1、新たな疾患モデルおよび解析ツールマウスの作出と解析

 発生工学的手法の発展により、哺乳類における遺伝子改変は容易に行えるようになってきました。その中でもマウス(ハツカネズミ)は最も遺伝子改変技術の進んでいる動物であり、これまでに多数の遺伝性疾患モデル動物が樹立されています。

 これまで岩倉洋一郎教授(現・東京理科大学生命医科学研究所実験動物学研究部門)の下で、2007年のノーベル医学・生理学賞の対象となった胚性幹(ES)細胞を用いた標的遺伝子破壊(ノックアウト)マウス作製法をベースにした疾患モデルの作製に取り組んできました(文献1-4)。今後はTALENやCRISPR/Cas9システムといった新しい技術を積極的に取り入れて(応用遺伝学研究室の藤井先生・内藤先生との共同研究)(文献5-7)、これまでは作出不可能あるいは困難だった新しい遺伝子改変マウスを作製して行きたいと考えています。 また、新しい解析ツールとなるような遺伝子改変マウスの開発にも取り込んでおり、その中でも腸内細菌研究分野での利用を目指して研究を進めています(公衆衛生学研究室の平山先生、産総研の辻典子先生、東京医科歯科大難治研の安達貴弘先生との共同研究)(文献8)。

  
<B6 ES細胞(黒色)とBALB/c胚(アルビノ)とで作製したキメラマウス>

 そして新規の疾患モデル動物を作出、さらに解析することにより、最終的には新たな疾患治療法開発へ寄与することを目指しています。

文献
1) 角田茂、佐藤希、久保幸子、岩倉洋一郎.アグリゲーション法によるキメラマウスの作製.改訂第5版 新 遺伝子工学ハンドブック(松村正實、山本雅、岡﨑康司 編)羊土社 pp.289-296 (2010).
2) 角田茂、岩倉洋一郎.ノックアウトマウス作製技術の進歩と網羅的作製プロジェクト生物工学会誌 90(9): 547-549 (2012).
3) 角田茂.IL-1関連遺伝子ノックアウトマウスライブラリ作製の話.細胞工学 31(7): 779-781 (2012).
4) 角田茂.遺伝子機能解析ツールとしてのノックアウトマウスの作出とバイオリソース信州医学雑誌 61(1): 3-11 (2013).
5) 角田茂.遺伝子改変動物作製における革命的な新技術の登場.JSICR Newsletter 36:18-21 (2013).
6) 角田茂、藤井渉.ノックアウトマウスの基礎と応用.小児外科 46(6):567-70 (2014).
7) 角田茂.CRISPR/Cas9法の登場から2年、動物の遺伝子改変の最新事情.JSICR Newsletter 38:31-36 (2014).
8) Adachi, Kakuta et al. Visualization of Probiotic-Mediated Ca2+ Signaling in Intestinal Epithelial Cells In Vivo. Front Immunol. 7:601 (2016).→東医歯大のプレスリリース

 

2、サイトカインの炎症性疾患の病態形成における役割の解析

 サイトカイン、その中でも特にインターロイキン(IL)-1やIL-17ファミリーといった炎症性サイトカインに注目しています。

<IL-1システム:IL-1は極めて複雑にその活性が制御されており、生体の恒常性の維持に重要な役割を担っています>

 1998年にHoraiらにより確立されたインターロイキン(IL)-1レセプターアンタゴニスト(ra)遺伝子欠損(Il1rn<tm1Yiw>)マウスは、マウスの遺伝的背景によって異なる表現型を示し、ヒトリウマチ様関節炎や乾癬様皮膚炎を自然発症する自己免疫・自己炎症疾患モデルマウスになっています(文献1-4)。

<C57BL/6背景(左)では削痩や脱肛が認められ、BALB/c背景(右)ではヒトリウマチ様関節炎や乾癬様皮膚炎を自然発症します>

 また、IL-17は炎症性疾患の病態形成に極めて重要な役割を担っていることを明らかにしてきました(文献5,6)。

 さらに、これらサイトカインの産生を制御する「センサー分子」にも注目しており、糖鎖認識受容体であるC型レクチン様受容体(CLR)(文献7,8) や細胞内核酸認識分子であるオリゴアデニル酸合成酵素(OAS)ファミリー遺伝子(文献9,10)についても研究を進めています。

 これらのサイトカインが、がんや皮膚炎、慢性脂肪組織炎症などの炎症性疾患の病態形成における役割を解析しています。なお、「がん」としては消化器系の大腸がんモデル(Acp<Min>マウス)や胃がんモデル(A4gnt<tm1Jnaka>マウス:信州大・医・中山淳先生との共同研究)に注目しており、これらの疾患の新たな治療法開発へ寄与することを目指します。

文献
1) 角田茂、岩倉洋一郎.IL-1.series モデル動物利用マニュアル 免疫疾患 −疾患モデルの作製と利用(岩倉洋一郎 編)エル・アイ・シー pp.215-222 (2011).
2) 角田茂.IL-1関連遺伝子ノックアウトマウスライブラリ作製の話.細胞工学 31(7): 779-781 (2012).
3) Akitsu, Kakuta et al. Rag2-deficient IL-1 Receptor Antagonist-deficient Mice Are a Novel Colitis Model in Which Innate Lymphoid Cell-derived IL-17 Is Involved in the Pathogenesis. Exp Anim. 63(2):235-46 (2014).
4) Akitsu, Kakuta et al. IL-1 receptor antagonist-deficient mice develop autoimmune arthritis due to intrinsic activation of IL-17-producing CCR2(+)Vγ6(+)γδ T cells. Nat Commun. 6:7464 (2015).
5) Ishigame, Kakuta et al. Differential roles of interleukin-17A and -17F in host defense against mucoepithelial bacterial infection and allergic responses. Immunity 30(1):108-119 (2009).
6) 角田茂、西城忍、岩倉洋一郎.真菌感染とIL-17.炎症と免疫 17(1): 10(10)-20(20) (2009).
7) Saijo, Kakuta et al. Dectin-2 recognition of a-mannans and induction of Th17 cell differentiation is essential for host defense against Candida albicans. Immunity. 32(5):681-91 (2010).
8) 角田茂、西城忍.真菌免疫応答におけるC型レクチン受容体の役割.化学療法の領域 28(1): 59-66 (2012).
9) Kakuta et al. Genomic structure of the mouse 2',5'-oligoadenylate synthetase gene family. J Interferon Cytokine Res. 22(9):981-93 (2002).
10) 角田茂.インターフェロンによる抗ウイルス機構―2-5Aシステム.炎症と免疫 15(2): 190-196 (2007).