)


2000/5/29

獣医学教育におけるPBL(北米の事情)

科研MLの皆様へ Guelph大学の山城です。

先日PBLに関する意見を書きましたが、少し説明不足だと思いましたので、獣医学 教育にPBLを使っている大学の情報と私の経験を補足し、DVM2000と呼ばれ る新しいカリキュラムの目的或いは構想について報告致します。

先ず、PBL方式を取り入れて比較的成功しているのはコーネル大学でしょう。前述 のシンポウムの際に参加者と接した学生は主催者が選んだ連中で、他の学生の中には PBLが嫌いで転校を希望している者も居たともきいています。 コーネル大のカリキュラムを知りたい方は次のアドレスでホームページをご覧下さ い。 http://www.vet.cornell.edu

PBLの獣医学と医学の違いは主に動物種による特異性と産業動物に対する経済的配慮と畜主との応対だと思います。犬や猫でも純血種の場合は特に遺伝性の疾病が有り ますし、他にも色々な違いが有り、PBLではシナリオの冒頭で、動物種、性別、年 齢、それに稟告から始まります。動物に関するかなりの知識が要求されますがその点 では新しい教育の説く思考力の向上という事と矛盾しているようです。

私個人の意見では、PBLは好きではありません。2年前に北大で講演させて頂いた時とかわりません。それで、PBLを批判するために体験と勉強をしました。矢張 り、上手な講義ほど効率の良い教育方は無いと思います。当大学では、殆どの学生が 一年目に六週間のPBLが楽しみのようです。北米の学生は一般に雄弁ですが我々日 本人は議論があまり上手でないようですので、むしろ日本で臨床の教育をするのに 使ったらよいかもしれません。毎日新聞のインターネット、デイベートで総理の私的 諮問機関が英語を第二公用語としたら、という提言に関するデイベートの意見のひと つに、アメリカの学生10人と日本の学生10人に日本語で討論させたら、アメリカ の学生の方が日本語で論理のしっかりした議論をしたと、ある人が述べていました。 PBLは日本の臨床教育に良いかも知れません。

さて、DVM2000は21世紀の獣医学部卒業生の理想像と言う事で始まり、PE W財団の奨励金で卒業時にどれだけの知識と能力を必要するか、という問題から手を つけました。その収録は数年前に完成し、日本の先生方に差し上げました。 カリキュラムの目指すところは、生涯教育の習慣を付けるため、講義に頼らず自分で 学習する。私の日本語の能力不足のため、申し訳けございませんが英語を使います。 1. Self-directed learning 2. Communication skills (literacy) 3. Problem solving ability 4. Competency ( at the entry level ) ; vertical and horizontal integration

上記の項目を考慮して、科目間の関連を重要視しました。それで、一年目から臨床の 初歩を始め、生態学、レポートの書き方等も加えました。コミュニケーションのト レーニングは、ドラマの学生や俳優を雇います。医学教育では、OSCE(オスキー と呼びます)という臨床の試験が一般化されつつあるのはご存知だと思いますが、獣 医でもある決まった患畜を使う試験が取り入れつつあります。

卒業生が雇い主にどのような評価をされているかというアンケートの結果が発表され ましたが、意外と良い評価が出ました。しかし、評価の結果だけで何もしないと言う のは北米の文化に反します。勿論、もし壊れていなかったら修繕するな、という格言 もありますが。

未だ九月にならないと分かりませんが、実際に授業が始まりましたら問題点等お知ら せします。

独法化のニュースを今日知りました。授業料の自由化について読売新聞のコメントを 読み、オンタリオ州の現状に似たようになるのでは、と感じました。カナダには、私 大はありませんが(先月、オンタリオ政府が私大を作れる様に、法案をとうしました が)、州立大学がそれぞれ授業料を自分勝手に決めてよい様にしました。 その結果、医学、歯学部の授業料が数倍になりました。獣医は50%程度上げまし た。当学部では年5人だけ3万5千ドルで外国人学生を受け入れています。政府はこ のようなイニシアテイブを奨励していますし不動産業も始めています。 日本も民営化が進むようなきがします。

どれほど説明が出来たか分かりませんが、興味をお持ちの方はご連絡下さい。 PBLの件で書き忘れましたが、ミシシッピー大学の獣医でPBLだけのカリキュラ ムを作成中だそうです。


2000/5/23

鳥取大学獣医学科再編委員会事務局島田です。獣医学科教官に送信しています。 「国立大学を取りまく諸情勢に関する講演会」(文部省高等教育局永山視学官)( H12/5/22、午後3時〜4事30分、鳥取大学工学部大学院棟大講義室)の要旨をお知 らせします。

要旨(案)
1. 大学改革とは(大学改革に対する共通認識、大学改革の背景、大学改革の内容)
2. 当面の課題(独立行政法人化、国立学校特別会計、定員削減、大学評価、情報公開、その他)
3. まとめ
小子化、社会および納税者のニーズ、学際領域の必要性、多様な学生への対応、大学 評価等を背景として、限られた資源を有効に用いる必要がある(教育環境の整備、充 実)。そのためには各大学の主体性を尊重しつつ、大学の再編・統合を支援する。 大学全体、日本全体を視野に入れた大学改革を進めること(セクショナリズムは否定) これまでの常識を疑うこと(既得権は擁護しない) 総論賛成、各論反対は容認できない(非生産的) 独立行政法人化により、各大学の自主性に基づく大学改革の推進が期待される(行政 改革と大学改革の関連性)。

個人的感想  
 独立行政法人化(大学改革)により、(各専攻分野の横断的)評価が実施され、納税者のニーズを満足しない学科、学部、大学の厳しい評価結果による改廃が進むこと が現実的になりつつあることが認識されました。自主性あるいは主体性を尊重しつつ も全国的な視点での大学改革(再編統合)を具体的にどのように「支援する」のかが 聞けずに終わりました。いずれにしましても、納税者(国民)による世論(社会のニ ーズ)、行政(文部省、政治)、学内環境の3者のバランスを視野に入れての再編活 動が必要と思います。学内環境の面だけに限れば困難な状況は続いていますが、他の 2点に目を転ずれば、事態は再編に向け進んでいると思います。努力を続けていれば 、いずれそのバランスが取れる時期が来るものと期待しています。このような視点に 立ち、学科内(4大学再編委員会)のエネルギーを集約し続けることが重要と思いま す。  
  学長のリーダーシップの強化を理由に独立行政法人化が獣医再編にマイナスとの考 え方が支配的でしたが、評価による予算措置が予想されることから、マイナス評価部分の切り放しを含めた学内外の本質的な再編が、独立行政法人の性格上、いずれ急ピ ッチで進むのではないかと感じました。


2000/5/23

帯広畜産大学の新しい動き

 私,帯広畜産大学獣医学科の学科長を今年四月から務めております,解剖学担当の山田純三と申します.

帯広畜産大学で獣医学教育改善に関する新たな動きが出てきましたので,獣医学科の近況をご報告いたします.これからも出来るだけ近況をご報告し,皆様と情報を交換し,獣医学教育改善の実現のために努力したいと考えております.5月26日に開催されます,臨時全国国立大学長会議での文部省の方針提示で,この獣医問題も非常に重要な局面を迎えることになるでしょう.  

帯広畜産大学は東四大学の獣医学科との話し合いの結果,そこで合意された東北大学への移転統合案を学長に報告し,検討をお願いしてありましたが,大学では公式な場での検討がなされないまま経過いたしました.今年1月の学長選挙の結果,新しい学長が3月1日就任され,学長の提案で,「帯広畜産大学将来構想検討委員会規程」が4月の教授会で承認され,4月末に正式に設置されました.5月17日に第1回の委員会が開催され,今後,月に2回の頻度で大学の将来構想が検討されます.そこで当然のこと,獣医学科を大学としてどのように位置付けるかが議論されるものと考えられますので,獣医学科が大学に提案している東北大学への移転統合についても検討結果が出され,その後,大学の方針が打ち出されるものと考えます.1回目,若手の委員(2名)から考えが提示され,それについてフリーな意見交換がなされました.次回は6月6日に開催予定ですが,ここでも若手委員から意見の開陳があり,一回目と同様に意見交換がなされるものと思います.現在は,本大学の新しい大学像をめぐって議論が始まったところであり,まだ獣医学教育改善問題を取り上げるところには至っておりません.  

なお,委員会の構成は学長,図書館長,学生部長,各学科長(単科大学ですから畜産学部単一,四学科編成です.),共通講座(元の教養課程)主任,別科(2年生の短大のようなもの)主任,事務局長,およびその他学長が必要と認めた者,若干人となっており,これで教授1名(学長より委員長に指名)と助教授6名が選ばれております.  

討議事項等の公開は委員長の責任でなされることになっておりますので,質問がありましても現在はこれ以上の開示は不可能であります.この内容も委員長の了解を得て公開するものです.ご理解ください.

以上(文責:山田純三)


2000/5/22

PBLについてのコメント

尾崎博先生 お返事有り難うございました。

長時間かけて書いた2通の異見が何処かへ消えてしまい、少し疲労感がありますので 回復後に授業の改革或いは新しいカリキュラム、教官の評価、秋から実施されるアメ リカの国家試験などについて書きたいとおもいます。

先ずは尾崎先生のご質問の不正確な情報ですが、PBLに関するフォーラムに10年 前にアメリカで云々と書いていますが、PBLは30年以上前にマクマスター大学医 学部がPBL式カリキュラムで創設され、今でもPBLのモデルになっています。 ハーバード大学が取り入れたのは有名ですが、フォーラムには医学部の事だけの情報 ですし、私も数年前にノースキャロライナにあるボーマンーグレイ医学部に2週間体 験のために行った経験がありますのでいくらか自信を持って説明できます。

それより、どうして医学部の例だけが記載されているかが問題です。平成10年、北大の外部評価( 唐木先生が委員長 )に参加させて頂いた際、若い優秀な臨床の先生 に日本の臨床教育の実態を教えて頂きました。その中で日本の獣医学教育に携わって いる先生方が留学される際 獣医学部に殆ど行かず、医学部に行かれると指摘されていたのが記憶に残っていま す。

さて、PBLの問題に戻りますが私たちも約7ー8年試しています。それより、コー ネル大学の獣医学部はPBLを主体としたカリキュラムを6ー7年前から実施してい ますが、1997年3月に、獣医学教育の21世紀における展望と対処という国際シ ンポジュウムがあり北米とヨーロッパからの参加者がいろいろと議論しました。ま た、PBLのデモンストレーションもありました。人間と家畜は大いに異なりますの で、臨床に関しては獣医学部を見るべきだとおもいますが? 獣医学教育に関しては、北米も改革を実施中ですし、コーネルも当校も教育専門家を 雇っています。コーネルの教育専門家のDR.K.Edmundsonを招いて新し いカリキュラムの試験をどうするかについて1昨日ミーテイングをしました。 新しいカリキュラムについては北大の藤田正一先生に現状をお知らせしましたが、出 来上がり次第、科研MLの方々にもお知らせします。

日本の獣医学教育の改革にとって今が絶好の機会だと思いますし、唐木先生のリー ダーシップで必ず成功すると思いますし、日本の獣医師の1人として成功する事を 願っています。

山城茂人 Guelph大 生物医科学講座


2000/5/16

一臨床獣医師からみた日本の獣医学教育の問題点(要望)

私は獣医学教育には関与しておりませんが、この研究の目的が臨床と応用分野での教育の不足を改善することと知り、それなら不十分な臨床教育を肌身をもって感じている臨床獣医師の一人として意見を述べさせていただきたいと思いました。 このホームページをチラッと読ませていただくと、門外漢の私などには国公立大学の統廃合が主題のように見えるのでそのために私立大の卒業生がほとんどの臨床獣医師の多くがあまり関心を示しておられないのだと思います。しかし、臨床教育を充実させ、日本のいわゆる「動物のお医者さん」全体の水準を上げるには、大学の先生方と文部省農林省の方がたに教育の編成変えを「していただく」でけでは十分でないと思います。今問題になってきている小動物獣医の誤診や過剰診療問題は各個人の卒後教育の不足や倫理の問題などもありますが臨床の基礎を大学で十分に教えてもらえなかった気の毒な犠牲者の問題とも言えるのではないでしょうか。

私個人のことを述べさせていただくと、獣医師とは女性でも一生働ける専門職であると選らんで日本大学に1963年に入学しました。1−2年して気がついたのは卒業して国家試験にパスし、「獣医師」と認められても、犬猫を適切に問診触診することも注射一本打つこともできず、 一人前の臨床医になるには誰か1人の開業医のもとでいちから勉強しなければならないことでした。その獣医も1-2名の先輩から習っただけですから、なにかおかしいというか、損をしたと感じました。でもヒトの医学校やアメリカの獣医学校に比べたら高卒後総計4年の教育だからしかたがないと思いました。そこで当時カナダへ技術移民として行き、一年間働いて納税すれば勉強するに十分な助成金と奨学金がもらえると知りとびつきました。そんな訳で、二つの国の獣医学校の教育を受け1972年にGuelph大学を卒業し、その後いろいろしましたが最終的には7年前にロスアンゼルスの郊外で開いていたペットクリニックを売り、家庭の事情で帰国しました。今年になってひさしぶりに日本の同僚の方々と話し合う機会があり、改めて日本の獣医教育がまだまだ変わっていないと知り、私が今の学生であれば「医学部に比べ安い授業料で動物の先生にしてもらえると思ったのに、なーんだ。」とよりだまされたと感じるとおもいました。

欧米の獣医学校の卒業生の大部分が臨床医になるのに比較し日本では獣医師の職域が広く、直接動物にふれることの少ないかたが多く、また各々の専門分野では世界的水準の研究をしておいでの先生方達もおられるので臨床実習の不足があまり実感されていないのかもしれません。しかし、欧米のように獣医師が医師、歯科医師や弁護士などのいわゆるプロフェッショナルな職業だと社会的に認められ、日本で取得した資格が世界に通用するには、獣医師全体の水準をあげるような教育を目指し、関係者皆で努力する必要があるはずです。  

学生はいかに医学部や欧米の獣医学部の生徒が濃厚過密な勉強をしているかを知り、また費用のかかる臨床教育を支えるために高くならざるをえない授業料を払うためにアルバイトの賃金は学費に、また、卒業後、教育ローンを払う(親に払ってもらうのでなく)覚悟をするべきです。現在の日本の経済状態を考え、またペットの健康に子供同様な関心をよせている人が増えている時代では、また高価な器具施設を共有するようになれば、「6年間の投資」に見合った収入がえられると思います。  

また我々卒業生は後輩がより良い教育を受けられるために教材、設備等の為に寄付をし、学生の実習の手助けをするべきです。  

学校側は、十分な数の適切な教師と対象動物が現在の大学にはいないことから、とくに過渡期には規則に柔軟性をもたせ、臨床獣医師や外国人教員を採用し、開業医での臨床実習などを正規授業に取り入れていただきたいと思います。臨床実習の内容については、学校でどんなことをどのように教えて欲しかったかを、卒業後苦労をした開業医がよくわかっているのですからぜひ、要望意見を取り入れいただきたいと思います。

また臨床以外の分野へ行く学生が多いことを考えると6年生は専門分野を選択する必要があるかもしれませんね。  

以上ながながと私1人の意見を書きましたが、これからは臨床獣医師の方がたや学生達の考え、思いを聞き、改善運動の参考資料としていただきたいと願っています。 ありがとうございました。     小林敦子


2000/5/16

 国立大学はだれのものか?

(自民党行革推進本部に)陳情に来た学長らは、「教青・研究機関である大学は一 般の行政機関とは違う面が多いので、独立行政法人化される他の組織とは異なる枠組 みを検討していただきたい」と(中略)国立大学に関する特例法の案を(行革推進本 部事務局長の)太田代議士に示した。  

太田代議士は、こうした国立大学関係者の動きについて、「結局、『国立大学はだ れのものか』の認識が、われわれ国民と彼ら大学教員との間で、大きく違っているこ とがよくわかりました。国民は、税金で運骨しているのだから当然、国立大学は納税 者のものと思っているのに、大学の教員は、大学は自分たち教員のものという意識が 非常に強いのです。彼らが言う『大学の意見』というのは、『教員の意見』という意味なのです。教員たちは、国立大学を自分たちの独立国家と錯覚しているのです」と話す。  

わざわざ引用したのには、2つの意味があります。  

第1に、獣医学教育の改善を、自大学の都合でつぶそうとする学長、学部長は、まさに 国民の利益を考えない態度であり、自大学を「独立国家」と錯覚している非難されて も仕方がないと思います。  

第2に、私達獣医学関係者も全く同じことをやっている恐れがあります。「外部の方」すなわち納税者の疑問や意見に十分に答えなくてはならない、という私の問題提 起に対して、「最近、あいつは新制大学を離れて北大、東大寄りになった。けしから ん」といった世間知らずの批判があるのは、大変に残念です。「井の中の蛙」になっ て世間から無視されないように、納税者のご意見を入れて、教育改善に努力したいと 思っています。 唐木英明


2000/5/16

各位  北大の藤田です。

先日私の出した、獣医学再編の経緯等に対する質問のメールに対 して、唐木先生を始め、何人かの先生からメールやお電話を頂戴しました。大変有難 うございました。 8大学における獣医学教育の改善の必要性は、獣医学教育の国際 化と言う発想以前に、せめて、東大、北大なみの教育を行いたいと言うレベルから出 発していると言うことを伺いました。だから北大東大は自助努力だと言うことでした。 そうであるならば、今は、獣医学を取り巻く情勢が変わっている。東大北大でも、国 際レベルの教育にははるかに及ばない部分が有る。獣医学を取り巻く情勢が変わった のであるから、当然対応策も変わって良いのでは無いか。というより、変わる必要が 有る。グローバリゼーションの波を乗切るには、日本の獣医学が一丸となって、改革 に取り組まなければならないと思いますがいかがでしょうか。     

東の4大学が、地道な努力をして、教育改善に関する報告書を出版し、理想像を描 き得たことは、西の4大学に対する影響だけでは無く、獣医学関係者に大きな意識改 革を促したと思います。そのような経緯の元で、4大学で、理想の獣医学部を設立し たいと言う気持ちはよく理解できます。そして、獣医学教育の改革のニーズとその緊 急性は我々自身が最も強く感じている訳ですから、拙速はさけるべきですが、可能な 限り早く改革の可能性を実現へと結び付ける努力をすべきです。この意味では、4大 学の枠組みに固執せず、動ける所から動くと言うことで、動ける所を解放してあげる ことも必要かとも思います。  

また、東大、北大を仲間に入れて、一緒に理想の学部設立を考えると言うことが、 東大、北大の側からのこの問題に関する取り組みとしては自然な気がします。側面か らの応援は、内部においては自身の問題として捕らえる気持ちが希薄になるし、外部 に対しては誤解を生むことが多いようです。何人もの先生方からは、北大に受け皿を 用意しておいてほしいと言うことを伺いました。一方で、受け皿をちらつかせて我々 の動きをけん制するようなことはしないでくれと言うことも言われました。こそこそ と受け皿らしきものを作って、成りゆきを見守っているより、一緒にやった方がどれ 程現実的かつ理想的なものができることかと思います。北大では万一の時の大枠は考 えていますが、受け皿のカリキュラムなどは作っていません。東大はカリキュラムを 公開しましたが、これも私と同じ考えによるものでしょう。公開したということは、 第2案として必要が有るなら、一緒に良いものを作りましょう。御批判を下さい。と いう立ち場のものであると思います。  

さて、新制大学による2つの獣医学部が出来た時、東大、北大の相対的弱体化が獣 医学に及ぼす影響については、文部省は北大東大をほっておくはずが無いと言うお返 事でした。しかし、法人化後は、必ずしも文部省の意向が学内の学部のあり方まで反 影されるとは限らなくなります。大学の意向が、獣医学部にはこれ以上の定員を置く 必要が無いと判断すれば、拡充は不可能になると思います。  法人化されないとしても、設置基準が変わらない限り、学生定員に対して教官の配 置が有る訳ですから、新制獣医学部が、4大学分の教官を総べて分散させないと考え るならば、学生定員は4大学分の和のままになり、過密になるので学生定員を減らす となれば、その分、教官の数は法的には余剰となります。減らした学生定員を東大、 北大が引き受けるとなると、学生数に見合った教官定員が必要となる訳で、それを新 制獣医学部の余剰定員から引き受けることになります。結局は、東大北大に学生も教 官定員も来ることになるのであれば、最初から交通整理した方法で一緒に配属を決め た方が早道であるし、合理的な配置も可能では無いでしょうか。マイナスの概算要求 とプラスの概算要求を同時に提出しないと、複雑なことが起こりそうな気がします。  

再編問題と平行して、設置基準の見直しも強力に要求して行かなければならないで しょう。基準協会の案でも不十分であると思いますが。

今は8大学からこうしたコンセンサスは得ておりませんので、農学部長会議では、 獣医学教育の改善の緊急性を訴え、これを農学全体の問題として考えていただけるよ うに訴えることしか出来ません。少しでも農学部に理解していただき、外へ出られる 雰囲気を作ることしか出来ません。  

獣医学科を擁する農学部の農学部長の中には、獣医のこうした動きに対して、相当 に警戒心のようなものを持っている人もいるようです。獣医学科だけの勝手な動きで あるとして不快感をあらわにする人もいます。ただ、法人化を目前にして、この問題 を無視できないことだけはどの農学部長も感じておられるようです。今の日本では、 獣医学は農学の一部として存在するのですから、獣医学教育改善の問題は、農学部に 自分達の問題として捕らえてもらわなくてはなりません。獣医学教育を受けようとす る学生のために獣医学教育の改善を一刻も早く実現したいと言う真摯な気持ちを農学 部全体に訴えることが今最も必要なのでしょう。農学部の理解なしには、動けないの ですから。


2000/5/10

藤田先生からのご質問「なぜ北大、東大が再編から除外されたのか」には、8大学 の先生からお答えいただきますようにお願いします。

私からは、これまでの経緯のなかから、関連の部分を再録します。私の「感じ」では、連大のくくりが大きな要素で あったと思います。仲間内の論理であることに違いはありませんが。唐木

獣医学再編の動き(1997-2000年)  

平成9年2月:大学基準協会から「獣医学教育に関する基準」を各大学と文部省に通 知。  

平成9年4月1日:第41回協議会:牧田会長再選、唐木副会長から「北大、東大をは ずして8大学だけで再編等の審議を行うことは望ましくないので、8大学協議会を解消 して国公立協議会に一本化することをお願いして、今期は執行部入りを辞退したい」 旨発言。牧田会長から「国立8大学の現状を打破しなければならないとの認識が浸透 してきた。8大学の各学科が学部になるか、集って単科大学をつくる等の方策を検討 する段階にある。」との提案がなされた。  

平成9年10月9日:第42回協議会:第41回本会議終了後に牧田会長から要望のあった 再編整備に関する委員会設立は賛成が得られなかった。これまで東4大学懇談会が再 編整備に関してまとめた報告書「獣医学教育・研究に関する理想像」が配布され、他 学科、学部に本構想の理解を得ることの困難さが指摘された。なおこの件に関し、唐 木全国協議会長から10月8日文部省専門教育課における話し合いにおいて、文部省は 再編整備の必要性を理解していること、しかし、それを進めるには、文部省・大蔵省 を納得させるだけの理由と社会のニーズが必要であるとの示唆を受けたとの報告が あった。また我が国の獣医学の国際的な認知が一つの突破口になるのではないかとい う見方が唐木から提示された。  

平成10年4月4日:第43回協議会:品川教授から、「昨年夏に東4大学で獣医学教育・ 研究に関する理想像を作成、本年3月7日に4学科長連名で、充分な獣医学研究・教育 を行い得る国際基準を満たす新組織をつくるために努力する意志表明文を作成、3月 27日に文部省専門教育課濱課長補佐、堀川係長にこの文の説明を行った。」との説明 があった。徳力西4大学再編委員長から以下の説明があった。「昨年4月の8大学協議会 解消の際に、東4大学は既に先発していることから、西4大学がまとまり、再編整備を 模索することとした。その後1回目の委員会で4大学の獣医学科が集まり一つの学部を 創設すること、第2回の再編委では九大に獣医学部を創ることを模索することが承認 され、2月24日に文部省北見課長、濱課長補佐に説明した。前出教授から、「再編整備 運動が農学部に浸透していないので農学部長会議ではこの運動にはかなり冷淡な反応 がある」とのコメントがあった。  

平成10年8月20日:第44回協議会:品川教授から、「東4大学の懇談会は代表(品川) と副代表(山根、平井)を決め7月1日に東北大学水野農学部長に、7月2日に久道医学部 長に説明した」との報告があった。徳力教授から、4月16日に九大において総長、事 務総務部長、農学部評議員に対して獣医学部案の説明を行い、4月23日に総長から前 向きに検討したいという回答を得たこと、5月22日に九大大学改革推進委員会で獣医 学部案を説明した旨の説明があった。唐木全国協議会会長から提案があった文部省高 等局長宛要望書について、上原教授、徳力教授から「全国の教官290名を基礎に4つの 大学に割り振りすると確かに大学基準協会の基準72名を満たすが、これは東西各4校 づつで進めている再編運動に反する」との意見があった。前出教授から、「本年6月 の農学部長会議において農工大岩花農学部長から獣医学科再編に関して初めて話題が 出され、関係農学部長の懇談会を発足させたいとの要望があった。」との報告があっ た。田谷教授(農工大)から、「このような状況化で要望書を提出すると、農学部長会 議で前向きに検討していこうとすることに逆効果にならないかと危惧する」という意 見が述べられた。要望書は一部訂正の上提出することになった。  

平成10年11月16日:高橋貢獣医学研連委員長が東北大阿部総長と会見、以下の見解 を得た。獣医学教育充実の必要性は理解する。しかし、なぜ九大と東北大なのか?北 大と東大を再編先としない理由は理解できない。再編は出る側の学長レベルの了承が 必要で、受け入れ側からの働きかけは難しい。出る側の学長レベルから話があれば前 向きに対応する。続いて久光医学部長と会見、農学部長と共に前向きに考えたいとの 意向あり。  

平成11年4月5日:第45回協議会:山口・宮崎両大学では農学部レベルで条件付きな がら九大との交渉が認められた。  

平成11年10月12日:第46回協議会:大学法人化が迫っているが、獣医学再編は法人 化より先行する必要あるので、概算要求のタイムリミツト(平成13年度を目標)を設 け、動けるところから動くこととした。


2000/5/10 

5月1日に受け取った高橋貢先生からの情報をお伝えします。

去る3月27日に学術会議 において別件で高橋先生が東北大阿部総長にお会いした際に、安部総長の立場は一昨 年11月16日にお会いしたときのもの、すなわち「出る側の大学で了解が得られれば前 向きに検討する」、と変わっていないという強い印象を得たそうです。

現在東北大学では、「もし獣医側が東北大学に再編する可能性が大きいのなら」、こ の問題を検討する組織を作ることを検討している、との情報もあります。 現在のところ、我々の側で一方的に東北大の名前を出しておきながら、それ以上の具 体的な態度を示すことができない(すなわち、各大学において東北大に行く了解を得 られない)という、極めて失礼な態度を取っていますので、東北大学側でこの話の行方に疑義を持つのも当然です。もし東北大側において検討組織を作っていただければ 再編運動の大きな前進につながると思いますが、そのためには我々の側で具体的な成 果をお見せする必要があります。

以上、最近の情勢をお伝えし、関係各大学の一層の努力をお願いする次第です。


2000/5/10 東再編に関する唐木教授の意見に対する 北大 藤田教授の意見

北大の藤田です。  

東大と一緒に東の4大学との会合を申し入れましたところ、4月の学会の折、4大 学と東大、北大で、懇談会を持つことが出来ました。アンオフィシャルな会でしたが 、4大学の事情がよく分かりました。今一番の問題は、各大学の農学部からGOをもら うことであることも良く分かりました。農学部の理解を得ることが先決ですから、獣 医学から農学への真剣なアプローチが無い限り、この問題は解決しないでしょう。こ れを側面からサポートすべく、6月の農学部長会議で、獣医学教育改善問題を取り上 げていただくよう、提案致しました。議題提案者として、獣医学の再編の動き等を説 明しなければならない立ち場になって見ますと、唐木先生の言われていることが良く 分かります。おそらく唐木先生が問われているような質問が農学部長からいくつも出 ると思います。私は前回の経緯を良く知りません。先日、藤原メモを非常に興味深く 読ませていただきました。そこで、教えて下さい。  

獣医学の再編は、我が国の獣医学教育を如何にして国際レベルにまで引き上げるか が最大の課題で論議が始まったものと理解しております。今でもこのことが最優先課 題であると思います。それを実現する方法論として4大学が纏まると言う案が出て来 た。東大北大を別にすることの意味は良く分かりませんが、ある程度の規模と政治力 が有るから、自力で何とかせよと言うことでしょうか。  

なぜ、東大あるいは北大が受け皿になるのが歓迎されないのでしょうか。前回うま く行かなかった理由が「既存の大学への吸収と言う形をとったからである」と言われ ているようですが、本当にその分析が正しいのですか。別の要因は無いのですか。し がらみと言うやつは私には分かりません。前回の失敗を踏まえて、なぜ、10大学が一 緒に検討しなかったのですか。吸収と言うより、そこの一員となって、一緒に作り上 げて行くとは考えられませんか。目標は、自分達が主体となって理想的な獣医学部を 作ることですか。あるいはどのような形であれ、我が国の獣医学教育が充実すること が第一の目標ですか。  

もし、東西に4大学づつが纏まって、2つの充実した獣医学部が出来たとして、東 大と北大がそのままで、我が国の獣医学の教育研究態勢は十分と考えられますか。今 まで、曲がりなりにも実績のあった2大学が、相対的に弱体化することで、日本の獣 医学に不利にはなら無いですか。ならないようにするにはどうしたら良いと思います か。日本の獣医学教育の改善が大前提である以上、そこまでのビジョンは必要でしょう。  さらに、「もっと自然な動きが有るでしょう」と言われそうな気がします。第2、 第3の案はどのようなものがあるかも問われると思います。 農学部長会議で、しがらみなしに獣医学の立ち場を主張できるのは、私だけですので 、上記の疑問に分かりやすくお答え下さい。力不足かも知れませんが、少なくとも獣 医学教育の改革の必要性だけは分かっていただけるように頑張ってみます。獣医学部 教授で、農学部長の先生方、サポートよろしくお願い致します。


20005/10 

東日本の獣医学再編について (全国獣医学関係大学代表者協議会 会長 唐木英明)に対する
岩手大学 内藤善久 教授の意見

唐木先生 メール有り難うございました。

先生からのメールに対しまして個人として、若干の意 見を申し述べます。

1.外部の常識的な意見に耳を傾けることが重要である、とのことについては異論は ありません。しかし、獣医学教育に限っては、東大、北大が社会から高い評価を受け ているとする常識については若干、外部の常識に意見を差し挟んでも良いのではない かとも思います。その一つは、獣医学の基本は応用学であるにも関わらず、その面に 対する両大学の対応がとくに遅れ、その対応を私立大学と地方大学が負ってきたこと で、現在の社会における獣医師の活躍がなされていると考えます。よって、それぞれ の大学の役割における評価の違いはあっても両大学の獣医学教育が社会から高い評価 を受けているとすることは、少なくとも応用面の教育については言えないと考えます。

2.唯、そのようなことを今回述べることが目的ではなく、良く言われるように納税 者(国民、学生)が常識として納得できるような再編が必要と考えます。それには、 今ある国立10大学を再編し、格差の少ない国立獣医学部を出来るだけ多く残すこと( 少なくも4学部)が、我々の努めと考えます。

3.その手段の最も常識的な方法が、8地方大学が地域性と、連合を組んだ経緯も考 慮して新しく2大学に再編統合しようとしたものであります。それには前回の再編の 失敗から既存の大学への吸収を避け、またその際には新しく学部を先に立ち上げるこ とにより上記両大学は自助努力が可能であるとして、進められてきた経緯があります 。唯、それが遅れたことによって両大学の自助努力が進まなかったことと考えます。

4.よって、8地方大学が各2大学へ再編されることによって、両大学の充実は急速 に進むと考えますので、もう少し我々の努力に力を貸して下さい。 5.教授層と助教授層の意見の格差があることを指摘されていますが、この件(再編 )に関しては助教授層の意見が強く反映されて動いてきていると考えます。また、現 在の教授層の多くは、前回に助教授として挫折した経緯を知っております。再度の挫 折だけは味わいたくないと強く思って、率先して再編に取り組んでいる教授の方も多 いと思います。

以上、取り急ぎ、小生個人の意見として述べさせて戴きましたが、1.については全 く他意がありませんことを申し添えまして失礼いたします。 内藤 拝


2000/5/8

来る6月1、2日に東京で、全国農学部長会議が、5月31日には6大学農学部長 会議が開催されます。その折に、獣医学教育の改善に関する問題を、議題として取り上げていただくよう、北大から要請しました。また、獣医学部を擁する農学部の長に 5月30日にワーキンググループを開催してはいかがかと、お伺いしております。以 下にその呼び掛けの文をお送りします。

獣医学教育改善問題ワーキンググループ会合について(平成12年4月24日)      

北海道大学獣医学研究科長       藤 田 正 一  

前略  

前回の農学部長会議で、獣医学の教育改善問題については、獣医学科を擁する学部 で、ワーキンググループを作って検討すると言うことになっておりました。前回は、 お茶を飲みながら軽く現状等の報告をするに留まりましたが、その後の日程等もきめ ずに解散してしまったと記憶しております。  

獣医学教育の改善は、獣医学教育のグローバリゼーションという世界的な動きの中 から浮上して来ました。欧米の大学では、獣医師を育てるのに相応しい教育を施して いる大学であるかどうかを一定の基準に基づいて審査されます。その基準とあまりに も懸け離れた教育体制であれば(日本の現状はそうですが)、日本の獣医師は国際的 な信頼を失い、乳肉の国際取り引きや、防疫に支障を来たす可能性があります。この ことに関しましては、本年3月27日に日本学術会議から、「我が国の獣医学教育の抜 本的改革に関する提言」が提出されています。  

東大、北大を除く地方大学獣医学科は、獣医学教育の充実を目指して、連合大学院 の組織を中心に、東の4大学、西の4大学と言う形に纏まって外に出て、獣医学部を 創設したいと言う強い意向を示しております。獣医学科の教育も農学部の中で行われ ている教育の一環ですから、学術会議の提言や獣医学科のこうした動きを学部として 無視する訳には行かず、苦慮されていることと思います。  

また一方で、大学の法人化と言う厳しい現実が迫りつつあります。最初の5年間の 評価の後、大学の統廃合を余儀無くされる可能性もあります。一部の大学ではこれを 見越して大学間の合併を進めている所も出て参りました。獣医学の再編は、纏まれば、 大学どうしの合併とは別の、分野別の統廃合と言うことで、モデルケースとして、急 展開する可能性もあると思います。その時農学はどうするのかをも含めて検討しなけ ればならないでしょう。  

以上のような状況の下で、獣医学科を擁する農学部としては、どのような対応をす るのか、情報交換と対応策の話し合いが必要かと思います。東大の林農学生命科学研 究科長とも相談しましたが、是非、会合を持ちましょうと言うことで、御賛同を頂き ました。6月の農学部長会議以前に1回集まって、話し合いの機会を持ちませんか。 6大学協議会が5月31日にありますので、その前日5月30日午後5時頃から、会場は未 定ですが都内で食事をしながら話し合いをするということで如何でしょう。

◯ 御意見、出欠、出席人数などを、Eメールでfujita@vetmed.hokudai.ac.jpまでお 返事下さい。追って会場等を調整し御連絡を差し上げます。


2000/5/8

東日本の獣医学再編について

全国獣医学関係大学代表者協議会 会長 唐木英明

東4大学の再編の動きはこの1年間大きな進展はありませんでしたが、「自主努力」の課題を課せられている北大と東大が、4月始めに、「自主努力での教育充実はかなり困難」として、東4大学との「勉強会ないし懇談会」を提案し、東4大学はこれを受け入れたと聞いています。このような動きについて、獣医学教育関係者だけでなく、獣医学卒業生、獣医学以外の大学関係者、官庁関係者、マスコミ関係者など「外部」の方からも多くのご質問を受けました。

獣医学教育の改善のために教員数の純増は望んでも不可能なので、私達はスクラップ・アンド・ビルド、すなわち、現有の資源を集めて再編することを求められています。この点について、外部の方が素直に考えて一番分りやすい論理は、以下のようなものです。
(1)10国立大学の資源を全て集めてこれを適当なサイズに分割し、いくつかの新教育組織を作る、
(2)その際に、すでに学部組織をもつ北大は有力な再編先であり、また、社会から高い評価を受けている(これは外部の方のご意見ですので念のため)東大も有力な再編先である。

ところが、私達の運動はこれとは違ったやり方で進んでいます。そこで、外部の方々は以下の点を質問されます。
(1) なぜ「再編整備派」と「自主努力派」に分けたのか?
(2) なぜ北大、東大との再編を避けて、九大と東北大に「吸収」される道を選ぶのか?
(3) 自主努力派の北大と東大が純増で充実をすることができなければ、獣医学教育を放棄するのか?

いうまでもなく、再編整備の成功は獣医学教育関係者の努力以外に、外部の方々、広くは国民の理解と支持が必須です。だから、このような質問に私達はわかりやすく答える義務があります。

このような質問に対して私がお答えしてきたのは、「前回の再編は獣医学科があるところに行こうとしたので失敗した。この経験を生かし、獣医学科がないところに行こうとすると、諸般の条件を考えて、再編先は九大、東北大が適当である。獣医学関係大学の合意が得られないので、北大、東大を再編の受け皿にはできない。」というものです。しかし、これは私達の仲間内の論理で、外部にはなかなか通用しません。今回の北大、東大の申入れは、再編の受け皿として手を上げたものと私は考えています。これで東日本では受け皿校が3校となり、やっと外部にとっても分りやすい形になりました。  

「それでは、最終的にどのような形になったらよいと考えるのか」というご質問も受けます。私は、「全ての条件を客観的に検討した上で、東の4大学の先生方が決めることである」とお答えしています。その場合、私が心配していることがいくつかあります。その第1は、「全ての大学は平等である。北大あるいは東大との再編は吸収に当たるので平等ではない。だから最初から行くことは考えない。」あるいは、「北大と東大も一度外に出て、4大学と平等の立場で行く先を決めるべきである。」といった議論があることです。前回の再編でも同じ議論が続きましたので、これに関係した私としてはその心情が分らないことはありません。そこで外部の方にそのとおり説明すると、「なにをおかしなことを言っているのか」と強いご批判を受けます。「再編整備の目的は獣医学教育を充実なのに、すでに学部を持つ北大や、評価の高い東大をつぶすことが充実になるのか?」、「九大、東北大に行くのは吸収ではないのか?」というのがその理由です。「教育の充実より面子を優先している」、あるいは「再編反対の口実に平等をつかっている」ともとられかねない議論は、外部のご理解を得るどころか真剣さを疑われるだけである、という現実を認めなければなりません。もちろん、私達人間のすることですから、話し合いに感情が入る余地は否定しません。その意味で、当事者双方、とくに受け入れ側が交渉相手のプライドを傷つけないような話し合いをすべきことは言うまでもないことです。  

第2は、「4大学揃って統一行動を取るべき」との議論です。もちろん、それが望ましいとは思いますが、6月にも「国立大学法人化」の文部省方針が公表される予定なので、時間的余裕がありません。遅れたところが先行したところの足を引っ張らないように、西の4大学と同様の2段階方式も考える必要があります。また、4大学がそれぞれ別の選択をすることもあるかもしれません。それも含めて大学の自治がある以上、私達が個々の大学の決定に制限を加えるわけには行きません。

第3に、「なぜ西4大学と東4大学に分けているのか」についても、外部に分りやすく説明する必要があります。私は「東西の連合大学院の存在と、これまでの再編運動の経緯」から説明していますが、これも説得に十分な論理ではありません。

最後に、どの大学も決定権を持っているのは教授のようですが、今後の獣医学教育を担って実際に苦労するのは助教授以下の方々です。私のところにはいろいろな方のご意見が届きますが、助教授層のご意見は教授層のそれとはかなり違っています。外部の方もそのように感じておられるようです。この問題について、私は再編問題については助教授層が中心になって考えるべきであり、教授層はそれをサポートする立場に徹するべきであると考えています。  

全国協議会長としての私の役割は、新制8大学だけでなく総ての国立大学、公立大学、そして私立大学における獣医学教育の向上を図ると共に、外部に対してその必要性と現状をご説明し、ご協力を頂くことと心得ていますが、私達が世間の常識に沿った議論をしないと外部の納得は得られないという当たり前のことをお伝えして、参考に供していただければと思っています。


2000/5/2

岩手、秋田、弘前大学連合のホットニュース

弘大が「北奥羽3大学」構想検討:東奥日報 2000年4月27日付  

 弘前大学(吉田豊学長)は、岩手大学、秋田大学と教育や研究面で協力し合う「北 奥羽三大学協力態勢」の構築を検討している。二十六日の定例会見で吉田学長が明ら かにしたもので、(1)教養教育の単位互換(2)国際交流事業の相互協力(3)三 大学による共同研究の推進−などが内容。同学長は「研究、教育分野の活性化が狙 い。単位互換制度などは、十三年度からでも実施したい」と意向を表明した。
 三大学の同構想は学生交流の活性化や柔軟な教育プログラムの提供が目的。吉田学 長は今年二月から岩手大の海妻矩彦学長、秋田大の徳田弘学長らと協力態勢構築へ向 け話し合いを続けてきた。今年六月にも弘大で話し合いが行われる予定だ。
 会見で吉田学長は「構想は、学長レベルでの話し合いの段階だが、互いに協力しよ うという認識では一致している。単位互換など可能なものは来年度から始めたい」な どと意欲を語った。
 今後、構想実現へ向け事務レベルで話し合いを進める。各大学間の距離的・時間的 な問題など、今後クリアしなければならない問題があり、水野裕副学長は「単位互換 をどの程度まで認めるのかなど、今後検討する必要がある」と話している。
 首都圏では昨年、一橋、東京工業、東京外国語、東京医科歯科、東京芸術の五大学 が教養教育の共同実施や編入学の相互受け入れを柱とする「五大学連合」実現へ向け 協議をスタートさせている。今回の北東北三大学の協力態勢も、少子化に伴う十八歳 人口の減少、独立行政法人化問題など大学改革のうねりの中で、大学の生き残りをか けて打ち出された方策とみられる。


2000/4/19

国立大の統合「推進を」 自民研究班提言案   
2000年3月23日朝日新聞夕刊  

 自民党・教育改革実施本部のグループ(主査・麻生太郎元経済企画庁長官)は23日、今後の自民党の大学政策の基本になる提言案をまとめた。大学の事情に配慮した特例法を設けて国立大を法人化させる方針を正式に示すと同時に、運営基盤を強化するため、金融業界のように国立大の「再編統合」を進めるべきだとした。「選別と淘汰(とうた)は避けられない」とまで踏み込み、国に守られてきた「護送船団方式」を解消して競争を進めるとし、今後は各大学の業績を予算配分に反映させる方針を示している。
 文部省は「政権党の提案は重く受け止める」としており、今後の大学行政に反映される可能性が強い。国立大側には、「地方大学の切り捨てにもつながりかねない」という反発もある。
 提言案は、これからの大学について、「国際的な競争力を高め、最高水準の教育と研究を実現する」ことを第一の目標に掲げ、国の大学予算を欧米並みに引き上げることを明記した。
 「国立大の再編統合」は、そのための環境づくりの有力な手段と考えられている。大学の再編を進めれば、▽国は予算を重点的に投資できる▽教員の交流が深まって高度な研究が望める▽旧帝大を始めとする、国立大の序列をうち破ることにつながる――などが可能になるとしている。


2000/4/11

山梨大、山梨医大の統合決定 来月、合同で協議会設置
『山梨日日新聞』2000年4月6日付

 山梨大(椎貝博美学長)は五日、各学部教授会と評議会を開き、山梨医科大(吉田 洋二学長)との統合を推進することを決めた。山梨医科大は既に統合推進を決定して いるため、国立大同士では全国初となる両大学の統合が事実上決まった。合同の協議 会を設置して本格的な準備に入る予定で、早ければ二○○二年四月の統合実現を目指 す。共同会見した椎貝、吉田両学長は「統合に向けた障害は基本的にない」と明言し た。大学に効率的な運営を求めるため文部省が検討中の法人化と、少子化の進行で大 学間の競争が激化するとみられる中で、両大学の決定は全国の国立大に大きな影響を 与えそうだ。
 五日は山梨大の教育人間科学、工学両学部の臨時教授会が開かれ、両教授会とも山 梨医科大との統合推進を了承。これを受けて最高決定機関である評議会が開かれ、大 学として山梨医科大との統合を進めることを決めた。
 山梨医科大で行われた記者会見には、椎貝、吉田両学長が出席。「細かい問題はあ るが、時間をかけても統合を実現したい」「基本的な障害はない。あったとしても統 合に向けて進んでいかなければならない」と意欲を見せた。
 統合推進の理由とメリットについて、椎貝学長は山梨医科大の開設に山梨大が深く 関与した経緯を挙げながら「工学技術の開発をはじめ、医の倫理や医療教育など新し い研究が可能になる。学生にとっても交流の幅が広がる」と説明。吉田学長は「環境 問題や高齢者福祉など、新しい視野での研究領域が立ち上げられる」とした。両大学 は既に、学部を母体に持たない独立研究科(大学院に相当)の共同設置を打ち出して いる。
 統合時期については、椎貝学長が「二○○二年四月の実現を目指したい」と明言 し、吉田学長もこれに同意。今後の課題として、教員の研究環境の整備や教員組織の 再編成などを挙げた。
 今後は両大学内に準備を進める検討委員会を発足させ、五月中に合同協議会を設置 して大学名や学長選出、大学院の在り方、教員配置などを協議していく。統合には国 立学校設置法改正などの法整備も必要になるため、文部省とも協議を進める。両大学 は昨年一月、統合に向けた協議をそれぞれ始めることを学長レベルで合意。山梨医科 大は今年三月二十二日の教授会で統合推進を決定していた。
 統合が実現すれば、国立大同士では一九四九年に新制大学が発足して以来、初めて のことになる。全国に九十九ある国立大の中で、ほかにも香川大と香川医科大が統合 に向けた検討を進めている。

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山梨大・山梨医大統合 研究領域拡大に期待 「組織再編」懸念の声も
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 国立大同士では全国初という大学統合が事実上決まった五日、山梨大と山梨医科大 の教授陣や学生の間にはさまざまな反応が広がった。教授陣には「新しい大学像をつ くり出す一歩になる」「研究の幅が広がる」などと歓迎の声が大勢を占める一方で、 「教員配置はどうなるのか」と不安を漏らしたり、「統合の細かい内容は時間をかけ て検討してほしい」と慎重な議論を促す意見も。学生たちも多くは「学習の機会が増 える」と好意的に受け止めていたが、「今の学習環境がどのように変化するのだろ う」と、先例のない事態に戸惑う声も聞かれた。
 山梨大の伊藤洋工学部長は、統合によって新しい研究、教育領域が生まれるなどと メリットを説明して「新しい時代に整合するような協議を両大学間で進めていく」と 強調。黒沢幸昭教育人間科学部長も統合で大学の基盤強化が図れるとしながら、「教 授会では、一般教育の面で教育人間科学部の負担が増えるのではないかなどと心配な 意見も出た」と明かした。
 山梨医科大のある教授は「学術研究の幅が広がるなどの利点は計り知れない」と推 進の立場。山梨大教育人間科学部のある教授は統合には賛成の態度を示しながらも 「今後の議論は時間をかけるべきだ。教員組織の再編成はどうなるのかなどを明確に してほしい」と望む。  学生の間では「医療の専門領域が学べるようになるならば、工学系のメリットは大 きい」(山梨大大学院生)と好意的な見方が強い。山梨医科大医学部の一年の女子学 生は「単科大では幅広い教養を身に付けることが難しいが、統合によってそれが可能 になる」と歓迎。同大の大学院生は「学ぶ場が広がるのはいいこと。教育学部や工学 部など異なる将来目的を持った学生たちとも交流できる」と受け止めている。
 中には「講義で向こうの大学に行かなければならない場合があれば、交通アクセス が不便なので大変だ」(山梨医科大の一年女子)と両大学が離れて立地している点に 懸念を感じている学生も。また「統合の必然性がよく分からない。教育系にメリット があるのかも疑問だ。要は大学の生き残りのため、私たちには直接大きな利点はない と思う」(山梨大教育人間科学部の四年女子)と厳しい声もあった。


2000/4/7

国立大の法人化決定へ 自民党内の調整にめど 文部省が方針
(2000.3.30 [he-forum 759] 文部省が方針固める(共同通信速報))

国立大の法人化決定へ 自民党内の調整にめど 文部省が方針

共同通信ニュース速報

 文部省は二十九日までに、国立大を国の行政組織から切り離し、独立した法人とする方針を固めた。             自民党内の意見調整にほぼめどがついたことや、これまで反対論が強かった国立大関係者にも「大学改革に向けて法人化もやむなし」との理解が広がってきたことから、最終的には関係者の了解が得られると判断した。
 国立美術館や病院などに適用されている「独立行政法人」制度は大学にはなじまない部分が多いため、文部省は自民党などの論議を踏まえ、今後、どのような形態にするか詰める。
 具体的な制度の在り方については、江崎玲於奈・前筑波大学長ら学長経験者でつくる文相の私的懇談会に検討を求める方針。
 政府が行政のスリム化を狙って国立大の独立行政法人化を打ち出したことに対し、文部省は昨年九月、大学の自治を尊重する特例措置を求めた「検討の方向」を公表したが、その後は自民党内の意見調整を待つ形になっていた。
 自民党教育改革実施本部の研究グループは、独立行政法人制度をそのまま大学に適用するのは不可能としながらも、国が手厚く保護する現状を改め、教育研究水準を向上させるために独立機関化して競争を促すべきだと指摘。二○○二年度までに具体的な法人化案をつくるよう求める提言をまとめている。            
 同党の文教部会・文教制度調査会は、この提言を大筋で了承する見通しで、その後、同党行政改革推進本部などと最終的な詰めの協議を進める予定となっている。    [2000-03-30-07:33]

 

国立大法人化 2001年度中に具体像 自民部会 早期移行を提言

3/30日本経済新聞 (2000.3.30 [he-forum 765] Nikkei Shinbun 03/30) 『日本経済新聞』2000年3月30日付夕刊

 国立大法人化 2001年度中に具体像 自民部会 早期移行を提言 自民党文教部会・文教制度調査会合同会議は三十日、国立大を「国立大学法人」など大学にふさわしい名称の法人にし、国立大の再編統合を推進することなどを盛り込んだ提言を了承した。「二〇〇三年までに結論を得る」とした閣議決定を前倒しし、「二〇〇一年度中に具体的な法人像を整理し、早期に移行させるべきだ」と実施に向けて踏み込んでいる。
  同党の行政改革推進本部と調整を進め、最終的には自由、公明両党の合意も取り付ける方針。大学の自治を尊重するため特例措置を求めていた文部省も、最終的には大学関係者の了解が得られると判断、法人化の方針を固めている。
  提言は「独立行政法人」の名称には強い違和感があるとし、国の独立行政法人通則法を前提にした特例法を定めて移行する方法を検討すべきだと指摘。国立大の運営を国の保護下の「護送船団方式」から脱脚させ、研究・教育面などで各大学が競い合う環境を整えるうえで、国から独立した法人格を与える意義は大きいと強調している。法人化に際しては(1)大学の主体性を尊重した学長人事手続き(2)大学の意向を重視した教育研究の目標や計画設定、第三者評価機関による評価――などに留意するとしている。


2000/1/26

唐木@東大です  酪農大・浅川先生からの学生定員についての質問にお答えします  

1)日本の獣医学教育全体として年間1000名の卒業生が必要であることは文部省、 農水省、獣医学関係団体の間で合意ができていますので、大学の一存でこの数を大き く変更することはできません。  

2)1000名の学生の教育は国公立と私立で分担していますが、私立大学の合意なし には国公立の受け持ち人数を大幅に変えるわけにはゆきません。

3)このように、国立大学で教育すべき人数が決まっていますので、一部の獣医学 科が評価機関から厳しい評価を得るなどして獣医学教育から撤退した場合は、教育を 続ける獣医学科が学生数を増加せざるを得ません。学生数の増加は当然教官数の増加 を伴います。これがチャートの「学生定員の移動と教官定員の移動」の意味です。  

浅川先生のコメントのように、「もはや、護送船団は通じないのです」。各国立大 学が生き残りをかけた競争に走り出したところです(もっとも、座して死を待つがご とき一部の先生方も見受けられますが)。  

国立大学が立派になれば、当然私立大学も改革が必要になるでしょう。こうして、 日本の大学教育が欧米のレベルまで向上すれば、独立行政法人化も本来の目的を果た すことになります。


2000/1/25

酪農大@浅川です。

HPで紹介された「予想される獣医学教育改善の道筋」は非 常に分かり易いチャートです。ところで最後段に学生定員の移動とありましたが、 獣医学科の定員については論議されているのでしょうか(このMLでも、確か獣医師 会からの意見が紹介されたと思います)。   

このチャートによると、3?大学院大学とその他の学部大学(法人化された大 学、府立、現在の私立で構成)で獣医学の教育研究が展開し、次第にいくつかの獣 医学科が消えるかもしれないというシナリオです。もし、そういった場合、存在し ている大学で可能な数で学生定員が決まるような気がします(予め定員を決めるの ではなくて)。   

私立大学に身を置くものとして質問させていただきました。それにしても、も はや、護送船団は通じないのですね。


2000/1/24 科研MLでの質問(公開)

各位 以下について、特に関係大学の先生にお応えいただければ幸いです。

1)帯広畜産大学学長に佐々木康之氏が選出された事に関し、佐々木氏は「獣医学科 の存在しない帯畜大は考えられない」との決意を表明されているとの新聞報道(北海道新聞2000年1月23日朝刊)がありましたが事実なのでしょうか?

2)先週末に開催された本学の学科会議で九州大学大学院獣医学研究科はかなり具体的なもの(概算要求?)であるとの情報を聞きました。差し支えない範囲でよろしい のですが、いつ、どの大学で構成するなどかの具体的な情報を頂ければ幸いです。

酪農学園大学獣医学部 浅川満彦


2000/1/17

<国立大統合検討>山梨大と山梨医科大 研究組織を共同で設立  毎日新聞記事 (1月12日)の紹介  

山梨大(甲府市武田、椎貝博美学長)と山梨医科大(山梨県玉穂町下河 東、吉田洋二学長)の両国立大は、大学院に相当する研究組織を共同で設 立することでほぼ合意した。椎貝学長が12日の記者会見で明らかにした。7月ごろには文部省に提出する報告書をまとめる。両大学は大学そのものの 統合も視野に入れて検討を進めており、少子化や独立行政法人化などで大 学間の競争が激しくなる中、国立大再編の動きに影響を与えそうだ。

両大は昨年11月、大学院連携構想に関する専門委員会をそれぞれ設置 した。月1回程度合同打ち合わせを開き、大学院に相当する独立研究科を 共同で設置する方向でまとまった。独立研究科は傘下に学部組織を持た ず、いずれかの大学の既存の大学院内に設置される。

山梨大は工学、教育人間科学の2学部で、山梨医科大も医学部だけで、 両大学は将来的な統合も視野に入れ、検討に入っている。椎貝学長は「大 学の統合が実現すれば、教官も学生も選択の幅が広がり、少子化で私立大 学などに散らばっている優秀な学生を集めることができる」と前向きな姿勢を 示している。

 文部省高等教育局の永山賀久視学官は「国立大間で統合を視野に入れ た連携を検討している例は、ほかに聞いていない。予算面や関係方面への 調整など文部省として可能な範囲で支援はできる」と話している。 【三橋  裕二】


2000/1/7

専門大学院構想について(東大の対応)

専門大学院を獣医学に置く理由は、専門医制度の確立にあります。

すなわち、卒後教育の充実の一環として専門大学院の設置を構想しています。 一方、この問題と現在全国的に進められている獣医学再編とどう整合性を取るかも十分考慮されなければなりません。我々は獣医学再編の方向性が決まる本年4月の全国協議会の決定を待って、平成13から14年度にかけて具体的構想を確立し実現へ向けての動きを起こしたいと考えています。

東京大学 林良博、小野憲一郎


2000/1/6

専門大学院構想について(北大の対応)

専門大学院構想は現在北大でも検討されています。

国立大学の中のいわゆる「自助努力組」として獣医学教育をどう改善して行くか、一昨年の外部評価で酷評された臨床教育をどう改善したら良いか、獣医学教育の高度化、国際基準化というグローバルな流れにどう対応するか、教授懇談会で検討しています。その中で、将来構想として、専門大学院構想も出ています。別の構想もあり、一本に纏まってはいませんが、今後は組織運営委員会にワーキンググループを設け、中・長期目標として、本獣医学部の臨床教育および獣医学教育一般をどのようにするか検討する運びです。今後は自助努力組のもう一つの東大とも協議し、将来構想を検討したいと考えています。

北大 藤田正一


2000/1/5

お読みになった方も多いと思いますが、朝日新聞に12月28日付で以下の記事が掲載されていました。「自助努力をする大学には資源配分がある」は、言葉を換えれば、「何もしない大学には資源が配分されない」ということだろうと感じました。ところで、獣医学にも修士課程で臨床教育を目指す専門大学院を創るという動きが一部の大学にあると聞きましたが本当でしょうか。これは埼玉大の試みと通じるところがあるのでしょうか。

埼玉大、東京駅前に「大学院」 来春から 講師に官僚も(朝日新聞記事の抜粋)

埼玉大学大学院経済科学研究科(浦和市)が来年春、JR東京駅八重州北口近くに社会人向けのサテライト教室「東京ステーションカレッジ」を開設する。二十七日、記者会見をして明らかにした。国立大学がサテライト教室を地元の都道府県に設置するのは初めて。二〇一〇年度までにすべての国立大が独立行政法人となるなど、大学を取り巻く環境が変わるなかでの「生き残り策」。講師陣に現役官僚も加わっており、貝山道博経済学部長は「帰宅途中に学んで欲しい」と話している。 「東京ステーションカレッジ」は、「八重州口会館」地下二階に開設する。「国際ビジネスと金融」「ビジネス複雑適応戦略」の二つのプログラムで、午後六時から九時十分まで一日二コマの授業を用意する。式部透・金融監督庁証券監督課長、岸本周平・大蔵省アジア通貨室長らを客員教授として迎える。

(匿名希望)


1999/12/21

皆さま 12/17のメール、HKさん「独法化の行方」に私立は生き残りをかけて基準を達成する、と決定事項のように書かれていましたが、実際はどのような状況 なのでしょう。このMLでは私立大学の方向性については、ほとんど論じられていませんが・・・。

 おそらく、全国立獣医大がいくつか統合して、独立法人の大学院大学を目指す事 になると思います。宮崎大KIさん12/16のメールにあった大学の3つのグルー プ;1)エリート大学、2)マス大学、3)ユニバーサル大学;でいくと、大学院大学は1)のカテゴリーでしょうか。
 そうなると、獣医学部学科学生の定員約8割を受け持つ私立獣医大は、2)のカ テゴリーでしょうか。すなわち、中間管理職、専門職、高度技術者の育成のための大学ですね。もしそうなると、獣医学教育改革について、まず真剣に論議しなければならないのは、8国立大学ではなく、われわれ私学教員のはずです。なにしろ死活問題です。おそらく、このような公開ML上には出さず、各大学内で教育改革進行中なのでしょうね。でも最低限の情報交換は、このMLで展開したいですね。
 たとえば、経営上もっともシビアな学生納付金です。今年の春の獣医学会で、基準を満たすためには、学生納付金を3倍にする、それでも学生は来る、というご意見があったように記憶しています。おそらく、私学経営に直接関わる理事車のよう なお立場の方は、これをお読みの会員にはにらっしゃらないと思いますが(失礼) 、このような大幅な値上げをしてでも改革を進めるのだ、という私大はありますか ?もし、ある!という情報がありましたら、このMLにお流し下さいませんでしょ うか。具体的な名前は伏せてもいいと思います。仮に一つでもあれば、連鎖反応的に全私大は全身全霊で改革に対処することになるでしょうから。
 60:72。この課題は、私大こそ、真剣に取り組まなければならない問題ですよね。私大からの声も、活発にこのML上に展開させましょう。

 某私大教員・匿名 希望


1999/12/17

宮崎大学KI&THさんの意見に対して: 大学評価・独立行政法人化・獣医学再編はセットで考えるべき!

 宮崎大学 KI&THさんの「大学評価」に関するニュースに関連して、私見を述べます。

 独法化により全国津々浦々にばらまかれた国際的に見てきわめて「貧弱」な国立大学の数を現在の99から30以下にする、というのが文部省高官の言です。ご存知のように、独法化後は5年の中期計画を立て、その達成度を評価されます。評価結果は 資源配分に直結します。KIさんがいう「施設、設備、人員で圧倒的に不利な地方大 学」が法人評価をくぐり抜けて生き延びるるためにはどうしたらよいかを、多くの大 学が真剣に検討しています。その答えが、大学同士の再編整備(ブロック法人化)で す。そして、その結果、国立大学全部が旧帝大並みの質的向上をし、大学の総数は減 少します。何もしない大学はKIさんの結論のように、消えてゆく運命にあります。

 このような情勢の中で、獣医学の再編がどうなるのでしょうか?ブロック法人化は 当然地域ごとに行われるでしょう。国立大学獣医学科は全国に散在していますから、 各地域にできる「ブロック大学」の中で獣医学科は「基準」は達成できずに貧弱なま ま残るでしょう。一方、公、私立を含むいくつかの獣医学部、学科は生き残りをかけ て「基準」を達成するでしょう。そうなると、獣医学教育は2極に分かれます。その ときに、基準に達しない獣医学科はどのような評価を受け、どうなってゆくのかは明 らかです。独法化は獣医学教育の救世主になり得ません。

 5年前には長期信用銀行がつぶれ、日産が合併されるなどということは誰も考えま せんでした。5年後には獣医学科を持つ国立大学のほとんどが再編整備により消えて、新しいブロック大学の一員になっているのではないでしょうか?現在の大学をこ のままの形で守ることはもはや不可能です。そして、立派な大学を作るために必要な ものは「新しい理念と発想」です。それは、上からの改革ではなく、それぞれの学問 領域を立派にするためにはどうしたらよいのか、という担当教員の発想と努力だと思 います。獣医学関係教員はこのことを身をもって示しています。独法化の大波の中で 獣医学再編の夢が消される前に、ぜひ、夢を実現したいものです。

(HK)

 


1999/12/17

大学評価で地方大学はどう変わるのか? 

 先日、メーリングリストを通じて大学評価に関する意見をメールで流したら、数名の方 からそれに対するご意見(すべて同感であるというものでしたが)を電話やメールで頂きました。メールの内容をホームページの「意見・異見」に掲載すべきであるというお勧め もありましたので、内容を一部修正して掲載します。なお、ここに書かれているこれから どうなるという予想は私、および一緒に講演を聞いていたTH氏の感想をまとめたものであ り、木村氏自身が語ったことではありません。

 先日、学位授与機構長木村 孟氏による講演を聞きました。ご承知のように学位授与機 構は来年度から大学の第3者評価を行うことになっています。木村氏の講演を聞いて、こ れから始まる大学評価が獣医の将来にどう影響してくるか、感じたことを以下に述べます 。

 高等教育予算というパイはこれ以上大きくならない、できるのは配分方法を変えること である。分け前は大学評価で決まる。少子化が進む一方、高校からの大学進学率が50% に近づいている今日、大学は必然的に3つのタイプに分かれてくる。1)エリート大学(独創性、創造性が要求され、成熟社会の担い手となり、国際社会の発展に寄与できる人材 を育成)、2)マス大学(中間管理層、専門職、高度技術者の育成)、3)ユニバーサル 大学(所得、余暇が増えて、生活の楽しみ、生き甲斐のために大学に来る人を受け入れる 。レジャーランド的性格をもつ)。予算は当然エリート大学に重点配分されることになる でしょう。地方大学の獣医学科は、1)を目指すか、現状を維持するつもりで2)をとる かということになるでしょうが、次に述べるように2)では研究費が減ることは必至です 。また、国際レベルの獣医師を養成することは不可能になります。

 大学評価がどのように行われるか、イギリスの例を中心に教育評価と研究評価の方法が 紹介されましたが、それを聞いていると施設、設備、人員で圧倒的に不利な地方大学では 獣医学科だけがどう努力しても大学として高い評価を得ることはきわめて難しいようです 。地元にこだわってがんばるというのは、かつて竹槍で戦車に向かおうと言っていた日本 を思い起こします。これは独法化になろうがなるまいが、すぐに始まることです。

 講演を聴いているうちに、旧帝大のような大学院大学は当然評価が高くなり、地方国立 大は低くなる、すなわち旧帝大にはますます金が集まり、地方大学にはますます金がこな くなる図式が見えてきました。その上、25%定削が来たら宮大獣医学科では5−6名の 教員が減らされることになり、獣医学教育は壊滅状態になります。そうなったら地元への貢献どころではありません。獣医学科の再編統合は焦眉の問題で、早急に弱小の獣医学科 が統合してスケールアップ効果を目指さなければならない段階に来ています。

(宮崎大学 KI & TH)


1999/12/6

日本獣医師会会長会議で唐木教授講演 を終えて

 非常にわかりやすく明快な論理に大方の出席者は,現時点での問題意識を深めるとと も に, 理解を新たにしたようです。逆に言えば,マスコミあるいは同窓会経由の口コミで, 話題としては承知していても十分な認識,理解が無かったというのが真実のようで す。
 会議出席者全員の意見を聴取した訳ではありませんので,結論として断定はできませんが,多くの出席者(地方獣医師会の会長)が理解を新たにするとともに,中にはそういう こ となら日本獣医師会はもっと力を入れて支援すべきではないかという会長さんもおられました 。ただし,この問題は大学の先生の任せていては進まない,獣医師会で,教育基準な ど を定めて我々がリードすべきであるといったやや過激なものです。これはちょっと危険だと思 います。
  まあしかし全体としては唐木先生のご講演は大成功だったと思います。 尚未だに,同窓会のしがらみに身動きできない会長先生も2−3おられることも否定で き ません。
 以上私の所感です。   

日本獣医師会専務理事 松山 茂                      1999年11月30日


1999/12/2

 「獣医学教育の抜本的改善の方向と方法に関する研究」に関連してフィールドで課題となっている点を以下の通りご報告申し上げます。

 【水産養殖業界の現状と今後の課題】

  生産現場では、獣医師や薬剤師のような薬剤の効果性や適正な使用方法を理解している専門家が、実際に活動している訳ではないので、産業動物(多頭羽飼育)としての防疫管理体制の考え方が浸透していないため、現状では養殖業者の自己判断で大量の薬剤が使用されています。

 結果的には、以下の問題が発生しています。

 マスコミや消費者の「食品安全性や環境問題」に対して明確な意見や適切な対応が出来ていないため、養殖業者は大切な財産である養殖魚を適切に治療する権利を奪われつつあります。(ホルマリン、過酸化水素、一般薬等の使用禁止)

 水産加工食品におけるHACCP対応においても世界的に養殖漁業が盛んであり、本来は世界へ情報発信をしても良い立場であるはずの日本(農林水産省)が、獣医師を生産現場で活動させていないためにF.D.Aに対して明確な意見を言えずにいます。

 現状の魚病対策よりも産業動物の防疫管理体制を適切に導入した方が、確実に薬剤の使用量が減少し、生産者には生産性を消費者には安全性を提供できるにも拘わらず、現場では、薬品業界の慣習により、水産薬以外の薬剤の使用を好まないため、獣医師の職能を生かした防疫診療活動に際して水産薬以外の薬剤の使用に対する有形無形の圧力がかかっています。

 以上の内容に関しまして、ご質問がありましたらご連絡下さい。尚、水産業界の現場での情報や事例に関しましては、惜しみなく協力させて頂きます。

株式会社 マリンテクノサービス 代表取締役 友村栄一(獣医師) effect@winter.try-net.or.jp

 


1999/12/2

 農水畜産物の国際流通の拡大とともに、「品質と安全性の保障」が重要課題となっており、WTOにおける貿易紛争となっていることはニュースで頻繁に流れており、また、私が獣医師会誌8月号で取り上げた問題でもあります.「品質と安全性の保障」に関わっている種々の専門家の中で獣医師は中心的存在であり、輸出入に必須の「証明書」を書ける国際資格です.水産業界でも、「生産過程での品質と安全性の管理」が求められており、水産動物薬の適正使用を含めて獣医師の証明が必須の書類となっています.現在、薬事法との関係で水産薬の使用指示を獣医師が行っていますが、実態はどうなのか? 「生産過程での品質と安全性の管理」を含めて保証できるほどの人材育成をしている大学はあるのか? 
 獣医学教育の充実と改善を考えるとき、周辺科学との分野および役割の調整が必須のものです.上記の水産物に関しては「水産学」との、畜産物に関しては「畜産学」との、野生動物に関しては理学部系の「動物学」との関係をどうするのかを検討することが大切でしょう.産業界は具体的対応に苦慮している状況です.人口爆発による食糧危機が懸念されている21世紀の入り口で、日本の獣医学は産業界の要請にどう対処するのか?

鹿児島大学農学部獣医公衆衛生学教室 岡本嘉六


1999/11/19

問: 獣医学教育改善HP事務局殿
  折角の企画「授業をどうする」の感想・意見ですが、現在、何名の方に配布されているのでしょうか?私の投稿から1ヶ月たちましたが、掲載されているのは私のだけの1件です。本の希望者がいないのか、本をもらっても感想意見を出さないのか、あるいは事務局で止めているのか、お教えいただければ幸いです。ひょっとして、私が余計なことを書いたが故に、皆さんのアンケート参加にマイナスの遠因を与えたのではないかと、このHPを開くたびに気になります。
 関連しますが、このMLへの参加者がとても少ないが理解できません。本学でも登録者が4名、獣医学部教員の1割以下です。他大学でも多いとは思えません。この原因が、このHPの単なる宣伝不足か、あるいは知っているけれども無関心なのか、改革なんて所詮無理として諦めているのか、判りませんが、この辺の獣医大学教員意識がどこにあるのかも調査される必要があります。取り急ぎ。

酪農学園大学獣医学部寄生虫学教室 助教授 浅川満彦

返: 浅川満彦先生へ
  メール有り難うございます。先生のおっしゃること、ごもっともです。
  これまで、HPの宣伝は2度ほどハードコピーで各大学に配りました(全教官にわたるように複数のコピーを配りました)。したがって、HPの存在については周知しているものと理解しています。科研費の全体会議でも幾度か発言してまいりました。
  獣医学再編問題には多くの方が関心を持っておられるものと思いますが、その基盤に獣医学教育改善(個人レベルでも)があることは意外と理解されていないのではないかと思います。日頃自分はどの様な授業をしているのか、準備のためにどれくらいの時間をかけているのかなど、問題意識を持っておられる先生がどれくらいいるのでしょうか。
  授業をどうするはすでに100冊近く配付していますが、レポートをくれたのは先生ただ一人です。配付した先生方のリストはありますので、そろそろ催促しようかと思っています。
  今後とも獣医学教育改善HPを盛り上げていただきますよう、宜しくお願いいたします。

東京大学大学院農学生命科学研究科 助教授 尾崎博


1999/11/18

1999/10/20、東北大学大学院応用動物科学系で行われた、「獣医系大学再編の動向と課題」と題するセミナーで、講演者唐木英明教授あてになされた質問を列挙しました。畜産分野の人たちが、獣医学再編をどの様にみているかが見て取れます。詳しくは、東北大セミナー(PDFファイル) をご覧下さい。

1)4大学(北海道大学、東北大学、東京大学、九州大学)案、3大学(北海道大学、東京大学、九州大学)案などいろいろでてきているが、統合すると本当にスケールメリットが生かせて、国際基準を満たせる獣医学部(学科)になれるのかどうか。教官数を増やすことだけ考えて、国際基準を満たす獣医学部をつくろうとするのであれば、3つ、4つつくるのではなく、1つの大学(東京大学)への統合がもっともよいのではないか。自助努力で2大学(北海道大学、東京大学)を温存する必要はないのではないか。北海道大学と帯広畜産大学が合併しても獣医学部としては小さすぎるのではないか。そのように考えるとスケールメリットという基準だけではなく、特色ある獣医学部をつくるという視点が必要なのではないか。

2)再編の考えの3条件、@平等に損をして平等に得をする、A地域的な配置を考慮する、B総合大学あるいは大学院大学を目指す、に加えて、第4の条件として、畜産学などと連携できるという条件も重要なのではないか。

3)獣医学教育のカリキュラムには畜産学科、水産学科、農芸化学科などで講義されている科目も今まで以上に取り入れ、特色あるカリキュラムをもつ獣医学部(学科)をつくる必要があるのではないか。特に畜産学科と協力することによりより食産業対応で諸外国との交流を担いうる獣医師養成のカリキュラムがつくれるのではないか。そのため、畜産学教官組織の大きな大学への異動がいいのではないか。東北大学は畜産学(現・応用動物科学)の教授が9名、10研究室からなり、獣医の1学科に匹敵する。そのようなことから教育面を配慮した場合、東北大学への統合案は十分検討に値するのではないか。

4)将来、学部の壁がとりはらわれれば、多くの分野の教官が獣医学教育に係わることが可能になる。畜産学、水産学、食品学に加えて、医学、歯学、薬学とのカリキュラムも共有する可能性がある。そのようなことから考えて、1〜2大学でも統合して大きな総合大学(農学、医学、歯学、薬学部、生命科学研究科などのある)で獣医学部(学科)をつくると特色ある獣医学が構想されるのではないか。各大学の特徴をのばす点でもメリットが多いのではないか。

5)3大学案は、九州大学への統合を前提としているが、九州大学の構成員はどのように考えているか。九州大学の畜産学科の教官の中には、西4大学から具体的な話が伝わらず、不愉快あるいは反対と思っている教官も多いのではないか。九州大学からの情報は正確に獣医系各大学に伝わっているのか。今までのような論議だけで獣医学サイドの論理をふくらませ、先行3大学案を突出させて大丈夫なのか。

6)日本で取得した獣医師資格が世界で通用するようになるためにはどのようにしたらよいのか。現在の改革案で可能なのか。

7)統合後の大学において、どのような獣医師を養成しようとしているのか理念が明確ではないのではないか。獣医科学者を養成しようとするのか、臨床獣医師の養成か、臨床獣医師でもその対象動物は家畜か、ペットか。私立大学の獣医学部(学科)を含めた将来構想が必要なのではないか。

8)岩手大学獣医学科は本当に東北地区を離れて九州に動く決断をしたのか。そのような決定がなされたのならばたいへん残念である。

9)東北大学への統合が難しいとの判断はどこから出てきたのか。東4大学(帯広畜産大学、岩手大学、東京農工大学、岐阜大学)は西4大学(鳥取大学、山口大学、宮崎大学、鹿児島大学)にくらべ、よい獣医学をつくろうとする熱意が足らないのではないか。とくに東4大学は、始めから「東北大学への統合案は難しい」「受け入れ先(東北大学)に受け入れの熱意がない」という前提をつくって、別の案をつくろうとしているのではないか。別の案をつくるため便宜的に東北大学とコンタクトしてきたのではないか。

10)獣医学の立脚基盤が農学にあるのか、医学にあるのか。状況によって使い分けるのはあまり望ましくないのではないか。

11)獣医学科再編は農学部再編の先触れとなるにちがいないので慎重に対応してほしい。


1999/11/15

「ドッグワールド」(1999/12月号)という愛犬家向けの月刊誌に、獣医師のインフォームド・コンセントに関する以下の2つの記事が載っていました。出版社のご厚意により、記事の一部を紹介させていただきます。

その1

寄生虫博士の医学エッセイ     東京医科歯科大学医学部教授 藤田紘一郎

日本獣医師会が「インフォームド・コンセント徹底宣言」を発表した

 僕の友人の小川敏美さん宅には愛犬ナナちゃんがいる。ゴールデン・レトリーバーのメスでもうすぐ一〇歳となる。ナナちゃんは八歳の時に「がん」の手術を受けた。
  「なんとなく元気がなく、食餌の量も減ってきたのですが、年のせいかなと思って特に気にしてなかったんです」と敏美さんは語っていた。
  その後、定期検診で口腔内のがんであることがわかった。このように、目に見える腫瘍以外は症状がわかりにくいため、早期発見はなかなか難しいのが現状のようだ。 がんの治標法としては、現在主に次の三つがある。
  腫瘍を切除する外科手術、症状に合わせて抗がん剤を使ってがん細胞を消滅させる化学療法、放射線を照射してがん細胞をたたく放射線療法の三つだ。がんの進行状兄、イヌの年齢により最適な治療法が選択されることになる。
  イヌが「がん」にかかって、これらのがん療法を受けると、とたんに食欲不振などが起こり、体力が弱ってくる。獣医師においてもがんに対する意識が高まりつつある。
  このような状況を受けて、株式会社日本ヒルズ・コルゲートではがんにかかったイヌのための療法食「ブリスクリプジョン・ダイエットイヌ用n/d」を発売した。
  がんによって起こる食欲不振、筋肉の消耗、体重減少などの症状に対し、代謝異常を改善し、生存期間を延長させる療法食なのだ。
  ところで、イヌが「がん」になった時などでよく問題になっているのが、過剰診療による飼い主の苦情だ。
  日本獣医師会(東京都港区、五十嵐幸男会長)は先日、飼い主にペットの病状や治療方針を十分説明し、理解を得たうえで治療することを徹底する「インフォームド・コンセント徹底宣言」を発表した。ペットに対する過剰診療などのトラブルが相次いていることから、動物医療への信頼を高めかのが狙いだそうだ。料金トラブルを防ぐため、不妊手術などの平均的な料金も公表し、「宣言」に沿って全国の獣医師を指導するそうだ。 日本獣医師会は全国の獣医師の九割以上(約二万七〇〇〇人)が加盟している団体だ。
  ペットブームで動物医療へのニーズが高まる一方、「過剰な診療を受けた」「高額な診療費を請求された」などの苦情も増えているため、対策を検討していたのだった。
  「宣言」は、インプオー.ムト.コンセントの徹底を宣言するポスターを動物病院に張り出すよう求めた。約一六〇〇人の獣医師を対象に調査した結果に基づき、狂犬病予防注射が2873円、不妊手術雄イヌ15379円、雌イヌ24176円、一日の入院料大型犬3906円、小型犬2706円などと平均値を発表したが、「がんの治療」など状況によって治療法が異なる場合までは平均値の料金設定は行わなかったということだ。
  「それにしても、動物の病院代は、もっと安くならないものでしょうか」という声も大きい。ヒトの診療費とくらべると、確かにそんな気もする。
  しかし、人間が本人負担二割ですむのは保険があるからだ。最近日本にもようやくペットの共済制度ができた。スウェーデンには動物の生命保険まである。しかし、わが子に保険をかけて殺す人間がいる日本では、イヌもネコも日本からいなくなるかも知れない。

その2

花畑牧場便り     田中義剛 (酪農家、タレント、酪農学園大卒で多数のTV番組に出演中)

 うちは牧場なので、次から次へと動物病院にお世話になることが多い。しかし、いつも思うのだが、病院によって値段も違えば、処置の仕方も違う、ケアも違う。あれはいったい何なんだろう。飼い主としては、なぜこういう病気になって、だからどうやって治療して、こういう薬を飲ませますと、説明してもらいたいものだ。ついでに料金明細もつけてもらいたい。狂犬病の予防注射ワクチン、フィラリアの薬など、けっこうたいへんなんだから。
  インフォームドコンセントというやつだ。この間、新聞に日本獣医師会が「インフォームド・コンセント徹底宣言」を発表していたけど、それってあたり前のことじゃない。何を今さらって感じだ。おれが犬をつれていくときと、スタッフがつれていくときと態度が違うとか、病気の診断が病院によって違うとか、なんか不信感がおきてしまう。動物病院は医療サービスを行うところという認識をもってもらいたいな。営業努力をして、質の高い医療サービスを提供してほしい。


1999/11/03

東京大学の経営に関する懇談会最終報告に以下の記事を見つけました。 獣医学再編でもその様な問題が生じることを懸念しています。

「一方、大学院重点化に関連して生じた助手定員の減少は、大学院修了者、特に博士課程修了者の進路にも大きな影響を及ぼしている。日本学術振興会特別研究員等のポストドクトラルフェロー制度は充実しつつあるが、大学研究者としての将来が明確でないことから、大学における優秀な人材の確保という点で今後の大きな問題になると考えられる。新領域創成科学研究科で既に実施されている教官の時限付き任用制度を、他の研究科にも導入し、教官の流動性を高め、現在の硬直状況を打破することを検討すべきであろう。」

参考: 東京大学の経営に関する懇談会最終報告(リンクです − 事務局)


1999/10/12 (科研費全体会議より)

日本の獣医科大学の適正数、学生定員の適正数についての率直な意見交換
・諸外国の状況(社会状況や動物の数)と比較して、1000人という定員はかなり多いのではないか。
・獣医師会としてしては、今後需要と供給の関係を調査したい。
・医学部では真剣に定員減を考えているので獣医も定員を考える時期ではないか。
・国立大学の再編にからんで学生定員問題も討議すべきではないか。
・私立でも、定員通りに入学させることを考えるべきではないか。


1999/10/6 (メーリングリストより)

「独立行政法人化があるから、それまでは獣医学再編は待ったほうがいい」、といっ た日和見の意見がありますが、のんびりしていると再編すべき大学が消えてしまうか もしれない現状をレポートした記事をお送りします。 『日本海新聞』 9月26日 (東大:唐木英明)

独立行政法人化 --

友人のぼやき
 アメリカで十数年研究を続け、晴れて国立大学の助教授に迎えられた友人が、 ぼやいていた。「ちょっとした備品を購入するにも“おうかがい”がいるんだ」 「ろくに論文も書かずに、教授でござい、と威張っているお年寄りがなんと多 いことか。年功序列。もうアメリカに帰りたくなったよ」。旧帝大系の名門大 学にしては、訪れた研究室は古く狭かった。
 彼のぼやきは、日本の国立大学の一面を言い当てているかもしれない。“象 牙(げ)の塔”と言えばまだ聞こえはいいが、実際、大学は世間知らず、閉鎖的な“ムラ社会”という声もある。しかし、それは大学人自身が率先して自己 改革すべきことだろう。今、国が急ぎ足で進める「国立大学の独立行政法人化」 は、そんな改革とは似て非なるものに思う。

削減の数合わせ
 それもそのはず、この法人化は「教育改革」でなく「行財政改革」のプログ ラムから出てきた。小渕内閣はこの四月、二〇〇一年から十年間で公務員を四 分の一減らす、と公約した。国家公務員のうち国立大学の教職員(約十二万五 千人)は一五%弱を占めるから、これを抜きにして削減計画の達成は難しい。
 しかし「削減の数合わせ」で、国の根幹にかかわる高等教育をすぐ天秤(び ん)にかけるような国が、先進国にあるのだろうか。さすがに東大総長まで務 めた有馬文相は、二十日の国立大学長会議で「大学には教育研究の特性があり、 大学自治を尊重し、職員の身分を公務員型にする」と特例措置を約束したが、 すかさず政府与党から「本気で行革をやる気があるのか」と不満の声が上がっ た。

法人化で新風?
 そもそも独立行政法人自体がわかりにくい。要するに、もう国の機関からは ずそう、ということだ。文部省はこれを「自らの権限と責任で運営することが 可能になり、組織編成や予算執行などで国の規制が緩和され、各大学の自主性・ 自立性が拡大、個性化が進展する」といいことずくめを言う。意欲的な大学は 好きにやってよろしい、その代わり金銭面は自助努力を、ということだ。
 私の友人なら賛成しそうだ。一部に「官僚的で硬直化した大学に風を吹き込 まないか」と期待の声もある。しかし法人化は教育でなく、あくまで「行政の スリム化」の要求から出てきたことを忘れてはならない。
 法人化で大学に課せられる「中期目標」とは、教育的達成でなくもっぱら業 務効率化、財務内容改善を意味する。しかも三−五年の短期に区切られている。 理工系など産学協同で「金をかせげる」学部ならまだしも、長期的な研究が必 要な部門や、効率化の達成度が見えにくい文系、基礎研究分野は肩身が狭くな る。

貧困な教育費
 「公務員の数を減らせば金が浮く」といった政治家たちの即物的で貧困な発 想は、これまで「教育・技術立国」で生きてきた日本の未来を危うくしないだ ろうか。
 ましてや、大学審議会答申(昨年十月)そのものが「先進諸国と比較して国 内総生産(GDP)や国の公財政支出全体に占める高等教育費の割合が少ない」 と問題点を指摘する現状(アメリカは対GDP比三・三%、イギリス二・七% に対し、日本は一・五%とOECD諸国で最低レベル=答申資料)である。友 人の老朽化した研究室を思い浮かべ、「どうも君が思ってるようにはならない よ。それより自分の居場所を心配した方がいい」と言いたくなった。

他人事でない鳥取
 ここまで書いてきて、まだ他人事と思っている鳥取県民が多いかもしれない。 以前、特報で「そう遠くない将来、国立の鳥取大学も採算性と効率化が求めら れ、環境大学と同じく『地域で支えていく大学』に転じる可能性がある」と書いた(五月二十七日付「大学は本当にいるか」)。
 急激な少子化で、地方大学は国立系でも学生確保でうかうかできない時代が 来る。交通不便な鳥取にあってはなおさらだ。鳥取大学は今、学生にわかりや すい教育や入試選抜方法の改革を急いでいる。
 法人化となれば、採算性から存続が検討される学部学科も出てくる。その時、 県民は「独立行政法人の鳥取大学」「公設民営の環境大学」という、似たよう な二つの大学をともに支えることになる。二兎を追うもの一兎も得ず。環境大学は、そのような不安定材料も読み込みずみで進めているのだろうか。

 大学は変わらなければならないが、政治家の行革目標や、地域活性化の道具 にされると、ろくな結末にはならない。

(中部本社鳥取発特報部・萩原俊郎記者)


1999/9/24 (メーリングリストより)

メーリングリスト会員殿:  以下のような大変なニュースが、東大農職の方から流れてきました。(東大の教授会でも報告がありました)

来年度から、校費の算出基準が大きく変わるそうです。文部省が、すでに大蔵に概算要求を出してしまったので、もう、どうしようもないみたいです。 要点は、教官1人当たりの校費基準は、「非実験系」なみに統一され、農学部などの実験分野は、大幅な減額になります。文部省の(対大蔵)概算要求によると、教官当校費の総額は平成11年度の1,576億に対し、平成12年度はわずか341億円です(たった5分の1!)。学生1人当たりの校費も一律「文科」なみになります。平成11年度503億円に対し、平成12年度の概算要求は326億円です。 これで浮いた分のお金は「大学(高専)分等」という費目に回されます。これは、文部省の判断で適宜分配できるお金のようです。将来どんどん削られて、校費の総額としては、いまより大幅カットになる可能性が高い、ということのようです。 さしあたり来年度は、教官当たり+学生当たり+「大学(高専)分等」の、校費総額が平成11年度実績を割らないように配慮するとのことですが、将来は分かりません。また、「大学(高専)分等」の学内での配分がどうなるかは不明ですので、各研究室の手許に来る校費が、今年なみになるかどうか不安があります。研究費を科研や委任経理金でまかなうどころか、研究室運営や実験室の安全管理など、最低限の経費も校費で賄いきれないようになるかも知れません。

1999/9/25

次から次へと大変なことが起こっています。行政法人化も完全に文部省ペースで、大学は後手、後手です。9月20日付の行政法人化文部省案をみると地方大学は抹殺されるのではないかという危機感を持ちます。そのうちどこも獣医再編どころではないという蜂の巣を つついたようになるでしょう。獣医教官は早く目を覚まして行動しないと取り返しのつかないことになるように思われます。


1999/9/19

MLに加入させていただいたのかどうか判りませんが、2つ質問させて下さい。いず れも漠然とした質問となりますがご教示下されば幸いです。

1)現在、国立大学に独立法人化への動きが認められます。東大と北大でも法人化 に向けてのワーキンググループが発足したとの新聞報道を見ました。国立大学の法人化が実施されれば、我々私学への余波は甚大だと思いますし、獣医大学の改革へも影響すると思います。この獣医大学改革のための組織とこの法人化ワーキンググ ループは、密接に情報交換されておりますか?

2)このHPに入るには東京大学のHPに入らないとならないのですが、そこで東京大 学獣医学部の教員組織が大講座となっておりました。これは、従来の小講座とどの ような関係にありますか?たとえばスタッフ、予算配分、スペースなどです。教育 改革には、組織改革も避けて通れないと思われますので、ご教示下されば参考にな ります。  (酪農学園大・助教授Y)

 

1999/9/10の酪農学園大・助教授Yさんの質問1)に対して

独立行政法人化の問題はまだ不確定、流動的です。その動きの詳細はhttp://www.asahi-net.or.jp/~bh5t-ssk/nettop.html をご覧ください。全国獣医学関係大学代表者協議会としては、法人化の方向を注意深 く見守っているところであり、この動きに直接関与してはいません。

上記のホームページは独立行政法人化反対のためのホームページですが、多くの情報が提供されています。 (1999/9/14:東大 唐木英明)

 

1999/9/10の酪農学園大・助教授Yさんの質問2)に対して

 大講座制は大学院部局化と表裏一体で行なわれた制度改革です.東京大学では従来 は農学部の獣医学科が獣医学の学部教育を担当しておりましたが,現在は東京大学大 学院農学生命科学研究科が獣医学専修(学生から見た従来の学科に相当するユニット )を担当しています.つまり,かつては学部の教官が教授会を組織し学部の教育に当 たるとともに,研究科所属の大学院生を教育していましたが,現在はその関係がちょ うど逆になり,大学院の教官が教授会を組織し大学院の学生を教育するとともに,専 修所属の学部学生を教育していることになります.これが「大学院部局化」といって いるものの大筋です.  
  講座の設置は文部省での承認事項です.したがって従来は小講座が設置段階で承認 を受けており,その改変は概算要求事項ということになりますが,現在は大講座がそ のような枠組みの中にあります.大講座は,小講座がいくつか集まったように見えま すが,この場合は,あくまでも大講座が単位ですから,「小講座のように見えるもの 」の改廃は,学内措置で可能になります.例えば,1つの小講座の教授がやめますと ,一般にその「後任人事」が行なわれてきましたが,大講座の場合は,大講座の中で ,その学問分野を存続させることの可否を問うことも可能になります.現在東京大学 は従来通り「後任人事」のかたちで人事を行っていますが,大講座制度が定着してき ますと,学問分野を存続させることが妥当と認められた場合に限って,「後任人事」 が行なわれるようになろうかと思いますし,1つの学問分野に必ずしも教授,助教授 ,助手の3点セットが張り付いている必要もないことになります.また,学内で承認 が得られれば,どのような名称の学問分野を作ってもいいことになります.
 獣医学の教育は,医学,歯学などと同様職業教育の範疇にあり,一定程度大学間の 教育の整合性が求められておりますし,後継者養成の観点から,助手と教授の関係が 全く無関係になることには問題があると思います.しかし,大講座制の趣旨は,学問 の進歩,社会の要請などに応じて大学の研究教育体制を修正していきやすくすること にありますから,大講座制を導入した場合は,この制度の利点を生かしつつ,前記の 獣医学教育の特殊性を守っていく知恵が必要かと思います.
 ここまでの説明で,大講座がアメリカの大学のデパートメントと類似の制度である ことが分かっていただけたかと思います.大学基準協会の獣医学の基準は,このよう な背景を取り入れて策定されていますので,大講座制に移行しようとする場合には( 現在,どこの大学からもこのような要求を文部省に出すことは可能と理解しておりま す),参考になるかと思います.
 一部の国立大学は,いわゆる大学院部局化されましたが,この際,定員,施設等に は一切手当てせずに制度化が行なわれました.したがって,ご質問の「スタッフ、予 算配分、スペースなど」は,従来のものを再配置しただけ(名前を変えただけ)とい う状況にあります.しかしこれは,未来永劫そのままでよいという趣旨ではなく,大 講座の枠組みから新たな要求を出してもらって,改めてそれに対応していこうという 趣旨かと理解しています.したがって,今後は停滞している学問分野の要求は出しに くくなりますが,獣医学のようにこれから発展が望まれている分野,国際的に見て格 差のある分野では,むしろ大講座制の方が要求をアッピールしやすい状況になろうか と思います.
 現在我が国では社会全体が「競争社会」への脱皮を図っているわけですから,大学 間,学問分野間の競争が強化されるのは避けられないことかと思います.そのような 観点から言えば,獣医学の分野では,大講座制の導入はむしろ時宜にあった方向性で あると思います.(1999/9/19: 東大 高橋迪雄)


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