動物の薬 一般知識 Q and A

動物は病気のつらさを言葉で伝えることもできず、
  また治療をしていてもそれを意識し協力してくれるわけでもありません。
そんな意味で動物の病気の診療は小児科のそれと似ています。
飼い主が十分な知識をもとに治療に臨むことが大切です。
病気の治療の中心は薬による内科的な治療であり、
  そのとき薬についての知識は必ず役立つはずです。

Qをクッリクすると答えにジャンプします。

薬はどのようにして病気を治すのですか?    薬の箱をみると難しい薬の名前が書いてあってよくわからないのですが......。
薬には飲み薬や注射薬などがありますがどう違うのですか?   獣医病院で薬の説明を受けましたがもっと詳しく調べたいと思います。
どのようにしたらよいでしょうか?
家庭では飲み薬として使うことが多いと思いますが、つい飲ませるのを忘れてしまいます。
注意すべきことは何ですか?
  薬局で動物用の薬をみたことがあります。何か注意点があれば教えてください。
病気を薬で治すことは理解できるのですが薬の副作用が気になります。   薬を飲ませるときの注意点を教えてください。
最近抗ガン剤などの副作用が問題となっていますが犬でも使われますか?   動物病院の治療費が高いと思うことがありますが、特に薬代が。
薬物アレルギーや産まれてくる仔犬に影響があることも心配ですが.....。      
Q1 薬はどのようにして病気を治すのですか? 
A1

 一言で説明するのはとても難しいのですが、こういったことを調べる学問を「薬理学」といいます。それはともかくとして、はじめに薬がその作用の仕方から大きく2つに分けられることを理解してほしいと思います。

1つは動物の体、細胞に作用する薬です。これには、病気の動物の機能に欠けたところがありこれを補う種類の薬、逆に過剰となった反応を抑える種類の薬などがあります。動物の体の細胞自身に作用する薬は、その多くがただ単に症状を軽減することを主な目的としています。つまり、とりあえず症状を軽くし、その後の自然の治癒力を待つということを原則にしています。これは「対症療法」といわれています。 

もう1つは、感染症に用いられる薬で、原因となる病原体、例えば細菌、ウイルス、寄生虫などを殺すことを目的とする薬です。抗生物質や駆虫薬などがこれにあたります。抗ガン剤は、動物のガン化した細胞を殺す薬ですが、正常な細胞に効いては欲しくない薬ですので、後者の分類といってもよいと思います。

対症療法に対して、病原体を直接殺そうとする治療は「原因療法」といわれています。原因療法に用いられる薬は、動物自身の細胞には無作用あるいは毒性が低いこと、すなわち、病原体に対する高い「選択性」が求められます。 

Q2 薬には飲み薬や注射薬などがありますがどう違うのですか?
A2

薬には、注射剤、液剤、粉末や錠剤、軟膏やクリーム、吸入薬など様々な形がありこれを「剤形」といいます。同じ薬でも、投与方法を選択できるようにするために異なる剤形で作られていることもあります。一部の外用薬を除き多くの薬は吸収されて血液中に入り全身に分布することを期待して投与されますが、例えば経口薬と注射薬を比較すると以下のような特徴があります。

経口薬は錠剤、液剤、散剤などの剤型で使われ、口から強制的にあるいは餌に混ぜて投与します。経口投与のこつを図1に示しましたので参考にしてください。経口投与された薬は主として小腸で吸収されます。経口投与は投与が容易で、比較的長時間作用すること、投与直後に急激に血液中の濃度が上がらず急性の副作用がみられないなどの利点があります。薬によっては消化管内で分解されたり、吸収できないものもあり、全ての薬が経口薬として利用できるわけではありません。

注射による投与は分解を受けずに速やかに吸収されるので、効果が確実で緊急の治療に適した投与法です。静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射などがあります。作用が急速に発現するので注射直後の経過を観察しなくてはならないこと、また消毒などの処理が必要で、病院内でのみ使われます。ただし、慢性疾患で長期にわたり投与しなくてはならず、しかも経口剤を選択できない場合は、患者に注射法を習得してもらって、家庭で行うこともあります。例えば最近の犬に多くみられる糖尿病のインスリン注射がよい例です。

外用薬には皮膚に塗る軟膏やクリーム剤、点眼薬、点鼻薬、点耳薬、さらに直腸に挿入する座薬などがあります。ただし、人と違って犬では、皮膚に使う軟膏を直ぐに舐めたりふき取ってしまうので適切な投与法でない場合が多いようです。

Q3 家庭では飲み薬として使うことが多いと思いますが、つい飲ませるのを忘れてしまいます。
注意すべきことは何ですか?
A3

薬がどのように吸収され、体の中で分布するかを知るとが大切です。薬が吸収されて血液中に分布しても、ある一定以上の濃度に到達出来ないと作用を現すことは出来ません。この濃度の範囲を「無作用域」といい、その境目を「域値」といいます。域値を超えて期待する効果を発現する濃度が「治療域」です。これを超える濃度になると期待しない有害作用、つまり副作用が生じてきます。これは「毒性域」といわれます。

薬による治療の際には、薬の血液中の濃度が常に治療域のなかに入っていることが望ましいわけです。したがって、薬を処方された場合、決められた指示に従って服用することはとても大切なことが分かります。飲み忘れ、飲ませ忘れは治療の中断を意味します。仮に忘れた後でも忘れた分を一度に服用したりしてはいけません。薬によっては急激に血液中の濃度が増加し、中毒域になってしまうことがあるからです。

Q4 病気を薬で治すことは理解できるのですが薬の副作用が気になります。
A4

治療していく上で期待されない作用を有害作用あるいは副作用といいます。薬を使う際に最も気になるのが副作用ですが、薬は動物の体にとってはその機能を無理矢理変えようとする「異物」です。いかに安全な薬といわれるものであっても、使用法や使用量を誤れば副作用が出てくることを知っておく必要があります。

ただ、いたずらに副作用を恐れるあまり薬を使うことのを拒否してしまう必要はありません。薬を使って病気をなおすことのプラス面と、副作用によってもたらされるマイナス面のバランスを正確な知識をもとに判断すれば良いのです。薬の副作用が気になる場合は、獣医師の十分な説明を求めよく納得して使用することが大切です。これをインフォームドコンセント」といいます。
`
副作用と一口にいっても、その内容は様々です。例えば眠気が出るとか、喉が乾くといった不快な症状で、薬の服用を止めれば消えてしまうものから、ある種の臓器、例えば体に有害な物質を無毒化し体外に排泄する機能を持つ肝臓や腎臓、赤血球や白血球などをつくる造血器を障害してしまうといった重篤なものまで様々です。後者の場合、長期にわたって薬を投与した場合にみられる副作用です。

Q5 最近抗ガン剤などの副作用が問題となっていますが犬でも使われますか?
A5

犬が長生きするようになり、ガンが増えています。ガンの様な命にかかわる重大な病気の場合、副作用を承知で薬を使うこともあります。抗ガン剤はガン細胞だけを選択的に殺すことを目的に作られていますが、どうしても健全な、正常な細胞にも作用してしまいます。しかし、他に選択すべき治療手段がなく、副作用を考慮しても回復の効果が大きいと判断した場合は、あえてこれを使うこともあるわけです。ある種の犬のガンは薬物治療で根治できるといわれています。

Q6 薬物アレルギーや産まれてくる仔犬に影響があることも心配ですが.....。
A6

薬の副作用として特に注意を必要とするものに、薬物アレルギーがあります。例えば、ある種の抗生物質あるいはワクチンは大多数の動物に対しては安全に使用できますが、ごく一部の個体はこれらを排除すべき異物ととらえ、急激でしかも全身性の炎症反応が起きて時に死に至ります。このような症状を「ショック」といいます。ショックの症状としては、皮膚の発疹、呼吸困難、血圧低下、腸炎などがあります。この様な場合は、直ちに獣医師に報告し緊急の処置を行う必要があります。

もう一つの重大な副作用として「催奇形性」と「胎児毒性」があります。器官形成期といわれる妊娠後数日間の発生過程で遺伝子に影響を与える薬を投与すると、奇形が発生する危険があります。これを催奇形性といいます。さらに母体には無作用で胎児にだけ有害作用を示すものもあります。

薬を開発する段階で催奇形性は調べられていますが、これらはネズミを使った実験であって、臨床の個々のケースで本当に大丈夫かというと必ずしも十分とはいえないでしょう。妊娠の機会が予想されている場合、あるいは妊娠中の動物への薬の投与は慎重であるべきです。

Q7 薬の箱をみると難しい薬の名前が書いてあってよくわからないのですが......。
A7

薬の名前には一般名と製品名があります。製薬企業で薬を開発していく初期の段階で、「コード番号」がつけられます。研究がある程度進んだ段階、あるいは市場に出される段階で「一般名」がつけられます。また市場に出るときには、薬の箱などに印刷される「製品名」が付けられるのが一般的です。古くからある薬や、特許が切れ独占的に売ることが出来なくなった薬では同じ薬が複数のメーカーから発売されることがあり(ジェネリック医薬品といわれます)、メーカーごとに独自の製品名が付けられます。

たとえば、犬の駆虫薬としてよく使われるピペラジン(一般名)は、硫酸ピペラジン、ピペゲン、ニューパラダウン、アンカリス、クーペイン、カミン、ピペトンなどの製品名が、またアレルギー疾患に使われる抗ヒスタミン薬であるマレイン酸クロルフェニラミン(一般名)は、ポララミン、シーベナ、ポラセミン、ヒスタールなどの製品名が付けられています。獣医師から薬の説明を受け、後で調べてみたいときは、その名前が一般名なのか製品名なのかを聞いておくと便利です。

Q8 獣医病院で薬の説明を受けましたがもっと詳しく調べたいと思います。
どのようにしたらよいでしょうか?
A8

犬の病気の治療に際しては獣医用の医薬品が使われますが、これらを調べるための一般向けの書籍は出版されていません。ただし、獣医病院での診療では動物用の医薬品とともに非常に多くの人用の医薬品も使われています。最近、病院で処方される薬(人用)のリストを載せた本が出回っていますが、これらは薬の詳しい内容を調べるときに大いに参考になります。

Q9 薬局で動物用の薬をみたことがあります。何か注意点があれば教えてください。
A9

薬局でもいくつかの動物用の薬が売られ一般の人が自由に使うことができます。例えば、駆虫薬、下痢止め、皮膚疾患治療薬、ノミ取りの薬、目薬などで、一部の薬が獣医師の指示を必要としない家庭薬として売られています。副作用などの点であまり問題とならないことから薬局で一般向けに売られることが認められている薬です。ただし。それだけに効き目についても十分な期待は出来ないようです。家庭薬といえども使い方を誤ると副作用や事故につながりますので、使用時には注意書きをよく読んで使ってください。

一方、薬局で売られている人体用の薬を素人療法で犬に与えるのは好ましくありません。薬は動物の種類によって、吸収や分解の速さ、作用の強さ、副作用の出方が異なっているからです。

Q10 薬を飲ませるときの注意点を教えてください。
A10

1. まずは素早く手際よくやること。経験がない場合、整腸剤(ビオフェルミンなど)のような無害な錠剤で練習するのもよいでしょう。

2. 服用する時刻を守ること。適切な薬の有効濃度を保つためにも、決められた服用のスケジュールを守ってください。

3. それでも飲み忘れをすることがあると思います。このとき、飲み忘れた分を一度に飲まないでください。特に、ジギタリス製剤のような強心薬、糖尿病に使う血糖降下薬は要注意です。

4. 症状がよくなったからといって勝手にやめないで下さい。特に心不全でよく使われる血圧降下薬、アレルギーなどで使われる副腎皮質ステロイド薬に気をつけてください。リバウンドといって治療を始める前よりもかえって悪化することがあるからです。

Q11 動物病院の治療費が高いと思うことがありますが、特に薬代が。
A11

動物医療の質は人のそれとまったく変わるところがありません。どこの動物病院も可能な限り最新の機材を導入し、また外部機関に様々な臨床検査を依頼して万全な診断ができるように努力しています。

また薬についても一般の薬局で手に入る薬とちがって、医療用の薬は非常に高価です。これはなにも製薬会社がもうけているというのではなく、医薬品開発には多額の開発費がかかるためです。

日本の人の医療の保険制度も、動物の医療費が高いと感じさせる原因の1つになっているのかもしれません。つまり、私たちが病院で支払う人の医療費は保険医療の自己負担分であって、いつも病院に費用の全体を支払っているわけではないのです。その点、動物病院ではすべての費用を一括して支払うことになるので、「獣医さんは高い」とういことになってしまうというわけです。

アメリカの保険制度では(任意ですが)、病院にはいったん医療費の全額を支払います。その上で、あらためて保険機関に申請して定められた割合(契約によって異なる)の額を戻してもらう手続きをします。例えば子供がのどが痛いといって熱を出し病院へ行くと、一般的な問診をした上で細菌検査をし、抗生物質を処方してもらって60ドル位、約7000円かかります。 日本でも、1回の診療に実際はこの程度の医療費を負担しているはずです。

日本もこのアメリカの制度を見習うべきとおもいます。国民一人一人にとっては手間がかかり面倒ではありますが、実際にかかった医療費を肌身で感じることのないかぎり、総医療費の抑制などできるはずが有りません。 (一言余計でした)

インデックスページに戻る