分離不安症の薬: 動物の問題行動の治療

人の精神神経疾患に使う抗不安薬薬は、動物の医療では検査や麻酔補助、あるいは簡単な外科的処置の目的で用いられてきました。しかし、最近これらの中のいくつかの薬が動物の問題行動の矯正に有効であることが次第に分かってきました。ヨーロッパやアメリカでその試みが始まり、日本でも注目されています。

■1 犬の問題行動

犬の問題行動の中で最も一般的で、また厄介なのが「吼え癖」だと思います。特に、住宅環境の悪い日本の都市部では深刻な問題です。犬が吼えるのは縄張りを守る、あるいは誇示するためで、他者が侵入してくるのではないかとの不安に根ざした行動ともいえます。飼育場所を屋外から屋内に移し、他人や他の犬との接触を断てば解決しますが、なかなかそうはいきません。これを矯正するしつけをするのは有効ですが、これとて限界があります。

次に問題なのが、犬の攻撃性です。犬の攻撃性は大部分は防衛本能から来るもので、自分が攻撃されるのではないかとの不安に根ざした行動です。ただし、犬が攻撃行動を取る場合は、あくまで相手に対して自分が優位であるとの認識の上に立っています。犬は人間と自分を含め一つの群と考えており、人の中に強力なリーダーがいないと判断すると、自分がリーダーとなって優位性を誇示することもあります。

■2 動物の問題行動を薬で治療する

1.犬の攻撃行動
中枢神経系におけるノルアドレナリンやセロトニンなどの神経終末への再取り込みを抑制する、クロミプラミン、アミトリプチリンなどの三環系の抗不安薬といわれる薬が有効とされてます。最近では、セロトニンに選択的な再取り込み抑制薬で(英語の頭文字をとってSSRIという)、人のうつ状態の改善に頻繁に用いられているフルオキセチンや新たに開発されたパロキセチンも犬の攻撃行動を抑制する薬として使われています。副作用がほとんどなく、不安を基調とする心の病に極めて有効な薬として注目されています。

2.犬の分離不安
犬は、飼い主から引き離されることにより不安を感じ(分離不安といいます)、留守中に家具を傷つけるなどの破壊行動をする、ほえる、また不適切な排泄をしたりします。この様な問題行動を抑制するための薬としても、クロミプラミンやアミトリプチリンが用いられています。クロミプラミンは、人では多くのタイプの不安症、神経症の治療に用いられているものですが(アナフラニール)、犬の分離不安の治療薬として、我が国でも認可された薬です。

3.猫の行動異常
猫にも、犬と同様に攻撃行動が見られます。これには、ジアゼパムなどの種々のベンゾジアゼピン系薬が用いられます。さらに、猫が定められた場所以外に放尿するスプレー行動には不安が関係するといわれ、ジアゼパム、アミトリプチリン、パロキセチンが有効とされています。

4.薬と行動療法の併用が良い結果をもたらします
動物の行動異常の治療も、人と同じレベルで考えようというのが、薬を使った新しい治療法です。これと行動療法(しつけ)と組み合わせることでさらに効果は上がります。心を薬で治療するということに疑問を持つ人もいると思いますが、薬で心をコントロールするのではなく、薬の力を少し借りて、自らの治癒力で正常な状態に近づけていく治療であると認識すべきだと考えます。
 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抗菌薬   (抗生物質)

動物に寄生する細菌には、例えば大腸菌の様に動物の消化管に住みついて食物の消化を助けるような有用な細菌と、病気を起こ病原細菌があります。細菌感染が原因となる犬の病気は、呼吸器、膀胱や尿道、消化器などの感染症や外傷による化膿など様々です。今回は、病原細菌に作用して感染症による病気を治す薬、「抗生物質」についてのお話をします。


薬と病気の基礎知識

■1 どの様な病気に用いられるのでしょうか?

通常の診療では、膀胱炎や尿道炎などの尿路感染症、中毒性の下痢、2次感染の心配がある重度の外傷、皮膚炎、肺炎や気管支炎、手術後の感染予防など多くの疾患に広く用いられています。

イヌの代表的な細菌性の「伝染病」には以下のものがあり、診断がつけば躊躇することなく抗生物質が投与されます。ただし最近では、飼育環境が良くなったせいでしょうか、これらの疾患はほとんど見られなくなりました。

□ 犬レプトスピラ症: 尿を介して感染する、腎炎を主徴とする感染症です。
□ 犬ブルセラ症:   雌イヌが感染すると死産、早産、不妊などを起こします。
               雄の場合は、異常精子が出現し不妊となります。

抗生物質の種類と使い方

ベータラクタム系薬
セフェム系注射薬
 ●セファロチン
 ●セファゾリン
 ●セフスロジン
 ●セフメタゾール など
セフェム系経口薬
 ●セファレキシン
 ●セファクロル
 ●セフィキシム  など
ペニシリン系
 ●ベンジルペニシリン
 ●アンピシリン
 ●アモキシリン など
その他
 ●ラタモキセフ
 ●アズトレオナム
 ●ホスホマイシン など

アミノ配糖体
 ●ストレプトマイシン
 ●ジヒドロストレプトマイシン
 ●カナマイシン
 ●ゲンタマイシン  他

合成抗菌薬
サルファ剤とトリメトプリル
 ●スルフジメトキシン
 ●スルファモノメトキシン
 ●スルファジアジン
 ●スルファメトキサゾール
 ●トリメトプリム  など

キノロン系
 ●ナリジクス酸
 ●ノルフロキサシン
 ●オフロキサシン
 ●エンフロキサシン
 ●シプロフロキサシン など

その他
テトラサイクリン系
 ●オキシテトラサイクリン
 ●クロルテトラサイクリン
 ●ドキシサイクリン
 ●ミノサイクリン  など
マクロライド系
 ●エリスロマイシン
 ●ジョサマイシン
 ●ミデカマイシン  など
クロラムフェニコール系
 ●クロラムフェニコール
 ●チアンフェコール  など

人体薬の分野では、抗生物質は非常に大きな市場を形成しており、多数の製薬企業から多くの種類の抗生物質が売られています。これらは動物薬としても使われています。

βラクタム系薬は、細菌の細胞壁の合成を選択的に抑えるので、高い安全性を示し、また種類によっては幅広い抗菌スペクトルを示します。アンピシリンをはじめとするβラクタム系薬は、現在最も多く使用されている抗生物質です。有名なペニシリンはこのβラクタム系薬の1つです。

サルファ剤は尿路感染症によく使われます。また、原虫という寄生虫の一種にも効果があり、下痢症など犬の病気によく使われる薬です。実際はトリメトプリムと一緒(合剤)に使われます。

キノロン系薬は新しいタイプのもので、優れた抗菌スペクトルと抗菌力を持っており、膀胱炎などの尿路感染症をはじめ多くの感染症に使われます。ただし、出来れば最後の砦として取っておきたい薬です(用語解説:MRSAの項を参照)。

アミノ配糖体は、緑膿菌を含めたグラム陰性菌やブドウ球菌にも強い殺菌作用を示す強力な抗生物質です。その分、副作用が強いという欠点があります。

テトラサイクリン系薬は毒性の少ない抗生物質として知られています。他の薬剤が効きにくいマイコプラズマ、リッケチア、クラミジアなどの細菌にも効果のある重要な薬です。

マクロライド系薬は肺炎球菌やマイコプラズマなどに抗菌作用を示すことから、急性の呼吸器感染症などに用いられます。

その他、クロラムフェニコール、リンコマイシン、ホスホマイシンなど、特徴ある様々な抗生物質が知られています。

■ 抗生物質が効かなくなる耐性菌が問題となっています

やっかいなのは、抗生物質が効かなくなるという耐性菌の感染と出現です。細菌は環境に対する順応性が高く、抗生物質を長く使用していると変異してその抗生物質を壊す酵素を作ったり、あるいは抗生物質によって機能を止められた酵素に変わる別の酵素を作り出して対抗しようとします。緑膿菌は一般の抗生物質が効きにくい細菌です。この菌のと病原性は低いといわれてますが、強い抗生物質を長く投与すると、もともといた病原菌と入れ替わって増殖し、悪さをするようになることがあります。(MRSAについてはカラムを参照して下さい。)

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目 薬

目は視覚という動物の体のなかでも最も繊細で鋭敏な機能を担っています。しかも粘膜が直接外界に露出しているために損傷や感染を受けやすく、最悪の場合失明にもつながりかねません。したがって臨床上ささいなことでも軽視できない器官です。目薬は粘膜に直接適用されるので、他の薬とは違った厳格な基準で作られており、取り扱いにも注意が必要です。

抗菌薬
●クロラムフェニコール
●ペニシリン
●硫酸ミクロノマイシン
●エリスロマイシン
●コリスチン
●スルフィソキサゾール(サルファ剤)
●オフロキサシンなど
犬にみられる多くの眼科疾患は細菌による感染です。どのような種類の細菌に感染しているかを同定し、これにあった抗生物質を使うのが理想ですが、検査に手間取るので実際は多種類の細菌に対して効果のある広域スペクトルの抗生物質を使うか、数種類の抗生物質を配合した合剤を使うのが一般的です。長期にわたる使用は耐性菌の出現をまねくので抗菌薬の感受性試験をするなど注意して使います。また抗生物質は時にアレルギー反応を起こすことがあるので注意します。

抗ウイルス薬
●アシクロビル
●イドクスウリジンなど
 ヘルペスウイルスの感染による角膜炎に使われます。

抗真菌薬
●ピマシリン
角膜真菌症に使われます。

抗ヒスタミン薬
●アントラジン
●ジフェンヒドラミン など
炎症部位の肥満細胞から遊離されるヒスタミンの作用を阻止する薬剤です。アレルギー性結膜炎による痒みや発赤を軽減します。

抗アレルギー薬
●クロモグリク酸ナトリウム
●ケトチフェン
●トラニラスト
●ペミロラスト
●グリチルリチン酸ジカリウム
●塩化リゾチーム など
肥満細胞や好塩基球などからのアレルギー反応に関与するケミカルメディエーターの遊離を抑え、抗アレルギー作用を発揮します。また抗ヒスタミン作用や抗ロイコトリエン作用も有しています。効果はあまり強くありませんが、アレルギー性の眼疾患では第一選択薬です。

副腎皮質ステロイド薬
●デキサメタゾン
●フルオメトロンなど
アレルギーを含めた炎症性の疾患(眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎など)に極めて有効な薬です。ただし、長期に使用すると耐性やリバウンドなどの副作用があり、使用には十分な注意が必要です。特に細菌感染があるとこれを悪化させてしまうので、同時に抗生物質や抗菌剤を使用する必要があります。また傷の治りも遅くなるので角膜潰瘍などがある場合には使いません。 白内障や緑内障がある場合はこれを悪化させるので使用できません 。

非ステロイド性抗炎症薬
●インドメサシン
●アズレンスルホン酸ナトリウム
●ジクロフェナクナトリウムなど
炎症に関わるプロスタグランジン類が作られるのを阻止します。眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎などの炎症性の病気のほか、手術の後の炎症の治療に使います。

収斂薬
●硫酸亜鉛(ZnSO4)
結膜粘膜の表層の組織蛋白質と結合して皮膜を作り、病的組織を刺激して組織の新生を促します。慢性の結膜炎に有効です。

目薬は点眼薬、内服薬、注射薬として使われます 目薬には点眼液(水溶液や懸濁液)と眼軟膏があります。点眼液は滅菌処理が容易で使用法も簡便ですが、涙ですぐに希釈されたり、鼻涙系を通って排泄されてしまうので目との接触時間が短く、一日に何度もささなくてはならないという欠点があります。眼軟膏はワセリン、ラノリン、ピーナッツ油などの軟膏基材に薬を溶かし込んだもので、目との接触時間が長いという長所がありますが、角膜上に皮膜をつくり視覚を妨害し不快感を与えるという欠点があります。そのため、例えばステロイド剤では、昼間には点眼剤を、夜間には眼軟膏をという具合に使い分けることも行われています。眼科疾患に用いられる薬は、外用薬とは限りません。目の表面に適用しても吸収されず幹部に到達できない薬もあるからです。この様な場合は、結膜下注射や眼球内注射で患部に直接作用させます。さらに飲み薬として全身に適用することもあります。

白内障に使われる薬
●ピレノキシン
●還元型グルタチオン
●チオプロニン など

レンズに相当する水晶体は透明な蛋白質で出来ていますが、白内障はトリプトファンというアミノ酸の代謝障害の結果生じるキノン体によって蛋白質が変成し不透明なものに変えてしまうために起こるといわれています。この蛋白質変成を抑制することにより白内障の進行を遅らせるものとしてピレノキシン、さらに水晶体蛋白質のSH基を保護し白濁を防止する還元型グルタチオンなどが点眼剤として使われます。しかしこれらの薬剤の効果は十分でなく進行を遅らせる程度と考えた方がよいでしょう。

緑内障に使われる薬
●ピロカルピン(点眼)
●カルテオロール(点眼)
●チモロール(点眼)
●エピネフリン(点眼)
●イソプロピルウノプロストン(点眼)
●アセタゾラミド(経口)
●メタゾラミド(経口)  など
緑内障は眼房水が過剰に作られる、あるいはその排出機能が悪くなり、眼圧が高まるため視神経その他の眼組織が侵され視力がおちたり視野が狭くなったりする疾患です。急性と慢性があります。副交感神経を抑制するピロカルピンは眼房水の流失を促すので眼圧を低下させる効果があり、点眼薬として使用されます。その他、βブロッカーやエピネフリン、プロスタグランジン製剤などの薬が点眼薬として使われます。内科的治療では持続的な効果が得られず、外科的方法が選択される場合もあります。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皮膚病の薬

1.再発性膿皮症 

細菌感染をともなう化膿性の皮膚病です。後で述べるノミアレルギー性皮膚炎に次いで多くみられる犬の皮膚病気です。一度直ってもまたすぐに再発することの多いやっかいな病気です。単独で起こると言うより、アレルギー性皮膚炎と一緒にみられることが多いようです。背中(腰のあたり)、後ろ足の内側などに出ることが多く、黄色い膿を伴う炎症がみられます。

●治療薬
抗生物質(抗菌薬)を注射や飲み薬、あるいは塗り薬として使います。抗生物質にはたくさんの種類がありますが、化膿の原因となるブドウ球菌に効果のある薬が使われます。初めて発症した場合に使われる薬として、クリンダマイシン、エリスリマイシン、リンコマイシンなどがあり、慢性あるいは難治性となった場合はサルファ剤とオルメロプリムまたはトリメトプリムの合剤(強化サルファ剤といいます)、クロラムフェニコ−ル、アモキシリンとクラブラン酸の合剤、セファレキシンなどが使われます。同じ抗生物質を長く使うと耐性が生じる可能性があり、注意して使います。

2.皮膚糸状菌症 

皮膚のケラチンを好む真菌(カビの一種)による感染症のことで、脱毛をともなう発疹(皮疹)を特徴とします。診断を確定するには皮膚のサンプルをとって培養試験をします。真菌は正常な動物にも常在菌として存在していること、さらに皮膚糸状菌症には定型的な症状がなく、他の皮膚病との区別が難しいなど、獣医師を悩ませる皮膚病です。

●治療薬
局所療法として、過酸化ベンゾイル、クロルヘキシジン、ポピドンヨードなどのリンスや薬浴剤、ミコナゾール、クロトリマゾール、ケトコナゾ−ルなどの塗り薬などがあります。全身療法としては、グリセオフルビン、ケトコナゾール、イコナゾールなどの経口投与があります。

3. 皮膚のマラセチア 
 
マラセチアは菌糸を作らない真菌で、主に外耳炎の原因となることで知られている微生物の1つです。耳だけでなく口の周り、足の指の間、肛門の周囲など、全身の皮膚にも発症します。マラセチアもまた正常な動物に常在する微生物です。少量のマラセチア菌がいても普通の状態では発症することはありませんが、何かの理由でバランスが崩れると皮膚炎となって発症します。フケが出る、皮膚が赤みをおびる、痒みなどが主な症状です。夏や湿度の高い時期に発症することが多く、アレルギー性の皮膚炎の発症時期と同じです。

●治療薬
皮膚糸状菌症と同様、飲み薬あるいは塗り薬として抗真菌薬(前項を参照)を使います。

4. ノミアレルギー性皮膚炎 

最近、アレルギー性皮膚炎が犬の間でも多発していますが、この中で最も多いのがノミによるものです。また、動物病院で扱う皮膚科疾患の中で約半数をしめるのが、このノミアレルギー性皮膚炎と言われています。後で述べるアトピー性皮膚炎と同時にみられることが多く、ノミが寄生しているとアトピーを悪化させることにもなります。つまり、アトピーがなければノミが寄生していてもこれとうまく共存し、皮膚炎として症状に至らないことが多いのです。
 
ノミアレルギー性皮膚炎は激しい痒みが特徴で、背中(腰のあたり)やお腹、股の内側などに皮膚炎が発症します。アトピーがある場合には外耳炎が併発していることもまれではありません。

●治療薬
ノミの駆除が基本です。最近では1ヶ月に1度の服用で、しかも副作用の全くないノミ駆除薬(ルフェヌロン:プログラム錠)もあり、大変治療しやすくなりました。

5.ニキビダニ症
 
犬ニキビダニは、授乳の時に母犬から移され、その後は同じ犬のなかで生涯を全うし、通常は他の犬へ伝染することはありません。何かの原因でこの様な共生関係が崩れると、犬ニキビダニが、毛包、脂腺、アポクリン腺に多量に寄生し、病気として発症します。初めは顔や足に脱毛症として発症することが多いようです。ひどくなると全身性へと移行しますが、重症の場合は命に関わることもあり、侮ることは出来ません。ニキビダニ症は1歳未満の幼犬によく見れます。
 
●治療薬
体の一部にしかみられないニキビダニ症は、大多数は特に治療せずとも治癒してしまいます。早めに飼い主が気づいて、病院に来院するような中程度の症状の場合には、アミトラズやロテノンなどの殺虫剤を軟膏あるいは塗り薬として局所に塗布します。

全身性に広がった場合は難治性で、治療も大変です。アミトラズによる薬浴が治療の基本です。最近では、フィラリア予防剤として使われるイベルメクチンやミルベマイシンの注射による大量投与が行われ、その有効性が明らかとなっています。

6.疥癬 (かいせん) 

ヒゼンダニの寄生による激しい痒みを伴う皮膚炎で、ノミの寄生と同様にアレルギーが関与しています。耳疥癬の原因となるミミダニとは異なる寄生虫です。耳介、手足、脇の下などが好発部位です。とにかく痒みが激しいというのが特徴で、そのために異常行動や不眠を起こし、犬に大きな苦痛を与えます。

●治療薬
治療法はニキビダニ症に準じます。イベルメクチンの注射投与が副作用も少なく最も効果的です。

7.アトピー性皮膚炎 

様々な環境アレルゲン(塵やダニ、花粉、植物など)に反応して、IgEと呼ばれる抗体が体内で作られて発症するもので、遺伝的な素因が関係すると言われています。最近、人ばかりでなく犬にもこのアトピー性皮膚炎が急増し、問題となっています。IgEが作られると肥満細胞という細胞からヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどの炎症を誘発する物質が大量に放出され、皮膚炎を起こします。

多くの犬では、3ヶ月齢から3歳位までの間に発症し、鼻や目の周囲、耳、耳の中(外耳道)、足の先端、脇の下、股の内側、お腹などが好発部位で、強い痒みを伴います。しばしば濃皮症(前述)が併発します。アトピーの犬は皮膚以外の部分にもアレルギー症状が現れることが多く、よくくしゃみをしたり、結膜炎がみられたりするのも特徴です。

●治療薬
痒みを軽減する薬として、抗ヒスタミン薬として塩酸ジフェンヒドラミンやマレイン酸クロルフェニラミンなどが使われます。副腎皮質ステロイドホルモンは、免疫抑制にもとづく抗炎症作用があり、アトピー性皮膚炎の特効薬とも言うべきものです。デキサメタゾン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなどがあり、作用の強さや作用する時間が異なり、症状によって使い分けされます。これらの薬剤は飲み薬あるいは外用薬として使われます。痒みがひどく掻きむしった例では膿皮症が発症している場合があり、この様な場合には抗生物質が使われます。

アトピー性皮膚炎は一般に長期にわたる治療が必要となります。しかし、副腎皮質ステロイドホルモンを長期にわたり使用し続けると、様々な副作用が出てきます。間日投与法など副作用を出来るだけ少なくする投与法が工夫されており、獣医師の十分な管理の元での投薬が必要です。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

副腎皮質ステロイド

 

医薬品として使われる副腎皮質ステロイドホルモンは、様々な犬の病気の治療に広く用いられます。特に炎症を伴う疾患には劇的に作用し、いわば魔法の薬ともいえる薬で、現代の医療には無くてはならない薬といえます。人の医療でも多用される薬であると同時に、副作用についても問題となっているのも事実で、一般の方の関心も高い薬と思います。

■1 副腎皮質ステロイドホルモンの作用

生体内での副腎皮質ステロイドホルモンの作用はとても複雑で、以下のような多岐にわたる作用があります。
@肝臓でブドウ糖が作られるのを促進し血糖値を上げます。また、タンパク質や脂肪の分解も促進し、エネルギーの供給を高める作用があります。これによって、動物は様々なストレスに対する抵抗性が得ることが出来ます。
A骨へのカルシウムの沈着を抑え、骨が作られるのを抑制します(骨をもろくする)。
B抗原抗体反応によるアレルギー反応を抑制します。
C生体防御の働きをする免疫細胞に働いてその機能を抑制します。
 副腎皮質ステロイドを薬として使う場合、主にBとCの抗炎症作用を期待して用いられます。

■2 副腎皮質ステロイドの抗炎症作用と免疫抑制作用

副腎皮質ステロイドの抗炎症作用のメカニズムは、現在でも不明な点が多く、全てが明らかにされている訳ではありませんが、以下の3つのことが言われてきました。1)炎症に関係する血液細胞の炎症部位への侵入を抑制する作用、2)免疫機能を抑制する作用、3)炎症に誘発するプロスタグランジンやロイコトリエンが作られるのを抑える作用です。

最近の分子生物学の急速な進歩により、副腎皮質ステロイドのさらに詳しい細胞レベルでの作用が分かってきました。すなわち、副腎皮質ステロイドは細胞の中へ入って受容体と呼ばれる蛋白質と複合体を形成すること、この複合体は細胞の核内に移行すること、そして様々な種類の炎症細胞の働きを強めるインターロイキンと呼ばれる物質が作られるのを遺伝子レベルで抑えること、そしてこの様な働きが抗炎症作用や免疫抑制作用をもたらす重要なメカニズムであること、などが明らかとなってきたのです。

■3 副腎皮質ステロイドの副作用

さて、副腎皮質ステロイドには強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があり、この作用を期待して薬として投与するわけですが、注射や飲み薬として投与された場合、炎症部位以外の不要な部位にも薬が作用してしまいます。しかも、副腎皮質ステロイドには抗炎症作用や免疫抑制作用以外にも様々な作用があり、この作用が生理的な状態よりも過剰に現れることになります。この様な状態が長く続くとかえって体に害をもたらしてしまう、すなわち副作用となって現れることになります。

■4 耐性とリバウンド

副腎皮質ステロイドの作用は極めて強力で、ひとたび投与すると症状は劇的に改善されるのが一般的です。しかし副腎皮質ステロイドを使った場合、「耐性」と「リバウンド」とよばれる困った現象があり、これらは常に臨床家の頭を悩ます問題となります。

耐性は、最初はよく効いていた薬が、量を増さないと効かなくなる現象です。副腎皮質ステロイドの使用で特に問題となるのは、耐性の出た後に起こるリバウンドという現象です。リバウンドとは投薬を突然中止した後、治療を開始した時点よりも症状がかえって悪化してしまうことです。長い間副腎皮質ステロイドを使い続けると、副腎の機能が衰えて萎縮することにより起こります。

■7 副腎皮質ステロイドの副作用を軽くする工夫

したがって、副腎皮質ステロイドを使う場合、見通しもなくただ漫然と使い続けることは控えます。特に全身投与の場合は注意が必要となるのです。例えば、高用量を短期間に使い症状が改善されたところで直ちに投薬を中止する、やむを得ず長期に投与する場合他の手段を併用しながら次第に薬の量を減らしていく、あるいは、投与の間隔を次第に長くする(例えば、毎日投与から1日おきの投与)などの方法がとられます。現在では、臨床検査で血中コルチゾールを容易にモニターできるので、副腎抑制に伴うリバウンドを事前に予防することが出来るようになりました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抗がん剤

人と同じように、犬の寿命が年々延びるにしたがって、老化病ともいえる「がん」にかかるケースが増えてきました。がん治療の基本は外科的な切除にありますが、抗がん剤による治療を選択することも可能です。あるいは両者を併用することにより完全治癒も可能となってきました。

■1 抗がん剤の種類と特徴

アルキル化剤
 ●シクロフォスファミド
 ●ダカルバジン
 ●クロラムブチル など
代謝拮抗剤
 ●メトトレキサート
 ●シタラビン など
抗腫瘍性抗生物質
 ●アクチノマイシンD
 ●ブレオマイシン
 ●ドキソルビシン など
ビンカアルカロイド
 ●ビンクリスチン
 ●ビンブラスチン など
副腎皮質ホルモン
 ●プレドニゾロン、
 ●デキサメタゾン など

抗がん剤は、正常細胞には効かずに、腫瘍細胞だけに毒性作用を示す薬物です。がん細胞は非常に分裂の盛んな細胞です。この細胞分裂を阻止する薬剤として、以下のような多くの種類の薬が開発されています。

アルキル化剤
シクロフォスファミド、ダカルバジン、クロラムブチルなどがあり、DNAの複製を阻害します。シクロフォスファミドは獣医領域では最も一般的な薬剤であり、リンパ腫や白血病にも有効です。リンパ腫に対しては特に有効で完全治癒する症例もあります。

代謝拮抗剤
メトトレキサート、シタラビンなどがあり、核酸の合成を阻害します。リンパ腫の治療によく用いられています。

抗腫瘍性抗生物質
土壌中の細菌がつくる化合物で、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ドキソルビシンなどがあります。DNAと結合して複製を阻害します。人の医療では現在知られる最も有効な薬剤といわれますが、獣医領域での知見は少ないようです。

ビンカアルカロイド
植物から抽出される化合物で、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどがあります。獣医領域では、可移植性性器肉腫というがんに高い治療効果を示すことで有名です。

その他
乳がんや前立腺腫などの生殖器のがんの形成には性ホルモンが関与しており、性ホルモンの作用を阻害する薬剤が使われます。細胞毒性はなく、副作用として中性化がおこります。一方、造血器の腫瘍や肥満細胞腫には、プレドニゾロンやデキサメタゾンなどの副腎皮質ホルモンの大量投与が有効です。

これらの薬剤を、1)どのくらいの量を、2)どのくらいの間隔で、3)どの様な組み合わせで(多剤併用といいます)投与するかが重要で、極めて専門的な知識が要求されます。特に、抗がん剤の使用に際しては、副作用のでるぎりぎりの量を投与する必要があるとされ、厳重な管理のもとで治療が行われる必要があります。

■2 抗がん剤の副作用

抗がん剤というとだれしもが連想するのが強い副作用ですが、、、、

正常な体のなかで、消化管の内側の粘膜細胞と白血球や赤血球を作る造血細胞が常に分裂増殖を繰返しています。抗がん剤は盛んに分裂する細胞すべてに作用するので、これらの細胞にも作用してこれを破壊してしてしまいます。

消化管粘膜が障害を受けると、食欲が低下し、下痢・嘔吐が起こります。また、骨髄の造血細胞が傷害されると白血球や血小板が減少して免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなったり、出血しやすくなります。これらの副作用に対して、制吐剤、止しゃ剤(下痢止め)、粘膜保護剤、抗生物質、免疫賦活剤を投与する、あるいは輸液を行うなど、副作用を和らげる手段が講じられます。

一般に、犬は人と比べて抗がん剤療法によく耐えるといわれています。抗がん剤の投与をはじめる前に副作用を助長するような合併症、例えば感染症や他の慢性疾患がなければ、大部分の犬は薬剤を投与している間でも快適な生活が出来るといわれています。がん治療に抗がん剤を使う場合、プラス面と予想される副作用というマイナス面をよく理解して治療に臨むことが必要です。

がんと診断されたら獣医師とよく話し合うこと

抗がん剤の効果に限界があることは事実で、ある種のがんを除いて抗がん剤だけでがんを治癒することは不可能に近いことです。だからといって、副作用を恐れはじめからこの治療法を拒否してしまうとも合理的ではありません。白血病などのいくつかのがんは、多くの例で抗がん剤によって劇的に症状は回復し、かなりの延命効果が得られます。また他のがんであっても、適正な薬剤が選択されれば確実な効果が得られますし、あるケースでは非常によい治療効果が得られ、時には完全治癒が得られる場合もあります。

万一、動物病院で犬ががんと診断されたら、1)病気の詳しい状態、2)手術を含めどの様な治療法があるか、3)それらの治療効果の見込みと副作用の程度、などについて十分な話し合いをし、納得した上で以後の治療を継続していくことが必要でしょう。この時、抗がん剤についての知識、すなわちそのプラス面と副作用というマイナス面を良くよく理解しておくことは、とても大切なことなのです。また抗がん剤は価格も高く治療にかなりの費用がかかることも覚悟しなければなりません。この点についても獣医師と十分な話し合いが必用です。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



予防接種 ワクチン

動物は常に細菌やウイルスの感染に脅かされています。細菌は抗生物質や合成抗菌薬で殺すことができますが、ウイルス感染には現在のところ有効な治療薬はなく、ワクチンを接種し感染を予防すること以外に有効な対策はありあません。ここでは、ワクチンの原理、ワクチンを接種する時期、注意点などを解説します。

■1 ワクチンで予防できる犬の感染症

狂犬病
世界中に分布する人畜共通感染症で一度発病すると100%死亡する恐ろしい病気です。日本では1957年以降発生していませんが、狂犬病ウイルスが野生動物を宿主としているために海外ではいまなお発生が続いており、万全の防疫対策が必要との判断から予防接種が義務づけられています。感染した犬や動物に咬まれると、狂犬病ウイルスは末梢の神経を伝わって中枢神経へと広がっていきます。この速度が遅いため潜伏期が長く、感染を疑われた後に免疫注射をしても発病阻止に十分な効果が期待できます。

ジステンパー
犬の代表的な伝染病で、下痢、嘔吐などの消化器症状と、咳、鼻汁、くしゃみなどの呼吸器症状を呈するものとがあります。1カ月以上を経過すると痙攣などの神経症状がでる病気です。伝染性が強く、経口感染でうつります。細菌感染を併発していることが多く、症状を悪化させる原因となっています。

パルボウイルス感染症

1980年頃から急速に広がった感染症で、心筋炎型、腸炎型があり死亡率の高い恐ろしい病気です。

伝染性肝炎
肝炎が急速に進行し子犬が感染すると数日で死亡してしまいます。成犬では発熱、下痢、嘔吐をみます。回復期にはブルーアイといわれる角膜の白濁がみられることがあります。

伝染性咽頭気管炎
咳を主徴とする呼吸器症状をしめす感染症で、死亡率はそれほど高くありません。

コロナウイルス感染症

下痢、嘔吐などの消化器症状を呈する感染症で、ジステンパーとともに犬に多発する感染症です。
パラインフルエンザ 呼吸器症状を呈する疾患で、ウイルスと細菌とによる混合感染が多く見られます。コロナウイルス感染症などとともにケンネルコーフといわれています。

レプトスピラ感染症
レプトスピラという細菌が原因で起こる感染症で(ウイルスではありません)、腎炎をおこすタイプと出血性の黄疸を示すタイプとがあります。感染動物の尿を介して伝染します。

注意:
犬伝染性肝炎の原因ウイルスはアデノウイルス1型、犬伝染性咽頭気管炎の原因ウイルスはアデノウイルス2型です。アデノウイルス1型と2型のウイルスは別種のウイルスですが、共通の性質を持ち、どちらか一方で2つのウイルス感染を同時に予防できます。ただし、1型のワクチンには軽度ですが副作用があり、2型を使う方法が主流と成りつつあります。

■2 ワクチン接種の時期

1.どの種類のワクチンを接種するか?
ワクチンには、表に示した感染症に対する単身のワクチンと、3種、4種、5種、7種といった混合ワクチンがあります。どのワクチンをやるかは、費用の点を除けば出来るだけ多い方が安心と言うことになりますが、ただ必要の無いものを打つというのも医学的には問題ですし、費用もかさみます。例えばレプトスピラ症は温暖な気候の地にみられるネズミの尿を介して起こる病気で、北海道や東北地方では必要が無いといわれています。また室内犬にもあまり必要がないワクチンです。またレプトスピラのワクチンは特に幼弱犬に対してアナフィラキシーを発現することが多く、2−3回目以降に打つ必要性を説く意見もあります。

残念ながら、現在のところ特に教科書的なワクチンプログラムがあるわけではなく、獣医師により個別に判断されているのが現状の様です。理想的には、生活環境(気候、室内犬か野外犬か、猟をするかなど)、周囲の流行などを勘案し、また抗体検査を行って既に抗体を持つものがあればそのワクチンの接種は行わないと言うのも必要かもしれません。医学的には、単味のワクチンを組み合わせて使うのが理想的な使い方ですが、それがはたして現実的かというと、はっきり結論が出ないのが現状です。。

2.母子免疫とワクチン接種のタイミング
生まれたばかりの動物の免疫機能は未発達で十分機能していませんが、母親の母乳からあるいは胎盤から移行した抗体で様々な感染から守られています。この時期にワクチンを接種してもこの抗体によってワクチンは排除(中和)され、免疫を獲得することが出来ません。しかし免疫が未発達で体力も十分でないこの時期に万一ウイルスに感染すると大変です。すなわち、ワクチン接種は母親からの移行抗体が切れた直後の時期に行うのが理想ですが、そのタイミングはまちまちで一定ではありません。そこで、生まれてから6-8週目に1回目の接種を、その後1カ月おきに数回接種するという方法が行われています。ワクチンの種類によってはその後毎年1回の接種が必要なものもあります。


■3 接種時の注意点

1.ワクチン接種を受ける前に注意することは?
接種を受ける前に特に控えるべきことはありません。ただし、健康であることが予防接種を受ける基本です。接種当日は、身体一般検査をし、元気食欲、体温、検便をして寄生虫の有無などをチェックし、異常があれば取りやめます。追加接種の場合は以前にアナフィラキシー反応(過敏症)があったかどうかをカルテあるいは問診により確認します。幼弱犬は寄生虫に感染していることが多いのですが、駆虫してから投与します。

2.ワクチンの副作用は?
 現在市場に出ているワクチンは、厳重な品質管理のもとで作られており、有効性とともに安全性にも十分な配慮がはらわれています。しかし、弱毒生ワクチンは弱毒とはいえそのウイルスは動物に感染するわけで、動物の状態が悪い場合には併発症がみられることがあります。また、ワクチンには製造時にウイルスを増殖させるときに用いた培養液の成分や、免疫力を高めるためにアジュバンドというものが添加されているため、ごくまれにこれらにアレルギー反応を示す場合があります。このような場合は、急激な血圧低下や痙攣、嘔吐がみられ(ショック症状)、一刻も早い応急処置が必要とされます。軽いものでは元気消失、食欲異常など、重くなると全身血圧の低下、呼吸困難、下痢、嘔吐などの症状が出ます。全身性のショックは注射後数分以内に現れ、他の過敏症の症状は数時間から24時間以内に起こります。従って、接種の後はとりあえずの急性のショックの有無を15分程度観察して帰宅します。接種後2−3日は激しい運動を控えさせます。アナフィラキシー反応が出た場合は抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンなどで治療します。

全身性の症状の外に、注射をした局所に現れるものとして、注射部位の痛み、腫れ、発熱などがあります。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


外科や整形外科、手術 で使われる薬

 

事故による外傷ややけど、感染による炎症や化膿、慢性の関節炎や骨の病気、手術後の処置治療などに、外科でも様々な薬が処方されます。また動物病院での処置や診断のためには鎮静剤や麻酔薬はなくてはならないものです。

■1 炎症と痛み

炎症とは異物を排除する反応です
外傷やなどによって組織が損傷し、細菌や有害な物質にさらされると、これら異物を排除し障害を受けた組織を元の組織へと復旧させるための反応が起こります。この反応は「炎症」といわれ、急性そして慢性に推移します。

炎症が起こってすぐの時期は、血流が増加して赤くなり(発赤)、血液の液体成分が血管外へ漏れ出て腫れてきます(腫張)。これらの反応は侵入した異物を希釈しようとする反応です。さらに患部は熱を持つようになります(発熱)。これは患部での細菌の増殖を妨げる反応です。やがて白血球が患部に集まり、異物や細菌などを排除しようとします。この過程で、ヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエンなど炎症を進行させる物質が出来ます。

この様な炎症反応は動物が生きていく上で不可欠な生体防御機構ですが、時に必要以上に反応し、かえって周りの正常な組織を傷害し、傷の治りを悪くしてしまいます。

外傷に伴う炎症のほかに、過度な運動や老化などにともなう関節炎、脱臼やじん帯損傷などの後に起こる二次的な炎症、ゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパードなどの大型犬によくみられる股関節形成不全に伴う関節炎などが治療の対象となり、抗炎症剤が使われます。

■2 骨や関節の病気

股関節形成不全
ゴールデンレトリバーをはじめとする大型犬に多く見られる病気です。多くの場合、両方の股関節に発症し、ひどい場合は後ろ足を引きずったり持ち上げて歩くなどの症状を示します。ふつう生後6ヶ月ごろから異常があらわれます。初めの時期は運動を制限したり、肥満にならぬように気をつけるなどの注意をします。薬による根本的な治療はなく、痛みがひどければ非ステロイド性の抗炎症薬や鎮痛薬で治療します。それでも症状が進行する場合には外科的な処置を行います。

犬のリウマチ症
人にみられるリウマチ性関節炎と良く似た病気が犬にもよくみられます。「多発性関節炎」という病気で、本来異物として認識されては困る自己の体の成分を異物として排除しようとするために起こるので、自己免疫疾患といわれます。T細胞などの免疫細胞が関節の骨膜細胞を攻撃することによって起こります。特にシェルティー、マルチーズやプードルなどに多くみられます。強い炎症反応により痛みを感じ、進行すると関節の組織が破壊され動かなくなってしまいます。この病気は非ステロイド性の抗炎症薬および抗リウマチ薬で治療しますが、難治性で十分な効果は得られません。

成長期の骨の病気
成長期(5〜12ヶ月齢)にみられる骨の病気に、「汎骨炎」があります。大型犬、特にジャーマンシェパードに頻発する骨の炎症で、痛みのために歩くのを嫌がるようになります。特別な治療法はありませんが、非ステロイド系の抗炎症薬で痛みと炎症を抑えてやります。他に、成長期の病気として、グレートデンで見られる「肥大性骨異栄養症」などがあります。

レッグパーセス病は、レッグペルテス病、ペルテス病などともいわれ、若い成長期の小型犬(トイ種あるいはテリア犬に多い)に起こる大腿骨の間接の病気です。正確な原因は分かっていませんが、骨頭に分布する血管が圧迫されて血が通わなくなるために起こるといわれています。痛みが強いため動物は肢が使えなくなります。一般には外科的手術で直します。


■3 薬

外科でも使われる主な薬は抗生物質、抗炎症薬、鎮痛薬などです。

●抗生物質、合成抗菌薬
外科で最も多く処方されるのが細菌を排除する抗生物質や合成抗菌薬です。内服薬、軟膏、注射剤として使います。外傷や化膿だけではなく、手術後の細菌による二次感染の予防のために使われることもあります。

抗生物質、合成抗菌薬には多くの種類があります。感染症を併発した手術時などで大量に使う場合は、どのような細菌に感染しそれに有効な薬が何かを感受性試験で予め検査して使います。しかし、外来で扱うような小さなけがなどの場合は、多くの種類の細菌に有効(広域スペクトラム)な薬を使います。

外科疾患で最もよく用いられるのが、ペニシリン系の抗生物質です。皮膚に感染し化膿を引き起こす黄色ブドウ球菌に特に有効だからです。アンピシリン、アモキシリンなどがあります。ただペニシリン系の薬には耐性菌も多く、他の薬剤、例えばセフェム系の抗生物質(セファレキシン、セファクリル、セファロチンなど)、優れた抗菌スペクトラムと抗菌力を持つ合成抗菌剤であるニューキノロン系(オフロキサシン、ノルフロキサシン、エノキサシン、レボフロキサシンなど)も広く使われています。

外用の軟膏として用いられるものには、フラジオマイシンやゲンタマイシン、クロラムフェニコールなどがあります。

抗生物質や合成抗菌剤の副作用として、ショックや蕁麻疹などがあります。この様な症状が現れたら薬の服用をすぐにやめ、直ちに獣医師の指示をあおいで下さい。

●抗炎症薬
抗炎症薬には非ステロイド系とステロイド系があります。

@ 非ステロイド系抗炎症薬(アスピリン、インドメサシンなど):炎症時に組織で作られるプロスタグランジンの合成を阻害する薬物です。痛みにもこのプロスタグランジンが関与するので、鎮痛作用も同時に示し、また解熱作用も持っています。非ステロイド系抗炎症薬の副作用として胃腸障害があります。プロスタグランジンは消化管粘膜の保護因子として働いているのでこれを抑えてしまうために起こります。もう1つの副作用として、腎障害があります。アスピリン腎症ともいわれ長期の使用で発現します。最近、カルプロフェン、ケトプロフェン、フィロコキシブなどの新薬も登場しています。

A ステロイド系抗炎症薬(デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、フルメタゾンなど):リウマチ性関節炎では、はじめは非ステロイド性抗炎症薬が使われますが、症状が進行し慢性化してくるとステロイド系抗炎症薬が使われます。ステロイド系の抗炎症作用は極めて強力でが、これには様々な副作用とともに、次第に薬の量を増やさないと効かなくなる「耐性」と、投与を止めたときに治療を始めたときよりも症状がかえって悪化する「リバウンド」という現象があります。ステロイド系抗炎症薬を使う場合は他の薬と併用したり、投薬のスケジュールを工夫するなどして使います。

B その他の抗炎症薬:抗リウマチ薬として他に使われる薬として、「疾患修飾性リウマチ薬」があります。金製剤としてオーラノフィン、SH系製剤としてペニシラミンとブシラミン、その他ロベンザリット、アクタリットなどがあり、早期の治療からこれらの薬が使われます。さらに、「免疫抑制薬」としてアザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサートなどがありますす。ステロイド系抗炎症薬と同様に免疫抑制薬の作用も強力ですが、免疫抑制に伴う副作用も強く、他の薬に効果がないときに使われます。

●鎮痛薬
痛みは動物の体の損傷に対する警鐘反応ですが、病気の動物にとっては耐え難い苦痛ですのでこれを取り除いてやることが必要です。

@ 非ステロイド性抗炎症鎮痛薬:抗炎症剤として使われる上記の非ステロイド系の薬はいずれも鎮痛作用を持っています。

A モルヒネほか:麻薬であるモルヒネ、ペチジン、フェンタニルは優れた鎮痛剤で術後の鎮痛剤として使われます。全身に投与すると嘔吐や排便、呼吸抑制などの副作用が出るので、硬膜外に注射することもあります。投与直後に短い興奮期があり、唾液をたくさん出すなどの症状がみられます。これらの症状を抑えるためにアトロピンを同時に投与します。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


応急手当や中毒の薬

 

事故、火傷やけが、急な病気の悪化など、緊急な手当が必要なことがあります。また、犬の暮らす環境には、室内室外を問わず、犬の好奇心を誘う様々毒物が存在して危険です。万一この様な毒物を許容量を超えて摂取すると中毒を起こします。今回は犬に良く見られる中毒と、予期せぬ事故に役立つ応急手当についてお話しすることにします。


■1 応急手当の基本

誤って毒物を摂取してしまう、交通事故に遭う、熱射病にかかる、大したことではないと考えていた病気が突然悪化し、意識を無くしてしまうなど、予期せずに突然襲ってくる来る緊急事態に、誰しもが冷静に対処できるわけはありません。ただその時、基本を知っておくと、その後の獣医師による処置の大きな助けとなります。

病気の原因をつきとめるのは後からでも決して遅くはありません。とにかく以下の点をチェックして下さい。

1.呼吸をしているか? (呼吸器系)
 頭と背をまっすぐにし、呼吸しやすい姿勢にする。
 呼吸していなければ口移しで人工呼吸をする。

2.脈はあるか? (循環器系)
 脈の強さ、数を調べる。
 歯ぐきの色でチアノーゼがあるかないかを確認する。
 脈が無ければ心臓マッサージを行う。

3.意識はあるか? (中枢神経系)
名前を呼びあるいは体を触り反応するかをみる。
この時必要以上に体を動かさない。

4.傷がある場合それ以上大きくしないこと
 傷口の包帯、止血などをする。

5.原因となるもの、事態を悪化させるものを取り除くこと
 傷口の洗浄、口に残った毒物の除去などを行う。

6.痛みからの開放
 苦痛を最小限にしてあげる。

この様な基本的な処置をした上で、専門的な治療を施すために獣医師に連絡し、病院に連れていきます。もし何かを食べたり飲み込んだ形跡があれば、獣医師が特定できるように一緒に持っていきます(飲み込んだものが薬ならそのパッケージなど) 

■2 専門的な救命措置・薬による治療

ショックの病態には以下の3つの原因が考えられます。

1)心臓機能の低下
2)血液量の減少:出血による血液の減少(外傷や嘔吐血など)や血漿成分(血液の液体成分)の血管外への移動
3)血管の拡張による血圧低下

救急医療の原則は、これら3つの病態を改善してやることです。

心臓機能を高める薬、または血圧を上げる薬
●エピネフリン
●ドパミン
●ドブタミン

血圧を維持する薬
●ノルエピネフリン
●輸液

その他の薬
●副腎皮質ステロイドホルモン
●抗不整脈薬


■3 家庭で用意できる応急手当の薬

何かの事情ですぐに動物病院に行けない場合に、家庭でも可能な薬による処置があります。
●抗ヒスタミン薬(マレイン酸クロルフェニラミンなど)
蕁麻疹などのアレルギーに使う薬です。蜂などの毒虫さされた場合など、抗原抗体反応にともなうショックに有効です。
●下痢止め(ベルベリンを含む製剤)
下痢や嘔吐は軽くみられがちですが、これらの症状が長く続くと体内の水分や電解質が急激に失われると極めて危険です。救急薬というよりは常備薬といって良いでしょう。
●活性炭
誤って毒物や腐敗した食物を摂取した場合などに飲ませます。胃や腸の中で毒素や毒物を吸着し、中毒を予防します。薬用炭として薬局で入手可能です。スプーン1−2杯を牛乳などに混ぜて飲ませます。病院では胃チューブを使って飲ませます。
●アスピリン
痛みや熱、炎症を抑えるのに使います。

■4 犬によく見られる中毒とその治療

犬の飼われている環境には様々な毒物があり、犬は餌と間違えたり、また興味本位に口にするなど、毒物を摂取する可能性があります。以下に、犬に良く見られる中毒を解説し、その時の処置法を説明します。解毒薬や有効な薬がある場合にはこれも示しておきます。万一中毒を疑う事態に遭遇したら、可能な応急処置を施した後、直ちに動物病院に連れていきます。

■タマネギとニンニク

タマネギ、ナガネギ、ニンニクに含まれるアリルプロピルジスルフィドという物質は犬にとっては強い毒物で、赤血球を破壊し貧血を起こします。タマネギ中毒は犬にもっとも頻繁にみられる中毒です。

■チョコレート、コーヒー(カフェイン中毒)

カフェインの致死量は犬や猫、人で体重1kgあたりで150mgといわれています。コーヒーはコーヒーカップ1杯で150mg、普通の板チョコレートで200mg位、調理用のチョコレートにはその2−3倍のカフェインが含まれています。すなわち、小型犬がスプーン数杯のコーヒー豆や数枚のチョコレートを食べてしまうと、それで致死量に達してしまいます。

■腐敗した食べ物

腐敗した食べ物を食べると、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、サルモネラ菌、ボツリヌス菌などの病原菌に由来する毒素により中毒を起こすおそれが有ります。梅雨時や夏期の犬の中毒として最も一般的なものです。

■タバコ

タバコに含まれるニコチンが中毒を起こします。禁煙のために医師から処方されたニコチンガムを食べたという事故も報告されています。

発見後、1時間以内であれば嘔吐させ、2−4時間以内であれば胃洗浄を行います。殺虫剤の中毒の場合と同じく(後述)、アトロピンが解毒薬です。

■殺虫剤、農薬

害虫の駆除を目的とした殺虫剤(犬用のノミ取り薬も)や農薬には、マラチオンやパラチオンなどの有機リン系の薬剤、カルバリルなどのカルバメート剤が含まれています。神経や筋肉の興奮に関与するアセチルコリンの分解を抑えることで(アセチルコリンエステラーゼという酵素を抑える)、虫を動けなくなくして殺す作用を持っています。ほ乳類の神経や筋肉でもアセチルコリンが働いているので強い毒性を示します。

飲んで間もなくであれば嘔吐や胃洗浄を施します。活性炭の投与も効果があります。アトロピン、ジフェンヒドラミン、ジアゼパムなどが治療薬として使われます。また、2−PAMはアセチルコリンエステラーゼから有機リン剤を強制的に引き離す作用があり、解毒薬として使われます。

■殺鼠剤(ネズミとり)

多くの殺鼠剤にはワルファリンやストリキニーネなどが使われています。殺鼠剤自身ではなく、殺鼠剤を食べてで死んだネズミを食べて中毒になることもあります。

ワルファリンはビタミンKに似た構造をしていることからビタミンKの作用を抑えてしまう物質です。ネズミが摂取すると眼底出血を起こし明るい場所へ出て死亡するという性質があります。犬が間違って摂取した場合、全身性に出血症状を示します。解毒薬として多量のビタミンKを投与すればワルファリンの作用を抑えることが出来ます。

■漂白剤

洗濯に使う漂白剤にはたいてい次亜塩素酸ナトリウムが含まれています。皮膚や粘膜に対して腐食性があり、口や食道にびらんを生じます。犬が多量に摂取することはまれですが、刺激のために嘔吐や涎を流すなどの症状を起こします。次亜塩素酸ナトリウムは強いアルカリであり、先に述べた処置に準じます。

■硼素、硼酸

ゴキブリ取り、化学肥料、除草剤、防腐剤、殺菌消毒剤、コンタクトレンズ保存液など非常に多くの家庭用品に含まれる毒物です。硼素の毒性のメカニズムはよく分かっていませんが、全ての細胞に毒性を示します。特に腎臓に集まりやすく、障害を受けやすい臓器です。中毒の症状は、涎を流す、血の混じった下痢、腹痛、運動失調、震え、知覚過敏、昏睡などです。

誤飲してすぐなら嘔吐させます。胃洗浄も有効です。硼素、硼酸は腎臓に集まり、尿を介して排泄されるので、大量の利尿剤で強制的に体外へ出してやります。

■シアン


梅や杏の種、写真現像用の薬品、工場で使うメッキ用の薬剤、殺鼠剤などに含まれています。シアンは全ての細胞呼吸を抑制し、極めて強い毒性を示します。

解毒薬としてチオ硫酸ナトリウムを静脈注射しますが、さほど効果は有りません。その他、エデト酸塩、アミルニトレートなどが解毒薬として使われます。

犬の生理と薬   避妊薬ほか

薬による避妊法
●プロジェステロン
●クロルマジノン
●プロリゲストン

発情の時期には出血や行動の変化があり、またミスメイト(「好ましくない妊娠」)なども心配されます。飼い主が妊娠を望まない場合は、適切に避妊の処置を講じてやることが望まれます。避妊の第1の方法は手術で、卵巣を外科的に摘出する方法です(卵巣と子宮を同時に摘出することもあります)。この場合、後で妊娠を望んでももとに戻すことは不可能です。

第2の方法として最近犬に広く用いられるようになったのが、ホルモン製剤による避妊法で、プロジェステロンが使われます。エストロジェンにはLHやFSHなどの分泌を抑制する作用があります。プロジェステロンにはこのエストロジェンの作用を強める働きがあります。したがって定期的にプロジェステロンを投与すると、LHやFSHの分泌が起こらなくなり、排卵が抑制される、すなわち発情を抑え妊娠できない状態にする効果があります。プロジェステロンそのものでもかまいませんが、化学構造をまねて人工的に合成した、クロルマジノンやプロリゲストンなどが発情抑制薬すなわち避妊薬として使われます。

避妊薬のメリットは、苦痛を与えないこと、計画出産が出来ることです
クロルマジノンやプロリゲストンは注射剤、あるいは皮下へ埋め込むインプラント剤として用います。注射剤の場合は、数カ月に1度の決められたプログラムに従って行います。はじめの注射は発情休止期に行います。

インプラント剤は特殊に成形したシリコン基材に取り込ませたもので、皮下に埋め込むと薬が徐々に体の中へ融け出てくる仕組みになっています。1年程度有効です。避妊を止めたければ、注射を停止するか、インプラント剤を取り出します。これらの処置により、数カ月で発情が起こるようになり元の性周期に戻ります。

薬による堕胎の方法
●エストラジオール
●エストリオール
●ジエチルスティルベステロール
●プロスタグランジンF2a   など

仮にミスメイトが起こってしまった場合、人工的流産の処置を取ることを希望することもあるでしょう。その様な場合、外科的処置(卵巣子宮摘出術)もありますが、時期によっては薬による人工流産も可能です。この場合、エストラジオール、エストリオール、ジエチルスティルベステロールなどの卵胞ホルモンが使われます。これらの薬は受精卵の輸送を阻害し、子宮への着床を妨げます。ただしこれらの薬は、着床の前、すなわち妊娠が診断できる前(交配後3−5日以内)に投与する必要があります。

問題となるのはこれら堕胎薬の副作用です。卵胞ホルモンには子宮炎、子宮蓄膿症、卵巣膿腫、骨髄機能の低下による再生不良性貧血などを起こす危険があります。これらの副作用や治療の失敗を考えると、場合によっては薬物による中絶をあきらめ生ませるという選択をする場合もあります。

その他、プロスタグランジンF2a製剤も堕胎の目的で使用され、妊娠25−30日以後に投与します。プロスタグランジンF2a製剤には、低体温症、涎をたらす、嘔吐、下痢、発熱などの副作用がありますが、卵胞ホルモンほど重大ではありません。

子宮蓄膿症の治療薬
●プロスタグランジンE2およびF2a
●各種の抗生物質

子宮畜膿症は未経産で5-6歳以上のメス犬によくみられる疾患で、発情後1-2カ月に発生します。この疾患にはエストロジェンやプロジェステロンが関与するといわれています。エストロジェンは子宮壁の内膜の増殖を起こし、プロジェステロンは子宮腺からの分泌を促進しますが、この状態が細菌の増殖に適した環境となるからです。子宮蓄膿症になると子宮腔に細菌が侵入し、化膿して膿汁が貯まり、腹部が腫れ、悪臭を伴う化膿性の排泄物が膣から出てきます。放置すると卵管から膿汁が腹腔に漏れだし危険です。お産の経験の無い犬に多くみられます。

子宮蓄膿症は、卵巣と子宮を摘出する外科的処置が一般的ですが、薬による治療も選択できます。黄体を退行(小さくする)させプロジェステロンの分泌を少なくするプロスタグランジンE2やF2a製剤(ジノプロストやジノプロストンなど)、さらに抗生物質や抗炎症剤などの投与を行います。手術をする場合にも術前に抗生物質による治療が必要です。



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